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次元災害で異世界へ  作者: 真草康
友人レベルアップ編
83/181

81. 小型近距離電話試作機Ⅱ(ミニミニフォンベータ)


 二月二四日黒曜日。

 朝からウインダムス家に来ている。

 ウインダムス家の室内練習場はノルンバック家よりも大きいんだ。

 そう、狩りを禁止されたからだ。

 やっぱ、言いつけを守らず、助けちゃったってのがいけなかったみたいだ。


 ミリア姉を除く、ミクちゃんとロビンちゃん、ライカちゃんとモラーナちゃんに魔素と魔法力の活性化を最大限に行った。


「それじゃー、いくよー」


「<マッドバレット>……<マッドバレット>……<マッドバレット>」

 一五個の泥団子が散弾となって飛んでいく。それを三発射する。

 もちろん手加減付きで、速度も押さえている。

 ただし並列(マルチ)思考と加速で、多岐にわたって泥団子の散弾をコントロールしている。

 これだけの数をコントロールするのは、さすがにしんどい。


 今日の訓練のために作った個人魔法で、これでも土と水と風魔法の合成魔法で、レベル7と高度な魔法だ。まあ、ハイスピードフローコントロールとレベル5の高度な魔法を組み込んだからなんだけど。


 対するみんなは、完全防備で鍋の蓋のようなラウンドシールド、そして勇者の武器であるヒノキの棒を持ってそれを撃退する。

 もちろん僕への攻撃もOKだ。


 最初っからうまく対処できたのは「<身体強化>」を行使できるミリア姉だ。

 まあ、僕への攻撃は大負けに負けて一〇〇年早いけど。

 そう、これは“身体魔法”、できれば“身体強化”を取得するための訓練だ。


 文献による“身体強化”の取得方法は大体以下のようなものだ。

 ―― 体内の魔素と魔法力の運用を良くする。

 ―― 魔素と魔法力を手足の隅々まで行き渡らせる。

 ―― 魔素と魔法力を右手、左手、右足、左足のように一か所に集中させる。

 ―― 力強い筋肉で、且つ柔軟な筋肉を作る。

 ―― 各種体技を鍛える。


 文献によっては具体的に書かれていて、瞑想と運動を体内魔素や魔法力を常に意識しながら繰り返すことだそうだ。

 ただし、どうしても戦闘訓練が中心になってしまう。


 オーット。

 ミリア姉、惜しい。


「<マッドバレット>……<マッドバレット>……<マッドバレット>」

 ギャー、ボッ…。

 ミリア姉が盾で防いだけど、防いだうちの一個は盾の縁だった。

 四分の一ほどが顔に、その一部が悲鳴を上げた口をふさいだ。


 怒り心頭、怒髪天を突く。ダメダメ、訓練なんだから。

 身体能力がアップしたのか、ミリア姉の速度が加速した。

 そして腰のミスリル硬鋼(L)の大型ナイフを抜いて、追いかけてきた。

 だからそんなのダメだってー!

 速攻で逃げるに決まってるじゃない。


「ミリアさん!」

 ミリア姉は、ヒーナ先生にあっという間に取り押さえられてしまった。

 退場ー。


「<マッドバレット>……<マッドバレット>……<マッドバレット>」


 ミクちゃんとロビンちゃん、ライカちゃんとモラーナちゃんを引き続き鍛える。


 みんなに疲れが出てきた。

 そろそろ補助が切れるころだ。

 本当の訓練はこれからだ。

 自力で魔素と魔法力の運用ができるようにならなくっちゃ、身体魔法は取得できない。

 補助はあくまでも感覚を覚え、鍛えるためのものだ。


「<マッドバレット>……<マッドバレット>……<マッドバレット>」


 最初に動きが落ちたのはライカちゃんだ。

 そのすぐ後にモラーナちゃん。

 二人はまだまだなようだ。


 頑張っているのはロビンちゃんで、かなりうまく魔素と魔法力の運用ができている。

 それ以上に滑らかに運用しているのがミクちゃんだ。さすが僕といつでも一緒に練習していただけはある。


「<マッドバレット>………<マッドバレット>………<マッドバレット>」

 ミクちゃんとロビンちゃんに攻撃を集中する。

 もちろん更に手加減してだ。


 そうこうしていると、ヒーナ先生に連れられて、着替えてきたミリア姉が不満をあらわに見学する。


 今日もエンドレス追っかけっこかなー。


 午前中に身体魔法を取得できたのはミクちゃんだけで、そのミクちゃんは午後の訓練で身体魔法が“1”となった。

 ロビンちゃんも午後の訓練で身体魔法が“0”となった。

 ミクちゃんに負けるのは姉としての矜持が許さないのか、まだ訓練を希望したけど、カフナさんに止められた。

 ライカちゃんとモラーナちゃんはレベルが若干低いこともあって、取得するにはもう少しかかりそうだ。


  ◇ ◇ ◇


「おかえり、完成したよー」

 帰宅すると、ピンクのツナギ姿に真っ赤なメガネのエルガさんが、歓喜でお出迎えしてくれた。

 何このデジャブ。想像は付くけど。


 ミリア姉の追っかけっこのゴングが鳴る前に、ムギューッと多幸感に包まれ、エルガさんに拉致されてラッキーだ。


 小型近距離電話(ミニミニフォン)試作機Ⅱ(ベータ)は、アルファの中身を入れ替えただけのものだった。

 やけに早いと思った。

 だから見た目はミニミニフォン・アルファと一緒だ。

 小型化されたのは中身の回路だけだ。

 中身の基盤を見せてもらったけど、理路整然と綺麗に魔石や抵抗なんかが並んでた。


 またもリエッタさんが、バッグに一台のミニミニフォン・アルファを入れ、更に充魔電装置を抱えて、部屋の外に出ていくのも一緒だ。


 しばらくすると、ミニミニフォン・アルファが点滅して音が鳴った。

「ハロー」

『ハロー、聞こえますか、リエッタです。

 音声は明瞭に聞こえます』

 本当に音声が明瞭でよく聞こえる。

「こちらも明瞭でよく聞こえてるよ」


 その後に他愛のない会話をしながら、リエッタさんが、家の中を歩き回り、庭に出て、表にも出て、テストを繰り返した。

 僕もしゃべってみたけど格段に良くなった。

 改めて会話をしてみるとクリアな音声で、アルファより反応、応答が若干早いような気もする。

「エルガさんこれ凄いよ」

「そうでしょー。天才のボクが頑張っちゃたんだから」


  ◇ ◇ ◇


 三月一日赤曜日。


 オーラン魔法学校の職員会議。

「今年の魔法展覧武会は困ったものです。どういたしましょう」

 困惑気味の校長先生の発言に、他の教師も同様に困惑している。

「モンスタースタンピードの影響で遅れに遅れていましたが、準備をようやく開始しました。…ですが…、ですが、これですからね」

 副校長がファイルを片手に頭を抱えている。


 魔法展覧部会。

 本来は新一年生に、上級生が魔法の手本を見せ、将来に希望を持たせる学校行事だ。

 四・五年生はクラス参加、一年生から三年生は学年参加で魔法練習の披露も行われる。


 その中で魔法レベルの上位二〇名が選抜者として名前を告げられ、得意な魔法を披露する。名誉なことで表彰もされる。

 目玉が上位三名、特別選抜者による模範魔法の披露と、先生との模擬戦闘も行われる。

 それが、魔法のトップが一年生のセージスタ(セージ)で、二位が四年生のミリアーナ(ミリア)だ。

 三位が同率で四年生のロビナータ(ロビン)と、その妹で一年生のミクリーナ(ミク)だ。


「代表選抜者の三名、今年は四名ですが、その内の二名が四年生で、まあ、この二人は理解できますが。トップが一年生で、もう一名も一年生です。

 最上級生の五年生が一人もいないんですよ」

「それならば模範魔法は六位までにすればよろしいのでは」

「それならば、五年生の顔も立つか」


「その下は混戦ですが、その中にも三年生のモーラナ・ポラッタさんと、その妹で一年生のライカ・ポラッタさんがいます。

 若干劣りますが一年生でエルフのルードティリア・ナルア・フィフティーナさんも候補と呼べるでしょう。

 そしてこの三名もセージスタ君と親しい間柄です。

 ルイーズ先生、そうですよね」


「はい、同じ班ライカさんとルードティリアさんはセージスタ君と同じ班です。

 三年生のモーラナさんのことまでは認識していいませんが」


「それはドワトール先生が魔法練習の時に、本人たちからセージスタ君の家に遊びに行ってることを伺っていますし、生徒会でも噂になっていて、セージスタ君が鍛えているようです。

 ノルンバック家とウインダムス家とポラッタ家は親しい間柄で、子供たちも盛んに行き来しているそうです」


 ドワトール先生は錬金・付与・補助魔法を指導している、人当たりの良さそうなおじいちゃん先生だ。

 モラーナとライカの指導を毎回行っている先生でもある。


「まさか、ポラッタ姉妹にルードティリアさんまでもが、セージスタ君がらみですか」

「それだと五年生の立場が無いな」

「模範魔法の増員の件はしばらく棚上げとして、セージスタ君の一位は揺るがないでしょう」

「ええ、セージスタ君の魔法は、上級魔法学校生にも手本になりますから」

「手本以上の魔法ですよ。

 彼の一位は卒業まで揺るがないでしょうね」


 学校運営の審査を行う、市の査察でもある学校協議審査会との取り決めもあるから、校長といえども、規則を曲げることには無理がある。

 せいぜい人数の調整や、演目の変更程度だ。

 毎年新入生が学校に慣れた頃、二月の末に開催されるが、今年は学校協議審査会との打ち合わせで、遅れて三月末となった。


 新学年となった現在、身体魔法ができる生徒は五年生の中にはおらず、生徒会長とあと数名が発現しそうなきざしがあるある程度だ。

 まあそれについては、先生の中でも意見が分かれている。

 それよりレベル2の魔法が安定して連続で放つこと、ましてやレベル3の魔法が連続で放つなんて現在の五年生にはいない。

 それは優秀な五年生が卒業間近のことだ。


 魔法学校の歴史始まって以来、上位二〇名に一年生が入ることなんてなかった。

 それが、上位四名のうち二名が一年生で、トップが一年生で、しかも最上級の五年生が一人もいない。

 上位二〇名の中には、一年生がもう二人入りそうだってこともまた問題をややこしくしている。

 異例中の異例のことだった。


「模擬戦は、冒険者ギルドに依頼することは可能でしょうか」

「それもありますか。校長、検討してみても構いませんか」

 若手の武術教師の発言に、魔法教師の責任者が答える。

 うなずいたのは校長の顔を伺った副校長だ。


「まあ、規則通りに開催するしかありませんね。

 粛々と進めていきましょう」

 なんとなく投げやりの校長先生の発言で、魔法展覧武会の開催が決定した。


 開催日は三月二四日黒曜日。

 個人発表が許される選抜者は、来週に行われる魔法技能の検証を行い、上位二〇名となる。


 それらは朝のホームルームで全校生徒に連絡・周知された。

 一A一でも、ルイーズ先生により伝達され、追加情報も伝えられた。

「セージスタ君は全校代表で、ミクリーナさんも全校三位として魔法展覧武会の模範者者として名前が挙がっています。

 他の皆さんもセージスタ君やミクリーナさんを目指して、精いっぱい頑張っていきましょう」


 なんだかめんどくさい。……けど、

「セージちゃん頑張ろうんね」

「うん」

 ミクちゃんにお願いされると、どうも弱い。 


「爆発魔人になんて無理でーす」

「あんな魔法、先生だって撃てないじゃないかー」

「そうだ、そうだ」

 うざいのもいる。


 ちなみに昨年の開催は二月一八日黒曜日で、ミリア姉が出場するわけでもないので、ノルンバック家では、ミリア姉は通常の登校だが、家族は完全にスルーしていた。

 ミクちゃんに確認したら、ウインダムス家でも似たようなものだった。

 どんなものか後で、ミリア姉とロビンちゃんに確認しておくか。


「ウチを、もっと鍛えてくれない」

 朝、挨拶をした時に感謝を伝えてきたルードちゃんから、またも廊下に連れ出されて懇願されてしまった。


  ◇ ◇ ◇


 リエッタは、魔導車に乗って城門を出たところだ。

 運転はアランさんで、レイベさんも同行してくれている。

「今城門を出ました」

『感度良好、よく聞こえてるよ。やったね』

「こちらも良く聞こえています」


 ミニミニフォン・ベータのオーラン市内の通信テストで、市街地をあちらこちらと走って、ようやくそれらを終えて、ララ草原に向かいながら、ミニミニフォン・ベータに向かってしゃべっている。

 いたって快適だ。

 エルガさんの悲痛な叫びも聞こえた来ない。

 まあ、前回も悲痛な叫びは、途切れた通信で聞こえなかったけど、N・W魔研に戻ってからの絶望の嘆きを聞き続けるという地獄を経験した。

 悲痛な叫びは、その時にエルガさんの隣に付き添っていた、デトナーさんからの愚痴で知った。

 今日は“私天才”を散々気化されることだろう。それでも絶望の嘆きを聞き続けるより快適だ。適当に流しても問題はないし。


 街道を走って、モンスタースタンピードの防衛拠点の最前線の土壁まで来たけど、感度は良好だ。

 ただし若干声が小さくなったようだ。


 土壁を過ぎ、この辺りがN・W魔研から約八キロだ。

 声は徐々に小さくなっていっているものの、いまだに感度は良好。音声はクリアだ。


 いつもならこの辺りからララ草原に入っていくけど、そのまま街道を直進。

 一〇キロ地点。

 会話は可能だけど、声がかなり小さくなった。


 一二キロ地点。

 とうとう声が途切れ途切れとなってしまった。

 一一.五キロが限界のようだ。


 エルガさんの気の済むまで、しばらくその付近を行ったり来たり。

 朝から開始されたテストは、すでに太陽は真南を超えている。


 ようやくN・W魔研に戻ると時間は三時に近い。

 かなりの空腹だ。


 エルガさんは表面上は喜んでいるけど、どこか不満がにじみでている。

 満足のいくものではなかったようだ。

 やはり目標の一五キロに向けて、まっしぐらなようだ。

 エルガさんがおもむろに異様な笑顔―――何かがひらめいた顔だ―を浮かべ、ミニミニフォン・ベータの基盤を筐体から取り出し、色々と計測を開始する。

「お昼はどうします」

「あれ、まだだったっけ? 先に食べていいよー」

“バラよりケーキ”という諺があるが。エルガさんには“ケーキよりミニミニフォン”という言葉がぴったりだ。

「体を壊します」

「え、大丈夫だよー」

「大丈夫じゃありません!」

 デトナーさんにも手伝ってもらい、やっとこさで食堂に引きずっていった。


「ここまで来たら、目標はモモガン森林との会話だね」

 所為かうな距離は不明だが、そうなると三〇キロ程度だろうか。

 現行のマジカルフォンの最大出力による最大交信距離をやや上回る距離だ。


 リエッタの苦難はまだまだ続きそうだ。


 我が家とウインダムス家では、しばらくミニミニフォン・ベータを使ってみることになった。

 もちろん市内の連絡や会議にだ。


  ◇ ◇ ◇


 帰宅した僕は、それなりの笑顔で出迎えてくれたエルガさんに、ミュギューッとも、ボヨヨーーンとも抱きしめられた。


「セージ君、小型化した電増魔石の最大容量がチョット足りないようなんだ」

「こう、もうチョット電流容量を増やしてさー」

「あ、制御は現状維持でね」

 はあー。作ればいいんでしょう。


 エルガさんに抱きしめられて、セージが至福で崩れた表情から、引きつった表情で、

「ガンバリマス!」

 投げやり気味に承知するまで、対して時間はかからなかった。

 作り終えたのは、翌日の夜のことだた。


 見習いとして働きだしたルードちゃんには、体内魔素とは方力の活性化を、チョット強めに行い。魔力眼と魔素感知の付与を掛け、魔法練習と模擬試合をしてから働いてもらった。


  ◇ ◇ ◇


 この日オーラン市からの依頼で、冒険者ギルドマスターのボランドリーさんがリーダーとして、幾つかの冒険者パーティーを引き連れて異界宮(ダンジョン)調査に向かった。


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