75. モンスタースタンピード後のボティス密林 1
二月一五日黄曜日、今日は学校を休んでララ草原、そして今日と明日と明後日に掛けて泊りがけでボティス密林の調査に来ている。
モンスタースタンピードの土砂降りが過ぎて、数日間の曇り。
今週になってからズーッと晴れが続いている。
魔法学校にも今日から三日間、今週の残りはお仕事で休みの届けを提出している。
家庭学習のプリントをもらったが、国語の書き取りに、算数は二桁の計算、社会に生き物と魔法学と教科書のまとめで、どれを取ってもチョロ過ぎた。
冒険者ギルドのボランドリーさんと保安部で有角人のニガッテさん、ホーホリー夫妻にリエッタさん、レイベさんとお馴染みのメンバーに、N・W魔研の社員でチョット冷めた感じのする美人のデトナーさんと、優男で髭にこだわりある魅力的なおじさんのアランさんも一緒の計九人だ。
デトナーさんとアランさんは会社では一緒だし何度も会話をしているけど、一緒に狩りをするのもボティス密林来るのも初めてだ。
ちなみにデトナーさんはハーフドワーフだけど、見た目はチョット小柄な人族とも思えてしまう。ハーフドワーフでも錬金と鍛冶はあまり得意じゃないそうだ。
アランさんは人族で魔法は万能型。
時空魔法と闇魔法以外の魔法も使えるけど、器用貧乏なのか、これといった得意魔法が無い。
冒険者ギルドマスターのボランドリーさんは、アランさんとデトナーさんとの付き合いは僕たちよりも、ずっと長い。それに信頼もある。
今回のメンバーには最適だろう。
魔導車二両でララ草原に乗り込んで、セイントアミュレットと幻惑を付与したカモフラージュネットを仕掛けて準備万端だ。
離れると、うん、相変わらず草原だ。周囲の風景に完全に溶け込んでる。
ボティス密林は冒険者ギルドとしては進入禁止としている。
それでも入って狩りをするやからがいるのは確かだ。
怪我や不慮の事故など、冒険者ギルドの補償対象外で、自己責任だってことだ。
調査は僕たち以前に、魔獣監視装置のメモリーパッケージの交換や、簡易調査で何度か行われているし、僕たち以外に二つのパーティーにも依頼を出しているそうだ。
ララ草原で状況確認した後、ボランドリーさんが訊ねてきた。
「セージどうだ」
「魔獣は多いし、見かけたことのない魔獣がいる。
強さ的にはチョット強くなったみたいだけど、以前と比べてそれほどってほどじゃないみたい」
さすがにララ草原付近だと強い魔獣は居ないみたいだ。
レーダーの有効距離は以前は球状の通常状態で半径三〇メル、伸長して三三〇メルだった。
それが半径六五メル、伸長して四八〇メル(不安定だと六〇〇メル)程度と強力になっているが、みんなには「チョット伸びたよ」ってしか話していない。
ゴブリンの群れ二つと、代わり映えしない魔獣、クラッシュホッグやブラックベア、マーダースネークなどを狩りながらワニ池を目指す。
魔素と負の魔法力の濃度が高い。以前より圧倒的だ。
途中、多くの樹木が折られ、なぎ倒されていた。
記憶の地形とは、明らかに違っているようだ。
「サイ魔獣のアーマーライノがいるよ。強さは“53”前後。
本だとヒートアタックに地盤振動をよく使うって書かれてた」
「モンスタースタンピードの時にも混ざってたはずだな」
ボランドリーさんの確認に、ニガッテさんがコクリと頷く。
僕はお初だけど、どうやらそうらしい。
「誰がやるって、セージか…」
「いいの」
「チョット待て! セージ坊が強いってのは聞いてはいるが、我でも一人で狩れないものを、セージ坊一人にやらせるのか」
僕の顔を見てあきらめモードのボランドリーさんに、確認を取ると、優男の髭おじさんのアランさんが慌ててしまう。
多分、年齢的には最年長で、一番の常識人だ。
「本人がやりたいって言ってるんだからやらせてみればいいんじゃない。強いって聞いてるし」
あっけらかんとしてるのはデトナーさんだ。
冷たい印象はパーティー仲間が亡くなった――ボティス密林調査中に別パーティを助けたことによって全滅しかけた――ことに起因しているかもしれない。
話してみると、印象より話しやすい人だし、最近はよく笑うようになった。
アランさんが救いを求めてホーホリー夫妻とレイベさんを見るが、三人はまたかと我関せずだ。
「じゃあ、いっきまーす」
小太刀の銀蒼輝をアイテムボックスから取り出して、黒銀槍は一旦仕舞う。
これだけ強くなったんだから、たまには小太刀でも戦闘してみたい。
腰には新品の大型ナイフ、ミスリル鋼硬(L)製の黒麻呂を差している。
銀が混じっているけど基本は鈍い黒色だ。それからチョット中二って黒麻呂なんて呼んだら、それが頭から離れなくなっちゃんだ。ま、いっかってことでだ。
「おい、それでいいのか」
ボランドリーさんの心配をよそに、僕は銀蒼輝に魔法力を流し込み、高周波ブレードを発動させる。
<身体強化><スカイウォーク>『隠形』『加速』
並列思考は常時起動しているから問題ない。
空中を駆けながら周囲を再度確認、前後左右上下、小物魔獣はいるけど異常なし。
さすがにアーマーライノが異常に気付き下を向いていた頭を上げ周囲を警戒する。が、僕を認識できないみたいだ。
アーマーライノがヒートアタックの体勢か、体に魔法力を集中させている。遅い。
僕はそのまま、ほぼ真正面から脳天に銀蒼輝を突き立て、魔法力を流し、個人魔法の<ギガボルテックス>を発動させる。
一瞬でアーマーライノが白目をむき、口から煙を上げ、ドウン、と倒れた。
強さが倍以上あるとこうも簡単に倒せるものか。
あとは冷やして、アイテムボックスだ。
上空ではハゲワッシが舞っている。
僕の後を一生懸命に追いかけてきたアランさんが唖然とし、その他の人たちも遅れてきたものの、
「ここまで強くなっていたとは…」
ボランドリーさんの言葉が皆の心境を代弁していた。
◇ ◇ ◇
一回り大きくなったワニ池――ヤッパ地形が変化している――では、泥ワニ一二匹を駆逐して、周囲を警戒しながら五台のホイポイ・マスターの目視確認を済ませた。
マッドアリゲーターの住む池でワニ池だ。
「こいつは聞いてはいたが、チョット酷いなー」
ワニ池の魔獣監視装置は全部で五台。
その内の一台の偽装樹木部分が大きく曲がって凹んで、魔石レンズ二個が砕け、内部もかなり破壊されていた。
メモリーパッケージの交換でモンスタースタンピード後に訪れたのは、ホーホリー夫妻とデトナーさんとアランさんの四人だ。
地面に近いメモリーパッケージの交換は無事行えたけど、壊れたホイポイ・マスターは全部で八台だったそうだ。
ワニ池は、この一台が大きく破壊されている。
「持ち帰りですね」
リエッタさんの見立てで、回収が決まった。
土魔法で土を退かし、地面に埋めた部分を露わにする。
外部や筐体だけでなく、内部の回路や配線もずいぶん傷んでいるようだ。
再度リエッタさんが確認してから、アイテムボックスに放り込む。
代替品が無いから穴を埋め戻して回収作業は完了だ。
ここでの破損は、あと二台。
一台は、魔石レンズの交換と筐体と樹木偽装の簡単な補修だった。
もう一台は、内部配線の交換が必要なほど大きく凹んでいた。
魔石レンズの交換と、そして筐体や樹木偽装の大きな凹みを修復するのに、僕はチョット頑張っちゃいました。
そしてリエッタさんの頑張りで何とか正常動作が確認できるまでになった。
補修した二台を含めた四台は認証合キー魔石でメンテナンスハッチを開け、メモリーパッケージの交換と内部回路の状況を確認をする。
各種メンテナンスと動作確認に、レンズ周りの汚れを取って作業完了だ。
◇ ◇ ◇
焼肉と果物の昼食を摂り、午後から周辺の調査だ。
獣道を見つけ、ボティス密林の奥に分け入っていく。
幸いにも高木が多く、草が少ないので奥に入っていくにもあまり苦労せずに済む。
いつものように果物・薬草・毒草・野草・香辛料の採取も忘れない。
「メガホッグ二匹来るよ。なんだか見つかってるみたい」
「一匹はセージで、もう一匹は俺とニガッテでやるか。ほかのみんなは周辺の警戒だ」
「あれっ⁉」
「どうした」
「なんだか魔獣が増えている」
「そうなのか? ……そういえばなんだか数が多いな」
ボランドリーさんも索敵持ちだけど、僕の範囲は認識できない。
以前聞いた内容だと、通常範囲で半径二〇メル程度で、変形させても二〇〇メルには遠く及ばないんだったっけ。
「みんな注意しろ、あっちこっちから襲ってくるぞ」
それと全員が何かしらの索敵方法を所持している。
全員に緊張感が走る。武器を準備して迎撃態勢を整える。
「サーベルバブーンの巨大な群れ、数は三五匹。
身長は一.八メル前後とサーベルバブーンではやや小型です。
強さは“38”から“50”程度。
特大の牙と爪、身体強化と、雄たけびは威嚇と錯乱作用があります」
猿というよりヒヒ型魔獣のサーベルバブーンは、基本は岩山や草原に住み着くが、こんなところにいるとは。
ちなみに肉は固くて臭いから人気が無い。
そんなことを考えてると、みんなの顔が緊張感にガチガチだ。
デトナーさんはそれを通り越して顔が真っ白だ。
<三重障壁>
僕は銀蒼輝を持って腰に差して、腰の袋ごと鉄菱に魔法力を流す。
どうやらレイベさんも同じ考えみたいだ。
袋から鉄菱を三つ取り出すと投てきしながら、
<マッハホーミング>
魔法レベルは“10”で、一回の魔法で一五個程度はコントロール可能だが、投げるのは三個だ。
風魔法のカタパルト、フローコントロール、それと高周波ブレードを組み合わせた投てき支援の個人魔法だ。
前もって魔法力を流したのは、そうすることによって速度とコントロールのしやすさが格段に上がるからだ。
<マッハホーミング>
<マッハホーミング>
手ごたえを感じる前に続けて二投と、三匹にむかって投てきした。
空間認識と並列思考と加速によるコントロールで、まずは的確に三匹を仕留める。
悲鳴が上がり二匹を仕留めたけど、一匹はまだ息がある。
息が有るっていっても重症だ。放置だ良さそうだ。
レイベさんが投てきする。
負けじとマルナさんが矢を射る。
二人とも必死の形相だ。
他のみんなはシールドを張り、防御を固める。
<マッハホーミング>
<マッハホーミング>
<マッハホーミング>
もう一度。
さすがに三連投は魔法力マシマシが必要だ。
悲鳴が上がて、またも二匹を仕留めたけど、一匹はまだ息がある。今度は動けそうだけど戦闘力はほほ無さそうだ。
レイベさんが投てきする。
負けじとマルナさんが矢を射る。
が、レイベさんは手傷を負わせる程度、マルナさんは木の幹で防がれてしまった。
レイベさんが投てきする。
マルナさんが矢を射る。
今度はレイベさんはほとんど防がれたみたいだ。
マルナさんは肩を射抜いてかなりの傷を負わせた。
<マッハホーミング>
<マッハホーミング>
<マッハホーミング>
もう一度。
悲鳴が上がて、今度は三匹を仕留めた。
レイベさんが投てきする。
マルナさんが矢を射る。
レイベさんは又もほとんど防がれた。
マルナさんは別のサーベルバブーンの太腿を射抜いた。
「メガホッグ来ます」
ドドドド…と地響きを上げて二匹が突進してくる。
みんなの緊張が一気に跳ね上がる。
僕はショートスピア二本を取りだし、魔法力を流す。が、
「俺とニガッテでやる。
セージたちはサーベルバブーンに集中してくれ」
そう言って、ボランドリーさんがグレートソードを、ニガッテさんが太目で長い槍を手に走り出す。
ショートスピアを仕舞って、鉄菱を用意する。
周囲を確認して、
<マッハホーミング>
<マッハホーミング>
サーベルバブーンを投てきする。
<スカイウォーク>
空中を駆けて、またもサーベルバブーンを一匹切り裂く。
鉄菱に二匹のサーベルバブーンが息絶える。
ボランドリーさんが突進してくるメガホッグAを飛び越えながら、背中に乗って首にグレートソードを突き立てる。
ピギャーッと悲鳴が上がる。
続いてニガッテさんが、メガホッグBの脇をすり抜けながら前足の付け根を切り裂く。
メガホッグBの走る速度がガクッと一瞬落ちたが、浅かったようだ。
<マッハホーミング>
<マッハホーミング>
怒りのメガホッグBが、すぐさまニガッテさんに牙でアタックを仕掛ける。…が、速度の落ちた攻撃ではニガッテさんの餌食だ。
今度こそはと槍で右目を突き刺す。
たまらずブギャーッと悲鳴が上がる。
メガホッグBが痛みから逃げ出すように駆け出す。
そして、僕は中空を駆ける。
<スカイウォーク>
空中を駆けて、またもサーベルバブーンを、今度は二匹を順に切り裂く。
サーベルバブーンが、ギャー、ワギャー、オッホッウッフォ、ワォギャーと騒ぎ出す。
一八匹。マルナさんも一匹を仕留めたようで、残りは一六匹。
あ、レイベさんとマルナさんで追加で一匹仕留めたみたいだ。
ザシュッと二〇匹。
首から血を流すメガホッグAが大きくUターンして、背中の方に飛び降りたボランドリーさんに再度の突進。
今度は前方横に駆け抜けるボランドリーさんが、グレートソードを後ろ右脚に突き立てる。
右足を大きく切り裂かれたメガホッグAがガクリと膝を折り、ピィギャァーッと二度目の悲鳴が上がる。
ボランドリーさんは周囲のサーベルバブーンの動向を瞬時に確認して、首に止めを突き刺す。
僕がサーベルバブーンをザシュッと二一匹。
<マッハホーミング>
<マッハホーミング>
<スカイウォーク>
ニガッテさんとメガホッグBの激闘は続いている。
手負いのメガホッグBの凶暴さが増し、ややてこずっていると、ボランドリーさんが後方からメガホッグBの足の腱を切る。
速度の落ちたメガホッグBの首をニガッテさんが突き刺したのが止めだった。
これで二四匹。残りは一一匹。
守りに徹していたほかのみんなも動き始める。
<マッハホーミング>
<マッハホーミング>
<スカイウォーク>
これで二六匹。
ガーランドさんとアランさんで一匹。残りは八匹。
デトナーさんは魔法で二人に襲い掛かるサーベルバブーンをけん制する。
逃げようとした一匹を僕が銀蒼輝で仕留めて、あとはみんなが仕留めた。
これだけ戦っても使用魔法量は“250”程度だ。
僕の魔法の最大保有量が“680”だから半分も使用してない。とはいえ、それまでの戦闘で半分程度まで使用しているけど。
ちなみにリエッタさんやマルナさんなどの魔法の保有量が“150”前後だから、僕の保有量は異常と言えるほど高い。
一旦冷やしたメガホッグ二匹は、不必要な内臓など価値のない部分は破棄して、魔獣石を取り出し、再度冷やしてアイテムボックスに放り込む。
サーベルバブーンは魔獣石を取り出し、毛皮と牙を取るのが大変だった。
全員で一時間半ほどかけて何とかなったけど、腐肉アサリのハゲワッシがうっとうしい事この上ない。
僕だって解体のスキル――本当のスキルはないけど――が上がているから随分頑張った。
覚えたての頃はお腹を裂き、内臓の除去だけだったのが、毛皮をはがせるようになったんだから。
◇ ◇ ◇
ワニ池に戻って一旦休憩。
「サーベルバブーンに包囲された時には死んだかと思いました」
「セージ君に感謝ですね」
「そりゃー、そうだな」
まだ顔が青白いデトナーさんの発言に、マルナさん、そしてボランドリーさんが気づかいのつもりか気安く答える。
「ええ、そうですね…」
「セージ坊、ありがとうな」
アランさんにも気を使ってもらうデトナーさんは、立ち直るにはもう少々時間が掛かりそうだ。
そして気を使う側全員も、ばて気味だ。
強さが“38”から“50”程度のサーベルバブーンが三五匹に、メガホッグは“60”前後だ。
いくらボランドリーさんとニガッテさんが抜きんでていても二人じゃ難しいし、他のみんなはサーベルバブーンと大差がない。
ボランドリーさんで“72”チョトで、その次がニガッテさんで“64”だ。
一番弱いのがレイベさんで“42”だったか? “43”にアップしたのかな。
ホーホリー夫妻やデトナーさんとアランさんなんかが“50”前後のはずだ。
それとサーベルバブーンは樹上から巧みな攻撃を仕掛けてくる。格上のボランドリーさんとニガッテさんでも気は抜けないはずだ。
「ここだけの話だが、デミワイバーンとミニシーサーペントを倒したのはセージか」
「……アハハハ…、な、なん、なんの…タハハハ…」
笑ってごまかるはずもなく、口ごもり、乾いた笑いに頭をかいてしまう。
周囲のみんなも、絶句モードだ。
真相を知ってるのはパパとママだけだけど、解体を手伝ってもらったリエッタさんとホーホリー夫妻はある程度知っている。
その三人の無表情振りも、また物語っている。
「そりゃ、豪勢なことだ。ガハハハ…。
誰にも漏らさんから心配するな」
「は、はい」
「あのー。突然サーベルバブーンの大群が出現したのはどう思いますか?」
レーダーで監視していた僕しかわからないことかもしれないけど、本当に突然、湧きだしたかのように出現したんだ。
「索敵しててもたまにそういうことがあるからな」
「緊張し過ぎは失敗の元ですが、細心の注意を払って調査していきましょう」
ボランドリーさんとアランさんの意見に、誰もがうなずく。
僕の疑問と同じ疑問を誰も持っていないのは当然のことだった。
「今日はもう一度ワニ池周辺を調査してララ草原に引き上げる。
明日からの予定は変更ないが、あまり深入りしないこととする。
何か意見は」
特に意見は上がらなかった。
◇ ◇ ◇
ララ草原で野営。
魔導車のカムフラージュを取っ払って、刺されないといっても虫除けは必須だ。
食事中や睡眠中のうっとうしさに悩まされなくって済む。
調理を分担する。
皆慣れたもんであっという間に出来上がる。
焼肉とシチュー、果物(マンゴーと木苺)の夕食だ。
「本当に魔獣が多かったですね」
「ああそうだな。これじゃあ、しばらくはレベル規制でもするしかないか」
マルナさんの、誰とはなしの問いかけに、ボランドリーさんが答えた。
どこから湧いてくるのか、ワニ池に戻るとまたマッドアリゲーターが三匹いた。
周辺を調査するとゴブリンの群れ五つに、ブッシュホッグ、クラッシュホッグ、ブラックベア、マーダースネーク、フライングデスアダー、カメレオンボアと魔獣のオンパレードだった。
さすがに悪臭魔獣のスティンキーゾリラには逃げたし、チョット嫌気がさしていた。
あと、魔素と負の魔法力の濃度が高い場所が幾つも見つかった。
魔素と負の魔法力の濃度が高いボティス密林の中でも特に高い場所だ。
ボランドリーさん曰く、モンスタースタンピードの名残だろうとのことだ。
自然消滅するか、強い魔獣を呼び寄せる可能性もあるから要注意だそうだ。
その後に打ち合わせて、アランさんとリエッタさん、ホーホリー夫妻、デトナーさんとレイベさんの順で見張りとなった。
アランさんとリエッタさんが見張りに立ち、ホーホリー夫妻とデトナーさんとレイベさんが早めの就寝につく。
そうしてボランドリーさんとニガッテさんが夜のボティス密林の調査に向かう。
ボランドリーさんとニガッテさんは早朝にも、もう一度調査に向かうから、警備から外れる。
この調査のため、人数を増やし、わざわざ野営を行っている。
僕も志願して一回目の調査にだけ付き合うことにした。
一旦難色を示したボランドリーさんも直ぐに折れた。
ちなみに体力が人並み以上になった所為か、日中疲れてお昼寝をするようなことはほとんどしていない。ただし、一日八時間以上の睡眠はキッチリ守っている。
成長ホルモンをシッカリと分泌して、大きくなるんだ。
夜七時半ごろ出発。
二~三時間ほどで戻ってくる予定だ。
ボランドリーさんからの注意事項だと、夜でも完全に眠る動物や魔獣はいない。
近づけば逃げるか襲ってくるそうだ。
<スフィアシールド>
ボティス密林の中は真っ暗だ。
スフィアシールドを常時発動。それも体を覆うように体に沿って発生させて、移動中の阻害にならないようにする。
イメージを込めると、手足の動きに合わせてスフィアシールドも動く。
このテクニックもボランドリーさんからだ。
思ったより動物や魔獣のものだろうか、鳴き声がする。
昼間より魔素と負の魔法力の濃度は高いのだが、どういう訳か魔獣があまりいない。
いや、居ないわけじゃない。弱すぎる小物魔獣がうじゃうじゃといる。
その主なものがミッドナイトマウスとブラックワーム、それとグレースライムだ。
ミッドナイトマウスは雑食性の大型鼠だ。剃刀のように鋭い爪と牙はあるが、それより細菌などの感染減としておそれられる。
ブラックワームは巨大ミミズで、八〇センチメルほどの長さで太さもある。強力な粘着性の液で捕食するが、動きがメチャクチャ遅い。
一番危険なのがグレースライムだ。超強力な溶解液で大抵の物は溶かしてしまうが、衝撃に弱い。動きも遅いので、石でもぶつければ倒せる魔獣だ。
索敵ができずに突然遭遇で接触でもしない限りまず問題ないものばかりだ。
ただし、数が多く、避けても避けても次がいる。
だいたいが、ここはミッドナイトマウスの群れ、右手はブラックワームの群れ、左手はグレースライムの群れ、そして奥の方はミッドナイトマウスとブラックワームは共存しる。もちろん空白地帯というか魔獣がいない空間もある。
そういった状態なので、群れと群れの間を縫って歩いている。
「以前もこんなんだったんですか?」
「いや、もっと強い夜行性の魔獣が多かったな。…オワッと」
「倒して、魔獣石放置ってのはダメですか?」
「ダメってことは、ねーけどな……」
あ、ギルドマスターが、規範をってことか。了解。
「僕が練習で適当に魔法を放つってことは良いでしょうか」
「あくまでも、練習程度でだな、ガハハハ」
「じゃー、<トリプルスフィア>」
三人を三重のスフィアシールドが包み込む。
周囲の確認、よーし。
「<エクスプロージョン>」、…ドッカーン(たまやー)
潰れて吹き飛ぶミッドナイトマウスの群れ。
スフィアシールドにグシャッグシャッグシャッと、…オエー、グ、グロイ。
まあ、有る程度は水蒸気が、目隠しとなって緩和してくれる。
「<エクスプロージョン>」、…ボッカーン(かぎやー)
引きちぎれて吹き飛ぶブラックワームの群れ。
ま、またも、スフィアシールドにビシャビシャーッと、…オエー、キモイ。
「<エクスプロージョン>」、…ズガーン(たまやー)
…(自主規制中)…。オエッ。
「<エクスプロージョン>」、…ズドーン(かぎやー)
…(自主規制中)…。ウエッ。
「<エクスプロージョン>」、…ズガーン(……ー)
…(自主規制中)…。オエー。
「<エクスプロージョン>」…ドッカーン(……)
…(自主規制中)…。エッ、エップ。
さすがに、SAN値(そんなパラメータは無いけど)が……。
「おいおい、何だそのとんでもない魔法は…」
「オエップ。…エクスプロージョンですけど」
水蒸気大爆発は入学試験以来、真剣に作成してきた個人魔法だ。
メガウォーター+極超高熱+火球爆散+流体制御+ジェットストリームⅡ、と水魔法、火魔法×2、風魔法×2で、魔法の合成レベルは“11”となっている。
水蒸気爆発を主にしているので、火魔法を使用しても燃焼の心配がない。
入学以前から作成仕掛けというか、一旦作成したけど威力に納得いかなくって、レベルアップから追加工夫ものだ。気合いもあって案外すんなりとできた代物だ。
どこで練習したかって、それが今現在だ。
あまりにも突飛過ぎて、使いどころを思案していたところだ。
ボランドリーさんとニガッテさんならばと、もしできればお試しをと思ってもいたものだ。まあ、深夜のボティス密林にも興味があったし。
もちろんエクスプロージョンボウも、バージョンアップしている。
「聞いたことねーぞ」
「そりゃー、個人魔法ですから」
「そうか…」
真剣に討伐した魔獣は、サーベルホーンキャット二匹に、サイレントバット三匹だった。
小物魔獣の楽園(?)ってことだけで、特筆するべきことはない。
無口なニガッテさんは相変わらずだったし。
戻って、
<ホーリークリーン>
気分もスッキリ、爽快になってシチューを食べて、歯磨き良しと、就寝しました。