69. 強化デミワイバーンとミニシーサーペント
戦闘シーン継続しています。
僕は夢を見ていたのか、フワフワしていた時に強烈な衝撃を受けたように気がして目覚めた。
「あったま痛ー」
鈍痛、鈍い思考でも周囲のパニック状態は理解可能だ。
悲鳴が上がり逃げ惑う人々で収拾がつかない状態だった。
頭の鈍痛を振り払うように、頭を振って覚醒を促す。
そういえばデミワイバーンと戦って、第三小講堂で眠っちゃったんだ。
体もだるいような……。
「あっ、セージちゃんやっと起きた」
「どうしたの」
「緊急放送で…」
ミクちゃんがそう言いながら、天井? 空を指さす。
何と思ったけど、サッキよりサイレンの音が変化している。
『……緊急事態発生! 非常に凶暴で危険な魔獣が市内に侵入しました!
住民全員、安全が確認されるまで強固な場所に避難していてください…』
逃げ惑う人々の声に途切れ途切れだが、市の緊急放送が聞き取れた。
「落ち着いてー、ここは大丈夫です」
先生たちの叫び声も聞き取れる。
時間は午後三時半を少し回ったところか。そうだとすると眠っていたのは二時間半少々といったところか。
「…それで、また学校が攻撃されちゃったんだけど、今は収まったみたい」
「バリバリって大きな音がして、講堂が震えたの」
ミクちゃんに続いてライカちゃんも情報を提供してくれる。
ああ、これで収まってきてるのか。
生徒の多くが天井を心配そうにい眺めている。
大講堂の破壊を思い出すとこんなもんだろう。納得。
どれレーダーで……て、あれ?
距離が大幅に伸びてる。
思いっきり伸長させて何回か振り回してみた。
範囲外で完全に感じ取れないけど、オーラン市内にい何十匹もの魔獣の存在が感じ取れた。
あ、ぼんやりだけど海岸? 海の方にメチャクチャ強い魔獣がいる。それも二匹。
また魔獣の侵入を許したってことは理解したけど、これって……。
『個人情報』
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【セージスタ・ノルンバック】
種族:人族
性別:男
年齢:6
【基礎能力】
総合:86
体力:132
魔法:435
【魔法スキル】
魔法核:11 魔法回路:11
生活魔法:6 火魔法:9 水魔法:9 土魔法:9 風魔法:9 光魔法:9 闇魔法:9 時空魔法:9 身体魔法:8 錬金魔法:9 付与魔法:9 補助魔法:9
【体技スキル】
剣技:7 短剣:3 刀:7 水泳:2 槍技:8 刺突:6 投てき:5 体術:5 斬撃:2
【特殊スキル】
鑑定:5 看破:6 魔力眼:6 情報操作:4 記憶強化:4 速読:3 隠形:4 魔素感知:4 空間認識:6 並列思考:5 認識阻害:2
【耐性スキル】
魔法:7 幻惑:3 全毒:3 斬撃:4 打撃:6 刺突:3
【成長スキル】
基礎能力経験値2.14倍 スキル経験値2.14倍
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え、え……お、おぉー。
なんじゃこりゃぁだ。
冒険者ギルド長のボランドリーさんが総合は相変わらずの“72”だ。
ランクB冒険者になるには様々な貢献もあるが、強さ的には最低で“60”程度が要求されるそうだ。
もちろんボランドリーさんやニガッテさんもランクB冒険者だ。
それが“86”って、聞いちゃいないがランクA冒険者になれるんじゃないか? ランクAはもっと上か?
何度かコッソリと冒険者の個人情報をレーダー越しに覗いてみたことはあるけど、ボランドリーさん以上の強い冒険者を見たことが無いから、僕ってチート状態じゃないだろうか。
まあ、ランクA冒険者――会ったことも見たこともないけど――だったら、僕以上がいるとは思うけど。
魔法核と魔法回路は“8”から“11”となっている。
アップしてないのは【特殊スキル】の鑑定と速読に、【耐性スキル】の幻惑と全毒程度だろうか。
あ、【体技スキル】の案件や水泳もそうか。
ほとんど全部アップしているし、認識阻害が独立して発生した。
「ねぇ、セージちゃんどうしちゃったの?」
「…あ、ああ、な、なんでもない」
よっぽど間抜けな顔をしていたんだろう、ミクちゃんにマジマジと覗き込まれてしまった。
顔近いけど、たかが六才の女の子。許容範囲だと思いたい。……うっ、ヤッパ顔近すぎ。
「なんでもないわけないでしょう。本当にだいじょうぶ?」
「うん、まだ顔が青いわよ」
「うん。それよりまた攻撃があったんだ。誰も怪我してない?」
「大きな爆発があったけど、班やクラスのみんなはだいじょうぶ。それに誰かが怪我をしたってのは聞いてないから、多分だけど」
「バリバリって音がした時には、本当にダメかと思っちゃった」
ライカちゃんが、その時の恐怖を思い出したのか、表情がこわばる。
「そう、でも怪我人がいなくてよかった。で、魔獣は?」
「わかんない」
「どこかに行ったんじゃないの」
そりゃ知らないよね。市内にもいるけど、僕が気になるのは海岸か海上の二匹だ。
「ちょっと見てくる」
そう、何がいるのか気になって仕方がない。
「あぶないよ」
「えっ…」
「チョットだけだから」
「ルイーズ先生!」
あっけにとられるライカちゃん。
ミクちゃんは慌てて先生を呼ぼうとしたので、一気に駆けだして逃げちゃった。
ああ、やっぱチートだ。
細胞がまた強化されている。これじゃあ身体強化のレベル2に近い動きだ。
<テレポート>
思わず校庭の木陰に飛んだけど、どうしよう。
空間魔法をレベル11にあげれば一気に海岸や港まで飛べると思えるけど、現在のテレポートⅡの魔法陣では五〇〇メル程度が関の山だが、マクロ化の個人魔法で五八〇メル程度まで拡張している。
それにショートスピアの予備の手持ちが後二本と心もとない。まあ、戦うって決めちゃいないけど。
あ、それと、体……。
パンパン、と胸や肩、背中を叩いてみるけどどこも痛くない。
これじゃあ、忘れるよね。
骨折じゃなく、ヒビだったにしたって、通常なら数日の治療が必要なはずだ。
ヤッパリ、僕の魔法って規格外だよね。いや、強化した細胞の所為なのか……。
はあ、とため息が漏れる。
それとお腹が減っている。
気を取り直して、頑張るか。
<テレポート>……<テレポート>
限界ぎりぎりで飛ぶと誤差が大きいので、レーダーで確認しながら、ゆとりを持ってのジャンプだ。
ノルンバック家の目の前に到着。
<テレポート>
飛んだ場所は家の武器倉庫の中。
<ドライ><ホーリークリーン>
服や体を乾かして、制服のブレザーはアイテムボックスに放り込む。
まずはイチジクを食べて人心地を付ける。バナナばっかだと飽きるし。
そしてめぼしい武器を幾つか見繕っていく。
ショートスピアは五本あったけど全部持っていくのはためらわれので三本だけ。
不足分は片手剣の五本で代用、念のためカイトシールド二個とロープにネットなどもいくつかアイテムボックスに放り込む。
ショートスピアとロングソードには強化に切れ味アップに高周波ブレードの付与を、使い捨てだから気長に付与する必要も無いから短時間で済ませた。
やってみて驚いたけど、一本一分程度で付与できてしまった。以前は二分ほど掛かっていたのが半分ほどで済んでしまった。
カイトシールドとロープにネットは強化と魔法耐性を付与した。
ちなみに持っていくにしても、市販価格は知っているからあとでパパにお金を払うことが大前提だ。
いつもの狩りの格好に着替えてから<テレポート>で外に出る。
<スフィアシールド><フライ>
隠形やレーダーも起動して、黒銀槍を手に雨の空に飛び立つ。
プテラン発見。
周囲に自警団がいるが、追いかけているようだが戦闘はしていない。
高速で上空に舞い上がり、身体強化に黒銀槍に魔法力を流して急降下しながらで貫く。
断末魔の雄たけびを上げながら息絶える。
フライの速度もアップしているし、体がやっぱり別人だ。
冷やして急いでアイテムボックスに放り込む。
時空魔法のレベル8のアイテムボックスⅤは約五トンのはずだが、マクロ化で個人魔法として作成したところ六トンほど収納できるからデミワイバーンが入っていてもまだまだ余裕だ。というよりスカスカ状態だ。
単独のビッグプテラン発見。
強さは“82”と僕の“86”よりチョット低い。
『隠形』『認識阻害』、<身体強化>、黒銀槍を確認して、再度高速で上空に舞い上がり、急降下しながら黒銀槍で貫く。
ビッグプテランは一瞬、身をひるがえして回避行動を取ろうとしたが、それに合わせた僕の方が早く、的確に背中から心臓を貫いたのだ。
並列思考もさらに加速して、状況判断が素早くなった。ビッグプテランの回避行動もゆっくりに見えたし、戦闘中の思考にもゆとりが出たような気がする。
ビッグプテランは冷やしてアイテムボックスに放り込む。
こんなにチョロくていいのか? と思わなくもないが総合がアップした身体機能や魔法力の確認はOKだ。
ちなみに特攻まがいのこんな攻撃は外した時のリスク、飛行技術で劣る人間が反撃を食らうことを考慮すると、僕みたいにテレポート持ちしかできないことだ。
気を引き締めて海岸に向かう。
◇ ◇ ◇
途中、鳥魔獣三匹を倒して防潮堤の上に着地。
断続的な雨と風以外にも、魔獣による魔法攻撃によって荒れ捲っている。
防潮堤のセイントアミュレットも幾つも壊れ、魔素や負の魔法力が海に流れ出ている。
その先は拡散していっているようだ。海の水に溶け込んでいるのかもしれない。
海上の様々なセイントアミュレットも同様に破壊されている。
オーラン湾内ではデミワイバーン? いや強化デミワイバーンか、それとミニシーサーペントが戦っているが、じゃれあってるみたいで傷ついているようには見えない。
警備艇は遠巻きに警戒するだけで攻撃は加えていない。
防潮堤の上にいくつもの魔導砲を設置中でその後に一斉攻撃を掛けるのだろう。
中途半端な攻撃で強化デミワイバーンとミニシーサーペントを怒らせるよりも、迎撃体制の強化に努めているようだ。
デーだーで確認したところ二匹とも“100”から“140”程度ってことだから、“130”程度の強さと思えばいいか。
多分だけどミニシーサーペントの方がチョットだけ数値が高い。
それとウミヘビ型と呼ばれているけど、頭が大きく、背中の長い背びれ、赤茶の縞模様は日本人だったころに図鑑で見たミナミウツボによく似てる。ウツボ魔獣と言った方が似合いそうだ。
レーダーによると、サメ型で貪欲なメガロドン(強さ“60”程度)、伯父様を訪問した時にノーフォーク湾で遭遇した首長竜タイプのグリーダー(強さ“48”程度)、強力な毒を放ってくる紅ノコギリエイ(強さ“44”程度)、僕が始めた倒した海魔獣のイクチオドンなど数多くの海魔獣がなだれ込んできているが、溶解液のあるミニシーサーペントから距離を取って、遠巻きにしている。
これらも濃厚な魔素と負の魔法力に引き寄せられたってことだろう。
防衛側の攻撃はこれからだから僕が攻撃してもいいのかな? それとも反撃を考慮してこのまま静観してた方がいいんだろうか。
結局、静観しながら動きがありそうなら迎撃態勢を取ることにして、市内のビルの二階の庇付きのテラスの下に移動する。
付与も行ったので魔法力がかなり心もとない。
ルルドキャンディーを三個口に放り込んでから、アレと思って、もう一個追加で口に放り込む。…ニガッ。
それで魔法の残量が“118”まで戻る。
チョット驚き。ルルドキャンディーの効果もアップしたみたいだ。
これで魔法の回復も図れるし、確認もできる。
ちなみに戦闘中にも一度ルルドキャンディーを二個食べている。
これだったら、南西の城壁や、魔素や気持ち悪い感じなどの流れ込みも確認してくるんだった。チョット失敗。
それらが結界の破れから漏れだしていく。
海魔獣の被害はあるが、まあ、有るっていってもセイントアミュレット程度やぼろい漁船程度だ。
これで魔獣がオーラン市から出ていってくれればモンスタースタンピードも終結するかもしれない。
船舶の被害が漁船だけってのは、商業船などの大型船は隣の市に避難していたり、オーラン市には長居はせずに、素早く移動しているからだ。
もちろんマーリン号も商用で出払っている。
海魔獣が停泊中の漁船などや海岸や港付近を破壊しているのをしばらく眺めていた。
大型魔導砲の到着で、設置が完了すれば砲撃が開始されるだろう。
一五分ほどで魔法の残量も“135”まで回復した。
小雨になった現在、やるなら今だ。
失敗しても防衛隊がいるし、傷つけられれば防衛隊の援護にもなるし。
『レーダー』
位置を明確に確認する。
<スフィアシールド><身体強化><フライ>『隠形』『認識阻害』
状態を確認してから黒銀槍に魔法力を込める。
<テレポート>
強化デミワイバーンの上空にジャンプする。
ちょっとした下降感に気持ち悪さを感じながらも、場所を確認する。
並列思考のスキル値がアップしたので確認が楽だ。
再度『隠形』『認識阻害』を最高レベルで発動させ、状態も確認する。
アイテムボックスからショートスピアを二本を取り出し、魔法力を流して。
<フローコントロール>…<フローコントロール>
ショートスピアを大きく迂回してミニシーサーペントに向けて放つ。
強化デミワイバーンを攻撃中に、ミニシーサーペントの攻撃を受けないための牽制だ。
それと強化デミワイバーンの気も、そっちに向かえば一石二鳥だ。
ショートスピアの軌道とタイミングを見極めて、突貫だ。
目標は強化デミワイバーンの翼の付け根。
思考や精神的にはゆとりがある。
黒銀槍を突き刺す直前で、強化デミワイバーンが危機感知なのか、体をひねった。
「<ステップ>」
オリャーッ、と雄たけびを上げながら、身体強化もあってそのひねりを追って、ステップを蹴って、蹴って、黒銀槍をガキッと一瞬の抵抗後に、気合いでズブリと突き刺した。
ビッグプテランを倒した時の回避行動は、記憶にバッチリ、想定済みだ。
やった。
体が強くなったおかげか、デミワイバーンの戦闘時と違って深々と突き刺さる。
強化デミワイバーンがグギョーーワーンと、苦しそうに悲鳴を上げながらも、体をグルリと回転させる。
翼をばたつかせる。
左手で強化デミワイバーンに体にしがみつく。
そして突き刺さした黒銀槍を持った右手で魔法力を込める。
<ボルテックスⅣ>
<ボルテックスⅣ>
<ボルテックスⅣ>
<ボルテックスⅣ>
電撃の確かな手ごたえに強化デミワイバーンが体をブルブルと震わせて、弛緩した。
ガクンと重さが一気に腕に掛かってくる。
おわーっ。
慌てて『収納』と黒銀槍と一緒にアイテムボックスに放り込む。
もう海面すれすれだ。
ミニシーサーペントに向かったショートスピア二本は、溶解液ブレスで溶かされ、尻尾の一撃で海に叩き落されてしまっている。
<テレポート>
ビルの二階の庇付きのテラスの下に退避する。
周囲を確認して、道路に降りてアイテムボックスから強化デミワイバーンを取り出す。
黒銀槍を抜いて、冷や手から再度アイテムボックスに放り込む。
ルルドキャンディー三つを口に放り込んで、魔法の残量が“106”になったことを確認する。