67. デミワイバーン襲来
まだ戦闘は続きます。
朝のホームルームが終わって、一時限目の授業の開始直後の大きな地震で、学校中がパニックになりかけた。
そしてモンスタースタンピードの発生がオーラン市にアナウンスされた。
◇ ◇ ◇
オーラン市に非常警報が鳴りひいびいて一時間半ほど経った頃、更なる警報が鳴り渡り。
『魔獣がオーラン市に向かっています。家から出ないようにしてください』
とのアナウンスがオーラン市に何度も響き渡った。
『全校生徒に告げなす。急いで大講堂に集合してください』
校内放送も何度も流れた。
ルイーズ先生が一A一クラスに駆け込んできて、
「班ごとにまとまって、お友達を確認してください」
班ごとにルイーズ先生が再確認して、大講堂に移動する。
全校生徒が入れる場所は大講堂しかなく、大講堂は避難場所ともなるので強固に造られている。
そして何人もの生徒が家族によって引き取られる。
対応は各家庭それぞれだ、家に戻るもの、学校の防衛を信じて学校に任せるものとにだ。
『緊急事態発生! 魔獣が城壁を破って市内に侵入しました! 至急屋内に避難してください!』
しばらくすると緊迫した放送が流された。
市街戦が始まったようだ。
防御施設でもある大講堂には窓が無い。
しばらく何もなく、ほとんどの生徒が友達と雑談をしだす。
防衛はオーラン市の城壁で、オーラン市立魔法学校の所在地は市の中央付近なのでここまで防衛の音が聞こえてくる訳がない。
周囲の市民でここに避難してきている人もいるし、子供を迎えに来てそのまま居座る家族もいるようだ。
けっこう緩い管理体制で、やることが無い。
もちろん授業ができないし、暇だし最初は談笑していた生徒たちも、その内にカードゲームや手遊びのゲーム、言葉遊びなどをする子たちも多くなってくる。
しばらくしたらお菓子と飲み物も配られ、危機感も何もない雑然とした感じだ。
早めのお弁当を食べ終えた頃――食堂で食べる人にはパンや牛乳が配られた――突然大音響のサイレンが鳴った。
『緊急事態発生! 大量の魔獣が城壁を破って市内に侵入しました!
南広場と西広場に魔獣血石を撒いて砲撃によって魔獣の駆除を行います!
周辺の住民は屋内の安全な場所に隠れていてください』
大音響サイレンが鳴り響く中、切迫した声で何度も繰り返される市からの放送が響き渡っている。
そうこうすると、ドーン、という盛大な破壊音とともに大講堂が大きく揺れた。
周囲からキャーとかウワーとか、悲鳴が上がる。
先生たちの動きも活発になる。
「この大講堂は頑丈な造りになってます。安心してください」
校長先生の優しい声で、怯えた生徒たちも落ち着きを取り戻したのだが、
ドーーン。
再度の大きな爆発音とともに大講堂の天井が大きな焼け焦げて穴が開いた。
パラパラと焼けた破片が落下してくる。
キャーと悲鳴が上がり、生徒たちだけでなく避難した市民もパニックだ。
そして、爆発音は立て続けに、ドーーン、ドーーン、ドーーン、と続き、天井から壁に掛けて縦に長い焼けた穴になり、焼けた破片が飛び散って、パニックの規模が拡大する。
幸いなことに強い雨で火事にはならないみたいだけど、雨が吹きこんでくる。
穴が開いた天井から壁付近にいるパニックに陥った生徒や市民たちは、それぞれに喚き、逃げ惑う生徒や市民が三分の二。硬直する生徒や市民が三分の一といったところだ。
「練習場に急いで避難してくださーい」
校長先生の叫ぶような指示が飛ぶ。
近くにいた先生たちが駆け寄って、マルチシールドで防御する。が、完全に腰が引けちゃてる。
幾人かの男性市民も生徒の誘導を手伝ってくれるが戦闘スキルは期待できそうにない。
僕はすかさず身体魔法で外が見えやすい場所に移動する。
大雨で外は見えにくいが、プテランかと思った魔獣にレーダーを当てるとデミワイバーンだった。
強さは“90”~“120”程度と僕よりかなり強いってことだけは判明――自分より強いと看破が不安定――したけど、本当の強さは不明だ。
ビッグプテランが魔獣や人を殺め、強くなっていくとデミワイバーンになるとも言われている魔獣だ。
そして次の成長がワイバーンだとも言われているが、眉唾だっても言われている。
強化マダラニシキヘビのように巨体化・強化してただ単に種族として強くなる魔獣もいるのは確かだが、デミワイバーンのように成長・進化する魔獣もいるんじゃないかって想像の範疇を出ない。
また例外もあるみたいなので一概に有るとも無いとも言えないところが本当じゃないかと思っている。
写真だけど強化ビッグプテランを見たこともあるし。
デミワイバーンは多数の獲物を見つけて歓喜したのか高熱を帯びた圧縮空気の振動弾ともいうべき咆哮を吐き出し、ドーンという音とともに大講堂の焼けた穴を広げだす。
「セージちゃん」
ミクちゃんが心配そうに駆け寄ってきた。
「ミクちゃんはクラスのみんなを誘導してあげて」
「セージちゃんは? ……」
「僕はチョットだけ時間を稼ぐから」
「……あんなのとはダメだよ……」
僕の視線の先のデミワイバーンを見たミクちゃんが、怯えて僕の袖を引く。
強くなったとはいえミクちゃんの総合は“20”に届いていない。
それでも魔力眼があるのであくまでも大雑把、僕より更に不安定だけど、デミワイバーン体内の魔力量や魔素の濃度を漠然とだけど見てしまったようだ。
その間にもヒートクラッシャーブレスによって講堂の焼けた穴が大きくなっていく。
「クラスのみんなをお願いね」
「…セージちゃん」
ミクちゃんの呼びかけをスルーして、人ごみに紛れて<テレポート>で大講堂の外に出る。
それもデミワイバーンから見えにくい校庭の樹の影だ。さすがにデミワイバーンの側にテレポートするなんて無茶なんてできるわけがない。
土砂降りで視界は不鮮明。木陰でも容赦なく雨が滴ってくる。
テレポートは目標があった方が飛びやすい。それでイメージがしやすい木を目標にしたってのもある。
ちなみにテレポートは、テレポートⅡを使用しているが、レベルを意識したくないので、名称を変更してテレポートⅡだけを使用している。
通常はマナー違反とされる魔法名の変更は、階層構造の魔法だけは通常魔法として名称変更するのがある程度一般化している。
最大距離は五〇〇メルだけど、魔法力マシマシだと六〇〇メル程度までジャンプできる。
ただし、距離が延びれば誤差が大きいのが欠点だ。マシマシすると誤差がひどくなる。
<スフィアシールド>『隠形』『認識阻害』
防御もあるけど雨よけでもある。
濃度の上がった魔素と、この気持ち悪い感じはボティス密林やモモガン森林の中にいるみたいだ。
<イリュージョン>
それと見つからないように魔法を発動して、樹の幹を太く見せかけてデミワイバーンを覗き見る。
上空三〇メルほど、大講堂の穴に今にも取りつきそうだ。
レーダーで周囲を確認する。
なんだかもう何匹もオーラン市に大型魔獣がいるみたいだ。
レーダーでは捉えきれないけど、何となく遠くに強い魔素を感じる。市街の喧騒も伝わってくる。
魔力眼の一点に集中する。そうすると遠くの屋根越しに魔素の塊りのような魔獣の群れが見える。
あれって兵舎じゃないかな?
強い魔獣は本能なのか、何らかの方法で魔法力や、強さを感じ取ってそこに向かってしまうそうだ。
警備兵が魔法学校に到着するにはしばらくかかりそうだ。
狩りに行けなかった僕のための恩恵だろうか。
魂魄管理者、ありがとうございます。
それにしては豪勢過ぎる獲物にビビってしまいそうになる。
投げ矢をアイテムボックスから数本取り出し、その内の三本を、<ハイスピードフローコントロール>で大きく弧を描いて、デミワイバーンにたたきつける。
ボンボンボンと連続する爆発音にデミワイバーンの体が揺れる……って効いてないのかよ。
固い外皮いにノーダメージって、あれ、強化マダラニシキヘビと同じで振動防御で体を防御してるんだ。
うっとうしそうにデミワイバーンが周囲を見回す。
大講堂で悲鳴が上がるが、僕の所為じゃないよね。
ギョワーと周囲にでたらめにヒートクラッシャーブレスを見舞っていく。
また大聖堂内から悲鳴が上がる。
投げ矢は、もう一工夫が必要みたいだ。
やっぱ、手榴弾みたいに飛び散る破片が刃物のように切り裂くようにしないとダメなのか。
まあ時間稼ぎだ。もう少し頑張るか。
よく観察すると頭から首、それと翼が振動防御されてない。
強化マダラニシキヘビもそうだったけど、頭を振動させると、視界や感覚に異常があるのかもしれない。
飛翔中に翼が振動してたら風を捉えられず、飛べるはずないか。
納得だ。
<ハイスピードフローコントロール>
今度も三本のエクスプロージョンボウを見舞う。
それと一工夫。真似て作成した鉄菱を一五個ほども一緒にだ。
これだけ操れるのも並列思考のおかげだ。
デミワイバーンに向かって三方向から顔や首に翼へとめがけて、エクスプロージョンボウと鉄菱がかなりの速度で向かって行く。
顔を振り回しながらギャワーと、ヒートクラッシャーブレスが放たれる。
エクスプロージョンボウとかなりの鉄菱が撃ち落されたけど数個の鉄菱がデミワイバーンの顔、首、翼に当たる。…が、当たった瞬間に振動防御で防がれてしまった。
デミワイバーンが怒りにギャワーーーと、更なるヒートクラッシャーブレスを周囲にまき散らす。
少しは効いたような気もしないでもない。ほとんどノーダメージだ。
目にでもあたってくれればよかったんだけど。
それとデミワイバーンは僕より索敵は苦手なことは確かなようだ。
<ハイスピードフローコントロール>
今度も三本のエクスプロージョンボウと鉄菱六個のセットだ。
今度はデミワイバーンの顔だけに向かって三方向からエクスプロージョンボウと鉄菱が突き刺さっていく。
今度も顔を振り回しながらギャワーと、ヒートクラッシャーブレスが放たれる。
二個の鉄菱がデミワイバーンの顔に当たるが、またも当たった瞬間だけ振動防御で防がれてしまった。
そう、今度は頭だけ振動防御をしていた。
デミワイバーンが更に怒り、ギャワーーーと、ヒートクラッシャーブレスをあたり一面にまき散らす。
いらだったように大講堂の壁面にもだ。
こうなったら仕方がない。チョットだけ、そうチョットだけ…ムフフ。
もうチョットだけ頑張っちゃおうか。
あっ、念のため制服のブレザーはアイテムボックスに仕舞って、胸当てやヘッドギアなどを身に付ける。
黒銀槍を出して魔法力を目いっぱい注ぎ込む。
ヒート高周波ブレードとなった黒銀槍を、そして隠形・情報操作の効果を再確認。
<レビュテーション>
レーダーで位置を決定……ムズイ……よし、……いや、慎重に……。
<テレポート>
フラッと揺れた。エレベーターで体が浮いたような、チョット気持ち悪さだ。
ヤッパ、テレポートで目標の無い場所に飛ぶのは難しい。
発動していたレビュテーションも一瞬効果が消えるというより、新たな場所で発動するまでのラグタイムがあることにも慣れない。
それでもデミワイバーンの上空三〇メルほどの位置で、目標より横にチョットズレた程度と誤差の範疇だ。
<イリュージョン>
念のため雨模様をまとって、視界もごまかす。
デミワイバーンは再度大講堂に取りつかんとしている。
目標は……首の付け根から上で一番弱そうな個所は……。
そうなると一番動かなそうな場所で狙い易そうなところか。
さらに腕が届かなそうな個所となると一か所か。
あ、あそこか。
<フライ>
魔法を切り替える。
風魔法のレベル8、フライⅡを個人魔法化して、練習してやっとうまく飛べるようになった魔法だ。
ちなみにレベル6のフライⅠはさすがに遅く論外だ。
フライⅡでそれなりの速度になったけど、徐々に加速してだ。そして速度を出すと小回りが利かなかった。
<ハイスピードフローコントロール>…<ハイスピードフローコントロール>
今度も三本のエクスプロージョンボウに鉄菱六個をデミワイバーンの顔めがけて見舞う。
何処を狙おうか。
翼竜のような細長い頭は固そうだし、急所がわかりにくい。ましてや良く動く。
そして狙いを定めて突貫する。
並列思考を目いっぱい使用しているが脳から汗が出そうだ。
デミワイバーンは正面から襲い掛かるエクスプロージョンボウと鉄菱に、ギャワーとヒートクラッシャーブレスで迎え撃つ。
目立つように真正面から突っ込ませた攻撃に意識がそれた。
心の中でオリャーッと叫びながら、左の肩甲骨と背骨の隙間に黒銀槍を突き立てる。そう、翼の付け根で、心臓の裏側だ。
ギンと金属質の手ごたえの後に、ズブリと黒銀槍がデミワイバーンの皮膚にめり込む。が、あまり入り込んでいいかない。
それでも魔法力を込めるともう少しだけ入り込む。
ギョワーーー。
熱も発する黒銀槍にさすがのデミワイバーンも痛みに鳴き叫ぶ。
体を大きく揺すり、僕を弾き飛ばそうとする。
必死で黒銀槍につかまって振り払われるのに耐えていると、大講堂の壁が目の前に迫ってきた。
やべぇ、背中ごと僕を押しつぶそうってことか。
<テレポート>
ボコッ押しつぶされる感覚の中、何とか<テレポート>は成功したようだ。
飛んだ先は先ほどの樹の陰。どうやらとっさに安全地帯と思ったのがこの場所だったようだ。
アテテっ、左の背中が痛い。
呼吸すると胸に激痛が走る。
肋骨のどれかが折れたのかもしれない。少なくともヒビは入っているだろう。
<メガリライブセル>
僕のできる光魔法のレベル8、一般的には細胞復活魔法の最高峰とされるものだ。
<ハイパーヒーリング>
身体魔法のレベル5、老廃物排出、解毒、細胞治癒などこれも治癒効果が高い。
鈍痛が残るが体は動かせそうだ。
<メガリライブセル><ハイパーヒーリング>
再度魔法を掛けると随分楽になった。
デミワイバーンに目を向けると。
大講堂の壁に新たな穴が開いてるけど、デミワイバーンも自爆したようで黒銀槍が深く突き刺さって、のたうち回っている。
翼の付け根に刺さった黒銀槍でうまく跳べないようだ。
ざまあだ。
<フライ>で樹の枝に登って――あてっと鈍痛――、デミワイバーンを観察する。
<メガリライブセル><ハイパーヒーリング>
もう一度治療する。
デミワイバーンも起き上がって、いらだったようにあたりにヒートクラッシャーブレスを吐きまくる。
……あっと。
慌てて樹の後ろに隠れたが、ヒートクラッシャーブレスが僕が隠れている樹の枝に直撃して、枝が数本飛び散った。
あぶっねー。
そーっと覗いてみたら、
<テレポート>
気付かれたのかヒートクラッシャーブレスの再度の直撃に別の樹に飛び移った。
<メガリライブセル><ハイパーヒーリング>
<メガリライブセル><ハイパーヒーリング>
これでほとんど痛みはなくなった。
けど、急激な回復に腹が減った。
アイテムボックスのバナナを頬張って、ルルド水で流し込むと一段落ついた。
ちなみにバナナは狩りの時の保存食、食料だ。
ごくまれだけど、城壁の外に魔法の練習に行った時も小腹が減ると食べることもあるし、夜の練習中の夜食である。
他には干し肉にビスケット、リンゴなんかも入っている。もちろん塩に胡椒などの調味料もだ。
果物や干し肉は氷温にして、経過時間遅延の魔法を掛けているから随分持つ。
肉を長時間保存するときにも同様のことを行うか、凍らせるかだ。
隠形や情報操作を高め、アイテムボックスから取り出した小太刀の銀蒼輝とショートスピアを持つ。
<ハイスピードフローコントロール>…<ハイスピードフローコントロール>
精神を集中して今度は四本のエクスプロージョンボウに鉄菱を一〇個ほどをデミワイバーンの顔めがけて見舞う。
これでエクスプロージョンボウは打ち止めだ。
そしてタイミングを見計らってショートスピアを足元に投げつける。
目の前に迫るエクスプロージョンボウをデミワイバーンがヒートクラッシャーブレスで迎え撃つ。
そして頭のいいデミワイバーンは顔を上げて背中に意識を向ける。
そして足に迫るショートスピアに気付き、瞬時に足を上げて避けて、ショートスピアを踏みつける。
ギャワー、と雄たけびのようなヒートクラッシャーブレスを空に向けて放つと、また大聖堂に向かってヒートクラッシャーブレスを放つ。
大聖堂から何度目かだろうか、盛大な悲鳴が上がる。
ミクちゃんのことだから、それとライカちゃんにクラスのみんなもシッカリと逃げてくれてるよね。まあ、三バカはどうでもいいけど。
そして地面にもいらだったようにヒートクラッシャーブレスを放つ。
周囲を警戒しているのはよくわかる。
今度はもう一度ショートスピアを取り出し、魔獣の肉塊を絡ませて魔法力を込める。
<ハイスピードフローコントロール>
ショートスピアを大きく迂回させてから、大聖堂の壁沿いに地を這わせるようにデミワイバーンに向かわせる。
その間に<フライ>でデミワイバーンの真上に舞い上がる。
デコイのショートスピアのコントロールを切らないようにするためテレポートは使えない。
――テレポートすると一瞬で魔法のつながりが切れてしまう。再度つなげるのは不可能だ。
小太刀の銀蒼輝に魔法力を流し、背中に再度の突貫だ。
高速版となった並列思考でも頭が焼ききれそうだ。
胸と背中が痛かったけど、アドレナリンが体中を駆け巡っているのか痛みが消えている。
デミワイバーンがヒートクラッシャーブレスが肉塊付きのショートスピアを焼き払う。
それと同時に僕の銀蒼輝がギンと金属音とともに、デミワイバーンの背中に突き刺さる。
さすがに黒銀槍より切れ味がいい。
そして、止めだ。
<ボルテックスⅣ>
火と錬金の複合魔法の電撃を銀蒼輝に流し込む。それも魔法力マシマシでだ。
デミワイバーンの体がビリビリと痙攣したと思ったら、僕もビリリと感電した。
自分の魔法には影響を受けないんじゃないのかよ。と文句を脳内で喚いてしまう。
土砂降りの所為だろうけど、幸いなことにビリリも我慢できないほどじゃない。
やったかと思ったら、デミワイバーンが頭をもたげてくる。
<ボルテックスⅣ>
<ボルテックスⅣ>
<ボルテックスⅣ>
これでもかと思って、立て続けに四度の電撃にさすがにデミワイバーンも動く気配が無い。
デミワイバーンの動きが止まって、グッタリと疲労感一二〇%だ。
デミワイバーンの背中んへたりこんでしまった。
ここで、寝たら風どころか、肺炎ものだろう。
また鈍痛が復活した。
何やら魔法学校に戦闘部隊が到着したようだ。
痛くてだるい体に鞭打って、急いで黒銀槍をデミワイバーンのから引き抜いて回収する。
デミワイバーンを<ハイコールド>…<ハイコールド>…<ハイコールド>…<ハイコールド>でアイテムボックスに放り込む。
鳥魔獣とドラゴンのハーフのような魔獣だからか、見た目より随分軽い。二五〇キロ程度か。
時空魔法のレベル8、アイテムボックスVの制限、五四〇〇個、一〇二四〇キロ、三二メル四方のマシマシからすると、まだまだユトリだ。
銀蒼輝と黒銀槍は魔法力を流して、デミワイバーンの血糊や雨を振り払ってからアイテムボックスに収納する。
思ったより戦闘部隊が駆けつけてくるのが早い。
壊れたショートスピアはもういいや、と放置だ。
レーダーを使って人気のないところを見つけ、
<テレポート>
大講堂内の隅に転移する。
制服のブレザーも取り出して、
<ホーリークリーン><ホットブリーズ>
汚れを落とし、濡れた服を乾かそうとするが乾きが良くない。
あ、これがあったかとすと<ドライ>を掛けると気分が晴れた。
防具を仕舞い、ルルドキャンディーをふた三つ口に放り込み、バナナも頬張ると人心地ついた。
<メガリライブセル><ハイパーヒーリング>
<メガリライブセル><ハイパーヒーリング>
鈍痛もかなり引いてくれた。
どうやらミクちゃんは第三小講堂に移動したみたいだ。
まだ多くの生徒はパニック状態のようで、大講堂にも多くの生徒が残っている。
もちろん一般市民も同様な状態で収拾がついていない。
僕は冷えたからだで小用をたしてから、何食わぬ顔をして第三講堂に入って、
「ただいま」
ミクちゃんの耳にそっと囁いた。
「危ない真似はしないでね」
ホッペをプックリとふくらましたミクちゃんに怒られてしまった。
「でも無事でよかった」
その後に安堵にホッとほころんだ笑顔が可愛くて、チョットドキリとしたのは内緒のことだ。
どうやら戦闘部隊は警備兵と自警団の混成部隊のようで、先生たちと何やら激しく言葉を交わしているけど、まあ、僕とは無関係なことだ。
僕は講堂の椅子で眠ることにした。
<メガリライブセル><ハイパーヒーリング>
おやすみなさい。
近くに座る一班のみんな、
「よくこの非常時にニャ」
「ええ、平然と」
半猫人のパルマちゃんに、半兎人のビットちゃんが呆れかえる。
「鈍感というか、考え無し。まあ、よくいえば正義感じゃないわよね。でも何でこんな人が?」
「ルードちゃん、何ブツブツ言ってるニャ?」
エルフのルードちゃんは呆れを超えているのか、ベクトルが変な方向に向いている。言っているいることが支離滅裂だ。
「セージちゃんはそんなことはありません!」
「そうですよ。何かあるといつも助けてくれますし、頼りになりますから」
「まあ、魔法では頼りになっるっていうか…、でも、変よね」
「考え無しって方がニャ…」
「これだからな」
「…そ、そうですね」
「多分ですけど、みんなを心配して大講堂にも最後まで残っていたし」
「そうですよねー」
「やじうまじゃなかったのかニャ」
「…なにもないところに、もめ事起こしそうですし」
「ウチも残って見てればよかった…」
「「……」」
辛辣なパルマちゃんとビットちゃんに、ミクちゃんとライカちゃんが黙り込む。
ルードちゃんだけは、なんだか変なベクトルで微妙にずれていて、それと熱のこもったような変な視線をセージに向けていた。
「ねえ、セージって濡れてないよね」
「ルードちゃんも大丈夫ニャ?」
呆れられたり、すったもんだは僕の知らない話だ。
ミクちゃんやライカちゃんが一生懸命にフォローしたのことも。
まあ、結果は……ともかくも。
それとルードちゃんがなんか変です。
◇ ◇ ◇
ルドルフが率いる第五小隊とローボル率いる第六小隊がオーラン魔法学校に到着した。
校内の大講堂には焼け焦げた大きな穴が開き、その横には戦闘跡と思われる折れたショートスピア二本と魔獣に焼け焦げた肉が落ちていた。
それとデミワイバーンと思われる青みがかった血が、大講堂の壁から垂れていた。
雨の向きが良かったから残っていたけど、見る間に溶けて流れていく。
デミワイバーンにショートスピアで立ち向かったっていうのか?
肉はおとりか? それにしては何か変だ。
どうやって傷を負わせた?
意味不明、理解不能だった。
俺がローボルを見ると、ローボルも意味不明のようで首を振る。
「果敢に挑んで、食われたんじゃ…」
まあ、普通じゃそんなとこだろうが、口にするローボルも納得してないのは一目瞭然だ。
目の前の生徒を襲っておいて、大講堂に踏み込んだ形跡がない。
そう、縦に伸びる焼け焦げた穴の大きさが、デミワイバーンの頭が入るかもしれないが、狭すぎるんだ。
他にも無秩序に焦げた穴が幾つも開き、亀裂が入って、焦げてない細かな穴も開いてはいるが、デミワイバーンにしたらどれものぞき穴程度だ。
ただ恐怖を与えて楽しんだってことか。
警備隊と戦ったのなら全員を連れ去るのは無理だし、雨の中だけど遠くからデミワイバーンを確認して駆けつけたんだ。
逃げた気配も無いし、怪我人もいない。
中途半端な戦闘跡を残して忽然と消えた。
第五・第六小隊のルドルフとローボルが中心になって学校内を訊ねまわった。
「戦闘があったようですが、怪我をした人はいませんか」
「十人ほどいます」
「治療を受けた生徒は十二人です」
「デミワイバーンの攻撃で、ですか。
重体なのでしょうか」
「いいえ、パニックで転んで怪我をした生徒だけです」
「二人が骨折しましたが、全て治療済みです。
あとはパニックに陥ったり、怖がって動けなかった生徒がたくさんいましたので、これからの心のケアが大変かと思います」
「直接戦闘をされたんじゃないんですか?」
「大講堂が破壊されて、避難しただけです。
警備隊の方が戦ったのでは?」
「ええ、大きな爆発音がして驚きました」
「いいえ、我々は今到着したばかりです」
「それじゃあ、別の警備隊の方々が倒されたんじゃありませんか」
「ええ、突然静かになりましたから」
「ええ、そう思いたいですが」
別の先生に聞いても答えは似たようなものだった。
「デミワイバーンはどこに行きましたか、どうなりましたか」
「さあ?」
「警備隊が退治されたのではないのですか」
「デミワイバーンだったのですね。ワイバーンと区別がつかないので」
「もう大丈夫なのでしょうか?」
外ではまだ戦闘中。
あまり時間も掛けているわけにもいかない。
腑に落ちないが、別の部隊が退治したと思うことにして戦闘に戻った。