62. 魔法学校入学
小康状態だったボティス密林の魔獣は、また徐々に増加していった。
そろそろ危険域に達しそうなほどだ。
オーラン市では、注意警報が発せられた。
ヴェネチアン国エルドリッジ市のシュナイゲール伯父様からは、エルガさんに帰還要請もあったけど、エルガさんは知らんぷりだ。
なんでも跡継ぎの長子のロナルディア(ロナーさん)の結婚が夏に有るんだって、その件もあって帰って来いってことだったんだけど、知らんぷりだった。
いいのかなー。
◇ ◇ ◇
合格通知が届いたのち、パパとママと学校の話し合いで、僕の意向通りで決着したそうだ。
ママ大好き。
飛び級って話も出たそうだけど、それはお断りした。
僕は水蒸気爆発を補助したショートスピアをヒントに、ショートスピアを更に短くした投げ矢を作った。
それに水蒸気爆発を付与して、何度か<テレポート>でオーラン市の外――あまり遠くには行かず――に抜け出して、試射してみた。
結構使えるが、今一歩威力が物足らないような気もする。
同じ魔法力なら投げ矢を加速した方が威力が高そうな気もしないでもない。
それに使いどころが難しい。的を外した時のフォローも大変だ。
練習が必要だし、工夫をすれば使用できないことも無さそうだってことだ。
あと工夫して個人魔法とすることもできそうな気がした。
ノルンバック・ウインダムス魔獣対策魔道具研究所(N・W魔研)にも新たな戦力が加入した。
なんと、魔獣監視で壊滅状態になったブルーゲイルの生存者の二人が入社した。
女性の方がデトナーさんで、チョット冷めた感じのする美人。なんと小人族とのハーフだそうだ。ただしそれほど小柄ではないから、ぱっと見は普通の人族でも通じる。
隠形や索敵が得意で、忍者みたいな人だ。感覚強化っていう特殊スキルも持っていて、嗅覚と聴覚の強化ができるんだって。
あれ、ドワーフだからって錬金や鍛冶が得意って訳じゃないそうだ。
男性の方がアランさんで、優男で髭にこだわりがある魅力的なおじさんだ。
肉体強化や剛腕も持ってるんだけど頭脳派前衛っていえばいいのか魔法も多彩だ。
採用の決め手になったのが、アランさんが錬金と付与を持っていたことだ。錬金と付与のレベルは低いって言ってたけど、何とかなるでしょう。
二人とも冒険者を続けようとしたが、二人ではキツイ。
これから仲間を探すのもと試行錯誤していたところをボランドリーさんがN・W魔研を勧めたのがきっかけだ。
女性の方がデトナーさんがアラフォーで、アランさんはもう少々上ということもあって、落ち着くことを考え決心したそうだ。
僕のことは二人とも多少は知っていて、作業中の錬金や付与の技術に驚かれた。
教育係がホーホリー夫妻で、しばらくは四人、それにリエッタさんやレイベさんが加わって行動してもらうそうだ。
農地とララ草原との境界に当たる場所には長い分厚く高い土壁が築かれ、兵舎も建てられた。
土壁の上には様々な魔導砲が設置されスタンピードを迎え撃つ準備も着々と進んでいる。
魔充電装置に吸魔アンテナも用意されているのは言うまでもない。
オーラン市との連絡に近距離電話も兵舎に設置されていて、いつでも市役所とオーラン市の兵舎、そして冒険者ギルドに連絡が行なえるようになっている。
オーラン市の城壁の上にも魔導砲が追加配備されている。
その分、市内の警備が手薄になって、治安が悪くなりそうなところは。自警団が見まわるようになった。
それとここ最近ルルドキャンディーの量産が続いている。
定期のボティス密林の巡回以外でも、幾つものフェイクバッグまで使って何度かルルドの泉に水汲みに行くほどだ。
市からの大量購入の依頼だって。
もう、数千個を作成したみたいだ。
お金がたまるけど、作るの飽きてきちゃった。どうしよう。
まあ、ルルドキャンディーの製造の効率化の個人魔法も作ってずいぶん楽になったし、個人魔法の作成と練習もチョコチョコやっちゃーいるんだけど。
エルガさんは超小型の近距離電話の試作機をいよいよ設計し始めた。
それと同時というわけではないが、マジカルボルテックスの核魔石・熱電魔石・充魔電石・
伝導魔石の形跡もほぼ完了して、そちらの設計や試作も開始したそうだ。
ウインダムス総合商社には足繁く通って、随分と相談に乗ってもらったみたいだ。
魔電装置の中核部分の製造は、ノーフォーク湾の周辺諸国では伯父様のいる外航貿易国家ヴェネチアンがほぼ独占している極秘技術だ。
もちろんウインダムス総合商社にしても自社での製造は行ていないから、核心的なことは知らないそうだから、エルガさんの試行錯誤の参考意見でってことだ。
エルガさんの務めていたヴェネチアン国の魔法研究所でも、担当は基本魔法の解析と効率化だった。
そんな訳でマジカルボルテックスについての知識はなかったので、知識の漏洩にも当たらなかったのは幸いだったけど、その分苦労したそうだ。
持ち前のスキルの“発想力”が大いに役立ったってことだ。
「ねえ、ヴェネチアン国の独占技術じゃなくなっちゃうけど良いの?」
「より良いものを作るのが技術者よ」
エルガさんは僕の心配もなんのそのだった。
◇ ◇ ◇
モンスタースタンピードも間近なようで、準備が着々と進められている。
他市からの応援の兵の先遣部隊や、見知らぬ冒険者がオーラン市でよく見かけるようになった。
顔を出していた冒険者ギルドで、また絡まれるようになったので、顔を出す頻度を減らした。
◇ ◇ ◇
小型マジカルフォンの精密小型の電増魔石の試作を何度も試みたそうだが、思わしくないそうだ。
リエッタさんにも頼んでみたけど魔法力やイメージ不足でうまくできないそうなんで、ヘルプが僕に回ってきたってことだ。
まずはどんなものかじっくりと訊いてみた。
聞けば聞くほどトランジスターと同様の仕組みだ。それもNPN型やPNP型じゃなくって電界効果型だ。
更に確認すると、ファンタジー部品か。
なんだか魔法力で電流の流れをせき止めるみたい。
まずは魔獣石を浄化してただの魔石に。
それを凝縮して、四角く小さくカットする。
渡されたのは大きな魔獣石だったから六個ほど取れた。
これは簡単だ。
合計四つの魔石から二〇個ができた。
カットした四角い魔石の上部に電極となるように細いミスリル導体を差し込む。
小さいから精神集中が必要だ。
電増魔石の構造は以下になる。
―― 中央に平たい電導層
―― 電導層に周囲に絶縁層
―― 絶縁層の平たい上部に電極層
流れる魔法力交じりの電流を、電極層に魔法力交じりの電圧を掛けて、電導層の魔法力交じりの電流を遮断する。
魔法型の電解効果型トランジスタだ。
電増魔石恐るべし。
錬金魔法の<変性>で、一気に電導層・絶縁層・電極層を作成する。
電導層の左右と上部の電極層にミスリル金線を接続するにも集中力が必要だ。
最後のイメージ付与がまたも大変だ。
上部の電極線に電圧を掛けるとシリコンウエハーの電流が停止するように、イメージ付与を行うことによって魔法力込みの電圧干渉によって、魔法力込みの電流のスイッチング制御ご行えるようになる。
「これが基本のテストだよ」とエルガさんに渡された試験機で、導通試験に、電流が止まるかの試験をして完成だ。
二〇個中、八個が動作テストに合格した。
本格的な動作はエルガさんに渡してみなくちゃわからない。
歩留まりも悪そうな気がする。
二.五個一、今度やれば二個一くらいには歩留まりを上げられそうな気がする。
とにかく作ってみたってところだ。
◇ ◇ ◇
一六月にはマリオン上級魔法学校を卒業したブルン兄が帰宅し、しばらくしてオルジ兄も帰宅した。
久しぶりに家族全員でにぎやかな生活を味わった。
魔物の増加も顕著で、ホイポイ・マスターのメモリーパッケージ交換も時たま結構な数の魔獣に遭遇する。
メモリーパッケージ内のデータ解析の結果判明したことだが、冒険者を救出に僕が初めてボティス密林に入った時の三倍程度に増えている。
魔獣氾濫になるかって言われれば、何とも言えない。
魔素の濃度も二倍近くになっているような気がする。僕の感覚だから定かじゃないけど。
なんでもこの程度の状態から一気に魔素濃度が上がって膨張して、モンスタースタンピードが発生するそうだ。
相変わらず小さな地震は続いたまま、時たまやや大きめの地震が発生して不気味さを増している。
オーラン市では、注意警報から警戒警報へと切り替えられた。
対魔獣用に魔導砲や武器の生産があちらこちらで急ピッチで行われている。
オーラン・ノルンバック船運社でも、魔導砲や武器、それに各社魔導車を購入してきては市(最終的には警備隊)へ納入している。
僕の電界効果型トランジスタ(小型精密電増魔石)作りも続いている。
けっこう良いところなんだそうだけど、電気と魔法力のバランスが悪いんだそうだ。
実際に何度も実験に付き合ってるから、理解はしている。
電流の流れが悪かったり、電流を止める必要電圧が高かったりと原因はさまざまだけど製品のばらつきも問題なようだ。
更に「希望はもうチョット小型で省電力、省魔法力の物が望ましいんだよ」だそうだ。無理だって、それより各部品の均一化だと思うんだけど。
◇ ◇ ◇
初詣でを済ませると、ブルン兄は早々に、最低一〇年は修行をして来いとのパパのお達しで、まあ、卒業前に決まっていたことだけど。
ウインダムス総合商社に入社、寮に入って社会人として独立した。
冬休みが過ぎ、オルジ兄がマリオン上級魔法学校に戻っていった。
僕は個人魔法を使いメガホッグやレッドキャップベアなどを狩り――無理はせずに周囲に魔獣がいない単独行動中を――“総合が58”となった。
◇ ◇ ◇
オケアノス暦三〇六〇年。
一月一三日赤曜日がオーラン魔法学校の始業式で、翌一四日の青曜日が入学式だ。
ミリア姉とヒーナ先生と一緒に登校。
すべての学校ではブレザーのような上着だけだけど制服があるからズボンは自由だ。
バッグとブレザーを見ればどこの生徒かすぐにわかる仕組みだ。
ちなみにミクちゃんからもらった水筒に付けていた“ストラップ付の丸顔にダークブルー髪の手作りアクセサリー”は、バッグに付けなおした。
校舎の前にはランク分けクラス分け表が張り出されていて、担任は試験官で事情を一番知っているルイーズ先生となった。
ルイーズ先生が名前を確認しながら生徒を確認する。
ランクメイトは同じ判定通知をもらった生徒同士でだが、親同士の良好な関係やいろいろな活動の関係で、ある程度の希望はかなえられる。
ミクちゃんとライカちゃんと一緒になれたということだ。
あ、緑の髪のエルフのルードちゃんと、真っ白い兎耳ちゃんに猫耳ちゃんもいる。
それと俺様も一緒とは、がっかりだ。
全員揃ったところで入学式の大講堂に移動した。
僕は厳粛な――要はつまらなくて眠い――入学式に出席する。
歓迎の式辞で校長先生の挨拶。
生徒代表で僕が校長先生から学生証の授与が行われる。
生徒全員の前で魔法力を込めて、個人登録を行う。
要は冒険者ギルドカードと一緒だ。
でも、全校生徒の衆目の集まる中って、緊張するし、照れ臭い。
もちろん式場に入る前に、こんなことがありますってことは、前もってルイーズ先生から聞かされていた。
先生および職員紹介。
一年担当の先生は全員紹介され、他学年の先生は壇上で並んで顔見せだけだ。
事務員や食堂関係は代表者だけと、流石マンモス校だけあって、先生と職員が多いってことだけは理解した。
生徒会長の歓迎の挨拶。
生徒会紹介で、なんとミリア姉が副会長で、ロビンちゃんが会計だった。
なんかどや顔で、僕を見てきた。
そうして、晴れてオーラン市立初等魔法教育施設魔法学校に入学した。…こんなに長い名前だったなんてビックリ。
通称、オーラン魔法学校だ。
ルイーズ先生に教室に案内される。
明日は学校案内などがあって、正式な授業は明後日から始まるそうだ。
なんか、ひそひそとうるさいクラスだな。
僕以外に魔法付与された学生証が配布され個人登録を行う。
それで入学式は全て終了、解散だ。
僕はルイーズ先生に連れられ、校長室を訪問。
「自己裁量の課外活動を許可します」
改めて、ノルンバック・ウインダムス魔獣対策魔道具研究所(N・W魔研)の活動許可を、ありがたく頂戴した。…ハハー。なんちゃって。
まあ、有る程度の自宅学習は許されているので、特に問題となることもない。
自宅の手伝いで、たまに休む人もいるのでそういった扱いと一緒だ。
改まってこんな仰々しいことをしないでもいいのに。
まあ、入学試験で頑張ったかい――決してやり過ぎじゃない――があったっていうもんだ。
◇ ◇ ◇
記憶を取り戻して、一年半チョットの間、鍛えてきた結果だ。
----------------------------------------------------
【セージスタ・ノルンバック】
種族:人族
性別:男
年齢:6
【基礎能力】
総合:58
体力:94
魔法:330
【魔法スキル】
魔法核:8 魔法回路:8
生活魔法:4 火魔法:8 水魔法:8 土魔法:8 風魔法:8 光魔法:8 闇魔法:8 時空魔法:8 身体魔法:7 錬金魔法:8 付与魔法:8 補助魔法:8
【体技スキル】
剣技:5 短剣:3 刀:5 水泳:2 槍技:6 刺突:4 投てき:3 体術:3
【特殊スキル】
鑑定:3 看破:4 魔力眼:4 情報操作:3 記憶強化:4 速読:3 隠形:3 魔素感知:3 空間認識:4 並列思考:3
【耐性スキル】
魔法:6 幻惑:3 全毒:3 斬撃:2 打撃:3 刺突:2
【成長スキル】
基礎能力経験値2.14倍 スキル経験値2.14倍
----------------------------------------------------