61. 魔法学校入試
一三月二四日の黒曜日、オーラン魔法学校の入学資格試験、要は魔法有無の確認が実施される。
身長は一一九センチメルと、目標の一二〇センチメルに一センチメル足りなかった。
チョット悔しい。
送ってくれた両親や護衛と別れたり、逞しく一人でやってきたり、お兄ちゃんお姉ちゃんに付き添われている子もいる。村から団体でやってきたりと正門は大賑わいだ。
名前と性別、年齢を確認される。
エルフだろうか、耳の長い子供がいる。髪は緑だ。
獣人もパラパラいるが、お約束の“魔法が苦手”ってことのようで、街中で見かける獣人より少ない気がする。
死亡率の高いバルハライドでは子供が多い。
僕やミクちゃんが四人兄弟で、ライカちゃんが三人兄弟だけど少ない方だ。
五人や六人兄弟が結構いる。
村からの付き添いもいるので、控室も用意されているので、いったい帰宅する人、知り合いを見つけてだべる人など様々だ。
それらの人と別れて、まずは筆記試験だ。
学習のレベルが違うために、問題は概ね四段階に分かれている。……ところがそんなこととは知らずにセージは全力で解いた。
お約束の学力別のクラス分けで、下の方になるのは嫌だったからだ。
一、カタカナに似た表音文字が書け、一桁の足し算や引き算が行なえる。
これは市内の学習塾だけでなく、村でも初歩の学習として行われているので、まったくできない人はいないはずだ。
最低条件だ。これがある程度できないと、魔法の才能があっても学習不可とされ、一般学校に行くことになる。
二、漢字の元になった金文に似た表意文字が少々読み書きができ、二桁の足し算や引き算が行なえる。
これが解けると、ややできると判断される。教育熱心な村が大体このレベルだ。
三、表意文字がある程度読み書きができ、一桁の掛け算や割り算が行なえる。
一年後半から二年生程度の教育を受けているとみなされる。
四、表意文字の文章問題が読み解け、チョットした図形や二桁の掛け算や割り算が行なえる。
高学年の教育を受けているとみなされる。
上記の四段階の他に学習の参考までに、チョットしたマリオン国のことに歴史、魔獣や薬草の事、三桁の掛け算や割り算なども問題として書かれている。
セージはチョット驚いたが、生活魔法の魔法陣や、魔法文字や魔法記号を問いかける問題も数問あった。
ただセージにしてみればあまりにも易しすぎる問題だった。
◇ ◇ ◇
実技試験の魔法の確認は、まずは自己申告で四種類に別れることになるのだが、村の子供たちは帰宅時間もあるので、魔法確認は優先して行われる。
その辺のことは学校側も、付き添いできた村長や村長代理、世話役の人たちも慣れたもんで、ボランティアとして声を掛け手伝ったりもする。
一、魔法がまだ使えないが、個人情報で魔法が取得できている。
個人情報の開示で確認するから、流れ作業でおこなわれる。
ここでは生活魔法だけのランクCと、属性魔法所持者のランクBに分けられる。
ちなみに魔法もできない、個人情報も開示したくないだと、入学不可だ。
二、生活魔法ができるが、個人情報を開示したくない。
生活魔法を見せて完了。扱いは生活魔法だけのランクCになる。
三、生活魔法ができ、かつ個人情報を開示する。
生活魔法を確認されたあと、一属性だとワンランク上のランクBだ。二属性以上だと優秀だとされランクAと認定される。
その他に魔法核と魔法回路のどちらかが“1”となっていても成長速度からランクBとみなされる。
四、属性魔法を放てる。
レベル1の魔法がある程度シッカリと放てるか、二種類以上の属性を練習レベルで放てばランクAとなる。
一属性を練習レベルで放てばランクBだ。
レベルが低ければランクCとなる。
そこで個人情報を開示して、ランクを上げることは可能だ。
“一”の個人情報を開示する人は、一般教室で行われる。
実際の魔法を放つ“二”、“三”、“四”は割り当てられた魔法練習場に分かれて並ぶ。
ちなみに個人情報を全部開示しないとしても、
【氏名】
種族:人族
性別:男または女
年齢:5または6
上記項目の開示は必須なので不正はできない。
それに、受付でもこれだけは開示しているし。
セージ・ミク・ライカは当然“四”で、第一大魔法練習場の観客席に並んだ時にはほとんど最後だった。
広さはテニスコート程度に観客性が付く。
“二”は教室風の魔法練習場で、“三”は第二大魔法練習場だ。
「学校の魔法練習場は魔石によって巨大なスフィアシールドで守られています。
魔法は注意して扱う必要があります。
魔法の練習は、このような安全対策を施された場所で行います」
試験官が丁寧に説明する。
先生総出の試験だけど、人で不足で冒険者ギルドの職員から応援が出ている。
見知った顔がそこここにいる。
「これからのランク分けが決まる試験ですから、きるだけ精いっぱいの魔法を放つようにしてください。
ただ、お約束です。決して無理はしないでください。
それと、止めて、と言われたら魔法はできるだけでいいですから、止めてくださいね」
三列に分かれて試験が進んでいく。
それぞれの列の試験官は公正を期すことで、最低で二人づつだ。
それと受験生確認に一人が加わった三人体制だ。
その他には、全体を総括する人が三人、観客席を含んだ会場整理で数人だ。
見てるとみんなしょぼい。魔法を放つのが遅い。それと、レベル1の魔法をキッチリと放てる子供がいない。……僕も子供だけど。
魔法核と魔法回路が“1”になりきってないんだと思う。
ミクちゃんは魔法核と魔法回路が“2”で、レベル2の幾つもの魔法をシッカリと放てるし、ライカちゃんだって得意な火と風魔法なら不安定ながらもレベル1を放てるようになっているい、錬金魔法も同様なレベルだ。
魔法力の体内循環を高めるのってチートなんだろうか。
魔法のやり直しもあるので結構時間が掛かる。
もっとうまくできたのに、とがっくり肩を落として、別室――個人情報の開示で――に移動する受験生もいる。
おお、やっと“サンド”をキッチリと魔法が放てる受験生が出た。相当精神を集中したのか、疲れたっぽい。
間違いなくランクAだ。試験官も感心している。
その後に数人の受験生がレベル1の魔法をキッチリと放った。
ただし、二つの魔法を放った受験生はいない。練習レベルも含めてだ。
村の子供の実技試験が終わったようで、試験官が一〇分ほどの一旦休憩だそうだ。
ほとんどの村の子供は、世話役と一緒に寮の確認――村の子供たちは週初めに寮に入って週末に村に帰るという通える生徒とは違う授業形態をとるためだ――やその他の手続きを行い村に帰る。
休憩を終わって試験再開。
八人がレベル1の魔法をそれなりに使えた。ヤッパリ村の受験生より優秀なようだ。
その内の一人は、小柄で真っ白い髪に兎耳の人族と兎族のハーフで半兎人だった。
その他にも、狐族、猫族などの純潔の獣人も見かけた、獣人に作用する魔素や魔法は身体魔法などの無属性が強いとされるが、例外的に魔法が上手い獣人もいる。
全体的には半獣人と獣人は班は良い程度に見受けられる。
ちなみに獣人と半獣人の見分け方は簡単で顔も含め、全身毛におおわれているのが獣人で、体毛が少なく、またはほとんど人のようだけど耳や尻尾が獣人型が半獣人だ。
中には全身毛におおわれている半獣人もいるし、体毛の薄い獣人も居るから正確には難しい場合もあるけど、それは何でも一緒だ。
「そろそろ僕たちも観客席から下に降りようか」って、言った時。
「やってやるぜ!」
と生意気そうな顔の男の子から、挑むような声が聞こえた。
「オリャー…<サンド>」
やや心もとないけど“サンド”が放たれる。
「もういっちょう、と今度は<ファイアー>」
かすかに火が出て、オッシャー、と本人は満足そうだ。
まるで、やんちゃな男の子だ。
初めての二属性の発動に、周囲も喝采している。
「今年は才能のある生徒が多そうです」
そんな声も聞こえてきた。
僕どうしよう。
ミクちゃんも困ったちゃんで、思案中だ。
練習場に並ぶと、朝見かけたエルフの子だ。
「<ビッグウォーター>」
気負いのない声で魔法名を唱え、左手に綺麗な大水球を出現させた。
「<ハイウインド>」
右手に風を起こし、大水球を飛ばして的を撃つ。
みんなが息を飲む。
ともにレベル2の魔法で、複合魔法として放ったんだ。
上級魔法学校の能力と技能、冒険者として活動が許されるにはまだ足りないかなってところだ。
先生の反応もものすごく、周囲もざわつく。
「よくやりました。最高です」
試験官の先生が絶賛するが、エルフの子は冴えない表情だ。
「何かしましたか?」
先生がエルフのこの態度に問いかける。
「…えー、みんなが…」
「皆さんが、どうしました?」
「みんなが…あまりにも魔法が下手なのでガッカリしています」
シーンと静まり返っているから、声が良く通るんだ。
周囲だけでなく試験官も困惑気味だ。
あっ、二属性発動の子が、エルフの子をにらみつけ、「俺はお前なんかにまけねーぞ」て騒ぎ出したら、係の人に連れ出された。
「……これからあなたのようにレベル2の魔法ができる方が現れるかもしれないじゃないですか、それに上級生にはもっと上手な生徒もいますよ」
「…上級生…そうですか」
気を問い直した試験官がエルフの子にやさしく話しかけるも、エルフの子が更に落胆する。
「ルードティリア・ナルア・フィフティーナちゃんだっけ、あなたの悩みは直ぐに解消しますよ」
会話に割り込んだのは冒険者ギルドの事務方のお姉さんだ。…決しておばさんじゃない。
ぼ、僕の方を見ないでください。あっ、ウインクまでして。
その視線を追ったように、エルフの子が僕をにらんでくる。
こりゃ、詰んだな。
「セージスタ・ノルンバック君ね、もう個人情報は収納していいわよ」
見せるのはフルネームと種族と年齢だけだ。
「はい」
「それでは、思いっきり、できればあの的を壊してもいいですから得意な魔法を放ってください。
続けて放てるのなら二発放っても構いません。
とにかく精いっぱいの魔法でお願いします」
冒険者ギルドのお姉さん、ニヨニヨ笑ってないで、…それ、こぶしを握り締めて僕にコッソリと見せて、ヤレッてサインですか。
あー、エルフの子もにらむようなガン見だ。
全然頑張る気が起きないけど、こうなりゃ自棄だ。
まあ、学校に通いながら冒険者をするから、認めてもらうから頑張るか? あれ、その必要ってあるのかな?
めんどくさいからアイテムボックスができることまでは教えるつもりだけど。
「いきますよ<ファイアーキャノン><ストーンショット>」
火球と石が飛び、二つの的を一瞬で粉々に破壊する。
こけれだけやっておけばアイテムボックスも問題ないだろうってことだ。
試験官だけじゃなく、…エルフの子も……だけじゃなくって、総括する三人も…みんなが、 みんな、ビックリ仰天、呆然とする。
冒険者ギルドのおば…、もとい、お姉さんもチョットビックリ気味。
ミクちゃん、ライカちゃん、ハイタッチして、何自分のことのように胸を張ってるんですか。…ささやかなむ…ゲフンゲフン。
「…あのー、試験官、この場合どのようにレベル付けをすればよろしいのでしょか。
火魔法、風魔法、土魔法を“2”、え、土魔法はストーンですから“3”ですか。
それとも複合魔法レベルの“4”だはなく“5”、えー、威力からするとレベル6のような…。
それと、同時発動は、どのように考慮すればよろしいのですか」
複合魔法や三魔法以上の合成魔法は、同名・同種で魔法文字の入り方でレベルの違うものがある。図書館で調べて知ったことだ。
ストーンショットは通常レベル4の複合魔法だが、レベル5や6の複合魔法も存在する。
同様にファイアーキャノンは通常レベル5だが、レベル4や6の複合魔法も存在する。
おば…ゲフンゲフン、お姉さんよく勉強している。
でも僕の魔法はどちらも通常レベルです。人より発動が早く、威力マシマシになっちゃうのは、僕が魔素や魔法力と相性が良いみたいだからだ……と思っている。
「…えっ、ええ、そうね…って、チョット待ってってください。校長!」
「ルイーズ先生、落ち着いて、それと皆さんは試験を続けてください」
「「「…「はい」…」」」
ということで左右の列は試験が続行されるが、どうも集中がうまくいかないみたいだ。…それって動揺? 僕の所為?
そして僕の前では議論の真っ最中だ。
あと、落ち着かないのが、隣にやってきたエルフっ子だ。確かルード何とかちゃん?
そのルードちゃんがしげしげと食い入るように、間近でガン見してくる。…って、近い。
一歩下がると、グイって踏み込んできた。…ど、どうしよ。と思ったら、な、なんとミクちゃんが僕をグイって引っ張って、何ですかって顔で二人の間に割り込んでくれた。
ミクちゃんも狩りを続けるうち、かなり積極的になり、自信も付けてきている。
そりゃー、魔獣と戦っていれば強くなるって。
「あなたは何?」
「ミクリーナって言います。あなたは」
「ルードティリアよ。それでアンタは」
ミクちゃんとルードちゃんの一瞬の攻防の後、ルードちゃんが僕を見る。こわっ。
「セージ、セージスタです」
うわー、僕セージスタ、セージって呼んでのパターンだ。メッチャハズイ。
「そう。よろしく」
「は、はい…」
意味不明です。
「はい、皆さんは戻ってください」
ミクちゃんとルードちゃんを引き離してくれたのは校長先生だ。
「それでノルンバック君。レベル4の魔法を使えるのよね。
あと何かできることはあるならチョットだけ見せてもらえないかしら」
「ええ、まあ」
通常魔法核や魔法回路が“4”ともなれば魔法属性の取得が二つや三つってことはない。
ああ、この際だからあれでいいか。
ショートスピアをアイテムボックスからとりだす。何も補助してない真っ新のショートスピアだ。
僕に集中していたほとんどの人が興味津々だ。まあ、ミクちゃん、ライカちゃん以外だけど。
「それじゃあ、槍ます」
うん、ナイスセンス、GJだ。
<補助:水魔法><ウォーター><補助:火魔法Ⅶ><ギガヒート><補助:錬金魔法Ⅲ><濃縮><補助:時空魔法Ⅴ><減重Ⅲ><補助:イメージ補助><切れ味アップ>
見る人が見ればある程度のレベルは分かるだろうから、これだけ掛ければOKだろう。
お姉さんを含む驚愕や、困惑する周囲を置いてきぼりにして補助魔法を掛ける。時間も短縮で、マシマシの即席補助だ。
情報操作の影響で魔法陣など見えにくくして、認識阻害は全開中だ。
周囲からは「付与魔法?」「補助魔法?」って声が聞こえてきているから、何をしてるか、よくわからないみたいだ。
<身体強化>
で、――的の左右後方安全良し――ショートスピアに魔法力を流し込んで、あ、流し込み過ぎたか? ま、いいか、残ってる的に向かって全力で投げる。
ヒュンと飛んで的を突き破り……、
え、なんで的を突き破るの、予定では的に当たってブワーッて水蒸気が発生して、みんなを驚かせる程度のはずだだった。
それが、練習場の防護シールド、巨大なスフィアシールドで大爆発した。
<ビッグフラットシールド>
最悪な水蒸気爆発が発生しても体積が一七〇〇倍って覚えてたけど、縦横高さにするとそれぞれ約一二倍だ。二〇センチメル程度の水球が二.四メル程度に膨らむ程度と侮っていた。まあ、水球はもうチョット大きかったと思うけど…。
バーーーン、と予想以上の爆発に、練習場をおおうスフィアシールドを破壊して巨大なスフィアシールドがパリン――あくまでもセージの魔素や魔法を鋭敏に取らえる感覚としての音――と崩壊してしまった。
濃縮の効果で、高圧の水と高熱がショートスピアの先端の一点に集中して一瞬で気化したため? それともマシマシがいけなかったのか。いや、身体強化がいけなかったか。
水蒸気の瞬間的な膨張と膨大な熱は、演習場のスフィアシールドを破壊しただけじゃなく、演習場内に暴風を発生させ、突風が吹き荒れた。
セージの念のためと思って張っていた平面シールドを回り込んでグランドのみんなにも突風が吹き荒れ、キャーッとそこここに悲鳴が上がる。
<ビッグスフィアシールド>
僕は追加でみんなを守る。まあ、できるだけだけど。
観客席を含んでもそれほど大きくない演習場の突風は直ぐに収まった。
周囲を見ても、誰もが床にしゃがみ込んで丸まっている。
けが人はいなそうだ。ホッと胸をなでおろす。
ミクちゃんとライカちゃんも無事でした。
「…校長先生、えー、校長先生、ここのシールドはレベル8の魔法にも耐えるんじゃなかったんですか?
セージ君のレベルは幾つにしますか?」
髪や服装が乱れた冒険者ギルドのお姉さんの間の抜けた声が練習場に響いた。
破壊された巨大なスフィアシールドは、どうやら五つの魔石にスフィアシールドを付与して、シンクロして巨大なスフィアシールドを作成してたみたいだ。
そのうちの二つの魔石が壊れちゃってる。
…チョットした悪戯だったんだけど……弁償するしか……まあ、僕が作ればってそういう問題か?
「…え、ええ、そうね……エホン、ごめんなさい。
なにが、え、あれ、防護シールドが……」
「はい。綺麗サッパリ吹き飛んでます」
音を聞きつけたのか、バラバラと学校職員が駆けつけてくる。
誰もが防護シールドの消滅に驚愕する。
「少々、想定外のことが発生しましたが、こちらで何とかしますので、戻って下さい」
駆けつけた学校職員が、不審そうにしながらも戻っていく。
試験はまたもしばし中断して、相談が始まった。
「ノルンバック君のことは後回しにして残った受験生の試験をまずは続行します。
ノルンバック君はその辺でもうしばらく待っていてください」
さすが校長先生、特大の<ビッグスフィアシールド>で練習場の半分ほどを包み、試験を再開した。
へえ、こんなに薄く引き延ばして、拡大できるんだ、って感心してしまった。
チョットさわって……。
「ノルンバック君!」
「はひっ」
「おとなしく見ててください」
え、まだ何もしてないってば。心外だな。
残りは一〇人チョットだ。
特筆すべきはヤッパリミクちゃんで、
「<ビッグウォーター>……<ハイウインド>」
右手に風を起こし、大水球を飛ばして的を撃つ。
ミクちゃんの最近のお気に入りで得意魔法だ。
放った後にルードちゃんをチョットにらんだような…。
まったく同じ魔法を放たれたルードちゃんも、対抗心からか、にらみ返してきます。
バチッて火花が飛んだような。
ライカちゃんは得意な錬金魔法の<変形>で銅線を平たくして見せて、驚かれていた。僕からすればわずかな変化、変成だけど、レベル1の錬金魔法だと頑張った方だ。
それと<ウォーター>で歪ながらも、水球を出した。風魔法じゃないんだ。
ここ最近ミクちゃんが自信を持った所為か、自己主張がはっきりしてきている。
最初にグイグイ来ていたライカちゃんは、誘拐などの特殊環境などの所為だったのか、最近は落ち着いている。
で、また相談が始まっちゃいました。
「あの爆発は何ですか」「どうやったのですか」
と何度も聞かれたけど、「秘密で」としか答えなかった。
「五才で個人魔法ですよ」って声も聞こえてくる。
あ、そうなると最低でもレベル7ってことか。
イメージ文字化で個人魔法が作成できるのがそこからとされているからだ。
「それでも、魔法レベル8以上、いいえ、通常で考えればレベル10以上の魔法でなければ、防護シールドは破壊できないんですよ」
さすがにそんな魔法は無理だ。
「今後の防護シールドの再構築もどうすればいいか」
「上級魔法学校もそれほど強度は持たせていないのですよね」
「ええ、そのはずです」
って言葉も漏れ聞こえてくる。
「一応の結論は出ました。
セージ君は属性は火・水・風・時空・補助魔法でレベル8とします」
校長先生直々の裁定だ。
「え、それ全部8」
「はい、それとも個人情報を提示しますか」
「じゃあ、それでいいです」
「五才でレベル8だとすると、属性もあといくつかは所持していることでしょう。
持っていないとしても、あなたに魔法を教えられる先生は、この学校にはいないと思った方がよろしいでしょう。
それは上級魔法学校でも同様でしょう」
うん、何となくそれはわかってた。初等の魔法教育が魔法核や魔法回路を育てるための基本訓練と、魔法も通常レベル2、できる人でレベル3までだ。
上級魔法学校でも入学レベルで2、卒業レベルで上達の早い人でレベル4、冒険者をやる人でレベル5が良いところだ。
「チョクチョク学校を休むことになりそうなんですが」
「そのことはご両親はご存じなのですか」
「はい…いいえ…えーとですね」
ボティス密林の魔獣が増えて冒険者ギルドからの依頼でノルンバック・ウインダムス魔獣対策魔道具研究所(N・W魔研)で魔導措置の作成と調査を請け負っている。
僕はその研究所員である事。
ホイポイ・マスターを作成してボティス密林に設置して継続的なボティス密林の調査に同行している事。
ボティス密林の魔獣が増加傾向にあることなどを説明した。
校長先生はギルドのお姉さんに確認しながら話を聞いていたが、ボティス密林の魔獣が増加していることなどは知っているようだった。
僕がすでに冒険者ランクEで、調査に毎回同行していることに関してはさすがに驚いていた。その件に関してはルイーズ先生や他の試験官も同様だった。
冒険者の件に関しては棚上げになって、僕のパパやママと一緒に相談することになった。
一般教科の勉強もあるしね。
のちに学科試験の採点で全問正解のセージの回答用紙に、先生たちが更なる頭を抱えたのは別の話である。
「あったまきちゃう。第一大魔法練習場が使えないんだって、ホントにもう!」
入試の翌日、帰宅したミリア姉の不満にセージはビクリとし。
◇ ◇ ◇
その数日後。
「あんたが、ぶっ壊したんですってー!!!!」
盛大な追っかけっこ、エンドレスの追っかけっこがノルンバック家で行われたのは、メイドに語り継がれることになった。
まあ、エンドレスじゃなく、最後には酸欠状態でミリア姉がぶっ倒れて終わりをつげ…、また翌日も、その翌日もと、規模は縮小していったが、大練習場が使えるようになるまで事あるごとにミリア姉が思い出しては再発した。
ちなみに、この追っかけっこが機会となったかどうかは不明だが、ミリア姉は身体魔法を手に入れた。