表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
次元災害で異世界へ  作者: 真草康
魔獣監視装置 正規版編
58/181

56. ゴブリンの椅子


 正規版魔獣監視装置ホイポイ・マスターの製造は順調だ。


 二月一八日黒曜日。

 ララ草原で、ホイポイ・ベータが相変わらず正常稼働しているのを確認してきた。

 ようやく交換用のメモリーパッケージでき、メモリーパッケージも持ち帰った。


 当分の間はノルンバック・ウインダムス魔獣対策魔道具研究所でデータ解析を行い、冒険者ギルドに報告することになっている。

 その帰宅早々、パパとガーランドさんが帰宅した。

 ママの誕生日だから、頑張って帰ってきたんだってさ。パパやるー。

 もちろんみんなでお祝いしたよ。


 あとから聞いたんだけどミリア姉は、学校行事の魔法展覧武会の参加&見学で登校していた。

 魔法模範演技や模擬試合なんかもあったんだって、見に行けばよかったか。


 二月一九日赤曜日、再度モモガン森林に狩りに行った。

 メンバーは前回と一緒の僕・リエッタさん・ニガッテさん・レイベさんの四人にホーホリー夫妻も同行した。

 それなりに熟練度はアップしお互いの戦闘形態と連携が確立できてきた気がする。

 僕は魔法やスキルはほとんどアップしなかったけど、魔法などが上手く早く強くなった気がする。

 テレポートでイメージが強くなったせいなのかな。

 それでなのか【基礎能力】がアップした。


 色々な支援があってホイポイ・マスター五台が完成したのは三月三日黄曜日だった。

 正式版の注文から、約一か月と一週間が掛かったことになる。

 完成を祝してオケアノス神社にお参りした時、セージが“今日ってひな祭りだよな”と思ったことは内緒だ。


 参道を引き返してくる途中、エルガさんが僕を見てクスリッて笑った。

 あれ、また鼻歌を歌ってた…のかな。ハ、ハズイ。

「セージ君ってかわいーよね」

 ボヨーーンのムギューって、し、幸せです。


  ◇ ◇ ◇


 三月五日黒曜日の朝。

「ちゃんと仕事をやって、無事帰ってきなさいよね1」

 大声で喚くミリア姉を、「いってらっしゃーい」と学校へ送り出した。


 今日はいよいよボティス密林にホイポイ・マスターを設置する日だ。

 メンバーは全員【基礎能力】の総合値が“40”以上。

 ホイポイ・マスターに詳しい僕にリエッタさん、冒険者ギルド長のボランドリーさん、同じく保安部長のニガッテさん、あとはホーホリー夫妻ガーランドさんとマルナさんの六人だ。

 レイベさんはマールさんの代理としてホイポイ・マスター設置に参加するために、セージと一緒に狩りでレベルアップを目指して頑張った。

 総合の値が“38”から“39”にアップしたが、まだ“1”不足している。まあ、許容範囲だということだ。


 魔導車二台でララ草原を目指す。

 何度も魔導車を止めた、強化マダラニシキヘビと戦った場所、そこで魔導車を降りる。

 魔導車に魔術ロックを施し、セイントアミュレットとカムフラージュ機能付きのネット掛けるとボティス密林に入る準備は完了だ。


 ボランドリーさんの防具はニガッテさんとよく似ていて、キチン質外殻で強化した革鎧だ。

 ごついガントレットにグレートソードだ。


 他のみんなはモモガン森林に行くいつもの格好だ。

「今日のために鉄菱(ひし)をチョット大きくしてみました」

 レイベさんが可愛らしいフェイクバッグから取り出した鉄菱(ひし)を見せてくれた。

 重くするには、指や手首に負担が掛かるって言ってたのに、頑張ったようだ。


 こっちも対抗心を燃やすわけじゃないけど、負けじと頑張る気がでてくる。

 でも、便利そうだから僕もパチンコ玉くらいは飛ばしたいな。


 出かけにも確認したが、再度装備を確認してボティス密林に入っていく。

 ちなみにボランドリーさん、ニガッテさん、レイベさんにも腰に下げる袋型の容量中レベル(三〇〇キロ程度)のフェイクバッグをプレゼントしている。

 まあボランドリーさんは自前のが有るし、ニガッテさんも持ってると思ったけど、そこは気持ちだ。


 ボティス密林にホイポイ・マスターを設置するのは、魔獣の増加の確認、最終的には魔獣(モンスター)氾濫(スタンピード)の時期の特定だ。

 時期がわかれば防衛を一時期的に強化するにしても、近隣の都市からの応援を受けるにしても、やりやすいし効率的に行える。


 設置場所は魔獣の観察場所でもあり、冒険者を救い出したワニ池――セージ命名――だ。

 途中、ボランドリーさんは調査も兼ねて獣道の周囲も観察していく。

 それとホイポイ・マスターの設置の邪魔になるような魔獣は駆除していく。

 今日も遭遇したのはゴブリンの小さな群れで、カラーゴブリンにいる二つの群れを駆除した。ヤッパ、魔獣が増えているのか。


 ワニ池。

 マッドアリゲーター八匹――増えている――が占拠している。これじゃあ、他の魔獣が近づかないだろう。

 それと上空での攻撃手段が乏しい魔獣は大好物だ。

「僕やりまーす」

 思わず立候補したら、全員から苦笑された。

 上空への攻撃手段が乏しくても数が多い、要注意だ。


 身体強化をMAXにして、黒銀槍の槍先に補助魔法で高周波ブレードにする。

 足場のない場所じゃ“テレポート”は無理。

 それと風魔法の空中浮遊(レヴィテーション)飛翔フライも使えるけど、体の向きを変えるにも、とっさに方向転換するのも感覚的に遅れるし、何よりも踏ん張れない。

 やっぱ、僕にはこれが一番だ。

<スカイウォーク>


『隠形』と情報操作の『認識阻害』で空中を駆け、ワニ池の真上で。

<メガフラッシュ>

 自分の魔法の影響は受けにくいとは言っても、大きな発光はまぶしい。

 一瞬、目をつぶってその目を手で覆う。

 光が消えた瞬間、黒銀槍でマッドアリゲーターの首に、ワン、ツーと突き刺す。

 二匹は数秒暴れたが静かになった。


<スカイウォーク>

 足元を強化して空中を駆ける。

 高周波ブレードはまだ大丈夫だ。


<メガフラッシュ>…ワン、ツー。

 おーっと、毒の粘性泥水だ。

<ステップ>

 届かなそうだけど、念のため回避だ。

 こういう時に並列思考がものを言う。

 えーい、うっとうしい。


<マジッククラッシャー>…<マジッククラッシャー>

 口を開くマッドアリゲーターに、無属性の魔法力を叩きこんで毒の粘性泥水を粉砕する。

<メガフラッシュ>…ワン、ツー。


 もう一度。

<メガフラッシュ>…ワン、ツー。


<スカイウォーク>

 足場を固めて、マッドアリゲーターを槍で突いて死亡確認。

 一旦アイテムボックスに回収して、陸上に出して冷凍。

 カチコチに凍っていることを確認して再度アイテムボックスに収納して駆除完了だ。

 狩りもうまくなったと思う。


「多彩な魔法だな、これであのデミメガホッグを狩ったのか?」

「うーん、そうだったっけ?」

 ボランドリーさんの質問に、首をひねってしまう。

 あ、水魔法の粘着壁や粘着シートでつかまえたっけ。

「ああ、違います」


「この他に、土魔法に風魔法、錬金に付与にって、噂通り全属性持ちか。豪勢だな」

 戦闘で使った魔法が身体・補助・時空・光・無属性だ。

 時空魔法はホイポイ・マスターの作業や設置でも当然使用するが、その他に使用する魔法がボランドリーさんが述べた魔法だ。

 残りは生活は当然として、火・水・闇の三つだ。どこかで見られたっけ?

 あ、収納するときの氷温冷却――実際は超冷却(ハイコールド)――は火(熱)魔法だった。冷却(コールド)は冷たくする程度で、極冷却(メガコールド)じゃ、凍るけど解凍に手間がかかる。

 アハハハ…、笑ってごまか……せないか。ま、いいか。


 ボランドリーさんとニガッテさんが大体の設置場所を指定して、リエッタさんが測量する。

 ホイポイ・マスターのレーダ範囲は半径一四メルの球状だが、安定して索敵して情報が取得できるのは一三メルまでだ。

 僕の空間認識はレベル3になって、距離も伸びたけど、急遽それを付与するとホイポイ・マスターの性能バランスが崩れるから、レベル2の空間魔法で付与したレーダー魔石のままだ。

 計測範囲に若干重なりを持たせるから隣との距離は二四メル~二五メル程度が最適だ。

 全周撮影が可能だが、障害物やメンテナンスハッチの向きなども考慮すると、何かとめんどくさい。

 ホーホリー夫妻とレイベさんがその間護衛だ。

 僕は並列思考でレーダーで警戒しながら、空間認識を活用して設置個所の土壌の確認をしておく。


 五か所に目印を立て、中央から設置開始。

 土壁を作ることによって穴をあけ、移動させる。

 穴を錬金魔法で整え、何度かホイポイ・マスターを出し入れして設置状況を確認する。

 僕とリエッタさんが魔石レンズの向きや動作状況の確認してから、土を掛けて、再度動作状況やメンテナンスハッチの確認をして完了だ。


 認証合魔石でロックされているメンテナンスハッチは、キーとなる認証合キー魔石を近づけることによってオープン状態となる。

 今回は同一照合の認証合魔石を多数製造して、一つの認証合キー魔石を持っていれば全部のホイポイ・マスターのメンテナンスハッチが開けられるようになっている。

 認証合キー魔石はノルンバック・ウインダムス魔獣対策魔道具研究所(N・W魔研)と冒険者ギルドでそれぞれ正副二つの計四つがあって、それぞれ管理することになっている。


 無事に三台目も設置完了。

 中心から東南方へ二台設置したから、残るは西北側の二台だ。

 その間護衛のホーホリー夫妻とレイベさんは、ゴブリンの群れを二つ、それと小さめのマダラニシキヘビに、小さな魔獣を何匹も駆除していた。


「巨大な魔獣が来ます!」

 レーダーに強くて大きな反応。思わず叫んでしまった。

 緊張にみんなが身構える。

 レーダーの情報に名称とサイズが浮かび上がる。

「三メル級のメガホッグです」

「一旦に引き上げるぞ」

 ボランドリーさんが身振りでも指示を出す。

 まとまってララ草原にに向かって走り出す。

 僕的には一回テレポートを使って戦ってみたいけど、ホイポイ・マスターに被害が出るのはアウトだ。


 しばらく走るとメガホッグの反応が消えていた。

 レーダーの索敵範囲は球形で二八メル、思いっきり引き延ばせば約三八〇メル弱まで可能だが、遠い場所は不安定になる。実質三三〇メルが良いところだ。

 それを振り回しても引っかからない。ゴブリンの群れは二つとレッドキャットを見つけたけど。

 レーダーを最大限に引き伸ばして、メガホッグがいないかだけを再度確認する。

 さすがに必要魔法量がグッと上がる。


「追ってこないようです。あー、どうやら見つかってなかったようです」

 とはいえ、油断はできない。


「どうしますか?」

「少し戻ってようすを見て、できれば戻るが、それでいいか」

 全員うなずいて、誰も反論が無い。


 徐々にワニ池に近づいていく。

 相変わらずゴブリンの群れがいる。


 ワニ池が見える距離まで来た。

「おい、ありゃなんだ」

「ゴブリンですね」

「そりゃ、わかってる」

 そう、ゴブリンがホイポイ・マスターの地面から出た上部土台に腰掛け、偽装樹木を背に寄りかかっている。それも円形に三匹がだ。

“ゴブリンのくつろぐ椅子”、実にシュールだ。

 小柄なゴブリンには椅子としてちょうどいいのかもしれない。

 想定外の状況に間抜けな会話をしてしまった。


 静止画撮影のため、若干見通しのいい場所に設置したのも椅子になった要因だったかもしれない。

「おい、狩るぞ」


 駆除はあっという間だったが、

「ゴブリンがたむろすると、ここで戦闘になってホイポイ・マスターが壊れやしねーか」

「そうですね」

 となって対策が開始された。

 一応、修理機材はアイテムボックスに入っている。


 相談した結果、バラのトゲ作戦となった。

 要はバラのようにトゲを無数に付けて座れなくする。

 ただ、それができるのが僕とリエッタさんだけていうのが問題だ…、と思っていたら、な、なんとレイベさんも錬金魔法を所持していた。

 鉄菱(ひし)鉄球きゅうの製造はお手製だって。びっくり仰天。

 でも、やってみたら金属変成はできるけど接着が苦手でうまく付かない。


 結局、せっせこ、せっけこ、三人で金属加工をして、二人でトゲを付けていった。

 ちなみにトゲの素材は当然鉄菱(ひし)だ。

「また作ります」

 と、レイベさんが泣く泣く提供してくれた。


 本日の作業終了。

 僕のリバイブキャンディーも大活躍。

 三台のホイポイ・マスターにトゲを付けて薄暗くなった。きっと家に戻るころは真っ暗だ。

 僕はともかく、リエッタさんとレイベさんはグロッキーだった。

 一旦休憩、ララ草原に戻ったら真っ暗。

 かなり遅くの帰還となった。


 残りの二台は帰って改造してからの設置となった。

「なんでトゲを付けるの」

 エルガさんの質問に、

「魔獣避けです」

 まさか“ゴブリンの椅子”から守るためとは答えられなかった。

「ふーん」

 僕とリエッタさんの慣れた作業は簡単に終了した。


  ◇ ◇ ◇


 ワニ池のホイポイ・マスターの設置が完了したのは、翌々日の三月七日青曜日だった。

 どこから湧きだすのか、ワニ池にマッドアリゲーターが三匹。大好物だけどげんなり。

 レッドキャットとも戦った。

 プテランが頭上を飛行した時には退避した。

 ゴブリンの群れは五つ発見し、そのうちの三つを倒した。

 ホイポイ・マスターが“ゴブリンの椅子”になていなくて本当に良かった。

 疲れた。


  ◇ ◇ ◇


 冒険者ギルドにすると、ここ最近の魔獣の増加で、一か月に一回だった魔獣カウントの仕事が、二回に増加していた。

 それも泊まり込み、下手したら魔獣の襲撃を回避しながらとなって三泊や四泊をしてだ。

 それが一台につき異常が無ければの前提でだが、メモリーパッケージの交換と内部状態も含んだ目視確認、魔聖レンズの掃除などを含むメンテナンスで約五分ほどだ。

 五台全てを終えるのに三〇分もかからない。

 それで一週間以上のデータが持ち帰れるのだ。

 悪天候を避けて行けるのも良い。


 泊まり込みの魔獣のカウント調査だとそうはいっていられない。

 更に魔獣カウントと違って、強い魔獣と遭遇した時には、逃げて安全になってから対応すればいいのだから、危険度はかなり低下する。


 解析に時間が掛かかるにしても安全な場所だし、索敵したデータしか入っていないのだから、監視した時間の何十分の一の時間しかかからない。

 冒険者ギルドの負担がかなり減少したことは確かだ。


 ホイポイ・マスターの設置個所はあと二か所。

 台数は四台、五台の計九台だ。

 まだまだ疲れそうだ。

 僕の頑張るパワーはどこへ行った。


 と、思っていたけど、元気が出た。

 人間現金なものだ。本当に現金だ。

 冒険者ギルドがキッチリとお金を払ってくれたそうで、ウインダムス総合商社への支払い、その他掛かった経費、これからの準備金などを差し引いて、エルガさんとリエッタさんと僕に給料が支払われた。

 僕が子供だとはいえキッチリとしている。

 他の二人がいくらもらったか知らない。

 それと多大な開発費が掛かっているのでそれほど多くはもらえなかったけど、二六〇SH(シェル)、日本円で一三万円だ。

 何を買おうか迷っちゃう。…が、考えたら僕って基本買い物してないよね。


 狩ってきた魔獣や薬草・毒草・野草で、薬草・毒草は別として結構キッチンに提供してるけど、それでも残りを売ったお金は計四〇〇〇SH(シェル)――二百万円――ほどある。

 それがまた増えた。

 肉や薬草・毒草だけだなく、毛皮やキチン質の外殻などに魔獣核を売ったのがそのほとんどだ。

 狩りでも基本一人で挑んで倒したものを僕の物としてくれているのも大きい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ