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次元災害で異世界へ  作者: 真草康
魔獣監視装置 試作品編
53/181

51. 年末と初詣で

真夏に初詣でって、季節感真逆で申し訳ありません


 一六月二二日緑曜日、久しぶりに海に来ての稽古だ。

 海にも提灯が飾られていて新年を迎える雰囲気が漂っている。


 オーラン・ノルンバック船運社は今日が仕事納めだ。

 パパやママがせわしなく動き回っていた。

 ノルンバック・ウインダムス魔獣対策魔道具研究所も一緒に仕事納めをする。

 リエッタさんが「お掃除です」って張り切っていたけど、僕が今日特別にやることはない。


「「おはようございます」」

「ああ、おはよう、久し振りだな」

 早朝から釣りをしていた人が帰っていく。何度も会って、挨拶するが名前は知らない。

 僕とヒーナ先生が挨拶をすると、手を上げて答えてくれた。これもいつものことだ。


 そして、ミクちゃんとカフナさんが来ていた。

 何時ものように挨拶を交わすと、カフナさんが教えてくれた。

「マールさんは仕事納めで忙しく、レイベさんは実家に帰っています」

 どうやら疑問が顔に出ていたようだ。


 ちなみにエルガさんに帰省の意思は無い。ないったら無い。

 ノルンバック家が居心地がいいんだそうだ。

 実家のエルドリッジ市でも、家に居るより研究室に籠っていたエルガさんだ。

 多分、物造りで、シュナイゲール伯父さんにアルーボリア(アルー)伯母さん、兄のロナルディア(ロナー)さんのこと忘れてるんじゃないかな。


 剣の稽古を始める。

 海で魔法をぶっ放すわけにはいかない。

 ファイアーあたりならともかく、僕の魔法レベルは秘密事項だし、ミクちゃんのレベルも五才を突破しちゃったから。

 それでもミクちゃんの一生懸命と、僕の軽くがいい勝負だ。


 ミクちゃんと市場を見て回ると、ヤッパリ新年の準備でにぎわっている。

 初めて見るもの、珍しいものはすかさず鑑定だ。


 自宅に帰って、お昼を食べ、図書館に籠る。

 そろそろやってみたいことがあるからその調査のため、魔法の本を読みなおしだ。

 読むのは魔法文字や魔法記号関係の本、本によっては精霊文字や精霊記号とも書かれている。要は魔法の設計書に関する本だ。


 早ければ魔法核と魔法回路がレベル7で、大体がレベル8からイメージ文字が使えるようになる。

 イメージ文字とは魔法陣に記述された魔法文字や魔法記号、別名精霊文字や精霊記号などをまとめて、一つ文字というより記号に置き換えることができる。

 プログラムでいうマクロみたいなものだ。

 それで自分の魔法陣、個人魔法を作ることができるようになる。


 そのイメージ文字に関する本ももちろん読んでいる。


 ただむやみやたらとイメージ文字(マクロ)に変換できるわけではなく、所定の手順で置き換える必要があるし、魔素の属性ごとにしかマクロ化できない。

 マクロ化すると魔法陣を通常は二割から三割小さくできるし、うまく作れれば五割程度にもなる。

 ただし魔法陣核は小さくならない。


 魔法量の節約にならないのならやる必要があるかといえばある。

 複合魔法陣を作成するときに格段に作りやすくなるからだ。

 それとイメージ文字とは、文字にイメージをより強く持たせる特殊文字なため、他人に複写させることが不可能だ。

 魔法陣を作成するときも魔法のイメージを込めながら作成した方が威力が上がるが、それがより強烈にイメージを込めることができる。

 そのため単独の属性魔法でもマクロ化すると威力が上がる。


 本に複合魔法があまり載っていなかったのは、高位の魔法のほとんどがイメージ文字を使用した個人魔法として作成され、使用されているからだ。

 イメージ文字にはそれぞれに補助のための魔法陣核も必要になる。

 イメージ文字を使用した複合魔法では、メインの魔法陣核と補助魔法陣核との接続も行うため特殊な魔法陣となる。

 そのための準備であり、勉強だ。

 そしてできればイメージ文字(マクロ)を作成してみたい。

 本を読みながらマクロを作成してみたが、流石に一回目からはうまくいかなかった。


 あとは魔法の強化だ。

 マクロ化するには通常の魔法回路を作って魔法を放てるようにならないとマクロ化できない。魔法の発動を自分の魔法回路に記録する必要があるためだ。

 魔法回路がレベル7になると、魔法発動過程の履歴(ログ)ができる。

 それを自分なりのイメージで小さくまとめながら別の魔法回路に記号化して転写することがイメージ文字(マクロ)化だ。

 今まで以上に魔法の訓練、魔法ランクのアップを目指した。


 それと魔法回路の数が増えた。

 魔法回路は、生活魔法を含む魔法属性がレベル0で、魔法回路が一五枚作られる。

 その後に魔法レベルがアップするごとに一五枚が加算される。

 魔法核と魔法回路は同様に五〇枚だ。


 計算式にすると以下のようになる。


(魔法核+1)×50

(魔法回路+1)×50

(魔法レベル+1)×15


 それだと魔法回路は一八一〇枚になるはずだ。


 それが、どうやらイメージ文字マクロ化のための作業用なのか、マクロの保存用なのか、魔法回路がレベル7になったことによって、魔法回路の枚数がそれ以上、二七六〇枚になっていた。


 新たな計算式は以下のようだと思う。


(魔法核+1)×80

(魔法回路+1)×80

(魔法レベル+1)×20


 自宅に帰ってから、集中してやってみたら小さなマクロが簡単にできた。

 チョット、部屋で踊ってしまった。もちろん歌も歌っていた。

 はたと気づいて、真っ赤になって周囲を見回してしまった。ハ、ハズイ。


 チョット、いや、かなり面白いかも。

 はい、はまりました。


  ◇ ◇ ◇


 一六月二三日白曜日。

 今年最後になるだろう狩りで、エルガさんとリエッタさんの三人で、魔導車に乗ってモモ草原に向かっている。

 エルガさんもたまには実際の場所近くに行って魔獣を見て気持ちをリフレッシュしたいとのことだった。

 なんかこの三人だとシックリくるというか、落ち着く。

 パパとママは仕事納めをしたとはいえ、挨拶回りで忙しい。

 仕事始めは一月七日の赤曜日からだ。


 オーラン市から南西方向に走って、農村や穀倉地帯を抜けると、道は西に向かいララ草原沿いとなる。

 オーラン市に近い場所は若手冒険者が多く、絡まれたりと何かと面倒ごとが多いってことで、いつも少し進んだ場所が狩場だ。

 更に進んだ草原の奥がボティス密林だ。


 レーダーで周囲に冒険者のいない場所を探していたら、ターニャさんとディニーさんがいた。

「もっと先に行ってください」

 運転手のリエッタさんに伝えると、何かを察したのか、うなずいてくれた。

 

 この辺りまでくるとボティス密林が随分とせり出してくるから、街道に近くなる。

 以前、強化マダラニシキヘビと戦ったあたりだ。

 冒険者のいなそうなので、仕方が無いのでハンドルを切ってララ草原に入っていく。

 ちなみに街道は、この先左にそれてオケアノス海沿いになっていく。


 ボティス密林の中に入ってみたいという衝動を押さえつつ狩りをした。

 ボティス密林の近くということもあって魔獣は多めなのだが、目標は兎などの食用肉だ。マッドバニーもOKだ。

 できればイノシシ系が効率がいい。

 最初のマッドバニーは<ドリームワールド>で狩る。

 次に遭遇したマッドバニーは<粘着弾>で難なく狩れた。

 イメージ文字に込めたイメージの所為か、粘着力がアップしたような気がする。


 粘着弾は、粘着球(アドヒジョン)とジェットストリームをそれぞれイメージ文字(マクロ)化して、お試しで掛け合わせた複合魔法陣だ。 

 思ったよりうまくいった。幸先がいい。

 その後は<粘着弾>を多用して食材確保を行った。

 それと今までのショートスピアで戦って、黒銀槍(こくぎんそう)は、使ていない。最初の実戦はモモガン森林と決めている。


 そうだと思って、エルガさんに聞いてみた。

「リバイブキャンディーより強力な魔法力の復活アイテムがありませんか」

「リバイブウォーターを作るには、魔法力を与えながら魔法石と聖水で作るけど、その聖水を魔法効果を高める福魔草(ふくまそう)を煎じた聖魔水にすると効果が高いリバイブウォーター、というか魔活水になるよ」

 一瞬ヤッターと思ったのだが…。


「そして、そのリバイブウォーターを作ってリバイブキャンディーが出来るけど、メチャクチャ苦くって誰も食べない。

 魔活水を、錬金魔法で成分抽出した方が食べやすいっていうけど、それでもかなり苦い。

 ボクも一回舐めて、もういいやって思っちゃた」

 エルガさんは、渋い顔をして教えてくれた。

 相当に苦い思いをしたみたいだ。


 魔活水ってのは、魔法力を復活させる効能がある薬水全般を指す。

 リバイブウォーターも魔活水の一種だ。


「福魔草はニガテラヨモギを品種改良したもので、回復作用はアップしたんだけど、苦みはあまり改善されず、人気が無くそのうちに野生化しちゃたんだ。

 塗り薬での利用方法が見つかって今では野生化したものは効能が高いって買い取ってくれるよ」

 今までも群生してるとこを見つけて、何度か摘んだことがある薬草だ。全部売っちゃってたけど。

 でも、ここまで聞いた話だとアウトだ。


「味でいったら神寿樹(しんじゅき)の樹皮で造ることを勧めるけど。

 神寿樹は魔素濃度の高い場所じゃなくっちゃ育たない樹だから、この辺じゃボティス密林やモモガン森林の奥地に行かなくっちゃ見つからないよ」

 ヤッパいつかは、奥地へGOだ。


「あとこの辺の海中で採取できる青花サンゴの粉末にも回復を高める効果があるけれど、専門の機材を持った採集業者じゃなきゃ取れないし、量が少ないから貴族や研究所が優先になっちゃうね」


 他にも希少な薬草に、寒冷地や熱帯などの薬草も教えてくれたけど、エルガさんも知識だけで実物は見たことがないそうだ。


「かなり高価だけど、効能薬の仙房湯(せんぼうとう)や、三二聖湯(みにせいとう)で造った魔活水も魔法量の復活効果が高いって聞いたよ」

 効能薬、複数の薬草を処理したものを程よく配合して薬効を高めた粉薬で、お湯に溶かして飲むのが基本だ。漢方薬みたいなものだ。

 そういえば薬草や毒草は調べたけど、薬は調べたことがない。

 心のメモにチェックだ。


「あ、忘れてた、ルルドの泉」

 えーと、どこかで聞いたような。あ、フランス南部の寒村ルルドの奇跡の泉。治癒の泉だ。


「世界各地の濃厚な魔素溜まりで、綺麗な水を湧きだす多くの泉のことをルルドの泉っていうんだけど、そこの湧き水の多くが治癒力が高くって、それで聖水を作るとリバイブウォーターやキャンディーの効果がアップするって聞いたことがあるよ」

 語源も気になるけど、これもチェックだ。


 僕は狩りを途中からエルガさんとリエッタさんにお願いして、レーダーをマシマシで使ってスキルアップに務めた。

 軽い昼食も食べてのんびりした狩りだけど、夢中になり過ぎて魔法の枯渇を二度も起こしてしまった。

 僕って、なんか夢中になると周囲が見えなくなっちゃうようだ。


 空間認識というかレーダーが、球形時で二七~八メル程度、思いっきり細長く引き伸ばすと三〇〇メルを少々越すほどになった。


 レーダーを細長く引き伸ばし、あちらこちらを確認してたら、上空でレーダーに引っかかった。

 場所はボティス密林との境の上空付近。


「プテランがいる。隠れなきゃ」

 慌てた僕は、二人を引っ張って大きな草むらの影に隠れて様子をうかがう。 

 かなり遠いけど、初めて見た。

 羽毛がある大型翼竜のような魔鳥。それが三匹。

 知識では標準で全長二メル弱、翼を広げた幅が約六メル。最大で全長約三メル、翼を広げると約一〇メルまで成長するとされる鳥魔獣の亜種だ。

 見た感じだと、標準が二匹で、チョット小さそうなのが一匹のような気がする。

 高速飛行に、圧縮空気と超音波の混合のようなブレスを吐く。ブレスの振動は破壊だけでなく、周囲に感覚異常を起こさせたりもする。

 超固い表皮で攻撃をはじき返し、くちばしやカギ爪は長く鋭い。


 しばらく飛んでから、ボティス密林に帰っていった。

「索敵外だね」

「そりゃそうだね」

 気が抜けたとたん、間抜けなことを口走っていた。

 それはエルガさんも同様だったようだ。

「帰りましょうか」

 リエッタさんの提案に、僕とエルガさんがうなずいた。


 帰りもララ草原を見てたら、ターニャさんとディニーさんがまだ狩りをしていた。

 護衛が五人ほどいるようだった。


 帰宅して肉や野草をどっさりキッチンに渡したら喜ばれたが、

「いいところに戻ってきた」

 パパに新年の祝賀の準備に駆り出された。

 オケアノス様への信仰が篤いパパに、室内の飾りつけの手伝いで<スカイウォーク>や<ステップ>で大忙しとなった。

【基礎能力】の総合が“44”、体力が“62”と並の大人より筋力があるから、重いものも何のそのだ。

 そうしたら手の届かない掃除もってことで、ママからもヘルプがきた。


 パパからは「片付けるときも頼むな」と背中をバンバン叩かれた。

 体の細胞も違っているのか、バンバン叩かれても、それほど痛くはないんだけど……、なんだか狩りよりも疲れた。


  ◇ ◇ ◇


 一六月二四日黒曜日、大晦日だ。

 一年間の勤めを終えたオケアノス様が神界に帰っる日だ。

 明日には新年で新生祭。

 生まれ変わって戻ってくるから、それがどうした、なんて不謹慎なことは思わない。


 一年の最大の安息日で、すべての人だけでなく物をも休める日だ。

 朝食も保存食などとなって質素となるが、そこはそれ、果物などが付くからそれなりだ。

 昼食や夕食も似たようなものとなる。

 図書館や市場なども昨日から休みで、次に開店するのは一月四日だ。

 パパからは今日と明日の二日間は練習場の使用も禁止さているから、やることがない。

 まあ、自室で魔法の練習をするのがせいぜいだ。

 あとは、久しぶりのお昼寝、いや、朝寝か?

 ぐっすり眠って夜を目指す。

 もちろん昼食も摂って、本当のお昼寝もした。

 適当の魔法の練習もおこない、イメージ文字(マクロ)を魔法陣に作成して保存した。


  ◇ ◇ ◇


 深夜、年が明けてオケアノス暦三〇五九年。

 除夜の鐘が鳴るのは日本と一緒だ。

「初詣でに行くぞー」

 おー、と僕だけが握りこぶしと声を上げた。

 他のみんなは笑っていた。

 僕やロビン姉はこのために午後から夜までシッカリ眠っていた。


 パパ・ママ・ミリアに僕だ。そしてエルガさんとリエッタさん。マルナ先生とヒーナ先生が護衛だ。

 みんなチョットだけおしゃれ、良い服を身につけている。

 上級魔法学校生のブルン兄と、魔法学校を卒業して上級魔法学校生となるオルジ兄は半成人として扱われる。

 そして、初詣でには友人と行くそうで、すでに家にはいない。護衛も付いていない。

 ママはオルジ兄にだけはもうしばらく護衛をと思っていたようだ。


 神社までは徒歩だ。

 人でにぎわう中、それも大きな月(ルーナ)の無い真夜中。

 今日は小さな月(アルテ)が細く輝いていている。

 部分的に魔道具の提灯で照らされているとはいえ、魔導車での移動は難しい。

 魔法で煌々(こうこう)と照らすのは、神事を冒涜する行為で顰蹙(ひんしゅく)ものだ。


 家を出てからしばらくは提灯もなく暗い。

<フローティングライト>

 頭上に浮遊光球を小さく出して、できるだけ安全に歩く。

 ヒーナ先生もフローティングライトを灯しているから、八人で歩くには困ることはない。


「セージ君は現在何の魔法を練習しているのですか?」

 ヒーナ先生がコッソリと聞いてきた。

 ひところの、微妙になってしまった関係も、また随分と打ち解けてきた。

「イメージ文字の魔法陣を作って、溜めてるところです」

 ヒーナ先生の個人情報を見せてもらって、魔法練習をスタートしたのが、約半年前の七月だ。


 ヒーナ先生が口元を押さえ、眼を見開いた。

 どうやら予想の斜め上をいったらしい。

「……え、ええ、イメージ文字って個人魔法ですよね」

「うん、そうだよ」

 僕は気安くうなずく。


 耳ざとい、エルガさんが参加してきた。

「個人魔法って、通常、高位の魔法特化型のC級冒険者(ランクC)が作れるものなのよ。

 ごくまれにD級冒険者(ランクD)の魔法適性が非常に高い上級者ができるって噂は聞いたことはあるけど極々まれね。

 軍隊でいえば最低でも上級魔法士レベル、最低で一等魔法士よね。

 研究者でも作れる人は多いけど、研究的意識が強くって、威力は今一つね。面白いのが見られるけど」


 伯父様のいるヴェネチアン国だと正式な軍がある。

 マリオン国だと警備隊になるけど基本は軍隊だ。

 階級は一緒で、三等魔法士から始まって一等魔法士、上級魔法士、二等魔導師、一等魔導師、魔導元帥となる。

 魔導師となると戦略的要素が大きく、魔法のセンスより戦略的頭脳がものをいうそうだから、魔法の強さで測れない。

 三等魔法士が駆け出し冒険者でいうところのランクEだ。

 三等魔法士が若手冒険者とされるランクDの下位で、一等魔法士がランクDの上位の中堅冒険者だ。

 上級魔法士がランクC相当となる。

 二等魔導師・一等魔導師・魔導元帥は上級魔法士の中で戦略や戦術のうまい人がなる。

 ランクBはなかなかなれるものじゃない。


「ようはセージ君がランクCレベルになったってことよね。

 それとも上級魔法士様、なんっちゃってー」

「かんべんしてくださいよー」

「まあ、セージ君が非常識なのには変わりはなさそうですね」


 提灯の明かりが足元を照らしだすとフローティングライトを消した。

 表参道の入り口手前でウインダムス家の人たちと、バッタリ会った。

 ミクにロビンにマールさん、そしてパパさんのカレルッドさん。ターニャさんまでいる。

 護衛にカフナさんと知らない護衛が二人。

 ウインダムス家特有の真っ赤な髪のパパさんは優しそうな顔の優男、こうやって見比べてみるとミクちゃんはどちらかというとパパさん似だ。

 対してターニャさんとロビンがママさん似といったところか。

 そして、ウインダムス家の人たちもチョットだけおしゃれだ。


 大人の新年の挨拶が長い。


 初詣で。

 参拝するだけだから一緒に境内に向かう。

 オケアノス神社ではオケアノス様の再誕を祝う、再誕祭として新年を祝う。

 日本のどこぞの神社みたいに初詣でが数百万人なんてことはない。

 オーラン市の周辺の街二つと農村を入れた総人口が八万人ほどだって聞いた。

 他にも商業神や農耕神の神社があるし、村落にも分社した小さな神社があるし、深夜から参拝する人は数千人といったところだろう。……セージ予想。

 混み合っているけど、それなりでユックリと進む。


 本殿について参拝したのはミクちゃん達に出会って、一時間半程度経ってからだ。


 鈴を鳴らし、賽銭を入れ、二礼、二拍手、一礼しながら祈願――魔獣などと戦って強くなりますように、魔法ももっとうまくなりますように――と日本のお参りと一緒だ。


 大広場で行われている再誕を祝う舞と神楽をチョットだけ眺めてから、みんなと一緒に、屋台のジュースやお茶で一息つく。

 境内は込んでいたから脇から裏参道に抜けるちょっとした広場だ。

 オケアノス祭で出店が並んでいた場所だ。

 パパはビールみたいだけど。


「セージちゃんは何をお願いしたの?」

「な、内緒かな」

「そう……だよね。神様にお願いしたことはないしょだよね」

「うん、そうだね。それと今年みょ、よろしくね」

 か、かんだ。

「うふふ……、よろしくおねがいします」

 ミクに笑われたしまった。


 キャーーー……。

 突然の幼い悲鳴が聞こえてきた。

 習慣になっているレーダーが、女の子を抱える大人の男性を捉える。

 広場の反対側から裏参道に向けて走っていく。


<スカイウォーク>

 ジュースのカップを適当に置いて、人混みの上を走る。

 そして<スフィアシールド>、球形に保護するシールドの強化版、怪我に凝りて練習したんだ。

 隠形をしているけど、かなりの人に見られている。


 人ごみをかき分けるように走るフードを被った男性を視認する。

 女の子は縛られ小脇に抱えられ、口をふさがれている。

 どうやら猿轡(さるぐつわ)が緩んだようだ。

 誘拐犯だ。

 当然、空中を駆ける僕の方が早い。


<スカイウォーク>

 中空を走り、真上から。

<粘着弾>…背中に当たった…<粘着弾>…よし今度は足だ。

 転んだ。女の子は大丈夫か?


<粘着弾>……<粘着弾>……<粘着弾>……<粘着弾>

 よしこれで捕獲完了。

 キッチリ女の子は避けて放ったけど、飛沫が掛かったのは仕方ない。

 顔に当たると息ができないから気を付けたんだ。


 あ、ビッグファイアー。

 誘拐犯の仲間から、大きな火球が飛んでくる。

 並列思考で警戒は緩めていない。


<マジッククラッシャー>

 魔法陣無しの無属性魔法。

 ただ単に魔法力をマシマシで放って、相手の魔法を崩壊・消滅させる力技の魔法で、これもスフィアシールドと一緒に練習したんだ。

 ビッグファイアーを三分の二ほど吹き飛ばして、あとはスフィアシールドが弾き飛ばす。

 みんなの頭上に飛び散った小さな炎をが降りそそぐ。


<マジッククラッシャー>

 大雑把には炎をかき消したけど、小さな炎は消しきれない。

 足元から悲鳴が上がり、パニック状態だ。


 ビッグファイアーを放った誘拐犯が、仲間を助けようとする。

 それとこの誘拐犯も女の子を抱えている。

<粘着弾>……<粘着弾>

 おっと、ビッグファイアーだ。

<マジッククラッシャー>

 魔法力マシマシでビッグファイアーを消す。

 誘拐犯が驚いている。

 そしてガツンとの衝撃に誘拐犯が顔をゆがめる。

 マジッククラッシャーは最低で魔法レベル3無いとでいない芸当だ。ボクが込めた魔法量はレベル7相当のマシマシだ。

 衝撃はマジッククラッシャーの余波だ。


 ひるんだ隙に<粘着弾>……<粘着弾>……<粘着弾>……<粘着弾>……<粘着弾>で身動きできないみたいだ。


 地上に降りて<ドリームワールド>……もう一発、<ドリームワールド>

 女の子まで眠らせたけど仕方がないよね。


 粘着弾の一部を『解除』して、眠った女の子を救い出す。

 もう一度『解除』して、更に<ホーリークリーン>で女の子に残っていた粘着弾をキレイサッパリ取り除く。


「セージ大丈夫か」

 パパとママが人混みをかき分けてきた。

 その少々あとに護衛に守られながらみんなが到着する。


 僕たちは、誘拐犯二人を縛り上げ――僕のアイテムボックスから出したロープ――引きずるようにして、広場の脇に移動する。

 女の子たちの縄をほどいて猿轡を外し、ママたちが抱っこしている。

 護衛の人たちが周囲を固めているので、ひとまず安心だ。


 しばらくしてパニックも収まると、怪我をして気絶した女性と男性が広場の片隅にある倉庫の陰で発見された。

 二人は僕とヒーナ先生ですぐさま治療を開始する。


 火の粉を被った人たちは、どうやらほとんど被害はなかったみたいだ。まあ、チョットした火傷に、服や髪の毛が焦げたかもしれないけど。あれ、それって僕のせいでもあるのかな?

 ことによったら補償……。冷や汗が流れそうな悩みを抱えていたところに、警備員が駆けつけてきた。


 最終的には兵士と冒険者ギルド長のボランドリーさんも到着して、神社の部屋を借りて説明したり、話を聞いたり、そして尋問をしたりと、かなりの時間が掛かった。

 兵士たちは手分けして、参拝客たちにも事情聴取を行っていた。

 僕眠い。

 ミクちゃんは気持ちよさそうに眠っちゃったし。


 誘拐犯の二人組は冒険者ギルドの会員で、評判の悪い冒険者だそうだ。

 ボランドリーさんにも確認して、その場で軽い尋問の後兵士が連行していった。


 怪我をした二人の片方が女の子二人のママさんで、ポラッタ魔法具会社の奥さんだった。

 さらわれそうになった女の子がそこの長女と次女だ。

 男性は護衛でかなりの重傷だ。

 女性三人はショックに怪我もあって呆然としている。


 そうこうすると、男性――ポラッタ魔法具会社の社長でパパさん――と一緒に護衛が駆けつけてきた。

 顔の広いマールさんは、ポラッタ魔法具会社の社長とはお互い顔見知りだった。


 さすがに新年初日、祝日で開いている病院は無い。

 重症の護衛は兵舎のお抱え医師に診てもらうことになって、カフナさんが付き添った。

 念のため兵士がポラッタ社長の自宅などを確認し、マールさんが保証すると、ポラッタ社長は馬車を手配して帰っていった。

 とてもじゃないが事件のことを聞ける状態じゃなかったので、護衛の兵士が二人付き添ってだ。


 あと、できれば早めに調書を取りたいからということで、僕たちに兵舎に来てほしいんだって。

 パパが相談の上、明日兵舎に行くことになったのだが、その時には僕はママに抱っこされ、ロビンちゃんはマール先生抱っこされ夢の中だった。


 ちなみにミリア姉も異世界(夢の中)の住人になっている。


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