49. 油断の一撃
一六月一七日白曜日、セージは朝食後にショートスピアに付与をしていた。
ミクちゃんにあげたショートスピアと同等以上、もう一工夫した付与ができないかとアイテムボックスに入っている予備の二本で試していた。
ヤッパリ、もっといい槍があった方がいいかな、と思い悩んでいた。
魔獣や素材の売却でお金は有るし、買い物に行っちゃおうかと思っていたりする。
周囲というかオーラン・ノルンバック船運社は、残り一週間しかない今年の総決算で慌ただしい。
パパとママ、リンドバーグ叔父さんも朝食を済ませると、急いでどこかに行ってしまった。
食材の仕入れも慌ただしいし、託児所の方もなんとなく雰囲気が違う。
エルガさんとリエッタさんはノルンバック・ウインダムス魔獣対策魔道具研究所で設計と実験でこもりっきりだ。
もちろん昨日の狩りで転写したレコーダーコアとピクチャーコアは昨日帰宅した時点で渡してある。
「セージ君、ガンバってもっと距離を伸ばしちゃいましょー」と、朝食時にやたらエルガさんのテンションが高かった。
反してリエッタさんは疲れ気味だった。
ママとパパにお願いもしていた。
「ボティス密林の木の高さが高いものだと三〇メルほどあって、索敵距離としてはできるだけ延ばしてほしいんだけど」
レーダーを付与すると三分の一程度になっちゃうことを教えているから、現在の球形状態のレーダーの二〇メル強の距離だと、付与すると六メル前後となってしまう。
当初は地上だけで距離五メルで台数を増やすことで提案してたけど、モモガン森林で猿魔獣を見てから上空というか、樹上も必要だと考えたそうだ。
冒険者ギルド長のボランドリーさんもその方がより効果的で望ましいとのことだ。
そうなると当初の予定のレコーダーコアやピクチャーコアの容量だけでなく、魔電装置そのものをワンランクからツーランク上の物が必要だそうだ。
設計のやり直しでって、レーダーの索敵範囲の大幅アップが決定事項のように扱われている。
あと魔法力マシマシで付与すると必要魔法量や維持魔法量が大幅に増えることがわかって、通常スキル状態で考えないといけない。狩りに行けるってうれしいけど、プ、プレッシャーが。
慌ただしいことはもう一件発生した。
「おはようございます。ミクのことですが!」
「オ、オハヨウゴザイマス」
マールさんがすごい勢いで僕の部屋に駆け込んできた。
現在にらまれているような……。あ、汗が。
「セージちゃん、オハヨウ」
「オハヨウ」
「おはようございます」
遅れてミクちゃんとレイベさんも入ってきた。
「まずは……」
「若奥様、落ち着いてください」
「…え、ええ、そうね。ごめんなさい。ミクもレイベさんも座って」
僕の部屋に人が来ることが多くなった。
大きさは大体一〇畳程度だから、本棚にベッドに机兼テーブルと椅子でいっぱいだ。
「ミク、個人情報をセージ君に見せてあげてくれますか」
「はい。『こじんじょうほう』『かいじ』」
魔法核と魔法回路が“2”で、水魔法が“1”、火・土・風・光が発現したばかりの“0”
で、驚いたのが隠形と魔力眼まで“0”となっていた。
こりゃまたビックリ。
「本当にどうやったのか教えていただけないかしら。話せることだけでかまいませんから」
「うん、いいですよ。
僕も最近図書館に行って知ったことなんだけど。
それと参考意見程度にしか書かれていなかったことだから詳しくはお話しできません。
それでいいですか」
「ええ、かまいません」
「体内に魔素と魔法力があって、それらを管理・操作するのが魔法核です」
マールさんだけでなく、レイベさんも真剣だ。
「魔素は空中にもあって属性ごとに違えどそれぞれ似た存在ですが、魔法核や魔法力には個性がありますし個人によって波動も違います。
放つ魔法によってもその特性や波動に違いがでます」
コンコンとノックがあって、メイドが飲み物と菓子を持ってきてくれた。
メイドが出ていってから説明を続けた。
「魔法力の個性や波動は、もちろん魔法核に大きく依存しています。
そして同じ属性の魔法核を持った人同士はある程度似た波動があるそうです」
お初の情報だったようでマールさんとレイベさんがチョット驚いていた。
「僕はミクちゃんの魔法の練習に立ち会った時に、何気なく魔力眼で見たら、魔法力が上手く流れない個所を見つけちゃって、ときどきですが、そこをスムーズに流れるように僕の魔法力で詰まりを解消していました」
「それで綺麗な水球ができたんですね」
レイベさんも思い出したようだ。
「はい、そうだと思います。その後も練習に何度も付き合って、僕も何でできるんだろうと思って調べたことが今伝えた内容です」
チョット喉が渇いた。ゴックン。
「文献には、波動が合えば魔法の補助もやりやすいって書かれていて、それで、昨日の狩りで僕な魔法力をミクちゃんに流し込んでみたというより、ミクちゃんの体内魔素と魔法量を活性化したら魔法を強化できちゃたんです。
やり過ぎちゃったみたいで、ごめんなさい」
実際は、波動の違いはあるし、ミクちゃんの体内魔素と魔法力をすんなりと制御できてしまったのは内緒だ。
他の人までやって、面倒ごとに巻き込まれるのはごめんだ。
「いえ、それは問題ありません。
ミクがこれほどまでに強くなったのですからこちらからお礼を言うべきことです」
「あのー、それってミクさんもセージ君と同じ魔法属性を持っているってことですか」
レイベさんが興味津々といった雰囲気で質問してきた。
「わかりません。
似た波動が魔法核が完全一致に該当するかは文献には載っていませんでした。
属性が違っても波動が似ることもあるって書かれていましたから、違う可能性は充分あると思います」
「それでも同じ魔法属性同士ならお互い補助しやすい可能性が高いってことですか」
「多分そうだと思いますが、作用する側の魔法力が高いことが大前提です。
それと魔法力の制御に長け、魔素との相性が良く、かつ相手との相性が良いことも重要なファクターだと書かれていました。
それと文献中にも推測という言葉が良く使われていましたので断定はできません」
「今の話を聞くとセージ君はミクの持っている属性全てを持っていると考えてよいのかしら」
「多分ですけど、そうだと思います」
「それと文献で集めた魔法陣をたくさん持っているのよね」
「はい」
「それでは、魔法レベル2までの魔法陣全てをミクに複写させていただけないかしら。
もちろんお礼は致します。もちろんルージュさんに相談してからでかまいません」
「ええ、それはー……」
まためんどくさいことになった。
魔法回路を見せると魔法レベルがわかっちゃうから、見せたくないってのが本音だ。
その後はいつものように剣の訓練、レイベさんに教えてもらうのもいつものことだ。
ここ最近はレイベさんに格闘術も教えてもらっている。
レイベさん教えるのが上手いし、熱心です。お金を払わなくていいのかな?
魔法の訓練中に、マールさんのお願いで、ミクちゃんの魔法力の体内循環の補助を行った。
マールさんとレイベさんは何となく干渉しているのはわかるみたいだけど、どうやっているか全然理解できなかった。
ミクちゃんは水魔法が一気に上手になっていた。
それと、総合が上がれば、体細胞が変化するのはミクちゃんも一緒だった。
剣術はなんだか、体の強さに慣れていないって感じ、体に思考が追いついていない感じだった。
◇ ◇ ◇
一六月一八日黒曜日。
今日から三泊三日のモモガン森林で狩りだ。
メンバーは僕にリエッタさんにホーホリー夫妻(ガーランドさんとマルナ先生)の四人だ。
リバイブキャンディーをしこたま持った。
準備としては、フェイクバッグをホーホリー夫妻とリエッタさんにプレゼントした。
ホーホリー夫妻はメチャクチャ喜んでくれた。
リエッタさんには以前プレゼントしたけど、大容量の物だ。
容量はアイテムボックスⅢ(六〇〇個、六四〇キロ、八メル四方)を付与して、二五〇個、二八〇キロ、三メル四方ほどと、容量的に三分の一を上回っていて、付与が強力になったような気がする。
一日の維持魔法量は僕のアイテムボックスで“8”だが、フェイクバッグでは“12”となる。
僕も予備で一個持ってきてるから狩りで得た獲物も全部持ち帰れるんじゃないかな。
ちなみにフェイクバッグをアイテムボックスやフェイクバッグに入れることはできなかったし、アイテムボックスを複数作ることもできなかったので、僕は戦闘の邪魔にならないように小ぶりのリュックを背負っている。
ある程度以下の魔獣は小物としてスルー。
もちろん索敵のスキルアップのため、レーダーを使いピクチャーコアやレコーダーコアの記録も取る。
最初にヒットしたのは四腕熊だ。
体長二.二メル、四本の剛腕に強靭な体、身体強化のパワーアップで敏捷性もある。
爪や牙も鋭利で、皮膚と体毛の防御力が異常に高い。魔法力を注ぐと針のようになる。触るな危険だ。
投てきもあって、つかんだものを強化して投げつけてくるらしいんだけど、基本は肉弾戦だ。
個体によっては威圧もあるが、こいつには無さそうだ。
強さは“47”とかなりの強敵だ。
「最初は一人でやってみたいんだけど」
「ありゃ、つえーぞ。策があるのか」
ガーランドさんにお願いしてみたら、好感触だった。
最初は距離感も微妙だったけど、気安く会話ができるし、僕のことも奥さんのマールさんと一緒で“セージ君”と呼ぶようになった。
「上からドリームワールド、ダメなら石散弾かな」
唯一の弱点は木登りが苦手。
ある程度は登れて、ジャンプ力もある可能性がある。
投てきがどれほどおものかわからないけど、投げるものが無い場所を選択すれば僕的には相性の良い魔獣だ。
了解を得て<マルチシールド>に『隠形』を発動して<スカイウォーク>で中空を走る。
<イリュージョン>
僕の幻影を作ると、追いかけてくる。
開けた場所に誘導して、ゆとりを取って五メルほど上から、
<ドリームワールド>……<ドリームワールド>……<ドリームワールド>……<ドリームワールド>
四発を放つが、もうろうとするも意識はある。
もう一度と思った時。
ゴワーーーッとテトラベアが叫んで、四本の腕を振り回す。
自分を殴って覚醒を促す。
それと、土をすくって投げつけてくるが、イリュージョン相手だ。
<ステップ>
何かあるといけないから足場を増やしておく。
案の定、連続した足場のスカイウォークが破壊される。
<ステップ>
退避して、もう一度。
<ドリームワールド>……<ドリームワールド>……<ドリームワールド>……<ドリームワールド>……<ドリームワールド>……<ドリームワールド>
六発、様子見で、……<ドリームワールド>……<ドリームワールド>、追加の二発。…で眠った。
こうなればテトラベアに身体強化は無い。
アイテムボックスから銀蒼輝を抜いて<ウルトラソニック>を補助して、身体強化を最大までアップして真上から心臓を一突き。
いったん退避して石をぶつける。
強い魔獣だと、死亡直後は魔法力や魔素が体内に残っていることあ多いから、死亡を確認するのが難しい。
それでもしばらく看破と鑑定で確認していると、体内魔法力や魔素が若干低下してきているように見受けられる。
近寄って蹴飛ばして動かなかった。
最終的にはこういった直接手段に頼った方が早い。
冷やして簡易的に解体。
内臓や無価値の部分を捨て、魔獣核を取って後はアイテムボックスだ。
熊の胆嚢は日本の漢方薬と同様、薬として珍重されているので、それは単独でアイテムボックス行きだ。
チョット誤算、これだけでアイテムボックスの収容の総重量の四分の一程度になってしまう。これで三日間持つのか心配だ。
リバイブキャンディー二個を食べて、レーダー開始。
ああ、そういえば、魔法量回復のリバイブキャンディーの次の物を見つけなきゃ。
少々森の奥に入って発見したのは灼熱鎧猿の二〇匹程度の群れ。
「二〇匹のレッドアーマーです」
「逃げるぞ」
すかさず逃走。
強さは一匹“20”弱程度だが、アルマジロのような鎧状の皮膚。興奮すると鎧が真っ赤に熱を帯び、身体強化に敏捷で、連携を取りながら襲ってくるから厄介だ。
ホワイトデビルマスコット。
クリッとした瞳に真っ白な体毛。
見た目は大きめのメガネザルのような可愛いぬいぐるみだけど、柔らかい体毛には毒がある。細い爪と牙にも猛毒が。
発見したので一度見てみようと<マルチシールド>で近づいたが触る気はしない。
ちなみに魔獣じゃないけど、猛毒のため魔獣扱いされている。
近縁種でグリーンデビルマスコットとフサオデビルマスコットもいる。
数が少なく珍しい動物だ。
毒蛾の数匹の群れは火魔法で焼き払った。
森林の中だからあまり火魔法は使いたくないけど、毒の鱗粉が飛び散ることを考えると仕方がなかった。
腐敗臭を放つロットスカンクを遠くで見て逃げた。
見た目はスティンキーゾリラとそっくりだが違う種だそうだ。
今日の狩りというかレーダーのスキルアップは終了して、モモガン川沿いの小さな集落、モラン村だと知った。その一角で野営は前回と同じだ。
モモガン川沿いのモラン村を含む小さな集落群は陶芸の産地だそうだ。モモガン川沿いの良質な粘土が冬季には最適なんだとか。
前回のキャンプじゃ気にしてなかったけど、登り窯って初めて見た。
狩った野ウサギや野草に果物で夕飯だ。
今日の狩りは最初のテトラベア以降、魔獣との遭遇運が悪かった。
歩き回ってレーダーで疲労したが、それより、もやもやした消化不良のような気分があって、楽しいはずのキャンプが今一歩楽しめない。
夕飯はおいしいんだけど食が進まなかった。
むしゃくしゃ感をレーダーをはけ口にして思いっきり使って魔法量を“0”にしてしまった。
本当は火魔法を思いっきりぶちかましい気分だったんだけど。
気持ち悪いまま、ふてくされて就寝した。
さすが五才、こんなこともたまにはあるさ。
◇ ◇ ◇
一六月一九日赤曜日。
起きて体を動かす。
魔法の枯渇で寝て起きても、ここ最近はあまり気持ちが悪いことはない。
起きていて枯渇になっても耐えられるほどだから当たり前かもしれないが。
あと、一時期睡眠を六時間くらいに減らして魔法陣を作りまくったことがあったけど、やっぱり五才の子供の体。体調が今一歩よくなかった。
現在は最低でも八時間。できれば九時間は眠るようにしてる。
睡眠中って、体を成長させるだけでなく、体や細胞をメンテナスしたり治癒する作用も在って、ただ単に起きているときよりもエネルギーを使う。……無駄知識だ。
やっぱ、子供は寝ないと。
体力はあるから昼寝をしなくても良い体になっちゃたけど。
昨日とは別の場所に魔導車を止め、モモガン森林に分け入っていく。
レーダーも昨日とは打って変わって反応があった。
もちろん小物魔獣はスルーしてだ。
一番近いのは高熱狐。
小熱球を飛ばし、体に熱を発し、爪と牙は高熱となる。森林の中だっていうのに火魔法持ち、発熱系の魔獣が多いこと。火事にならないのか。
耐火毛皮は高級な魔獣素材だ。ちなみに肉は臭くてうまくない。
あくまでも書籍の知識だ。
「<スカイウォーク><マルチシールド>」
僕はアイテムボックスから盾を取り出し空中を駆ける。
あまり接近し過ぎないように気を付ける。
飛んでくる小火球はまともに受けずに避けるが、それでもよけきれない小火球はマルチシールドで左右斜めに受け流す。
ファイアーフォックスの動きは早く、空中を走る僕を回り込むように小火球を放ってくるから厄介だ。動き回るから魔法を放つ隙が無い。
その間に隠れながらマルナ先生が弓矢の援護が飛ぶ。
「<ストーンバレット>」
石の雨を降らすが、よけられてしまった。が、ストーンバレットに気を取られたファイアーフォックスの体に矢が刺さる。
「<ドリームワールド>」
接近したリエッタさんの援護も届く。眠らさなくてもいい。黒い霧で目隠しをするだけで。
「<ファイアーショット>」
僕の魔法に気を取られたファイアーフォックスの止めをさしたのはガーランドさんだ。
瞬時に距離を詰めバットルアックスの一撃で首を切り落とした。
次のダッシュホッグは三度目の戦闘だ。
「慣れた時が要注意だ」
ガーランドさんから薫陶をいただいた。
気を引き締めて立ち向かう。
ブホーーンと突進してきたところを、三枚重ねのマシマシの粘着壁で捉えて、黒銀槍で突き刺して倒した。
ヤッパリ、空中殺法と相性が良い。経験値稼ぎにもってこいだ。
もう一匹索敵した魔獣は遠ざかったようでレーダーに引っかからなくなった。
レーダーを鍛えながら小物を狩った。
魔導車で少し離れた安全地帯で昼食を摂って軽く休憩――僕は仮眠――もした。
「まだいけそうか」
「はい」
心配するガーランドさんに、本当に五才ですか、とあきれるマルナ先生。
狩りを続けた。
レーダーで発見したのは手長エイプ六匹。
猿型のほぼ全てが集団型で腕力が強い。手長エイプはそれに雄たけびよる錯乱があるから厄介だ。
ガーランドさんの、逃げるぞ、の指示に従った。
午後は小物ばかりで、あまりいい魔獣(獲物)に出会えなかった。
今日最後の獲物でアイアンアルマジロを発見した。
身にまとった装甲を硬化してダッシュして体当たりをする。
生半可な剣じゃ切れなく、細長く鋭い尻尾が曲者で、よけたと思ったら切られているらしい。
強さは“36”とアイアンアルマジロにしては、かなり強い。
「僕やりまーす」
こういうのは大好物だ。
太い木を背に<スカイウォーク>
空中に駆け上がる。
鋭い尻尾は左右にはよく動くが、上方へはあまり動かせなようだ。
注意深く観察も怠らない。並列思考のなせる業だ。
それと同時にドカンとの盛大な音。
振り向いて、
<ドリームワールド>……<ドリームワールド>……<ドリームワールド>……<ドリームワールド>……とまだ動くか。
<ドリームワールド>……<ドリームワールド>
眠ったためにできた鎧の隙間に、火魔法を補助した銀蒼輝を突き入れ魔法力を流す。
やったと思った瞬間、ビシリと背中に衝撃にシビレがあった。
「痛くねーか」
ガーランドさんたちが駆け寄ってきた。
「はい、大丈夫です」
尻尾の一撃だった。
空間認識を絞り込んで自分を確認したら、皮鎧が大きく裂け、鋼線が織り込まれた簡易チェーン下着も一五センチメルほど切り裂かれている。
その下の皮膚や肉が結構切れている。チョット深そうだ。それと血が結構出てる。
「<ビッグウォーター>……<ホーリークリーン>」
まずは洗浄と清浄によるバイ菌処理だ。
「<リライブセル><ハイパーヒーリング>」
光魔法のレベル3の細胞復活に、レベル5の細胞再生速度向上を行うと、痛みが引いていく。
流れたちも消えるが、次から次へと血が流れてくる。
できればレベル6のリライブセルを行いたかったけど、光魔法はレベル5までしかできない。
「<リライブセル><ハイパーヒーリング>」
ほぼ出血は止まったが、まだ血がにじむ。シビレもまだ残っている。
血を流しすぎたのか疲労感で、だるいし、眠い。
魔法の残量や体調を見てもう一度。
「<リライブセル><ハイパーヒーリング>」
完全に血が止まったけど、完治には程遠い。
治癒を加速するだけで、完璧治癒ができないのがこの世界の治癒魔法だ。
リバイブキャンディー二つに携帯食のハチミツをなめてもう一回。
「<リライブセル><ハイパーヒーリング>……<アクティブセル>」
それと身体魔法のレベル1の細胞活性化を魔法力マシマシで行う。
それを体内の魔法力と魔素の循環を高めレベル2、そしてレベル3へと上げた。
そして背中の傷に集中させる。
自己治癒力を高めて、直りを加速させる方法だ。
ただし、体内エネリギーを消耗するので、疲労が一気に加速する。
それでも、シビレがようやく収まった。
<ビッグウォーター>……<ホーリークリーン>
血は洗い流して清めて綺麗になりたい。
魔法は残っているので、気力を振り絞ってレーダーで周辺を監視する。
「魔獣はいなそうです」
「ああ、わかってる。黙って休んでろ」
ガーランドさんが周囲を監視する中、上半身裸になる。
「傷はしっかり治っています」
え、そんな早く治るはずないが?
リエッタさんも「治ってますね」と不思議そうだ。
チョットいいですか、と傷口を押された。軽い鈍痛があったけど、そんなに痛くなかった。
だけど、流石にもっと時間が掛かるはずだ。
これですよね、と切れた簡易チェーン下着をまじまじと見ながら僕の背中を眺める二人。
不思議がりながら、マルナ先生が包帯を巻いてくれた。
僕も疑問に思いながらも、新しい簡易チェーン下着に、切れた鎧を着る。さすがに予備の鎧までは用意してない。
それにしてもだるい。
「撤収するぞ」
僕はリエッタさんの背中で眠りについて、魔導車に向かった。
夜中にテントの中で起きた僕は、メチャクチャお腹が減っていて、リエッタさんの介護の下、しこたま食べた。
<リライブセル><ハイパーヒーリング>
治ったと言われても、鈍痛があったし、気になって再度自分を治癒した。
防御力がもっと必要だと思いながら、また眠りに落ちた。
◇ ◇ ◇
一六月二〇日青曜日、気分快適な朝。
ただし外はザーザー降りの雨。
「帰るぞ」
ガーランドさんの有無を言わさない一言で、軽食を摂って帰路についた。
昼頃に帰宅すると、ホーホリー夫妻とリエッタさんに、ママがメチャクチャ謝罪と感謝をした。
ママに上半身裸にされ、跡形もなくなっている背中の傷をこれでもかってほど観察された。
「思っていたより軽かったみたい。もう直っちゃったみたい」
ママもいつかはこうなると腹をくくっていたそうだが、それでも怪我をして帰ってきた息子に、「狩りをやめませんか」って言ってきたけど、
「ごめんなさい。自分のためにも続けます」
僕はやめる気はなかった。
「今日は絶対に安静にしていなさい」
ママもある意味、諦めているところはあるみたい。
昼食後は、読書と剣と魔法練習して過ごした。
うれしいことに、魔法核と魔法回路がレベル7になっていた。
格上のテトラベアを、誰の手も借りずにたった一人で倒したためだろうか。
【基礎能力】の総合:“44”、体力:“62”、魔法:“151”とこちらも大幅にアップした。
【魔法スキル】もアップしたし、不思議なことに生活魔法までアップしている。
【耐性スキル】は毒耐性がアップして“斬撃”、“打撃”、“刺突”のスキルが増えた。
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【セージスタ・ノルンバック】
種族:人族
性別:男
年齢:5
【基礎能力】
総合:44
体力:62
魔法:151
【魔法スキル】
魔法核:7 魔法回路:7
生活魔法:3 火魔法:6 水魔法:5 土魔法:5 風魔法:6 光魔法:6 闇魔法:5 時空魔法:6 身体魔法:5 錬金魔法:5 付与魔法:5 補助魔法:4
【体技スキル】
剣技:4 短剣:2 刀:4 水泳:2 槍技:2 刺突:2
【特殊スキル】
鑑定:2 看破:3 魔力眼:3 情報操作:2 記憶強化:2 速読:2 隠形:1 魔素感知:2 空間認識:1 並列思考:1
【耐性スキル】
光魔法:4 時空魔法:4 魔法:3 幻惑:1 全毒:1 神経毒:2 斬撃:1 打撃:0 刺突:0
【成長スキル】
基礎能力経験値2.14倍 スキル経験値2.14倍
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思わずベッドの上で飛び跳ねてしまい、天井に頭おぶつけてしまって、ベッドの上で頭を抱えてうずくまってしまうというドジもしてしまった。
でも、うれしい。