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次元災害で異世界へ  作者: 真草康
魔獣対策魔道具研究所設立編
45/181

44. ボティス密林からの魔物


 一六月七日赤曜日。

 索敵がなかなか取得できないので、気分転換に今日は狩りを中心に活動することになった。


 幾つもの若手冒険者たちが広いララ草原で狩りをしているところを見かけるのはいつものことだ。

 冒険者ギルド長のボランドリーさんの情報によると、ボティス密林は調査中で、魔獣が増えていることは確認できてないそうだ。

 その情報で安心してはいないし、緊張を持って狩りを開始した。

 ここ最近のことだがとにかく感覚を鋭くして、周辺を敏感に感じ取ることだけは心掛けてだ。


 なんとなくだが今日は魔獣が多い。

 メガネウラはショートスピアで薙ぎ払い、マッドバニーはショートスピアで突き、メタリックビートルはキチン質の外殻の隙間、急所を切れ味アップを補助した銀蒼輝で突いて殺した。

 ここ最近エルガさんやリエッタさんも積極的に単独で狩りをしていて、今日はルガさんはメガギリス二匹を、リエッタさんもメガネウラとパフアダーを狩っている。エルガさんも時には強い魔獣も狩っている。

 休憩しようとしたのだが、ボティス密林から彷徨(さまよ)い出てきたのか、アイアンアルマジロを初めて見つけた。


 固い鎧を身にまとい、強固な長い爪は岩をも砕く。身体強化でその鎧や爪を更なる強固さを持たせ、丸めた体で体当たり、地を這うような体制からの突き刺しを主な攻撃手段とする。


 敏感になった感覚と看破と鑑定を併用してジックリと確認すると、アイアンアルマジロの概ねの強さは“30”と僕と同程度だ。体力が“60”程度で、魔法量が“45”程度と体力が高めだ。

 他には()三才(・・)と不要な情報も確認できる。

 スキルレベルは上がっていないが、瞑想を頑張ってきた結果だ。


 アイアンアルマジロがこちらを認識したのか、脅威度が跳ね上がる。

 体中の何層にもなった鎧のひだが伸び、強固になった体で突進してくる。

 僕はショートスピアをピンポイントで強化して、ヤーッ、と突き刺して戦闘を開始した。

 ガツンと激突してお互いの攻撃が止まる。

 かってー。手がしびれる。

 身体強化していても、僕の体は小さく軽いから押し負けてる。


 ここで無理はしない。

 体を斜めに開き、ショートスピアでアイアンアルマジロをいなしながら横を駆け抜ける。

 振り向いて、ショートスピアで再度の攻撃。

 鎧の切れ目に斜めに突き刺す。

 少し角度を付けて見た攻撃は、鎧の一部をガリッと削る程度で決定打には程遠い。

 アイアンアルマジロは長い爪を振り回して応戦してくるが、ショートスピアのリーチの差で僕に触れない。

 またすり抜けて、アイアンアルマジロが振り返るより早く突きを入れる。

 ガツン、ガリン、と鎧を地味に削るだけの均衡した攻防が続く。

 チョット面白い。


「<ドリームランド><ウインド>」

 見るに見かねたのかリエッタさんが、魔法力を込めた魔法を放つ。

 アイアンアルマジロの動きが鈍くなる。

 そして伸びていた鎧のひだがもとに戻り隙間が発生する。

 ヤーッとそこにショートスピアを突き刺し、ファイアーを込め、アイアンアルマジロに止めを刺す。


 体術と剣技・槍技だけで戦いたかったのに、ピンチでもないのに、何でとリエッタさんを見る。

「私がお願いして眠らせてもらいました」

「どうも様子がおかしそうです」

 最初に答えたのはヒーナ先生で、リエッタさんが周囲を見てくださいと指差す。

 夢中で気づかなかったが、少し離れている場所でゴブリンが何匹も眠っていた。

 魔力眼や魔素感知を使用しながら遠くを眺めると、多くの者冒険者が戦闘中のようだ。

 遠くて判別できないが、強めの魔獣が何匹か確認できる。


「このゴブリンもそうですが、多くの魔獣がボティス密林から出てきたようです。

 急いで撤退しましょう」


 アイアンアルマジロを<ハイコールド>で氷温にしてアイテムボックスに放り込む。

 寝ているゴブリンは放っておくしかないとも思ったが、念のため止めを刺した。

 魔導車のカムフラージュと魔術ロックを解除して走り出す。


 ボティス密林からかなり離れているが、いつもと違う状況、周囲の警戒に神経を研ぎ澄ます。

 ララ草原を駆ける複数のゴブリンの群れの中にはカラーゴブリンも数匹いるようだ。

 中にはゴブリンの群れの中に巻き込まれるように冒険者が入っていて、どこか滑稽だが必死だ。

 何、何故、と思っていると、エルガさんがアクセルを踏み込み、魔導車のスピードを上げる。

 装備や獲物が重く、大きな茂みを避けながら走る若手冒険者が徐々に遅れだす。

 それに反して小柄なゴブリンは思ったより早い。ゴブリンの村が崩壊したのか、相当数のゴブリンだ。

 それに巻き込まれたのか見かけない魔獣が入り混じっている。


 走りにくい草原では、魔導車もあまり速度も上がらないが、もうすぐ街道だ。


 看破が強烈な反応を捉える。

 デスゴブリン? と思ったが、更に強いビティオーガだった。それがバラバラと数匹出現した。全部で七匹。


 ビティオーガ、小型オーガだ。

 ゴブリンは子供サイズで僕と一緒程度だ。

 魔法を使うカラーゴブリンは二回り程度大きく中学生程度、身長的にはオルジ兄と同程度だ。

 ただ、強さ的には“15”~“23”程度と、ララ草原の最強クラスとされる“20”台前半内に収まる程度だ。

 ビティオーガはそれよりワンサイズ大きく人間の大人程度だが、強さは格段で“40”前後とララ草原の魔獣を凌駕する。

 赤銅色の固そうな肌がまがまがしい。小さいながらも一本や二本の角がある。

 オーガは昆虫型魔獣を狩って、そのキチン質の外殻を利用して魔獣独特のスキルで武器を作成する。


 その武器に魔法力を乗せた攻撃や防御が主な攻撃であり防御で、共に強力だ。

 ビティオーガの手にも様々な武器が握られている。

 看破で見た限りカラーゴブリンの強さは“15”~“23”程度と知識の通りだ。

 そしてビティオーガの強さは“40”程度と約倍だ。

 本格的な戦闘では脅威度が増す。

 遠目には、武器を持った赤銅色の肌で見分けがつく。

 精神を集中すると、距離があっても、そのような一五匹ほどの反応を捉えた。

 そして、その他の多くの反応、百匹弱のゴブリンに、数多くの冒険者も感じ取れた。

 それとは別の魔獣もちらほら散見できる。


 リエッタさんに手を引かれ、魔導車に乗って避難を開始する。


 冒険者として活動が許可される初等学校生から戦闘力の弱い上級学校生に仮成人がなれるのがお手伝い(ランクG)とされる者たちだ。

 強さ(総合)は“12”程度からで、戦闘が行なえるか、自分の身を守る手段を持っていることが最低限の条件で、冒険者ギルドで判定される。

 見習いとされる仮成人や上級学校生がなれるのがF級冒険者(ランクF)で、強さは“18”~“23”とされ、強いとカラーゴブリン程度だ。

 駆け出し冒険者のランクE(赤)が上級魔法学校の卒業生レベルの“25”前後で、許可をもらった上級学校生もなることは可能だ。

 若手冒険者とされるランクD(青)になれるのが“35”前後とされ、中堅冒険者――ランクD後半で強さが“40”を超える――にしてみても、一匹のビティオーガでも脅威だ。

 安全を考えれば、若手を卒業しかけの冒険者複数人で、一匹のビティオーガの対応をするのが通常だ。


 追われていた原因が判明したが、これだけの魔獣。

 見えていない魔獣を考えるとどの程度の魔獣がいるのか、とてもじゃないが、救援に向かえる状態じゃない。

 それは分かるけど、見習い冒険者のランクF、駆け出し冒険者のランクEから、若手冒険者とされるランクDあたりが多いララ草原だと、ビティオーガに対抗できる冒険者がほとんどいないから心配だ。

 お手伝いと言われるランクGがララ草原に居ないことを願うだけだ。


 そんなことを考えながら車外を眺めていたら、

「まずは報告です」

 ヒーナ先生に、ガッシリと抱きしめられてしまっていた。

 久しぶりのボヨーンだが記憶にも無いし、堪能もできない。

 外が気になってしまう。

 そうはいっても、ヒーナ先生の言葉に従うしかなさそうだ。


 街道に出ると道が良くなる。

「いっちゃうよー」

 エルガさんが緊急スイッチを押し、更なる速度アップを行う。

 魔導車も短時間ならば二五キロメル程度の速度は出せる。

 エルガさんはやけにうれしそうだが、一気に揺れが激しくなって、乗り心地が悪くなる。


 しばらく街道を走ると、セイントアミュレットに守られた農村と穀倉地帯に入る。

 追ってくる魔獣はいないようで、エルガさんが速度を落とし緊急スイッチを解除する。


「ビティオーガが街に攻めてきたってことなんでしょうか?」

「さあ、狩りの一環としてでしょうか」

「ララ草原までという可能性もありますから……」

「何度もこんなことがあたっりしちゃうの?」

「私もオーラン市に住んで一年程度ですが、聞いたことはありませんね。ただし、ララ草原に関してはわかりませんが。

 セージ君は聞いたことはありますか?」

「なにも知らないし、本でも読んだ覚えはないよ」


 魔導車は手近な農村の村長宅へ急を告げる。

「ボティス密林から何匹ものビティオーガが、多数のゴブリンなどを追いかけて出現しました。私たちは逃げ出せましたが、何人もの冒険者が戦闘中です」

 その報告は、直ちに近距離電話(マジカルフォン)で行政府や冒険者ギルドに報告される。


 オーラン市に戻る途中、武装魔導車――魔導砲を装備――五両、突撃魔導車――巨大な魔導槍を装備――三両、フル武装の警備隊を乗せたトラック三両とすれ違った。

 応援要請に対する行動は素早いようだ。


 帰宅して休んだのだが。

【特殊スキル】に“空間認識:0”が発生していた。

 ヤッターと思う反面、しくじっちゃったのかとも思ってしまう。


 とにかく、確認してみるかと思って“空間認識”を発動させる。

 ブワーッと周囲の状況が頭の中に広がった。


 頭の中の映像をよく観察すると、大雑把な状態、簡易モデリングのようなものがだった。

 モデリングの一つの物に集中すると部屋の形からテーブルや家具程度と、それなりのサイズのものなら色や形までもが、ある程度だが認識できた。

 隣のミリアの部屋の状況や、その隣のオルジの部屋の概要が理解できてしまった。

 覗き、変態、と思わなくもなかったが、それ以上に“空間認識”の能力に驚いてしまって、やめられなかった。


 階下や三階に屋根の上に窓の外と、どうやら認識できるのは半径一〇メル弱のようだ。

 曖昧な感覚を含めると更に四~五メルほど広がる。

 階下で生体反応、メイドさんが通り過ぎた。

 オモチャが動いてるみたいで、なんだか愉快だ。

 空間認識で認識した生体反応に看破と鑑定を併用する。

 名前・種族・年齢・性別・おおよその強さ・体力・魔法力が表示される。

 それは部屋の家具などに意識を集中しても一緒で、意識を集中したものの名前が表示される。

 壁に近寄って意識を一点に集中すると、壁などに隠れた小さな虫が認識できたが、直ぐにやめた。

 一気に情報量が増えたからだ。まるで頭の中で大洪水が発生みたいだった。

 ふう、息を吐いて気持ちを落ち着ける。

 どうやら認識できるサイズを調整できるようだ。


 しばらく楽しんでから、ふと気づいた。

 ララ草原ではもっと遠くまで感じらていたような……って思って、あ、魔力眼で見てたんだっけと思い出すが、なんか違っていたような気がしないでもない。

 魔力眼でも発見した魔獣を看破や鑑定で見ていたのは確かなのだが…。


 そうこうしながら工夫していると“空間認識”を、見ている方向に拡張できることに気付いた。

 感覚的にはララ草原を抜け出した時の遠くを見ている感覚に近い。

 ただし、前方に“空間認識”を伸ばすと、その半面後方と左右が縮んでしまう。前方に伸ばせば伸ばすほどだ。

 鋭く伸ばすと最長で七〇メル程度になった。曖昧な感覚を含めるともう二〇メル程度伸びる。

 それに魔力眼を加えると更に三〇~五〇メルメルほど伸ばせた。


 空間認識と看破などを組み合わせると、なんだか相手が気づきにくいような気がした。


 それと空間の詳細が認識できるのは、ほんの一メル程度までだった。

 一点に集中して引き延ばしても二メル程度だ。


 その後セージは、新たに芽生えた“空間認識”スキルで、魔物を索敵することができそうなことをパパ・ママ・エルガさんに報告した。


 なんとか魔獣の監視装置のめどが立ちそうだった。

 そして、エルガさんが張り切って設計を開始することになり、ノルンバック・ウインダムス魔獣対策魔道具研究所が本格的に動き出した。


  ◇ ◇ ◇


 ララ草原のその後をパパやリエッタさんなら知ってるかなと思って訊ねてみたけど、渋い顔をされて何も教えてくれなかった。

 多分何人もの冒険者が……と思ってしまう。

 せめて怪我程度で復帰できればいいんだけど。


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