42. ノルンバック・ウインダムス魔獣対策魔道具研究所
一五月一九日赤曜日の朝からオーラン・ノルンバック魔獣対策魔道具研究所に冒険者ギルドのギルド長のボランドリーさんが押しかけてきた。
オーラン・ノルンバック魔獣対策魔道具研究所。
ノルンバック家の客間と隣の倉庫を開けた二部屋がそれだ。
僕はヒーナ先生の付き添いで、朝の稽古で出かけていていない。
◇ ◇ ◇
オーナー兼代表がパパで、ママが副代表、所長がエルガさん。所員が僕とリエッタさんだけという、本当に研究所? と言いたくなるようなものだ。
もとい、もう二人所員がいる。ミクちゃんのママのマールさんとミクちゃんだ。
商業ギルド扱いの研究所で、冒険者ギルドの正式依頼で開発に携わる僕が、名目上無給で正式所員でも無いとなるとさすがに問題だそうだ。
冒険者のようにはいかないんだそうだ。
ミクちゃんの祖父、ウインダムス総合商社のオーナー兼商業ギルドの副ギルド長でもあるウインダムス議員に内緒で所員としてねじ込んだ結果、わしんところも一枚かませろ、ワハハハ、となって、渋るパパに、それじゃあミクちゃんも所員だなとなったわけだ。わけわからん。
ミクちゃんの代案は姉のロビンちゃんだったそうだが、それならばミクちゃんになったそうだ。本当にわけのわからん爺さんだ。
当分は非常勤で勤務無しでいいんだそうだ。
それらは昨日の打ち合わせで決まっていたことだ。
そんなこととはつゆ知ららずに僕とミクちゃんは稽古にいそしんでいた。
あとはエルガさんのお兄様のロナルディアさんが一回状況確認で来るんだそうだ。それは朝食の時に告げられた。
◇ ◇ ◇
応接室で僕のパパと一緒にエルガさんとリエッタさんが対応している。
「用意したのはこれだが確認してくれ」
ギルド長がフェイクバッグから魔電制御装置、魔充電装置、魔電発生装置と魔電装置一式といわれる物を出す。
腰に下げた別のフェイクバッグからは魔石レンズに記録魔石、画像記録魔石、魔石どうしを接続するミスリル銅線やミスリル銀線、種々雑多な魔石を取り出す。
「あとこれとこれだ」
胸ポケットから一個の認証合魔石を取り出し、エルガさんに渡す。
それと地図が一枚。
「チョット待ってくださいね」
認証合魔石をかるく見て、
「エルドリッジ製、マギコートⅡ、最新じゃないですか。ナイスです」
「よくわかるな」
「そりゃー何てったて、研究所育ちですから」
慣れた手つきで今度は合魔充電装置を確認する。
「あれ、これチョット変ですよ。接続ケーブルが一本足りません。
あーこっちは切れかかってます」
「そうなのか。魔導車の合魔充電装置を無理言って取り外したからな。
また新しいものをよこすからチョット待ってろ」
「いえ、構いません。タイプⅢの絶縁ケーブルを二本用意してもらえれば。
それとは別に予備の絶縁ケーブル、できればタイプⅡとⅢを五本ほど。
工作用のケーブルやチョットした物を用意してください」
エルガさんがギルド長に渡した紙には絶縁ケーブルの他、ミスリル金線、普通の銅線に銀線、筐体となる魔法シールドケースとそのサイズ、それと魔石レンズが五個などが書かれていた。
それと驚いたことに電気部品の抵抗にコイルにコンデンサーもある。
もちろん集積回路などという存在はない。
いうならば増幅装置の代わりに電増魔石を使用するそうだ。サイズからすると真空管だ。
そりゃー近距離電話や近距離電話が大型化するよね。
加工機械や計測機材などはオーラン・ノルンバック船運社からの借用で、すでにパパと打ち合わせ済みだ。
まあ、冒険者ギルドにそんなものまで用意できるとは思っていないのは確かで、足りないものはウインダムス総合商社に交渉中だそうだ。
電増魔石(真空管)があるんだから、当然、抵抗にコイルにコンデンサーなどもある。
「魔石レンズのサイズは?」
「四センチほどあれば構いません、小さすぎると困りますが多少は大きくてもOKです。
あー、また雑多な魔獣石ですねー。
あれ割れてるのも」
「ああ、すまん。適当に良さそうなものを見繕って使ってくれ。
中にはいいやつもあると思うが、そいつも使っていいし、なんかあればまた言ってくれ」
「了解です。
で、場所がここですか」
地図を手にして場所を確認するが、今一歩、いや、三歩ほど不安そうだ。
「リエッタさん、場所わかります?」
リエッタさんが地図を受け取りしばらく眺める。
「ここががマダラニシキヘビと戦った場所で、ここが良く行く場所ですね。
それからすると、ええ、ここは大体はわかりますが、あとの二か所は分からないですね」
「そうか、それはいずれ案内しよう」
「よかった。そえじゃあ、この地図はリエッタさんが持っててくれる」
「ええ構いませんが……」
「ああ、大丈夫だ。ギルドの中でも秘密じゃないからな。
無くさないように気を付けてくれればいい」
「わかりました、預からせていただきます」
その後の打ち合わせで、記憶媒体は交換にすると現地での手間が省け、持ち帰ってから解析ができるとなって、記憶用魔法石の数が倍になった。
そして解析装置は小型にする必要が無くなったが、計測の強化――あくまでもエルガさんの頭の中で――が必要だということになった。
エルガさんは、しばらくは現地調査で出かけることが多い旨も伝え、ボランドリーさんが了解する。
もちろんセージの、目指せ索敵ゲットだぜのためだ。
届いた荷物はしばらく倉庫で保管だ。
午後には、大工の棟梁がきた。
魔獣対策魔道具研究所用に二つの部屋を改修するための打ち合わせだ。
改修は棚を作って、作業台の設置程度だそうで、明日から大工さんが入って、数日でできそうだった。
正式には庭の小さな小屋を取り壊して、母屋とつないで魔獣対策魔道具研究所を建てる予定だ。
そっちの打ち合わせや建て替えは、魔獣対策魔道具研究所の状態や作業状況を見てからとなる予定だ。
◇ ◇ ◇
一五月二〇日青曜日。
魔獣対策魔道具研究所用の改修が始まった。
仮の作業部屋だから棚やテーブルの設置が基本で、それは難しいことはない。
難しいのは、魔法力の絶縁部屋を部屋の中に作ることだ。それに関しては床にエルガさんが線を引いて「これくらい」とアバウトなものだ。それより絶縁がシッカリしていることが重要だ。
それらは家宰のドルホさんお任せだ。
昨日の打ち合わせにも立ち会っているから、問題ない。
剣の稽古が終わった後、ウインダムス議員に招待されて、海岸が見えるレストランの特別室に来ている。ここに来るのも三度目、オケアノス祭以来だ。
パパと僕、そしてエルガさんとリエッタさんだ。
ママはパパの代わりに商用で出かけていった。
対してウインダムス議員側は、ミクちゃんのママのマールさんとのミクちゃんだ。
オーラン・ノルンバック魔獣対策魔道具研究所、改め、ノルンバック・ウインダムス魔獣対策魔道具研究所のキックオフだ。
どうなってそうなったのかよくわからないけど。
オーナー兼代表がパパで、所長がエルガさん。副所長がマールさんと僕で。所員がリエッタさんとミクちゃんで、ウインダムス議員は相談役となっていた。
いいのかこれで。頭痛っ。なんで副所長? 役員四人に所員二人もなんじゃこりゃだ。
冒険者ギルド長のボランドリーさんは開発製品の優先権利と割引権利を得ることで合意をしたそうだ。
ママに教えてもらったことだが、ヴェネチアンの政変で亡命して会社を作って、伯父様の応援をと、その協力者がウインダムス議員で、裏でずいぶん動いてくれたんだそうだ。
パパにママだけだなく、ある意味伯父様も頭が上がらいところがあるそうだ。
一時期リンドバーグ叔父さんの面倒を見て、商売を教え込んだのもウインダムス議員だそうだ。
恩人も恩人。大恩人じゃないか。
「あれ、おじちゃん?」
「ああ、そうだ。フォアノルン伯爵んところのちっこい嬢ちゃん」
「ああ、ヤッパリそうだ」
「エルガさん、知り合いなの?」
「うん、ボクがここでしばらく住んでた時、遊びに行ったお店でいろいろ教えてもらったおじちゃん」
どうやら、政変で身を潜めていた時に、知り合ったようだ。
「こやつは、店が忙しいっていうのに、毎日遊びに来てはわしの邪魔ばかりしていたとんでもない嬢ちゃんじゃ」
「何をおっしゃいます。毎日熱心に魔道具を説明されったじゃないですか。
店に顔を出しては、伯爵んところのちっこいのは、ごめんなさいね、来たかっておっしゃられてたじゃありませんか」
マールさんが途中、エルガさんに頭を下げる。
「魔道具に興味を持つ男の子みたいな変わったちっこい嬢ちゃんが、面白かっただけだ」
ウインダムス議員は認めたくないようだが、仏頂面が物語っている。
「あの時は、お世話になりました。おかげで研究員なんてものになっちゃました」
あっけらかんとしているエルガさんは、今日も元気にぼさぼさ頭にツナギ姿だ。そばかすも健在だ。
みんなが笑う中、パパ一人だけ苦悩に顔をゆがめている。
そういえば、オーランにいた時に好きなとことに行ったきりって……そうだったんだ。
僕はマジマジと仏頂面のウインダムス議員と、ニコニコ顔のエルガさんを見てしまった。
「話は食事をしながらだ。席に着け」
食事が始まる。
トレーに乗った料理は品数が豊富だ。
海魔獣の照り焼き風ステーキ、魚の粕漬焼き、天ぷら、きんぴら、サラダに漬物、お味噌汁と前回と同様和定食のようだ。
僕の料理はやや少なめで、ミクちゃんの料理はもうチョット少なくしてる。
この前と違って今日は味わうゆとりがある。
パパもしょっぱなの苦悩が嘘のように笑っている。
話からすると、エルガさんが身を潜めていた六年ほど前は、ウインダムス議員は、議員はやっていたがウインダムス総合商社の社長だったそうだ。
跡継ぎのミクちゃんの父親と母親のマールさんを鍛えている真っ最中だったそうだ。
マールさんは遠縁の娘で、ミクちゃんの父親とははとこだそうだ。
「魔法にも学問にも秀でていて才女と、名高かったんじゃ。
よく家のバカ息子を見初めたんもんじゃ」
「お義父さん」
「ほんとのことじゃ。ワハハハ…、おかげで、お前んところと同様、孫が魔法に恵まれておる」
「それほどでも」
「謙遜するな。まあ、セージほどではないがな」
僕が困った顔をするも、適当に流されてしまう。
「親の真似して謙遜するな。ワハハハ…。
ミクも魔法が使えるようになるんだって頑張っておる、なあ、おもしろいか」
「うん、おもしろろい」
「今度セージに魔法を教えてもらえ。家に呼んでもいいし、遊びに行ってもいいぞ。同じ所員だ」
「しょいん?」
「一緒の仲間、今まで以上の友達ってことだ」
「うん、わかった。遊びに行くね」
「うん。待ってるね」
チョット照れる。
「そうじゃ、海でやってる稽古な、たまには家でやったり、セージの家でやったりでも楽しいぞ」
「うん、そうする、セージちゃんいいよね」
「うん、いいけど、海を見るのも好きなんだけど」
「じゃあ、三か所で代わり番こね」
「うん」
満面の笑顔でグイグイ通してくるミクに、思わず了承、頷いてしまった。
人見知りで、引っ込み思案なはずなんだが…。
これが言質ってことなんだろうか、なんだかわからないけど追い詰められているような気がする。僕五才だよね。
なんだかんだで、本当に美味しゅうございました。
今日はミクちゃんも残さず食べられたようだ。
僕が、おいしかったね、と声をかけると、うん、チョット食べ過ぎちゃった、とにっこり笑う。
デザートはしっとり濃厚クリームケーキに紅茶だけど、僕とミクちゃんはジュースだ。
「それでエルガ殿、勝算はどの程度なのだ」
「現状、七割弱ってところかなー」
「そんなに低いのか」
「勝負は今年いっぱい。それまでに何とかならないかなーってことがあって、そうなれば九割かな」
あっ、それって僕のことだ。
「ダメだったらダメで、手があるから、それでしのいじゃおーかなって。
装置は流用、転用ができるから無駄じゃないし」
「そうか、それを確認できれば問題ない。…ガハハハハ…」
◇ ◇ ◇
キックオフの翌日の一五月二一日黄曜日。
朝からマールさんとミクちゃんが家に押し掛けてきた。まあ、押し掛けてきたわけじゃないけど。
僕は知らなかったけどマールさんは家に来たことが何度かあるそうだ。
もちろん表のオーラン・ノルンバック船運社には二、三か月に一度程度は来ているそうだから、メチャクチャ来てるって言えるかもしれない。
今日はミクちゃんをリンドバーグ叔父さん、家宰のドルホさん、メイド長のモルガさんに挨拶も兼ねて、いっしょに来たそうだ。
それと改修中だが魔獣対策魔道具研究所の見学も兼ねている。
パパは挨拶を交わすと、議員の仕事で外出していった。
オルジ兄とミリア姉がいつも魔法を練習している室内練習場、
「ミク、見せてごらんなさい」
「はい」
マールさんの言葉に従い、ミクが緊張しながら精神を集中する。
「……<ウォーター>」
そして魔法を放つ。
手に小さな水球が出現した。
その水球は、不安定で、今にも崩れそうだ。
バシャー、と手からこぼれ落ちた水球が、魔法練習に用意してあるタライに落ちるが、うまく入らず、飛び散って、ミクちゃんの靴にも雫が飛んだ。
ミクちゃんが「失敗しちゃったー」と涙ぐむ。
「大丈夫ですよ。ミクの年齢でレベル1の魔法を放てる人なんて、セージ君以外いませんから、自慢していいんですよ」
驚くママとエルガさんとリエッタさん、そしてヒーナ先生。僕も驚いた。
生活魔法を見せられると思ってたんだから。
たぶんだが、ミクちゃんは魔法核や魔法回路がほぼレベル1になって、レベル1の魔法を放てるようになったんじゃないかな。それで頑張っちゃったんだろう。
僕とミクちゃんの魔法訓練中に立ち会えるのは、パパとママはもちろんだが、魔獣対策魔道具研究所のエルガさんとリエッタさん以外では、僕の家ではヒーナ先生だけとなった。
ミクちゃんの家に行った時には、ミクちゃんの護衛兼教育係のレイベさんだけとなって、今日も同行している。
ちなみにオルジ兄のいない昼間のマルナ先生は、オーラン・ノルンバック船運社の業務の手伝いをしながら勉強中だ。
「うん、すごいよ」
マールさんが、視線で褒めてあげてと伝えてくるから、精いっぱい笑顔を作って褒めました。
「ありがとう」
ミクが涙をぬぐって、恥ずかしそうに笑う。
本当はもっと大きく、真ん丸な水球ができたんじゃないかな。
「それでは今度はセージ君ね。ドーンとやっていただいて構いません」
マールさんが悪戯顔で勧めてくる。
ママを見ると頷いてくる。
よしと思うが室内、ヤッパリ水魔法か。ちょっと工夫して。
「<ビッグジェル><フローコントロール>」
大ジェル球を僕の目の前で8の字に動かしてから、僕の周囲を周囲を回して、今度は……。
ミクちゃんは満面の笑顔で、パチパチと拍手もしてくれている。
エルガさんも楽しそうだ。……が、あれ、みんなというかママとリエッタさん、それにヒーナ先生が頭を抱えだした。
マールさんとレイベさんは愕然と顎が外れそうなんですけど……。
コントロールを失った大ジェル球がベチャッて音を立てて床に落ちた。
チョットだけ飛び散ったが、ほとんどは飛び散らずに固まているのは魔法力を込め、粘性を高めたおかげでスライムみたいだ。
これなら最初っから粘着球にしておくんだった。
デローンと広がっていく大ジェル球を慌てて魔法力を込めて『解除』と消し去る。
「セージ君、ミクさんにかっこいいところを見せたいのは、よーく、これでもかってほどよーくわかりますが、やり過ぎです」
「え、そうなの?」
「そうです。
セージ君の常識は非常識、普通は規格外です」
なんか、デジャブ、前にも聞いたフレーズのような…。
それにしても、ひどい言われよう。チョットひど過ぎない?
「レイベさん、今の魔法はご存知?」
「ええ、多分ですが、両方ともあまり使われない魔法です。
ビッグジェルは水魔法のレベル3で大きなジェル球を造り出します。床に落下してもそれほど飛び散らなかったのは、高度に粘性を持たせていたためではないでしょか。
フローコントロールは風魔法のレベル3、流体制御と言われているもので、目標物を自由自在に動かす魔法です。こちらも苦も無くコントロールしていましたので…」
「ということは……」
「はい、準高等魔法の類です」
え、そうなの。高等魔法っていったらレベル6以上だけど、準、準だよね……。
「ご自分が放った魔法が準高等魔法だって知らなかったのですか?」
「だ、だってー……」
「レベル6以上は高等魔法とされているのは知ってますよね。
二つのレベル4の複合魔法はほぼそれにあたります。
その下のレベル3だと準高等魔法になりますが、それをあんなにも簡単に操って」
「このことはご内密に」
「ええ、わかっています。まさかここまでとは」
セージ本人にしてみたらオルジ兄と一緒の狩りの時に、マルナ先生からオルジ兄に、僕がレベル3の魔法を使用した複合魔法を放てることを教えちゃったから、その程度は見せていいんじゃないかって思ってのことだった。
そう、ただ単に、レベル4を使わないから大丈夫だよね、と気楽な気持ちで。
この程度でダメだったんだ、とみんなの反応に愕然とする。
あきれるやら、頭を抱えるやらの一方、
「狩りに行っても普通に使てるもんね。
ミクちゃんすごかったでしょう」
「うん、すごかったー」
「本当はもっとすごいんだよ」
「えー、見てみたい」
「セージ君、もう一回、もう一回ドーンと。それともポンと」
盛り上がっていたりもする。
そんなことがあって、そしてミクちゃんの希望。
「わたし、セージちゃんに魔法をおしえてほしいの」
「え、僕でいいの?」
「うん、おねがい」
ミクのママさんに顔を向けるも二コリとうなずかれてしまう。
ママを見ると、仕方がないでしょうといった表情で、うなずかれた。
「わかった、でも何を教えればいいかわからないから、まずはやって見せるね」
僕が魔法を教えることになったんだけど、何を教えたらいいのやらで、
「<ウォーター>」
右手に綺麗な水球を出現させる。
「『解除』」
水球をきれいサッパリと消す。
水球を安定させるための、僕なりのイメージの持ち方を説明しよと思った。
水道から出る水、海や川からくみ上げる水、空中の水蒸気を集めて水に戻すなど様々あると思うが、
「空中の水色の水魔素に意識を集中して集まれって思いながら、膨れ上がって水に変化することをイメージするんだ」
「セージ君はヤッパリ魔素が見えるんですね」
レイベさんが驚愕しながらも迫ってきた。
「え、はい」
顔が近い。思わず数歩下がってしまうと、その分迫ってくる。
「ヒーナ先生に魔素を意識して魔法を使うと威力が上がるとアドバイスもらったんだ。
そうですよね」
ヒーナ先生に救いを求める。
「レイベさん、そのへんで」
「ああ、と、申し訳ありません」
レイベさんが、自分の行動に気付き、慌てて恥じ入いって、身を引く。
僕はホッとする。
「それと、セージ君、普通の人には魔素は見えません。
その見えない人に魔素の説明をしても理解できません」
あ、そうだった。失敗。
「じゃあ、どうすれば?」
「何度も魔法の発動をお見せして、イメージ作りを強化していくのが一番だと思います」
そのアドバイスに従い、何度も“ウォーター”を見せたんだが、
「どれだけ魔法量があるんですか?」
「真球のように綺麗なウォーターですね」
レイベさんと、ミクちゃんのママのマールさんにも呆れられ困っていまった。
それと僕の生み出した水球はかなり真ん丸に近いんだそうだ。
ミクちゃんは合計四回のウォーターを放ってレイベさんに止められていた。
昼食に移行すると、マールさんがエルガさんに質問しだすと止まらなくなっていた。
「セージ君が索敵を覚えたら、それを用いて獣魔の強さを計測・カウントする装置を作成すると」
「そうなるね」
そしてそれにつれて、混乱に拍車がかかっていった。
魔獣対策魔道具研究所のことになるからと、ヒーナ先生とレイベさんは別室だ。
「それでララ草原、それも魔獣の遭遇率の高いボティス密林の近くで狩りをしていると。
スキルというのはそんなに簡単に覚えられるものですか」
「そこはセージ君だから」
「そうなのですか?」
どうも納得がいかないのか、理解を拒んでいるのか、とにかく納得がいかないようだ。
「マールさん」
マールさんが、何? といった表情で呼びかけたリエッタさんを見る。
「セージ君は、理解不能で、そのまま受け入れるしかないと思います。
もしくはエルガさんのように、当然として扱うことだと思います」
「そう……ですか。そのような事が一番いいのでしょうね」
僕は早々にその会話から逃げ出した。
ミクちゃんのすがるような視線で、
「一緒に行く?」
「うん」
で、自室に行った。
当然のごとく、ミクちゃんも一緒で二人で過ごした。
遊ぶものも無いし、本だって、そう、僕の部屋にある本は魔法関係は専門書的なものだし、一般小説も大人向けの本ばかりだ。
「セージちゃん、こんなむずかしい本読むんだ」
「うん、そうだね」
結局、僕が本を読んであげて、ミクちゃんは真剣に聞いていた。
そんなこんなでノルンバック・ウインダムス魔獣対策魔道具研究所は動き出した。
マールさんとミクちゃんは、オルジ兄やミリア姉が帰ってくるまで待って、挨拶をしてそれから帰宅した。