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次元災害で異世界へ  作者: 真草康
魔獣対策魔道具研究所設立編
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39. オルジの狩り


 一四月二〇日青曜日の午後、ララ草原に来た。久しぶりだ。

 エルガさんにリエッタさん、そしてママと一緒だ。


 事のなり行は、まずはお告げの内容で、セージを鍛えることが大前提だ。

 まあ、お告げの内容はみんなには伏せられているけど。

 そしてオルジ兄からの要望「ミリアが狩りに行ったのだから僕も行ってみたい」そしてセージの狩りも見てみたい。

 そうなったらミリアだって見てみたいとなるのは当然だ。

 ママにしたって、僕の実際の戦闘がどうなのか気になっていたのは確かだと思う。

 そして話し合った結果、狩りを見せるのなら、その前に感を取り戻したい、という僕の要望も取り入れられた。


 そして、まずはママを入れた四人で狩りを行い、その結果をママが判断してオルジ兄やミリア姉に見せるかどうかを判断することになった。


 ララ草原に立つと、以前の感覚が戻ってくる。

 レベルアップの所為で体が軽いのは相変わらずだ。

 看破や魔力眼だけでなく、色々な感覚が鋭くなったようで、周囲の状況が今まで以上に認識できるので驚いている。

 生命というか生体にも敏感になったし、魔獣の魔法核もおぼろげながら見える。

 場所は他の冒険者がいないこと、そしてなるべくオーラン市に近い場所。要は、ママの絶対要件がボティス密林から離れた場所だったからだ。

 場所的にはララ草原の真ん中あたりだ。


 飛び跳ねネズミ(ピンポン)と毒ヤスデは狩っても価値無し、手間になるだけだからスルーだ。

 そして以前よりはっきり見えるし区別がなんとなくできるようになっていた。

 そして体感でもなんとなく感じられて、周囲の状況がなんとなくだが認識できるような気がした。


 最初の獲物は鋭利な前歯に、土を掘る前爪も凶器のマッドバニーだった。

 身体強化して隠形、素早く忍び寄りショートスピアで一突きで終わった。

 体が軽い。そして的確に動けた。

 手早く魔獣石を取り出し、<ハイコールド>で冷やして、時空魔法レベル5でアイテムボックスもⅡになって300個、一六〇キロ、四メル四方と大きくなった。もちろん魔法力マシマシでそれを拡張している。


 その後にメガネウラ二匹、メガギリス、一本角黒狼(ランスダークウルフ)も僕が一人で倒して狩りは終了した。

 さすがにママも「ここまでですか」と驚いていた。


 翌々日の一四月二二日緑曜日の午後に、軽くだが、再度狩りを行った。

 狩ったのは全て僕だ。

 鳥魔獣のレッドホークにはチョット手こずったけど。

 その結果、ママも渋い顔ながらも納得していた。


 あと、【基礎能力】の総合が“35”になったおかげか、蚊に刺されなくなった。

 見てると、蚊の細いくちばしが僕に刺さらない。

 こんなとこにも恩恵があって、地味にうれしかった。


 それをエルガさんに教えたら、レベル上げにやる気を出していた。

 ママに「ボクもチョットだけ」といって狩りをして帰宅したから予定より遅くなった。


 ちなみに特殊スキルに“魔素感知”が“1”となって芽生えていた。

 この所為で感覚が鋭く、いろいろと感じ取れていたのかもしれない。


  ◇ ◇ ◇


 一四月二三日黒曜日の午前中。

 今月は二三日しかない小の月なので黒曜日となって、学校が休みだ。

 昨日に引き続き狩りに来たが今日は、更にパパにオルジにミリアが加わり家族そろってだ。

 そしてヒーナ先生に、マルナ先生もいる。

 魔導車二台でモモ草原、お弁当も持参している。


 魔導車に鍵をかけ、魔術ロックも施して、セイントアミュレットと幻惑を付与したカモフラージュネットを掛けて準備万端、手慣れた作業だ。


 バッタはモモ草原にしてはそれほど多くない。

 チラチラ見えるピンポンや毒ヤスデはいつものことだ。まあ、魔力眼や魔素感知などが無いと見えないが。


 最初に見つけたのはカマイタチだ。

 イタチに似た小型の動物魔獣で、素早い動き、前足の爪を魔法によって一瞬で長く鋭い刃に変えて攻撃してくる。

 カマイタチに向かって駆け出すパパの足元でバッタが飛び立つ。

 オリャー、との雄たけびとともにバルディッシュがうなり、カマイタチに襲い掛かる。

 カマイタチは爪で受けるが、体ごとかなりの距離を弾き飛ばされ、クルリとひるがてって着地する。

「小癪なー」

 パパが追撃で駆け寄ってバルディッシュを振り下ろす。

 カマイタチは身をひるがえし、近くの草むらに飛び込んで逃げた。


「あなた!」

「ああ、すまん」

 そう、僕の狩りを見せるはずが脳筋パパはどうしようもない。

 ママに睨まれて、凹んでいます。

 身体強化に強靭に剛腕はどこに行ったんだろう。


 僕にエルガさんとリエッタさんの三人が先行して、他の人たちが少し距離を取って付いてくる。

「あそこに、一本角黒狼(ランスダークウルフ)が隠れてるよ」

「強さは?」

 魔力眼と看破で居場所と名称、そして大体の強さが認識できる。

 ビリビリと強さが伝わってくる。

「だいたい“33”くらいだよね」

 リエッタさんも看破と索敵があるから、僕以上のことがわかっているはずだ。

 うなずいたから僕の見立てと一致するってことだ。


「初見で、しかもかなり強いですがどうします?」

「チョット戦ってみたい」

「よろしいんですか?」

「うん、やってみたい」

「それでは慎重に」

 リエッタさんの了解で戦闘開始だ。

 リエッタさんが周囲の警戒をしてくれるおかげで、集中できる。感謝、感謝だ。


 草むらの影に身をひそめ『隠形』に念のために『認識阻害』、そして、かなり多めに魔法を込める。

<ドリームランド><ストリーム>

 左手から黒い霧(ドリームランド)が発現して、それを右手のを風魔法のストリームが運ぶ。

 ストリームは移動としても、風の流れを変化させることも可能だ。僕が魔法陣を作成した時にイメージを込めたらそうなったんだけど。

 円を描くように左側から回って、黒い霧(ドリームランド)がランスダークウルフを包み込む。

 さすが闇魔法に耐性を持つ魔獣だけはある。後ろからまとわりつくドリームランドが体に触れたかと思うと、斜め前に飛び跳ねた。

 そしてこちらをにらみつけてくる。目が合う。

 あれっ、隠形が効かない。それとも僕が未熟? それともガン見し過ぎてたのかな。


 ランスダークウルフは一.五メルほどの体長で瞬発力による突進攻撃を良く行う。最大の武器が頭の角で、魔法力を流して強化して伸長させる。

 瞬発力と合わせて突進による刺突の威力は絶大だ。牙に爪も鋭く、闇魔法の感覚異常で痛みを増してくる。幻覚系の魔法も使って奴もいる。


<ウォール><ハードニング>

 土壁を硬化で強化する。両方とも土魔法のレベル3だ。

 もう一度、<ハードニング>

 ガン、という大きな音、そして衝撃で壁が震え、角が土壁を突き抜けて飛び出てきた。

 あっぶなー。って思わず土壁から離れるも、

「痛ッ」

 触ってないのに、痛みがきた。

 痛覚刺激か、触角異常(エラースキン)か?


 コノヤロー。

 痛みを覚えた左手をブルンと振って、体内の魔法力の循環を高める。

 痛みがかなり和らいだ。


 角が動き回り、ピシッピシッと土壁にひびが走っていく。

 角からは痛覚刺激か、触角異常(エラースキン)以外にも何らかの効果が射出されているようだ。

 大きく横に飛んで逃げる。


 両手を振り上げて、

<メニーストーン><ストーム>

 ともにレベル4の土と風の複合魔法だ。

 それを土壁越し、土壁の上、空中から石の散弾をお見舞いする。


 壁越しでもランスダークウルフの位置は完璧に認識しているし、強化マダラニシキヘビとの戦闘の教訓から、体から離して魔法を放つ練習もしたからこれくらいはどうってことない。

 現在は三メル程度離して魔法の発動が可能だ。

 ただし、魔法回路を見える位置に出現させないと魔素と魔法力を流し込めないのが現在の課題だ。


 魔法核と魔法回路がレベル6となっても、直ぐにすべての魔法がレベル6になるわけじゃない。

 狩りは禁止されていたって、自宅では内緒で魔法の練習を行っていた。

 さすがに危険すぎて完全発動はできないから、発動直前までを何度も繰り返しての練習だ。

 夜のお勤め、魔法量を枯渇させるためにそれを繰り返し行った。

 もちろん内職のリバイブキャンディー製造も続けている。

 セージにとっても実際の魔法を放っていなかったから、複合魔法はレベル4どうしが精いっぱいだ。


 壁に少し近づいて、

<メニーストーン><ストーム>

 再度の攻撃に手ごたえを感じ、<ステップ>で駆け上がって土壁越しに、ランスダークウルフを見下ろすと、気絶してるのか?

 ちょっと不安だったので、ショートスピアに魔法力を流し、追加で<ファイアー>をまとわせ、首を突き刺す。

 土壁に突き刺さった角をそのままに、気絶して首をさらしていたからだ。


 僕が合図を送り、リエッタさんが確認して合図を送ると、みんなが集合する。


「本当に一人で倒すんだ」

 オルジ兄が言葉とは裏腹に、どこか信じられないように呟く。

「そうなんだよね」

 ミリア姉の反応も同様だが、どこかあきらめているような雰囲気が強い。


「セージ君、レベル4の魔法を使っていませんでしたか?」

 耳元で小声で訊ねてきたのはマルナ先生だ。

 あ、夢中で気にしてなかった。

「…えー…」

「わかりましたから、ここまでにしましょう」

「は、はい」

 マルナ先生からは興奮が感じられ、更にその興奮を押さえつけてるのか、妙な雰囲気だ。


「俺が遭遇してれば…」

 胡散臭げな呟きをするパパが、ガン、とママに脛を蹴られてうずくまる。

 防具が弱いのか、ママのキックが強力なのか?


「オルジにミリア、どうですか。理解しましたか?

 これでも自分でも倒せそうだと思いますか」

「遠かったからよくわからなかったけど、この魔獣は強いんですか」

「中堅の冒険者がパーティーで狩る、もしくは熟練者冒険者だったら一人でもという認識でよろしいのでしょうか」

 オルジ兄の質問に答えるママは、元冒険者のマルナ先生に確認する。


「ええ、概ねそうです。

 それにしても、まさかランスダークウルフと遭遇して、それをアッサリと倒してしまうとは思ってもみませんでした」

 マルナ先生は興奮に言葉がうわずり気味だ。

 ランスダークウルフがセージを突き刺そうと飛び掛かった時に、慌てて飛び出そうとして、ママに制止されていた。

「お恥ずかしいところをお見せいたしました」

「いえ、魔獣の強さを理解されていれば当然の行為でしょう」


「セージ君はチョット、いえ、かなり非常識なんです」

 ヒーナ先生は呆れかえっている。

 オルジ兄にミリア姉はその説明でも、よく理解できていないようだった。


 もう一匹、お気に入りのマッドバニーをセージが倒すところを見学すると、

「それでは予定通り、オルジにはマルナさんと私。

 ミリアにはヒーナさんとパパ(あなた)

 エルガさんとリエッタさん、それにセージは何かあった時のためにサポートとして少し後ろをついてきてください」

 ママのチーム分けで、オルジ兄とミリア姉の狩りが開始された。


 オルジが最初に出会ったのが蜻蛉魔獣のメガネウラだ。


「<ビッグファイアー>」

 オルジは右手に大きめの火球を作ろうとしたが、発動が遅く間に合わない。

 その前に高速飛行で飛び掛かってきたメガネウラの攻撃が間近に迫る。

 発動してもその程度の魔法では倒すなんて無理と判断したマルナ先生が、オルジ兄を抱いて地面、草の中に転がった。


「なんで戦わせてくれないんですか」

 救われたことが理解できずに、オルジ兄が不満を漏らす。

「オルジ、あなたの攻撃ではメガネウラには効き目がないと判断されたのです。

 魔獣には少なくとも複合魔法による素早い攻撃、それでなければ強烈な攻撃、もしくは不意打ちや体術などでフェイントを掛けながらの攻撃しか効きません」

「だってセージだって…」

「セージ君はもっとスムーズに魔法を使いますよね」


「奥様少しだけ、セージ君の魔法を説明してもいいですか」

「そうですね、少しだけなら」

 マルナ先生が小声でママに了解を得る。


「ランスダークウルフが飛び掛かってきたときの土の壁ですが、あれはウォールという土魔法のレベル3です」

「え、だって…」

 セージの魔法核や魔法回路がレベル2だと思っているオルジ兄が驚きながらも、理解できないようだ。

「もう、レベル3が戦闘中に撃てるほどです。

 それと造り出した土の壁を強化していました。複合魔法ですね。

 土の壁に駆け上がったのは身体魔法です。

 オルジ君はあの土の壁を、何も手がかりもなく駆け上がれますか。

 岩の散弾もレベル3の土と風の複合魔法です」

「そんなー、それじゃあ…」

「そうです。セージ君はマリオン上級魔法学校でよく言われている、冒険者としての活動資格を凌駕しています」


 最低でもレベル2どうし、もしくはレベル3を含んだ攻撃複合魔法、もしくはそれ相当の防御複合魔法が戦闘で使えること。

 単体魔法でいえばレベル2以上の身体魔法で戦闘を維持できること。

 そのどちらかを得ることがマリオン上級魔法学校で冒険者として活動する最低条件とされている。もちろん家庭の許可を得てだが。


 セージが条件に当てはまるというか、完全にそれ以上であることにオルジは愕然とする。

 マリオン上級魔法学校の生徒で冒険者活動が許されるのが早くて三年生。

 ほとんどが四年生になってからだ。

 そして半数以上が冒険者活動をせずに卒業する。

 要は、セージが優秀な卒業生レベルだっていうことだ。

 マリオン上級魔法学校の三年生、長兄のブルンも冒険者として活動できるのはまだまだだと言っていた。

 オルジ兄は改めて、後ろを歩きながら薬草だろうか? 笑いながら楽しそうに採取しているセージを凝視する。


「人は人、自分は自分です。

 せっかくの機会ですから、狩りを続けましょう」

 そういうマルナ先生も、自分自身が納得してないのだから、オルジ君には酷だと思っていたことは内緒のことだ。


 結局オルジ兄は一人で魔獣を狩れなかった。

 ドリームボムで眠らせたマッドバニーをキチンナイフで切りつけたが、強靭だが柔らかく、最初は歯が立たたなかった。

 セージは簡単に切り捨てたのに、と思っても、切れないものは切れない。

 何度かチャレンジしてやっと切れたけど、マッドバニーはぞたぼろになってしまった。


 マルナ先生が殺したメガギリスを切ってみても同様で、強靭な体に手がしびれ、再度愕然とした。

 まあ、メガギリスはキチン質の外殻のつなぎ目への刃先の入れ方を教えてもらい何とかバラスことができるようになったが。


 はなから一人じゃ無理だと理解しているミリア姉は、パパ大すきを連発して、瀕死の魔獣にドリームボム投げつけ、眠らせ、その上パパの傷を負わせた個所にキチンナイフをか剣を突き立て止めを刺していた。鬼畜の所業である。

 それでは経験値が得られないと知ってはいても、初心者や低レベル者が期待してしまう行為だった。

 ヒーナ先生は脱力感にさいなまされ続けた。


 僕はウサギ(マッドバニー)ばかりを狩っていた。だって、美味しいんだもん。


 そうして狩りツアーは終了した。

 幸いにもセージと戦ったランスダークウルフのような強力な魔獣と遭遇することはなかった。


 ミリア姉が個人情報の【基礎能力】の値が上がり、魔法回路も“2”になったと喜んでいたが、アップ無しのオルジ兄は地味に落ち込んでいた。


 セージは無理をしないことを条件に、一週間に二度の狩りが許可された。


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