03. 魂魄管理者たち 1
誤字訂正しました。
「惑星バルハライドも困ったものです」
「そうですね。バルハライドも最初は順調に生物の進化の過程をたどっていましたが、高次元から粒子やエネルギーが漏れ出してからですね」
二人の存在は嘆いていた。
答えを返した方が転生の儀を行ったバルハライドの魂魄管理者であり、魂魄管理の副責任者でもある。
最初に話しかけたのはその副責任者によく似ていた。そして同じ管理者の一人でありバルハライドの魂魄管理の代表責任者でもある。
改行ミス
「高次元粒子や高次元エネルギーは扱いが非常に難しいものですからね」
「未成熟な精神に高次元粒子や高次元エネルギーが様々な影響を及ぼし、未熟な精神と肉体に取り込まれて魔物が生まれ、生物によっては魔法が使えるようになってしまいましたからね」
「その影響が拡大してしまい、最近では高次元粒子や高次元エネルギーから直接魔物が発生するようになってしまいました」
大理石でできた白い建築物がいくつか立っている、豊かな自然に囲まれた不思議な空間。
そこに小さな円テーブルをはさんで二人は会話していた。
大理石の大きな白い壁に小惑星が映し出された。
小惑星は周囲の塵を吸収し、原始惑星に成長する。そのころには太陽も輝きだしている。
原始惑星は何度もの衝突を繰り返し、大きくなり、第三惑星へと成長する。
何度もの超巨大な噴火が発生し、大気が発生し、海ができる。
大きな海には原核生物が生まれ、単細胞の真核生物へと進化する。
二度の全休凍結にもまれ、単細胞生物は多細胞生物へと進化が進み、外殻を持った不可思議な生物たちへと進化した。
そのうちのいくつかは植物のように海底で固着して栄養を吸収するように、あるものは徘徊して捕食するようになる。
光合成も始まり植物が地上に上がる。
一部の生物は酸素呼吸を行うようになって、いつしか両生類となって陸地に上がり、活発に活動する。
多様性の始まりだ。
たった一つの巨大な大陸も分裂していくつかの大陸となる。
三度の大噴火で絶滅危機もあったが、辛くも生き残った生物が反映していく。
進化を続ける惑星バルハライドは地球と違って、巨大な恐竜は発生しなかった。
四度目の危機は、近郊の恒星――近郊といっても百数十光年離れているが――のビッグバンだった。
強烈な宇宙線によって多くの生物が絶滅した。
そして進化の果てに誕生したのが人間とよく似た生物だ。
バルハライドにも、やっと文明と呼べるようなものが芽生えてきたところだった。
次元震。
それは突然発生して、高次元とを接続する穴をいくつも発生させた。
次元の切れ目、次元境界の穴、次元ホールとして大きなものから小さなものまで、惑星バルハライドに発生し続けた。
漏れ出てくる高次元エネルギーは人の意識と反応して様々な生物へと瞬く間に進化し、ある物は高次元エネルギーから直接生まれる生物まで発生した。
生まれた生物の多くは魔物となって人々を襲った。
人は減少し、文明は後退して停滞したが、人は魔法を得た。
都市は城塞化し、村など小さな集落は最低でも柵を作って防衛した。
巨大な国家運営は難しく、小国家化し、国家は無数にあった。
魔物が落ちつけば戦乱に向かう国も多い。もちろん同盟する国家や、連合する国家群もある。
バルハライド。
大陸は七つで、わずかの例外を除くと、人の住む大陸はそのうちの五つだ。
残りの二つは完全魔大陸化した大陸で、南半球に一つと、極寒大陸としられる北極大陸がそれだ。
次元震に高次元粒子や高次元エネルギーは他の次元にも多大な影響を及ぼした。
過去一八度の大規模な魂の転生によって、人も多様化――高次元エネルギーの影響もある――した。
バルハライドでは次元の亀裂が大きくなった。
魔物は強く活発になっていくことだろう。それ以外の被害もでるだろう。
そして大きな次元震で巨大な浮遊島の一つ、イナンナが壊れ、その一部が地球の月の付近に転移してしまった。
そう、巨大な次元ホールが発生して。
「今回が一九回目の大規模な魂の転生となります。
前回の魂の転生からはほぼ二三〇年余りが経っていまして、その時は三五年ほど高次元エネルギーが活性化し、災厄と角族が出現しました。
地球は影響を及ぼされやすいのか前々回、一七回目の魂の転生も地球で、七十年間の寒冷化を地球にも発生させ、バルハライドでは長きに渡って災厄が続きました」
副責任者がタブレットのような物を読み上げる。
数人の転生は日常茶飯事で、下級官吏がその任務を負っている。
「データからすると、最近はまたも高次元エネルギーの漏洩が多くなったそうです」
「魔物の発生が多くなったのでしょうか」
「そのようで。それと危機を感知した者がアカシックレコードに頻繁にアクセスするようになりました」
「アクセス権を緩やかにしているので、そちらも頑張っていただきましょう」
「人類や文明がこれ以上衰退しないとよろしいのですが。まったくもって困ったものです」
「魔法が行使できても、生活範囲の拡大は望めず、危ういバランスで均衡を保っていますからね。やはり次元の裂け目はわたくしたちが補修することは叶わないのですね」
「ええ、自然発生的なものは自分たちで対処するのが摂理です。最低でも次元ホールの存在に気付いていただくしかありません。
それに修復するなら上の方たちがしているでしょう」
「そうですね。今回の転生者に頑張っていただきましょう」
丁寧な物腰・口調とは裏腹に物騒な内容だ。
「それで皆さんはいかがされました」
「転生者の皆さんは無事に眠りにつきました」
「どうでしたか」
「多くの方がプレートを一六枚取得しました。
かなり頑張って三二枚を取得された方も数人いました。
中にはやる気のない方、ふてくされた方、投げやりの方もいましたがそれは少数でした」
「担当が交代して初めての“転生の儀”。
規則で禁止されているとはいえ、多少の応援もやむをえないでしょう」
「次元震の影響が、次元を超えて近傍の次元にも派生しているので、転生者はその影響を受けたものとなりますので、地球の存亡もかかっていますから、知らないとはいえ頑張っていただくしかありません」
「予定通りヒントは与えてくれたのでしょう」
「ハイ」
過干渉や、知りえない情報伝達は禁止事項とされているとはいえ、自分の亡くなった原因が次元災害だと伝える程度は許容範囲内だろうとの代表の判断だ。
二五一二人の選定条件は、犯罪者ではなく、偏見も少ない人。それと倫理観と正義感があることだ。もちろん偏り過ぎたり行き過ぎる正義感も困る。
面倒見の良さや前向きさ、楽観主義者やめげない者、対応力の高い者など選定基準は多岐にわたったのだが、基本はメンタル面で強い者だ。
なによりも大事だったのが魂の強さと、バルハラドの波長に魂がなじみやすいことだ。
大きな白い壁面に映し出された、回転する球体だった惑星バルハライドの一部が拡大表示された。
最大の大陸、バルハ大陸が壁面の左上に拡大表示される。
形状は角が丸まった三角形をさかさまにしたような形状で、海岸線は凸凹してる箇所が多い。
三角形の頂点(南端)は赤道を越して、向かって左(西)寄りだ。
大陸の西端側が東端より上がって(北寄り)いるので、右に傾いた印象がある。
東から南東にかけて存在するアーノルド大陸とはわずかだが陸続きとなっていて、その部分だけはボコンボコンと大きく二つ膨らんでいる。つながっているのは東側のふくらみだ。
アーノルド大陸の面積はバルハ大陸の五分の一程度。ボコボコと凹凸が多く、大きな湾がいくつもある。バルハ大陸を支える斜めのつっかえ棒のようだ。
バルハ大陸とアーノルド大陸のハの字型に広がった洋上、バルハ大陸から見ると赤道を越した南方。アーノルド大陸からは南西から西方に横たわっているのがデビルズ大陸だ。
北方には北極大陸があり、その一部も映っている。
後の三つは大海で隔たっていて画面上に無い。
壁も大きくなって、拡大されたバルハ大陸とアーノルド大陸の映像はまるで衛星写真のように鮮明だった。
東西や南北に走る険しい山岳地帯を色濃く密林が取り囲んでいる。
入り組んだ地形に大河が流れている。
海岸沿いや大河沿いに多くの城塞都市が見受けられる。
内陸にも飛び地のように都市があり、都市の周辺には耕地とともに村がある。
都市と都市を結ぶように街もある。
映像には五〇を超す光点があって、その多くは都市と重なっていた。
「皆さんの配置はよろしいかしら」
映像の光点すべてががきらめく。
副責任者が手元に半透明なスクリーンを表示して、再確認する。
「よろしいようです」
光点は現地調査におもむいている地点を表すものだ。
「最終の転生可能者数の報告をおねがいします」
見る間に光点の横に数値が表示される。
中には光点の無い場所にも数値が発生する。
「集計数五八六九人です」
副責任者が手元のスクリーンの数値を読み上げる。
「下級貴族から平民まで。極端な貧困家庭を排除して、更に不測事態の代理も考慮しての数字ですよね」
「ハイ、これで八回目の調査で、誤差は一パーセント未満です」
「それでは“結びの儀”を行いましょうか」
代表の手元には、針先の付いた小さな鳥の羽が無数、約二千五百が出現する。
色はほ全て緑だが、薄い緑から濃い緑と様々だ。
代表が両手を広げて立ち上がると、二千五百の羽が空中に広がる。
よく見ると二枚や三枚で羽がまとまっている。単独の羽は少数だ。
「多くのスキルを得た人は成長しやすい環境になりますように」
代表が目をつむると体が輝き、その輝きが羽に移っていく。
「運命の相手をつかみなさい」
代表が両手で押し出すと、羽が舞って壁に刺さる。
そう、バルハ大陸とアーノルド大陸に刺さっていた。
バルハ大陸とアーノルド大陸で人族の総人口の六割強を占める。
今回の予定では、すべての転生をその二大陸で行う予定だったのだが。
一本、海上に刺さる羽。色は濃い。
バルハ大陸・アーノルド大陸・デビルズ大陸に囲まれた中央洋で、バルハ大陸とアーノルド大陸寄りで島もない。正真正銘海の上だ。
その羽には“須田雅治”の名前が書かれていた。
代表と副責任者の二柱はいぶかし気な視線を向けた。