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次元災害で異世界へ  作者: 真草康
押しかけ家庭教師編
36/181

35. 初めての魔獣狩り


「おーし、この辺りから森に入ったあたりだ。下調べしたことと、ギルドで聞いたこととが合ってるからまず間違いはないだろう」

 街の西門を出て、しばらく道なりに南西に向かう。

 道が平らな石畳から、整地されただけの土の道に変化する。

 それだけでも魔導車の乗り心地が悪くなる。

 そりゃ、緩衝の付与魔法が掛かっているとはいえ金属ホイルにゴムを巻き付けだけのタイヤだから仕方がないと言えばそれまでだ。

 もちろん板バネやスプリングも使用されているけど、空気圧のタイヤにオイルダンパーなんて地球の技術はない。


 オーラン市の城壁の外には、いくつもの村落と穀倉地帯が広がる。森や木々もあって田舎の景色だ。

 南西の街道沿いもセイントアミュレットに守られた農村と穀倉となっていて、それを抜ける。

 道が西に曲がりその左手、南側がララ草原だ。

 道を外れララ草原に入っていく。ガタゴトとしばらく走って、パパが魔導車を止めた。

 魔導車を降り、魔導車に鍵をかけ、魔術ロックも施す。

 セイントアミュレットと幻惑を付与したカモフラージュネットを掛けて準備万端だ。

 離れると、うん、草原だ。周囲の風景に溶け込んでいる。


 オーラン市の南西にある広大なララ草原。

 所々に細い小川が流れ、短い草が生い茂る中、かなりの頻度で大きな草がこんもりと生え、低木の木々が所々に生えている。

 何度か農地にしようとして開拓したそうなのだが、その度に奥にあるボティス密林から魔獣があふれ出して元の草原に戻ってしまう。

 現在は中途半端な開拓状態と草原が入り混じった状態だ。


 そしてララ草原は昆虫魔獣や、小型の獣魔獣の楽園でもあるために、レベルの低い冒険者の格好の狩場だ。


 図書館で確認していることだけど植生はレタスや菜の花、数は少ないがジャガイモやトマトなどが生えている。

 薬草の宝庫だけど採れる種類は限られている。

 数が多いのがリンネ草、オオバ草、赤アロエで引き取り価格も安い。

 毒草は染色に使用する藍ラン草が採れるが数多く採らなければ買い取ってくれない。

 少量でも買い取ってくれるのが幻覚作用のあるシガテラ草の茎と根や、劇毒の毒漆(どくうるし)の根で、薬の原料になる。

 香料に使える花も咲いているが、採取は香り高い朝で、しかも一本、二本じゃ価値が無いから放置だ。

 香辛料の黒胡椒に赤胡椒、あと生姜にウコンにクローブは買い取ってくれる。

 ニンニクは香辛料にも薬草にも使用される。

 果物は野イチゴ程度しか生えていないから、見つけたらおやつ程度にしかならない。


 パパの着る強化皮革の上下はヒーナより豪華で頑丈そうだ。それと強化革のヘッドギアだ。

 武器はハルバードで、斧の部分は切れ味の良さそうなミスリル硬鋼製だが、成分が違うのかセージの持つ銀蒼輝と輝きが違う。柄は取り回しの良さに重点を置き、やや短めなのだそうだ。

 魔法が苦手だが身体魔法だけは“3”とあって、見るからに肉弾戦が得意そうだ。

 その他に頑強や剛腕なんてスキルも持っているそうだ。

 予備武器として腰にはショートソードを挿している。


 強化皮革の上下――以前は合成皮革と思っていたのは錬金魔法の変性で強化した皮だった――と見慣れた冒険者スタイルのヒーナは、薄での強化皮革のヘッドギアで頭部もガードしている。

 片手剣も使い慣れたいつもの物だが、今日は小ぶりのラウンドシールドも装備している。

 腰には予備武器としても、また魔物をさばいてもいいように大きめのナイフを挿している。

 魔獣相手じゃキチンナイフだと心持たないんだろう。


 ツナギ姿のエルガさんはパパが用意した胸当て、腹から腰を守る太いベルト、軽量のキチン質の外殻をうろこ状にした手甲(ガントレット)足甲(ソルレット)と部分強化革鎧に、透明シールド付きのキチン質の軽量ヘッドギアだ。動きやすさ重視の薄型軽量タイプのものだ。

 もともと冒険者姿のリエッタさんはほとんど変わり映えしないが、胸当てにヘッドギアはパパが用意したものだ。

 魔法が得意な二人だが、リエッタさんは杖術スキル持ちなので肩ほどの長さの真っ直ぐな棒状のスタッフが武器で、上下に鋼材が付いていて殴ることも可能だ。短剣スキルの“2”があるのでショートソードを差している。

 エルガさんは黄色の魔宝石の指輪があって、槍スキル持ちなので主武器はショートスピアで、大きめのナイフを腰に下げている。

 リエッタさんの魔聖石――魔法石より一ランク下で体内の魔素を高め魔法防御効果がある――はエルガさんの借り物で、ネックレスをしているそうだ。


 セージとミリア姉も動きやすい服装に、エルガさんとリエッタさんと似たような防具で、ヘッドギアも一緒だ。

 二人とも武器はママに買ってもらったキチンナイフを持っただけだ。

 セージはもちろんアイテムボックス内にいつもの装備をしまっている。

 セージは自前の魔法効果を高めてくれる魔宝石のネックレスがあるが、ミリアはママから魔聖石のネックレスを借りている。


 見た目じゃわからないが全員鋼線が織り込まれた簡易チェーン下着を身につけている。

 マジもののチェーンメイルは、亜熱帯のオーラン市では直射日光に当たっていると熱を持って着続けることは、特別な対策をしていなければ不可能だ。

 簡易チェーン下着は防御六は落ちるものの、表面は布製で柔らかく熱を持つことも通常の服と大差なく、軽量で動きやすい。

 人気の商品で、旅のお供に重宝されるもので、ママたちも陸上の旅ということもあって、今度の旅では身につけている。

 それらの簡易チェーン下着全てに、僕が無属性魔法の対物シールド、対魔法シールドを付与している。


 ホーリークリーンで浄化後、錬金魔法のレベル4、変性でイクチオドンの魔獣核(魔獣石)を白魔石にした。そして大きな水筒を買って、聖水を入れ、多くのリバイブウォーターを作って、錬金魔法の濃縮と固化で数多くのリバイブキャンディーを作成していたからできたことだ。

 チョット、いやー、かなり頑張りました。

 でもリバイブキャンディー、チョット苦くてまずいのが難点。

 おかげで付与魔法は“3”になりました。


 ちなみに魔獣が生きて体内にあるものが魔獣核、要は魔法を生成する生体器官だ。

 それを取り出したものは物扱いで魔獣石となって、加工が可能だ。


 あと全員身につけているものは身分証だ。

 市街での活動時には義務付けられている。

 アメリカの軍人みたいにネックレスの認識票みたいなものだ。


 あと共通の装備はリバイブキャンディーと、リエッタさんの作成した手投げ弾、ドリームボムだ。

 錬金魔法と付与魔法でドリームランドを封じ込めたものだ。

 ただし、ギランダー帝国の作った“幻惑球(ファントムボム)”の素材となった“手投げ球”のように高機能の物ではなく、陶器のボールにドリームランドを付与したものだ。

 投げつけて割れるとドリームランドが拡散する。

 リエッタさんの情報だと「魔獣には闇魔法は効きにくいので、過信はしないこと」だそうだ。

 魔獣と普通の生き物との違いは魔獣核(魔獣石)が有るか無いかだ。

 魔獣は魔法を使うことにも長けていて、魔獣独特のスキルと併用することにより、人間に比べて使用魔法量が少なく強力な魔法を放つ。


 魔導車でララ草原に乗り込んだ時からそうだが、ここは昆虫の宝庫だ。

 亜熱帯なので当然虫が多い。

 バッタがそこここで飛んでいる。魔導車が進むとまとまって飛び出すときもある。

 バッタといっても魔獣じゃない。数センチの普通のバッタだ。


 それに蚊や虻だっている。

 虫除けオイルは必須で、塗っている。

 効果は二、三時間だそうで露出している箇所にはこまめに塗る必要がある。


 思わず某RPGのテーマ曲を鼻歌で歌ってしまっていた。自分でビックリ。

 いざ冒険の世界へって、子供の頃にはまったゲームだ。…なんでここで…って理由は明白だが…。

 周囲を見回し、ハズクてやめた。


 索敵してすぐに見つかるのが毒ヤスデと飛び跳ねネズミ(ピンポン)だ。

 体も小さいし、魔獣核(魔獣石)はさらに小さい。

 肥料用のクズ魔法石だ。

 狩っても買取されない魔獣だから、向かってくれば討伐するが、基本放置だ。

 そのうちスライムが掃除してくれるはずだ。

 ただ倒した魔獣の魔獣石だけは抜き取るのが冒険者の決まりだ。

 肉はエサとして食われるだけだが、魔獣石を食われると、食った魔獣が一気に強くなるからだ。まあ、クズ魔獣石だとたかが知れているが。


「索敵は頼む。気を抜くなよ。行くぞ」

 索敵はスキルのあるヒーナさんとリエッタさんの役目だ。

 セージも魔力眼があるからある程度はみつけられるが、見ている方向限定だし、ピンポンと毒ヤスデが目障りで、あまり役に立つ自信がない。


「右斜め前方」

 すぐにヒーナから報告があった。

 蜻蛉タイプの昆虫魔獣のメガネウラは良く出会うメジャーな魔獣で、高速飛行に、切り裂きと噛みつきがある。

 両翼を合わせると一メルほどもある。

 一般に飛翔する魔獣は強さが一.二倍~一.五倍程度の強さと思った方が良いとされる。

 メガネウラは弱い魔獣だから一.五倍と考えてもそれほど強くないから大丈夫だ。


 メガネウラの強さは“10”ほどのようだが、攻撃態勢に入って脅威度がアップする。

 看破のスキルが徐々にだが強化されてきたおかげだろう。


 オリャーッ、とパパのバルディッシュがうなり、一刀両断でメガネウラを撃退する。

 魔法の苦手なパパが、生活魔法以外で使用できるのは身体魔法と土魔法だけだ。その土魔法も苦手で、実質の攻撃手段は身体魔法だけといっても過言ではない。

 豪快な性格も身体魔法による筋肉バ……、ゲフンゲフン、身体能力に絶対の自信があるためなんだろう。


「ミリア、切ってみなさい」

「はい」

 パパが倒したメガネウラにキチンナイフで切りつける。

 ゴンッと鈍い音。

(かったー)

 メガネウラの外殻にわずかにひびが入ったが、手がしびれたみたいだ。

 キチンナイフから手を放し、手をブルンブルンと振っている。

「セージ」

「はい」

<身体強化><ピンポイント>

 魔法力をキチンナイフに流し、シュンという軽い音がして、苦も無く切る。

 綺麗に二つに分かれた。


「な、なんでー」

 目を見張るミリア姉。

「そんなに驚くな。生きてるともっと硬いぞ」

「それじゃあ」

「そうだ。イクチオドンなんってとっても固いし、槍トビウオだってかなり固い」

 もう一どミリア姉が目を見張り、まじまじと僕を見てくる。

 ようやくミリア姉が実力差を理解したようだが、なんだか居心地がよくない。


 今日の目標の一つはミリア姉に現実を突きつけ、(セージ)と張り合わないように言い聞かせることかもしれない。

 パパにしてみれば、無理をして魔獣狩りなどしてほしくないだろう。

 僕にしたって身体強化にピンポイントが無ければ、それにキチンナイフに魔法力を流さなければ、こうも容易(たやす)く切れなかったはずだ。

 イクチオドンを倒した時に、付与魔法と補助魔法のレベルが“1”となったから、その効果の相乗作用もあったと思われる。今は魔法力を流すのにも慣れた。

 しかも僕のキチンナイフは強化と鋭利が付与され、魔法力が流れやすくなっている。


 経験値を稼ぐための条件をもう一度脳内で復習する。


 ―― 強さが自分よりかなり高いとかなりの経験値が得られ、自分と同程度ならそこそこの経験値だ。

 ―― 自分より弱い魔獣なら一人で倒す必要が有るが経験値はごくわずかだ。

 ―― レベルが低すぎる魔獣を倒しても何も経験値は得られない。

 ―― 一人で大ダメージを与えないと経験値は得られない。

 大人数で倒すと経験値が得られない可能性が高い。できれば一人で倒すのがベストだ。

 ラストアタックなどでも経験値が入るわけではないから、とにかく自分で戦ってダメージを与え、倒すしか経験値は稼げない。

 ―― 魔法や弓矢で遠くの魔獣を倒しても、得られる経験値は少なくなる。

 要は距離が近い接近戦で倒した方が経験値が得られるってことだ。

 ―― ドリームボールなどの魔法ツールや罠などで倒しても経験値は入らない。

 安全に倒すか、経験値が欲しいなら正面切って戦えってことだ。


 救いは、基本値での判断のようで、効率よく魔獣を倒して経験値を稼ぐには強化魔法の肉弾戦が最も適している。

 安全策なら魔法や弓矢で遠くからチマチマダメージを加え、時間をかけて倒して、経験値をちょっとづつ稼ぐかだ。その時に付与や補助は必須だ。

 ただし相手の魔獣も、魔法による強化や、外皮が固いなど一筋縄ではいかない。

 できれば自分は強化して、相手が気づかないまま一撃で倒すことだ。

 ヒーナ先生は隠形のスキルがあるから、それでレベルアップを行っていた。

 リエッタさんも隠形持ちで、隠れて闇魔法で眠らせたり、弱らせたりして倒してたそうだ。


 目指せ隠形、卑怯でもなんでもいい、相手は魔獣だ。


 それにしても、まったくシビアだ。


 バカでかいキリギリスのような魔獣のメガギリス。名前詐欺だがそれを二匹。

 またも名前詐欺、たいしたことのない毒を持つ大毒蛾。

 どれもがパパのバルディッシュの錆となった。

 たいしたお金にならないけど、魔獣石を取って、ミリア姉と僕の試し切りで、体はその辺にポイっと捨てる。

 ミリア姉の表情が厳しくなっていった。


 野ネズミや野ウサギなどの普通の獣も見かけるが毛皮が人気があって、肉がおいしいヴェルヴェット兎などの兎系だけを狩った。

 今夜は兎肉のシチューだ。


 ちなみに肉が臭くなるのは外傷を付けた弾丸や剣に付着した微生物や細菌が急速に血液を腐敗させていくからだ。

 どんなに綺麗な傷、小さな傷でも武器に付着した微生物や細菌がある。

 体毛などを巻き込めば微生物や細菌数は一気に増加し、微生物や細菌は思ったより深く侵入する。

 微生物や細菌は倍々に増殖していって体のサイズにもよるが、二~四時間で全身の血液を侵していく。侵された血液は腐敗臭をまき散らし、それで肉が臭くなる。


 臭くしない方法は三つある。

 一つが、微生物や細菌の繁殖しやすいのが二五度以上だ。

 できれば二時間以内に二五度以下に体温を下げ、内臓を取り血を抜く。とにかく体温を下げるのが先だ。血を抜くのはその次で、血抜きは傷口付近の血液を体外に出して、微生物や細菌を体外に放出するのが主な目的だ。短時間で全身の血液が抜けるわけじゃない。


 もう一つが、血液を外気にさらさない。要は、窒息や撲殺で外傷を付けないと肉が臭くならない。それは魔法でやっても一緒だ。


 最後の一つが、傷をつけるときに血液を外気にさらさない方法だ。

 炎をまとわせた刀などで焼きながら切る。傷を氷せながら殺傷する。光魔法で傷口を完全殺菌する。錬金魔法などで血液への微生物や細菌の侵入を防ぐなどだ。ただし、武器が汚れていると微生物や細菌が繁殖する可能性があるから注意が必要だ。


 ヴェルヴェット兎はリエッタさんが<ドリームランド>で眠らせて止めを刺す。

 ヒーナ先生が火(熱)魔法で体温を下げて完璧だ。

 魔法の狩りの手本もあった。


 ここで二手、パパ・ミリア姉・ヒーナ先生と、僕・エルガさん・リエッタさんとの二チームに分かれて狩りをした。


 ミリア姉に僕の本当の個人情報は内緒だ。

 ある程度は気づいているかもしれないけど、パパに言い含められているのか直接訊ねられたことはない。

 公開するにしても、教えるにしても個人情報(偽)の内容だけだ。

 索敵持ちをチームのかなめに、お互い直ぐに助け合える距離で、左右に分かれて行動する。


 魔力眼で索敵してるけど、ピンポンがちょろちょろ動き回って目障りだ。

 それと歩くたびにバッタが飛んで逃げていくからやりにくい。


 地面の下に魔獣発見。

 看破や魔力眼で大まかな生体反応はつかめるが、魔獣の種族や強さは直接視認する必要があるから何の魔獣かわからない。


「<メニークロッド><ジェットストリーム>」

 左手に十個くらいの岩を、右手に風(移動)と別々の魔法を放ち、それを合成する。

 一点集中、岩の散弾を高速で地面に、ドドド…、と打ち込む。

 逃げ惑うバッタが蜘蛛の子を散らすように逃げていく。


 土魔法のレベル4のメニーストーンで石散弾が本来好ましいが、レベル4を用いた複合魔法は難しく、時間もかかるし、成功率もよくない。戦闘で危険を冒したくない。

 メニークロッドとジェットストリームはともにレベル3で、等価の複合魔法陣でいうとレベル5のハイクロッドバレットとなる。

 土と風の複合魔法陣でもう一つ威力の落ちるクロッドバレットもあるが、練習不足で、こちらも満足に使えない。

 別々に魔法を放つと、魔法力の効率が悪し、合成するにもシンクロに精神集中が必要だが仕方ない。


「#$%&#」

 意味不明、高音の鳴き声とともに魔獣が現れた。

 それっ、と思ってキチンナイフを突き出すも、オット、と手を止める。

 毒針モグラだ。

 ひん死だけど接近戦はダメ。切れない…わけじゃないけど、トゲには神経毒がある。

「<メニークロッド><ハイウインド>」

 もう一度、岩散弾を放って、毒針モグラを倒す。魔法力の節約。予想通り威力を落とした岩散弾で充分だった。

 毒の魔獣は貴重だ、解毒薬の素として使える。


 初めて狩りとして魔獣を倒したけど、魔法で倒したのであまり実感がない。

 もうちょっと興奮するかと思っていたけど、倒した魔獣が魔獣だからか感動も何もない。


 トゲに気を付け、アイテムボックスに収納する。

 収納前にホーリークリーンで殺菌、火(熱)魔法のレベル3、<コールド>で冷やすことを忘れない。

 薬草に毒草、食べられる野草なども採取していて、アイテムボックスに放り込んでいる。


 獣魔獣のマッドバニーだ。

「<ドリームランド><ハイウインド>」

 マッドバニーを眠らせて、否、耐性か、フラフラする程度だ。

 周囲を確認してから近づいて、キチンナイフに炎を宿らせ、ガスッて刺して十秒ほどそのままにして仕留めた。要は傷口が焼けるまで待つ。

 鋭利な前歯に、土を掘る前爪も凶器だ。

 初心者向けの魔獣で、キャンプのお供だが、パニック状態でメチャクチャ暴れるマッドバニーに、怪我をする初心者冒険者も多い。

 こいつは肉と毛皮が売れるから、冷やして保存して、アイテムボックスにポイ。

 魔獣石の回収は家に帰ってからで充分だ。

 邪魔なバッタは、何匹も地面に落ちて眠っている。


「大縞ムカデ」

 僕は指さしてリエッタさんとエルガさんに教える。

 二メル近くある大物で強さは“23”前後のようだ。

 コッソリと忍び寄る麻痺毒持ちで厄介な昆虫魔獣、ララ草原では強い方だ。動きも早い。

 頭を持ち上げ、匂いや気配を探っているのか、二本の触角を振り回している。

 毒はそれなりに高く売れるが、キチン質の外殻は安い。

 魔獣核(魔獣石)もそれほど高くはないが、イクチオドン並で白魔石にも転用できる。

「やってみる?」

「無理、怖い」

 エルガさんに勧めてみてたけど、蒼い顔でフルフルと首を振られた。

 総合が“28”と、強さでいったらエルガさんの方が強いと思うんだけど。ちょっと不思議。

 ああ、虫嫌いか。納得。


 ちなみにダメな理由は後で知った。虫が苦手なのもあるが、毒持ちの魔獣は危険で、対応手段が無いと危ないんだそうだ。


 看破や魔力眼で魔法力を消費している。

 ここで今日初めてリバイブキャンディーを口に放り込む。

 ちょっと渋くておいしくない。


「チョット借りていい」と、ショートスピアを借りる。

 そして「フォローをお願いします」とリエッタさんにいざという時のお願いも忘れない。


 精神を集中して、

<ドリームランド><ウインド>

 霧が大縞ムカデを包むと、大縞ムカデの脅威度がアップする。

 霧から脱出を図り動き出す。それと触覚の動きがせわしない。周囲の索敵を強化したみたいだ。

 逃がしてなるものかと、魔法力を追加で込め、ドリームランドで包み込んで、大縞ムカデに駆け寄る。

 ドリームランドのおかげで邪魔なバッタが眠ったのか、飛び立たない。これはいい。

 大縞ムカデの動きが遅くなる。

 リエッタさんが周囲を警戒してくれている。


 ッリャーーッ。

 魔法力をショートスピアに込めて、気合とともに大縞ムカデの頭を突き刺す。

 声を出さないようにしていたが、緊張と恐怖から叫んでいた。

 のたうち、体を振り回す大縞ムカデ。

 オッと、<ステップ>で、空中に立つ。

 時空魔法の空中階段、ポイントの上位魔法だ。空中階段といってもここだと段差を付ける必要はない。複数のポイントを自在に配置可能だ。

 そういえば毒持ち魔獣は毒霧をよく使う。気を付けなくっちゃ。

 発生しているのは僕の霧だけだ。……じゃない、体全体から魔力がにじみ出ている。まがまがしい感じがするから、これが毒なんだろうと思う。

 ショートスピアに追加の魔法力を込めて、グイッと押し込む。

 しばらくすると大縞ムカデの動きが止まった。


<ハイウインド>

 大縞ムカデを取り巻く毒を吹き飛ばす。


 本から得た知識に、看破と魔力眼の使用の相乗効果か、大縞ムカデの動きがよく分かった。

 これってミクを相手に先読みをしていた効果だったりして。てへっ。


 ヤッパリ、このように緊張感があってこその狩りだ。


 パパやミリア、それにヒーナまでもが駆けつけてきてくるようだ。

 ピョンと地面に降りて、ステップはミリアに感づかれないように無い無いだ。


 パパが大縞ムカデを見て渋い顔をする。

「危ないことするなよ。ママに怒られるだろう」

 注意するとこそこ? なんか釈然としない。

「まあ、よくやった」

 うん、ありがとう。

「セージ、今の魔法何? 黒い霧が出てたし、宙に浮いてたみたいに見えたんだけど」

「あ、あーとね……」

 そりゃー、ステップもドリームランドも最も使い手の少ない時空魔法と闇魔法だ。しかも闇魔法に至っては魔法陣がほとんど一般に発表されていない上に、ドリームランドは個人魔法だ。


「そいつは後だ。こいつを処分して、今日は終わりにするぞ」

「わかりました」

 返答に困っていると、パパがフォローしてくれた。

 ヒーナが解体を開始したので、僕も手伝う。

 リエッタさんは周囲の警戒だ。

「これちょうだいね」

 エルガさんも解体を手伝っていたがキチン質の外殻の三枚をはがすと、さっさと袋に入れて自分のリュックに詰めてしまう。

 あきれちゃったが、許容範囲だ。闇魔法を連れてきてくれた人だもん、仕方ないよね。

 その他の外殻を全てはがし魔獣石を取り出して、毒の器官を丁寧に切り離して袋に詰めて処理が完了した。


 作業中もミリアはキチンナイフで切りつけしびれる手をブルブルと振って、「これをセージが」「たった一人で」とかブツと呟いていたけど、完全スルーだ。


 結局、ミリアとエルガさんは何も倒さず、魔導車で帰路についた。

 パパとヒーナ先生は、ドリームボムを痛く気に入っていた。


 その他の獲物は群れになったら厄介な蜂魔獣のデストロイビー、擬態カマキリのフェイクマンティス、ヤマアラシみたいなニードルラッシュなどだ。


 ちなみに薬草などの知識のないミリアは手ぶら、知識だけは豊富なエルガさんは貴重な薬草や毒草などはちゃっかり採取していた。

 採取中にいろいろ教えてもらって興奮してしまい、感謝したのは家に着いてからだった。反省。

 緊張が溶けた僕は、魔導車の中でエルガさんに抱きかかえられながらスヤスヤと深い眠りについた。

 横目でヒーナに睨まれながら。僕は知らなかったけど。


 もう一つの目的が、(セージ)自身に魔法力や身体能力など、戦闘力を自覚させるためでもあり、またリエッタさんのママのお告げによる、僕を鍛える、ことによるものだ。

 それは出かける前に言われていたことだから、それに即して戦闘を行ったからいいよね。


 僕は、これからもいろんなことに巻き込まれるんじゃないか、そして漠然とだが、大災厄の騒動に駆り出されるんじゃないかって不安もあって、積極的だはないがレベルアップの必要性を感じていた。

 それとは別に、転生、ひいては魔法にと、思いっきり自分の能力も使ってみたいという欲求もあって、今回の狩りは楽しんで挑んだ。


 手に入れた素材や魔獣石、それに薬草や毒草などは、オーラン・ノルンバック船運社が買い取ってくれる。

 ちゃんと税金などの処理をしてだ。

 食べられる野草は調理場に渡したので、それは対象外だ。

 僕もエルガさんもリエッタさんもヒーナ先生(ノルンバック家の教育係)もオーラン・ノルンバック船運社の社員じゃないからそうなる。

 それでも冒険者ギルドから購入するよりかなり安い。


 僕は魔獣石に毒や肉、大縞ムカデの外殻、薬草や毒草を売って、五〇SH(シェル)となった。

 書類上はエルガさんが売ったことになっている。他国の伯爵令嬢が売ったのだから何も問題ない。

 ミリア姉もご苦労様で、お小遣いとして、パパからいくらかお金をもらっていた。


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