34. 闇魔法と冒険者ギルド
ミクとの剣の訓練は継続されたまま、闇魔法の訓練が開始された。
まずは魔法回路のコピーだ。
全部の闇魔法の魔法回路を開示状態にしたリエッタに目をつぶってもらって、すべてを『複写』した。
複写できないものは設計図として、リエッタさんも行使できない高位の闇魔法の設計図を持っていたので、それはそのまま設計図としてコピーした。
ドリームランドは、レベル3のドリームを効率改善した固有魔法だった。
レベル2.5と、0.5しか改善されていないし霧が出るが、付与するにはレベルが低い方が都合がいい。ただドリームランドにも利点があって拡散に速度が速いそうだ。
エルガさん(主に研究用の魔法陣など)、ヒーナ先生(主に光魔法)との相互魔法回路のコピー会も行われ、セージの魔法回路は充実したものとなった。
それと面白いのが光魔法には、真実を判断する魔法があることだ。
さすがに得意な魔法は複合魔法も充実していたし、ヒーナ先生も将来を見据えて設計図を持っていた。魔法使いの性なのだろう。
ちなみにヒーナ先生にはコピー代として、パパが何かしらの報酬を払った。
一般的なことだそうだ。
魔法講座はエルガさんが受け持ち、リエッタさんとヒーナ先生がサポートについた。
実際の魔法の発動も行ったことは言うまでもない。
セージの魔法の腕前は格段に上がっていき、複合魔法陣の魔法コントロールには格段の成果が出ていた。
ヒーナ先生はもちろんマルナ先生の引継ぎもあって、ミリアが帰宅後は、そちらに付きっ切りになってしまい、その間、気をもみながらも、自分の業務に集中した。
昼食時にパパやママとの内緒の会話も増え、ママからも水魔法系の複合魔法の魔法回路をコピーさせてもらった。
おかげでかわからないけど闇魔法がレベル3となった。
◇ ◇ ◇
数日はあっという間に過ぎ、一三月六日の黒曜日、オルジ兄の出発の日となった。
前日には家族そろって無事と合格を祈願して、オケアノス神社にお参りもした。
黒曜日は海岸での剣の訓練の休日、ミクと会わない日でもある。
ちなみにオーラン魔法学校の最上級生である五年生の三分の一ほどの生徒が、首都マリオン市にあるマリオン上級魔法学校を受験する。しばらくいなくなるそうだ。
裕福じゃない家庭は、ギルドの支援制度――先月試験――で受験に臨み、受験の支援を勝ち取って、更なる奨学金を目指して必死だそうだ。
国も優秀な魔法師の育成を目指しているのこのような制度がある。
受験に失敗した者も含め、魔法学校からは、オーラン上級学校の魔法科に進学する者が多い。
「周囲の意見をよく聞いて、くれぐれも無理はしないように。いいですね」
ママが心配そうに、そして真剣に僕を見て言い聞かせてきた。
「はい」
僕も真剣の返事を返した。
僕が終わると、今度はミリア姉で、また僕と。
三度目の繰り返しでパパに、
「それぐらいでいいだろう。それと子供たちと俺を信じろ」
「よろしくお願いします」
「わかった。任せておけ」
で、終わった。
「行ってきます。絶対に合格してきます」
オルジの宣誓で、オルジ兄・ママ・ホーホリー夫妻(マルナ先生と冒険者の夫)に護衛一人が首都マリオン市を目指して大型魔導車で出発する。
旅行用の乗用ワンボックスタイプの大型魔導車は、魔充電装置が強化され、走行距離も一般の魔導車より走れるし、装甲も強化されている。
その分内部は幾分狭くなっているが、大型は詰めれば八人が乗れるのだから、五人だとゆとりだ。
もちろん荷物入れのトランクも備わっている。
魔獣や盗賊対策の小型の魔導砲も装備している優れものだ。
「それじゃあ、俺たちも行くぞ」
早めにお昼を食べ終え、パパの号令で通常の乗用タイプの六人乗りのワンボックス魔導車に、僕たち(ミリア・ヒーナ・エルガ・リエッタ)が乗車する。
運転はパパだ。
魔導車で移動して到着したのは冒険者ギルド。
「邪魔をするぞ。いるか?」
パパはギルド長と知り合いだ。
まあ、市議会議員も兼ねているマリオン国の議員なんだから当然のことだ。
ギルドの個室に移動する。
「彼女はエルガリータ・フォアノルン、俺の姪だ。
それとわかっていると思うが、外航貿易国家ヴェネチアン、エルドリッジ市の領主フォアノルン伯爵の長女だ。
魔法研究所に勤めていて、オーラン市に来たからには周辺の薬草などの調査もしてみたいってことで、念のため冒険者登録をしておくそうだ。よろしく頼む」
冒険者ギルド長に特別に要望等は無い。
顔見せの挨拶で、めんどくさいことに巻き込まれそうになったら気を使ってほしい程度のことだ。
ギルドにしても伯爵令嬢ともなると、気を使わざるおえないのは実情だ。
次いでのようにセージとミリア姉、そして護衛のリエッタさんも紹介される。
ヒーナ先生はギルドに登録済みの、顔見知りだ。
ヴェネチアン高等魔法学院を卒業して研究所に勤めたエルガさんは冒険者の経験が無い。
奴隷になって名前を変えたリエッタさんも冒険者資格は喪失している。
「お二人ともヴェネチアン高等魔法学院卒業と、優秀なんですね。それじゃあ、確認試験は無しでっと」
成人していれば自己責任といっても、戦闘力ゼロでは話にならない。多少の確認は行われる。
例外は、マリオン上級魔法学校の卒業者は、それなりに魔法が使える。それが戦闘向きでなくとも補助や治癒でも戦闘の手助けとなる。よって確認試験が免除となる。
それと同等のヴェネチアン高等魔法学院卒業者も同様の扱いになる。パパの保証とエルガさんの身分のおかげってのもあるみたいだ。
歓談に冒険者ギルドの説明を聞く。
セージやミリア姉も一緒になって興味深く拝聴した。
討伐や採取で得る依頼料の三分の一は税金とギルドのもうけになる。それは素材などの買取でも一緒だ。
冒険者ギルドにはSS、S、A~Gまでのランクがあって、討伐や護衛や調査はそのランクによって仕事を受けることはできる。
倒した魔獣などは随時買取するが、依頼でないものはランクに影響しない。
エルガさんやリエッタさんのように短期の調査などで森や海に入る場合がその対象だ。
未成年が登録できる“お手伝い”と呼ばれて冒険者扱いをされない(ランクG:カード色黒)。
成人が最初になるのが、狩りや活動制限のある見習いとれるF級冒険者(ランクF:カード色灰)とは、戦闘がそれなりにできると判断されるので扱いが違う。
マリオン国の上級魔法学校に相当する高等魔法学校を卒業したエルガさんとリエッタさんは狩りや活動制限のない駆け出し冒険者とされるE級冒険者(ランクE:カード色赤)となる。要は自己責任ってことだ。それは戦士科の一般上級学校生徒も同様だ。
ちなみに素材の持ち込みなのでD級冒険者(ランクD:カード色青)にまでなれる。
多くの冒険者がこのランクDだ。
それ以上は討伐や護衛や調査などの依頼をこなす必要があるし、もちろん強さも求められる。
以下、C級(緑)、B級(黄)、A級(白)、S級(銀)、SS級(金)となる。
まあ、S級が国家規模の活躍した名誉称号みたいなものだし、SS級はそれ以上っていったらどうなんだろうって思っちゃう。
実際S級が世界に数人しかいなくて、SS級はいないから無いに等しいんだって。
念のため判定石――【基礎能力】の総合を色で判定する魔石――で、おおよその強さを確認された。
おおよそ五段階で、以下の色に無段階に変化していく。
5以下:ブラック、“10”:ダークグレー、“15”:グレー、“20”:ダークレッド、“25”:ダークパープル、“30”:ダークブルー、“35”:ブルー、“40”:ダークグリーン、“45”:グリーン、“50”:ライトグリーン、“55”:イエロー、“60”:ライトイエロー、“65”以上:ホワイト。
強さから判定すると、駆け出し冒険者のランクE(赤)が上級魔法学校の卒業生レベルの“25”前後だ。
若手冒険者とされるランクD(青)になれるのが“35”前後とされる。
経験を積んで中堅冒険者と呼ばれるようになってしばらくして、強さが目安として“45”程度になると、ギルドへの貢献度も求められるが一流冒険者のランクC(緑)となる。
また“45”を超えたランクDも当然居るので、ランクDでも高い戦闘力を持つ冒険者もいる。
エルガさんがダークパープルからダークブルー、リエッタさんはグリーンとチョット驚かれたが、特に問題なしと判断された。
ちなみに上級魔法学校の卒業生――冒険者として狩りをしていない生徒――の平均的強さ、【基礎能力】の総合の値が“22”~“27”程度だそうだ。
ランクアップには必ず判定石が使われるので、素材を持ち込んでもランクは上がるとは限らない。
それと判定石で所定の強さがあっても、冒険者ギルドの判断で戦闘を確認するときもあるし、ランクC以上は必ず試験があるそうだ。
冒険者登録の登録料は二〇SH(一万円)で、ギルド利用料が一月四SH(二千円)で、年間(一六か月)一括で六〇SH(三万円)とちょっとお得だ。
ランクFは四分の一、ランクEは二分の一と安いが、ランクD以上は均一価格だ。
登録には住民なら税の払い込みの証明。
他国民や他市の住民だと入市税の払い済みの証明。
個人情報の開示――基本項目と神罰などの確認のみ、開示制限や秘匿で見せたくないものは隠してOK――で、犯罪などの指名手配の確認が行われる。
エルガさんとリエッタさんは登録料と一か月の利用料合わせて二四SH×二の四八SH(二万四千円)を払う。
冒険者登録もせず、多量の魔獣などを持ち込むと買取の拒否や、メチャクチャ買いたたかれる。それは商業ギルドなどに持ち込んでも一緒だ。
市の運営の妨害、税金のごまかしなど、犯罪者とされることもあり、他の市にも連絡が回るから登録するしかない。
冒険者ギルドに登録するということは、ある意味狩りの権利を買うということでもある。
キチンと登録すれば、犯罪などに巻き込まれてもギルドが対処してくれるからメリットもある。
主に若いうちはだが、ランクを気にせず採取や魔獣を狩って生計を立てている冒険者が多い。年齢とともに安定を目指し、ランクを上げて気に入った会社に雇ってもらう冒険者もいる。それがホーホリー夫妻だ。
旅をしながら稼いで自分で店や会社を立ち上げる者もいる。
オケアノス海一帯の国家間のみだが、冒険者ギルドカードは共通で使用できる。ただし、国を超えると利用料は別となる。
あとは要約すると、他の冒険者に迷惑を掛けない。獲物の横取りはダメ。喧嘩はなるべくするな。犯罪には手を出すな。みたいなことだった。
パパがいるからか、時間があるからか、丁寧に薬草の採取から魔獣の出現地点など、ここ最近の情報を教えてくれた。
ちなみに薬草や毒草、それに薬用の木の実など、薬の製造に欠かせない植物には特に貴重なものでもない限り、ギルド手数料と税を抜いた冒険者の手取りが一本または一個で三CPから、高くて一〇CP前後、日本円で一五円から五〇円程度だ。
部屋代込みで安くて一日一五SH程度の生活費だとすると、薬草採取だけで生計を立てようとすれば三~五〇〇本程度の採取が必要だ。
その他に税にギルド利用料、消耗品の補充に、できれば負いたくはないが怪我と、かなり厳しんじゃないか。
あと、ギルド利用者には格安でギルド診療所の利用が可能なので、ある程度の安心感がある。とはいえ、切り傷や打撲に骨折と、戦闘に関する治療だけなので、病気や欠損などの重症患者は医者に行くしかない。
「調査で無理はしないんだろうな」
ギルドマスターは、エルガにセージにミリアとを順に眺め、パパに目を向ける。
令嬢に子供連れで大丈夫かってことだろう。
「それはわからんが、彼女は闇魔法の使い手だ」
「そりゃあ豪勢な護衛だ。了解したが、面倒ごとはごめんだぞ」
「ああ、わかってる」
そうこうすると冒険者ギルドカードが出来上がった。
名刺大の赤いカードで、付与により血を垂らし魔法力を流して完了だ。
ネックレスにぶら下げることができるように、一か所穴が開いている。
「ギルドマスターも申しておりましたが、くれぐれも無理をしないよう、お願いします」
「了解した」
「ありがとうね」「ありがとうございました」
礼を言ってギルドを後にする。
そりゃあ、何処だって、伯爵令嬢が怪我をした、傷付いたってことで、下手をして国際問題なんて面倒ごとに巻き込まれたくないもんだ。