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次元災害で異世界へ  作者: 真草康
押しかけ家庭教師編
34/181

33. お告げ


 遅い昼食を終え、セージの自室にエルガさんとリエッタさんが付いてきた。

 お目付け役は当然のごとくヒーナ先生だ。


「じゃあ、セージ君こっちにきて」

「はーい」

 膝の上に座らせてくれるのかと思って近寄ると、

「手を出して」

「は、はい」

「リエッタさんはしゃがんであっちを向いて」

「はい」

 え、ナニナニ?

 どこから出したのか、エルガさんが針を出す。

「チョット、チックってするけど我慢してね」

「あのー、エルガ様」

「ああ、大丈夫だから」

 見る間にエルガさんは自分の指と僕の人差指をチクリと刺して、まずはエルガさんがリエッタさんの首の後ろ、サーバントリングにギュッと押し付け、血を付ける。

「ボクのやったように指で押して魔法を流して」

「はい」

 言われた通りに、サーバントリングに指を押し付け血を付ける。

 魔法力をチョット流すとサーバントリングが一瞬発光した。


「どういうことですか」

「仮の主人の登録。これでセージ君には絶対に悪いことはできなくなったってこと。

 多人数は登録できないから、まずはセージ君だったてこと」

「そういうことはやる前に教えてください」

「いいじゃない、大したことじゃないんだし」

「それにしてもですね」

「はいはい。それじゃあ、リエッタさんお願いします」

「はい」


「それではまず、ドリームランドを行使していただけますか」

「うん」

 状況が良くわからないけどこれが闇魔法を教えてもらえるための条件なのかな。

 エルガさんはテロ襲撃の時に僕の能力の一端を見ていることもあるし、リエッタさんの真剣さもあって、了承した。

 ヒーナ先生もなんだか感じるところがあるみたいに真剣です。

 僕はみんなからちょっと離れて「≪ドリームランド≫」と唱える。

 周囲に黒い霧が発生する。

 リエッタさんがその霧に触れ、満足そうだ。


「どうなの」

「現状は完璧です」

「現状?」

「実際の戦闘でも落ち着いて魔法が使えるかということです」

「それは大丈夫ですね」

 エルガの問いかけに、リエッタさんが答え、その答えにヒーナ先生が答えた。

 エルガさんとリエッタさんがどういうことかと視線で問いかける。

「セージ君、教えてもいいですか」

「……はい」

 もうこうなたら、仕方ないと思ってうなずいた。


「オケアノス祭で浮遊島のイーリスが落下したことは聞いていますか」

「うん」「はい」

「その時にセージ君と私は海で水泳訓練をしていました。

 ブイが壊れ、防魔ネットが破れ、大波にもまれました」

 エルガとリエッタが驚愕する。

「セージ君は槍トビウオを十匹近く、そしてイクチオドンを完全に単独で討伐しました。

 あのイクチオドンですよ、信じられますか」

 エルガとリエッタの驚愕度が増す。

 いやいや、倒した槍トビウオは六匹だったんじゃないかな。二匹は攻撃をはじいただけだし。

 ミニポイントを使って、空中に駆け上がってイクチオドンの脳天に、魔力を込めたキチンナイフを突き刺したことは忘れることはないだろう。

 そのキチンナイフはヒーナが常に腰に差している。泳がなくなった最近は予備武器としてだが。


「どうやって討伐したんですか?」

「先ほどミクさんの護衛のレイベさんが言ってたことで私も納得しましたが、時空魔法の“ポイント”で空中に駆け上がって、身体強化でジャンプして、このキチンナイフを強化、切れ味アップの付与をして、イクチオドンの頭に突き刺したんです」

 ヒーナ先生が考えながらゆっくりと説明する。

 途中、腰のキチンナイフも抜いて見せる。

 と、僕を見て、

「ですよね」

 問いかけてきた。

「え、どうかな、よく覚えたないけど、ポイントじゃなくって、ミニポイントだったと思うけど……」

 いいえ、よく覚えています。そのとおり……じゃ、ない。その時はまだ時空魔法はレベル1しかスムーズに使えず、“ミニポイント”で駆け上がったんだ! 声を大にして言いたいけど、こうやって真剣に言われるとこっぱずかしい。

「その程度は些細なことでしょう」


「一瞬で付与まで行ったように聞こえましたが?」

「ええ、そう言いましたが。

 ……ですよね」

 突然ヒーナが僕の方を向いてくる。

「それについてはよくわかんない」

 僕が知らないうちに付いたんだから……。あ、汗が。

「本人はこういってますが、セージ君しかありえません」

「そうですか。さすが、私のドリームランドを見ただけでコピーして使いこなす方。魔法の申し子のような方ですね」

「リエッタさん、納得?」

「はい」


「ちょっとヒーナさん、私と一緒にきて」

 何を思ったのか、エルガさんが突然ヒーナを誘う。

「え、セージ君は」

「だいじょうぶ、だいじょうぶ。だからチョット」

「ダメですよ。危ないじゃないですか」

「そんなことは無いから。チョット、これは大切なことなの。あとで叔父さんや叔母さんにもちゃんと説明するから。さあさあ、いっしょいっしょ」

「え、ええーー」

 エルガさんによって無理やりヒーナ先生が連れ出されてしまう。


「セージ君、今から大切なことを伝えます。

 心して聞いてください」

「は、はい」

 なんか緊張する。リエッタさんて厳格そうでなんだか苦手なタイプだ。背筋がピンと伸びてしまう。

「私の母は、ホンタース殿下の乳母をしていて、恩を色々受けていて、私は先のテロ行為を行ってしまいました。

 実際は嫌で嫌で、自殺も考えましたが、母の言葉でそれを取りやめ、テロを行いました」

 言ってる意味は理解できるが、なんかよくわからない。


「母はスキルとは違って、特殊な能力がありました。

 そのために幼いころは神社に使え巫女をしていました。

 それで王家の目に留まって、乳母になりました。その経緯は私も知りません」


 その後のリエッタさんの話。

 母は乳母になっても巫女の資質を失わず、女神からお告げを受けていた。

 巫女になったのもそのお告げを受けていたためだ。


 リエッタさんを産んでからは、そのお告げはほとんどなくなった。

 政変に巻き込まれ、敗者となってギランダー帝国に亡命した。

 その辺はリエッタさんは巻き込まれ、流されるがままになっていた。


 再起に燃えるホンタース元王子に、闇魔法の能力を見初められ、テロ集団に協力ように強要された。

 自殺でもしなければ逃げられないが、自殺をすると病気の母に迷惑が掛かってしまうと、悶々としていた。

 そういった時に久しぶりに母にお告げが降りた。

 ただし今までのお告げとは違って、かなりあいまいなものだったそうだ。

 その感覚は母でしかわからないから、リエッタさんには判断のしようがない。


 テロを行うことによってリエッタさんが運命の人に出会う。

 運命の人といっても恋愛関係などではない

 相手の顔も名前もわからないが、その人に魔法を教え鍛える。

 教え鍛えるのは早ければ早い方が良い。

 そしてその人は大災厄に立ち向かう使命を持って生まれた多くの人の中の一人だ。


 判断方法も告げられていて、その人物はたった一人でテロを防いでしまう。


 お告げはたったそれだけだった。


 有無を言わさないスパルタ教育でリエッタさんは強くなり、魔法も強力になった。

 結果、テロリストのリーダーとなった。


 僕はこの話を聞いて、ウインダムス議員の大災厄中に高能力の人たちが生まれる、といわれたことを思い出していた。

 魂魄管理者(女神様)は僕に、それとも僕たち二千五百人の転生者に何をやらせようとしてるのかと思って、愕然とした。

 ホントに“聞いてねーよ”だった。


 現在は大災厄中で浮遊島イーリスが落下したばかりだ。

 いつ何時、どんなことが発生するかわからい。

 この話の正否はともかくとして、自分が強くなることには賛成だ。

 頑張らずに流されるより、頑張って流れを乗り越える方が自分に合っている。

 セージはこの時点で、頑張ることを決意した。


「本当に驚きました」

 驚いたのはこっち!

「テロに当たってはギランダー帝国で鍛えられ、その他にも様々な準備をしましたし、対策も立てました。

 それなのに私の放った魔法を見よう見まねでものにして、人質の解放をしてしまう。

 テロの行動に齟齬を及ぼし、脱出するために占拠した船の奪還と、計画の主要部分を台無しにしたのがたった五才の子供だと聞いた時の衝撃が理解できますか」

 リエッタさんの冷めた視線に、ひ、ひえーー。ちびりそう。


「……お、お、怒ってるんですか…」

「いいえ、うれしかったかもしれません。いいえ、うれしかったんだと思います。

 それでセージ君は何か使命のようなものを持って生まれたのですか?」

「いいえ、わかりませんし、聞いたこともありません」

「そうですか。

 それでも私は、エルガさんに出会ってセージ君の話を聞いてからですがですが、母を信じてみることにしました。まあ、テロを行う時点で半分信じ、いいえ、期待していたんですが」

 凛とした雰囲気はそのままだけど、ずいぶんサッパリした感じになった。


「本当にごめんなさいね。ゆるされるとはおもえないけど」

 僕が何を言っていいのか困ってしまうと、

「エルガさんとヒーナさんをそろそろ呼びましょう」

 リエッタさんがドアを開けに言った。


  ◇ ◇ ◇


 夕食後。

 今度はパパにママ、僕にエルガさん、リエッタさんが集まってもらって、予言のことをみんなに告げた。


「ボクも話を聞いて驚いちゃって、それに面白くて、まずはセージ君にと思って長期休暇を貰って船に飛び乗ったって訳。

 だから父さんや母さんにも伝えてないんだ」


 さすがの脳筋父様も唸ってしまった。

 ママも顔が真っ青を通り越して、血の気が完全に引いたみたいに真っ白だ。


「セージ、本当に身に覚えはないのか」

「はい」

 これだけは自身を持って言える。

 魂魄管理者(女神様)にもそんなことは言われてない。

「そうか」

「ただ、ごめんなさい。ごまかしてたことがあります」

 先に謝ると、パパが目をむき、ママの白い顔が更に白くなる。

「『個人情報』…」

「ちょっと待ってください」

「なに」

「秘密を打ち明けるのですよね。それでは私は外に出ています」

 ああ、奴隷だから秘密保持は無理か。

「後で呼ぶね」

「お願いします」

 手を振るエルガさんに、リエッタさんが一礼をして部屋から出ていく。


「『開示』」


----------------------------------------------------

【セージスタ・ノルンバック】

 種族:人族

 性別:男

 年齢:5


【基礎能力】

 総合:15

 体力:19/19

 魔法:67/67


【魔法スキル】

 魔法核:4 魔法回路:4

 生活魔法:2 火魔法:3 水魔法:3 土魔法:3 風魔法:4 光魔法:3 闇魔法:2 時空魔法:4 身体魔法:2 錬金魔法:2 付与魔法:2 補助魔法:2


【体技スキル】

 剣技:1 短剣:2 刀:1 水泳:2


【特殊スキル】

 鑑定:2 看破:1 魔力眼:1 情報操作:2 記憶強化:2 速読:2


【耐性スキル】

 火魔法:1 水魔法:1 土魔法:1 風魔法:2 光魔法:1 時空魔法:2 魔法:0


【成長スキル】

 基礎能力経験値2.14倍 スキル経験値2.14倍

----------------------------------------------------


 ここで伝えなかったら一生嘘をつき続け、一人で抱えることになると思ったからだ。

 それはつらい。


「な……」

 パパは、一言言葉を発したまま、ポカンと口を開けたままだ。

 ママは、真っ白い顔で目が飛び出している。鬼気迫る表情だ。


「全属性なんて初めて見ちゃった」

 指を折って数えていた天然お嬢様のエルガさんは本当にうれしそうだ。


「あ、ポン。ポン」

「はい、はい」

 小太刀の銀蒼輝を取り出してエルガさんに見せる。

 仕舞って、再度取り出す。

「うわー、初めて見ました」

 パチパチパチ…とエルガさんが手を叩く。

 バカ受けです。

「研究所の中にいないんですか」

「二人いるけど、一人はケチ、意地悪で見せてきれないんだよ。

 もう一人は所長で、お願いしたんだけど、忙しいって、ひどいんだよ」


「本当にオケアノス神のご加護を持っているとは」

 いやいや、持ってないから。


「これは、本当にそうとしか言えませんね」

 ママまで何言ってんですか。

 チョット腰が引けちゃう。チョットプレッシャー。困ったちゃんです。


「ねえ、情報操作って何? 初めて見たんだけど」

 エルガさんが、まじまじと覗き込んでくる。

 あっそう? 知らないんだ。


「偽装パネルっていう、ごまかしができるパネルを扱えて、好き勝手に記述できるの。

 こんなふうに、『個人情報(偽)』『開示』」


----------------------------------------------------

【セージスタ・ノルンバック】(偽)

 種族:人族

 性別:男

 年齢:5


【基礎能力】

 総合:11

 体力:13

 魔法:29


【魔法スキル】

 魔法核:2 魔法回路:3

 生活魔法:1 火魔法:2 水魔法:1 土魔法:1 風魔法:2 身体魔法:1 光魔法:2 闇魔法:1 時空魔法:1 付与魔法:1


【体技スキル】

 剣技:1 短剣:1 水泳:1


【特殊スキル】

 鑑定:1 看破:1 記憶強化:0

----------------------------------------------------


 試しに情報の書き換えも見せてあげた。

 総合、体力、魔法を全て999にしてみせたり、魔法回路をコピーしてサイスを変更してみたり、魔法回路(偽)で魔法を放った時には、みんな再度びっくりしていた。


「これを見たらミリアが普通に見えるな」

「そうですね」

 パパとママの困惑気味の感想が漏れる。

 ミリアも【成長スキル】に、基礎能力経験値1.1倍とスキル経験値1.21倍があって、夫婦で大はしゃぎしたんだそうだ。


「ねえ、どうやったら速読と記憶強化が取得できるの」

「基礎能力経験値2.14倍、スキル経験値2.14倍ってなんですか。そもそも2.14って中途半端な数値は何ですか」

「なんでボクより魔法量が多いの」

 エルガさんのこれ欲しい攻撃に、不満交じりのうらやましい攻撃が止まらなかったのは別の話だ。


 疲れた。

 そしてホッとしたら、ものすごい脱力感に、チョット泣いちゃった。

「辛かったんでしょう。よしよし、もういいのよ」

 ママに、あやしてもらったら、なんか、声を出して泣いちゃった。

 わーーんー…。は、恥ずかしいけど止まらない。ぼく、五才だったんだ。


  ◇ ◇ ◇


「今後もセージみたいな子供が数多く出現するんだろう」

「リエッタさんの母親のお告げからすればそうですね」

「何度も聞いて申し訳ないが、セージは心当たりがないんだよね」

「はい」

「とにかくこの件は、このまま秘密にして、追加で何か判明するか、ほかの仲間が出現した時に再度相談だな。

 それまでセージもその偽装パネルでごまかすように」

「はい」


「セージ君って本当に非常識以上の塊だったんですね」

 教育担当のヒーナには隠し通せないだろうと、秘密保持を宣誓してもらってから打ち明けた。

 マルナ先生に伝えるかは保留中だ。


 リエッタさんは尋問で聞かれるままに、ホンタースやダラケートの動向、ギランダー帝国の画策などを洗いざらい吐いた。

 もちろん動機として母のお告げに運命の人等も告げたが、その時にセージには会ってはいるが、まさか計画の崩壊を招いたのがそのセージだということを知る由もなかった。

 そのような不確かなことは価値無しとなってスルーされた。


 それを面白半分に会話しながら聞きだしたのがエルガさんで、すべてを聞いて行動したということだ。

 伯父様たちへの説明は、様子見して、機会があったらということになった。


 自室でヒーナと相談して『個人情報(偽)』を以下のように変更した。

 パパやママには明日報告だ。


 オルジやミリアには、ショックがあるからと個人情報見せていなかったのでできたことだ。

 最悪見せていても、パパの命令で『隠匿』した、で済むことだ。

 それはウインダムス家にバレている時空魔法についても同じことだ。あ、闇魔法や付与魔法もか。

 なんかバレバレのような気もしないでもないが。


----------------------------------------------------

【セージスタ・ノルンバック】(偽)

 種族:人族

 性別:男

 年齢:5


【基礎能力】

 総合:11

 体力:13

 魔法:27


【魔法スキル】

 魔法核:2 魔法回路:2

 生活魔法:1 火魔法:2 水魔法:1 土魔法:1 風魔法:2 身体魔法:1 光魔法:2


【体技スキル】

 剣技:1 短剣:1 水泳:1


【特殊スキル】

 鑑定:1 看破:1

----------------------------------------------------


 これでも上級魔法学校、合格確実、特待生レベルだそうだ。

 本物の方は、属性数は別にして、上級魔法学校の卒業レベルだそうだ。

 ただし、魔獣狩りを許可された生徒は、経験値を手に入れ、基礎能力がもっと上となる。

 ちなみに“中世魔法”の光魔法と闇魔法、“新世魔法”の時空魔法、身体魔法、錬金魔法、付与魔法、補助魔法魔法はレア魔法とも言われていて、持っているだけで加点される。

 中でも闇魔法と時空魔法は持っているだけで、上級魔法学校は合格となる可能性もあるそうだ。


「こんな五才、どこにもいません!」

 ヒーナ先生、何を怒ってるんですか。


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