31. セージの日常
八月一日赤曜日。
「セージ様、明日から水泳訓練再開です」とヒーナ先生から言われたのが昨日。
朝食を食べ、オルジ兄やミリア姉が早々に登校していて、現在は出かける準備中だ。
オルジ兄は数日前に魔法量が“24”になったこともあって、気分良く出かけていった。
ミリア姉はそれより早く魔法量が“19”となった。
明後日がオルジ兄の誕生日。
気分良く誕生日を迎えられそうで何よりだ。
イーリスの落下によって、オーラン湾に侵入した海魔獣の掃討が完了したのが二日前。
セイントアミュレットブイや防魔ネットの設置や修理も完了している。
オケアノス祭の終わったオーラン市はずいぶん静かになって、いつもの生活に戻っている。
地震は相変わらず散発的に発生しているが、イーリスの落下時のように大きな地震は発生していない。
セージはその間に、本で見つけたレベル3までの単体魔法陣を全て作成し終わった。
難しかった複合魔法陣もそれなりに作成でき、複合魔法も練習し始めている。
覚え始めの複合魔法は発動が遅いし、レベル上げもまだまだだ。
スムーズに使えるレベル3の魔法は最初の頃に練習していた風と水魔法だけだ。
練習のおかげで魔法レベルが0だった、土魔法、光魔法、錬金魔法も全て1となった。
魔法量も“37”まで上がって、かなりいろんなことができるようになった。
----------------------------------------------------
【セージスタ・ノルンバック】
種族:人族
性別:男
年齢:5
【基礎能力】
総合:13
体力:15/15
魔法:37/37
【魔法スキル】
魔法核:3 魔法回路:3
生活魔法:1 火魔法:2 水魔法:3 土魔法:1 風魔法:3 光魔法:1 闇魔法:2 時空魔法:2 身体魔法:2 錬金魔法:1 付与魔法:1 補助魔法:1
【体技スキル】
剣技:1 短剣:1 水泳:1
【特殊スキル】
鑑定:1 看破:1 魔力眼:0 情報操作:1 記憶強化:2 速読:2
【耐性スキル】
水魔法:1 風魔法:1
【成長スキル】
基礎能力経験値2.14倍 スキル経験値2.14倍
----------------------------------------------------
四〇センチメルだった魔法回路は、四五センチメル程度に大きくなった。
四七~八センチメル程度になれば、レベル4の魔法陣も作成できそうだし、このまま順調にいけば魔法回路や魔法核も4になるんじゃないかと期待している。
魔法回路で分かったことは、最初にどうやら五八○枚あったってことだ。
その後に魔法レベルが1アップするごとに魔法回路が一五枚増えてきた。
現在は八八〇枚の魔法回路があるから十分すぎる量だってことはない。
レベル4からレベル8前後の設計図を保存してるし、色々と作業用の魔法回路も必要で、現状思ったよりユトリはない。
魔法回路の増加方法は完全にはわからないが、
(魔法核+1)×50
(魔法回路+1)×50
(魔法レベル+1)×15
とすると計算上ピッタリになる。
ちなみに“+1”は“レベル0”で増えるからその分だ。
魔法陣が多いのには理由がある。
その主な理由が、付与魔法や補助魔法には制限や魔法陣が変わっていて、使い方も独特だからだ。
付与魔法は付与魔法レベルまでの魔法しか付与できない。
できれば同一レベルの魔法陣を使用して付与することが望ましい。
それが魔法属性ごとに生活・火・水・土・風・光・闇・時空・錬金魔法と九種類ある。そして別系統の無属性付与に、イメージ付与と全一一種類に、レベル3からはスキル付与が可能になって二種類増える。あと、解除もあるのでレベルごとに全一四種類も存在する。
ただ救いなのは定着させるための魔法が錬金魔法である程度汎用に使用できることだ。
付与魔法は生物には行使できない。
付与魔法は生物の持つ体内魔素や生体波動など、魔法に対して変動するものに対してはその状態を保持・定着できないからだ。
無理に行おうとすると、体調不良や下手をすると死に至らしめることもあるそうだ。まあ、その前に体が反発するのだが。
唯一の例外が黒魔法などの精神操作との併用で可能らしいのだが、本にはそれ以上のことは載ってない。
もちろん身体魔法は物には付与できないし、それは付与魔法や補助魔法を付与することも不可能だ。
補助魔法は一度に重ね掛けしない限り、別々に重ね掛けができない。これは付与魔法もそうだ。
スキル補助は付与と同様にレベル3からだ。
補助には生体スキル補助といって、レベル4から人に対して補助が可能になる。
付与の魔法陣はレベルごとに付与魔法+1枚(種類)となる。
生体スキル補助といっても、補助できるものは魔法耐性や対物耐性など耐性スキルや、特殊スキルの一部だけだ。
ただし生体スキル補助は、本人の魔法力や体力も使うため疲労が早まる恐れがあるから注意が必要だ。
それと、生体スキル補助は相手の魔法力に同調させる必要があるので、何かとめんどくさい魔法みたいだ。
看破に鑑定、魔力眼などが無ければ難しい魔法みたいだ。
物には耐性だけでなく、武器であれば属性魔法をある程度だが補助することが可能なのは付与と一緒だ。
その他にも時空魔法のアイテムボックスやテレポートのようにレベルごとに魔法陣が違うものが多々あって、設計図が膨大になっている。
光と水のレベル3の複合魔法のセイントウォーターで、自前で聖水を生成させられるようになったのはいいが、まだ複合魔法になると魔法力を効率的に操れていないような気がする。
寝る前に、リバイブウォーターを飲み干した水筒に聖水を満たすことを自分でやっているが、時間と魔法力が多くかかっている。ただ練習にはちょうどいい。
ヒーナ先生には「聖水はいらないんですか?」と聞かれたが、「キッチンで入れてもらったお水でも長時間入れておくと効果があるみたい」とごまかしているけど、何処まで信じてくれているのやら。
伯父様からもらった白魔石入りの水筒が三つあるので助かっている。
聖水を白魔石入りの水筒に入れても、リバイブウォーターになるには一二~五時間ほど掛かるし魔法力を込めないといけないから何かと手間がかかる。
それと、二週間に一度ほど白魔石には魔法力を流して活性化する必要がある。
それでも白魔石の効果は通常数か月、だいたいが六~七か月ほど使用可能だ。
最初にもらった魔石がそれで、特別にもらった二個の大きな白魔石はそれ以上に持ちそうだ。
ヒーナ先生の見立てだと「一年近く持つのでは」とのことだった。
みんながリバイブウォーターをあまり飲まないことが理解できた。
リバイブウォーターを一回飲むと、僕は魔法量が“18”前後復活するが、どういう訳だが二回飲んでも“32”程度と倍にならない。三回飲むとフルの“37”に戻る。
三回でどれだけ回復するかわからないが、魔法残量が多いとだんだんと効果が弱くなるようだ。
それと人によって効果にバラつきがあることも分かって、僕より復活する量が少ないみたいだ。
「ヒーナ先生は、なんであんまりリバイブウォーターを飲まないの?」
「魔法残量が“30”を超えると、多めに飲んでもほとんど魔法量の増加がありません。
20前後になれば飲みますが、それでもあまり効果がありませんから」
ということだった。
うれしい情報は、リバイブキャンディーというリバイブウォーターを濃縮して個体にしたものがある。
それだとリバイブウォーターの二倍程度の効果があることも教えてくれた。
ヒーナ先生はリバイブキャンディーだと、
「ものにもよりますが、魔法の残量が“60”弱までは回復したことがあります」
ということだった。
もちろん一個でそこまで回復するわけではない。回復のMAX値が“60”弱ということだ。
それと、製造されたリバイブキャンディーにはバラつきもありそうだ。
◇ ◇ ◇
ヒーナ先生との魔法訓練は現在棚上げ状態なっている。
そりゃあ、個人情報と使用できる魔法や、その威力にも差異があるし、魔法の本からの知識で上級魔法学校生を越してしまっている。
実戦も先生たちの経験とそぐわないから、ヒーナ先生やマルナ先生も混乱してしまっているためだ。
魔法の残量が“5”未満になると気持ち悪くなるってのは本当のことだった。
ミリア姉やオルジ兄に聞いたから確かだ。
魂魄管理者からの転生者への恩恵なのかもしれないけど確認のしようが無い。
魔法の威力やコントロールなどもミリア姉やオルジ兄との差が歴然としている。
それら様々な要因が合わさって、現在は体力アップが主な訓練だ。
◇ ◇ ◇
今日の水泳訓練からはキチンナイフを腰に差して行くことにしている。
もちろん強化・鋭利の付与済みだが、気合が足りないのか、今一歩うまくいっていない。ヒーナ先生のナイフの方が丈夫で切れ味がいいような気がする。というか、付与魔法のレベル1でよくもまあ、あんなに魔法力の流れが良く、しかも切れるナイフになったものだ。
ちなみに付与魔法レベル1だとイメージ付与の魔法陣しか無いので、魔法力と思いを込めるしかない。
それと通常は、付与した魔法の能力は半減してしまう。
それは多めに、しかも慎重に魔法力を流すことによって、ある程度は解決できたけど、性能が落ちることはどうしようもないみたいだ。
ちなみに補助魔法もそれは一緒だ。
それはさておき、買ってもらったキチンナイフに工夫したのは、風魔法をイメージ付与して、メンテナンスフリーとはいかないが、汚れが付きにくくしたことだ。
フフフ…、腰のナイフを見て思わず笑いがこぼれてしまった。
「セージ様、切れ味最高のナイフだ見せてやるって、どや顔に書いてありますね」
「い、いや、そんな……」
「そんな?」
「えー、いえ、なんでもありません」
笑わない、笑わない。自重、自重っと。
◇ ◇ ◇
海岸はイーリスの落下が無かったかのように元に戻っているが、さすがに海の家は補修中だ。
お祭りが終わって、治安もよくなったこともあり、魔導車を使わず徒歩で来ている。
僕の荷物はいつもの水筒と、水着やバスタオルの入ったリュックだけだ。
着替えて水筒を持って、ナイフを佩いて浜辺にでる。
肩からぶら下げている水筒のケースには自分の顔のアクセサリーとお守りをシッカリとくくり付けている。
お祭りが終わったのもあるが、平日ということもあって、海水浴客はかなり少ない。
「おはよう」
「おはよう」
手を振るミクちゃんに、手を振ってこたえる。
オケアノス神社で別れてからだから一〇日振りだ。
ミクちゃんが水筒を振ると、アクセサリーとお守りが揺れて、何やら音がする。
「ワタシもリバイブウォーターにしてもらったの」
「それはよかったね。おそろいだ」
「うん」
本当にうれしそうだ。
「水泳のスキルは出たの?」
「お守りのおかげで出たけど、まだ“0”。ありがとうね」
「ううん。お守りのおかげじゃなくって、ミクちゃんが頑張ったからだよ」
「セージちゃんは?」
「僕はこの前“1”になったばっかり」
「いいなー」
「ミクちゃんももうちょっとだよ。一緒に頑張ろう」
「ありがとう」
最初のぎこちない会話から、随分進展したものだ。
まあ、相手は五才だけど。という、僕も五才だけど。
「先日はどうもありがとうございました。おかげで護衛を続けられます。
セージ君も大活躍だったそうで、ありがとうございました」
「当然のことをしたまでです」
「うん、よ、よかったです」
ミクちゃんの護衛のレイべさんに慇懃にお辞儀をされて、ヒーナ先生は泰然としているが、僕は照れてしまう。
慣れていない、若い女性に笑顔を向けられるのは苦手だ。
刺されたお腹は傷跡一つ無いそうで、何よりだ。
…シッカリとガードされた水着からじゃ、傷跡は見えません。
「セージちゃーん、泳ぐよー」
「うーん」
と海に向かって二人で駆け出す。
それなりに泳いだ後、ポッコリ岩にも上ってみる。
なんだかイクチオドンや槍トビウオと戦ってから随分経ったよな気がする。
持っていてもらった水筒で一息つける。
その後も泳いでは休んでを繰り返して、訓練を終えた。
「これはカフナと一緒に選んだお礼の品です」
別れ際にレイベさんからヒーナ先生は短剣を。
「水筒に入れてください」
僕は小さいながらも白魔石をいただいた。
カフナさんとレイベさんともに槍トビウオに刺され、僕も頑張ったけど、傷跡もなく元気になれたのはヒーナが治癒魔法のオーソリティだからだ。
冒険者の流儀で助けた貰った時にはそれに見合う価値の物を贈るそうだ。
冒険者扱いかと思うと嬉しいけど、やっぱり照れてしまう。
「またね」
「うん、またね」
◇ ◇ ◇
水泳訓練ができなかったり、暇だったりしたセージは、鑑定が“1”になったこともあってヒーナ先生やメイドに付き合って、買い物に出かけることも多くなった。
鑑定は物の価値を判別するスキルで、魔物や人などの強さを判別するスキルは看破と別物なのがこの世界だ。
そして鑑定も看破も知識によって補正が掛かる。知識があれば正しい情報が得られ、逆に知識が無いと曖昧になる。
そのための買い物のお付き合いで、武器に防具、服や靴、野菜に肉、香辛料や塩、名産品の食器、オケアノス神社前のお土産屋など、できるだけ見て聞いてを心掛けた。
家庭に普及しいている魔石装置の数々。
調理用コンロ・湯沸かし器・冷蔵庫・洗濯機・送風機・給水機なども見て回った。
ミュージックボックスはここ最近の製品で、人気があるが在庫切れだった。残念。
もちろん機会があれば魔法に魔石、電器と機械を高度に組み合わせた魔電装置を見たい。
本で読んだだけじゃよくわからない。
実物を見て勉強したいけど、まだ機会が無いというか、マジカルボルテックスといえばウインダムス総合商社なんだ。ちょっと怖くて腰が引けちゃってる。
魔導車の老舗のテスラ・マジカルボルテックス・テクノロジー社もあるけど、そっちは子供が冷やかしで見学するのははばかられる。
パパに相談するのが一番だと思うけど、急ぐもんじゃないから棚上げ状態だ。
魔獣狩りで得た強力な獣魔石は特殊加工して魔電装置や高級な魔石装置に使用される。
普及タイプのファミリーマシンに使用される魔石は、槍トビウオだと弱すぎるけど、弱い魔獣の魔獣石や、魔石鉱山で採掘される魔石が使用される。
バルハライド独特の文化か、マリオンの文化なのかわからないけど、調理時に薪の使用は禁止されている。
薪を使用すると近隣の森林の伐採で、自然環境に多大な影響を与えるからだ。
エコの概念もあって、炭もある程度使用されているが使用条件がきびしい。
調理やフルにシャワーには魔石コンロが通常使用されている。
そんな無駄知識は豊富になってきた。なんだか以前の社畜生活時代の調べ癖が復活しちゃったかのかって、一度凹んでしまったのは内緒のことだ。
環境も違うし、強要も搾取もされたないから。うん、楽しいし、がんばろう。
◇ ◇ ◇
水泳訓練の帰りがけにヒーナ先生と一緒に、チョット遠回り。
常設の市場をほっつき歩いく。
「おばちゃん、このトマトいくら?」
「こっちの小さいのが一個二CPで、こっちの大きいのが一個三CPだね。いっぱい買えばおまけし置くよ」
「ねえ、この魚なんて名前なの?」
「ワライスズキだ。大きいから一匹二SHだね。白身で淡白で美味しいよ。
こっちのはシマヒラメ。脂がのっていて格別だから大きいのは四SH、小さい方が三SHHだね」
ワライスズキとは、顔が笑ってるように見える海水魚だ。
シマヒラメは刺身で食べたいものだ。
お小遣いも決まって、一か月(二四日)で一SHと、日本円で五〇〇円だ。
一〇〇CPで一SHという下の貨幣単位もあって、一CPはとうぜん五円となる。
もちろん完全等価ではなく、食べ物は日本より安いが、衣料品などは日本よりかなり高い。それらを平均したらこんな程度かという目安だ。
お祭りのお小遣いもチョット残っているけど、イクチオドンの報奨金三〇SH(一万五千円)があるからかなり裕福だ。
イクチオドンの魔獣核(魔獣石)は売れば通常二五SH程度だが、僕の持っている魔獣石は大きく三〇SH(一万五千円)程度になるそうだから、実質の手持ち金は六〇SH(三万円)となる。
槍トビウオの魔獣石は小さく、重量取引で一個一SHチョットと安い。
下手をすれば、クズ魔獣石として肥料行きだそうだが、今回の魔獣石は売れるものだそうだ。
買い物もしてみたいが、絶対に欲しいと思う物が無いなー、と見ると緑と黒の縞模様が目に留まった。
「おばちゃん、甘い?」
「甘いよ。食べてみるかい」
「うん」
真っ赤に熟れたスイカをおばちゃんが勧めてくる。
一切れ食べると、みずみずしくてとっても美味しい。
「これいくら?」
「どれでも八〇CPだよ」
「じゃあ、大きくて、甘いの二つ」
「一SH五〇CPでいいよ」ということでお金を払った。
ラグビーボールのようなスイカの一個は、僕のリュックに何とか入った。
もう一個はヒーナが持ってくれた。
お昼をチョット過ぎて帰宅。
出かける前に帰りに散歩する旨を伝えているから問題ない。
キッチンにお土産を渡すと、
「夕飯のデザートにだしましょう」
コックに喜ばれた。
冷蔵庫もあるから冷えたスイカが食べられることだろう。
パパやママと昼食を摂って、魔法を使い果たしてお昼寝をする。
単独魔法属性の魔法陣を作成中の時には、お昼寝前にも魔法陣を作っていたけど、現在はそこまでして複合魔法陣を作ってない。
かなりの数の単独魔法の練習をしきれていないからだ。
◇ ◇ ◇
三時に起きて、ヒーナ先生やマルナ先生と剣の練習。
いつもなら、その他には図書室に籠ったり、市営図書館にも一回行ってみた。
そのおかげで、魔獣や薬草、一般の動物や魚、植物などの知識も付いてきた。
全ては覚えきれないし読み切れるものだはないので、魔獣や薬草は結構真剣に調べたけど、他のことについては一般的な知識を得た程度だ。
もらった薬草などの本と違った内容で、地域差なのか随分違った内容だった。
あとは剣術や武術に関する本も読んだ。
刀を使う戦い方や、空手や柔道に合気道などの知識を得て練習をしたかったからだ。
諸刃の刃の剣は真っ直ぐな剣で、基本は突き攻撃となる。バスターソードなどの両手剣は重さで鎧の上からたたく剣だ。切れ味は悪い。
対して片刃で反りがある刀は、突きも可能だが、引いて切ることが可能だ。
そして教えてもらっている剣術が、剣に関する戦い方で、しっくりこないのがあったためだ。
江戸時代には武芸百般などといって剣術・槍術・薙刀術・弓術・馬術・剣術・水泳・捕縛術など多岐にわたっていたし、柔術としての無手の戦いもそのうちの一つだ。
戦国時代の主流武器は火縄銃を抜かすと基本は槍だ。馬上からだと刀じゃ相手に届かないんだ。それに相手と距離が取れる。
武士の魂が刀になったのは剣聖といわれた上泉伊勢守信綱が諸国流浪しながら剣術指南し、印可状を与えたことによるところが大きい。
それによって剣術が盛んになった。
早い動きで切りあう剣道は、軽い竹刀を用いてスポーツ的になったものだ。
本来の刀は重いから、腰を据えて切るものだ。
そういうことで僕が目指すのは、まずは銀蒼輝を使いこなす剣術の技で、知識だ。
前世の無駄知識がこんなところで役に立つなんてと思ってしまったのは、もちろん内緒だ。
まあ、魔法で対処できるから剣でも切れ味が良いものもあるし、魔法と組み合わせて戦うのが普通だから、無駄知識が完全に生きるかっていったら、そうじゃないけど。
市営図書館は、一回の利用料金が二○CP(百円)だけど、保証金一〇SH(五百円)を別に払う必要がある。保証金は問題なければ帰りに返却してくれる。
利用料金はママが「特別ですよ」と出してくれた。
今度市営図書館に行ったら魔電装置について調査してみる予定だ。
そうこうするとオルジ兄とミリア姉が帰宅する。
セージも加わって、しばしの休憩。
マルナ先生についてオルジ兄とミリア姉は宿題をやり、魔法訓練を行う。
僕はマルナ先生の訓練に参加することはない。
海魔獣を単独で倒して経験値が一気にアップした僕が一緒だと何かと問題があるからだ。
ほとんどが部屋に籠って魔法陣を作ってもいたけど、ヒーナ先生の得意な光魔法を教えてもらったり、火と水魔法の複合魔法で氷を作る手ほどきも受けたりもした。
聞いた話によると経験値稼ぎに、内緒で魔獣狩りをして、怪我をする子供が毎年数人はいるそうだ。
軽い怪我程度です済めばいいのだが、無理をして亡くなる子供もいる。
手や足などをなくす子供もいるし、後遺症で苦しむ子供もいる。
ラノベでよくある経験値稼ぎ、止めを刺しても経験値はほとんど得られないから、子供やバカ息子を冒険者に頼んで狩りをさせることも無い。
わかっている条件は以下の通りだ。
・経験値が入るには魔獣に相当量のダメージを与えること。そしてその魔獣を倒しきること。
・得られる経験値は与えたダメージ量によるが、ダメージ量が少ないと経験値は取得できない。
・自分より強い魔獣だと経験値は加算され、弱い魔獣だと減少する。
・弱すぎる魔獣を倒しても、ほとんど経験値が得られない。
・捕獲して動けない魔獣を倒しても経験値は得られない。
・戦闘から離脱すると経験値は得られない。
その他にも大人数で魔獣を倒すと経験値がほとんど取得できないとか、経験値は距離に比例するので遠距離攻撃だと経験値が減少するのではとか、制限条項に関するうわさは限りが無い。
とにかく経験値を取得するには真の強さを判定されるということ、強い魔獣を倒すことだ。
魔獣狩りが許されるには冒険者登録する必要があるが、それも条件や資格が必要だ。
・成人すれば自己責任だから制限はない。(一六才になる年で成人とされる。上級魔法学校の卒業時が一五才で、新年が開けて成人となる)
・上級魔法学校生は学校と親の了承のもと冒険者登録が可能。
・親の了承で冒険者のテストに合格する。
魔法学校や一般学校を卒業して、一二才で仮成人として働きだす子供もいるから、年齢制限が緩いんだそうだ。
そのほかには自警団などに入ってもできるし、農村など身近に魔獣がいるところではその制限が緩くなるのは言うまでもない。
両親などが狩りに連れていくのももちろん問題はない。
当然襲われて反撃することも問題ないし、倒した魔獣は引き取ってもらえる。
セージがイクチオドンを倒して報奨金を貰ったのはそのためだ。
子供が薬草や魔獣などを売りに来ても買い取ってくれるが、ちゃんと名前を確認される。
旅人の子供ならそのまま放置されるが、市内の子供なら親に連絡がいくことになる。
村の子供でも数が多ければ機会があった時にだが、村長などに連絡がいく。
資格もなく大量の素材の持ち込みは買取を拒否される可能性が強いが、村全体や自警団などの狩りは例外だ。
オルジ兄とミリア姉はマルナ先生からとくとくと説明されていたから無理はしないと思う。
◇ ◇ ◇
僕は先にお風呂に入って、家族そろって夕飯となる。
マルナ先生とヒーナ先生も一緒だ。
グッタリ気味のオルジ兄とミリア姉はいつものことだ。
スイカも冷えていて美味しかった。
最近はミリア姉との追いかけっこの頻度が減少した。
変わって「魔法を見せて」とねだられることが多くなった。
追いかけられると逃げるが、お願いされるとそうもいかない。まあ、微妙だけど。
「ねえ、風と炎の複合魔法を見せてくれない」
「ミリアさん」
「はーい。風と水でいいわ」
「うん」
外の練習場ならともかく、屋内の練習部屋で火はダメだ。マルナ先生に止められた。
「<小水弾>」
初めて見せた<ウォーター>と<ウインド>の複合魔法陣によるレベル2の魔法だ。
慎重に発動させたら、二秒ほど時間が掛かってしまった。
右手に現れた水球が手を離れる。
最初に見せた時と同様に自分の周囲を一周させるが、軌道は斜めで少し大きくした。
右手に戻った水球を『解除』と魔素に戻す。
最近は解除しても水がこぼれないようになった。
オルジ兄とミリア姉が食い入るように見ていた。
「セージ様、魔法核と魔法回路はヤッパリ2ではないのですか?」
ヒーナ先生が突っ込みに、あっ、失敗と思ってしまう。
そういえば今までは左右の手にレベル1の魔法を発動させてから合成していたけど、合成魔法陣の魔法を初めて見せたんだ。
「無理もなくスムーズに発動していましたし、もっと早く発動できますよね」
今度はマルナ先生からだ。
「えー……、まあ、あのー……」
「なっちゃたんですね」
「は、はい」
バレちゃいました。
まあ、バレてもいいと思っていたからいい機会か。もうしばらくしたらレベル3の魔法は…いあや、当分見せない方がいいよね。
あっ、オルジ兄、そんな顔をしないでください。