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次元災害で異世界へ  作者: 真草康
オケアノス祭編
31/181

30. オケアノス祭


 セージは三時前にママとヒーナ先生と一緒にパレード見学に出かけた。

 ヒーナ先生も魔導車を運転できて、チョット驚き。

 マルナ先生はミリア姉の護衛でパレードの付き添いだ。

 魔導車で市街を走ってみても、見えたところだけだけど、幸い地震や津波の影響はなさそうだった。


「ごきげんよう。ルージュターナ(ルージュ)さん、お世話になりました」

「ご機嫌麗しゅうございます。マールグリット(マール)さん」

「こ、こんにちは」

「こんにちは」

「セージ君。ミクとロビン、それとカフナとレイベを救ってくれてありがとうございました」

 海岸の見えるレストランの二階に入ると、ミクちゃんとミクちゃんのママのマールさんと挨拶を交わした。

 名前を聞いたのは初めてだ。

 そして丁寧なお礼を言われたしまった。


 ミクちゃんやロビンちゃんは子供だからそれなりの対応ができたけど、初対面の美人に頭を下げられると、緊張してしまう。

 髪は赤茶色、小柄で知的な印象の美人だ。

「い、いいえ、な、なな、なんでもないです。はい」

 口が思ったように動かなかった。

 マールさんが二コリとほほ笑むと、汗が出た。タラリ。

「ヒーナ先生さんも治療ありがとうございました。おかげで護衛の二人も後遺症も残ることがなさそうです」

「とんでもございません。後遺症が残らなくて何よりです」

 治療せず放っておけば、いくら魔法があっても後遺症が残ることは間々あることだ。


 オーラン市はオケアノス神社の門前都市だともいえる。

 二階からパレードを見学して楽しむことになる。

 今日はオケアノス様を海から迎える日なので、オケアノス神の先導として、海水浴場から神社に向かって、神社大通りを真っ直ぐパレードするのがメインパレードで、距離も長い。

 魔法学校や一般学校の二年、三年生のパレードは距離も短く、海岸から港に向かって海岸通りで行われる。

 イーリスの落下によって発生した波は多少は防潮堤を超えたが、影響はほとんどなさそうだ。

 ちなみにオケアノス神を迎えて、船が付くのも海水浴場、ステージの横となっている。


 パレードはオケアノス様を歓迎するものであればよいそうで、その表現に関しては特に規定はない。

 概ねダンスにジャグリング、マーチングなどとなる。


 可愛らしいパレードや面白いパレードが通り過ぎていく。

 見学しているのは海岸通りの子供たちがメインとなる可愛らしいパレードだ。

 町内の小さなグループも何組か参加しているので、子供だけではなく、バリエーションに飛んでいるから見ていて飽きない。

 ダンスが多いが、十人ほどのマーチングもある。

「隣の町や、村からの参加もあるんですよ」

 ヒーナ先生が教えてくれる。


「おねえちゃーん」

 ミクちゃんが僕の手を取って、開け放たれた窓から身を乗り出す。

 僕も恥ずかしいけど、一緒に手を振った。

 手を振る。たぶん、聞こえないだろうと思ったが、ロビンちゃんは気がついたようでチョットだけど、こちらに笑顔を顔を向けてきた。

 ロビンちゃんたちは統制の取れたダンス、いや、舞いだ。

 白の狩衣(かりぎぬ)のような衣装を身につけ、手には鈴を持って、謡いながら一所懸命に舞っている。

 後方に楽器演奏者がいる。

 魔法学校を意識してか、一曲の終わりに誰かが魔法を放っている。

 一クラス三十人ほどだ。

 拍手と声援に包まれて進んでいく。


「ミリア様のパレードはあれですね」

 ヒーナ先生の指さす先に、可愛らしい着ぐるみで歩くチームがあった。いや、違った。冒険者? ああ、騎士団と魔獣たちの合唱の行進だ。こっちも数人の楽器演奏者がいる。

 ミリア姉は騎士団の隊長のようで、アルミホイルを巻いたような木剣を掲げ号令をかけている。

 騎士団と魔獣に分かれて戦闘の寸劇。

 おお、さすがに魔法学校、たまに魔法を放つ生徒がいる。もちろんミリア姉もだが、魔法量が少ないから回数が少ないからほんの偶にだ。やり過ぎると魔法酔いになるから仕方がないことだ。

 そしてまた合唱しながら行進する。

 それでもさすが八才。魔法学校の二年生――日本なら小学校三年生――だが、それなりに統率が取れている。

 周囲からの暖かい笑いと応援が起こる。


 笑いが起こったと思ったら道化チームだ。

 ジャグリングをしながら、ああっ、と、手が滑って見るからにおもちゃのナイフが子供に飛んでいったかと思ったら、紐が付いていた。

 転んだピエロが、ジャグリングに失敗……、と思ったら、ちゃんと後ろについていたピエロがジャグリングを引き継いだ。

 失敗したのかと思わせて、簡単にフォローする。そのしぐさが滑稽で面白い。

 子供がいると、というか、子供が多いんだけど。

 チンドン屋みたいに楽器を持って、曲も奏でているピエロもいるので、眼が追いかけてしまう。


 楽しいパレードは飽きなかった。


 僕は疲れからか、いつの間にかまた眠ってしまった。


  ◇ ◇ ◇


 個室に移っての歓談となった。

「小さな英雄もお休みのようですね」

「そんな、英雄だなんて」

「イクチオドンを単独討伐ですよね」

「討伐まではわかりません。追い払っただけでしょうし。それとご内密に」

「ええ、わかっております」

 テーブルにはママに抱っこされ眠る僕と、ヒーナ先生だ。

 ミクちゃんにミクちゃんのママのマールさん、足を刺されたロビンちゃんの護衛のカフナさんがいる。


 個室とはいえカフナさんが風魔法で振動遮断を行っているので、周囲の音が聞こえない。逆に言えば周囲も事らの音や声が聞こえないということだ。

「カフナさん、セージ君は合成魔法を使ったのですよね」

「はい、ファイアーマグナム級の魔法だと思いますが、詳細までは」

 マールさんの質問に、護衛のカフナが答える。

「イクチオドンを一撃で倒したのもご覧になったのですよね」

「はい」


「マールグリット様」

 ヒーナ先生が声を掛ける。

「なんでしょう」

「セージ様の倒したのは、いいえ、追い払っただけかもしれませんが、誰も種別を判別しておりません」

「そうだとも伺っていますが、それでも放水魔法を使う海魔獣で、オーラン湾に侵入してきたとなるとイクチオドンしかおりませんが」

「それはそうですが」


「こちらをどうぞ」

「はい?」

「あとでセージ君に返してください。イクチオドンの頭に突き刺さっていたそうです。それとこちらも」

 キチンナイフと魔獣核(魔獣石)を三個差し出してきた。

 魔獣が生きて魔法を生む生体器官を魔獣核と呼び、取り出した魔獣核を魔獣石と呼ぶ。

 ママとヒーナ先生がぎょっとする。

 ヒーナ先生にすれば自分のナイフだ。見知らぬ(さや)に入っていても見間違えるわけない。


「槍トビウオに報奨金は出ませんが、イクチオドンには今回、お安いですが一匹三〇SH(シェル)の報奨金がでました。

 マルナさんとヒーナさんで二匹、セージ君が一匹と討伐の確認ができておりますので九〇SHをお渡しします」


「脳天にキチンナイフの刺さっていたイクチオドンは三メル級、二.九メルもあって今回の侵入の最大だと話題になっていたそうです」

 一般的にイクチオドンは一.五~二.五メルほどの海魔獣で、最大三メルの物がまれに出現する。もう一回り巨大で、よく似た海魔獣はイクチオサウルスと呼ばれている。

 今回の襲撃はイクチオドンと槍トビウオだけだったようだ。


「カフナさん、キチンナイフでイクチオドンを一突きで突き刺すことが可能なのですか」

「はっきり言って、私はやったことはありませんが、通常だと槍トビウオにも刺さりません。

 ましてや数段格上のイクチオドンを突き刺すなど、とんでもないことです」


「それではどうやったら刺さるのかしら」

「キチンナイフを切れ味のアップと魔法強化するしかありません。それもかなりの付与か補助が必要だと思います」


「五才の子供ができることですか」

「身体強化で体を最大限に強化、それとピンポイントでナイフの強化と、いえ、あのー、自分で言っていて半信半疑、混乱してきました」


「それではそれを行使できる可能性があるとすれば、最低でどの程度の人でしょうか」

「私は身体魔法は苦手なので、どの程度と言われても判断が難しいですが、最低でも上級魔法学校の身体魔法の得意な最優秀生で、かつ付与か補助魔法も使い手でしょうか」


「あらまあ、五才で複合魔法と身体魔法を使いこなすだけでなく、付与魔法に補助魔法。それに上級魔法学校の最優秀生なんて」

 わざとらしい驚きを上げるマールさん。

 黙り込むママにヒーナ先生。


 それからマールさんは真剣になって、

「とにかく、セージ君は大切に育ててあげてください。

 当方もカフナともう一人の護衛、それとロビンにも他言無用といい聞かせます」

「はい、ありがとうございます」

「ミクも今日のセージ君のことは内緒よ」

「はい、わかりました」

「そういうことで、当方は内密としています。

 イクチオドンを倒したのはノルンバック家の護衛ということにしてありあす」

「ありがとうございます」

「いいえ、これからもミクと仲良くしてくださいね」

「こちらこそ」

「それにしても可愛らしい寝顔ですこと」


  ◇ ◇ ◇


 知らないうちに家に帰って、起きてお風呂に入って、かなり遅くなった夕飯を食べた。

「セージこれを」

 ママから「イクチオドンの魔獣石と報奨金です」と言って魔獣石と三〇SHを渡されて喜んだ。

 ママは疲れた様子だ。

 パパの補佐で、お祭りで疲れたのかな? それも明日までだ。

 また、素敵なママを期待して、

「ママ大好き」

 チュッと、キスをした。やっぱ、メチャクチャ恥ずかしい。

 急いで自室に駆け込んだ。

「ありがとう。おやすみなさい」

 ママの優しい声が聞こえた。


 いざ眠ろうとしていつもの日課だったのだが、

『個人情報』

----------------------------------------------------

【セージスタ・ノルンバック】

 種族:人族

 性別:男

 年齢:5


【基礎能力】

 総合:13

 体力:14/15

 魔法:33/33


【魔法スキル】

 魔法核:3 魔法回路:3

 生活魔法:1 火魔法:2 水魔法:1 土魔法:0 風魔法:3 光魔法:0 闇魔法:2 時空魔法:2 身体魔法:2 錬金魔法:0 付与魔法:1 補助魔法:1


【体技スキル】

 剣技:1 短剣:1 水泳:1


【特殊スキル】

 鑑定:1 看破:1 魔力眼:0 情報操作:1 記憶強化:2 速読:2


【耐性スキル】

 風魔法:1


【成長スキル】

 基礎能力経験値2.14倍 スキル経験値2.14倍

----------------------------------------------------


 え、え、えーーー、となってしまった。もちろん声は出していない。…多分。

 口を押えながら、思わず自分の部屋を見回してしまった。


 もう一度個人情報を見る。

 上がったのは、総合:10→13、体力:10→15、魔法:26→33と一気に。

 時空魔法と身体魔法が2、そのほかにも付与魔法と補助魔法が“1”となっていた。使ってもいないのに。

 あっ、水泳も“1”だ。これはちょっと嬉しい。にやけてしまう。


 槍トビウオの強さは“8”~“10”程度で、僕の総合がその時“10”だから六匹倒したというより、イクチオドン一匹を倒した経験値アップ何だろう。

 慌ただしい戦闘の中で、イクチオドンの強さを見なかったことが残念だ。

 まあ、槍トビウオの強さの“8”~“10”が、人間の総合と一致するとは限らないけど多分そんなところだろうな。


----------------------------------------------------

【セージスタ・ノルンバック】(偽)

 種族:人族

 性別:男

 年齢:5


【基礎能力】

 総合:10

 体力:11

 魔法:21


【魔法スキル】

 魔法核:1 魔法回路:1

 生活魔法:1 火魔法:1 水魔法:0 風魔法:1 身体魔法:1 光魔法:0 闇魔法:0


【体技スキル】

 剣技:1 短剣:1 水泳:1


【特殊スキル】

 鑑定:0 看破:0 記憶強化:0

----------------------------------------------------


『個人情報(偽)』も修正したが、これでもヤッパチートだよね。

 でも一回見せたスキルは消せないし。

 身体魔法を消した方が…、でも時空魔法を隠したまま、イクチオドンへのあれだけの距離をジャンプした言い訳は必要だし。

 身体魔法を使ってもあれだけの距離は……、ああ、大人なら大丈夫か。ヤッパ、こんなもんか。無理やり納得。


 身体魔法を行使しながら小太刀の銀蒼輝ぎんそうきを振るうのは日課だ。

 そのほかの魔法も、時空魔法のレベル2の<ポイント>、ミニポイントの強化版。

 土魔法のレベル1<サンド>、<クロッド>などの砂や土生成。

 光魔法の<ヒーリング>、<キュア>。

 それらを練習した。

 特化して練習していたが、戦闘をして、汎用性の重要性に気づいたためだ。

 魔法力を使い切って、リバイブウオーターを一口飲んで眠りについた。


  ◇ ◇ ◇


 雲一つない満月の夜。

 オーラン湾では飾り付けた漁船が総出だ。

 オケアノス神の海渡り。

 漁船に乗せたお神輿に迎えの祝詞を上げる。


 キラキラとした輝きを神輿が発する。

 未掃討の海魔獣がいるはずだが、神輿が海に出ると気配を消した。


 海水浴場に乗り付け、神輿を海岸に揚げ、再度の祝詞。

 雅楽と舞いの先導。勇壮な掛け声、提灯に照らされ、神輿が大通りを練り歩く。

 自由都市オーランが、清らかに浄化されていくようだ。


 途中休憩を取りながら、参道を通ってオケアノス神社に到着したお神輿は、歓迎の舞を振舞われる。

 そして一旦休憩、オケアノス神も一旦休憩していただく。


 真夜中の一二時に、オーラン市の発展を祈願して、屠蘇の酌み交わしが行われる。


 深夜の二時ごろから、歓待の薪能(たきぎのう)のような、面をつけた神の劇が行われる。

 創世神話で、神がこの世界(惑星)、バルハライドに舞い降り、寿(ことほ)ぎ、人々が生まれ、反映していくという物語だ。


  ◇ ◇ ◇


 七月一四日青曜日の朝。

 日の出とともにオケアノス神社を出たお神輿は、途中休憩を取りながら、八時ごろ海岸(海水浴場)に着いた。

 レベルアップ、スキルアップの所為か、体がやけに軽い。

 体の細胞自体が強くなったのか、力も強くなったようだ。


「やあ、坊主。昨日はよく眠れたか?」

「はい」

 ウインダムス総合商社のオーナー兼会長のウインダムス議員の大きな声がレストランの個室に響く。

 室内にはミュージックボックスによる綺麗な音楽が流れている。

 入室した時にマジマジと見てしまって、ウインダムス議員に笑われてしまった。

 たぶん徹夜したんだと思うけど、お爺さん――孫のミクちゃんが僕と同い年――にしては異常に元気だ。

 神輿を乗せた漁船が沖へ出ていくところだ。

 見送りの漁船も多く、見物客も多い。


 ウインダムス議員に招待されて、海岸が見えるレストラン、昨日と同じレストランの特別室で朝食を食べながら神輿船をを見ているところだ。

 パパにママ、オルジ兄と僕。

 ウインダムス議員側は、ミクちゃんのママのマールさんに孫のミクちゃんだ。

 ミリア姉とロビンちゃんはパレードの準備もあって、いろいろ忙しい。

 お祭りのまとめ役のミクちゃんのパパは飛び回っていることだろう。

 ミクちゃんにはほかにも兄がいるらしいが、忙しいんだろう。


 朝食は和定食のようにトレーに乗った料理で、魚のステーキに魚の干物、サラダに漬物、お味噌汁と料理も和定食だ。

 子供の料理はやや少なめになっているようだ。


「ノルンバック、このような話は聞いたことはあるか?」

 唐突な話にパパとママが怪訝そうにする。

「大災厄の発生するころにはとんでもない能力を持った者が何人も生まれる。

 わしは、ロビンやお前んところのミリアといったか? 二人は相当の能力者だと思って、大災厄が本格的に始まったと思っておったのだが、本当にとんでもない奴がいたものだ」

 ウインダムス議員が一旦言葉を切って、僕をじろりと見た。

「前回の大災厄を終息させたのはそのようなものだったそうだ」

 パパとママ、それにオルジ兄が目を見開いて僕を見る。

 えっ、嘘。そんなの魂魄管理者(女神様)から聞いてないよ。


「坊主もそんな多くの者の一人なのだろうから、そんなに心配せんでもよい。

 半分伝説のようなものだが、ある国、マリオンのじゃないが、このことが国家機密になっておる国があるそうで、あながち嘘でもなさそうじゃ」

 ホッとするも複雑だ。


「ところで坊主。セージといったか。いくつぐらい魔法が使える?」

「お義父さん」

 ウインダムス議員がマールさんにたしなめられるも、意に介さない。

「ああ、よい。そんなに詳しく訊きゃあせん。で、どうなんだ」

「いくつか分かりませんが、属性で六つです」

「六つか。そりゃあすごいじゃないか。

 ところで何で魔法数がわからんのだ? 魔法回路の数を数えるだけだろう?」

「えー」

「議員、セージはよく本を読みます。

 面白いらしく、遊び心で多くの設計図をコピーしているようなんですよ」

「使えない魔法陣を数多く抱えているってことか。

 そりゃ枚数がわからんのもわかるが。

 坊主、いやセージ、魔法の本や魔法陣を見て理解できるのか?」

「ヒーナ先生から、基本を教わりましたので、ある程度は」


「セージ、困ったことがあったら、わしのとこへこい。いいな」

「はい?」

「マール、後は頼む」

「はい」とマールさんがうなずく。

「ご一緒しましょう」

 ウインダムス議員とパパが出ていった。


 微妙な雰囲気をマールさんが「お義父さんの戯言(されごと)です」と、とりなすも、気分は微妙なままだ。

 機嫌のいいのは終始ニコニコ顔を僕に向けてくるミクちゃんだけだ。


 食事は美味しいかったはずなんだけど、味を覚えていない。

 ミクちゃんは多かったみたいで少し残してしまい、謝っていた。

 気まずい朝食を終えると、僕はヒーナ先生に付き合ってもらって、大通りのパレードを見学しながら、神社に行くことにした。

 せっかくのお小遣いだから何か買い物をしたかったのもあるが、再度鑑定を鍛えてみたかったからだ。

 ミクちゃんが付いてきたいというので、特に断ることもなく、ミクちゃんの護衛のカフナさんとの四人となった。


 おもちゃ、甘味処、野菜、魚、肉と一通り廻った。


「これもらってくれる」

 帰りがけに、ストラップ付の丸顔にダークブルー髪の手作りアクセサリーをもらった。

 見るとミクちゃんの水筒には丸顔に真っ赤な髪のアクセサリーがぶら下がっていた。

 きっとママか誰かに手伝ってもらって、一生懸命に僕と自分のアクセサリーを作ったんだ。

「ありがとう」

 僕は水筒にミクちゃんのアクセサリーを結び付けると、ミクちゃんがにっこりと笑った。


 無事、オケアノス神を見送り、パレードでにぎわったオケアノス祭は終わりを告げた。


 大騒動を起こしたイーリスはオーラン市を過ぎ、アーノルド大陸の内部へと飛んでいく。


  ◇ ◇ ◇


「セージ様、これはどういうことですか!」

「ど、ど、どうしたの」

 お昼寝から目覚めると、突然ヒーナ先生の激高に慌ててしまう。

 ちなみに、水泳訓練はしていない。海魔獣が掃討されるまでしばらく無しだって、神社に行ってたか。

「これ、これですよ」

 ヒーナ先生がナイフを鞘から抜いて見せてくるが、身に覚えがない。……が、


「あっ、魔獣石と一緒に戻ってきたんですね。よかったですね?」

 イクチオドンを刺したキチンナイフじゃないかと思ったが、どうやら勘違いのようだ。

 ヒーナ先生の厳しくなっていく表情に従って、言葉がうわずってしまい、最後は疑問形になってしまった。


「よかったじゃありません!

 強化と切れ味アップが付与されているキチンナイフですが、そもそもあまり切れ味のいいものじゃありません。

 それが強靭さだけでなく、しなやかさも加わって、鋭さも増してよく切れるんですが!」

 ああ、それで付与魔法や補助魔法が“1”になったんだ。

 でも魔法陣はあるけど、魔法を使った記憶がない。

 僕の方が疑問だらけだ。


「さあー」

「さあー、じゃありません。

 エルドリッジを出航する前に見せてもらった個人情報だと、火・水・風・光・闇の五属性でしたよね」

 ヒーナ先生が指を折って属性を数え上げる。

 どうやら生活魔法は属性に数えないようだ。


「それが属性六つになったというので、身体魔法が芽生えたのかと呆れもすれば、納得もしていました。

 ところがこれは何ですか。付与魔法も芽生えたのならおかしいでしょう。

 それにこの付与はレベル1でできる付与ではありません。

 イクチオドンを倒した時のこともよくよく思い返してみると、身体魔法で強化してもあんなジャンプ私にはできません。

 どれだけメチャクチャで非常識なんですか」


「ヒーナさんどうされたのですか。大きな声を出して」

 ママが僕の部屋に入ってきた。

 ママも、メイドから格上げになったヒーナ先生を“さん”付けで呼んでいる。

「奥様、聞いてください。返していただいたナイフの手入れをしようとしたのですが、このキチンナイフですが強化と切れ味アップの付与で、まるで高級品ように、更に魔法力も流れやすくなっています」


「心当たりは……」

 沈痛な面持ちで問いかけるママに、ヒーナ先生が僕を見る。

 そして冷静になったヒーナ先生が、もう一度説明をする。

 説明しながら、またもヒートアップしたヒーナ先生が、ママになだめらる一幕もあった。

 そのなだめろママも、苦悩に眉間にしわが寄っていたのだが。


「内緒にしましょう」

「そうですね」


 ママは疲労を吐き出すかのように、はあ、と嘆息して肩が落ちる。

 あっ、ママの疲労の種が僕ってこと? それとも勘違い?

 ママが僕を見て、眉間に手を当て、首を左右に振る。

 あー、僕だ。地味にショックを受けてしまった。


「このキチンナイフはセージ様の物です」

 キチンナイフ――昆虫型魔獣のキチン質の外殻から削り出されたナイフ――をヒーナ先生が僕に差し出してくる。

 もらっちゃっていいのかな?

 刃渡り三〇センチメルほどだから、僕が振り回すのにちょうどいい長さだ。うれしいやら、申し訳ないやら。

「ヒーナさんは、そのままそのナイフを使用してください。

 セージには別のナイフを私からプレゼントいたします」

「申し訳ありません」

 チョット残念だけど、うれしいことに変わりはない。

 もう一回自分で付与してみよう。魔法のいい練習だ。


 ママは約束通り翌日の午後、そして僕だけでなくオルジ兄とミリア姉を連れて武器屋におもむいた。

 三人で自分の好みのキチンナイフを楽しみながら選んだ。もちろん高級品ではなく一般の普及タイプのキチンナイフだ。


 店員の説明およびアドバイスによると、キチンナイフは強化と切れ味アップの付与がされていないと、刃がつぶれてしまってナイフとして成り立たない。

 付与魔法や錬金魔法を覚え始めの弟子や小遣い稼ぎで、強化・鋭利が付与されたものが普及品のキチンナイフだ。

 切れ味は今一歩だが、その反面、錆びないし手入れが楽で、初めて持つ刃物としては最適だそうだ。

 特に力のない子供のは軽くて扱いやすという利点もある。ただし、軽すぎて戦闘では押し負けることもある。

 海などでの護身用に重宝されるますが、チンナイフで本格的に魔獣に挑む命知らずはいませんよ、と、アハハハ……と笑われたしまって、ママと気まずい思いをしたのは内緒だ。

 マルナ先生とヒーナ先生も困惑気味で目が泳いでいたような。

 ご、ごめんなさい。

 せいぜい小型の魔獣や昆虫型の魔獣の相手や、解体に用いるのがいいところだそうだ。


 ヒーナ先生のアドバイスと、僕の鑑定で、刃渡り三ニセンチメルとちょっと大きめで、柄の長い物を選んだ。いざという時に両手で持つことも想定してだ。

 マルナ先生のアドバイスでオルジ兄は僕よりやや大きめのナイフを、ミリア姉は細身で見た目の可愛らしい物を選んだ。

 これならば、兄弟でいさかいも起きないし丸く収まる。


 僕がキチンナイフを抜いて眺めていると、

「すごく丈夫で切れる高級品になるのはいつのことでしょう」

 えっ、と振り向くと、耳元でささやいたヒーナ先生と目が合った。

「すごい悪戯顔ですよ」

 追撃に、冷や汗がタラリと流れた。


これでオケアノス祭編が完となります。

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