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次元災害で異世界へ  作者: 真草康
オケアノス祭編
30/181

29. 落下


 七月一三日赤曜日の朝九時過ぎに海水浴場に来た。

 神の御使いとも称される浮遊島のイーリスは平たいひょうたんのような形状だ。

 小さい球を前にしてやや斜めになって、オーラン湾にやや入った上空に浮かんでいる。

 聞いた話だと大きい球の直径が四ニ〇メル程度、小さい球の直径が二五〇メル程度、全長六〇〇メル程度だそうだ。

 それからすると台形のように凹んだオーラン湾の入り口の幅は二.五キロメルほどだろうか。

 その一番奥が砂浜になっていて、海水浴場だ。


 今日はミリア姉が参加するパレードがあるし、オケアノス神を迎える神事が行われる。

 パレードは午後からだということで、僕は日課の水泳訓練に行くのだが、ミリア姉も付いてきた。

 休日だということもあって海水浴場はかなり混んでいる。


「おはよう」「お、おはよう」

 ミクちゃんとは可愛らしい挨拶を交わし、

「これあげる」

 と、雰囲気もへったくれも無くお守りを渡す。

 ミクちゃんが何と首をかしげる。

「お守り。水泳が上手くなるように。

 僕も付けてるんだ」

 首から下げた水筒を見せる。

 青と赤でおそろいだ。

「あ、ありがとう」

 ミクちゃんが二コリと笑う。

 ミクちゃんも僕を真似て自分の水筒を持ってくるようになっていたから、同じくストラップに括り付けた。

 どういう訳かミリア姉とロビンちゃんが機嫌悪そうににらんでくる。……怖ッ。二人も欲しかったのかな? でも泳げるよね。


 いつものポッコリ岩を二往復をして、ポッコリ岩に登る。

 持っていてもらった水筒のリバイブウォーターを飲んで休憩。


 どういう訳かミリア姉とロビンちゃんが競泳まがいのことをして張り合っている。

 八才になるとずいぶん早く泳げるもんだ。あれだけ泳げればお守りは必要なさそうだ。

 それとパレードに支障が無いといいんだけど。


 突然ユックリ揺れたと思ったら、大きくグラグラッと揺れた。震度三、いや四かってほど。

 しばらく揺れが続いてから揺れが収まったが、海水は揺れて波立っている。

 津波は……って思っても、海水が引いているわけじゃないから大丈夫なのか?

 それでも、海から遠ざかった方がいいよね。……とは思ったけど、見入ってしまった。


 イーリアが落下してくる。スローモーションのように。

 いや、本当にスローモーション? それとも僕が加速中?

 まとっている薄紫色の発光が揺らいでいる。

 浮遊力が弱くなってるのか?

 持ち直せ!


 あーああーあー、……周囲からも声が漏れる。

 ……着水……。

 沈んだと思ったら、再度浮かび上がっていくイーリア。

 まとっている薄紫色の発光が元に戻っている。


 おお、ヤッター、と歓声が上がるが、

「逃げろー!」「ぎゃー」「キャー」

 あちらこちらから悲鳴が上がる。


 見ると波が押し寄せてきていた。いや、盛り上がってきた。


 ヒーナ先生が僕を、ミクちゃんは護衛のレイベさん――いつも一緒なのでさすがに名前を覚えた――が抱えて退避する。

 ミリア姉はマルナ先生が、ロビンちゃんも抱きかかえられて避難する。

 身体魔法で強化して素早いが、それでも子供を抱えて、しかも浅いとはいえ海の中を駆けるのでは、断然波の方が早い。


 海岸に上がる直前で第一段の波に追いつかれ、第二波、第三波、第四波で大人の腰を越している。

 水面と波が高くなれば走る速度も落ちる。

 周囲では何人もの人が波に飲み込まれ、もまれている。

 体の小さなヒーナ先生も五波目で転倒して、セージもろとも波にもまれ、ヒーナ先生から離れた。

 何とか泳いで頭を出していると、足が付いたと思ったらまた浮いた。

 波が荒れていてその繰り返し、それと何度か波にもまれた。

 イーリスの落下も一時期的なものだったためか、波が落ち着いてくる。

 多少は冷静になれた。

 水筒が在って邪魔だが、なくしたくない。

 浮きながら周囲を確認すると、防潮堤を超えた波はあったと思うが、防潮堤自体は無事だ。

 それからしばらくして、荒れながらも波が引いていく。


 早い引き波。

 流されないように身体魔法も使って泳ぎ、また足が付けば踏ん張っていると、

「セージ様ー!」

 ヒーナ先生の叫ぶ声が聞こえた。

 水位もセージの胸ほどになった。

 ずいぶんと海に引き戻された。

 ヒーナ先生が近づいてきて、もう少しという時、周囲から悲鳴が上がった。


 水面を飛翔する海魔獣、槍トビウオだ。


 看破と魔力眼で見ると、海の上を飛ぶ槍トビウオだけでなく、海中の魔獣の動きがぼんやりと見えるし感じ取れる。

 かなりの数が泳いでいる。


 何でと思ったがが、イーリスの落下でセイントアミュレットブイが破壊されたのだろうことに気づく。

 防魔ネットもこの増水で役に立っていないのか、切れたのかもしれない。


 うわーーっ。海中の魔獣が向きを変え、僕の足をめがけて突撃してくる。

 身体強化で何とか交わすことができてホッとする。


 看破と魔力眼に更に力を籠め、まあ、気持ち的にだが、警戒心をアップする。


 ヒーナ先生も腰に()いたキチンナイフを抜いて、飛び掛かて来た槍トビウオを切り飛ばす。


 今度は海上を飛んで槍トビウオが飛びかかってくる。

 水中より早いが、見えているのでよけやすい。


 キャー、と悲鳴が上がる。

 聞き覚えのミクちゃんの声。

 苦痛に顔がゆがんだレイベさんに抱えられたミクちゃんが、波に浮き沈みしながら流されていく。


 おりゃーっ。と気合を入れ、ミクちゃんに向かって泳ぎだす。

 泳いでいると槍トビウオが目に入った。思わず顔を水中に入れて回避する。


 ミクちゃんに手を掛けると、ヒーナ先生が追いついてきて、レイベさんを保護する。

「ヒーナ先生あそこ」

 ポッコリ岩を指さすと、ヒーナ先生もうなずく。


 ヒーナ先生と二人、否、ミクちゃんも入って三人でポッコリ岩をめざす。

 波があって泳ぎにくい。

 いつもより深さもあって、ココアで来ると足はほとんど付かない。

 襲い来る槍トビウオはヒーナ先生が切り払う。

 僕も看破と魔力眼で見つけ次第ヒーナ先生に伝え、ミクちゃんに避けるように指示もだす。


 ポッコリ岩にまずはミクちゃんを押し上げ、

<ミニポイント>

 時空魔法のレベル1。小さな空間足場を生成して、アクティブセルと身体強化全開で僕もポッコリ岩にあがる。

 数秒で消えちゃうし、あんまり遠くには設置できないけどこんなところで役に立つとは。

 夜中によく遊んで、もとい、練習で慣れたもんだ。いつもは護衛のヒーナ先生の厳しい視線があるからやらないけど。まあ、身体魔法はバレてるっぽいけど。

「ヒーナ先生」

 周囲を警戒するヒーナ先生に声をかける。

 ヒーナ先生が海中からレイベさんを押して、僕が引き上げる。もちろんミクちゃんも手伝うがそこは気持ちだけだ。

 レイベさんはお腹を突き刺されたようで、かなりの出血だ。


「セージ様、無理をしないで、振り払うだけでかまいません。私たちを守れますか」

「うん、絶対に近づけさせないから大丈夫だよ」

 岩に上がったヒーナ先生が「頼みます」と僕にキチンナイフを渡してくる。


 精神集中するヒーナ先生に魔素が集まっていく。

 おっと、いけない。

 看破と魔力眼だ。

 おりゃー、とアクティブセルと身体強化で槍トビウオを切る。が、思いのほか固い。ひれ()ではじかれてしまう。


 海水浴場では相変わらず悲鳴が上がっている。

 警備員がいても、いくら何でも許容量オーバーもいいところ、対応不可能だ。


「<ホーリークリーン>」

 魔法名を声に出すのは、意識を魔法に集中するのに役に立つ。それに戦闘中のように敵に気づかれないように無詠唱にする意味もない。

 いつも以上の魔法力を込めた、ヒーナ先生の浄化の魔法がレイベさんを包む。

 ホーリークリーンは各種浄化が行えるので、殺菌を行ったのだろう。

「<ハイパーキュア>」

「<ハイヒーリング>」

「<ハイリライブセル>」

 一回一回、高位の光の治癒魔法に魔力を上乗せしてをレイベさんを治療する。

 ハイパーキュアは病気治療だから、ホーリークリーンで殺菌しきれなかった雑菌や毒に抵抗力を持たせるものだ。

 ヒーリングで回復速度が二倍程度、ハイヒーリングで四倍程度だ。

 ゲームのように一瞬で治癒できるような魔法はない。非常にしょぼいのでがっかりしたものだ。

 リライブセルは細胞復活と言われているが、実際はヒーリングやハイヒーリングの補助魔法として、傷んだ細胞の回復速度を数倍に高めるものだ。ハイリライブセルはその強化版だ。

 これだけの魔法を掛けても、傷口がかさぶたでふさがった程度だ。

 これ以上の治癒を行うには危険が伴う。

 治癒魔法を受ける側も体内のエネルギー消費や魔法力を使用するので多大に疲労する。

 栄養補給が必須だ。

 魔法のかけ過ぎによる衰弱も気に掛けないといけないからだ。

 身体魔法で自分自身の細胞をより一層活性化させて治癒を早める事も可能だが、それには魔法力だけでなく、更なる体内エネルギーの消費に体力を消耗する。

 苦しそうにしていたレイベさんの顔が穏やかになるが、顔の白さまでは戻らない。痛みも残っているし、疲労感が一気に漂う。

 ヒーナ先生が治療結果を注意深く観察している。


 おりゃー、と二匹目を切った。

 小太刀の銀蒼輝(ぎんそうき)と同様に、キチンナイフに魔法力を込めてやってみたら何とか切れた。

 切れたといっても、ガツンと叩いて、刃をグリッとねじ込んだ感じだ。

 キチンナイフに魔法力を込めるのが難しく、何とか流し込めたといったところだ。


 もう一度、魔法力を込めなおしてみる。慎重に、そして身体魔法のピンポイントで覚えた感覚も追加する。うん、サッキよりしっくりする。

 そうして何度かキチンナイフを振っていると、綺麗に魔法が流れた。


 おりゃー、と三匹目の槍トビウオを、今度こそ、うまく切り払えた。

 槍トビウオが二つになって海に落ちた。

 ゴツンからガツンへ、そしてカツンと、抵抗がかなり減少した。

 身体魔法を二つ行っているようなものだから、精神的にだがチョット疲れる。魔法効率も慣れてくるとよくなってくるはずだ。


 もう一人、ポッコリ岩に人が上がろうとしたので、ヒーナ先生が引きずり上げる。

 数か所に切り傷や刺し傷を負っている。

 ヒーナ先生が治癒魔法で治療する。


 おりゃー、と、これで四匹(切り裂いたのは二匹目)だ。

 ここで水筒のリバイブウォーターを一口飲む。


 看破で確認できた槍トビウオの強さは“8”~“10”程度とそんなに強い海魔獣じゃない。と、思う。

 体長六〇センチメル~八〇センチメル程度でくちばしが鋭く長い。胸びれをトビウオのように広げて、空中に飛び上がって加速しながら滑空する。ある程度は方向も変えられる。

 スキルは“高速移動”と、固有能力と思われる“飛翔滑空”だ。

 くちばしにひれ、銀色の皮膚の固さは自前のようだ。


 ミリア姉とマルナ先生が、ロビンちゃんとロビンちゃんの護衛――こちらはカフカさん、レイベさんの交代で二度会っている――がレビュテーションやフライを使ってフワリとポッコリ岩に上がってくる。

 どうやらミクちゃんを、そしてセージを心配して、防潮堤に避難できそうなところをこちらに来たようだ。

 マルナ先生とカフカさんが加わって守りは固くなった。

 ミリア姉とロビンちゃんは精神的にヘトヘトで、ミクちゃんと一緒にヒーナ先生の光魔法のお世話になった。

 他にも合計三名の負傷者が上がってきていて、ポッコリ岩はかなり狭くなっている。

 負傷者は全てヒーナ先生が光魔法で治療中だ。


 ヒーナ先生が治療した一人からキチンナイフを借りて防衛につくと、セージの役目は、基本的にはなくなった。

 治療を終えたレイベさんとその他三名は横になって休んでいる。

 セージが倒した槍トビウオは計五匹だった。


「セージは怖くないの?」

「そりゃー怖いけど…」

 ミリア姉が蒼い顔で訊ねてきた。

 本音を吐く。

 必死だったからできたことだ。それと一緒に、魔法が使える楽しさをどう伝えればいいやら。

「男の子なんですね」

 蒼い顔のロビンちゃんも少し落ち着いたようだ。

 ミクちゃんは、そんな姉のロビンちゃんにしがみつきながらも、セージを熱のこもった瞳で見つめてくる。

 おわっ、なんかまぶしい。


 ポッコリ岩に上がってきたうちの一人が猫獣人のような人だと初めて認識した。

 じろじろ見ちゃ失礼だと思ったけど、やっぱ、見ちゃうよね。


 防潮堤にたどり着いた人たちも数多くいるが、海でもまれている人たちも多い。

 他の岩によじ登っている人たちもいて、かなり緊迫した状況だ。


 遠方で波にもまれていた警備艇が到着し、槍トビウオの掃討と救援活動が開始される。

 警備艇が波間に浮かぶ人を拾おうとするも、槍トビウオの襲撃にあって困難そうだ。

 到着した警備艇は二艇だけ、漁をしていた漁船も集まってくるが、圧倒的に手が足りていない。

 魔物除けの粉末(セイントパウダー)も撒き終わってしまったようだ。


 新たに駆けつけた警備艇が、ポッコリ岩の近くまでやってきて、拡声器で声を飛ばしてくる。

「もうしばらく、そのままで待ってろ」

 荒れている海じゃ、岩に近づけないし、いまだに槍トビウオを駆除中だ。


 港から出動した軍艦が、沖でセイントアミュレットブイの設置を開始する。

 さすがにこの水深に軍艦が乗り込めるはずがない。


 マルナ先生によれば「漁業ギルドに救助要請が行われるので、もうしばらくすれば港から救助の漁船が続々と出動するはずです」だそうだ。

 それと「この程度の波や増水では、オーラン市に被害が出ても小規模ではないかな」ということだ。

 槍トビウオの襲撃はあるが、あとは波が収まるのを待つだけだ。


 しばらくすると「イクチオドンだー」と緊張した声があちらこちらであがる。

 水面上昇と防魔ネットの切断で、中型の海魔獣まで侵入してきた。


 イクチオドン、体長一.五メル~二.五メル。まれに三メル程度の物も出現する。水魔法の放水魔法を多用する魚竜タイプの海魔獣だ。


 海で必死で泳いでいる人たちが、なすすべもなく、次々と犠牲になっていく。

 それをもどかしく見るしかない。

 そして、警戒心を上げる。

 魔力眼で見ると海中の大きなイクチオドンと、細長い槍トビウオが判別できる。


「こっちにイクチオドンが三匹来るよ」

「ありがとう」

 ヒーナ先生がお礼を言うが、すでに認識している。それはマルナ先生とカフカさんも同様だ。

 ヒーナ先生とマルナ先生がイクチオドンに対して身構え、カフカさんが反対側を受け持つ。

 セージもカフカさんの隣に立つ。


 一気に海が盛り上がる。

 狙われているのは手前にあった隣の岩。

 ドッパーーン。

 大波で数人が海に落ちる。

 そこに襲い掛かるイクチオドン。

 上がる悲鳴。


<ファイアー><ストーム>

 海中には効かないが、火球をイクチオドンの真上にたたきつける。

 マルナ先生が良くやりましたといった笑顔を向けてくる。

 ロビンちゃんとカフカさんが驚いている。

 そりゃあ、五才で複合魔法を使うことが非常識って経験済みだから。

 それに反してミクちゃんは憧憬(しょうけい)のまなざしなのか、キラキラと瞳が輝いている。

 ミリア姉がチョット不機嫌そうににらんでくる。


 護衛は、護衛対象を優先にするため、間近で襲われていても、護衛対象をそっちのけで救助はできない。

 しかし護衛対象がヘイトを取って、襲撃対象になれば話は別だ。


「<パイル>」「<パイル>」「<パイル>」…。

 マルナ先生が土魔法のレベル2で、ポッコリ岩に土魔法で大きく跳び出た杭を幾つも生成する。

「それにつかまってなさい」

 海に落ちないように取っ手だ。


「<水壁(ウォーターウォール)>」

 イクチオドンの放水にヒーナ先生が大きな水の壁を出現させる。

 攻撃魔法を構成する風(流動)魔法を持たないヒーナ先生は防御を受け持つようだ。


「<ストーンバレット>」

 マルナ先生が土と風魔法の複合魔法で二、三〇個の小石を海中のイクチオドンたちにたたきつける。


「援護します。<ストーンバレット>」

 カフカさんも、後方から石の散弾を打ち込む。


 イクチオドンが水盾でそれを防御するが、攻撃を受けたようで海中に血が広がる。


 三匹のイクチオドンがそろって波を造り出し、こちらに突進してくる。


「<ウォーターウォール>」

 ヒーナ先生は水の壁を作る。


「<ストーンバレット>」

「<ストーンバレット>」

 結果は氷の壁で見えないけど、マルナ先生とヒーナ先生がホットしているからうまくいったようだ…が、厳しい表情に変化する。

 今一歩ってところか。


 ギャー、と突然の悲鳴が隣から聞こえた。

 海を背にして油断してしまっていた。

 カフカさんが槍トビウオに太腿を刺されていた。


 周囲を警戒しながら、刺さった槍トビウオを左手でつかんで、右手のキチンナイフで切り飛ばす。


 うわーっ。

 威力はそれほどでもないが、放水されてしまう。

 背後に回り込んできた別のイクチオドンだ。

 転んでしまうが、地面にキチンナイフを刺して、ポッコリ岩から転がり落ちるのを免れる。

 流されるミクちゃんを左手でつかみ、右手で杭をつかむ。

 身体強化中で助かった。


 カフカさんは奥に押し流されて、ヒーナ先生が抱きかかえる。

 放水が奥のマルナや寝ている面々に向かって移動しする。

 ミリア姉とロビンちゃんからも悲鳴が上がる。


「ヒーナ先生よろしく!」

 ミクちゃんをヒーナ先生に押し付ける。

 ここで頑張らなくっちゃと、おりゃー! と脳内で叫んで、身体強化。体内の魔素を最大限に活性化する。

 一気にダッシュ。


<ミニポイント>

<ミニポイント>

<ミニポイント>

 時空魔法レベル1、小さな足場を三か所設置。

 無言で大きく飛び上がって、足場を駆けあがる。

 大きく飛び上がって、『切れろ』『刺され』とイクチオドンに突き刺さるキチンナイフを強烈にイメージしながら、キチンナイフに魔法力を一気に流す。

 落下の加速も加わり、イクチオドンの脳天にキチンナイフを突き立てる。

 サクッと軽い手ごたえで、ナイフが根元まで突き刺さった。

 ナイフを通して、イクチオドンの痙攣が伝わってきた。

 その痙攣は直ぐに収まり、おとなしくなった。


 周囲を魔力眼で見回したが海魔獣は見えない。

 急いでポッコリ岩に上がる。

 チョット、あー、かなり疲れた。


 槍トビウオで傷ついたカフカさんはヒーナ先生が魔法治療中だ。


 水筒のリバイブウオーターを飲むと人心地ついた。

 ヒーナ先生も治療が一段落したところで魔法量が少なくなってきたのか、僕のリバイブウォーターを飲む。


「ヒーナ先生。ナイフ抜けなくて、無くなっちゃいました」

 ナイフをイクチオドンに刺したまま。抜けなかったことを報告する。まあ、海から上がった時点でナイフを持ってなかったから一目瞭然なんだけど。

「セージ様、その程度で、怪我もなく…」

「セージ君、無茶はダメですよ。それとありがとうございました」

 ヒーナ先生がしげしげと見てくる。

 マルナ先生も呆れながらも、感謝してくる。

 何か熱い視線を感じつが、多分気のせいだ。……と、思いたい。

「セージちゃん、ありがとう」

 ミクちゃんにも感謝された。五才のキラキラ視線もなんかまぶしい。

「ううん。とっさで、ヒーナ先生に放り投げるようなことしちゃってごめんね」

「ううん。そんなことどうでもいい。ありがとう」

「う、…うん」


 その後、すぐに波もおさまり救助された。


 怪我をしてヒーナ先生に魔法治療された五人は、細胞の活性化と再生で体内のカロリーを一気に消費してしまっているので疲労しきっている。

 これ以上の魔法治療は、グッスリトと睡眠をとって食事をして、体力を復活させての治療となる。

 ヒーナ先生の予想だと内臓まで傷ついた重症の三人で、もちろん薬も使ってだが、一日二度から三度の魔法治療で、三日~一週間程度で完治するのではというの見立てだ。

 魔法治療無しの薬だけだと三倍から四倍程度の時間が掛かる。

 身体魔法の細胞活性による自己治療が使えれば、最短で半分程度に短縮できるが、個人の力量による。

 内臓に傷つき具合や神経など繊細な部分をやられていると完治はもっと伸びるが、そこまでは判断できないそうだ。


  ◇ ◇ ◇


 正午をかなり過ぎて昼食を摂った。

 ミリア姉は、気合を入れてパレードへの参加で出かけた。

 僕は家に着くまで眠っていて、食事中、気が抜けたのか、脱力感がすごかった。

 それも、デザートのフルーツを食べるころになると元気が出てきた。


 さすが神事、イーリスの落下で怪我人が多数出ても――死亡の確認はしていない――神の御使いの訪問、吉兆ということだそうだ。

 魔獣との遭遇が日常茶飯事。それによる被害も日常茶飯事ということだろうか。


 さすがにパレードが少し遅れることになったが、些細な変更だ。

 夜のオケアノス神のお迎えなどは変更ないそうだ。


今回も頑張って二話同時掲載です。

よろしくおねがいします。

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