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次元災害で異世界へ  作者: 真草康
オケアノス祭編
29/181

28. オケアノス祭開幕


 七月一二日黒曜日。

 今日から三日間がオケアノス祭だ。


 オケアノス神の日とされるこの日は、多くの神社で祭事が行われるが、交易自由都市オーランのオケアノス祭は規模が巨大だということと、貿易の盛んな都市で人の集まりやすいこともあって、観光の目玉にもなっている。

 今年はいつも以上に多くの観光客が来ている。

 随分大きく見えるようになった浮遊島イーリスの影響もありそうだ。

 浮遊するのは周囲を取り巻く薄っすらとした薄紫色の発光現象の影響なのか、セージはどこかでその発光現象を見たことがある――幼いころにでも見たのかな――ように思えた。


 祭りのメインは、明日の夕方からだ。

 船に神輿を乗せてオケアノス様のお出迎え、海渡りから始まる。

 神輿に乗ってオーランを練り歩きオケアノス神社へ。

 沿道は提灯が飾られ、日本のお祭りを彷彿とさせる。もちろん神社の参道も提灯で彩られている。

 オケアノス神社でのお迎えの神楽舞、深夜に屠蘇の酌み交わしが行われる。

 その後に歓待の薪能(たきぎのう)――正確には薪能じゃないが面をつけた神の劇――が行われる。

 朝方に送りの神楽舞、神輿で海まで出て、船にて海送りで完了する。

 派手ではないが、厳粛に行われ、縁起物のため見物客が多い。


 それとは別に、祭りのメインの前後に行われるパレードは派手だ。

 明日と明後日の日中に行われこちらも人気がある。

 それには魔法学校の多くのクラスが参加していて、ミリア姉のクラスも参加する。


 浜辺には常設のステージが設けられており三日間の祭りを盛り上げる。


 魔法学校だけでなく一般学校の多くの一年生と最上級生の五年生が、オケアノス神社とステージをお手伝いする。

 ステージとは一般海水浴場で建設してたのがそれだ。

 それと子供ということで、お手伝いは日中だけだし、明日か明後日のどちらかのパレードを見学できるように配慮もされる。

 オルジ兄は今日と明日のオケアノス神社のお手伝いとなっていて、朝から神社におもむいている。


 パパはオーラン・ノルンバック船運社と市役所とを行き来する、忙しい毎日を送っていていた。オケアノス祭の準備にも相当かかわっているようだ。

 それをサポートするママも負担が大きいみたいだ。

 リンドバーグ叔父さんは、まあ、相変わらずだ。


  ◇ ◇ ◇


「なんであなたがいるのよ」

「それはこっちのセリフよ」

 日課の水泳訓練に来たのだが、ミリア姉が付いてきた。

 ミクちゃんも来たのだが、姉だろうと思われる人が付いてきて、ミリア姉とにらみ合っている。

 ミクちゃんの姉は、気の強いところを抜けば、ミクちゃんによく似ていてウインダムス家の赤髪だ。


 無料の一般海水浴場に設置されたステージからは、歌が聞こえてきて、いつもより華やかなんだが、それよりやかましい。


 ミクちゃんは五才で僕と同い年。

 七才(今年八才)のミリア姉と、たぶんミクちゃんの姉は同級生だろうから、魔法学校の二年生だろう。

 水着姿だけど、どちらが前か後かわからない幼い姿態だ。

 護衛もいるので、看破で個人情報を覗き見るようなことはしない。否、護衛がいなくてもプライバシーを覗き見るのはダメだ。

 ただ使用していなくても、看破と魔力眼のおかげで生き物に敏感なようだ。


 事の起こりは、ミクちゃんと一緒に水泳訓練を始めた直後に、

「あんただれ?」

 突然睨まれた。

「えー……」

 いくら幼くとも、女性は女性。さすがの迫力に腰が引けてしまった。

「セージちゃん、おともだち」

 そうしたところ、ミクが紹介してくれた。

「そう。ミクにもお友だちができたんだ」

「うん、一緒に泳いでる」 

「よかったね」

 赤い髪もあるが、なんとなく似てるから姉だろう。

 ここまではよかった。

「セージ、その人たちだーれ?」

 ミリア姉が駆け寄ってきて、一瞬火花が見えた。

 そして、にらみ合いが始まってしまった。


「ミク、こっちにおいで」

「セージ、ソノ子と離れなさい」

「ロビン!」「ミリアさん」

 ミクの姉はロビンちゃんというらしい。その家庭教師? あっ、母親か。ダークオレンジの結った髪の色は違うが、母親はミクちゃんとロビンちゃんによく似ていた。もとい、母親に二人が似ているだった。

 優しいそうだけど芯の強そうなお母さんだ。

 ミリア姉の家庭教師のマルナ先生も同様に注意する。

「もうしわけありません」

「こちらこそ、ごめんなさいね」

 様子を見ると、ミクの母親とマルナ先生は顔見知りのようだ。


「セージ君ね。お爺様から聞いてます。ミクとロビンの母です。仲良くしてあげてくださいね」

「は、はい」

 面と向かって頼まれると恥ずかしい。照れちゃいます。

「こちらこそよろしくお願いします」

 マルナ先生が代表して挨拶し、ヒーナ先生も隣で頭を下げる。


「ミク、セージ君と一緒にいつもの練習をしてらっしゃい」

 と練習が始まった。

 泳ぎはミクちゃんの方が上手いが、身体魔法で体力は僕の方がある。

 最初はミクちゃんの方が早いし、泳ぎ方も綺麗だ。といっても、五才の泳ぎだ、たかが知れている。

「ミクがんばれー」

「セージ何やってるのよー! だらしない!」

 時間をかけてといってもたかが知れてるけど、泳いでるとミクちゃんが顎が上がってきて、僕の方が勝つ。

「ミクー! 腕と足が動いてませんよ。もう少しがんばりましょうー!」

「セージ、もっと根性だしなさーい」

 勝負はしてませんから。

 それより自分たちで泳いでなよ。


 突然、ウーーー……、とサイレンが鳴った。


『海魔獣が侵入しました。海に入っている方は速やかに浜辺に上がってください』

「海魔獣だー! みんな浜に上がれー!」

 アナウンスが繰り返され、警備員が叫ぶ。

 キャー、と海水浴場で悲鳴が上がる。

 ステージの歌も中断する。


 防護ブイの区画に侵入してきても海水浴場は防魔ネットで保護されているから、直ぐに危険となるわけじゃない。

 それでも急いで、僕たちは浜に上がる。


 防魔ネットの向こう側で、数隻の警備艇が海魔獣と戦っている。

 巨大なノーフォーク湾を警備するエルドリッジ海軍と違い、オーラン港近郊を防衛するオーラン警備隊では小型警備艇が活躍する。


「毎年数回、こういうことがありますね」

「この人集(ひとだか)りによる魔素の活性化ですから、致し方ありません」

 ミクちゃんのママの独り言に、マルナ先生が反応する。

 へぇー。そうなんだ。


「人が集合し、興奮による魔素の活性化に、魔獣全般も興奮状態になります」

「通常だったら効果のあるセイントアミュレットも、狂乱によって高濃度の魔素を求めて乗り越えてくることがあります。

 ある意味、モンスタースタンピードと一緒ですね」

 ヒーナ先生とマルナ先生が教えてくれた。


『襲撃はイクチオドン三匹と判明しました。

 防魔ネットは無事ですが、一匹が乗り越えてきました。お客様はもうしばらく海に近づかないで下さい』

 海魔獣の名前と状況がアナウンスされる。


 僕がヒーナ先生に顔を向けると、聞きたいことが分かったようで教えてくれた。

「魚竜タイプの海魔獣ですね。グリーダーと同様に水魔法を使いますが、放水魔法が多いですね」

 放水系の魔法はビッグウェーブと同様に膨大な魔法力が無いとできない魔法なため、ほとんど使う人がいない。低レベルであっても放水し続けるために膨大な魔法力が必要だからだ。

 ただし周辺に膨大な水があれば別で、ある意味海魔獣専用の魔法だ。

 それと海魔獣はその放水を特殊スキルで圧縮して、危険な攻撃魔法にしてくる。


 一般海水浴場内でも、戦闘が始まる。

 警備艇の武器は主に魔導銛のようだ。


 ドン。……バシュッ。

 一般海岸の緊迫した戦闘が、ここまで音が聞こえてきそうだ。

 波間に時たまイクチオドンが見える。

 けれど、これだけ離れると、波間に見える短時間じゃ看破で強さが見えない。


 あれっ? イクチオドンすぐそこだよね。近づくなって言ってるのに、みんな海に入らんばかりで見物してるよね。

「これを見に来る人がいますからね」

「まったく困ったものです」

 ああ、お決まり、お約束か。納得だ。

 ステージより盛り上がってるじゃん。


 大きな群衆の歓声が上がって、イクチオドンが仕留められた。

 防魔ネットの向こう側の戦闘も終了したようだ。


 つるし上げられたイクチオドンは、どれもが一.八メル~二.二メルほどと大きい。

 頭から伸びた長いくちばしには鋭い歯が並び、イルカのような体に、大きな背びれと胸びれとサメのような尾は固そうで鋭くはないが刃物のようだ。

 見るからに獰猛そうだ。


  ◇ ◇ ◇


 午後にはママとミリア姉と一緒にオケアノス神社に出かけた。

 ヒーナ先生とマルナ先生も一緒だ。

 治安の悪くない普段のオーランなら、これほど警護がべったりと貼りつくこともないが、観光客でごった返すお祭りの前後は、警護を強化している。


 鈴を鳴らし、賽銭を入れ、二礼、二拍手、一礼しながら祈願――魔法がうまくなりますように――と日本のお参りと一緒だ。

 神社のお参りを済ませると散策だ。


 オルジ兄が動き回っているところを見かけ、がんばってるんだと感心した。

 ママも嬉しそうだ。


 屋台のようなものも出ていて、歩き回ると面白い。

 日本の屋台というよりエキゾチックな東南アジアの屋台的な雰囲気なのは街の雰囲気と一緒だ。


 お小遣いをもらったから何を買おうかと思案中だ。

 三日間で銅貨三枚、三SL(シェル)だ。

 出かける前にママやヒーナ先生にいろいろ聞いてみたが、一SL(シェル)が大体五〇〇円程度みたいだ。

 シェルの下にCP(カピー)という単位があって、一〇〇CP(カピー)で一SL(シェル)となる。一CP(カピー)で五円だ。

 鑑定の出番だと思うと、それだけでもワクワクもんだ。


 貝焼きやイカの串焼きなどの海産物を提供する屋台が多い。

 トウモロコシ焼きやたこ焼きのようなものもある。

 大抵の食べ物が五CP(カピー)から一〇CP(カピー)と高くて五〇円ほどだ。

 食べてみようか、どうしようか、迷ってしまうのが、魔獣の肉の串焼きだ。

 グリーダーやイクチオドンなどの串焼きはオーランの名物だそうだ。

 陸上の魔獣の串焼きもある。

 昆虫魔獣の串焼きなんてグロと思ったが、身が大きくてカットした肉で普通の串焼きだった。なんでも稲や麦を荒らす大イナゴという魔獣で、セントアミュレットの効きも今一で農村の天敵なんだそうだ。大イナゴって五〇センチメルもあるそうで、かなりグロだ。

 匂いと、焼ける音でよだれがでそうだ。ジュル。

 誘惑に負けてイクチオドンの串焼きを食べた。九CP(カピー)とチェット高目だ。四五円だけど。

「辛いの付けるか」

「チョットだけ」

 塩コショウで味付けされたイクチオドンの肉に、粒マスタードソースを少し付けてくれた。

「ピリ辛でおいしー」

「おう、坊ちゃんは大人の味がわかるんだ」

「本当においしいよ」

 で、食べ始めたんだけど、思っていたよりボリュームがあって、串焼きだけでお腹がいっぱいになっちゃた。

 そのほかには袋入りの飴も買って、ママやヒーナ先生と護衛のみんなに配ったりもした。


 野菜の即売もあってそちらも安い。

 一〇CPでジャガイモやニンジンの大袋が買える。葉物野菜もそんな値段だ。

 聞いていた通り食べ物や野菜は安い。肉は幾分高めだがそれでも安い。


 服などの衣料品は逆に日本よりかなり高めだから、一概に一SL(シェル)が五〇〇円とはいいがたいが、価値基準として平均するとそんなところだ。


 陶器の大きな名産品市もあって、見ていて飽きない。

 量産品の安物が一個一SL(シェル)前後程度、チョット良いものだと三SL程度だ。

 本当に良いものだと一〇SL(シェル)程度で、五〇SL(シェル)程度が最高値だ。

 これでも市価よりチョット安めだそうで、お客が多い。

 それ以上の高級品は、お店での購入となるそうだ。


 魔法石に錬金術用の魔法具なども売っていて興味深いが、想像通り高級・高価なものと普及品・安価なものに分かれる。

 面白かったのが農業用魔法具だ。

 種まき装置、手押し二輪車の麦や稲の刈り取り装置、脱穀装置、計量装置と思ったより機械化? 魔法具化されていて、それらは市から補助金が出ていて安価に購入できる仕組みが出来上がっている。

 天然の肥料や飼料、魔法具の土壌改良具の販売も行われている。

 驚いたのが、農耕用の肥料で、魔獣から取った使用不可能な小さなクズ魔獣核|(魔獣石)を粉末にしたものを混ぜるんだそうだ。

 そうすると作物の成長が早くなり、四毛作に四期作、肥料をどっさり与えて五毛作に五期作も可能だそうだ。

 粉末にできない農家では、狩った魔獣の魔獣石をそのまま地面に埋めることもあるそうだ。

 ちなみに魔法具は魔道具のワンランク下の魔法装置だ。


 魔素の所為か肥料を与えなくても二毛作に二期作、うまく作れば三毛作に三期作が行なえるので食糧事情はすこぶるいいそうだ。

 食量が安いわけに納得だ。


 海洋都市オーランならではなのか、小さな漁船も販売展示されていた。


 民芸品などは価値基準が良くわからないけど、屋台を見ているとあっという間に時間が過ぎていた。


 鑑定も使いまくったら、あっという間に魔法力が枯渇しそうになって、水筒を何度も飲む始末だった。

 水筒は作ってもらったストラップ付の水筒フォルダーに入れて肩から下げている。

「何に魔法を使ってるんですか?」

「人がいっぱいで、喉がよく渇くから」

「本当ですか?」

  ……タラー。

「えーと、鑑定をチョット…」

「疲れたって言っても抱っこしませんからね」

 ヒーナ先生に呆れられてしまった。


「そろそろ見にきましょう」

 ママの言葉で、オケアノス神社の境内に移動する。

 目的は神楽舞だ。

 明日は一番人気でごった返すそうなので、僕のような子供連れで見るのは今日か、明後日の午後が空いていて、ねらい目なんだそうだ。

 それでも人が多いんだけど。


 縦笛と横笛に鉦に太鼓など日本の雅楽に近い。

 澄んで高い横笛の音色に、鉦の音が響く、やや低音の縦笛が荘厳さを醸し出す。テンポよく鳴る太古も気持ちよい。

 少々エキゾチックな巫女衣装に着飾った三人の女性が、神楽鈴をもって舞いが始まる。

 オケアノス神を表現する冠ガキラキラ光る。

 日本の神楽舞よりダイナミックに見えるが、神聖なものが伝わってくる。


 見入っていると、巫女の動きが止まり、雅楽が止まる。


 礼をして三人の巫女が下がる。


 雅楽が別の曲を奏で始める。

 大太鼓がドンと鳴り、お腹に響いた。

 今度は剣を待った男舞いで、勇壮だ。


 最後は巫女の舞いだった。

 神楽鈴を持たないシンプルな舞いだ。


 日本にいた頃も、困った時と、初詣で程度は神社に行ったが、神楽舞いなんて初めて見た。

「楽しかったですか?」

「うん」

 ママの声で我に返った。

 かなり熱心に見学していたようだ。


 帰りに記念と水泳が上手になれるようにと思って、自分のダークブルーの髪の色と合わせて、オケアノス神の青いお守りを買ったのだが。

「ミク様にも買ってあげたらどうですか」

 ヒーナ先生に二コリとほほ笑まれながら言われた。

 えっ、それがここの常識なの? 彼女無しの常識じゃあ、って……ああ、近所づきあい。五才だし、ご挨拶的なものか。

 チョット焦った。女の子に贈り物なんってしたことなかったから。

「……うん。どれがいいかな」

「それはセージ様のお好みですね」

 そんなものなの? と、思いながらも、ミクちゃんに似合いそうな色は、ヤッパリ髪に合わせて真っ赤だろうと、僕と同じお守りの色違いを選んだ。

 僕のお守りは水筒のストラップに結びつけた。


 帰宅しようとしたとき、震度二程度の少し大きな地震が発生した。

 ここ数日、震度一程度の地震が続いていたから、またかと、いやになる。


 ミリア姉は明日のパレードで頭がいっぱいなのか追っかけっこが無くて、助かったんだが、なんか気が抜けた。


申し訳ありません。22話上げなおしました。

今後このようなことが無いように気を付けます。

ご指摘ありがとうございます。

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