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次元災害で異世界へ  作者: 真草康
オケアノス祭編
26/181

25. ノルンバック家帰宅


 自由共和国マリオンの交易自由都市オーラン。

 七月六日黒曜日の午後。


「お帰りなさいませ。ご無事で何よりです」

 パパにママ、ヒーナ先生とモルガと一緒に屋敷に戻ってきた。

 午後になったのはパパがオーラン・ノルンバック船運社への輸入品の引き渡しを行ったからだ。まあ、ある程度を済ませると船長に引き継いだ。

 そして全員一緒での帰宅した。

 出迎えは家宰のドルホさんと、兄のオルジと姉のミリアに二人の家庭教師のマルナ先生だ。


 ドルホさんはモルガと一緒で古参で、パパたちもドルホさんが居るおかげで信頼して家を空けられる。

 国家間通話が可能な時空電話(ディスタンスフォン)が有るのでテロリストの件はもちろん知っている。無事の連絡も送っているので、いつものポーカーフェースだ。


  ◇ ◇ ◇


 国家間通話を行うディスタンスフォンも、お互い相手とのシンクロ装置を取り付けないといけないので親交のある国家間での通話となる。

 自由共和国マリオンの親交のある国は近隣諸国とオケアノス海周辺諸国となる。

 ちなみに民間でも多少の資本があると時空電話(ディスタンスフォン)を持てるし、新聞のような情報誌もある。

 パパは近距離電話(マジカルフォン)だけでなくディスタンスフォンも所持している。もちろんオーラン・ノルンバック船運社の物だが。

 そしてディスタンスフォンには会議モードがあって複数会話が可能で、それがあるからマリオン議員が務まる。

 移動に時間が掛かるバルハライドでは集まって会議を行うには問題が多すぎる。

 小国だが六か国がまとまったのもディスタンスフォンが普及したからだ。

 通常はディスタンスフォンでの会議となる。

 オーラン市内の市会議では、オーラン市内の市役所に集まってテーブルを囲むことも多いが、近距離電話(マジカルフォン)が使用されることもある。

 マリオン市で全国議員会議が招集されるのは冬と夏の年二回だが、主要都市から代表議員数人が出席しての会議となる。ディスタンスフォンでの参加も普通に行われる。

 パパだけでな議員は市議会議員を兼ね、というよりオーラン市の市議に選出されその中から全国議員に選抜される。

 市議を行いながら全国との意見交換をし、マリオン国の運営に関わっていく、国と市の窓口的な役割を負う。

 それだけだはなく、首都マリオン市にはオーラン市からだけだなく、主要都市から常駐議員として国政を維持する議員がいるので何かと連絡が密に行われている。


 自由共和国マリオンはそうして運営・維持されている。


  ◇ ◇ ◇


「今帰った。心配をかけて申しわけなかった。それと長い間世話を掛けたな。ありがとう」

 メイドや船運社の社員兼スチューワードが荷物運びを手早く行う。


 亜熱帯気候で、海から近いこともあって、チョット蒸し暑い。

 慣れているはずだけど、温帯気候のヴェネチアンから帰ってくるとチョット不快だ。


 華やいだ港や街並みを眺めながら魔導車――魔電装置(マジカルボルテックス)による半電気自動車――で帰宅した。

 魔導車の乗用タイプはどこでもワンボックスカーのような形状だ。

 他にはトラックのような運搬タイプもある。


 表の屋敷は三階建ての木造・漆喰の建物で、オーラン・ノルンバック船運社の商館となっている。

 裏側に二階建てが二棟建っていて、片方が自宅で、もう一棟が寮になっている。

 寮の近くには託児所がある。

 構造的にはエルドリッジ城に似ていなくもないが、かなり小型版で尖塔なども無い。それとどこかエキゾチックだ。

 魔導車や馬車などは横の門から入って商館の横や、そこから更に門を潜って裏の居住区に横付けできる。

 居住区の玄関で家宰のドルホさんの挨拶をした僕たちは、屋敷に入って居間に移動する。


「「パパ、ママ、セージ、お帰りなさい」」

 オルジ兄が胸に手を当て、ミリア姉も貴族への礼(カーテシー)で礼をする。

 オルジ兄とミリア姉の髪はパパ似のブラウンで、顔立ちが美人のママ似と、セージと逆だ。

 逆といっても僕がパパみたいに豪快な顔立ちっていう訳じゃない。パパ似の輪郭で目も似てるとらしいが年齢相応の子供らしい普通の顔だと思っている。

 おお、何かと様になっている。

 玄関でも挨拶をしたが、改めてだ。

「ただいま、オルジ、ミリア。学校は楽しかったか」

「はい」

「本当に、王子様とお姫様みたいですよ。ただいま」

「ママ大好きー」

 ママがミリア姉を抱きしめると、ミリア姉がチュッとキスをする。

 内向的なオルジ兄と、活発なミリア姉とでは対応が対照的だ。

「おいおい、パパへは」

「はーい」

 そしてかがんだパパにもチュッとする。

 もう、パパデレデレです。しまりがありません。

 ママはオルジ兄を抱きしめチュッとキスをすると、はにかむオルジ兄も嬉しそうだ。


「セージはいい子にしてましたか」

 ミリア姉が面と向かって問い質してくる。

 さあ、どうでしょう? こうも正面切って言われると言葉に詰まってしまう。

「……た、ただいま」

「さては何かやりましたね。パパ、ママ、セージはいったい何をやったのですか」

「そうだな……」

「そうですね……」

 パパが言葉に詰まってママを見る。

 そしてママの視線が僕に向かうが……、何とも言えない表情だ。

「そこまで何かをやったのですか。あれほどご迷惑を掛けないようにって言ってたのに」

「ミリア、そうではないのですよ」

「ああ、そうだぞ。セージはとんでもない、そう、とんでもない活躍をして、ベッケンハイム伯父さんに表彰されたんだ」

「そ、そうなんですか。

 それで何でパパとママが困るのですか?」

 ミリア姉と一緒にオルジ兄も首をかしげる。


 パパが、うーん、と唸る。そして、

「もしもだが、ミリア姉が魔法を思いっきり使って、我が家の警備員と戦ったとしたら勝てるかな?」

「頑張って勝ちます」

 ミリア姉が胸を張る。

「そうか、それはすごいな。それじゃあ警備員が五人だったらどうだ」

「五人ですか。想像がつかないけど、どうやっても勝てるわけないですよね」

「セージはそれ以上のことをたった一人でやったんだ」

 ミリア姉とオルジ兄が目を見張る。

 その目がママに向かう。

「そうです」

 ママがうなずく。

 もう一度二人が僕を見てくる。


「セージは出かける前は、何にも魔法できませんでしたよね」

「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」

「パパとわたくしは、かなり以前から無意識で魔法を使っていたのではないかと思っています」

「ねえセージ。魔法使ってみてよ」

 えっ、ここで?

「まあ待て。一旦みんなで落ち着いてからだ」

「そうですね。モルガとヒーナも一旦部屋に戻って、着替えでもして落ち着いてから居間に集合しましょう」


  ◇ ◇ ◇


 僕は久しぶりだからと、メイド二人に素っ裸にされて、風呂で洗われるしまつだ。

 超ー恥ずかしいったらありゃしない。

 五才ですから。

 伯父様の家でも同じ扱いだったし、もうあきらめてます。


  ◇ ◇ ◇


 パパにママ、それに僕も着替えて再度居間に集う。


 モルガも着替えたがメイド服で代わり映えしない。

 ヒーナ先生は僕の家庭教師ということで普段着だ。


「長らく留守にして申し訳なかったな。

 そしてオーラン・ノルンバック船運社並びに家を守っていてくれてありがとう」


 パパが、副社長で叔父さんのリンドバーグ・フォアノルンを改めてねぎらう。

 港にも迎えに来ていて挨拶だけでなく、パパと一緒に荷揚げの指示をしていたし、魔導車に乗せて家まで連れてきてくれたのも叔父さんだ。

 リンドバーグ叔父さんも政変に巻き込まれた人で、奥さんと子供を亡くして、再婚もせず、パパを助けてオーラン・ノルンバック船運社命と頑張っている人だ。

 だから夫婦そろって長期遠征が可能だ。

 僕が挨拶をすると、笑顔を返してくれるがチョットさみしそうな顔をする。

 船運社の方ばかりで、このようなことがないと滅多に家の方に顔を見せない。今ならそのさみしそうな笑顔の意味がわかります。

 どうもありがとうございます。

 放浪癖があるみたいで、パパとママがそろっているときには、たまにふらっといなくなることがあるそうだが、いついなくなって、いつ戻ったのかもよくわからない。


「これがオルジへのお土産だ」

 両刃の短剣と魔法の本と洋服をオルジ兄に渡す。

「こちらがミリアへです」

「ママ大好き」

 ドレスと魔法の本を渡し、ネックレスをミリア姉に着けてあげ、キスがお返しだ。

「洋服やドレスはお父さんたちの土産だが、魔法の本と短剣やネックレスはベッケンハイム伯父さんからだ。あとでお礼の手紙を書くように」

「「はい」」

 あっ、僕の褒章に合わせてだ。

「伝えておくが、セージは本当に大活躍して、テロリストの捕縛に大貢献をした」

 オルジ兄とミリア姉が驚きを込めて僕を注視する。


「正式に褒章され、普通であれば勲章がもらえるところだが、年齢もあって剣を下賜された。

 それに魔宝石のネックレスに、膨大な量の本もいただいた」

 パパの言葉の後をママが続ける。

「すべてが高価なもので、ヴェネチアンやエルドリッジと友好の証となるものです。

 それほどの活躍をしました。ですから、オルジ兄とミリア姉もそれらの品をセージから借りることを禁じます。セージも貸さないように。

 本は魔法の本の他に、一般の本も沢山いただきましたので、セージが許せばそれらの本を見せていただきなさい。いいお勉強になりますよ。

 ただし魔法の本はセージが許可しても、セージの部屋からの持ち出しは一切禁止です。

 セージの部屋で読ませていただきなさい」


 伯父様である、フォアノルン伯爵からの褒章品である小太刀の“銀蒼輝ぎんそうき”と、緑の魔宝石のネックレスをお披露目する。

 褒章で下賜されたものは極力身につけるものなのだが、小太刀でも刃渡りは六〇センチメル、柄や鞘まで入れると八五センチメルほどある。

 五才の僕の身長は一一〇センチメルほどだから銀蒼輝は大きすぎるので、ネックレスを代わりに身につけている。


 家宰のドルホさんとモルガを筆頭に、その場にいた家庭教師とメイドたちにもその旨が通達された。

 改めて、ドルホさんや家庭教師とメイドの注目が僕に集まって、居心地が悪い。


「本はどれほどいただいたんですか?」

「魔法の本が二〇冊――魔電装置(マジカルボルテックス)基礎(全三巻)込み――と薬草関係が五冊、ママが言った一般の本は、歴史や伝記が二〇冊、普通の小説も二〇冊で合計六五冊」

 ミリア姉の問いに、ママの視線で僕が答えた。


「そんなにたくさん。魔法の本て子供用があるんですか? セージ一人で読めるの?」

「いいえ、本は全て大人用だったり、難しい研究者用だったりします。

 それに魔法の本は、きっともう何度も読んでいますよ。そうですよね」

 ママの言葉に、僕が「はい」とうなずく。

「セージは学習系のスキルが芽生え、本を非常に早く読めます。

 これから他のスキルも芽生えるでしょう。

 伯父様のお城の魔法の本をすべて読んでしまったほどです」


 みんなが驚愕で僕を見る。

 いやいやいや、魔法史は全部読まなかったから。

 追加の二日で辞書は読んじゃったけど。


「どこまで理解しているかはわかりませんが、スキル値以上の魔法を使い。

 伯父様たちの家族を救い。わたくしたちと一緒にマーリン号も救うほどです。

 魔法の知識はわたくしよりも、ずっと上でしょう。

 ヒーナ先生に付いて更なる魔法の勉強もしています」


「このことは家族以外内緒だからな。しっかりと頭に入れておけ」


「「はい」」

 パパの言葉に返事をするミリア姉とオルジ兄だが、不思議そうに僕を見る。

「皆さんもそのようにお願いします」

 周囲のみんなも視線は一緒だ。


 セージは知らないことだが。

 パパとママの説明は、ある意味それまで天才とされてきたミリア姉に対抗心を持たせないようにするための牽制(けんせい)でもあった。

 ミリア姉は“基礎能力経験値1.1倍”、“スキル経験値1.21倍”のスキルを持ってるからだ。

 オルジ兄とミリア姉の家庭教師にも伝えておかなければと、帰宅早々皆に告げたのだった。


 オルジ兄とミリア姉の家庭教師のマルナ先生は、冒険者をほぼ引退していて、それなりの年齢だ。そして長兄のブルンの家庭教師でもあった。

 ミリア姉が十才くらいになったら、オーラン・ノルンバック船運社の正社員になる予定で勉強していたが、ヒーナ先生という交代要員が見つかったこともあって、ヒーナ先生が夫妻のお眼鏡にかなえばだが、早ければ来年から正社員となる予定だ。

 ちなみに夫も冒険者でオーラン・ノルンバック船運社の警護を様々こなしている。半分社員のような人だ。

 マルナ先生の子供が成人してしばらくして、ママがスカウトしたのが先生の始まりだ。

 そのヒーナ先生も正式な家庭教師となったが、本人は微妙な立場になっちゃたなと思っている。


『看破』で見たら、“マルナルカ・ホーホリー”、“人族”、“女”、“50才”だ。

 強い生体反応からかなりの強さだってことはわかる。

 現在見えるのはここまでだ。

 そして、看破で見たら驚いた後に、チョットにらまれた。

 本での知識だが、看破や鑑定、魔力眼や魔素察知などのスキルを持っていると、使ったことがバレてしまうそうだ。ごめんなさい。


 この後にドルホさんにマルナ先生に正規のメイドにもお土産が渡された。

 この部屋にいる人たちはパパとママが信頼している人たちだ。

 ちなみにリンドバーグ叔父さんには港に付いた時に渡している。

 魔電装置(マジカルボルテックス)の強力ライト兼カンテラだ。

 一人旅の好きな叔父さん用にと、キャンプや旅行で役立つものだ。


 その他の自宅の雇用人や料理人などにはドルホさんから渡されることになる。

 ちなみに自宅の雇用人といってもそのほとんどが船運社の社員だ。

 オーラン・ノルンバック船運社というだけあって船乗りが多く、その奥さんの多くも船運社に務めている。

 出産などで休業をするならば、一時期的にだが子供連れで自宅の雇用人として、保母さんをやってもらったり、食堂の手伝いなどを行ってもらっている。

 ヴェネチアンからの移住者が多く、身内がいないための互助会のようなものからこのようなことになった。

 船運社と勤務体系が違うから、責任者はママでドルホさんの補佐となっている。

 自分の子供の面倒を見ながらできるし、船の情報も何かと聞こえてくるし、なにかとうまく回っている。

 敷地内には独身寮のようなものがあって、料理人には社員食堂のような事もお願いしている。リンドバーグ叔父さんも毎食のようにお世話になっている。

 家庭や来客のためだけに料理人を雇えるわけではないが、お抱え料理人がいることは何かと便利だ。

 そして来客時には雇用人もメイドとしても、また時たまだが店番としても活躍してもらっている。


 ちなみに正規のメイドは、お城勤めのような礼儀作法に長けたものではなく、民間だと腕の立つ護衛的な意味合いが強い。

 オケアノス海周辺諸国の一般メイドといえば、体術スキルや短剣スキル持ちのなるメジャーな職業だ。

 攻撃魔法を持っていると一ランクか、二ランク上の“警護メイド”となる。

 ゆえに、ヒーナ先生も家庭教師兼警護といえなくもない。

 尚、ヴェネチアンのフォアノルン家から付いてきたモルガさんだけは別で、本当のメイドだ。


 託児所だが親と一緒ならば〇才から入所可能で、学校に入る直前の六才までとなる。

 オルジ兄やミリア姉も五才の半ばころまでは託児所に通っていたし、セージも通っていたのだが、今回のことで魔法スキルが目覚めたことによって通うことをやめることとなっている。

 魔法が目覚める五才から六才は街中にある学習施設に預ける人もいるし、家庭で独自の学習する人もいる。

 さすがに託児所で魔法訓練は無理だし、事故の可能性もあるので専門的な教育が必要だからだ。

 オルジ兄とミリア姉も就学前の一年間、六才の時は自宅学習だった。

 それが半年ほど早くなっただけだ。


 パパはリンドバーグ叔父さんと一緒に表のオーラン・ノルンバック船運社に顔だしにいった。

 ドルホさんと一緒にメイドたちも仕事に戻って、現在はママを含めた家族四人、それとヒーナ先生にマルナ先生だけだ。


「ねえセージ、魔法をやって見せて」

「うん、いいけど」

 あそこまで言われてしまえば隠す必要もない。まあ、それでも隠してるけど。


「<ホットブリーズ>」

 おお、風が出た。

 魔法陣を出して、魔法の発動までが随分とスムーズになった。

「そんなんじゃなくって、攻撃魔法」


 あ、そう。それじゃあ。

「<ファイアー>」

 右手に火球を出現させる。

「<ウォーター>」

 そして左手に水球を出現させる。


「これでどうやってテロリストをつかまえたの?」


 あっ、そういうことか。

『ファイアー収納』をしてファイアーを消す。

「<ウインド>」

 まさかドリームランドを飛ばすわけにもいかない。

 水球を風(移動)魔法でユックリと自分の周囲を一周させて、また左手に戻す。

 魔法で作ったばかりの物は、同量よりちょっと多めの魔法力を流しながら『解除』と魔素に戻ることを強烈にイメージする……と、よっと、……で、水球が消滅する。

 あっ、失敗。チョット水が床にこぼれた。


 ちなみに、水と風の合成魔法陣で“小水弾”という魔法陣はあるが、まだ単体魔法の反復練習中で、練習どころか魔法陣も造ってない。

 オルジ兄とミリア姉が唖然としている。


 しばらくすると、唖然としていたミリア姉が起動する。

「マルナ先生」

「ミリアさん、何でしょう」

「ウインドって風魔法のレベル“1”ですよね」

 正解。

「はいそうです。ミリアさんには何度も見せてますよね」

「あんなに曲がるものなんですか?」

「魔法力のコントロールが非常に上手でなければできません。

 見せてもらった合成魔法ならばなおさらです」

 そう説明している、マルナ先生も驚いている。


 魔法にはイメージ力が多大な作用する。

 それとただ単に魔法をイメージするよりも、魔素も具体的にイメージすると効果がアップする。

 それが総合して魔法力のコントロールとなる。

 魔素は強烈なイメージの影響を受ける。要はそれが魔素のコントロールの第一段階で、そしてそれに沿って魔素を呼び込んで具体的に展開する。できれば呼び込む魔素も同じ属性の魔素が望ましい。

 魔法研究書などに詳細が載っていたが、読んだ本を総合するとこうなる。

 それと魔法陣を作成するときのイメージも大事で、ウインドは実験的に何度も作り直している。

 ある意味僕専用の魔法陣で、イメージを込めやすくなった気がする。


 今回は水魔素のループ回廊を風(移動)魔素のチューブで覆うように、そして水球がそのループ回廊を通過することをイメージした結果だ。

 魔素がはっきり見えないと具体的に魔素をイメージすることは難しいことだし、それに五才だけど中二のイメージ力をなめるなよ。


「それじゃあ、どうやって水球(ウォーター)を消したんですか」

「やはり魔法力のコントロールです。魔法力を見極めて魔素に還元するのですが高度なテクニックです」

「それをセージが…」

「はい、そうです」


 ヤッパリ魔法力や魔素がしっかり見えないと、周囲の魔素を取り込んでできた魔法物を消滅させる魔法力と、そのイメージを込めて放つのは難しい。

 帰宅途中の海上でとうとう“魔力眼:0”がスキル表示されてから、更にハッキリと魔素が見えるようになった。


 それでも、そんなに高度なテクニックなのか?


「セージ様。高等魔法学院、ここではブルン様の通われるマリオン国立上級魔法学校ですか。その上級魔法学校の一年か二年で習うのが合成魔法です。

 自宅学習で早く習う方だと、大体ですがオルジ様くらいの年齢です。

 水球を消すのは、魔素が見えてからですから、メチャクチャ才能のある人で上級魔法学校の三年生、通常といっても魔素が見える才能のある人だけですが、それで最上級生の四年生で何とか可能です。

 もちろん魔素を見えない、感じられない人には行使することは不可能ですし、そもそも学べません」


 えっ、嘘ー。


「セージ様の常識は非常識、普通は規格外ですから」

 ヒーナ先生の止めが、僕をえぐってくる。…クハーッ。


「あのー、セージ君は魔法は何もできませんでしたよね」

「は、はい……」

 そう、エルドリッジ市のフォアノルン伯父様に会いに出かける前、一か月前は生活魔法を含めて何にもだ。……いや、個人情報を見てなかったから、何もできなかったとは言えないかもしれない。


「短期間で魔法レベルが1になったのも気になりますが、気持ち悪くなったりしませんか?」

「はい、全然」

「ずいぶん魔法力を使いましたよね」

「そ、そうですね……」


 今の魔法、三つのレベル1の魔法に“解除”で、魔法力をチョット込めたから“6”近く減った程度か。

 頑張ってコントロールしたし。

 一か月前の魔法値は“12”だったけど、五才だと下手したら枯渇してるレベルなのかな。あ、そういえば“5”以下にならないように気を付けるんだっけ。チョット失敗。


「マルナ先生が言われたようにセージ様は魔法レベルが“1”です。

 それとも数日で魔法レベルが“2”になりましたか?」


「ううん」

 さすがにもうちょっと待ってからにしよう。


「それでいつから水魔法ができるようになったんですか?」


 えっ、あれ?

 水魔法は…と、個人情報(偽)に入ってないじゃん。入れとこ。

「えーと、知らないうちに…」


「そうですか。本から魔法陣を引き出す、いいえ、造り出すテクニックを手に入れたってことですね。

 と、この程度には非常識です」


 ヒーナ先生の突っ込みに。

 はあ、とママが頭を抱えて、ため息をつく。深刻な悩みじゃなきゃいいけど。……ごめんなさい。


「あのー、どういうことでしょうか」

「あー、理解は不可能だと思います」

「それで、どのように習ったのでしょうか?

 いえ、混乱しています。疑問だらけです…」


 混乱するマルナ先生の問いに、セージも戸惑うが、マルナ先生の視線はヒーナ先生に救いを求めている。


「多分ですが、セージ様は以前から魔法ができたのだと思われます。

 ただ魔法陣を知らなかったために魔法が使えなかったと勘違いされていたのではないでしょうか」

 説明しているヒーナ先生が、はあ、とため息を漏らす。


「生活魔法は複写したその時点で発動しましたし、その発動したデスクライトは定着前にもかかわらず一二分程度点灯していました。

 知らないはずの魔法や、他人が発動させるレベル2強の魔法を見て、魔法陣の設計図を作成し、どうやって発動させたのかわかりませんがその魔法を発動させました。それも魔力を込めて威力をアップしてです。

 人並外れた学習能力で、独自で魔法陣を造っているのか、設計図からか魔法陣を造り出すスキルかもしれません。

 ただ単にイメージ力によって魔法を放っている可能性もありますが、魔法力の関係で無理、まあ、すべてが普通では無理なんですが」


「あのー、ヒーナさん。何を言っているか理解されていますか?」

「はい。自分で言っていながらでたらめだと思いますが、全て事実です。そうですよね奥様」

「ええ、そうなのです。

 セージのそのスキルが無ければ、お義姉さんのアルーボリア(アルー)さんと長男のロナルディア(ロナー)さんはいまだに眠っていることでしょう」


「あの、なんのことでしょう」

「いえ、ごめんなさい、こちらのことです。ヒーナさんの言ったことは真実です」

 非公開の情報まで呟いてしまったママが慌ててごまかす。


「そうなのですか…?」

 納得のいかないマルナ先生は、そんなことは、いいえありえません、でも……と、しきりに首をひねっている。

「……セージ君のスキルは教えていただけないのでしょうか」


「はい」

 ママが拒絶にはっきりとうなずく。


「それとたとえ見ても混乱するだけです。それは魔法回路も一緒です。

 セージ様も何故できるか、わからないこともあるようですし」


 ごめんなさい。ありません。


「マルナさんも詮索はその辺で」

「わかりました」


「ミリアも決してセージと張り合ってはいけませんよ」

「はーい」

 ママに諭されるミリア姉はどこか不満そうだ。


 奇しくも、ヒーナ先生とマルナ先生ともに、セージが見せたウォーターとウインドの合成魔法を簡単に使いこなせれば、上級魔法学校の合格間違いなしと思っていた。

 ただし違っていたのは、ヒーナ先生はセージの合格を、マルナ先生はオルジ兄の合格と、対象者の違いがあった。


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