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次元災害で異世界へ  作者: 真草康
エルドリッジ攻防編
24/181

23. エルドリッジ港出航


 テロリストの襲撃の影響で、パパの挨拶周りや商談も遅れ、六泊の予定が八泊した。

 六月二三日の白曜日に出航予定が、今日は七月一日の赤曜日で、お昼ごろに出航だ。

 僕としてはいっぱい本を読めたからラッキーだったが、物騒だということで市街見学は一度もしていない。

 ご褒美の魔法本は以下の通りだ。


 ―― 魔法陣体系(上・中・下)

 ―― 時空魔法応用(改訂Ⅱ)

 ―― 複合・三重魔法の極意(上・下)

 ―― 全魔法辞典(全三巻)

 ―― 身体魔法体得法


 全魔法辞典は伯父様がそこまで熱心ならばと、買ってくれたものだ。

 全魔法辞典といっても本当に全部の魔法陣が出ているわけじゃないけど、用語などが詳細に解説されていて役に立つし、伯父様の気持ちだからってのもある。


 朝食後に伯父様から、

「約束だ。歴史小説や伝記に歴史年表と合わせて二〇冊。それと最近はやりの小説を二〇冊だ。

 あとはセージが選んだ本だが、それは別に部屋に届ける」

 合計五〇冊だ。


「ありがとうございます」

「一日で読まないで下さいね」

 読めるかー。

 まあ、おかげで速読と記憶強化が“2”になった。ちなみに魔法値は昼間にデスクライトを使い続けたこともああって“22”となった。

 そして風と闇魔法が“2”で、時空魔法も“1”になった。


 時空魔法のアイテムボックスはレベル4だから今は無理。作成するには魔法力も全然足りないだろう。それでも時空魔法が気になって魔法陣を作成して練習したのが二つ。

 レべル1:ミニポイント:空間チョットした足場

 レべル1:保存(対物のちょっとした減速)

 レべル1:熟成(対物のちょっとした加速)


 風魔法は複合魔法の基本だから、ウインドも作成しなおして練習もした。

 レべル1:ウインド

 レべル2:ハイウインド(ウインドウの強化版)

 レべル2:ストリーム(風向変化の風)

 レべル2:タービリオン(つむじ風)

 レべル3:ジェットストリーム(ハイウインドウとストリームの合成強化版)


 闇魔法の“ドリームランド”に、火魔法の“ファイアー”だ。


 今は基本と基礎だと自分に言い聞かせて練習している。

 できれば、まんべんなく魔法を練習したいがそれは無理だ。


 風魔法は種類も多く、まだレベル3の半分も作れちゃいない。

 火魔法や時空魔法もそうだけど、水魔法、土魔法、光魔法、身体魔法、錬金魔法、付与魔法、補助魔法は徐々にだけど魔法陣を造っている。数も多く、作成中だ。

 ただ闇魔法の魔法陣は、ほとんど本に載っていないから作りたくても、ほとんど作れないってのが本当だ。


 それに魔法陣は作ったはいいけど、魔法回路の定着もあるから、あまり手広くしないようにも注意している。

 魔法は正しい魔法回路と魔法力があればいいだけじゃない。キッチリとイメージしてコントロールしてこそ使いこなすことができる。

 最終結果を強烈にイメージすることも重要だが、発動中の魔素レベルで具体的にイメージを構築することも重要だ。

 それには反復練習しかないが、同じことの繰り返しでイメージを固定化すると、融通が利かなくなってしまう。

 おかげで作った魔法陣を作り直したことも何度も在った。

 複合魔法陣や合成魔法陣の作成はまだ先になりそうだ。


 おかげで伯父さん宅の図書室の学習関係の魔法の本は全部読み終えた。つまり読み終えていないのは魔法辞典と魔法史だ。

 三日目から司書さんが何とも言えない視線を送て来ていた。

 記憶強化で本が早く読めるんですか、とヒーナの疑惑のまなざしがきつくなった。

 本当に気を付けよう。


 その他の収穫は、魔法はある一定以上のレベルになると自分で作成する魔法陣、個人魔法というものになるそうだ。

 ただそれは、通常の魔法を覚えた後、まだまだ先のことだ。

 ちなみに、一子相伝の魔法陣なんてものは、なーんにもなかった。ガッカリ。

 どうりで伯父様が無制限で解放してくれるわけだ。


 朝食後でお茶を飲みながら、

「本当に読みそうで怖いですわね」

「そんなにか」

 ヒーナの忠告にママが困惑気味に同調する。

 パパはママを見て驚いている。

 どうやら伯父様には司書から連絡が届いていたのだろう。驚く様子もない。

「セージ君、本当に学習系のスキルは記憶強化だけですか」

「エルガさん!」

 ダブダブのツナギ姿で突っ込みを入れるエルガさんに、エルガさんのママでもある伯母様がしかりつける。


 食堂に残って、再度ヒーナと一緒に確認する。

 エルガさんは伯母様にに連行されていった。

「でも、何ですか、時空魔法応用に複合魔法ってどこかの研究員ですか。

 火・風・光はどうしたんですか? まったくもう」

 個人情報(偽)では、僕の魔法属性は火・風・光だけだった。忘れてた。

「えー、興味があって……です」ごめんなさい。

「自分の属性より、興味が上ですか。はあ、時空魔法が使えるようになったら教えてくださいね」

「できないかもしれないよ」

「大丈夫です。エルガ様も言ってたじゃないですか。目指せ全属性です」

「は、はひ」

 どうやら僕には信用がなさそうだ。

 思わず噛んでしまった。

「それでは馬車に運んでもらいましょう」

 魔導車以外にも伯爵家には馬車がある。荷物は馬車での運搬が基本のようだ。

「うん」


 そう。エルガさんがチョクチョク帰宅してきて、もとい、毎日帰宅して泊っていった。

 アルー伯母様曰く、こんなに帰ってきたことはありませんでしたね、だった。

 夕食と朝食は僕の隣でいろいろとまくし立てていた。そう、初日より強烈に。

 今朝も言葉のマシンガンが炸裂していた。

「ボクの研究室を一回見に来れば気持ちが変わるよ」

「面白い研究員がいっぱいいるんだ。セージ君もきっと気に入るよ」

「昨日は、合成魔法核の臨界実験、核破壊をさせて、ボンと面白かったのなんのって、アハハ…」

「セージ君の魔法回路を見せてくれないかな」

「ファイアーとウインドの合成魔法を撃ったんだろう。どうやったら発動するのか是非見てみたいんだが」

 毎回、アルー伯母様が止めなければ誰が止めるんだって思ってしまう。

 ムニュッが無ければ絶対逃げていた。

 そう、デザートになるとエルガさんの膝の上に座って食べることに、どういう訳かなってしまった。まったくもって、いかん、そう、い……いい感じだ。

 ボヨーーンも、今朝で終わってしまった。


 ちなみにエルガさんの特殊スキルは“発想力”だそうだ。研究所で大人気です、と内緒で教えてくれた。


 ガルドと二ルナともチョットは遊んだが、距離を置かれてしまった感があって、あまり親しくならなかった。

 それについては納得している。

 三つ下の妹と同い年の男の子が、明らかに自分より出来がいいんだ。扱いに困るよね。

 妹にしたって兄の困惑を敏感に感じ取ってしまう。

 一番の原因は、信頼していた家庭教師に剣を突き付けられたんだ。自分の中で整理がつくまで長い時間が掛かるだろう。みんなが暖かく見守っている。


  ◇ ◇ ◇


「兄上、姉上たちも世話になった。賊を一掃して落ち着くことを願っている。

 それではまた来るから、その時こそは心置きなく酒を酌み交わそう」

「ああ、お前たち家族も達者でな」

 議員であるパパは、のんびりとエルドリッジ市に居続けるわけにはいかない。

 ママたちも挨拶を交わして魔導車に乗る。

 ガルドと二ルナも見送ってくれた。

 空元気かもしれないが、笑顔で手を振ってくれた。

「ありがとうございました。また来ます」

 僕は思いっきり手を振った。


 捕虜からの証言で判明したことだが、ノーフォーク湾に大量に発生した海魔獣は、魔獣を呼び寄せるブイが沈められていて、更に魔獣をおびき寄せ、興奮状態にする魔獣血石(ブラッドアミュレット)の粉末を撒いたせいだった。

 ブイはすでに取り除かれている。

 魔石の粉末は自然に薄まるのを待つしかないが、拡散と海魔獣に食べられ、かなり薄まって海魔獣も多少多めといえる程度まで減少した。航海に支障が無い程度だ。


 テロがあったのが六月一七日の白曜日の夕方だ。

 今日が六月二三日の白曜日の朝だ。

 そのために出航が決まった。


 警備に囲まれ、魔導車で港に移動する。

 石造り、モルタル造りの家が多い。ほとんど見なかったけど、気候の所為か懐かしく感じる。

 おお、自転車も走ってる。

 そういえばマリオンでも見たことがあるような気もするが、ほとんど家を出たことがない僕は、街のことを何にも知らないんだ。


 パパは魔導車から降りると、さっそく商品の確認を行う。

 何度か足を運んでいたから、勝手知ったる様子だ。

 ママも船長をつかまえて、乗客の確認を開始する。

 ヒーナは船員に荷物の運搬を頼む。


「おはようございます」

「セージ様おはようございます」

 船室に入るとモルガが出迎えてくれた。

 時刻は九時半だ。

 正午の出航のために早めにマーリン号に戻ってきたから、僕だけかなりゆとりがある。

「セージ様は本でも読んで、ホ・ン・ト・ウ・に、おとなしくしていてくださいね」

「はーい」

 ヒーナが左手を腰に当て、右手の人差指で僕の顔を指さしながら、諭すように告げてくる。

 どうやら僕の信用はマイナス傾向の模様だ。うん、不本意だけど僕でもそう思う。……忸怩(じくじ)たる思いで納得だ。

 魔法の本十冊と小説十冊を歴史書十冊はベッドの下の段に置いた。

 僕はベッドの上の段に移動となった。梯子を上るんだ。

 二一冊は居間の本棚に収まっている。そう“魔法の指輪の物語”も居間の本棚に移動した。


 一旦居間に戻ったヒーナがまた入ってきた。

「あと、これはフォアノルン伯爵から、船に乗ってから渡しようにと受け取ったものです」

 水筒を二本渡された。

「これって」

「セージ様の想像の通り、大好きなリバイブウォーターですよ。

 伯爵様が特に大きな白魔石を入れてくださいました。聖水を入れて魔法力を込めれば半日ほどでリバイブウォーターになるそうです。

 三日半から四日の航海ですので補充はできませんよ。イ・イ・デ・ス・ネ」

「はひぃ。了解です。気を付けます」

 でもヒーナ先生、光魔法で聖水が生成できることは知ってますが。


「伯爵様は、ガハハハと大笑いして、これでセージの無聊(ぶりょう)も和らぐだろう、とご満悦でした。

 セージ様のことですから“無聊”ってわかりますよね」

 うん、とうなずく。

 そう、あれから水筒をそのままもらったことにした僕は、無くなると水を入れてもらって飲んでいた。

 小さな白魔石で、効果はわずかだがそれでも大事に飲んでいたのだが、二日目から伯父様が聖水を入れてくれるようになって、感激した。

 思わず「伯父様大好き」て言っちゃったほどだ。

 魔法値“0”となって寝るときに、チョットだけでも飲むと翌朝の目覚めの気分がずいぶん楽だった。

 魔法値が“20”になったのもそのおかげだ。


 小さな白魔石でも、時たま魔法力を込めて活性化すると、六~七か月ほど使用できるそうだ。

 大きいともうチョット長く持つんじゃないかな。


「セージ様、そろそろ出航ですから、見学がてらパパさんを迎えに行きましょう」

「う……はい」

「うん、でいいですよ、アハハハハ…」


「こんにちは」

 ほとんどのお客様が降りたって聞いたけど、冒険者風の三人は残っていた。多分マリオンまで行くんだろう。

 見かけたことのない二家族にも挨拶をした。うん、挨拶は大切だ。

 テロの後だから、身元確認をシッカリして、以前に利用したお客様しか乗せていないそうだ。


 厳戒態勢だからか商船や客船用の港の外を軽量軍艦が進んでいく。巡回でもしてそうだ。


  ◇ ◇ ◇


 三時前にヒーナ先生と一緒に甲板に出た。

 エルドリッジ市とノーフォーク湾を最後に見たかったからもある……が。

 ヒーナ先生との勉強、今日は光魔法を教えてもらった。実践版としての光魔法の講義はすごくためになった。

「こんなこと、五才のセージ様に教えるとは思ってもみませんでした」との、何とも返答に困るコメント付きだったが。

「勉強になります」

「そう、それがおかしいのよ。まったくもう。でも自慢の生徒です」

 微妙な関係になってしまったヒーナ先生との距離をチョットだけ改善できたかな?


「おとなしくしてもらおうか」

 突然、お客様の家族にナイフを突きつけられ、つかまってしまった。


『この船は我々ホンタース軍が占拠した。おとなしくするように』

 甲板と船内用の拡声器からアナウンスが響く。

 艦橋には三人組の冒険者に乗り込んで、占拠したようだ。

 パパと船長と操舵手に船員一人が拘束されている。


「抵抗するものはその場で切り捨てる」

 ママとモルガ、そのほかに乗客の家族――夫婦に子供二人――が拘束される。

 パパ、ママ、モルガ、ヒーナ、船長、乗客、船員などがエレメントデフレクターを着けられる。

 全員に着けないところを見ると、数が足りないようだ。

 パパ、ママ、モルガ、ヒーナ、船長、乗客は縛り上げられていてほとんどが艦橋の前に集められている。

 ちなみに僕も腕ごとグルグル巻きに縛られ、パパとママと一緒に艦橋の中だ。


 テロリストの一名が超小型の近距離電話(マジカルフォン)を艦橋に持ってきて、連絡を取っている。

 小型のマジカルフォンでも机程を占領する程度のサイズだ。それがリュックで背負えるサイズだ。

 多分五分の一から三分の一程度のサイズだ。

 かなりの驚きだ。

「船を湾の西側に沿って進めろー」

 拡声器で指示するも船員はモタモタといつもの動きが無い。

「サッサとやれ!」

 艦橋からパパを連れ出し、ナイフを突きつけての脅迫だ。

 肉声だからそれほど届かなくとも、見れば意味がわかる。

 仕方なさそうだが、先ほどより船員の動きが良くなる。

 満足したように艦橋の中に戻ってくる。


 テロリストはどう見ても五人だ。

 厳戒態勢の中、乗り込めたのはこれだけだってことだ。

 一人が操舵手を脅し、何やら場所を伝えている。

 二人がパパや僕たちを脅している。

 二人が艦橋前の人質を監視しながら、甲板での船員の動きに気を配っている。さすがに五人じゃ船は動かせない。

「ねえ、何処に行くの」

 できるだけ無邪気に聞いてみた。

「ははは、聞きたいか?」

「うん」

「仲間を拾って遠くに行くんだよ」

 ほう、時間が無いってことか。

 しかたがない。

 コトコト開いている艦橋の出入り口に移動する。

「動くな!」

「だって、見えないだもん」

「それ以上動くなよ。人質って理解してるかボクちゃん」

 貴族のガキは本当にお気楽なもんだ。って侮蔑の視線を投げつけてくるが、特に何もされない。

 貴族じゃないんだけど……。

 さてやるか。

「ぎゃーーー!」

「「「どうした」」」「「なんだ」」

 僕の突然の悲鳴に、テロリスト全員が駆けつけてきた。


 縄から出た両手に全魔法力を込めた。

<ドリームランド><タービリオン>


 かすかな霧と一緒にグレーの魔素が、つむじ風に乗って周囲を飛び回る。

 もちろん艦橋の入り口だから、つむじ風が綺麗に旋回するわけではないが、拡散が目的だから問題はない。

 そしてドリームランドの方に魔法力をたくさん込めたので効果も問題はない……だろう。

 気持ち悪。自分の魔法には抵抗力が有るんじゃなかったっけ……? 眠い……、グーーー…。


  ◇ ◇ ◇


「おい。セージ、起きろ。大丈夫か」

「…うん。(オエッ)…う、うん。大丈夫みたい」

「そうか、よくやった」

「セージよくやりました」

 エレメントデフレクターを着けたままのパパに起こされ、ママにも笑顔で褒められた。

 そしてヒーナに差し出される水筒をゴクルと飲む。

 眠っているテロリストは縛り上げられている。

「セージ様、お城でテロリストを眠らせたのはこれですね」

 ヒーナが笑ってるけど、笑ってない。コワッ。

「た、たぶん、そうだと思うけど」

「あれだけハッキリと複合魔法を放っておきながら、まだとぼけますか」

「ヒーナ、そのくらいにしておけ。

 船長、残党狩りに行くぞ!」

「了解です。

 総員戦闘配備ー!

 流水圧縮推進(ウォータージェット)の出力を上げろ、賊を逃がすな」

 甲板に船長の声が響く。


  ◇ ◇ ◇


「停船しろ。さもなくば魔導砲で船を撃つ!」

 操舵手が聞いた場所に駆けつけると、連絡が付かなくなったと判断したのか、逃げ出す漁船がいた。

「ってー!」

 ドーン。……バーーン。

 魔導砲の砲撃で漁船の前の海に水柱が上がる。

「ってー!」

 ドーン。……ドバーン。

 二度目の砲撃で漁船が停止した。


 リエッタとロンダにテロリストの乗った漁船に魔導砲を突きつけたままずいぶん経っている。

 リエッタの黒魔法を考えるとエレメントデフレクターを着けたまま接触をするわけにはいかない。脅しているが、膠着状態だ。


 ようやくマジカルフォンで呼んだ戦艦が到着して、兵士が漁船に乗り込んで拘束する。


 調査の結果、テロリストの乗客の夫婦と三人の冒険者はいざという時のために最初から乗り込んでいた。

 冒険者の方は身分の詐称はなかったが、夫婦の方は変装に個人情報を偽装していた。


  ◇ ◇ ◇


「セージスタ・ノルンバック、よくやった。

 ベッケンハイム・ノルンバック議員、ご母堂のルージュターナ・ノルンバックも自慢の息子であろう」

「ハッ、オケアノス様の恩恵のたまものと思っております」

「もったいなきお言葉、ありがとうございます」

「セージスタ、お前のおかげで、賊を全て捉えることができた。

 何か欲しいものはあるか。なんでもいいぞ」

 謁見の間で、パパとママに付き添われている。

 要はセレモニーだ。

 謁見の前に、欲しいものを考えておけって言われても、いっぱい貰っちゃったし、なにも思いつかなかった。

「あのー…、あっ、時空魔法や光魔法などの高レベルの魔法陣が描かれた魔法書が欲しいです」

 伯父様が、またか、といった表情だ。

「わかった。いろいろな魔法書を手配しておぬしに届けよう。

 そのように手配せよ。

 それとこれを下賜する」


 もらったのは、ミスリル硬鋼という強固な合金でできた剣、否、日本刀の小太刀だ。

 謁見の間に来る前にサイズを測られ、最初はきらびやかな短剣を勧められたけど、できれば冒険者が使う頑丈なものがいいという僕の要望を受け入れてもらった結果だ。

 フォアノルン伯爵の紋章の入った小太刀は実戦用の頑丈なものだが、それでも綺麗だった。

 僕にはチョット大きいが、将来サブウエポンとして使えるようにとのことだった。

 恭しくその小太刀を受け取った。


 それともう二泊することになった。

 喜んだのは、あの人だった。……ボヨーーン。まあ、僕も喜んだけど。


 暴走したエルガさんは翌日の帰宅時にいかがわしそうな機材を持ち帰り、

「セージ君、これを着けてみましょう」

 の笑顔に、セージが引きつり、

「エルガさん!」

 伯母様の一喝に、今度はエルガの顔が引きつった。


 ちなみに図書館通いも再開しました。


  ◇ ◇ ◇


 その他にも褒賞品があって、出発する日、七月三日の黄曜日の朝に届いた。


 魔法本などが一〇冊と、

 ―― 魔法陣総覧Ⅰ(火・水)

 ―― 魔法陣総覧Ⅱ(土・風)

 ―― 魔法陣総覧Ⅲ(光・闇)

 ―― 魔法陣総覧Ⅳ(その他)

 ―― 魔素の特性と可能性(上・下)

 ―― 魔法歴史辞典

 ―― 魔法大系

 ―― 魔電装置マジカルボルテックス基礎(全三巻)


 それと緑色の綺麗な魔宝石の付いたシンプルなネックレスだ。

 本当は魔法書や魔電装置(マジカルボルテックス)の本が三〇冊になる予定が揃わなかったので、魔法書が二〇冊が魔宝石――魔法効果を高める純度の高い魔石――と、薬草などの本が五冊となった。

 マジカルボルテックスは本としては体系だったものは、ほとんど出版されていないそうだ。


 ちなみに魔法陣総覧を入れたのは、設計図をコピーしてたら、六五○枚ほどある魔法回路――生活魔法にドリームワールド、作業用も必要だから実質コピーできたのは六二〇枚程度――が足らなくなってしまった。

 結果、魔法陣総覧に乗っていてしばらく使いそうもないものを除外して、門外不出の魔法陣を保存している。

 まあ、ぶっちゃけレベル8前後までの設計図を保存してるんだからそうなるか。


 魔宝石のネックレスは常時身につけられるようにと、極細の日色鋼糸をよりあわせた紐で、魔法力を時たま流していると、まず切れることはないそうだ。

 小太刀と一緒に、宝石の台座にもフォアノルン伯爵の女神の紋章が小さいながらも彫られている。


 魔宝石はものによるが、魔法力の節約や魔法効果の増大、魔法制御補助、魔法成長促進や魔法耐性の効果がある。

 もらった魔宝石は魔法効果の増大と魔法成長促進の効果があるそうだ。

 指輪じゃないのは僕の指に合うものがなかったからで、将来魔宝石は指輪にしてもいいぞ、と伯父様の許可付きだ。


 何かもらい過ぎのような気がするし、ママなの指輪の魔宝石より高価――想像だが――なのも、気が引けてしまう。


 褒賞品の中には小太刀の手入れ用品もあった。

 なんでも魔獣を切った後には、血をぬぐうのは当然で、その後にセーム皮で綺麗に拭きとらないと脂が残って切れ味が悪くなる。

 それにミスリル硬鋼といえども手入れを怠ると錆びるそうだ。

 いくら切れ味優れた日本刀でも、脂であっという間に切れなくなったし、身から出た錆という諺は、手入れ不足で刀に出た錆のことだ。

 ミスリル硬鋼の小太刀は、魔法力を流すとある程度の血糊や脂は振り払えるから、戦闘中に必ず魔法力を流し続けるのが常識だそうだ。

 手入れも魔法力を流しながらセーム皮で丁寧に拭けばいいそうだから、日本刀より手入れはラクチンのはずだ。日本刀なんて手入れをしたことはないけど。

 魔法力を流すと銀の小太刀がかすかに青白い光を帯びて綺麗だ。まあ、看破が無いと見えない光りだけど。

 コシコシとセーム皮でこすって、ご満悦だった。

 振ってみたけど、重くてフラフラしちゃうんだよね。情けない。


 伯父様の伝言“下賜された刀剣には銘を付けるのが習わしだから考えろ”で、ただの見た目から“銀蒼輝ぎんそうき”と名付けて、伯父様に届けた。なんかネーニングって難しいね。

 それと下賜品は身につけるのが礼儀だが、僕には大きすぎる。

 常時身につけられるネックレスが届けられたのも、銀蒼輝の代用品として身につけておけってことだそうだ。


 パパは別に交渉して、リエッタ達が持っていた携帯用の近距離電話(マジカルフォン)――日本人したら笑っちゃう大きさだが――を手に入れて喜んでいた。


 何気ない会話――特に秘密ではないようだ――で聞こえてきたことによれば、裏で操っていたのはギランダー帝国で間違いはなさそうだ。

 それと襲撃は僕たち家族の訪問を狙ってのことだったようだ。


 時空電話(ディスタンスフォン)にこだわったのは、ギランダー帝国にホンタース様が救援を乞うことで、領有権をギランダー帝国が握ることにあった。

 失敗しても一度正式な通達が届けば政治的にも、戦略的にも名目として役に立つ。

 あくまでも想像だが、ノーフォーク湾の外にギランダー帝国の軍艦が待機してた可能性もあったそうだ。


  ◇ ◇ ◇


 七月三日のお昼過ぎにエルドリッジ港を出航して三日目、七月六日黒曜日の朝にオーラン港が遥か遠くに見えた。


 記憶を思い出してから初めて見る故郷。


「何もかも(みな)懐かしい」


 うん。言ってみたかったセリフだが、あまり感慨が無いな。


 オーラン港を出て丁度一か月、ニ四日目の帰還、接岸したのはお昼をチョット回っていた。


  ◇ ◇ ◇


 伯父さんの図書館に通ってから、毎日の日課になったのが魔法陣生成だ。

 作成できるのは魔法回路のレベル3の制約から、魔法レベル3までの魔法陣で、まずは風魔法から始めて、順に魔法陣をせっせと作成した。

 光と水の合成魔法で“ホーリーウォーター”という聖水生成の合成魔法がある。試しにヒーナ先生に頼んだでみたら、仕方がないですねー、と船上でも聖水を水筒に入れてくれた。

 出航前の聖水が無いって言ってのは誰でしたっけ。……お世話になり、ありがとうございました。

 魔法量が増えたこともあって、オーラン港に到着した時には一〇〇個ほどの魔法陣が出来上がっていた。

 作っていると、知らないうちに気合が入ってしまって、止まらなくなる自分がいた。

 自分自身で頑張り過ぎだろうと、ちょっとビックリ。


 レベル2や3の複合魔法陣もあるが、合成魔法の魔法陣は無属性魔素を土台にする魔法経路はともかくも、魔法陣核・魔法陣ともに作成が難しく、今は練習中といったところだ。


 合成魔法は右手と左手に別魔法を発動、合成させることも練習しているが、単独属性魔法をキッチリと身につけることが基本と本に書かれているので、現在はその練習中だ。


  ◇ ◇ ◇


 目覚めた初日と翌日に見たっきりの個人情報の詳細は、いまだに見られていないが、ここまでくれば今更感があって、もう見なくてもいいかと思っているセージだった。


 個人情報画面のダブルクリックによる詳細表示は不定期で“女神の気まぐれ”といわれている。

 情報に頼る(ダブルクリックする)人ほど再表示期間が延びるといわれていて、一度表示するとると最低でも二週間(一二日間)は表示されない。。

 毎日触っていたセージが、そのことを知るのはかなり後になってからだ。


今回は二話同時にアップしました。

お楽しみいただけると幸いです。

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