22. エルドリッジの戦後処理
申し訳ありません。
話数を間違えて上げてしまいました。
22話上げなおしました。
今後このようなことが無いように気を付けます。
ご指摘ありがとうございます。
セージたちは城に戻って、柔らかなベッドで眠りについた。
テロリストの捜査が行われていたが、どこに隠れたのか杳として知れなかった。
城の中も厳戒状態でピリピリしている。
近衛兵の巡回頻度は上がり、何度も罠の探査もしている。
テロリスト襲撃の翌朝、魔法学院の先生に、魔導機器ならば錬金魔法師だろうと、城に錬金魔法師や付与魔法師などが呼ばれた。
「エレメントデフレクターって名前だって言ってました。
それで魔法力を注ぐと、魔素や魔法力が無くなっちゃうの」
セージは聞いたこと、そして見たことを伝えた。
エレメントデフレクターは、効果も体内や周辺の魔素を追い出すだけだった。そうはいっても体内魔素が無くなれば必然的に魔法力も低下する。
保持する魔法量が枯渇状態となって装着者が魔法を使えなくなってしまう。
魔法や魔素の塊などの一瞬の物には効果が薄いようだということも判明した。
逃亡中にドリームランドの魔法を受けた近衛兵は眠ってしまったのはそのためのようだ。
錬金魔素をある程度レジストしていたが、それは多少強めに魔法力を込めることで対応できるものだった。
錬金魔法で固定されていたエレメントデフレクターは、昼には簡単に外れた。
だが、アルー伯母様とロナーさんに着けられた特別製のエレメントデフレクターは外せないし、二人とも眠ったままだ。
「セージ、他に何か知っていることはありませんか」
「眠る魔法を見たり聞いちゃったりしていませんか」
ママとヒーナに質問された。
他にはパパと伯父様、マーダ伯母様もいる。
魔法のことを聞かれるかと思って予想はしてたけど違った。もっと大雑把な質問が来た。
「うん、ドリームランドっていう魔法を見たよ」
「そんな魔法名なんですね。それでは何か特殊なこと、いいえ、何でもいいですから覚えていることを教えてもらえませんか」
「えっ、ドリームランドって普通の魔法じゃないの?」
「闇魔法は得意じゃありませんので詳しくありませんが、聞いたことがない魔法です。
ヒーナは存知ている魔法ですか?」
「いいえ、私も初めて聞きました。まあ、闇魔法はあまり出回っていませんから闇魔法師にとってはメジャーな魔法かもしれませんが」
ママが他の人に顔を向けるも、
「私は存じません」と、マーダ伯母様。
「お前たちが知らなければ、俺ら二人が知るわけもないだろう」と、パパ、で、頷く伯父様。
「戦闘中には、魔法名をわざわざ変更して相手を混乱させることも行われますが、エレメントデフレクターを対処されていた魔法師たちの話からすると個人魔法ではないでしょうか」
「あのー、魔法がわかればいいの」
「ええ、そうです。セージは何か知っているのですか」
魔法を問い詰められた時のためにと、用意していたことが役に立ちそうだ。
「うん、これねドリームランド」『ドリームランド(偽)開示』
目の前に偽装パネルに転写した魔法陣を表示させる。
そう、ぼやけた複写魔法陣を、チョット見やすく修正を入れたもので、サイズも一五センチメルに縮めたものだ。
「こ、これは」
「リエッタさんがみんなに魔法を掛けてたら、魔法陣が見えたからコピーしたの。サイズはこのくらい」
両手を軽く広げ、ドリームランドの魔法陣のサイズ、三四センチメルを示す。
「セージ様の非常識がここまでだとは…」
ヒーナが目を真ん丸にして口を押え、ママとマーダ伯母様も目を見張って驚愕している。
パパと伯父様はみんなが驚いていることに、驚いている。
「そんなにすごいことなのか」
「超一流の魔法師は魔法陣を一瞬で読み解くと言われていますが、それでも複写など不可能です。
使用中の魔法陣が誰でも簡単に複写できるのでしたら、誰でもが超一流の魔法使いです」
不思議そうなパパの問いに、ママが真顔で答える。
「おお、そりゃそうだ」
納得するパパに伯父様が僕を見る。かなり驚いた顔だ。
「でも、リエッタさん、随分丁寧に、それも魔法陣を出しっぱなしにして、みんなに順番に魔法を掛けてたよ」
「そうだとしても、チョット…」
「そうです。セージいいですか」
「はい」
「そのようなことができることは誰にも言ってはいけません。よろしいですね」
「はい」
「皆さんも、秘密厳守をお願いします」
ママの厳粛な顔に、全員がうなずいた。
その後、ヒーナが中心になっての質疑応答、
「魔法陣のサイズはどのくらいですか」
「三四センチメルです」
「魔法陣核の大きさと色は」
「三.六センチメルです。色は濃いグレーです」
「それにしても綺麗に、まるで設計図のように写されていますね」
えっ……、タラリ。
などが続いて、ヒーナが手書きで魔法陣を写し取った。
◇ ◇ ◇
その魔法陣の写しを対策チームに持ち込んだら、深夜になったけど、アルー伯母様とロナーさんのエレメントデフレクターが外れた。
アルー伯母様とロナーさんが目を覚ましたのはつい先ほどだ。
それを朝起こしに来たヒーナに教えてもらった。
なんでも、眠っている二人の体内から発生する微量の魔素をくみ上げて、特別製のエレメントデフレクターには魔法の永続効果があったそうだ。
微量に体内に取り込む魔素がエレメントデフレクターに流れ込んでいた。
それを目覚めたアルー伯母様とロナーさんが、周囲の人と協力して押さえ込み、エレメントデフレクターの残留魔素が少なくなったところで、錬金魔法師が格闘の末、外した。
「セージ、このとおりだ。感謝する」
食事のテーブルに着くと、立ち上がった伯父様に深々と頭を下げられてしまった。
「本当にありがとうございました」「ありがとう」
アルー伯母様とロナーさんにも立ち上がって深々と。
「えっ、たまたま魔法陣が見えちゃっただけですから」
「いや、聞くと、テロリスト三人を倒したのもセージで、逃げる時に遭遇したテロリストに対抗したのもセージだっていうじゃないか」
「え、えー、そうです…ね」
「兄上、その辺で」
パパの助け舟、僕を見て、伯父様に目配せをする。
「ああ、そうだな」
どうも居心地が悪い。
誰もが微妙な視線を僕にチラリ、チラリと向けてくるからだ。
質問がゴマンとあるんだろうな。胃が痛くなってきそうだ。
せっかくの美味しい食事なんだけど……。
食事を終え、お茶を喫している。
「セージは魔法が好きか」
キター。伯父様の問いかけだ。
「はい、勉強していて楽しいです」
「褒美に魔法の本を好きなだけやろう。それとも何か欲しいものはあるか」
「えっ……」
一瞬質問じゃないの? となって、パパとママを見るとうなずいてくれた。
ああ、ご褒美か。納得。
「はい。本が欲しいです。全部読みたいです」
「そうか、それじゃあ、我が家の図書室にある魔法書を好きなだけ持っていけ、ただし、家宝とされている先祖代々伝わる本があるからそれだけはやるわけにはいかん。だが読むだけは自由だ」
「お義兄様、セージは人並み以上に本が好きなようで、持っていっていいとおっしゃると全て持っていきますよ。教育もあるので困ります」
ママが暗に制限を持たせてはと伝える。
「そうか、それじゃあ、一〇冊までとするか、それとは別に小説なんかをプレゼントしよう。セージもそれでいいか」
「はい、ありがとうございます」
「セージに図書室のすべての鍵を渡して、案内をしてやってくれるか」
「はい、かしこまりました」
「あと取りやすいように台とかも用意してやってくれ」
「それでしたら、図書室に担当の者を向け、魔法の書をまとめておきます」
「おお、それがいいな」
伯父様が執事に申しつける。
「セージもそれでいいか」
「はい、伯父様。それで僕一人で魔法書を読んでいいですか」
伯父様がナゼだ、といぶかしむ。
「セージは読むのが非常に速いのです。わたくしの数倍の速度で本を読みます。ただ、人に見られると緊張するようで、一人で読みたいのでしょう」
「そんなスキルもあるのか」
「いえ、まだ芽生えかけなようで、何のスキルかわかりません」
「わかった。セージがこの城にいる間は、図書館内に魔法書をまとめて置いておくから、一人で好きに読んで、好きに選べ。最後に本に間違いがないか図書館の者に言えばよい」
「お義兄様、セージにはヒーナという家庭教師がおります」
ママが魔法の独学をやめてほしいことを告げる。
「一度了解したことを先ほど訂正したばかりで、そう何度も訂正もできまい。
セージ一人で思う存分読んで選べばよい」
「ありがとうございます」
「セージ、わかっているとは思いますが、図書室では魔法は禁止です。
それと一時間に一回は外に出て散歩をすることを約束しましょう」
「はい。あのー、デスクライトもですか」
「おお、それは構わん。ルージュ殿もそれは良いな」
「わかりました。
一時間ごとにヒーナが迎えにいってくれますか」
「かしこまりました」
ママとヒーナがチョット困ったさんだ。ごめんなさい。
◇ ◇ ◇
住居区画。図書館では護衛の衛視二人に、司書のような人がいた。
「聞いてます、セージ君ですね。こちらが魔法の研究書で、こちらが魔法辞典関係です。こちらが魔法陣が良く乗っている学習書、最後のこちらが魔法史ですね」
二つのテーブルと床に敷いた布の上に乗っている本をパッと見ると、研究書と学習書は属性ごとにまとめられている。魔法辞典は三種類で、魔法史はたくさんあって二か所を占拠している。
「ありがとうございます。魔法陣がいっぱい載っている本はどれですか」
「属性は?」
「属性に関係なく、いろいろと勉強したいんです。
あっ、それと魔法陣の基礎の本も教えてください」
司書は丁寧に教えてくれたが、
「本当に一人で読めるんですか? 読んであげなくて大丈夫なんですか?」
といぶかしそうに、そして心配そうに声をかけてきた。
「ありがとうございます。わからなくなったら聞きに行きます」
<デスクライト>
“魔法陣はこうやって作れ”
魔素の十種にはそれぞれ、通常魔素と、魔法力をためやすいもの、魔法力を流しやすいもの、魔法力を発散しやすいもの、と四つの特性に分かれる。
魔法陣核には属性魔素で魔法力をためやすものを、魔法経路には属性魔素とは限らず魔法力を流しやすいもの、魔法陣には魔法力を発散しやすいものとなる。
その他にも細かな違いや特性はあるが、区別は難しく、研究で分類されているに過ぎないと注釈にあった。
おお、納得。魔法陣を造り直さなきゃ。
“魔法陣体系(上・中・下)”
複合魔法についてはセージが知っている両手で別魔法を操る方法が初歩で、魔法陣の合成が二つ目となる。
魔法陰核も合成魔素で作成、魔法陣が厄介で、基本は合成魔素でいいが、属性魔法を直接操る文字や記号はその属性魔素で作成する必要がある。
魔法陣の意味合い、魔法文字、魔法記号の説明が書かれていて興味深い内容だった。
魔法文字や魔法記号は別名精霊文字や精霊記号ともいうことを始めって知った。
ちなみに“下巻”の最初でヒーナが迎えに来た。
この本は一応候補だ。でもこれで三冊になっちゃうんだろうな。チョと悩む。
「読書は楽しいですか」
「うん。知らないことがいっぱいで、面白い」
「訓練場にでも行きましょうか。広いそうです。それともお庭の散歩の方がいいですか」
「訓練場でいいよ」
唐突にヒーナが、
「<ファイアー>」
掌の上に火球を発生させた。
ヒーナが火球を手で押して訓練場に放つ。非常にユックリだ。
数十メル先の地面にぶつかって、ボンと爆ぜた。
「風魔法との合成いいですね。
セージ様には、もうヒーナ先生は必要なくなっちゃいましたね」
「そんなことないよ。いっぱい教えてほしいもん」
「ファイアーの魔法はヒーナの魔法陣を見ただけで覚えてしまう。ウインドの魔法はどこで覚えたのですか」
「えーと、何故かできちゃった…」
「確信して魔法を放っていましたよね。
魔法陣無しのイメージ発動だと何倍もの魔法力が掛かるって言いましたよね」
「はひ」噛んだ。
「それじゃあ、どうやって魔法が撃てるんですか。
魔法陣核と魔法回路のレベルが上がったとしてもレベル“1”ですよね。
ヒーナにはまったくわかりません」
えー、どうしよう。
本当のことを教えると、バン、と記憶喪失だし。
偽装パネルのことを伝えれば、魔法陣核や魔法回路が嘘だとわかっちゃうから、結果一緒だし。
「それに、今ヒーナが放ったファイアーより威力がありましたよね。
デスクライトのことを考えなくても、魔法全量も全然足りないんじゃないかって思っています」
「……」
「魔法陣にしたってセージ様の魔法回路に魔法陣収まりませんよね。
魔法陣核と魔法回路のレベルが“1”に上がったとしてどこで魔法陣を手に入れたんですか」
「……」
「ちゃんと構えてましたし、魔法陣無しのイメージ発動にしても、魔法陣による発動にしても、ああ、もう、なんにもわかりません」
よくおどけるヒーナが、混乱しながらも真摯な視線を向けてくる。
見ていると涙があふれてくる。
「個人情報開示」『個人情報(偽)開示』
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【セージスタ・ノルンバック】
種族:人族
性別:男
年齢:5
【基礎能力】
総合:8
体力:8
魔法:12
【魔法スキル】
魔法核:1 魔法回路:1
生活魔法:1 火魔法:0 風魔法:1 光魔法:0
【特殊スキル】
鑑定:0 看破:0 記憶強化:0
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実際は、以下の通りで、
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【基礎能力】
総合:9
体力:9/10
魔法:17/17
【魔法スキル】
魔法核:3 魔法回路:3
生活魔法:1 火魔法:1 水魔法:0 土魔法:0 風魔法:1 光魔法:0 闇魔法:1 時空魔法:1 身体魔法:0 錬金魔法:0 付与魔法:0 補助魔法:0
【特殊スキル】
鑑定:0 看破:1 情報操作:1 記憶強化:1 速読:1
【成長スキル】
基礎能力経験値2.14倍 スキル経験値2.14倍
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総合“9”、体力”10”、魔法“17”、そして火・風・闇魔法“1”となった。
“速読”を開示せず、“記憶強化”を開示したのは、本は今までヒーナに読んでもらっていたからで、自分で読まずにスキルが付くのがおかしいと思ったからだ。
ちなみに、個人情報の『秘匿』、情報を隠すことが可能になったけど、偽装パネルの方が断然使い勝手がいいからそのままだ。
ただし、念のため【成長スキル】の“基礎能力経験値2.14倍”、“スキル経験値2.14倍”は『秘匿』にした。
「僕、いっぱい練習した所為かここまでになったよ」
嘘ついてごめんなさい。
ヒーナの涙がピタリと止まった。
「え、え、えー、特殊スキルが三つも……」
じっくり、食い入るようにヒーナが覗き込んでくる。
「何ですかこのでたらめな個人情報は、本当に高等魔法学院に入学できますよ。これ!」
「そ、そうなんですか」
「まあ、総合と体力がもう少し必要ですし、魔法力も30近くが要求されます。
魔法スキルは“2”が最低一つが必要です。ですが、特殊スキルで看破ってなったら最強じゃないですか。加点されますし、それに鑑定付き。しかも記憶強化って、どれだけ規格外ですか」
本当に五才ですか、魔法とスキルも増えますよね、って呆れた呟き、聞こえてますから。
看破が“1”になったらなんとなくだけど周囲の生体反応を敏感になったような気がする。
午前中にもう一度図書室にこもり、午後には三回こもった。
今日は全部で一三冊を読み終えた。
冊数が少ないのは、魔法陣のコピーに手間取ったからだ。
身体魔法は聞いていた通り少なく全部で六つしかなかった。他の魔法も単体魔法はだが、思ったより数は少なかった。
それとは別に、身体魔法ではちょっとした面白いことが書かれていた。レベルが上がるごとに寿命が延びるそうだ。
高レベルの魔法はすべてといって良いほど複合魔法や三重魔法ばかりだ。
ただし複合魔法や三重魔法の魔法陣の数はあまりなかった。
火魔法の熱系で発生したエネルギーを錬金魔法の変性で電気に変換できる。魔電装置の基本が判明したことだ。
攻撃に使うには風(移動)魔法によるコントロールが必要で高度な三重魔法になる。
風(移動)魔素は攻撃魔法の中心になるから、魔法陣も重要だが、複合して操る魔法を素早く動かすイメージ力が必要になる。
魔法陣をあさった成果だ。
異空間生成は時空魔法のレベル“4”からだから、もっとレベルを上げないと使用できない。テレポートなんて極めて魅力的な魔法もあるがそれはレベル“7”からだ。“からだ”となるのはレベルを上げると容量や距離が増えるから、レベルはいくらでも上げたい。ガッカリ。
変わったところだと、ヒーナ先生の授業でサラリと聞いた、その他の無属性魔素を使用した魔法も見つけた。
魔法がある程度使用できれば発動可能なのだが、魔法力を使う割に効果が薄いもので、対物シールドや対魔法シールド、複合シールド、写真撮影など興味深いものがあった。
錬金魔法にも興味深いものが多い、レベル“3”に録音、撮影、印刷があり、レベル“4”になると精密撮影に精密印刷となる。写真のように見た目を写し取る魔法だ。動画も撮れないかな。
探せば面白い魔法がまだまだあるかもしれない。
まだ設計図だから、魔法は撃てないけど楽しみが増えた。
闇魔法陣は隠されているのか数がメチャクチャ少なかった。
ネーミングは発表したもん勝ちのようで、何処から付けたんだと思うようなものもあった。
魔法陣の作成方法も読んで間違いも発見した。
魔法陣核から魔法陣へつなげる魔法経路は、魔法力が流れやすい無属性魔素を使用する。更に作成時に魔法力を流れやすいイメージも込めながら生成するんだそうだ。
その他の箇所はあまり間違いはないが、生成時に魔法の発動時のイメージを持って生成するとより強力で効率の良い魔法陣ができるそうだ、さっそく今夜から魔法陣を作成しなくっちゃ。
◇ ◇ ◇
夕食で伯父様から報告があった。
捕まえたテロリストからの情報は少なかったが、言葉のなまりがギランダー帝国の者がいたことと、エレメントデフレクターの新技術などからも、今回のテロリストはギランダー帝国が関係しているんじゃないかってことだった。
ギランダー帝国は外航貿易国家ヴェネチアンと同じく、バルハ大陸にある。
小国が多い中、ヴェネチアンは大きな国の方だが、ギランダー帝国は大国で魔電装置の本当の先進国だ。
時空電話にこだわったのもギランダー帝国に何らかの情報を流すためじゃないかってことだ。
ホンタースやダラケートの亡命先もギランダー帝国ってことだろう。
「ルージュ殿とヒーナに着けられてた物だ、研究用に持っていけ」
パパは伯父様からエレメントデフレクターを渡された。
◇ ◇ ◇
夕食後に個人情報をママとヒーナに見せた。ちなみにパパもいるがお酒を飲んで寛いでいて、見なくていいそうだ。
「本当にすごいですよね。一気に三つのスキルですから」
「本当にオケアノス様の導きなのでしょうか」
「さあ、それはわかりません」
二人が盛り上がりながらも、不安そうだったことは言うまでもない。
「ファイアーとウインドの魔法陣は持っていないんですよね」
「はい」
「奥様、セージ様の魔法回路ではファイアーやウインドが入らなかったのはご存知ですよね。
私がファイアーの魔法陣を見せた時ですが」
「そうですけど、今はレベルが“1”ですから」
「それは戦闘があってからです。いつ魔法陣を複写できましたか?」
「誰かのを見た……ということは考えられませんね。
覚えて自分で作成したとか?」
「えっ、魔法陣って自分で造れるの?」
「ええ、造れますよ」
ヒーナが二コリと僕を見てほほ笑む。
そういえば設計図から作っただけで、ゼロから魔法陣を作成するって発想が無かった。
まあ、今の知識じゃ無理だけど。
「セージ様ならありえそうですが、ウインドは…それもどこかで見たんでしょうか?。
もう図書室でいっぱい見ちゃってますが」
「そうなんですかね?」
「真実はセージ様しか知りませんが、無い、知らない、ばっかりですから。
知らないうちにスキルのとんでも、ええ、以前からですが、それ以上にとんでもないものになっていますし」
「そこは喜んであげましょう」
「きっと、知らないうちにわんさかと魔法陣を持ってますよ。ねっ」
「……それだと嬉しいのかな?」
「それに夜中に海魔獣が襲ってきたっていう騒動はヤッパリセージ様の魔法だったのでは?」
「そ、それは知らないというか、覚えていないというか…」
「テロリストと対した時、どうして魔法を放とうと、いえ、放てると思ったのですか」
「魔法ができるのが僕だけだったから、必死だった。
なんかできるような気がしたからだよ」
「あんまりセージを問い詰めるな、オケアノス様の導きでいいだろう」
パパは気楽にそう言って、僕をかばってくれた。
「これだけ一度にスキルが開花したんですから、オケアノス様の導きで、新たなスキルがこれからも開花していきますよ」
「そうですね」
魂魄管理者の導きなんですけど。
ちなみに、テロリスト三名を倒したのも夢中で何をやったか覚えていない、としている。
部屋に籠った就寝前、魔法の練習もあったが、まずはレベル2以下の魔法陣の作成を開始した。