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次元災害で異世界へ  作者: 真草康
エルドリッジ攻防編
22/181

21. エルドリッジ城攻防戦 2


「第一騎士団は捕虜と死体を海軍駐留所に運んでから、城に通信を入れ、できるだけ状況を確認、そして俺に知らせに来い。

 他の者は俺と一緒に城に戻る。状況によっては城の前の広場に陣を張る。

 いいか、急ぐぞ!」

 アナウンスを聞いた伯父様は、直ぐに指示を変更する。

「おお!」


 黒霧の妨害もあって何かと手間取ってしまい、城の前に到着したのは、アナウンスがあって二十分ほどかかってしまった。


 城は騒然としていて、外に逃げ出す官吏が何人もいる。

 伯父様とパパは何人かをつかまえて状況確認をするも、誰もが不確かな状況しか認識していなかった。

 (らち)が明かないので、城に踏み込んで執務室に向かう。

 すると執務室などに行く階段下で近衛兵の隊長に止められた。


「アルーボリア奥方様とロナルディア様などを人質に、テロリストが執務室にこもっています」

「人質とテロリストの人数や詳細はどうなっている」

「詳細は不明です。裏の階段と居住ビルからの通路には罠が仕掛けられていて、近づけておりません」

「その他の情報は、邸内の不明者は」

「手引き者はどうやら家庭教師のリエッタのようです。

 邸内の調査をしておりますが、ナーダハルナ奥方様とお子様たち、ノルンバック家の方たちが確認できておりません」

 伯父様とパパが渋い顔をする。

「交渉は」

「なにも進んでおりません」

「兄上」

「多分俺が帰ってくるのを待ってるんだろうな」

「どうする、時間を稼ぐか、それとも…」

「まずは話し合ってみるか」

「邸内の確認が終わってからの方がいいんじゃないか」

「これも状況把握の一環だ」


 伯父様と近衛兵の隊長に部下二名で階段を上がる。パパは階段下で待機だ。


「おい、誰が責任者だ」

(わたくし)リエットランガ・ダラケートです。フォアノルン伯爵」

「ほう、いつからダラケートなんてろくでもない苗字になったんだ、リエットランガ・シストリーム」

「母方の姓ですから。母は心労で四年前から臥せっておりまして、現在はダラケートを名乗ろうかと思っております」

「ほう、詐称をしていたと」

「いいえ、ただの使い分け、リソースの活用です。それにまだシストリームですから」

「ケツを捲って逃亡したダラケートも亡くなってたりするのか」

「戦略的撤退だと本人は息巻いております。年齢的な老いはありますが、いたって元気ですね」

「大馬鹿者のホンタースはどうしてる」

「少々気落ちしていますが元気だと思います」

「それで何が望みだ」

「母が望んだのは安寧ですが、それはもはや叶わないでしょう。

 まずは空魔電通話機のアクセスコードですかね」

「オケアノス海の周辺諸国にホンタース国の宣言でもするのか」

「そのアイデアいいですね。アクセスコードを教えていただいたら早速連絡してみます」

「平和な世界に混乱を招くのか。母の思いに反しないのか」

「母はホンタース様の乳母でした。ですからホンタース様の希望をかなえたいというのもまた母の希望です」

「それで世界を乱すだと」

「いいえ。世界はこれから乱れます。十年ほど前から魔素や魔獣の活性化が起きているのは周知の事実です」

「大災厄予兆説か」

「母はチョットした特殊能力がありまして、今回の騒動で…いいえ、母と私の希望で動いています。

 それに強い国が必要ですし。

 それではアクセスコードを教えていただけますか」

「ガハハハ……、変わった脅迫だな。それでみんなは無事か」

「こちらは真剣ですよ。それと現在は熟睡中ですね。暴れられても困りますから」

「大切にしておけよ。傷でもつこうものなら許さんからな」

「怖いですね。脅迫ですか? それよりアクセスコードです」

「人質全員の無事の確認が先だ」

「一〇分です。それ以上待ちません。それと待つための代償も払っていただきます」


 対話が終わって伯父様が階下に降りて兵士に指図する。と、火魔法の花火が上がった。


「現在城壁は魔獣に囲まれています。これからホンタース軍が迎撃します。

 ホンタース国の国民は忠誠を誓い、軍への入隊を命じます。

 拒否権はありません」


「くそ、なんてことを言いやがる」

「狙いは混乱でしょう」

「ああ、そうだな。

 テロリストの襲撃に備えろ。脱出もあるから包囲は緩めるんじゃねーぞ」


  ◇ ◇ ◇


「どうやって逃げました」

「かいもくわかりません」

「撤収準備をします。通話装置や拡声器はすべて破壊してください」

 リエッタも焦っていたが、どうやらフォアノルンは人質の半分が脱出したことは把握してなさそうだ。それとも単なる時間稼ぎか、陽動か?

 どちらにしても時間の問題だろう。

 そうなったら圧のかかり方も違うし、脱出がより困難になってしまう。


「奥様、ロナーさん、申し訳ありません。そしておやすみなさい」

 リエッタは二人に謝罪すると、眠っている二人に特別製なのか太目のエレメントデフレクターを首に巻き、<ドリームランド>と相当量の魔法力とを一緒に込める。


 管理官や近衛兵のエレメントデフレクターを回収してから、リエッタとロンダは自前のリバイブキャンディーを口に放り込んで、リバイブウォーターを飲んだ。

「書類なども適当に火を付けましょう」

「はい」

 人質は廊下や書斎に散らばせて、寝かせている。

 テロリストが執務室のあちらこちらに火を放つ。

 ロンダがテロリスト全員が装着したエレメントデフレクター――実際はダークエレメントデフレクターで闇魔素に特化して効果を排除するもの――に魔法力を流す。

「しばらく魔法を使えませんが、闇魔法を防御します。ほかの魔法もある程度は防げますが効果は弱いので注意して行動するように」

 そしてロンダにはリエッタが「<闇魔法レジスト>」と魔法を掛ける。

「ロンダ、やってください」

 ロンダがタブレットを触ると、城内の罠が全て稼働して、振動が伝わってくる。

「それでは幻惑球(ファントムボム)を投げつけてください。遅れないように」

 バリケードを崩し、巨大な幻惑球(ファントムボム)をバッグからいくつも取り出して放り投げる。エルドリッジ軍が黒玉と呼んでいたものだ。

 そして全員で駆け出す。

 テロリストは走りながらも小さな幻惑球を投げつける。

 室内では風魔法で黒霧をはじいても、室内を回って自分のところに帰ってくる黒霧を避けることは難しい。

 二つの意味で混乱する。

 それでも歯向かってくる兵士には肉弾戦を挑み、リエッタも直接闇魔法を見舞った。

 黒霧はダークエレメントデフレクターのおかげで、テロリストを避けていく。

 外はもはや暗い。

 テロリストが城から逃げ出し、闇の中に溶け込んでいった。


  ◇ ◇ ◇


「第七と第八小隊は賊を追え。近衛隊の五人ほどは一緒に執務室に、あとは城内の確認だ。

 ベッケン行くぞ」

「おお」

 伯父様とパパ一行が、執務室に行くと、機材は壊され、あちらこちらが焼け焦げていた。

「捕虜になった者たちを探せ。事務官を呼んで書類や機材を確認させろ」

「閣下、こちらに奥方様が」

「こちらにはご継嗣様が」

「管理官や近衛兵士もいます」

「他にはいないか」

「見あたりません」


「ベッケン済まぬ」

「兄上、何を言う。ナーダ義姉さんや子供たちだって一緒だ。見つかってないだけだろう。うまく逃げたんじゃないか」

「そう思いたいが、皆目わからん」

 アルー伯母様とロナーさんが眠りから覚めぬまま、起きだした管理官や近衛兵士の話を聞くと裏方を完全制圧してガルド、ニルナ、セージを人質にして執務室に乗り込んできた。

 手も足も出ないまま拘束されてしまって、最後は眠らされてしまった。とういうことだ。

 全員が眠らされたことは容易に想像できる。が、誰もいない。

 脱出の騒動では人質を抱えていた形跡もなかった。

 伯父様も混乱に脱出シューターのことを失念していた。起きた執務官がエレメントデフレクターで魔法が使えなかったことも脱出シューターのことが思いつかなかった要因の一つだったかもしれない。


  ◇ ◇ ◇


 柱の脱出シューターでたどり着いたのは、石造りの部屋の中。

 そこから外に出るとそこは、真っ暗な木々が少し先に見える。手前は畑だろうか。

 左右に長い城壁が見える。

「<デスクライト>」

「気持ち悪くないですか?」

「チョットだけだから大丈夫」

 リバイブウォーターを飲んでだいぶ元気になった僕はあたりを照らす。

 ガルドとニルナにはメイドが飲ませているが、二人は気持ち悪いままだ。

「こんなとこに出るんだ」

 なんとなく場所がわかったのかエルガの呟きも聞こえる。


「こちらはどこになるのでしょう」

「お城の真裏のはずです」

 お城の北側は森になっている。

 逃走を考え、見つかりにくい場所なんだろう。

「転移魔法ですか」

「六年前のクーデターの教訓からこの脱出シューターを造りました。

 膨大な魔法力を使用する転移魔法ではあまり遠くには飛べないので、ここが精いっぱいだと聞いています」

「城に戻った方がいいのでしょうか」

「夜になると居住区側の門は全て閉めてしまうので、ぐるりと歩いて表門に行くか、ここからだと北門になると思います」

「どちらが近いのですか」

「近いのは北門ですが、今回のテロによって北門は完全に閉ざされている可能性があります。表門でしょう」

「あなたたちはどちらに向かった方が良いと思いますか」

 マーダ伯母様に確認していたママは、今度は近衛兵に確認する。

「市街に賊が潜んでいますので、北門に行って入れなかったことを考えると表門の方がいいかと」


 他に異論がなかったので、前後に二名づつ近衛騎士に挟まれて、表門に向かって歩き出す。

 ニルナを抱っこして、ガルドの手を引くアルー伯母様は歩き辛そうだ。

 ニルナもそうだが、ガルドも気持ち悪さは抜けてはいない。それでもガルドはアルー伯母様の手をシッカリと握りしめて気丈にも一人で歩く。

 もう一人、ヒールを履くエルガさんも不満たらたらだった。

「マーダ奥様、私がガルド様を抱っこします」

「ニルナ様は私が」

「しばらくこのままで」

 はい、と三人のメイドが引き下がる。

「セージ様はこのヒーナが」

 ヒーナが両手を広げて迫ってくる……が。

 ガルド君に一瞬目が行ったが、僕都合のいい、いや、本当に五才。

 はーい。柔らかいは正義です。世界一です。


 歩みが遅いのはガルドの所為だけではない。

 みんなも魔法の強制枯渇に、気持ち悪さを我慢しているのはありありとわかるほど体調はよくない。

 それと草に足を取られ、木々がじゃまでと、道なき道だ。

 その上、明かりがあってもセージの灯すライト一つで、細長い一三人の一行を照らすには足りるはずがない。

 慣れないヒールで「足が痛い」の不満もあって、エルガさんは早々にヒールを脱ぎ捨て、靴下で歩いている。真っ赤なドレスのスカートを持ち上げ、たまに足をぶつけて別の不満を毒づいていた。

 ぶつけたのが小指じゃなきゃいいけど。


 捕虜の三人は、石造りの部屋の中に縛り付けて置いてきている。


 火魔法の花火が上がって、「現在城壁は魔獣に……」の不遜なアナウンスが聞こえてきた。


「セージ様、良く持ちますね」

 えっ、と思って、ああそうか、と思って、リバイブウォーターを飲む。

「気持ちも悪くならず、規格外ですがヒーナの自慢です」

「わたくしの息子ですよ」

「失礼しました」


「あそこを回れば道があると思います」

「やっとですか」

 マーダ伯母様が塀の角を指さす。

 エルガさんからはホッとため息が漏れる。


「お静かに、誰か来ます」

『消えろ』

 先行する近衛騎士の指示に、デスクライトを消す。

 みんなで茂みに潜む。


 先方も気づいたようで、立ち止まる。

 そして遠くから何かを投げつけてきた。


 一瞬迷って、<ウインド>と無言で放って、それを弾き飛ばす。

 僕を抱きしめているヒーナが驚愕しているのがわかる。


 今度は見覚えのある魔法<ドリームランド>だ。大きく広がって包んでくる。

 抱きしめるヒーナを突き飛ばして一歩前に出る。迷ってる暇はない。

<ウインド>を右手に、そして<ファイアー>を左手に発生させ、更に魔法力を込めウインドでファイアーを飛ばす。

 目の前で大きく炎が爆発する。

 思ったより威力が大きい。が、照準やタイミングが今一歩だ。

 ドリームランドの霧は全て消せずに、周囲に散る。

 近衛兵のひとりがそれを浴び、眠ってしまう。


 魔法残量は“1”か“2”程度か。

 急いで水筒のリバイブウォーターを飲んで、もう一度、今度は敵を狙って、<ウインド><ファイアー>を飛ばす。


 もう一回リバイブウォーターを飲んだら、空っぽになった。

 特にダメージを与えた印象はない。


 しばしの沈黙、にらみ合いがあって、

「散開して撤退」

 リエッタの声が響いて、テロリストが散り散りに逃げていく。


 しばらくそのまま息をひそめて隠れていた。

 テロリストの気配が無くなったような気もするが、出ていく自信がない。

 再度人の気配がした。

「誰かいるのか」

 今度は騎士団だった。


 みんなの緊張が一気に解けた。


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