19. テロ襲来
誤字訂正しました。
ご連絡ありがとうございました。
再度表側の執務ビルに戻ってきた。
現在居る書斎は、執務ビルの二階の一番奥まった場所にあって執務室の隣だ。
隣といっても執務室に移動するには廊下に出てからとなる。
防音がしっかりしているみたいで執務室からは何も聞こえない。
書斎は執務中に伯父様がくつろぐ場所で、執務室ともども堅牢に作られているそうだ。
念のためと、住居ビルとつながる渡り廊下の二つの扉はガッチリ鍵を掛けて閉めている。
エルドリッジ市の最終防衛線が執務ビルで、司令塔がその執務室だ。
書斎のみんなもそれぞれ、装備を整えて集合しているし、近衛兵二人が警備についているが、なんとなく心もとない。
武装しているマーダ伯母さんの顔は真っ青だ。かえって武装していないママの方が頼りがいがありそうだ。
ヒーナは冒険者を目指したこともあって、借りたやや大きめのショートソードを腰に下げ、それなりに様になっている。
ガルテとニルナの厳格家庭教師は魔法戦が得意なのか指輪の魔宝石にマントと魔法師のフル装備だ。ショートソードを腰に佩いて、ガルテとニルナに読書中だ。
日本人を彷彿とさせる黒い長い髪に、どこか冷たい印象がある美人で、凛々しいかったのが、すごみが増したような感じだ。
エルガさんは真っ赤なドレスにヒールと慣れないの衣装のまま、僕とのおしゃべりを禁じられて椅子に座って読書中だ。チョット不満そう。
メイドも三人ついてきていて、それぞれナイフを身につけている。
聖水に白魔石を数時間浸け、何度か魔法力を込めて作る“リバイブウォーター”とういう魔法回復薬がある。
テーブルの上の水筒に入ったものがそれだ。
薬効を聞くと体力と魔法値の回復もするが気力回復薬のようなものだそうだ。極端な回復はなく、効果は個人差がある。
真のマジックポーションは無いのか? 異世界詐欺? はたまた異世界ガッカリなのか。チョットショックだ。
聞くとリバイブウォーターを凝縮して固めたリバイブキャンディーというものがあって、それはそれなりに効果があるが、それでも回復はたかが知れているそうだ。
水筒は四本もあって無駄じゃないかと思ったが、魔法を使えるママ、伯母様、家庭教師、ヒーナ用だそうだ。
建物内は、先ほどから警備兵が駆け回っていたが、現在はずいぶん出払ったようで静かになっている。
遠くで聞こえる喧騒や、窓に映る閃光――ビルの裏側だから多少明かりが見える程度――が戦闘の継続を告げている。
五才の僕にはそもそも手伝えるようなことはない。
魔法の本を引っ張り出して魔法陣の研究をするわけにもいかず、かといって他の本を読む気にもならず、でも知識は力だよなーと思って逡巡していたら、ヒーナに捕獲され、膝の上で本を読んでもらっている。
ここでも僕の読書系のスキルは叔母さんたちには秘密? でも伝えてたよね? 何でこうなった? まっいいか。枕柔らかいし。ボヨーン。
ちなみに本は“魔法の指輪の物語”で読んだことのある“フロド王伝記”だ。
ヤッパリ本物居たんだ。
◇ ◇ ◇
市街では三カ所で戦闘が発生していた。
エルドリッジ市の常備兵は一七〇〇人程度で、近衛兵が約一〇〇人、内陸軍が一一〇〇人、海軍が五〇〇人だ。
陸軍は七つの騎士団に分かれて勤務している。ただしその内の二つの騎士団は領内にある二つの街に常駐している。
エルドリッジ市の常備兵は五つの騎士団だ。
それが各小隊に分かれて各城門の警備に市街の警邏、周辺の街と村の巡回を行っている。
各騎士団は動きやすい小隊に分かれていて、騎士小隊長の下一二~一四人の騎士に、魔法戦士が三、四人程度が小隊だ。
海軍の戦力は大型戦艦一隻、中型戦艦一隻、軽量軍艦三隻、沿岸巡回用の警備艇六隻だ。
ちなみに中型戦艦一隻はメンテナンス中だ。
それらの艦艇が、夕方に発生した海魔獣の掃討に次々と出動してしまい。
沿岸巡回用の警備艇二隻が残るだけと兵員も少ない。
海軍軍港にはもちろん海軍の警備兵が駐留していたのだが、そこに仮面の騎士団が襲ってきて爆発があり戦闘になった。
市街東側でも爆発があってエルドリッジ市に警報が発せられた。
継嗣のロナーさんとアルー伯母様が執務室に入り総指揮を執った。
伯父様とパパは、市街警邏を担当している第一騎士団の第一小隊と勤務中の近衛の一部も同行していて、総勢三三名で海軍軍港に駆けつけた。
市街では最大規模、最大戦力だ。
市街東側には第四小隊を派遣した。
海軍軍港と市街東側で黒仮面・黒マントの一団と戦闘になった。
次いで西門付近では獣人と魔法使いの一団が暴れているとの通報があり、第一二小隊を派遣された。
大型戦艦は三匹の紅ノコギリエイと戦闘を開始して、紅ノコギリエイを掃討したのだが、戦闘中に大量の紅魔クラゲや海幽霊に囲まれ湿っている。
軽量軍艦三隻や警備艇なども紅ノコギリエイやグリーダーなどの海魔獣との戦闘中に、紅魔クラゲと海幽霊に囲まれてしまっている。
大型戦艦や軽量軍艦らの出撃中の艦艇にも、襲撃の連絡と緊急帰還命令を受け取ったのだがて、流水圧縮推進の取水口が紅魔クラゲやゼリーゴーストによってふさがってしまい、帰還不能、身動きが取れない状態だ。
◇ ◇ ◇
「一人づつ取り囲んで、各個撃破だー。練習と同様三人で囲めー」
「右の仮面の二名が逃げるぞー。深追いするなー。守りを固めながら前進ー」
竜騎に乗った伯父様とパパの檄が飛ぶ。
いくらシュナイゲール・ノルン・フォアノルン伯爵の弟とはいえ他国の議員がエルドリッジ市の軍を率いて戦闘するわけにもいかないので、パパは兄のサポートとして随行、それでも副官のような立場に収まっている。
伯父様とパパの防具は頭から足までスッポリと防御魔法付与の鎖帷子を着こみ、胸・腰・手・足と軽めの甲冑を装着している。そしてその上にフォアノルン家の紋章の入ったマントを羽織っている。もちろん伯父様のマントは当主用の豪華なものだ。
腰には大きめの片手剣を下げている。
海軍駐留所の東側で一八人で敵の騎士団と戦闘中、三分の一は竜騎に乗っている。
トリケランは三本角を持つ小型でスマートな恐竜だ。気性がおとなしく、竜騎として重宝されている。
一人だけバイゴーランという瞬発力があるが、多少だが気性の荒い二本角の竜騎に乗っているものもいる。
ちなみに一緒に城を出た残りの六人は、海軍駐留所の警備兵に加わって港の防衛や周囲の警戒に当たっていて、六名は複合毒に侵され治療中だ。
「どうもつかみどころがないな」
「兄上は執務室に戻った方がいいんじゃないか」
「俺よりベッケンが戻ってくれ」
「こんな状況で戻れるわけないだろう」
「それは俺も同じだ。それにロナーがしっかりしてるからな。
それにそろそろ投げるものも無くなるだろう」
「そうだな」
「正面からくるぞ。囲めー。竜騎隊、捕縛ネット、ヨーイ」
「魔法攻撃と黒玉に気をつけろよー。魔法障壁準備ー」
指示の通り部隊が展開する。
仮面の騎士たちは魔法攻撃をしたことはないが、思い込みは禁物だ。
魔法攻撃はいつでも警戒してしかるべきだ。
突っ込んできた仮面の騎士二人が隠し持っていた、黒玉を正面に二つと左右に一つづつ投げつける。
「弾き飛ばせえー」
「おりゃー」「えーい!」
正面で魔法障壁を準備していた魔法兵が、
「ストーム!」
風魔法で正面から飛んでくる二つの黒玉を遠くへ跳ね飛ばす。
パリン。
はじけ飛んだ黒玉が割れる。
黒玉といっても混乱と睡眠と複合毒の効果に風の魔法も付与されていて、瞬く間に拡散する。
「霧に触るなー、後退ー。距離を取れー」
「投てきに気をつけろー。くそっまだ持ってやがったか」
複合毒を受けた六名の騎士は、黒霧に触って混乱もしくは眠ってしまって、複合毒に侵されて倒れた。
仮面騎士たちは魔法攻撃と黒玉を用いたヒットアンドアウェイを繰り返していた。
何人かに手傷を負わせたが決定打を出せないでいた。
魔法兵が風魔法で黒霧を吹き飛ばす。
「魔法の残量に気をつけろよ。敵はほとんど魔法を使って無いからな」
「了解。まだまだいけます」
「おお、頼んだぞ」
返事をしたのは風魔法を放った魔法兵だが、こちらは魔法兵が四人いるから心強い。
他の三人も手を上げて了解を告げている。
半硬直状態、その後も二度の小競り合いがあって、場所はずいぶん南東、漁船用の港付近に移動したが進展なし。
「そろそろ準備も良さそうだ。
竜騎隊捕縛ネット、魔法兵二人は魔法障壁を準備して前方を固めろ。残りの二人は対抗魔法の準備。
攻めるぞー」
「「「「…「おおー!」…」」」」
「俺もチマチマと性に合わなかったんだ」
パパが腰の剣をスラリと抜いて、振り上げる。
周囲の騎士たちの瞳の色もギラついている。
「竜騎隊突出しすぎるなよ。
突撃ー!」
伯父様が、そしてパパが「行くぞー!」と竜騎に脇腹をかかとで蹴る。
一団となって仮面の騎士に駆け込んでいく。
黒玉が投げつけられ、魔法障壁がそれを弾き、風魔法が吹き飛ばす。
仮面の騎士が、更に後退する。
ギャー、ウワーッ、と悲鳴が響く。
ひそかに回り込んで、味方が後方から弓矢で仮面の騎士に一斉に射かけた。
さすがに防具のため、致命傷者はいなそうだ。
「殺しても構わん。突っ込めー!」
激戦の末、二名を殺し、三名に傷を負わせ捕縛した。
味方も一名複合毒を受けてしまって応急手当中だ。
「数名逃げたようです」
「まずは負傷者を海軍駐留所に連れていけ。決して単独行動はとるな」
「お前たちは何者だ」
引き立てられた、仮面をはがされた三名を、伯父様が問い質す。
「フン、いい気になってるのも今の内だ」
「黙ってろ!」
「兄上、多分こやつら…」
「ああ、残党のようだな」
「野心だけはあった庶子で無能なホンタースの元家臣か」
「ホンタース様は無能なんかじゃない!」
「お前らがそう信じていても、市井の誰も信じてないぞ。
それにこれだけの規模」
「たぶん、ダラケートが暗躍していそうだな」
「あの、何処に行ったか、うまく逃げた元侯爵のダラケートか」
「ああ、それ以外思いつかん」
ホンタース以上の野心家だった伯爵だったダラケートが、国王の庶子で野心家のホンタースを担ぎ上げてクーデターを起こしたが、最初っから市井に見放されていた。
軍部も官吏も掌握できずに、結果二年も持たず、逃走した。
二年近く持ったのは、国王を人質にしていたからで、それを救出したのが伯父様たちだった。
下っ端などの男爵などは捕縛、投獄、処刑と悪役の末路をたどったが、ホンタースとダラケートは他国にうまく亡命したとされた。
ホンタースが亡くなったここ最近市井の噂となっている。
「兄上」
「ああ」と伯父様がうなずく。
「第一騎士団は捕虜と死体を海軍駐留所に運べ。
近衛は俺に続け、城に戻る。急げ」
伯父様、パパたちが駆け出した時に、
バーン。
城の上に火魔法の花火が上がった。
ほぼ日が暮れた空に、火魔法の花火は目立った。
「エルドリッジ市はわがホンタース軍が掌握し、ホンタース国として独立する!
元エルドリッジの兵士たちよ、抵抗は無駄です。投降しなさい」
城の拡声器によるアナウンスが流れた。