18. フォアノルン訪問
誤字訂正しました。
ご連絡ありがとうございました。
徴税官とのやり取りがほぼ完了し、主任税務官も引き上げていった。
残った下っ端の税務官が最後の整理で頑張っている。
商人との交渉はそこそこで切り上げ、あとは船長に任せた。
そして迎えに来た魔導車で伯父さん宅を訪ねた。
魔導車はワンボックスカーのような形状で詰めれば六人が乗れる。家にもあるが一番見るのがこのタイプだ。迎えに来たのは二台、荷物があるからね。
高い塀に囲まれた二階建てのお城は、お城というより、ビルのような趣だ。
天井の高さがあるから、三階建てのビルとよりチョット高いといったところだ。
左右の二つのせん塔が唯一お城らしさを醸し出している。
前面の左右に広がるビルが政務用のビルで、裏に住居用と、兵士や官吏の二つのビルがある。
「自由共和国マリオン一般議員、およびオーラン・ノルンバック船運社の社主でもあるベッケンハイム・ノルンバック様。
奥方ルージュターナ・ノルンバック様。
ご子息セージスタ・ノルンバック様、ご来駕」
大声で名前を呼ばれ、謁見の間に入る。
自由共和国マリオンは六つの小国家連合なため、正確には正装は六つあったが似していたのもあったし、その後の文化や生活の交流でそれらが統合され、現在は正装は二種類となっている。
オーランの正装はそのうちの一種類を採用していて日本の着物によく似ているが、亜熱帯なためか軽く薄い素材で、エキゾチックな柄だ。
僕とパパは家紋付きの着物に袴。ママは色褄のような、家紋の入ったあでやかな着物だ。
モルガとヒーナは「知人に会ってくるといいぞ」とパパに言われていたが、「お仕事が優先です」「セージ様の教育を任されたものとしては付いていくのは当然です」と一緒にお城に来たが、挨拶に同行するわけにはいかない。
僕たちの泊まる部屋に先に通され、荷物の整理を行っている。
迎える伯父様ことフォアノルン閣下は、その第一婦人と第二婦人。それに継嗣である長男が隣に控えている。
伯父様の衣装は、金糸のストライプの入ったフロックコートと豪華だ。
奥方様はドレープ多めのドレスで統一されている。
長男は伯父様の衣装より若干豪華さが控えめだ。
「お久しぶりです、フォアノルン閣下、アルーボリア奥方様、ナーダハルナ奥方様、ご継嗣ロナルディア様。
外航貿易国家ヴェネチアンの発展を支えるエルドリッジを収める閣下におかれましてはご機嫌麗しゅうようで何よりです。
今回は妻のルージュターナと三男のセージスタとご挨拶に伺いました」
「ノルンバック議員も息災で何よりだ。
ルージュターナ殿も長旅さぞ疲れたことだろう」
「お久しぶりでございます。フォアノルン閣下とご家族のご健勝、うれしく存じます」
「うむ。その方もな」
「セージスタ。久しぶりじゃの。覚えておるか」
「こんにちは。あのー……」
あー、なんとなくだけど思い出した。
「よいよい。初めましてとでも言おうとしたのであろう。それとも思い出したか?
その方は母親に抱っこされて離れなかったものだった。息災で何よりだ。ガハハハ…」
「は、はい」
「挨拶はこのくらいにして、別の部屋でくつろごうではないか」
名目上は外航貿易国家ヴェネチアンと自由共和国マリオンとの友情の挨拶だからおろそかにできない。それでも、謁見の間で全員と簡単な挨拶を交わし、公式訪問として書類に残ればOKのようだ。
セレモニーはあっという間に終了した。
伯父さんの自由奔放さに、ミリア姉が来たがらなかった理由がなんとなくわかったような気がした。
はぁ。
執務室を抜けて後ろの通路を通って、扉を開け、渡り通路に出る。もう一つ別のビルが見える。兵士の寄宿舎だろうか。
それとビル間に壁が築かれていて、キッチリと分けられいるのは防衛のためのあるのだろう。
再度扉を通ると住居ビルだ。
客間で着替えてから、シックな居間のような部屋に移動する。
寛いだ雰囲気でお互いを紹介する。
シュナイゲール・ノルン・フォアノルン伯爵(シュナー伯父様)は、パパのお兄様。やや武骨で豪快な顔立ち、ライトグレーの髪までがフォアノルン家の遺伝のようだ。伯父様よりパパの方がより豪快で、更に悪ガキ臭がする。
アルーボリア第一婦人(アルー伯母様)は伯父様やパパとあまり年齢は変わらなそうだ。朱色の髪が印象的で知的な顔立ちだ。
ちなみにパパは言動はともかくも、ママより少し年上のようだ。
第二婦人のナーダハルナ(ナーダ伯母様)は、第一婦人のアルー伯母様と親戚なのだろうか、よく似ている。かなり若く繊細な印象だが、金髪癖っ毛で繊細な印象が薄らいでいる。第一婦人とは仲がよさそうに見える。
継嗣で長男のロナルディアさんはアルー伯母様との子供で、伯父様の補佐をしながら都市運営の勉強中だそうだ。髪から顔立ちまで母親似で知的な印象だが、体格はがっしりしていて父親似だ。
学校から帰ってきたばかりの三男のガルドと、僕と同じ年の次女ニルナはナーダ伯母様との子供だそうだ。
あと二人の姉弟、長女のエルガさんは魔法研究所に勤め、次男のゴラーさんはヒーナも通っていたヴェネチアン高等魔法学院の学生寮に入っている。二人ともアルー伯母様との子供だ。
「ほう、セージはこの旅の最中に生活魔法を瞬く間に覚えたのか」
「感心するのはわかりますが、わたくしは少々心配です」
鷹揚に感心する伯父様に反して、アルー伯母様は心配そうに僕を見てくる。
「アルー義姉さんの心配はわからんでもないが、本人のやる気と才能がすごいんだから、見守ってるだけだ」
「そうです。無理やり魔法を開花させたわけではありませんから、正しく導いていくだけです」
「セージさん」
ナーダ伯母様が優しく声をかけてきた。
「はい」
「魔法は面白いですか」
「はい、とても」
「つらくなることはありませんか? 気持ち悪くなったことはありませんか?」
「それはヒーナ先生にも聞いた魔法力の枯渇による副作用のことですね」
「はい、そうです。
それとずいぶん難しい言葉をご存じなのですね」
「(アハハ…)…教えられた通り気を付けていますが、チョットやり過ぎちゃうのは気を付けていますけど……」
なんて答えようとしたら、後ろで控えていたヒーナから救いの手が出た。
「少々よろしいでしょうか」
「あなたは?」
「セージ様から名前が出たヒーナです。ここ数日魔法の指導をしております」
伯父様や伯母様たちが、表情で次を促す。
「セージ様は素晴らしい才能をお持ちです。
ただ、寝起きに疲れたご様子がここ最近見受けられて、無意識で魔法を発動してしまっているのではと奥様と心配しております。
それがわかったというか、疑い始めたのがこの旅の間で、奥様とご相談して正しい知識と技術を身につけていただこうとしているところです。
それで無意識の発動が収まるかはわかりませんし、疲労は慣れない魔法を使っただけなのかもしれませんし、また違ったことが原因かもしれません。
逆に良い知恵がおありなら教えていただきたいと思います」
「それなら、エルガを呼んで聞くのがいいだろう。アルーよ、呼んでくれるか」
「今日は来ることになっていますが心配ですから、もう一度誰かに寮まで手紙を持っていってもらいましょう。このようなときでもないとエルガの顔も、なかなか見れませんし」
「あいつは、いったいいつになったら浮いた話が聞けるやら」
「エルガの魔法研究所務めって、事務職じゃなくって、研究員なのか?」
「ああ、そうだ」
「エルガはそんなに魔法が得意だったか?」
「いや、普通だが……」
伯父様が言いよどむと、ナーダ伯母様が引き継ぐ。
「エルガさんは頭が良く、その才能が認められて研究職になられたのです」
「ああ、あのスキル持ちにはまったく困ったもんだ」
伯父様がチョットだけ苦虫をかみつぶしたような顔をすると、パパがガハハ…と笑う。
「兄上にも持て余すことがあるのだな」
「お前のように、誰もが破天荒に好き勝手に振舞えるわけじゃないのだ」
「誰がだ。俺は繊細で通ってるんだ。破天荒なのは兄上の方だ」
「おいおい、誰に言っている。貴族社会は繊細じゃなきゃ、やっていけないんだ」
「お二人とも破天荒ですよ。そうですよねルージュ様」
同調を求めるアルー伯母様に、ママがまったくだと言わんばかりに二コリとほほ笑む。
「フォアノルンの家系なのでしょう。私の家でも誰かがそれを引き継ぐのでしょうね」
「お互い苦労をしそうですね」
「はい、まったく」
伯父様と、今度はパパまで苦虫顔だ。
クツクツと笑いそうになったけど、あれっ、今ボクも含まれてなかった?
◇ ◇ ◇
お茶会から解放されたガルド、ニルナ、僕の三人は、ニルナの部屋で、文字を覚え始めたニルナに付き合ってカルタ取りに興じている。
ガルドとニルナは母親似で線が細い印象がある。ガルドの髪は父親似でライトグレー。ニルナは母親似で金髪の癖っ毛が最大の違いだ。
一二〇枚のカルタには単語とその絵が描かれている。要は単語の学習カルタだ。
読み手はヒーナで、フォアノルン家では家庭教師とメイドも控えている。
ガルドもニルナが可愛いのか手抜きでニルナが取れるようにしているから、そこはお付き合いだ。
ガルドも最初は僕にも気を使っていたが、何枚か取ってるうちに、僕の実力を感じ取ったようで、僕に対して、カルタ取りでだが、気を使わなくなった。
そりゃ、速読と記憶強化があるから大人とやっても負ける気がしないから、当然の対応だ。
もとい、五才の僕は最初面白くって、連続でカルタを取ってしまい、ヒーナに目で『ダメですよ』と注意され、周囲を見て、はたと気づいた。
ヒーナに黙ってうなづくと、ヒーナは次のカードを読み始めた。
現在はガルドと二人して、取るふりをして手を引っ込めたりと、ニルナに優しく接している。
ちなみにガルドは八才で、ニルナは一〇月で五才になるというから僕と同い年だ。
「やったー、勝ったー」
ニルナがガルドに一枚差、僕に二枚差で勝利して嬉しそうだ。ちなみに枚数も数えるから、数の勉強にもなる。よくできてる。
その後に三度カルタをやって、一度だけ勝ってみたが、ニルナが「ガルド兄さまには負けないのに」と悔しそうに、にらまれてしまってまいった。僕たち同い年だよね。否、アラサーのおじさんなんだけど、意識しないとメンタルがチョクチョク五才になっているような。
駄々をこねていた時は平気だったが、あとで凹んだのはつい先ほどだ。
「セージ、僕と二人だけで勝負しようよ」
「うん、いいよ」
「手加減無しでね。ニルナは読む勉強ね」
「はーい」
「うん、いいけど……」
ニルナが笑顔の返事。ねえ兄妹仲の良さがよくわかる。
僕は困ってヒーナを見ると、ヒーナも困ったようで、家庭教師を見る。
日本人を彷彿とさせる黒い長い髪に、どこか冷たい印象がある美人で、凛々しい。
「ガルド君、セージ君は非常に強いですよ。それはわかっていますよね」
ガルドに声を掛けたのは厳格そうな家庭教師だ。
「はい、わかっています」
「負けても癇癪は起こさないこと。よろしいですね」
「僕も本気で取りますから負けません。たとえ負けても…いいえ、負けません」
「決意はわかりました。セージ君、本気でお願いします」
「は、はひ…」
この人チョット苦手だ。
緊張で舌を噛んじゃった。
「よろしいのですか。セージ様はチョット、あれでして……、少々お待ちください」
何を慌てたのかヒーナが部屋を飛び出していった。
大ごとになってしまった。
部屋を出ていったヒーナが、しばらくすると、パパとママ、それに伯父様と二人の伯母様、ロナーさんまでもを引き連れて帰ってきた。
それぞれが興味津々といった表情だ。ママとヒーナだけが複雑な表情だ。
「旦那様、お止めした方が良いと思いますが」
「ああ、かまわん。兄さん、ガルドが負けても知らねーぞ」
「いくら魔法ができても、八才と五才だぞ」
「それがセージは少々違っていまして、わたくしでも読むのに半日かかりそうな大人の本を、一時間少々で読んでしまうほどですから」
ママの発言を聞いて、誰もが目をむく。もちろん厳格な家庭教師もだ。
「セージ君は学習スキルをお持ちなのですか」
「いいえ、セージ様から個人情報を見せていただきましたが、何もありませんでした」
「芽生え始めということですね。それでいて大人までをも凌駕するスキルですか。
ガルド君、スキルのお話はしましたね」
「はい」
「セージ君は、どうやらお勉強ができるスキルを持っているようです。
それでも勝負しますか」
「はい、やってみたいです」
「セージ君は本気で取ってくれますか」
「…えーと、いいですけど」
チラチラとママとヒーナに視線を向けて、ママがしかたなくうなずくのを見てから、うなずいた。
「鉛筆。ノートに鉛筆で文字を書く」
一二〇枚あると、チョット待ってもガルド君が取らない。もとい、取れない。
「……はい」
頑張りたくないんだけど……、仕方なく、手を伸ばす。
「時計。休まず動いて時間を告げる時計は働き者だ」
「……はい」
「イチゴ。真っ赤なイチゴはおいしいよ」
「……はい」
「自転車。一人で乗れるように自転車の練習です」
「……はい」
「山。天にまで届く高い山。魔獣の住む山」
「……はい」
「ガルド君もういいでしょう」
「……」
ガルドの悔しそうな表情。勝負は三〇枚ほどで中止となった。
「ガルド君、この悔しさを忘れないように。
あなたもいっぱい勉強して、素晴らしいスキルを手に入れましょうね」
「……はい、がんばります」
「はい、一緒に頑張ってエルガさんのように素敵なスキルをものにしましょうね。ニルナさんも」
「はい」「…はい」
ニルナは笑顔で、ガルドも母親の励ましで多少は元気が出たようだ。
そして伯父様はまた苦虫だ。
「スキルのすごさを味わったのはガルド君のいい経験になったと思います。
それにしてもどのようなスキルなのでしょう」
「これだけ見れば記憶系のスキルだと思いますが、先ほどルージュ叔母様は読書のことを言ってましたからね」
「明らかに手を抜いていましたからね」
バレバレだ。
家庭教師とロナーが先ほどより強い視線で見つめてくる。それにつられて周囲の視線が強まる。
冷や汗が垂れそうだ。
「今度は負けないから」
「ニルナも応援するー」
ガルドの負けず嫌いと、仲良し妹のニルナにずいぶん和まされた。
「はい、またよろしくお願いします」
◇ ◇ ◇
どうも居心地が悪い。
頑張らないことに頑張るのも気分が悪い。
カルタ戦のあと、ガルドとニルナの案内で、住居ビルと庭を案内してもらった。
当然のごとく厳格家庭教師とメイド&ヒーナが付いてきた。
もうすぐ夕飯だと呼ばれて着てみれば、周囲がどうやら僕の話題で盛り上がっていた。
扉の所で立ち止まっていると、
「初めまして、君がセージ君ね。ボ、私はエルガリータ。エルガお姉さんって呼んでね。よろしく」
ボ? 変なしゃべり方をする人だと思いながらも返事を返す。
「はい、エルガリータさん」
「エルガお姉さん」
「はあ、エ、エルガお姉さん」
「そうそう。早速だけど個人情報を見せてもらえる」
「え、えー……」
目が点。あっけにとられるとはこのことだ。
「エルガ、よさんか。セージが呆れてる」
「だってそのために呼ばれたんでしょ。順調にいってた研究を放り出させたんだから」
「それにしたって、ぶしつけ過ぎるだろう。いや、セージが呆れてるのはお前の身だしなみだな」
エルガは真っ赤な縁のメガネ、長身でそばかす顔、母親似の朱色の髪はぼさぼさだ。
何をやっていたのか不明だが、袖を捲ったダブダブの白いツナギと厚手のエプロンにはシミがそこここに付いている。
靴もペタンこの実用重視の革靴だ。
どう見ても伯爵家の長女には見えない。
「急げって研究所の中にまで使いをよこしたのはお父さんじゃない」
「ガハハハ……、兄上の苦労が察せられる。ガハハハ…」
「バカを言うな、こいつがこうなったのはお前の所為でもあるからな」
「何言ってんだ。俺が何をした」
「エルガが卒業で悩んでた時、“やりたいことをやれ、悔いを残すな、全て自分の責任だ”って薫陶を垂れたのはどいつだ」
パパがしげしげとエルガを見る。
「それで、あの一見おとなしかったエルガがこうなったのか」
「い、一見ってなんですかー」
「そりゃーそうだろう。恐々と遠くから見てたと思ったら、興味を持つとドッカンと爆発して一直線」
パパが胸の前で握っていた両手をパッと開く。
「オーランにいた時も好きな場所に行ったきりだったしな」
そしてエルガへ向ける視線に呆れが混ざる。
「うるさーい。そんな目で見るなー!」
エルガが真っ赤になって、両手でテーブルをバンと叩く。
ガチャンと、いくつかのカップから紅茶がこぼれる。
僕はあきれて言葉も出なかった。
ママや伯母様たちはこれだけの騒動でも泰然自若。紅茶のカップは早々に手に持っていた。
「エルガさん」
「なに、お母さん」
「あなたにセージさんを任せると、せっかくの夕飯を食べられなくなりそうですから、そのお話は夕食の後、それも時間制限を設けてセージさんに負担にならないように配慮してです」
「ボクはいつでも気配り優先、信頼を勝ち得るように働いています。ですから御心配には及びません」
「それが心配なのです。(ハァ)…とにかく夕食にしましょう。
エルガはその前に身だしなみを整えてらっしゃい」
ノーフォーク湾で複数の海魔獣が出現したということで、伯父様と、付き添いでパパが港に出向く中、にぎやか、もとい、騒々しい夕食が始まった。
「ほう、セージ君は生活魔法の他に火魔法、風魔法、光魔法の素養があると。
……五才で……ニるなと同い年…。
それはすごいな。まことにもってけしか、(ウホン)うらやましい。ボクが錬金が発現したのが二年生の時、その後に水と土が、高等魔法学院で付与がやっと発現したというのに全く」
エルガさん、途中からブツブツと小声になっても駄々洩れです。
さっきの“ボ”もボクって言いかけたんだ。納得だけど“ボクっ娘”って人生初(?)だ。
席順などお構いなしに、僕の隣に座って何かと問い質してくる。
空気を読めないのか、全員セミフォーマルとややめかし込んだ程度だが、着替えたエルガは真っ赤なパーティドレスとフルフォーマルないでたちで、思ってた以上に長身で良く似合っている。いや、部分的に台無しなんだが。
ツナギにエプロンじゃわからなかったが女性的でボリューミー、ナイスなスタイルだ。美人なんだが、真っ赤なメガネ、ボサボサな髪、それとそばかすはどこかアンバランスで愛嬌がある。……これもギャップ萌えって言うのだろうか?
「普通の魔法の取得数やレベルってどのくらいなんですか」
「あー、それって気になるようね。でも、人それぞれで平均値が意味をなさないんだよ」
「そうなんですか?」
「魔法を使える人と魔法を使えない人で平均を取って何か意味があるかな?」
「無いです」
「それで、魔素が見えたりはするのかな」
「はい、昨日初めて見えました」
「色は何色が見えたのかな」
「え、魔素の色って火の赤、水の水色、土の茶、風の黄緑、光の白、闇のグレー、時空の紺、錬金の銀、付与や補助の黄色、それと無属性の透明と、全部で一〇種類ですよね」
セージは属性と色を言いながら指を折り曲げて数えていた。
「ほう。よく知ってるねー、感心感心。それで、全部が見えたんだ」
「はい、多分ですが」
「どのように見えたのかな?」
「船の中でしたから、水の魔素が多く、火の魔素が少なかったと思います。みんな小さな粒でキラキラしていました」
「それはまったくもってけしから(ウホン)、すばらしい」
「全部見えると何かあるんですか? ママやヒーナ先生だって見えますよ」
「ルージュ叔母さん」
「何でしょうか」
「初めて魔素を見た時のことを覚えていますか」
「さあ、なにぶんにも昔のことですから」
「そこを何とか思い出していただきたいのですが」
「そうですね。高等魔学院で魔法に夢中になっていた時だったと思います。水の魔素が良く見たましたね」
「ヒーナ先生はいかがですか」
「私は見たというより感じるたちですから、そのような記憶はあまりありませんが」
「それでは初めて魔素を感した時の印象はどうでしたか」
「初等学校のころからなんとなく感じていましたが、確信したのは初等学校の卒業のころから高等学校に通い始めた頃でしょうか、それなりに優しい感じですか。
見えたのは高等学校の三年の終わりの頃です」
「それだとヒーナ先生は水魔法か光魔法が得意なのでは」
「得意というのは何ですが、光魔法と相性がいいのは確かです」
「最近の統計報告で面白いものがありました」
エルガさんが、ウホン、と空咳をする。
「初めて見えた魔素がその人の持つ魔法属性とほぼ一致するそうです」
「「「「…えーー……」」」」「「…」」
周囲の驚愕の視線が一気に突き刺さる。
えーーぇー。バ、バレちゃってる。
「ぼ、僕、火・風・光の三つしかないんだけど」
う、嘘です。
「ルージュ叔母さんとヒーナ先生が魔素を見たのが高等魔法学院の頃」
エルガさんあ二コリと笑う。なんか笑顔が怖い。
「セージ君は今幾つ」
「えー、五才です」
さっき教えましたよね。
「魔法やスキルはいっぺんに開花するものじゃないし、一〇才になって魔法に目覚める人や、大人になってから開花する人もいっぱいいるの」
「そ、そうなんですか」
「そう。セージ君はこれからいっぱい勉強するんでしょう。
それじゃあ、そんな顔をしないで、もっと希望に胸を張って」
「は、はい」
「エルガ様、あまりセージ様を追い詰めないでください」
「あ、ごめんね。
まあ、一部ではそうじゃないかと噂もあったけど、本格的な統計調査で確認されたってこと。
あと、その報告書では、魔素に対する感知能力が高い人は例外だと注釈が付いていて、そのために勘違いがあって、見えても開花しなかっとか不確かな噂になってしまってたってことね。
セージ君は何にしても魔素と相性がいいことは確か。
きっと、将来は大魔法使いだね」
「え、えー、そんなことありません」
気を付けます。
「そんな顔をするってことは、魔法スキルを持て余す器用貧乏かなー」
「更にダメじゃないですか」
「アハハ…、そうならないように、セージ君はここに残って、このエルガお姉さんと一緒に魔法のお勉強をしましょう」
セージは、ほほ笑むエルガの豊満な体に抱きしめられていた。
ヒーナに負けず劣らず、まったくもってけしからん。思わずうなずいてしまいそうだ。
「エルガ様、セージ様の教育係はこのヒーナが拝命しております」
「いいのよ、そんなの。あっ、それじゃあ、うちのガルドとニルナの教育係でもなる」
「エルガさん」
「はーい。それでも考えといてね。魔法知識だっらバッチシだから」
「エルガさん!」
突然、カーン、カーン、カーンと鐘の音が響き渡った。
そして、ドカン、ドカンと爆発音が聞こえ、建物が震えた。
「現在の警備はどうなっている。非常招集を掛けろ」
「非常招集すでにかかっております。
現在、第一騎士団が近衛の三分の一と閣下と一緒に出動中、第四、第六、第七騎士団が待機中、第二と残りの近衛が城を警備しております」
「城壁の方は」
「東門が第三と第五、北門が第九と訓練中の新兵が約二五名、西門が第八と第一○がそれぞれ常駐しています」
「門の警備は警戒を厳重にして外敵に備え、動かないように厳命しろ。
自警団はどうなっている」
「いつものようにギルド連合の警備隊二隊が巡回中との連絡が入っています」
「巡回を倍にするように依頼しろ。
執務室に移るから、報告はそちらに」
「かしこまりました」
頭首である伯父様がいない中、頭首代理のロナーの命令が飛ぶ。
「ロナー、わたくしもまいります。マーダさんは、ルージュさんと一緒に皆さんを守ってあげてください。
ルージュさん、申し訳ありませんがよろしくお願いします」
アルー伯母さんが、マーダ伯母さんの真っ青な顔を見て、ママにお願いしてくる。
「その他にも、お手伝いできることがあればおっしゃってください。
マーダさん、しっかりしましょう。
まずは堅固な場所に移動しましょう」
「は、はい、もうしわけありません。
それでは書斎へ。書斎でしたら執務室も近く堅固ですし、窓もあって周囲の状況もある程度はわかります」
さすが激変を生き抜いた猛者たち(?)は違う。