表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
次元災害で異世界へ  作者: 真草康
浮遊島上陸編
179/181

175. ファントムスフォーの画策と長い夜


 八月一四日青曜日、ミョードルナ村に戻らず<テレポート>でそのまま狩場に向かった。


 ちなみにロト国の“神の御子”たちは総合が“75”前後程度と及第点かなとは思ったけど、アーギ国とフロン国の“神の御子”たちは総合が“60”を越した程度とかなり心もとない。

 兵士も同様にロト国は“100”に届きそうな人がいてそれなりだが、アーギ国とフロン国の兵士は最高で“80”を越した程度とレベルが低い。

 もちろん看破をした訳じゃないから僕の感覚で感じとった数値だから多少の前後はあるだろうけど、それなりに近い数値のはずだ。

 チョット不安だけど指摘するのもはばかられるので、頑張れと気持ちだけは応援して、そのまま放置するしかなかった。


 ネオホープの四人は強くなったんだろうか? 怪我をしたっていう連絡は受けてないから無事なんだろうけど。


 気になることは棚上げ(スルー)して、狩りに集中、集中と。


「クレージーバッファローの群れ発見、強さは“50”から“85”程度」

「どのくらいいるの」

「三〇匹程度かな」

「回避でいいんじゃないの」

「射撃の練習に丁度いいわね」

「めんどくさそー」


 クレージーバッファロー。

 集団で鋭い角と巨体でなぎ倒す暴走魔獣だ。威圧スキルも持っているから総合が低いとすくんでしまう。


 とういうことで回避した。

 でもこれからはこんなザコを狩り続けてレベルアップをする必要があるんだろうな。


 強さ“50”以下の小物魔獣は適当に狩りながら索敵(レーダー)を続ける。


 ミクちゃんたちのレベルアップを中心に、とてつもない魔獣がいると僕のレベルアップの獲物となる。

 要は行き当たりばったりで魔獣によって相手を決めることにして手当たり次第に狩っていく。

 もちろんリスク回避も忘れない。


「デビルスパイダーエイプの約一五匹の群れ発見、強さは“150”から“170”といったところみたいだ」

「今日は群れが多いね」


 デビルスパイダーエイプは四本手長猿といった魔獣だ。

 猛毒の粘着液を飛ばすだけでなく、霧のように身にまとうこともできる。

 毒を含んだ体毛を針のように鋭くして飛ばすことも可能で、射程距離も長い。

 もちろん鋭い爪や牙にも毒がある。

 体毛や毛皮だけでなく、肉も毒性を帯びているので食糧にもならない。

 触りたくない魔獣なので、もちろん回避だ。


 その後は普通に狩りを行いミョードルナ村に帰還する。


 近距離電話(マジカルフォン)でグラナダ街に連絡をすると、

『グラナダ街が魔獣に囲まれている。急いで帰還せよ』

 という連絡を受けた。


 ワンダースリーの帰りを待って全員で<テレポート>でグラナダ街に飛ぶ。


「おわーっ」「うわーっ」などと驚きが漏れる。

 海がクラゲでおおわれている。

 それだけでなく海魔獣と交戦中だ。


 今回のヴェネチアン国の責任者は又もフォアノルン伯父様だ。

「みんなは城壁で魔獣を防いでくれ」


 依頼を受けてワンダースリーやヴェネチアン国の神の御子と一緒に城壁へ向かって走り出す。


「やあセージスタ、それにワンダースリーの面々も元気にしてたか」

 城壁を目の前にして、あっと思うと、城壁の上にはファントムスフォーが立っていた。

 声を掛けてきたのはファンティアスだ。

 負傷した腕は完治したようだ。


 僕とミクちゃんにルードちゃん、それにリエッタさん、そしてワンダースリーがファントムスフォーをにらみつける。

 ラーダルットさんやキフィアーナちゃん、それにヴェネチアン国の神の御子たちは一瞬戸惑うも、雰囲気を察して緊張する。


「プレゼントは気に入ってもらえたかな」

 ファンティアスが周囲を見回す。

 魔獣血石(ブラッドアミュレット)でも盛大にまき散らしたってことか。

「ふざけるな!」

 

「今はそんなことを言っている場合か」

「そうだな、大変そうだな。心中をお察しする」


「ギランダー城では決着がつかなかったもんな」

 弟のムスティアスに、熊人族のトムソイダ、女性のフォードラーラは相変わらずだ。

 

「今回はこれで失礼する」

「それじゃあな」

 笑いを残してムスティアスの<テレポート>で居なくなった。


「城壁に登るぞ」


 周囲には魔獣の死骸があちらこちらに転がっている。

 それとかなりの数の魔獣が潜んでいる?

 レーダーで詳細を確認すると……あれっ?

 異様な精神状態のようだ。

 まるで魔獣暴走モンスタースタンピードだ。


「わかるか」

 プコチカさんが問いかけてきた。

「ええ、狂乱状態ですね」

 それも現在はトランス状態で狂乱の成りかけみたいだ。


「特殊な魔石でも食わされたんだろう。

 そうだとすればこれだけ叩けば収まる可能性がある」


 ブラッドアミュレットでおびき寄せられただけじゃ、こうはならないか。

 確かにブラッドアミュレットを撒いた形跡はあるけど、この負の魔素と魔法力の中じゃ効力は薄そうだ。


「海の方は」

「潮がブラッドアミュレットを流すのを待つしかないだろうな」

 やっぱりそういうことか。


「数は約一七〇〇匹、その内の約九〇〇匹の強さが“50”以上、“80”以上は約四〇〇匹、“100”以上は一三〇匹程度、全部狂乱状態だから確実に仕留めないとダメだ」

 僕たちのメンバーを含めてみんなに状況を伝える。


「また魔獣が攻めてきたぞー!」

 左手の兵士から叫び声が上がる。

 あ、動き出した奴らがいる。


「ボコシラ、ノコージ、行くぞ!」

「了解」「うむ」

 ボコシラさんとノコージさんが左手の方に駆けていく。


「セージスタたちはあの寝ぼけた奴らを片付けてくれ」

「「「わかりました」」」「「「了解」」しました」


「手分けして最大魔法で駆逐していきましょう」

「「「…「おお!」…」」」


 僕も約半分の魔法が残っている。

「<ギガンティックビッグバン><ギガンティックビッグバン>」

「<ハイパービッグバン>」

「<ハイパービッグバン>」


 ミクちゃんの正確な魔法、そしてルードちゃんはさすがエルフといったところか遠距離射撃が得意だ。

 みんなの魔法が炸裂して轟音を上げる。


 その中でも僕のギガンティックビッグバンは現在レベル“21”の特大魔法だ。もちろん光魔法の浄化の精霊記号を組み込んだ魔法陣だ。

 ちなみにレベル“22”は作成したけどまだ定着していない、“23”や“24”などはまだ未作成だ。

 それでも周囲の目を引くほどの威力だ。

 負の魔素と魔法力が濃厚なこの辺でも強さ“100”程度なら瞬殺で、固まっていれば一辺に倒してしまう。

 さすが数値の暴力、僕たちのレベルは他者と隔絶してるんだと思う。

 あたらこちらで魔法を放つたびに、周囲が驚愕している。


 いつもの戦闘態勢を取っても三〇発ほどは撃てるはずだ。

 ワンダースリーが城壁の上を左側に行くので、僕たちは右側に向かう。


「あのー、ぼくらは」

「守備の弱そうな場所の応援、遊撃だ。ただし無理するなよ」

「わかりました」

 魔法の砲撃に引きつりながらも、ヴェネチアン国の神の御子たちもプコチカさんの指示で動きだす。


 僕は無駄撃ちを避けるためできるだけ強い魔獣が群れている場所、固まっている場所めがけて、

「<ギガンティックビッグバン>」…「<ギガンティックビッグバン>」

 をぶちかます。

 上手くいけば七、八匹は倒すことができ、周辺にいる魔獣数匹もかなりのダメージを負う。そうなれば兵士でも簡単に倒すことができるだろう。

 ミクちゃんとルードちゃんも自分の魔法の規模に合った場所に魔法を放っている。


 キフィアーナちゃんはカートリッジライフルで、ラーダルットさんは弓矢で単体の撃破で、リエッタさんは撃ち漏らした強い魔獣めがけて魔法を放っている。


「瞑想に入ります」

「私も」「ウチも」

 三〇発はあっという間に撃ち終わって魔法の枯渇だ。

 みんなもほとんど同じ状態だ。


 割り当てられた家に戻って魔法を完全枯渇にしてから、瓶詰の飲み薬の高級魔力回復薬エクセリックマジックヒーラーを通常の一.五倍飲んで“瞑想魔素認識法”を行う。

 僕の場合は人より魔法量が多いから量を多く飲まないと全回復しないんだ。

 それでもルルドキャンディーの五個分ほどの量だ。

 ノコージさんから教えてもらった回復薬で、今回のためにかなりの数を用意している。


 高ぶった精神を落ち着け瞑想に入るまで三、四分、瞑想に入って七分ほどで全回復だ。

 魔法量が少なかった時には瞑想に入れば五分で全回復していたけど、魔法量の増えた現在はこんなものだ。


 僕が目覚めて二、三分でミクちゃんが、そしてルードちゃんが目覚める。

 一七、八分もあれば全員が目覚め、全回復する。


「ほらみんなに気合を入れなさい」

 ルードちゃんの勧めもあって、

「皆行くぞー!」

「「「…「おお!」…」」」


 みんなで一七〇~一八〇匹程度は倒しただろうか。

 戦闘不能や負傷を数えれば二五〇匹以上だろう。

 ただしこれからは固まっている魔獣の数は格段に減るはずだと思いながら、城壁に登る。


 レーダーで確認したところ、残数は約一六〇〇匹、その内の約半数の強さが“50”以上だ。

 ワンダースリーや兵士たちが倒した魔獣を入れるともっと減ってないといけないはずだ。


「魔獣が増えてます。残数は約一六〇〇匹」


「セージスタ戻ってきたか。

 何か変な物、変わった物が無いかわからないか」


「チョット待ってください」

『空間認識』『看破』『鑑定』をマシマシで強化する。

 じっくりと周囲を確認していく。

 

 魔獣血石(ブラッドアミュレット)はばらまかれてはいるけど……。


「地面の中で薬草のような物を焚いていて、その匂いを風魔法で森の中に流しています。

 これからその穴を埋めます」

「わかった。頼む」


 埋められた個所は二〇か所もあるけど、戦闘で埋まったものが三か所あるから残りは一七か所だ。


「ミクちゃん、ルードちゃん一緒に来て」

「わかった」「了解」

「プコチカさんとリエッタさんとラーダルットさんは僕たちの移動に合わせて砲撃を止めてください」

「わかった」「「了解」した」


「ところでファントムスフォーは?」

「見当たらない」

「こんなことに意味が……」

「俺たちへの宣戦布告だろう」

「こんな時にもですか」

「理屈が通じる相手だと思うか。ああ、あとは俺たちの強さの確認だろう」


 この騒動がファントムスフォーのレベルアップのためのかと思うとガックリと気落ちする。

「セージちゃん」「セージ」

「ありがとう」

 ミクちゃんとルードちゃんの声で気を取り直す。


「それじゃあ<フライ>」

「<フライ>」「<フライ>」

 僕が空中に浮かぶと、二人が続く。

「<フライ>」

 カートリッジライフルを手にしたキフィアーナちゃんもそれに続く。

「それじゃあキフィアーナちゃんとルードちゃんは上空で鳥魔獣の警戒とプコチカさんたちに僕とミクちゃんの位置の連絡係、ミクちゃんは僕を守ってね」

「わかったわ! 任せなさい」

「うん」「了解」


 薬草を焚いている穴は、ブラッドアミュレットをばらまいてある後方で、城壁からは直接見ることはできない。

 穴も奥を向いていて、こちらからは分かりづらく巧妙に隠しているためか、匂いを流す風も地上すれすれとなっている。


<ハイパースフィア><フローコントロール>で匂いを吸わないように万全の体制を整えてから四人で魔獣の後方に飛ぶ。

「まずはあそことあそこ」

 指を差して場所を教える。

「匂い避けは大丈夫?」

「うん」「問題ない」「心配し過ぎ」


「それじゃあ三人ともよろしく。<ファイアーワークス>」


 僕はプコチカさんたちに合図を送り、砲撃が止むのを確認してからミクちゃんと森の中に降りていく。


 ザコ魔獣は紅銀輝の餌食だ。


 斜めに掘られた穴の中には真っ赤に発熱する赤魔石、その上にネットに包まれた草の束が乗っている。

 草の束は狂騒草(マッドウィード)、それにマンチニールやジャイアントホグウィードなどの粉末を混ぜたもが降りかけられている。

 そのままでも危ない代物だ。


 風によって飛んでくる成分はハイパースフィアに弾かれているようで、光を発して消滅すしていく。


「<ハイパーホーリフラッシュ><ハイパーホーリフラッシュ>」

 まずは浄化だ。

 奥には風を発生させる緑魔石が置かれている。


「<粘着弾>……<プリズン>」

 魔石と狂騒草(マッドウィード)の束全体を粘着液で覆い、それを岩で包み込む。

「<ハイパーホーリフラッシュ>」

 再度浄化して効果を検証する。


 ヤーッ、と隣でミクちゃんが魔獣を倒している。

 それとは別に上空からも(短針)と矢が飛んできて、近づく魔獣を攻撃している。


「大丈夫そうだから、もう一個もやるね」


 上空に進む方向を指さし移動。

 紅銀輝でザコ魔獣を倒しながら進む。


「<ハイパーホーリフラッシュ>」

 で同様のことを行う。


 途中キフィアーナちゃんが魔法力切れでラーダルットさんと交代する場面もあったが、二時間ほどですべての狂騒草(マッドウィード)の対策を終えた。

 なぜそれほど時間が掛かったかといえば、途中二回城壁の防衛が破れそうになって応援に駆け付けたからだ。

 幸い負傷者が出ただけで応援に間に合い、防衛ラインは死守できた。

 そのため瞑想も一度行った。


 その後も何度も瞑想を取っては盛大なボン、バンと魔法祭りとなった。


 夕方から始まった戦闘――グラナダ街では昼頃から――が終了したのは、夜の一二時を少し回った頃だった。


 途中ミクちゃんとルードちゃんは治癒魔法士として駆けまわったりもしたし、疲労から攻撃を受けそこないそうになったりと危ない目にもあった。


 二度三度と周辺をレーダーで安全を確認して、疲労困憊、重い頭と体を引きずりながら僕たちの家に帰宅した。

 もちろんザコ魔獣はまだ居たが、グラナダ街の城壁を越えられる魔獣がいないことを安全としてだ。


「疲れた…」

「ホントにそうだね」

「キフィは少し前からダウンしてるしな」


 嬉々としてアイテムボックスから取り出した大型の短針魔導砲を撃っていたキフィアーナちゃんは四度目の瞑想に入って、そのまま寝落ちしている。

 熱帯のグラナダ街では、そのままごろ寝をしていても風邪を引くことはないけど、武具や防具はミクちゃんとルードちゃん外してタオルケットを掛けてある。

 ちなみに大型の短針魔導砲の短針()はほぼ空となってしまった。


 ちなみに城壁の前は完全な焼け野原だ。

 グラナダ街の周辺を整備するにはちょうどいいかもしれない。


「セージスタ、できれば海の援助を頼めるか」

 休もうとしたらフォアノルン伯父様が救援要請に駆け込んできた。


 忘れてたよ。


「どうしました」

「シーサーペントが出現した」

「了解、三〇分ほど瞑想してからでいいですか」

「わかった。頼む」


 夜はまだまだ長そうだ。

 瞑想後にハーブティーに果物を食べて疲労を振り払う。


 海上でのシーサーペントとの戦闘を終えた僕たちは一旦休憩に入った。

 もう一度出撃要請があって、海上戦闘を行った。

 結局朝まで兵隊は交代しながら、僕たちは待機という仮眠もとりながら厳戒態勢を維持した。


「海のブラッドアミュレットもかなり薄らいだな」


 長い夜が明け、朝方城壁から周囲を確認してから外に出て周辺の異常なしも確認した。


 各国との打ち合わせで、警戒態勢を二段階下げ、いつもより警備兵多めで騒動が終結した。


 シーサーペントの戦闘を終えた後は、海に落ちた兵士の回収を行った。

 さすがに海に落ちた兵士は無事では済まない。


 診療所とされる医療用の建物に運び込んだ。


 そこで聞いたところによると、二八人の重傷者と、八〇人ほどの軽傷者がいた。死亡者も六人いるそうだ。

 それでもあれだけの規模の魔獣だ。頑張ったかいがあったというものだろう。


 神の御子たちの多くが治療とその付き添いで診療所に来ていた。

 ネオホープの四人にウバンダ君にエレノーラちゃん、ゼーラちゃんにホロウィーダちゃんなどの神の御子に軽傷者は何人もいたけど全員無事だ。

 まあ、言葉はおかしいけど、誰もが治癒魔法と薬で一夜で回復できそうな怪我だった。

 周囲からすれば無事といえるレベルだろう。


 僕とミクちゃんとルードちゃんも治療を行ったけど限界だった。

 疲労でボーッとした頭。

 パジャマに着替えて<ホーリークリン>

「お休み」「お休み」

 朝食も摂らずに、疲労と眠さでいつの間にかにミクちゃんともたれあうように眠ってしまった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ