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次元災害で異世界へ  作者: 真草康
デビルズ大陸調査編
173/181

169. デビルズ大陸調査 イナンナの欠片


 五月八日青曜日、朝から特殊武装魔導車(ケラウノス)で落下したイナンナの欠片に向かう。


 背丈の長い草を押し倒しながら特殊武装魔導車(ケラウノス)ⅠとⅡが進んでいく。

 忙しい中でもエルガさんとあれこれと一緒に改造というか、使える部品を取り出して新たに作ったといった法が適切だ。そして優れものだ。


 六人乗りのケラウノスには荷台のような射手席が後部に在って左右に短針魔導砲が装備されている。

 イメージ的にはハ○ーH1ピックアップをモデルにした魔導車だ。

 もちろんハ○ーH1ピックアップをモデルにしたというだけで完璧に同じじゃない。

 そのいい例が左右に短針魔導砲を設置した射手席(後方の荷台部分)で防御を高めるために形状はずいぶんと違っている。

 短針魔導砲の基部にはパイプのようなスライドレールが付いていて前方から後方へと簡単に移動が可能で、撃つ時にはロックが必要だ。

 ハ○ーH1ピックアップより一回り大きいので横三人で座れるゆったりで、かなり狭いが射手席まで移動できるように歩ける(すり抜ける)スペースがあり射手席に移動できる。

 日本の知識を取り入れ四輪独立懸架(どくりつけんか)に居住空間と戦闘能力を駆け合わせたらこうなったってことだ。

 乗り心地も他の魔導車より快適だ。


 ちなみに僕のアイテムボックスには豪華な自家用魔導車(改)と軽量小型車もしまっている。


 ケラウノスⅠには僕たち六人(僕・ミクちゃん・ルードちゃん・キフィアーナちゃん・ラーダルットさん・ガイアディアさん)が乗っている。運転手はガイアディアさんだ。

 ケラウノスⅡにはもちろんワンダースリーの三人とエルフの案内人の四人が乗っていて、運転手はノコージさんだ。


「魔導砲発射!」

 カートリッジライフルも好きだけど、キフィアーナちゃんは魔導砲も大好きだ。

 荷台のような狭い射手席で射手を務めて嬉々としてはしゃいでいる。

 魔導砲の方が射程が長いようで、蟻酸の砲撃前に撃つからこちらの被弾はゼロだ。


「セージじゃま」と僕を退かして撃っては「弾込めておいて」と僕の出番は小間使いだ。

 狙いはもちろんバレットアントだ。


 本格的な実戦投入は初めてのケラウノスだ。

「実射テストも兼ねているから」

 って伝えたら、

「やったー!」

 容赦がないこと、本当に。

 悪路を走行中でも狙って撃てるってことはケラウノスは最高の出来だろう。


 もう一両の特殊武装魔導車(ケラウノス)Ⅱはプコチカさん一人が射手として頑張っている。

 なんでも剣を交えた戦闘、もしくは自分の魔法じゃないとボコシラさんは気乗りがしないそうだ。

 射手席から魔法を打てばいいじゃないかと思うけどそれも違うそうだ。


 兵隊アリは二、三発で倒せるが、攻撃アリはそうはいかない。

 弾数もあるので止めは剣や弓矢でお願いした。


  ◇ ◇ ◇


 基本案内はいらなかったほどレットアントを倒しながら進んでくればよかった。

 バレットアントの巣を通過して、その巣から七~八〇メルほど先の岩場にたどり着いた。


「半年前はここにあったんだ」

 案内人のエルフがケラウノスから降りて、ここだと断言する。


 射撃席のキフィアーナちゃんがバンバンバンと短針魔導砲を撃って、巣から飛び出して追いかけてきたバレットアント三匹を撃つ。

 キフィアーナちゃんは嬉々として攻撃アリに止めを刺し、三度目となるルルドキャンディーを頬張った。

 できるだけ自前の魔法力を使って、魔導車の魔法力の節約を心掛けてくれることはありがたい。


 何度も確認したけどイナンナの欠片、……異質なものは感じ取れない。

 持っていったとすれば……と思い当たることはと、バレットアントの巣まで戻ってくる。


「あー、まだ出てくる」

 嬉しそうなキフィアーナちゃんが射撃席に戻ろうとするが、ボコシラさんが剣を持ってサクッと狩ってしまう。

 今までのキフィアーナちゃんの攻撃を観察していたのか、ボコシラさんのスキルなのか、弱点――どうやら首の付け根のキチン質が薄いみたいだ――を的確に刺突して仕留めている。


 リュアナッパ村に到着した時からここまで一〇〇匹程を狩っているけど、巣からまだまだ出てきそうだ。

 ちなみにリュアナッパ村を出発してから今日だけで六三匹倒している。


「行く!」

「待て、ボコシラ」

「なぜ?」

「セージスタの索敵を待ってからだ」


 精神集中して空間認識の精度を上げても曖昧模糊(あいまいもこ)としているが、それでも反応らしきものをつかめた。


 イナンナの欠片はどうやら巣の中のようだ。

 レーダーになんとなくだが、まがまがしい存在、それも岩と思われる反応があるから巣はダンジョン化はしていなそうだ。


「地下五〇メル~一〇〇メルほどに在って、大きさは概ね一〇メルほどみたい」

「それはアリの巣の中ってことか」

「うん、それだけは間違いないよ」


 レーダーが曖昧になるデビルズ大陸効果はここでも絶大なようだ。訳が分からん。

 これじゃあ、テレポートなんってもっての外だ。


 巣穴の直径は三メルチョットだから中に入っていくことは可能だ。

 通常のダンジョンの狭めの通路だと思えばいいだけだ。


「テレポートは可能か?」

「うーん……ダメみたい」


「中に入るのは俺らワンダースリーに同行者はセージスタだけだ。

 みんなはここに残って戻てくるバレットアントの殲滅だ」


「なんでわたしが穴に入れないのよ!」


 不明な場所、しかも狭い場所となれば先頭になれた人だけでってのは理解できる。

 少なくとも後方からの挟撃をされないことだけは防ぎたい。


 バレットアントの強さ以下のエルフの案内人は無視すると、キフィアーナちゃん、ラーダルットさん、ガイアディアさんの総合が“100”前後で一番弱い。

 次がワンダースリーで“115”~“120”と最初に会った時の“110”程度より強くなっている。

 ルードちゃんが“130”で、ミクちゃんが“145”となっている。

 ちなみに僕は“198”と気持ち的には“200”だと言いたいところだ。


 後方にミクちゃんとルードちゃんが残ってくれれば心強いし、特殊武装魔導車(ケラウノス)二両があれば最悪退避することにも問題はないだろう。

 という訳で、キフィアーナちゃんから文句が出たが全員スルーだ。


「セージちゃん気を付けて、頑張り過ぎないでね」

「うん、行ってくるね」


  ◇ ◇ ◇


 巣の中の負の魔素濃度と魔法力の濃度はかなり高い。


「<ホーリーフラッシュ>…<ホーリーフラッシュ>…<ホーリーフラッシュ>…」

『白い力』を込めたホーリーフラッシュを周囲や足元に放ち浄化していく。


 その度にレーダーがクリアになっていく。帰りはテレポートかホワイトホールで脱出できそうだ。

 ただこの濃度でこれだけスキルに対しての障害が発生するとは思えない。


 すでに八匹のバレットアントと遭遇、撃退している。その全てがボコシラさんで、蟻酸の砲弾を<マジッククラッシャー>で無効化するのが僕かノコージさんだ。


 それとアリモドキという共生というか巣に寄生する昆虫魔獣にもお目にかかった。

 僕からすると見た目があまり似てると思えないけど、フェロモンの関係なのか平然としていた。

 それは僕たちの攻撃のもだからかなり間抜けだ。弱い昆虫魔獣でボコシラさんの一撃であっという間だった。

 ノコージさん曰く珍しい魔獣だそうだ。


「女王アリ発見、欠片から結構近くにいるね」

「女王をやってから欠片を見た方がいいか。どうだ?」

「その方が具合いいみたい。お互いの距離が二~三〇メル程度(?)みたいだから」


 ホーリーフラッシュのおかげで欠片と女王の存在もかなりはっきりとわかってきた。

 巣の構造と道程も認識できた。


「現在深さが三五メルで、大体半分といったところだよ。

 あとここからバレットアントが増える」


「ボコシラやるぞ」

「任せろ!」

 やけに嬉しそうだ。


  ◇ ◇ ◇


 バレットアントは一気に増え、ボコシラさんが意気揚々、気分爽快に女王アリの部屋にたどり着く。

 ここに到着するまでに七八匹の兵隊アリと三二匹の攻撃アリと遭遇し、撃退していた。

 そのうちの何体かは弱いながらも黒い波動を発していた。

 魔法の温存のため、ほとんど剣で倒している。


「<ホーリーフラッシュ>」

 これだけは欠かせない。


 KISHIKISHI……、と威嚇音を発してくる。


 体長三.五メル、強さ“101”で防御は“115”の女王アリが酸の霧とともに金切り音のような音を発生させる。

 黒い波動も取り込んでいるようだ。



「ボコシラここは俺に任せないか」

「ダメ、やる!」

「そうはいってもオマエ魔法力の残りはわずかだろう」

 プコチカさんの突っ込みにも、頑として譲らない。


 それでも身体強化にシールド、剣への魔法力込めの連戦で魔法力がかなり少なくなている。

 ルルドキャンディーを四つ食べて、問題ない! とすでに臨戦態勢だ。


 KISHIGISHIKISHIGISHI……。

 女王アリが酸の霧とともに、金属音と金切り音の中間のような音を発生させる。


「耐性減衰の効果があります」


 霧に触れたフィフススフィアの外側の一枚の強度が落ち始める。

 まあ、わずかなので、僕はプコチカさんとノコージさんと一緒に遠巻きにしてしばらく見学だ。


 そもそも女王アリは産卵のための存在で、生物的強さはあるけれど戦闘力は高くないみたいだ。

 ギンギンギンとボコシラさんの剣が舞い、女王アリに傷を負わせていく。

 ギン。足を一本、ギン、二本。

 そろそろ決着がつきそうだ。

 僕はボコシラさんと戦っても勝てると思うけど、戦闘力でいえばルードちゃんより上だと思う。ミクちゃんなら負けることはないと思うけど、それでも万一のことはあるかもしれない。

 強さや総合は参考までと考えた方が良い。


 外ここまでくるとイナンナの欠片がまがまがしいのが良くわかる。

 通常の浮遊島からはこのような波動を感じないので、何らかの作用があったと思われる。


 プコチカさんが女王アリの首筋に剣を突き立て、魔法を放って止めを刺した。


  ◇ ◇ ◇


「<ホーリーフラッシュ>」

 イナンナの欠片を含め周辺を浄化する。

 調査前だけど致し方ない。触りたくないもの。


「セージスタ、何か変わったものはないか、気になるものでもいいが」

「ありません」

「ノコージとボコシラは」

「無いのぉ」「無い」


「セージスタはこれをアイテムボックスにしまえるか?」

「うん、できると思うよ」


 おぞましい波動がしみ込んでいるイナンナの欠片を恐々と欠片に触って――ゾクリと悪寒が走った――アイテムボックスに放り込む。


「再確認して何もなければ上に戻るぞ。

 ノコージ頼む」

「<テレポート>」


  ◇ ◇ ◇


 巣からリュアナッパ村まで戻ってきた。

 イナンナの欠片を出してまずは僕ら九人とリュアナッパ村の元気なエルフ数人と確認する。


 イナンナに欠片におぞましい波動はどうやって染みついたんだろうか。


 それとは別に僕とミクちゃんは感慨深いものがある。

 これそのものじゃないけど、このおおもとの浮遊島のイナンナが地球に落下して僕たちが亡くなって、このバルハラドに転移してきたんだ。


「何かわかりますか?」

「いや、エルフの中でこういったことに詳しいのはいるか」

 僕は緊張を含んだ乾いた声でプコチカさんに訊ねてみたけど、丸投げだった。


「オルトラ婆様だろう」

「ああ、我が村だとオルトラ婆様しかおらんな」


 その心当たりのあるというオルトラ婆様は今だ体調不良で寝込んでいるうちの一人だということだ。


  ◇ ◇ ◇


 夕方のプコチカさん、ノコージさん、そしてガイアディアさんのヴェネチアン国本部への報告では、イナンナの欠片の提出を要求されて、ひと悶着あったそうだけど、エルフに話を聞くまでは僕たちチームの保管となった。


  ◇ ◇ ◇


 リュアナッパ村の最長老のオルトラ婆様に話を聞けたのはイナンナの欠片を持ち帰った翌日、五月九日黄曜日の夕方だった。


 オルトラ婆様、前回の大災厄の生き証人で年齢は三五〇才を越しているそうだ。

 さすが長命種族のエルフだけど、一般的には二〇〇才ほどが寿命だ。

 身体魔法のレベルが高くても、通常だと一〇〇才以上の延命なんて無理だって聞いている。


「エルフは延命効果が聞きやすいんですか?」

「エルフの中には長命のスキルを得る者がいるんだ」

 僕の疑問はラーダルットさんの答えで氷解した。

 オルトラ婆様もその一人なんだろう。


 かなり以前に村長の職は辞して、村長はオルトラ婆様の孫が継いでいる。


「デビルズ大陸は魔素や魔法力を取り込みやす土壌が多く、浮遊大陸の多くがデビルズ大陸の土でできておる。

 ただ浮遊大陸になる土壌は特殊な場所で、聖域される場所なのじゃ」


「浮遊島が崩壊する時は神の怒りに触れた時で“魔の波動”に侵された時じゃ」


「“魔の波動”に侵されて漂い続ける浮遊島もあるが、あれは邪の浮遊島じゃな」


 浮遊島の数は現時点不明だが大災厄以前は二八個空に浮いていたそうだ。


 その後はデビルズ大陸には強い魔獣の巣窟となっているダンジョンがいくつかあるそうだということを聞いたくらいだ。


 ウンチクのある話を聞いたけど、オルトラ婆様は最後に教えてくれた。


「もっと詳しく知りたければ太古の語り部がデビルズ大陸の奥地にいるから尋ねるのが良かろう」

「強い魔獣が跋扈(ばっこ)している中でまだ奥地にエルフが暮らしているんですか」

「強い妖精(フェアリー)に守られておるからな」


 その後も少しだけ話をしたが、オルトラ婆様に疲労が見えたのでお開きとなった。


「ねえ、ミクちゃん。

 魂魄管理者(女神様)から強くなれってのはオルトラ婆様の言ってたダンジョンのことじゃないかな」

「セージちゃんもそう思たんだ」

「やっぱりミクちゃんも」

 だけど今回は忙しくて行けそうになさそうだ。


 それとは別に村長や元気なリュアナッパ村の村人を集めて、ヴェネチアン国で暮らさないかって、声がけをした。

 回答は即答は無理だろうから数日間後ということにした。


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