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次元災害で異世界へ  作者: 真草康
デビルズ大陸調査編
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167. デビルズ大陸調査 エルフの村へ


 レーダー内というか空間認識内であれば空中でも転移は簡単だ。


<フライ><身体強化><フィフススフィア>『加速』『並列思考』『隠形』……

 落下しながら戦闘態勢をとる。


 落下が止まった時点で腰の紅銀輝を抜く。


「<ホーリービッグバン>」


 木々をへし折り、押し倒しながら走るステドラス――二本の長い角と牙固いうろこを身にまとった姿はステゴザウルスを凶暴にしたような魔獣――の頭上に白い光とともにプラズマ火球が出現する。


 ステドラスが濃密な風の防御被膜をまとっていることは見て取れたし、うろこに魔法力が流れるのも感じとれた。


 ホーリービッグバンの効果を見学している暇はない。


「<ホーリービッグバン><ホーリービッグバン>」

 もう一度だ。


 GYAWAAA---NN。


 効果のほどは不明だが痛みなのか、激怒なのか雄叫びが上がる。

 その雄叫びを聞きながら、急いで木々の中に身をひそめる。


 ステドラスは肩に大きな傷があることからすると昨日の個体だろう。

 ティラレックスはやっつけたのか?


 エルフは二人で子供みたいで、僕の攻撃で少しは距離を稼げたみたいだ。


 GYAWAAA---……。


 ホッとした瞬間、空中にオレンジのブレスが炸裂する。

 ミラーシールドがあっても真正面から受けたいと思わない。

 怪獣映画かってか。たまったもんじゃない。


 それにしてもあれだけの火力をものともしないのか。レーダーで確認できるところでは、あまり傷ついている様子がなさそうだ。

 これはゲリラ的に陽動で動くしかないな。


「<ホーリービッグバン><ホーリービッグバン>」


 樹上に魔法陣を出して再度の魔法攻撃。

 現在は二〇メルまでなら難なく離して魔法陣を出現させて魔法を放つことが可能だ。

 そのかわり体から離し過ぎると魔法力の効率が落ちて威力が落ちるから、これ以上離すとなると精神集中が一気に求められる。もしくは魔法陣が一つになるかだ。

 難し戦闘中だと手元から離せる限界が魔法二つで二〇メル、一つだと二七~八メル程度だ。


 ちなみに他のことを何も考えずに集中できれば左右の両手と、眉間、それと頭上の合計四つまで同時に制御して魔法を放てるようになったが、あくまでも練習場でのことだ。

 戦闘だと両手に眉間――実際は頭頂の上――の三か所による同時魔法がいいところだ。


「<スカイウォーク>」

 フライをしながらも樹上を駆けてステドラスの後方に回り込んでいく。


「<ホーリービッグバン><ホーリービッグバン>」


 GYAAWAAAA---NN。


 体から魔法陣を離すと照準が甘くなるから、これでうまくいくわけはない。

 少し走ってから止まる。

 ステドラスは六〇メル先で立ち止まって周囲を索敵しているみたいだ。

 エルフはその一〇〇メルほど先を駆けている。って、転んだか。


 しかたない。

 もう一度走りながら、

「<ホーリービッグバン><ホーリービッグバン>」


 GYAWAAA---……。


 位置がバレたか、オレンジのブレスが今まで居た場所を薙ぎ払う。

 さすがに樹木で威力が落ちているから、この程度だとフィフススフィアは破られることはなさそうだ。


『隠形』『認識阻害』に魔法力をマシマシで込める。

 少し離れて、

「<ホーリービッグバン><ホーリービッグバン>」


 GYAUWWAAA---……NN。


 やっとこっちに向かって走ってきたか。

<スカイウォーク>

 最大脚力、いやいや、ステドラスに合わせて退避する。

 どうやら体のあちらこちらに火傷は負っているみたいだ。さすが無傷ってことはなかったようだ。

 なんとなく戦えば勝てるって気もしないでもないけど、油断は禁物だ。


 そんな時にぐらりと地震が来た。

 小さいからどうでもいいや。


 さてこの辺でいいか……<テレポート>……って、アレッ。

 飛べなかった。これがノコージさんが言ってた浮遊島の現象か。

 やべ、ステドラスが近い。


<スカイウォーク>

 これもダメか。


 森の中を必死で走る。

 樹木を避けて走るのと、なぎ倒して走るのがほぼ一緒というか向こうの方がやや早いのか。

 エルフってこんな草むらの中をよくもまあ走れるもんだ。


 並列思考をフルに使って<スカイウォーク>……おお、できた。

 樹上に飛び上がって走る。


 もう一度精神を集中して<テレポート>



 飛べた。離脱完了。

 浮遊島の影響って地震も関係するのかな?


「ただいまー」

 空中のみんなのところに無事戻れた。

「エルフの子供たちはこっちに駆けてくるよ」


「セージスタそれよりもだな! よくも一人で…」

「セージちゃん! たった一人で…」

「セージ、また単独行動とは…」


 集中砲火、四面楚歌だ。僕聖徳太子じゃないんだから……。

 でも言っている意味は理解できた。


「ご、ごめんなさい」


「あー、プコチカ、エルフの子らを迎えに行ってくれるか。

 みんなは下に降りるぞ。

 お小言は帰ってからだ」


 え、まだ続くの……。


「セージちゃん、なにアゼンとしてるのよ。これくらいで許されることじゃないでしょう」

「セージ一人の調査じゃないからな」

「相変わらずセージは唯我独尊、自分は大丈夫って思って行ったでしょ」


 ミクちゃんとルードちゃんはともかくも、キフィアーナちゃんには言われたくない。


「何よその眼は、言いたいことがあるんならハッキリといいなさいよ」


「ゴメンナサイ、ナニモアリマセン」


「セージスタはいい友達を持ったな」

「青春とはいいもんじゃな。見てて気持ちが良い。ガハハハ……」


  ◇ ◇ ◇


「トチェアカチュアチャトッテュアレトアナルド~、あぁ~~~ん」

「オ、オネガトッテュアセット…ビエーーーン」

 ボコシラさんがエルフの子供二人を連れてきたけど、理由を聞きだす前に訳の分からん言葉を話し、泣き出してしまった。


「エマオノコドショウレット……」

 ラーダルットさんが訳の分からん言葉で話しかけると、二人の子供の泣き声がピタリとやんだ。


「トチェア(ヒック)カチュアチャトッテュア(ウグッ)レトアルトレッドナル…」

 そして男の子の方が訳の分からんことを泣きながらまくし立て始めた。

 所々うなずき声を掛けるラーダルットさんだ。


「ルードちゃん、何言ってるかわかる?」

「エルフ語のようだけど、古い言葉なのか、方言なのか、わからないところがいっぱいあるわね。

 それでも『エルフの村』村名はリュアナッパかな。あとは『壊れた』、『危ない』、『助けて』ってのは分かるから、リュアナッパ村に何かがあって助けを求めてきたんだと思うわ」


 いろいろと聞き出し終わったのかラーダルットさんがこちらを向いた。


「ここから約五リーグ、だいたい八キロほどにリュアナッパ村というエルフの村があるそうだ。

 そこではわずかばかりのエルフが妖精結界の中で暮らしているが、周辺で強力な魔獣の群れがいつくようになり、悪いことに失魔病のような病気で何人ものエルフが働けなくなった。

 妖精結界を張る三体の妖精も二体が弱っていて、妖精結界が破壊されてしまった。

 兄妹二人で着の身着のまま飛び出して、ギルガメッシュ山脈にある隣村に行こうとしてたところだそうだ」


 やはりエルフは小さな村で細々と生きていたようだ。


「セージたちは帰還しろ」

「プコチカさんたちは」

「決まってるだろう。救援に行く」

「行く」

 ボコシラさんはいいから。


「僕たちも行きますよ。ね、ガイアディアさん」

「いやダメだ。戻るぞ」

「いいえ、反対します。ついていきます」

「当たり前、ダメっていっても行くから」

「キフィアーナちゃんが心配なら、ガイアディアさんがキフィアーナちゃんを連れて帰ればいいでしょ」

「そ、そういう訳にはまいりません」

「とにかく行きます。ラーダルットさん急ぎましょう」

「そうね、急いでいきましょう」


 もめたが結局時間が無い。

 もめても意味がないとのことで、プコチカさんが近距離電話(マジカルフォン)でこれからの行動、救出したエルフ子供をエルフの村まで連れていく、ことを報告する。


 ヴェネチアン国の調査本部の方でももめたが『了解』の回答が返ってきた。

 そして、

『セージスタ無理をするな。みんなを守れ』

「わかった。頑張るよ」

『頼むぞ』

 フォアノルン伯爵、伯父様の叱咤激励もいただいた。


 負の魔素や魔法力の多いデビルズ大陸ではマジカルフォンもノイズが多く、簡潔な言葉のやり取りになってしまう。


  ◇ ◇ ◇


 エルフの兄はルディルージャ君(一三才)といい、妹はリリアージュちゃん(九才)だ。

 二人の希望でリュアナッパ村の妖精結界の一キロ手前まで身体強化で急いできた。


「あれが魔獣か」

「はい、そーですが、あれは少ない、いえ、小さい方です」

 エルフの兄の方のルディルージャが答えた。

 僕らが使用する一般のバルハラ語もしゃべれるが拙い。イントネーションも違っていて聞き取りづらい。


 ルディルージャ君は現在はそれなりにキリリとしているが、あれだけの泣き顔を見てしまっているからか、僕たちの視線を感じると顔を伏せて真っ赤になってしまう。

 けっこうシャイなところがあるようだ。


 リリアージュちゃんは、バルハラ語はルディルージャ君より上手い。

 ただ人見知りであまりしゃべらない。

 そういうこともあってリリアージュちゃんはルディルージャ君の後ろに隠れている。

 唯一僕らで会話ができるのがラーダルットさんだけだ。


「もっと大きなものがいるのか」

「はい」


 バレットアントは通常の兵隊アリが一.五メルもある巨大なアリで、強烈な蟻酸の散弾を放ってくるそうだ。

 強さは“50”前後、防御で考えれば“65”前後だ。


 他には攻撃アリ――離れた場所を歩いている――がいて、そいつらは二.五メル前後もあって蟻酸の散弾も圧縮されているうえに大きいのでかなり強烈なんだそうだ。

 強さは“85”前後、防御だけだと“100”前後だ。


 看破は相変わらずあいまいだ。

 ルディルージャ君とリリアージュちゃんから聞き出した内容だ。


 念のためノコージさんがボコシラさんと飛んで、兵隊あると戦って確認したから間違いはない。


 兵隊アリもそうだがキチン質の体は通常の剣や矢だけではなく魔法耐性も強いそうだ。

 ことによったら強化か硬化などのスキルを併用しているかもしれない。

 それが統率の取れた集団で襲ってくるし、七、八匹程になるとギシギシと牙を鳴らす音が錯乱音波となるからたまったものじゃない。

 ディルージャ君の情報とレーダーで確認できたことだ。


 デビルズ大陸でここ最近出現した昆虫魔獣で、アーノルド大陸やバルハ大陸では知られていない魔獣だ。

 それを言ったらティラレックスとステドラスも同様だ。


「あれは兵隊アリってことか」

「はい、ボクたちじゃー、兵隊アリ、かなわない」

「そっか、良く逃げたな。

 ラーダルット、どうだ?」


「妖精結界はキッチリと張られているから、上手いこと張り直せたのか、破壊といっても部分的だったんじゃないか」


 僕の空間認識では結界があることは認識できるけど、見た目には何もない。

 みんなも聞いていなければ何も感じ取れないレベルだろう。


 妖精結界の直径は三七〇~三八〇メルほどか。思っていたより小さい。

 小さいとはいえ全面崩壊だとしたら再度張り直す時間もないだろうし、エルフが全滅していてもおかしくないはずだ。

 それともほんの数人のために張り直したかだ。

 いやいや、あまり不吉なことは考えない。考えないっと。


「ルディルージャ、リリアージュ準備はいいか。

 ラーダルットは二人の面倒を見てくれ」

「了解した」


 ルディルージャ君が首から下げた結界解除の結界鍵魔石(キーストーン)を手にしてうなずくと、慌ててリリアージュちゃんもキーストーンを手にする。


 首に下げた結界鍵魔石(キーストーン)は各個人用で、持ち主が魔法力を込めてリュアナッパ村の妖精結界に触れると数秒間だけ妖精結界に穴をあけることができるんだそうだ。


「それじゃあ、蹴散らすぞ」

「待って!」


 目の前の妖精結界の周囲には兵隊アリが一二匹しかいないから楽勝だ。攻撃アリはかなりはなれていると思ったけど、数匹からかすかに“黒い波動”が見て取れた。


「どうした」


「僕たちは“黒い波動”って呼んでいるけど、負の漏れ出し口から出てくるまがまがしい波動をバレットアントがまとってる。

 ワンダースリーのみんなはギランダー帝国のスカポランダー宰相がまとっていた嫌な波動っていったらわかるよね」


 ミクちゃん、ルードちゃん、キフィアーナちゃんが驚いてバレットアントを再度観察する。

 そして驚愕へと変化する。


「それは尋常じゃないな。何か気を付けた方がいいか」


「あの強さなら問題ないと思うけど、念のため体内の魔法力を活性化させて黒い波動に侵されないように気を付けるだけです。

 あとは戦闘の前に念入りに浄化するだけだと思う」


「了解した。みんな聞いたか」

 全員がうなずく。


「セージ、まずはやってくれ」


「はい、<ホーリーフラッシュ><ホーリーフラッシュ><ホーリーフラッシュ>」

 白い光が炸裂する。まぶしい。

 空気が綺麗になって、バレットアントが苦しみだす。


「一人一匹か二匹だ。早めに倒した奴が追加で倒してくれ。行くぞー!」

「「…「おー!」…」」


 このメンバーでしとめ損ねる人はまずいない。

 何とも締まらないか掛け声で一斉に駆け出す。


 危険を感知したようで攻撃アリが駆け寄ってくる。


「<ハイパーホーリーソーラーレイ><ハイパーホーリーソーラーレイ><ハイパーホーリーソーラーレイ>……

<ハイパーホーリーソーラーレイ><ハイパーホーリーソーラーレイ><ハイパーホーリーソーラーレイ>」


 長ったらしい名前だな、と思いながら魔法を放つ。


 マシマシの個人魔法で、駆け寄ってくる攻撃アリ二体を攻撃する。

 キチン質の光沢のある表面は光をある程度反射するのでソーラーレイは効率の良い魔法じゃないが、妖精結界にダメージを与えず攻撃できる魔法はこれしかない。

 それもこれだけ威力を減らしての魔法は初めての経験かもしれない。

 倒すことはできないけどダメージを与えたようで速度がガクンと落ちる。


 ミクちゃんとルードちゃんも僕に習ってハイパーホーリーソーラーレイで攻撃をするが、やはり気を使ったようで僕より威力は弱い。

 一発ずつしか撃てないので二連射で弱らせただけだ。

 ただこちらは兵隊アリへだ。


 弓にこだわりのあるルードちゃんもホーリーソーラーレイはいたくお気に入りでかなり練習した。

 イメージ的には弓を弾く感覚で撃(射)っているようで、左手を伸ばして照準を定める独特のポーズだ。


 ちなみにキフィアーナちゃんはまだホーリーソーラーレイを撃つまでのレベルに達していない。ソーラーレイどまりだ。


「<ハイパーホーリーソーラーレイ><ハイパーホーリーソーラーレイ><ハイパーホーリーソーラーレイ>……

<ハイパーホーリーソーラーレイ><ハイパーホーリーソーラーレイ><ハイパーホーリーソーラーレイ>」


 最大加速でサクッと二匹の兵隊アリを倒しアイテムボックスに放り込む。

 それにしても“ハイパーホーリーソーラーレイ”って実戦で使用するには長ったらしくて言いにくい。ダメだ。


 僕に遅れてボコシラさんも一匹を屠っている。


 あっという間に一二匹のバレットアントの兵隊アリを倒す。


 攻撃アリを倒しに行こうとすると声が掛かった。

「ここだ」

 ラーダルットさんが呼ぶ。

 すでに妖精結界に到達していたルディルージャ君とリリアージュちゃんが、結界に通路を作っている。


 バレットアントをミクちゃんとノコージさんとで手分けしてアイテムボックスに放り込んで通路を潜る。

 最後まで残ったプコチカさんとボコシラさんが通路を潜ると通路が閉じた。


 数メルの霧のような壁にできた通路を通って中に入ると“黒い波動”をかすかに感じた。


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