162. 七沢滝ダンジョン見学会
七月二四日黒曜日朝。
僕たちいつものパーティーメンバーは四人で、ミクちゃん、ルードちゃん、リエッタさんだ。
他国の方々が居る中で、キフィアーナちゃんをパーティーに加えるわけにはいかなかった。
随分とふてくされていたけど。
七沢滝ダンジョンへと<テレポート>で転移した。
ちなみにカートリッジライフルはキフィアーナちゃんとヒルデさんについ先ほど渡したばかりだ。
「四頭身とか、面白いゴブリンが徘徊してるね」
「デフォルメって言うんだっけ、この変なバランスの魔獣たちのこと」
「え、ルードちゃん、なんでそれを?」
「え、って、セージが時々ブツブツと言ってるから覚えたんだ。違ったか?」
「いや、合ってる」
まさか知らずに呟いていた言葉を、ルードちゃんが記憶してたなんて。
「名前はいいから、それよりダンジョンの外に出てるから、どうするのよ」
「どうもしない。ただ確認に来ただけ」
「もちろん中も確認していくんでしょう」
「そうなるね」
その後に七沢滝ダンジョンに入っていった。
「ここには三層のゾンビやレイスがいますね」
一層では三層の魔獣を時折見かけた。
「ゴーレムがここまで」
二層の奥ではゴーレムがいた。
三層。
「キラーマンティスがいたけど、二層の魔獣が降りてきているの」
「ゴーレム発見」
「毒沼から、クラゲの触手が」
「どうやら上下の層の魔獣が、数は少ないけど入り混じってきているみたいね」
相変わらず、キャー、と悲鳴が上がるが最初の時から比較すると、悲鳴の確立がかなり減ったし、バーカーサーになることはなくなった。
四層では。
「レイスがここにも」
「オーガもいますね」
「ここでも上に行くだけでなく、下にも広がっているんですね」
「三層でも同じだったけど、上下の層の魔獣が多くなったみたい」
「いや、比率的には同程度じゃないかな」
「ボランドリーさんたちから聞いていた通りだね」
確認した通りだからいつもと進行速度が遅い。
五層に踏み込んで周囲を確認して、エスカレータで四層のセーフティエリア、ボス部屋の後ろに戻ってキャンプした。
もちろんいつもの手順で魔獣監視装置を設置する。
いくらセーフティエリアといえども他の層にどうやって移動しているか不明だから当然の処置だ。
「ねえ、僕たちオーラン魔法学校の生徒だよね」
「多分、そうだと思うけど」
「学校を休んでまで調査を頼まれるって、おかしいよね」
「それを言ったら、他国から頼まれて出かけて行った時点で違うと思うんだけど」
「あー、そりゃーそうだね」
七沢滝ダンジョン内の魔獣が周囲に出現し、ダンジョン内でも層ごとにキッチリと別れていた魔獣が、他の層でも目撃されているとのことで、最下層の一〇層までがどうなっているか確認してきてほしいという依頼だ。
そうなるとダンジョンの周辺から、各層の状況を確認しながらじゃなければ一〇層なんて行ける訳はない。
何か知らの変化があるはずだ。慎重に進むのは当然のことだ。
そうはいっても進行速度は異常だとは思うけど。
特別な変化や、注意すべきことを発見すれば、まあ、その危険度によるけど、報告に帰還することにもなっている。
ちなみにボランドリーさんたち冒険者ギルドが調査したのは七層までだそうだ。
他国の冒険者や神の子が潜るのが、その辺あたりまでだろうということで集中的に調査したそうだ。
あとは、ボランドリーさんがオケアノス海周辺諸国会議に参加していることもあって、ニガッテさんだけではそれ以上の層に進むにはリスクが高いという判断もあったそうだ。
◇ ◇ ◇
八月一日赤曜日、各国の冒険者や兵士が七沢滝ダンジョンの調査で潜る日だ。
順番は昨日のうちに決定しているはずだ。
朝の八時から四〇分ごとに七パーティーが入ることになっている。
他国の促成栽培要員で、ボランドリーさんさんたちが、ガイド兼促成栽培方法のレクチャー要員として同行する。
一旦、総合の値上がれば、経験を積むのは、それなりの時間が掛かるけど、どうにかできることだ。
そのようなことを思いながら再度エスカレータで五層に下りていく。
上下の層の魔獣が時々見かけるだけで特に変わり映えはしない。
「以前より負の魔素と魔法力の濃度が上がってないかな」
「確かに上がっているようね」
「魔獣も微妙に強くなってないか」
「大災厄以降、魔獣が強くなっているっていうのはダンジョン内では顕著なのでしょうか」
「七沢滝ダンジョンは、新しいから、まだダンジョン自体が成長してるんじゃないの」
「セージちゃん、そんなことってあるの」
「僕がここに最初に入った時に、魔獣を強くする魔法陣をオーガたちが描きだしたってことがあったんだ。
知らないうちに魔獣が強くなっていたっておかしくないんじゃないかって思ってさ」
「魔獣を強くする魔法陣? なんだそれ?」
「ワンダースリーのノコージさんだったけな?」
あれ? 教えてもらったのって誰だったっけ、と思ってニュートだと思い出した。
まあ、いいか。
「とにかく、魔獣が自分たちで強くなるって手段は何通りかあるみたい」
「負の漏れ出し口に自分の体を突っ込んで、黒い霧や黒い波動を発生させるジャイアントグラトニーラフレシアなって魔獣もいたしね」
そんな会話をしながら進んでいく。
「降りるよ」
「うん」「ああ」「行きましょう」
◇ ◇ ◇
「七層から負の魔素と魔法力の濃度が上がってない」
「なんとなく圧力のようなものを感じるね」
「確かに濃くなっているな」
リエッタさんも三人の意見にうなずく。
更に慎重に進んでいく。
負の濃度はその後も上がっていった。
九層を確認して、エレベーターで上がって八層のセーフティエリアでキャンプした。
◇ ◇ ◇
八月二日青曜日。
九層に降りた。
「上下階からの魔獣が入り混じっているのが、より顕著になってはいるし、魔獣の数が増えてはいるから危険度は上がったけど、それ以上の変化はみうけられないよね」
「気を付けて見てきたから間違いはないよね」
九層の強化レッドオーガに強化ストロングオーガなどの強化オーガに、今までだったら八層にいたバードゴーレムにバードゴーレム、それにデカメタルゴーレムが出現する。
そして岩のそうなはずが所々に植物が生え、一〇層の動物系の魔獣もいた。
それだけではなく、七層にいたバンパイアゾンビも一度遭遇した。
もちろんジャイアントホグウィードなどの危険な植物は焼き払いながらだ。
「ヤッパリ強くなってるよね」
「そうみたいだね」
ダンジョン内では魔獣だけでなくジャイアントホグウィードも耐性が付いているのか燃えにくい。
幸いなのが黒い波動が無いことだけど、更なる注意が必要だ。
「それじゃあ、いよいよ一〇層だね」
「うん」「ああ」「行きましょう」
エスカレーターを降りた。
「大きな空間だったのが……」
「随分とダンジョンぽっくなったわね」
「そうだね」
ミクちゃんとルードちゃんの感想が物語っていた。
そこはだだっ広い世界、濃密な密林……なんだけど、広い空間。そうなんだけど、密林の巨大な洞窟のようになっていた。
九層の続きなのか?
「魔獣に変化わないね」
「そうみたい」
そう思ったのはしばらくの間だった。
一〇層には、以前以上の種々雑多な魔獣が存在していた。
探索は時には注意深く、ジャイアントホグウィードの密集地帯などは大規模に焼き払って、そして時には大胆に進んた。
「この層だけ随分と様変わりしたな」
「ホントですね」
「オーガにゴーレムに、動物系の魔獣が多めだけど、さっきはキングスライムゾンビが出現したしな」
「今度は猿系魔獣、ギガントピテクスの群れですか」
探索してコンビニを発見。たぶん…。
「ボス部屋だろうな」
「そうでしょうね」
コンビニに入ると、奥に扉があり、そこを開けるとエスカレーターがあった。
みんなでうなずいてエスカレーターに乗って下る。
エスカレーターのサイズからすると感があられない大きな空間。
直径二五〇メルほど、たかさは一〇〇メルほどの岩の空間だ。
低木の樹木も散見できる。
空間の奥の方から出現したのは強化デミワイバーン一匹と、デミワイバーン三匹だ。
もちろんデフォルメバージョンの強化デミワイバーンとデミワイバーンだ。
「ルードちゃんとリエッタさんは下からのけん制をお願い。
ミクちゃんは僕と一緒に、上空へテレポートして垂直効果による突撃。
途中気づかれて反撃してくることも考慮して、気を付けてね」
「了解」「任せなさい」「気を付けてくださいね」
僕の経験則から、鳥魔獣などの飛翔する魔獣は背後からの攻撃に弱い。まあ、当然のことだ。
それは以前から伝えてあるし、ワイバーンと戦った時に攻撃方法も伝授した。
上空からの攻撃は反撃は難しくとも気づけば回避は行える。
攻撃方法の伝授はその回避された時の判断によって、ステップなどの方向転換、最悪の緊急回避できるのがテレポートのポイントとなる。
それができるのは時空魔法所持者のミクちゃんだけだ。
必然的な割り振りだ。
ただし下からタゲを取るけん制があれば、上空からの攻撃の成功率は一気にアップする。
<身体強化><フィフススフィア><フライ>『レーダー』『加速』『並列思考』『隠形』『情報操作』
戦闘態勢を取り、ミクちゃんと手をつないで、
<テレポート>
強化デミワイバーンの上空に飛んだ。
一瞬の落下と浮遊感を感じる。
ミクちゃんの表情も一瞬こわばったけど、お互いにコリとほほ笑んでおしまいだ。
ミクちゃんにどれと指で問いかけると、一匹のデミワイバーンを指さし指定された。
OKの合図を送る。
ルードちゃんとリエッタさんのは魔法攻撃が開始された。
僕たちへの被弾を考慮して、射程の長い魔法、刺突力の高い魔法は使っていない。
上手く岩陰に隠れながらの攻撃だ。
僕はGOと指差しまずはミクちゃんを突貫させる。
一瞬遅れて僕は強化デミワイバーンに突貫する。
風の防御被膜を翼まで展開する前にミクちゃんのショートスピアがデミワイバーンに突き刺さる。
僕の目標の強化デミワイバーンは、ミクちゃんの攻撃に感じ取ったのか体をひねりながら風の防御被膜を展開してしまった。
それでも魔法力を込め高周波ブレードと化した紅銀輝を、<ステップ>で死角に飛んで、強引に風の防護皮膜を突き破って強化デミワイバーンに突き刺す。
浅い。
GYAWAAAーーーNN。
ひねる体に合わせて<ステップ>で更にグッと押し込む。
一緒に魔法力を流し込んで<ハイパーボルテックス>がバチバチッとはじけてしとめる。
ミクちゃんも無事に止めを刺せたようだ。
僕とミクちゃんはお互いの獲物をアイテムボックスに収納しる。
並列思考で残った二匹のデミワイバーンの今度は僕とミクちゃんがけん制する。
下からカートリッジライフルの小さなババンとの発砲音が聞こえ、デミワイバーンの翼に短針を突き刺し電撃を放つ。
風の防御被膜がよわわった片翼にワイヤーネットを掛ける。
<ハイパー粘着弾><ハイパー粘着弾>
<ハイパー粘着弾>
僕とミクちゃんが粘着弾を連射すると、再度ババンとカートリッジライフルの発射音が聞こえた。
二匹のデミワイバーンが落下する。
あとはルードちゃんとリエッタさんへお任せだ。
見る間に二匹のデミワイバーンは息の根を止めた。
ボス部屋を後に裏に進む。
「一一層があるってことだよね」
「ダンジョンが成長してるってことじゃあないでしょうか」
「現在も成長しているかは、行ってみるしかないわよね」
エスカレーターを前に僕とミクちゃんが当然の言葉が漏れる。
ルードちゃんは嬉しそうに早く行こうと促す。
一一層はジャングルだけど蒸気が噴き出て、熱湯の川が流れる灼熱のエリアだった。
アマゾンの「沸騰する川」を彷彿とさせる。
ムッとする蒸気は霧を発生させ、蒸し暑いし、視界も悪い。
生態系は猿魔獣が多く、その中ではキングマッドゴリラ(強さ“85”前後)の群れや、四腕暗殺猿が厄介だ。
遭遇する魔獣で強いのは強化デカメタルゴーレムに灼熱大岩トカゲだ。
レッドロックリザードは体長三メル~五メルと大小さまざまで、体全体で高熱を発し火炎のブレスは吐く。
「こうなるとソーラーレイは役に立たないね」
「威力が半減、いやそれ以下になっちゃうもんね」
アクアダンジョンでも感じたが、ソーラーレイは乱反射して威力がガクンと落ちる。
火系や電撃系に粘着系も一緒だ。
魔法全般に渡って威力が落ちる。遠いところを狙うなんて論外だった。
「でも威力が落ち過ぎじゃない?」
「言われてみればそうかも」
「負の魔素や魔法力の影響もあるんじゃないかな。
アクアダンジョンでホーリーフラッシュをした後に魔法の威力が上がらなかった?」
ルードちゃんの意見にハッとした。
気づかなかったけど、アクアダンジョンでは黒い霧を消滅させるだけでなく、清浄になって気分がいいからってよくホーリーフラッシュを放っていた。
バルハライドはゲームの世界じゃないんだってわかっていても、その延長線で物事を考えていた。
もっと多角的に見ないとね。
「そうだよね」
大きくうなずいていた。
魔法を検証しつつ注意深く慎重に進み、何とか次元の裂け目を発見したのはその日の夕方だった。
「これはあまり変わらないね」
「そのようね」「そうだな」
「それと負の魔素と魔法力の影響で魔法の威力って落ちるのは確かだね」
確かにホーリフラッシュを放った後の攻撃魔法の威力が上がっているように思うし、白い力を込めても威力は格段に上がった。
ただ単に下層の魔獣は魔法耐性がメチャクチャ高いってわけじゃないってことだ。
「霧だけの影響じゃ無いよね」
「霧自体が魔法を阻害しているみたいだよね」
「霧自体が負の魔素と魔法力を含んでいるからじゃないかな」
魔法は雨や霧の直接的な要因と、負の魔素と魔法力によっても威力は落ちるのは確かなようだ。
「ダンジョンで魔獣の魔法耐性が高いのもその所為だったみたいだね」
「きっとそうだよね」
妙に納得できた。
レーダーなどのスキルからテレポートなどのことを考えても当然のことだ。
何で思い至らな方んだろう。
ジャイアントホグウィーツもホーリーフラッシュ後には簡単に火が付いたし、オーガやゴーレムにも魔法の効きが格段によくなる。
<テレポート>を多用して、八層のボス部屋の後ろ、セーフティエリアでキャンプした。
こうなるとテレポートも興味深く観察してしまうが……飛び元の現在地はともかくも、跳び先や空間にも影響があるのか、テレポートまではダメだった。
階段――ここではエスカレーターだけど――と階層の高さがマッチしてない時点で次元の歪みてことが考えられるから、時空魔法に歪みが生じるのも、またスキルでダンジョン内の空間認識がおかしくなるのもわかるんだけどね。
その他にもことあるごとに何度も検証を行って、魔法の威力が落ちるのが負の魔素と魔法力だと確信できた。
それと僕が初めて七沢滝ダンジョンにテレポートして入った時よりも負の魔素と魔法力の濃度が上がっていることが判明した。
◇ ◇ ◇
八月三日黄曜日。
八層に出るとロト国のパーティーと、そしてヴェネチアン国のパーティーにも遭遇した。
「しばらく一緒にお願いします」
「師匠元気にしていましたか」
ロト国のパーティーにはニガッテさんと冒険者が一人、ヴェネチアン国のパーティーにはボランドリーさんと冒険者が一人それぞれ補助に付き添っていた。
ちなみにヴェネチアン国のパーティーは八人で、子供が五人、リーダーはセージのなじみ深い弟子の近衛第二隊長ガイアディアさんだ。
そしてキフィアーナちゃんはパーティーにはいない。
ロト国の方のパーティーも八人で、子供が四人、リーダーはクロキットさんというおじさん騎士だと思ったら、騎士団長だそうだ。それと、知り合いのそばかす顔のドーラさんがいる。
明らかに僕らを意識した人員だと思えるけど、ま、いいかってことで二四人の大所帯だ。
「それで一一層ができていたんですよ」
「ええ、驚きました」
「冒険者ギルドと市役所には映像を届けます」
休憩中にボランドリーさんとニガッテさんに七沢滝ダンジョンが成長していることを報告した。
休憩中にクロキットさんに声を掛けられた。
「みなさん、近いうちにまたロト国においでいただけないでしょうか」
「どういったご用件でしょう」
「アクアダンジョンの攻略法の確立にご助力願いたい」
「セージスタ殿は多才で、七沢滝ダンジョンの攻略法も作られたとか。
それをロト国にもご伝授いただきたい」
いやいや、待ってよ。
ワイヤーネットでメタルゴーレムを狩って経験ゲットのレベルアップってそれはそうだけど。
その後の創意工夫はボランドリーさんがやったことだから。
オーラン市の冒険者がここ最近急激にレベルアップを図っていることは周知の事実だけど、それまでも僕だと言われてようで居心地が悪い。
「いやー、マリオン国やオーラン市に依頼して冒険者ギルドに掛け合ってください」
「それと噂で聞いたのだが、複写用の魔法陣もレベル6とかレベル8とか作成されたとか。
それも譲ってくださらんか、もちろんそれ相応の料金をお支払いする」
え、何処からその情報が漏れたのかな。
「貴殿、セージスタ殿に頼み事とは」
クロキットさんとの話に、ガイアディアさんが割り込んできた。
「先ほどから何度か師匠という言葉を伺っておるが、セージスタ殿がおぬしの師匠なのか」
「いかにもそうだが、それが何か?」
「いや、なんでもない。
セージスタ殿、どうかよろしく頼む」
「師匠、そのようなものがあれば、わがヴェネチアン国にも是非に譲っていただきたい」
クロキットさんとガイアディアさんに頭を下げられてしまう。
ボランドリーさんに助けを求めるも、「範疇外だ。じぶんでなんとかしろ」ということでお手上げだ。
「ダンジョンから出たら、パパかウインダムス議員に確認を取って連絡します」
その後は、すがられてしまって、結局七沢滝ダンジョン見学会と称するレベルアップに付き合ってしまった。
◇ ◇ ◇
ダンジョンを出たのは八月六日黒曜日、夏季休暇の初日だった。
まずは、負の魔素や魔法力の濃度が上がると魔法の威力が落ちることを報告した。
かなりショックだったみたいで、至急各国に報告及び調査依頼をお願いした。
僕とミクちゃんとルードちゃんはかなり遅れての二学期の期末試験を受けた。
「僕たちって学生だよね」
「多分そうだと思うけど、最近自信はないよね」
「ふらりは優等生でいいけど、ウチは大変なんだからね」
パパとウインダムス議員はヴェネチアン国とロト国を相手に打ち合わせを持った。
結果、僕の了承の下、レベル8までの複写用魔法陣の作成を請け負うこととなった。
魔法陣の作成は魔素や魔法力との相性が良くなければ作成できない。
「難しいよね」
「ウチは無理」
ミクちゃんは作れるけど精神集中が必要だそうで、ルードちゃんもできるけど苦手なんだって。
そういうこともあって魔石を使用した複写用魔法陣は、魔法陣を作成できる人であっても、自分のレベルの半分程度のレベルのものしか作成できない。
不安定な魔石を魔法陣核として見立てて魔法陣を構築するため、張り巡らす魔法回路や魔法陣が不安定になるためだ。
僕は魔法陣と相性がいいのか、魔石を使用した魔法陣でも三分の二程度のレベルの複写魔法陣を作れそうなんだけどね。
複写用魔法陣のパパとウインダムス議員からの使用条件というかマリオン国の条件だが、神の御子及び大災厄に立ち向かうと誓約を立てた者だけとなった。
◇ ◇ ◇
夏休みの最初に一週間チョット、僕・ミクちゃん・ルードちゃん・キフィアーナちゃんは主に音楽や図画工作、それとわずかだけど一般教科の補修授業が行われた。
やっとその補修授業が終わって、やれやれと思っていたけど、追加のイベントが発生した。
「なんで見学会にわたくしを誘わなかったのよ」
「誘うっていってもヴェネチアン国の問題でしょう」
「みんなだけズルいじゃないのさ」
「そうは言ってもね…」
「そうじゃない、わたしだけのけ者ってひどいでしょ。誰と計画してたの、窓口は、みんなだけ楽しい思いをして」
「そうじゃないから……」
ダンジョン内の遭遇や、他国との一緒の狩りとかを誰から聞いたのか、むくれたキフィアーナちゃんが家まで押し掛けてきたのだった。
魔獣と戦っているよりも疲れた。
◇ ◇ ◇
八月に“第五回オーラン市ダンスコンテスト”が催され、拝み倒されて出場した。
結果僕とミクちゃんは少年・少女の部門で二位を獲得した。
一位はオーラン上級魔法学校の生徒だった。
「セージちゃんやったね」
「うん、そうだね」
ミクちゃんの笑顔が見られたから参加した甲斐があったっていうもんだ。