160. オケアノス祭 四年生 お迎えお見送り
七月一三日、赤曜日。
本来なら満月だが、くもり空で大きな月のルーナの満月は見えなさそうだ。
小さな月のアルテはどの辺かも確認していない。
一晩たったけど、キフィアーナちゃんとの付き合い方の僕なりの結論が出ていない。
いくら早熟で精神的な成長が早いといても、人それぞれだ。
当然一〇才だから未熟なことはいっぱいあるけど、愛すべき点も多い。
ただし、あのわがままと一緒のパーティーだと、いつ危機を迎えるか、突然に崩壊してもおかしくない。
僕もさんざんムチャもしたし、時には無理もした。
けれど勝算を考えて行動した。そりゃー、トータル三十路のおじさん精神と、一〇才を比較対象とすること自体間違っていることも十分承知だ。
僕がキフィアーナちゃんとキチンと向き合い、指導できるかってことだ。それもミクちゃんとルードちゃんに納得してもらってだ。ミクちゃんはともかくも、ルードちゃんを考えると無理ゲーとしか思えない気もしないでもない。
僕自身は好き嫌いでいえば好きだし、嫌いになれない。
性格はそれほど、まあ、それほどだよね、と悪くないと思ってるし、何とか矯正できないかってことだ。
経験を積めばってことで時間が解決してくれるかもしれないけど、ルードちゃんとのことを考えると、どうすればできるのかな? となって堂々巡りとなっている。
それに結果的には多くの現在一〇才前後だけでなく、僕たちの下の子供たちが啓示を受けて、大災厄、次元の裂け目の修復作業におもむくことになるはずだ。
わがままな子、自己主張の強い子、意地を張る子などとも、できるだけ強調していかないといけないんだ。
あとは期待に押しつぶされる子や、頑張り過ぎる子など、様々な子供のいるはずだし、ライカちゃんみたいに強さとスキルがあってもどうしても戦闘になじめない子供もいるはずだ。
そんなことまで考えてしまうと、収拾がつくわけないことは分かっているんだけどね。
◇ ◇ ◇
午前中、警備のボランティアでミクちゃんとルードちゃんと会うも、「おはよう」と挨拶をしたけど、みんなの口が重い。
僕も結論がないまま、二人に聞けないもの。
とはいえ、なんとか会話のきっかげ欲しいなと思っていたのだが…。
「昨日の海魔獣ミニシーサーペントなんだて、見たかったな」
「子供が戦ってあれだろう。デマって噂だし、子供がそんな魔獣に勝てるわけないだろう」
「なんでも神の御子が戦って話よ」
「それ自体がウソだって。神の御子だっていってもそんなに強いもんか。まだ子供だぞ」
「うーん、そうなのかな」
「そうだよ」
「オーラン市に来たかいあったよな」
「昨日のあれだろう」
「そうそう、俺にも魔法があればな」
「あるだろう」
「ショボい、生活魔法だけだけどな」
「アハハハハ…」
「あの子たちがそうなんじゃないの」
「そうか、良く見ええなかったからな」
オケアノス神社の警備で巡回をしだすと、昨日のミニシーサーペントの件を話している人を見かけたり、あちらこちらで僕たちをジロジロ見る視線にさらされた。
「僕たち注目されている?」
「昨日よりひどいな」
「昨日もぶしつけにジロジロと眺める奴らがいたからな」
「セージちゃんは気にもしないで、よく平気だって思ったんだけど」
「タハハハ…、えー、そんなんじゃないよ」
「ただ、鈍感だったってことね」
「セージらしい」
ケンカを取り押さえると、周囲から拍手が沸き起こった。
「昨日の子供たちじゃない?」
一気に注目が集まって、同行する警備員と一緒に<ホワイトホール>で詰め所に逃げ出した。
「君たちの今日の警備はこれで終了とする。ご苦労様」
警備主任のルドルフさんにそう宣言されてしまった。
「デミワイバーンを倒したのは君だろう」
最初はルドルフさんが何を言っているのか理解できなかってけど。
「モンスタースタンピードのときの学校でだ」
警備副主任のローボルさんがニヤリと笑ってそう伝えてきた。
アハハハハ…。
空笑いが出て、冷や汗も出た。そして何も答えられなかった。
「パレード頑張れよ」
「「「はい」」」
◇ ◇ ◇
パレードの前に、キフィアーナちゃんの護衛が連絡に来た。
「体調がすぐれないとのことで、申し訳ありませんがキフィアーナ様はお休みいたします。
それとヒルデさんからミクリーナさんに、礼状を預かっております」
護衛がミクちゃん礼状を渡す。
「キフィアーナちゃん、具合悪いんですか」
「そうです」
「怪我の具合悪いんですか? 大丈夫なんでしょうか」
「ええ、ご心配には及びません」
「怪我が悪化したんですか?」
「医者が見てますから大丈夫です。ご心配なく」
取り付く島もない。木で鼻を括る、とはこのことだろう。
そして護衛が帰ったいった。
「ねえ、セージちゃん。あとでお見舞いに行こうよ」
「そうだね。
ルードちゃんは行かないか」
「当たり前で……」
「ルードちゃんも一緒に行きましょうよ」
ミクちゃんが、礼状をルードちゃんに見せる。
令状を読み終ええたルードちゃんが瞳を輝かせる。
「行くわ。ミクと一緒にお見舞いを伝えなくっちゃ」
「そうなの? ねえ、なんて書いてあるの?」
「セージは読まなくていい。セージに任せると、甘々だからな」
「えー、そう。そんなことないと思うけど」
「あはは…、そう思ってるのはセージちゃんだけ。ルードちゃん、厳しく行きましょう」
「当然だ!」
僕だけのけ者。意味不明だ。
僕にとっては時たまにだけど、魔獣以上によくわからないのが女性だ。今もそうだ。
「変なこと考えてないよね」
「はひぃ!」
これだもん。
フフフ…。
ミクちゃんも笑わなくても……はい……気を付けます。
◇ ◇ ◇
二時半出発の海岸通りのパレードは盛況だった。
音楽はそれなりに上手くいった。
僕もハーモニカをあまり失敗もせず吹けた。
それよろも、魔法、イリュージョンとファイアーワークスで、盛大に盛り上がった。
「キジョー、ファイアーワークスはやり過ぎだよ」
「せっかく素晴らしい魔法があるんだから、使わない手はないよ」
キフィアーナちゃんがやらなくても、お騒がせの成り手に事欠かないってことだ。
一人だけやらしておくわけにもいかないと思ったら、ブゾン君も放ち、仕方なしというかなし崩し的に、派手になっていった。
まあ、僕も盛大なのを五発ほどあげたけどね。
「セージちゃん、人のこと言えないでしょう」
「そう言うミクちゃんだって」
「し、しかたなかったでしょう」
「何をいまさら。やるとなったら徹底的にやるのよ」
そう、まさにその状態だった。
観衆は大いに盛り上がったんだよね。
次のパレードに申し訳ないと思ったのは後の祭りだ。
「明日のパレードはどうするの」
「やるしかないでしょう」
「そうなるよね」
「当然でしょう」
◇ ◇ ◇
ホテルに見舞いに行くと、割と元気なキフィアーナちゃんが出てきた。
それとヒルデさんも思っていたより元気だ。
全快じゃなさそうだけど、思っていたより元気でホッとする。
「キフィアーナちゃん、まだどこか痛いの? それとも体調悪くなったの?」
「ええ、少々ね」
「だいじょうぶなの?」
「ええ、……大丈夫よ」
キフィアーナちゃんの目が死んでいる。
それほど体調が悪いのだろうか。
「ヒルデさんも思っていたより元気で何よりです」
「ありがとうご会いました。おかげさまでこの通りです。
ただ、外出は控えるように言われてしまいましたので、キフィアーナさんのことで迷惑をかけてしまってごめんなさいね」
「いいえ、迷惑なんて。早く元気になってくださいね」
「ありがとうございます」
「……キフィアーナちゃん!」
「はい⁉」
「明日のパレード待ってます。来てくださいね」
「……」
「なに甘ったれているの。その根性を叩きなおしてあげるから来なさいよね」
え、どうなてるの。
ミクちゃんが礼状を見せてくれた。
読んで驚いた。
前半はお礼で、後半にキフィアーナちゃんのことが書かれていた。
内容は、迷惑を掛けないように気は使ていたらしいけど、憂さ晴らしでミニシーサーペントにカートリッジガンを撃ちに行ったこと、そして初めて強烈な打撃を受けて怖くなったこと、それで外出まで怖くなってしまったんだそうだ。
締めくくりには、パレードに参加するように、声を掛けてもらえないかってことだった。
わがままだけじゃなく、ここまでか。ガックリと肩が落ちる。
今は何を言っても無駄だろう。
ミクちゃんとルードちゃんも、現段階で言っても無駄だと思ったのか、それ以上声を掛けなかった。
「明日来た方がいいよ。待ってるから」
「ヒルデさん、無理やりで構いませんので、キフィアーナちゃんを連れてきてください。お願いします」
「明日は私も出歩けますのでお任せください」
三人で帰宅した。
僕はオケアノス様のお迎えがあるので、<テレポート>で急いで自宅に戻ってシャワーを浴びて、新しい下着を身に着けてオケアノス神社に<テレポート>した。
◇ ◇ ◇
直垂姿になて、お神輿と、そしてオケアさんとオーラン上級魔法学校の生徒と一緒に、船に乗って海岸から海に出た。
空は予想通りの曇りで大きな月のルーナは見えない。
そんな中、オケアさんの祝詞で御霊入れを行う。
僕は強い視線と、「神の御子」というささやきを聞きながら、居心地の悪さの中、海岸からユックリとオケアノス神社に向けて、練り歩く。
オケアノス神社に到着すると、僕のお仕事は一旦終わりだ。
神社では一夜に様々な行事が行われる。
その中で見ごたえのあるのが薪能だ。
今年はチョットだけ薪能を見た。
翌朝の七月一四日、青曜日。
まだ薄暗い中オケアノス神社に戻って、直垂に着替え、今度は逆の道をたどって、居心地の悪さをまたも味わいながらお見送りだ。
それが終わると達成感はある。
◇ ◇ ◇
お昼のパレードは僕だけだけど、オケアノス様のお迎えとお見送りがあるから不参加でもいいよ、とは言われているけど、ヤッパリ出たいよね。
「こんにちは、お疲れ様です」
「ようこそおいでくださいました。ただ今連れてまいります」
ヒルデさんに連れられたキフィアーナちゃんがやってきた。
死んだ目に多少は生気が戻ってきたかなって程だ。
それと警護の数人が少し離れて待機している。
「精一杯やらないと許さないからね」
「やるわよ」
ルードちゃんの言葉に反発はするものの、元気がない。
海岸通りのパレードが開始された。
シエーサン君の合図でリズミカルな音楽が開始される。
昨日の魔法のマーチングを見た観衆が期待しているのがわかる。
間奏など適当に演奏を止めイリュージョンとファイアーワークスの魔法が放たれる。
歓声が上がる。
そして一曲が終わるとイリュージョンとファイアーワークスの魔法が一斉に放たれる。
盛大な歓声が上がる。
僕も盛大なファイアワ-クスの魔法を放つ。さらに大きな歓声が上がる。
そしてまた演奏を再開する。
パレードの終わりころには、リュートを弾くキフィアーナちゃんも顔を上げ、晴れやかにイリュージョンとファイアーワークスの魔法を放っていた。
「キフィアーナちゃん、ちゃんと話し合おうね」
「何温いことを言ってるんだ。
警備への勝手な介入は国際問題だぞ。
オーラン市への謝罪、警備兵への謝罪などいろいろとあるんじゃないか」
「それは僕たちの介入することじゃないし。僕たちも介入したよね」
「それはそうだけど……」
「セージちゃん、それは違うよ。私たちは、負傷者の救助・救援という大義名分があるもの」
「そっか」
「そっか、じゃないわよ。
ただ、セントへの勝手な介入はヴェネチアン国との話し合いになると思うから、私たちが介入することじゃないってのは確かね。
私たちが話すことは、キフィアーナちゃんを友人として扱っていいかってことよ」
「セージ、そういうことだ。
キフィ、祭りが終わったらキッチリと話をしよう」
「わかった」
キフィアーナちゃんが、神妙に返事をした。
◇ ◇ ◇
僕たちの警備も無事――よっぱりのケンカにするなどを捕まえた――終え、オケアノス祭も無事(?)終えそうだ。
◇ ◇ ◇
翌朝の七月一五日黄曜日、お疲れ休みの休日だ。
朝から僕のうちに集まってのは、ミクちゃんにルードちゃん、そしてキフィアーナちゃんにヒルデさん。
「ねえ、話し合いってどうするの」
「決まってるだろう。キフィついてこい」
ルードちゃんが勝手に歩き出す。
「ねえ、ミクちゃん、ルードちゃんに任せていいの?」
「しばらく見てましょう」
付いていくとなんと練習場だ。
ちなみにルードちゃんは、すでに着替えていて戦闘モードだ。
そのルードちゃんが、どういう訳か、簡易の更衣室がしつらえ得られていて、キフィアーナちゃんにそこに入るように促す。
覚悟を決めたのか厳しい表情になったキフィアーナちゃんが簡易更衣室に入る。
「ヒルデさん、いいんですか」
「何事もキフィアーナ様が決めることです」
キフィアーナちゃんが戦闘モードで出てくる。
お互いショートスピアと盾を持って対等する。
「ミク、審判頼む」
「わかった」
「ミクちゃん大丈夫」
「うん、まかせて」
ミクちゃんの「はじめ」の声で試合が始まった。
ルードちゃんの総合は“125”、対するルードちゃんの総合は“100”? のはずだ。
それともレベルは上がっているのかな。
<身体強化>によって強化された肉弾戦はとてつもなく激しい。
最初は拮抗しているように見えた試合も、徐々に自力の高いルードちゃんの攻撃が、腕や足に決まりだす。
必死の形相で立ち向かうキフィアーナちゃんは、頑張るものの今一歩決め手が防がれてしまう。
そういった戦闘が延々と続いた。
ルードちゃんは、止めを刺す気はないようだ。
そしてキフィアーナちゃんが膝をつき崩れ落ちた。
ルードちゃんも荒い息に汗だくだ。
「ウチはな、セージに恩を感じている。命を懸けてその恩を返そうと思っている」
「ルード……」
「セージは黙ってて!」
すごい気迫に僕は言葉を飲み込んだ。
「いいか、セージに迷惑を掛けるなら、ウチが絶対に許さない。セージと一緒に行動するんなら命を掛けろ。そのくらいの覚悟を決めろ。いいな」
「セージちゃんはルードちゃんを見てあげて、私はキフィアーナちゃんを……」
「結構です。私がキフィアーナ様を見ますので、ルードティリア殿を見てあげてください」
「わかりました」
結局僕は練習室を追い出された。
僕はなにも話さずに、キフィアーナちゃんとヒルデさんが帰っていった。
そして、「また明日」「それじゃあ、また」とミクちゃんとルードちゃんが帰っていった。
話し合いが、格闘アニメよろしく、“こぶしで語れ”ってことになるとは思わなかった。
◇ ◇ ◇
「ねえ、パパ」
「なんだ」
「キフィアーナちゃんがオーラン湾でミニシーサーペントの戦闘に割り込んで戦闘したのって、罪になるの」
「基本的にはなるが、助力といえなくもないから難しいところだな」
「国際問題になる可能性は」
「それなまずないな」
「なんで」
「お前たちが介入して、ミニシーサーペントを倒したからだ。
キフィアーナ様、いや、ちゃんか、はお前たちのパーティーメンバーなんだろう」
「うん、そうだね」
「だが、あまりやり過ぎないようにキフィアーナちゃんによく言い聞かせておけ。
セージも援助で手を出すときには、先に声をかけてからだ。
忘れるなよ」
「はい」
「あと、ドリームガンの大活躍や、カートリッジガンやカートリッジライフルでミニシーサーペントで戦闘したのは、いい宣伝になった。
短針魔導砲もこれから売れるだろう」
商魂たくましいパパの笑顔が、不気味に見えた。
◇ ◇ ◇
七月一六日緑曜日。
「「おはよう」ございます」
「おはよう」
僕とミクちゃんがいつものように一緒に登校すると、ルードちゃんはすでに登校していた。
「おはよう」
そこに手足に包帯をしたキフィアーナちゃんが登校してきて、僕たちのところに来た。
「「「おはよう」」ございます」
「わたし、まだどうすればいいかわからないけど、ルードにだけは負けないから」
「そうか、覚悟が決またら、また試合をしようか」
「望むところよ」
どうやら二人にはスポコンが性に合っているみたいだ。
「セージ間抜け顔をしてないで、ウチの目標なんだから、キリッとしてなさいよね」
「ぼ、僕とも戦うの」
「当たり前だ。いつかはぶっ倒してお礼をするつもりだからな」
キフィアーナちゃんの顔が興奮に赤い。
それだけ僕と戦いたいのか? なんだか照れてるようにも感じるんだけど。
「僕は遠慮したいかな」
「なに、寝ぼけたことを言ってんだ。それで魔の大陸に行く気か」
「いや、行くから。それに変更はない」
「セージちゃん、多分コレキフィアーナちゃん敵に誤ってるんだよ」
ミクちゃんが僕の耳元でコッソリとささやいた。
大災厄を治めるためには、七つの大陸、それと海上――海上にダンジョンがあるのか?――でも、次元の裂け目をふさぐんだろうから。
そうなると七つの大陸のうち、情報のあまりない四つの大陸のことはともかくも、最大の難題はメチャクチャ強い魔獣のいる魔大陸だろう。
そのメチャクチャ強い魔獣を狩れないようだと、大災厄を終結させることはできないと思っている。
だからこそ魂魄管理者が強くなれと言ったんだと思う。
ちなみに北の大陸も魔大陸と呼ばれているそうだけど、そこの情報は氷の世界、氷の大陸程度しか情報がない。
強い魔獣がいるのだろうか。