157. カートリッジライフルとトライガン
六月一二日黒曜日。
「たまには学校の狩りを付き合ってもらえないだろうか」
ラディン先生のお手伝い要請に、「了解です」と快く返事を返したのが数日前。
そういったことがあってララ草原の狩りに参加した。もちろんサポート要員だ。
五年生と三年生のSクラスもいてそれなりに大人数なことに驚いた。
四年生のモモガン森林の狩りのような上級者向けの狩りは、五年生と三年生では開催されていないからこのような人数になったようだ。
それと一学期は狩りに参加する五年生と三年生はほとんどいなかったのだから、狩りに行けるほどのレベルになったということか、狩りに行く覚悟ができたのかもしれない。
総勢、五〇人ほどの生徒だ。
「これじゃあ、要請がくるよね」
「今日は一日子守りだな」
「キフィと気が合うとは、ウチも落ちたか」
「うるさいわよ!」
「まあまあ、仲良くしましょう。それよりも困ったわね」
ミクちゃんの困ったちゃんは、あちらこちらから期待の視線に僕たちに注がれているってことだ。
それと驚いたことに、キジョーダンが率先して三年生の面倒を見ていることだ。
ちなみに分担が決まっているのか、ライカちゃんとシエーサン君が五年生と同級生の面倒を見ている。
もちろん五年生にはライカちゃんの姉のモーラナちゃんもいる。
パルマちゃんとビットちゃんは、ライカちゃんとシエーサン君のサポートで、基本は四年Sクラスが担当だ。
そしてキジョーダンのサポートはブゾン君とガラクーダ君だ。
その他にもあカレンセンちゃん、カトリーゼちゃんなどの四年Sのクラスメイトもサポートに付いている。
「先生、単刀直入に聞きます。
性格が良くて見込みのある生徒を教えてください」
「性格って、セージスタ君レベルでいいなら全員ね」
プッ、ぷぷっ……。
笑うところじゃないから!
にらんだら、ミクちゃん、ルードちゃん、キフィアーナちゃんが白々しく目をそらす。
「ウチは同級生を面倒見るわ」
「わたしは適当に良さそうな人たちを見つけます」
「キフィアーナ様は、セージスタ殿たちの邪魔をなされないように」
キフィアーナちゃんが物色を始めたそうそう、ヒルデさんが拉致していった。
ヒルデさん、GJ。
「じゃあ、僕たちは三年生ってことで」
「うん、それでいいよ」
体内の魔素の活性化も無しに狩りを行うのは三年生にはかなりハードだった。
それでも何人かは細胞強化ができて、狩りを成功させていた。
僕たちは危機管理はシッカリと行いながらも、楽しいひと時を体験した。
◇ ◇ ◇
その夜、エルガさんに相談した。
「カートリッジライフルはガンと同じ強化をするだけでいいのかな。
それともバランスなんかで注意することはある?」
ガン用のカートリッジや短針もかなりの数を作成した。
いよいよライフルの製造に入ろうと思っている。
「一番の問題は強力になる分、反動をどのように吸収・分散するかで余計にバランスに気を付けないといけないよ」
ライフルを指さしながら「基本的に負荷のかかる場所はここだね」とか言いながら個所を教えてくれる。
「反動による負荷のかかる場所をよく見極め、できるだけ分散して、分散しきれない分を適切に強化することだね」
分散しきれない荷重や負荷は、基本的には銃床を伝い、最終的には腕と肩によって吸収することになる。
また、あえて負荷を一点に集中させて、そこに魔法力を集中させて特別に強化するって方法もあるそうだ。
銃床に肩当てでってことのようだ。
「ただし決してやり過ぎないように、下手をすれば吸収しきれなかった負荷が蓄積したり、別のところに過剰な負荷をかけてしまうからね」
短針の射出による直接の反動から肩に掛かる直線的な反動が思い浮かぶ。
その他にも短針一本一本にマルチスピンで回転させ、カタパルトによる射出と、ジェットストリームによる射出後の加速トコントロール、その反動を耐えられるカートリッジ全体の強度、魔法力を流す導線と、複雑な機構それぞれに負荷がかかる。
カートリッジガンを作成したことから、想像が容易になった。
「うん、ありがとう。よく考えてみるよ。
ところでニードルガンはどうなったの? 作ってるようすが見えなんだけど」
やばい。エルガさんが、フフン、とよく聞いてくれました、といった具合に自慢そうな顔になった。
これは聞かないとダメだろうな。
ニコヤカニ営業スマイル、で心の中でガックリと肩を落とす。
「ニードルガンは短針を七本と少なくして、一つの魔法しか撃てないようにするの」
え、機能ダウン⁉ どうして?
でもエルガさんは腰に手を当て胸を張る。……大きい…ゲフンゲフン。
「連続発射ができるようにするんだ」
ほう、工夫があるってことか。
「短針魔導ガンや、セージの工夫・強化したカートリッジガンは、短針が三本・四本・三本と重なって平べったい六角形の形状の射出口になっているけど、それを円形に近い六角形にして面積を小さくして、七本の短針を三角形の形状に配置して、回転して発射できるようにするんだ」
あー、リボルバーだ。
カートリッジを交換するよりそりゃー楽だ。
「短針が少なくても、三連射ができればより大きな効果、破壊力が得られもんね」
「うん、あとは使用者の魔法力のコントロールによるからね。
ニードルガンじゃなく、クルクルバンって感じでいいんじゃないかって思うんだけど」
「雰囲気は伝わってくるけど、名称はロータリーガンとか連射ガンとかの方がいいと思うよ」
「えー、グルンガンって名前にしようと思ってたけどダメかな」
マシなのか? なんかわからなくなってきた。
「トリオガン」
「今一歩ね」
「それじゃあ、トライガンとかもいいかもしれない」
「トライガン。おー、いい響き。それにしよう。メモメモッと」
土魔法と錬金魔法を使っても、金属を生成することは不可能だ。
トライガンを持てば金属短針による強力で鋭い金属針による刺突攻撃魔法が行なえることになる。
自分の魔法属性の無いトライガンであれば、攻撃の弱点をカバーできる。
一発だけだと使い勝手が悪すぎるけど、三発あればかなり有効だろう。
「三発のカートリッジになるわけないよね」
「うん、それは回転させながら、ふたを開けて充填する予定。短針も少し短くなる予定だよ」
それなら購入は短針だけだ。
現在も発射すると、短針は痛みが激しく、もう一度使うには錬金魔法で形を整えて、付与魔法も掛けなおさないといけないからね。
自分で製造と付与ができればトライガンを購入するだけでOKってことだけど、それじゃあ、あまりうまみのある商売とはいえない。
まあ、その辺のことはパパにママ、それとマールさんが考えてくれるだろう。
それにしてもリボルバー部分が大きくなり過ぎないかな? チョット心配だ。
ちなみにリボルバーに四発以上を装填できるようにも試したそうなんだけど、付与魔法の干渉や反発で、リボルバーが太くなりすぎるんだって。
将来的な課題だそうだ。
◇ ◇ ◇
六月一三日赤曜日の朝、今回の七沢滝ダンジョンの映像をパパに渡した。
ダンジョンから帰ってくるのが遅くて編集も何もできなかった。やっと一昨日と昨夜に時間を作って抜粋版ができたからだ。
その所為でカートリッジライフルは、あまり手を付けられなかった。
「「おはよう」ございます」
「おはようございます」
「ハイこれ」
「ありがとう」
一一日の白曜日に、僕の家で作成した防具、ベストと帽子をライカちゃんに渡す。
ライカちゃんの笑顔が可愛い。
「なんでも手伝うから、他にはないの?」
「パレードが成功するためなら何でもするよ」
「あとは、素敵な音楽が奏でられるようにクラスみんなで練習するだけよ」
グサッ。
「…ああ、頑張るよ」
「セージちゃん、顔色が悪くなったよ」
「ハーモニカって、魔法で吹けないかな」
ガンバッテはいるけど、上手くなった気がしない。
「セージちゃん、上手くなってるじゃない」
「セージちゃんにも苦手なものがあるんだ」
笑顔のライカちゃんが、まぶしいくらいの笑顔になった。
それとキフィアーナちゃんは手加減を知らない、それいルードちゃん。
そんなに人の不幸が蜜の味なのか……。ガックリ。
「…あっ、そんな意味じゃないから。なんでもできるスーパーマンのセージちゃんにも苦手なことがあるのかと思ったら、突然身近に感じちゃって」
「いやいや、ただの魔法オタクだから」
え、……オタク⁉
「そうなんだー。セージちゃんがオタクなんだー」
普通に会話が進んでいった。
オタクはセーフなのか?
まあ、よくわからないけど、記憶BANにはほど遠そうだ。
思っていたより緩い制限なのかな?
◇ ◇ ◇
帰宅しすると昨日の引き続き、カートリッジライフルの製造を開始した。
一部の部品や模型は作成したけど、本格的な製造は今日からだ。
大きめの白魔石をミスリル金でコーティングするのが製造の最初だ。
魔法力の導線をミスリル銀で作成する。
ライフル本体は強度を考えてミスリル硬鋼(H)を使用する。
カートリッジガンを作ったおかげで作業がスムーズに進んでいく。
大本の形状が出来上がったら形状やバランスなどの確認を行っていく。
実物大の設計図と、昨日作り上げた実物大の模型とも比較して、微調整だ。
夕食をはさんで、魔法力の流れの確認を行って本体の作成は完了だ。
試射を優先に考えてカートリッジと短針を作成する。
これらは基本的にカートリッジガンと同一構造だから特に問題はない。
カートリッジはミスリル銀で二〇個の同じ筒を作り、それを四個、五個、六個、五個と重ねて導線を付ける。……ハチの巣状、いびつな六角形のような構造だ。
それをミスリル硬鋼(H)で固めて太いカートリッジにして、ライフルのとの接続部を形成する。大きくはアタッチ県都部に収まるように成型するのと、ライフルから伸びる日本の棒が刺さり、留め具で固定できるようにする。
お互いに雄雌の部分があって、ガッチリとかみ合うようにしながら導線部がきれいに接続石るようにするのが工夫だ。
そして付与魔法をライフル本体、カートリッジ、そして短針はまとめて掛けて完了だ。
出来上がった短針二〇本を、カートリッジの各穴に挿入する。
軽く魔法力を流すとカートリッジが短針を保持してくれる。
ライフルの前方にそのカートリッジを装着する。
<テレポート>
夜のララ草原もおなじみだ。
まずは何もないところに向かって魔法力を込めて、バン、と撃つ。
反動を逃がす魔法陣も組み込んだので、以前のライフルの半分ほどの反動だ。
これなら銃床を肩に付けなくても、簡単な身体強化――セージレベルでのだが――で無理なく手持ちで撃てそうだ。
数本回転の悪い短針と、角度のズレた短針があった。
角度の調整を行い、もう一度試射して角度の微調整を行う。
回転の悪い県は帰って付与の掛けなおしをしないといけないから放置だ。
こういった時に、加速と空間認識と非常に役に立つ。自分のスキルに感謝だ。
最後にもう一度撃つが、空間認識の範囲が今度は短針がほぼ揃って飛んでいった。
そこまで飛べば乱れるのは仕方がないけど、想定の範囲内ということだ。
夜行性の魔獣二匹を狩ったところで短針が無くなった。
想定以上の威力だ。
帰宅してカートリッジの付与をし直して、短針を作成した。
ただし付与はカートリッジが一個ということもあって、ハイパーボルテックスのみだ。
そして眠りについた。
◇ ◇ ◇
六月一四日青曜日。
学校の昼休憩でも、「セージちゃんやるよ」とハーモニカの練習が始まった。
生徒一人に、先生三人――ミクちゃん、ルードちゃん、キフィアーナちゃん――と肉体的にも、特に、そう、特に精神的にキッツイ練習だ。
「ブレスに気を付けて、一音一音シッカリと意識してね」
「音楽は自然との調和だ。風に溶け込むような滑らかな音を奏でるのよ」
「記憶強化があるんだろう。シッカリと暗譜をして、曲のイメージ、歌詞を考え、楽譜にない感情を考えながら細かな強弱、抑揚を付けられるようにしていこう」
ミクちゃんは技術派、ルードちゃんは感覚派、キフィアーナちゃんはヒルデさんの影響か理論派と、教えに心・技・体の合わさったようなものだ。
気持ちは分かるんだけど、これほどの無理ゲーに出会ったことはない。
ヒルデさん、ヘルプミー。
放課後にはダンスだ。
モリンガ先生とフロイダル先生が熱心で、
「今日はタンゴの練習をしてみましょう」
キラキラ瞳のミクちゃんを見ると断れない。
タンゴの練習が始まってしまった。
「ミクちゃんタフだよね」
「そんなことないよ。ダンスって楽しいね」
スロー、スロー、クイック、クイックって聞いてもよくわからない。
タンゴだと、大きく踏み出したり、その場で複雑なステップを踏んだり、腰を落としてから伸び上がったりと、とにかく複雑だ。
宮廷ダンスでは時たま踊るそうで、キフィアーナちゃんは踊れた。さすがに男性パートまでは踊れなかったが。
そしてウインナーワルツでは、キフィアーナちゃんとの練習に、次子生徒の相手と、休憩なしだ。
もちろんミクちゃんとモウインナーワルツを踊ったよ。
その他には習う必要がないが。
「他にはどんなダンスがあるんですか」
「私の式なダンスは、アイリッシュダンスだな」
「学校でやるならチアダンスなんかがお薦めだな」
ミクちゃんは興味のままに、先生たちに聞いて回っていた。
「チアダンスならパレードが盛り上がるよね」
「今年は無理だね」
まだ、きつくなるのか?
あ、僕はやらないか。
でもキフィアーナちゃん。来年まで留学してるの? それでいいの?
それにしても昼と夜の異種格闘技のダブルヘッダーはキツイ。
へとへとになってしまった。
いや、授業中のパレード練習を含めるとトリプルヘッダーか。
気楽にやるのと、全員で合わせるのとでは、緊張度が違うもんね。
来週からはいよいよ、行進しながらの練習になる予定だ。
とにかく疲れた。
◇ ◇ ◇
そんなこんなで疲れ果てて帰宅すると、エルガさんのリボルバータイプのトライガンが完成していた。
「エルガさん、撃たせて!」
一気に疲れが吹き飛んだ。
「エルガさん、ミクちゃんも行くよ」
トライガン一式をアイテムボックスに放り込んで、エルガさんの手を握り、ミクちゃんの手も有無を言わせずつかんだ。
「セージちゃん……」
「<テレポート>」……そして「<テレポート>」
たまにはボティス密林に飛んでみたりもする。
「チョットだけ待っててね」
ここ最近ルルド水が少なくなっていたのもあって、ついでに七沢滝で水汲みも行う。
まずはゴブリンの群れに向けて、
「やるよ」
僕は両手にトライガンを持って、ミクちゃんとエルガさんは右手にトライガンを持って、バンバンバンと撃ちまくった。
「ゴブリン程度は、簡単に倒すことができるね」
「使用魔法力も、一発ずつなら短針魔導ガンより少ないね」
「リボルバー構造はどう?」
「チョット固いような気がするけど」
「うん、回しにくいかな」
映画で見たリボルバーだと、簡単にカラカラと回転する。
それが、チョット強めにカチリと音によって回転の確認ができるけど、リボルバーをシッカリと握って、グリッとひねらないといけない。
「レッドキャット発見」
俊敏で真っ赤な猫魔獣だ。
ファイアークロウやヒートアタックが攻撃方法だ。
体長一メルチョットで、強さは“35”~“40”程度だから、テストにちょうどいい魔獣だ。
「撃ってみるよ」
加速して、接近して首筋の急所を、バン、と撃ってみる。
あ、外した。
さすがに俊敏だ。
それでも急所近くに短針が突き刺さる。
GYA--NN。
こちらに向かって飛び掛かってくるけど、遅い。
リボルバーをひねて、バン。
さすがに戦闘中の激しい動きの中で、首の急所は無理だ。
顔をめがけたけど、よけられてしまう。
もう一度、バン、と今度はお腹だ。
運よく後足の付け根に当たり、動きが鈍くなった。
そして、もう一丁のトライガンで、バン、バンと撃って、戦闘不能状態にまで追い込んで、バン、と止めを刺した。
「威力が弱くなった分もあるけど、こんなところかな」
「戦闘力的には合格だと思うけど、強い魔獣に出会った時には対応できないよね」
「少々、威力を弱くし過ぎたか。付与魔法陣の強化を考慮して再検討だね」
「でも、連射が簡単だってのはいいよね」
「次弾があると安心感があるもんね」
その後にカートリッジライフルの、お披露目も行った。
バーン。
メガホッグの脳天に短針が突き刺さり、メガホッグが悲鳴を上げてその場に倒れた。
「これはすごいね」
「これなら、ダンジョン内でも充分に使えるね」
「ただし、必要魔法力が多いんだけどね」
「それは仕方がないよ」
「オケアノス海周辺諸国会議にお披露目できるように、ガンバルゾー」
エルガさんはやる気満々。
課題もあるけど、お試しの狩りは概ね良好な感触で終了した。
とはいえ、ある意味テスト販売なこともあって、当分はマリオン国だけの販売で様子見となった。