156. オケアノス海周辺諸国会議の準備
どうやら本格的にオケアノス海周辺諸国会議が、ここオーラン市で開催する方向で調整中だそうだ。
その時に七沢滝ダンジョンの調査が、各国により行われるそうでそのための騎士団や冒険者も来訪するそうだ。
オーラン市議会は宿泊先の確保で大忙しだ。
許容オーバーなことは確かで、議員宅への宿泊も検討されているそうだ。
ノルンバック家とウインダムス家はヴェネチアン国からの賓客の宿泊先となる予定みたいだ。
他国からの騎士団や冒険者の宿泊先は、警備兵の営舎や冒険者組合の宿舎が提供されることになるし、最悪オーラン魔法学校やオーラン上級魔法学校などの宿舎まで使われる可能性もあるそうだ。
それほど大きな市ではないのでオケアノス海周辺の全ての諸国を泊めるだけのホテルがない。
迎賓館も小さなものしか無い。
宿泊中の冒険者を全て追い出せば、かなりの客室を用意できるがそんなことができるはずもない。
七沢滝ダンジョンのおかげというか、所為というかだ。
会議に僕とミクちゃんとルードちゃんの三人が出席してほしいとの他国からの要請もあるそうなのだが、保留状態だそうだ。……ビックリだ。
◇ ◇ ◇
六月六日黒曜日、エルガさんとヒルデさんのレベルアップと、カートリッジガンとそしてニードルガンの本格運用やテストで七沢滝ダンジョンに入った。
カートリッジと短針には追加でハイパーホリーフラッシュを付与したものも用意した。
メンバーはエルガさんとヒルデさん以外は、僕にミクちゃんとルードちゃん、キフィアーナちゃんにリエッタさんといつものメンバーだ。
オーラン魔法学校を九日の黄曜日まで休むことにしている。届としては予備日の一〇日の緑曜日までのお休み届を提出している。
それにしても女性比率がやけに高い。どうしてこうなった。
それと今回の狩りでは楽器も持ってきている。
リエッタさんも先生としては優れているけど音楽は得意ではなく、どちらかといえば苦手なんだそうだ。
初等教育の低学年ならば何とか教えられる程度のたしなみ程度だそうだ。
そしてヒルデさんはどちらかというと芸術系が得意で、そういうことならばと別の意味でも張り切っている。
どうして急いだかというと、オケアノス祭のパレードの練習が個人練習から合同練習となる前にと思ってのことだ。
今なら個人による演奏練習が主となっているからね。
クラスメイトへのお任せの衣装はそれほど凝ったものにはならないし、いざとなれば錬金魔法で作成できるってこともある。
それとオケアノス海周辺諸国会議もオケアノス祭とほぼ同時に行われるようだ。
なんてはた迷惑な。
ちなみにオケアノス神のお迎えに船に乗るのはまた僕のようだ。ミクちゃんを勧めたんだけど、「セージちゃんです」とかたくなに断られた。
ルードちゃんでもいいやとも思ったけど「いやだ!」の一言で拒絶された。
一層と二層はララ草原並なので、一気に駆け抜ける。
三層の不気味な世界、アンデッド系やスピリチュアル系などの死霊やゾンビなどの精神的にキツイ世界を駆け抜けた。
四層に到着した。
ヒルデさんとエルガさんの肩慣らしにゴーレム数体を倒してもらう。
戦闘から離れていると感覚のズレに思わぬことがあるからね。
デフォルメされたSDゴーレムに今一歩戦闘態勢に入れないのか、思ったよりも感覚が戻るのに時間が掛かり、昼食も摂った。
ことによったら左腕のゴーレムガンの対応に慎重になったのかもしれない。
ボスのアイアンメタルゴーレムは僕が倒した。
慣れたもので、午後の二時ごろには五層に到着。オーガの世界だ。
ストロングオーガ(強さ“80”前後)、サイクロプスオーガ(強さ“70”~“80”程度)などが居るので、ヒルデさんのレベルアップにはちょうどいい。
もちろんデフォルメされたSDオーガだ。
「ヒルデさん行きますよ」
「セージスタ殿よろしくお願いします」
とにかく短針魔導ガンで戦闘力をそいでは、止めを刺してもらう。
最初は上手くいかなくても、僕たちがけん制しながらニードルガンで戦闘力をそいでいけばいいので無理のない戦闘だ。
時たまエルガさんにも同じことをしてもらって、経験値を稼いでもらう。
ボスのハイレッドオーガ(強さは“85”)はエルガさんに同様の方法で、僕とリエッタさんのサポートで倒してもらった。
リエッタさんとミクちゃんに頼んで夕食を用意してもらいながらも、ルルドキャンディーを束ながら、たまに休憩も取ってもらいつつ経験値を稼いでもらった。
そしてボス部屋のセーフティエリアで夕食兼、お勉強兼、楽器練習兼、就寝した。
翌日の六月七日赤曜日には、エルガさんは総合が“79”から“81”となった。
ヒルデさんは“58”から“74”となった。
これだけあれば“100”を目指せるだろう。
六層は密林で集団と毒エリアだ。落とし穴と毒矢の罠もある。
ここでは経験値が稼ぎづらいので、ホワイトホールを使って一気に駆け抜ける。
ボスは猛毒オーガ(強さ“80”前後)二匹と、アサシンエイプ六匹の大集団だ。
全員で一気に撃破する。
七層は又もアンデッド系やスピリチュアル系などの世界、しかも毒の沼まである。
カートリッジガンの試し打ちを行ってから、ホワイトホールを使って一気に駆け抜ける。
ボスは強酸を放つキングスライムゾンビ(強さ“68”~“82”)が大小取り混ぜて一〇匹だ。
やはり全員で一気に撃破だ。
八層はゴーレムの世界でクラゲ池がある。それと食わせ物なのが一見何事もない池だが、衝撃で毒の池に変化する池だ。
SD化のデカゴーレムやバードゴーレムはみんなで適当に倒していく。
もちろんカートリッジガンの試しも行うことは当然のことだ。
「デカメタルゴーレム、強さは“101”」
左腕は全体が二連装ガンとなっていてロケットランチャーが発射される。
今回遭遇したのは右腕に灼熱ガンだから三点バースト攻撃がある。
「キフィアーナちゃん、行くよ」
「任せなさい」
できればキフィアーナちゃんも総合が“100”になってほしいもんね。
僕が高速移動でおとりになて左右のガンを空にさせる。
そしてワイヤーネットを掛けて、ロープをキフィアーナちゃんに持たせて、
「いまだ!」
キフィアーナちゃんが、オリャーッ、と気合の入った、乙女らしからぬ雄たけびを上げてロープに魔法力をながす。
ロケットランチャーが誘爆して左腕を破壊する。
「イッケー!」
キフィアーナちゃんが僕の指示を待ちきれずに、飛び出してショートスピアで破壊した左腕に突き刺し、またも魔法力を流し込んで<ハイパーボルテックス>でデカメタルゴーレムに止めを刺す。
これからはこの繰り返しだ。
それも基本はエルガさんとヒルデさんで、強さが“101”以上ならば、キフィアーナちゃんだ。
結果、キフィアーナちゃんが二匹、エルガさんが三匹、ヒルデさんが二匹のデカメタルゴーレムを倒した。
七層のボス部屋で食事を摂って、またもや勉強に楽器の練習をする。
翌日の六月八日青曜日には、キフィアーナちゃんの総合が“100”、エルガさんは“88”、ヒルデさんは“82”となった。
「キフィアーナちゃんおめでとう」
そしてキフィアーナちゃんとエルガさんが魔法核が“9”から“10”となった。
キフィアーナちゃんは、これで魔法回路とそろって“10”となった。
総合のレベル差から考えて魔法核と魔法回路が同じということは、年齢的なものか、体の大きさによるものか、あとはエルガさんは戦闘ではないが日常的に魔法を使い続けていることに起因するのかもしれない。
風魔法を意識して魔法を頑張っていたヒーナ先生も、総合の値が低くても魔法核と魔法回路の値が高い。それからすると魔法の経験、実際の利用ってことなのかもしれない。
これからは戦闘でももっと魔法を使った方がよさそうだ。
ちなみにエルガさんの魔法回路はまだ“9”のままだ。
それとヒルデさんは両方が“9”となった。
「エルガさんの魔法回路が“10”となるまで頑張ろうよ」
「そうだね。そうすればいいものがまたできるし」
「ああ、N・W魔研へお最大の貢献だ」
僕、ミクちゃん、ルードちゃんの意見だ。
「私のレベルアップは⁉」
「ここじゃあ、もう無理だから」
「えー!」
「それじゃあ、がんばろー!」
「こんな時にだけ、威勢の良い声を出すな!」
和気あいあいと狩りが始まった。
結果、六月九日黄曜日の朝に、エルガさんは総合が“93”で魔法回路が“10”となった。
ヒルデさんは総合が“89”となったけど、魔法核や魔法回路は“9”のままだった。
カートリッジガンの威力や扱い、それと連射などにも特に問題はなかった。
その夜に七沢滝ダンジョンを出て帰宅した。
ちなみに僕のハーモニカもチョットだけだけど上手くなったよ。
キャンプ中にミクちゃんのピアニカと、ルードちゃんの横笛と、キフィアーナちゃんのリュートで一緒に行進しながら演奏もしてみたりもして、夢中になってチョット楽しかった。
体が子供だからか、こういった何でもない遊びのような事がものすごく楽しく感じられた。否、遊びは本気でやってこそ楽しいんだっけ。
そういえばここ最近、こういったただ単に楽しいってことがなかったような気がする。
ヒルデさんのリュートの音楽に乗って四人でダンスもした。
「なんでわたしが男なのよ!」
キフィアーナちゃんの嘆きもあったが。
とにかく楽しかった。
僕の演奏が一番下手だたんだけどね。……頑張ろう。おーっ!
エルガさんはカートリッジガンを観察して、そして撃ってみて、ニードルガンの構想が固まったみたいだ。
実際の魔獣戦闘でのカートリッジガンを使用した戦闘を見ると、思っていたイメージの違いや、より鮮明ななったことなど、様々な刺激を受けたみたいだ。
◇ ◇ ◇
六月一〇日緑曜日、いつものようにミクちゃんと登校する。
「「おはよう」」
「今度はどこに行ってきたんだ」
「七沢滝ダンジョン」
「何層まで?」
「八層まで」
「何か変わったことがあったの?」
「ただの調査」
クラスメイトも慣れていたものだ。
数日の欠席だと大抵が七沢滝ダンジョンだから、またか、といった表情を見て終わりだ。
「今度俺を連れていけよ」
「ああ、そのうちにね」
まあ、キジョーダンみたいに、ずうずうしい奴もいる。
パレードの衣装案が出来上がっていた。
普通の白いシャツにグレーの半ズボンかスカートで靴は黒。
それにベストと帽子だ。
見本のベストは薄手の布でボタン無し。
それに数種類のマジカルテープ――カラフルなマスキングテープなような魔法素材――で、それを錬金魔素法で張り付けてる。
さすがライカちゃんの作品だ。感謝だ。
帽子は厚手の紙で作って、それに同様にマジカルテープで装飾をする。
布と紙とマジカルテープをもらって、あとは自分で加工する。
「ライカちゃん、手伝うよ」
「大丈夫よ。セージちゃんは私なんかよりも、たくさんの人たちを手助けしてるんだもの」
「そんなことはないよ」
「ライカちゃん、私も手伝うわよ」
クラス全員が錬金魔法を使えるわけじゃない。
使えても実用レベルになっていないといけないし、クラスメイトでもほんの数人のはずだ。
「ウチも手伝うよ」
「水臭い。どうやって作ればいいの」
二時限目の長い休憩と昼休憩。
ライカちゃんと五人で、流れ作業、一三着を作成した。
あとは自分や家族に作ってもらう人たちの分と、僕たちの分に数着残る程度だ。
「助かりました」
「そんなことないって、こっちが助けてもらってばかりなんだから」
「そうよ。生徒会に、クラス委員にって活躍し過ぎです」
「いつでも言って。セージの有り余ったスキルの活用法を考えて手助けするから」
「キフィアーナちゃん!」
「とにかく、ウチ等はクラスメイトだ。一人で抱え込まずに、いるときには何でも振ってくれ」
「ありがとう」
「じゃあ、これは持って帰るよ」
「サイズはこの表の、このマークが付いたものでいいんでしょ」
「悪いわよ」
「大丈夫だって、チョチョイだよ」
「そその代わり、数日ちょうだいね」
「男女の規定はないから、セージはスカートを履いてもいいぞ」
「冗談にも聞こえない」
「うるせー、このリア充野郎が」
「誰がリア充だよ」
「何言ってやがる。いつでもどこでも周り中かわいい娘に囲まれやがって」
あ、そういえばそうか。女の子が多くて悩んでいたけど周囲はそう見えるんだ。
好きで一緒にいる人もいるけど、結果的に一緒にいる人は女の子ばかりだ。
主力のキジョーダンが加わらない、ブゾンとガラクーダのからかいもこの程度だ。
グサッ、と来たような気もするけど、気のせいだ。効いちゃいない。絶対に効いちゃない!
「そんなんじゃないよ!」
◇ ◇ ◇
普通に授業を終え、課外授業のダンスも終えて帰宅すると、僕とミクちゃんルードちゃんは、パパとウインダムス議員に呼ばれた。
ママやマールさんにフィフティーナ夫妻も一緒にだ。
「オケアノス海周辺諸国会議がオーラン市で開催することが決定した。
日時はオケアノス祭の翌週の、七月二〇日の青曜日から二四日の黒曜日までの四日間だ。
その後に希望があれば七沢滝ダンジョンへ招待する。
会議の数日前、七月一八日黒曜日頃からの滞在に、七沢滝ダンジョン見学を三日、前後一日の予備日を入れると、到着から帰還までおおよそ二週間前後の滞在になると思われる」
オーラン市の規模と宿泊先の関係で八つの国とマリオン市に対して人数制限を行っていて、各国に会議参加・警備に七沢滝ダンジョン調査の人員を含み総員二〇人までとお願いしている。
自国の船などで港に停泊して、その中で宿泊する分には制限を設けない旨も告げてあるから大型船での来航が予想されるそうだ。
その他にはキャンプ地も用意したそうだ。
オケアノス祭は毎年七月の満月を挟んで一二日の黒曜日から一四日の青曜日までだ。
それが終わった週末が諸国会議の受け入れだ。
基本は会議後の翌週が七沢滝ダンジョンの調査・確認だけど、会議前にもダンジョンの確認が行われる可能性もありそうだ。
観光もあるだろうし、そうなると前後の三週間も予想される。
港の停泊でも桟橋はそれだけの船を係留できないから、仮の桟橋を湾の中に設けるそうだ。
そうなると漁師にも影響が出るし、警備艇も増やさないといけない。
マリオン国からの補助金や警備の増員もあるが、何ともめんどくさい話だ。
プレハブのような宿舎を建て、仮桟橋の設置は既に開始されているそうだ。
魔法があるからなせる業だとは思うけど、オケアノス祭の準備と並行作業もあって、心配になってしまう。
それと僕たちの会議の出席は微妙な状態だそうだ。
ロト国が強力に同席を望んでいるんだって。
◇ ◇ ◇
六月一二日黒曜日。
ミクちゃんと一緒に久しぶりに海岸に泳ぎに行った。
そんな話をしていたらルードちゃんとキフィアーナちゃんも一緒にきた。
護衛でヒーナ先生とカフナさんが付き合ってくれた。
いくら僕たちの方が護衛のヒーナ先生やカフナさんより強くても、見た目も実年齢も一〇才だ。腰にキチンナイフを下げていても絡まれる可能性があるからね。
「どう?」
ミクちゃんが、髪の毛と一緒の真っ赤な水着姿の感想を恥ずかしそうに尋ねてきた。
染色技術が発達してないので、真っ赤な単色だ。
水着は腰に昆虫魔獣の外殻から削り出したキチンナイフ――錆びないから海では重宝される――を下げることもあって、セパレートタイプだけど露出は少ない。
それでも女生として成長してるんだとささやかなふくらみが見て取れる。
「いつもより活発に見えて、かっこいいよ」
やっぱ、褒めるのって照れるな。
ミクちゃんが真っ赤になる。僕もハズイ。
「鼻の下が伸びて、みっともない」
「これだから男子は嫌なのよ」
ルードちゃんとキフィアーナちゃんがこき下ろしてくる。
「だ、誰のことを言ってるのかな?」
「その辺の誰かのことでしょ」
「男はレディーの他愛もない言葉はさらりと聞き流すのよ」
「ホントに甲斐性無しの唐変木が」
ハイハイ、そうですか。
「ところでウチはどう?」
「わたしは?」
オイッ。こき下ろしておいてなんだよ。
でも、理不尽な時こそ、逆らっちゃいけにのは経験則だ。
ルードちゃんは緑色の髪の毛に黄緑色の水着、赤みを帯びた銀髪のキフィアーナちゃんは白い水着と、髪の色に合わせている。
みんなささやかな胸だけど、あえて順番を付けるなら、キフィアーナちゃん、ミクちゃん、ルードちゃんの順だ。
お姫様は栄養がいいのかな?
「キレイだし、かわいいね」
ポッコリ岩の周辺で泳いだり、ポッコリ岩に上がったりもそて遊んだ。
港の近くと、海水浴場の海岸をはさんだ反対側で、仮桟橋の設置の工事が始まっていた。
オケアノス祭の部隊の工事はまだ始まる気配もないのに、慌ただしいことだ。
あと久しぶりのヒーナ先生のボリューミーな水着だ。
「イテッ」
「何を見てるのよ!」
「いや、変な人がヒーナ先生にいかがわしい視線をって思って……イテッ」
「エッチ!」
「……はい、ごめんなさい」
ちなみにカフナさんも……だよ。
「イテッ!」