15. 魔法教育 5
「それではママさんの許可も下りたということで、ジャジャン、このヴェネチアン高等魔法学院初等科教科の書初級魔法一覧でしっかりと学んでいきましょう。
もちろん制約なしです。その代わりセージ様には責任が発生します」
ヒーナが勿体付けて、エホン、と空咳をする。
「覚悟はよろしいですか」
そして真剣に見つめてきた。前振りが嘘のようだ。
僕もゴクリと生唾を飲み込んで、真剣に見つめ返す。
生前からの頑張っちゃう気質も顔を出す。
「今までも本気でしたが、更に気合を入れて頑張ります」
「それでは、入学式です」
えっ、何それ?
「高等魔法学院で学ぶには、入学式に宣言をすることになっています。
セージ様はもちろん入学できるわけではありませんが、知恵の神アノナンダー様と真理の神シャリホー様、それと魔素の神マーカモッケ様に宣誓をしていただきます」
誰それ? そんな紙が痛んだ、もとい、神が居たんだ。
「国が違うと教えも違います。学校によっては違う宣言もあるでしょうが、オケアノス海の周辺では大体似たような宣言をするそうです。
ですからマリオンの上等魔法学校でも宣言があるはずです」
唖然としていると、追加情報だ。
あの、魂魄管理者が三柱のどなたかに当たるのだろうか。それとも海の神オケアノス様は、うーん、なんか違いそうなんでけど。
「わかりました」
「紙に書いてきましたので、こちらを読みながら、私について唱和してください。よろしいですね」
「はい」
差し出された紙を受け取る。
「私、えー、ここにはセージ様のお名前を言ってください。
私ヒーナーダ・ナッシュビルは魔法を学ぶにあたり」
「私セージスタ・ノルンバックは魔法を学ぶにあたり」
「知恵の神アノナンダー様と共に知恵を磨き」
「「知恵の神アノナンダー様と共に知恵を磨き」」
「真理の神シャリホー様のように真理を探究し」
「「真理の神シャリホー様のように真理を探究し」」
「魔素の神マーカモッケ様の恩恵による魔法技術を日々研鑽し」
「「魔素の神マーカモッケ様の恩恵による魔法技術を日々研鑽し」」
「魔法を人々の安寧と平和のために使うことを、ここに宣誓します」
「「魔法を人々の安寧と平和のために使うことを、ここに宣誓します」」
「よろしいですね。魔法は魔獣の脅威からみんなを守るものだと思ってください。決して自分本位に使用してよいものではありません」
思ったより高邁な精神で律するんだな。
「わかりました。自分なりに精進します」
「セージ様は“精進”なんて難しい言葉をもう使われるのですね。
魔法はもちろん平和なために使いますが、……えー、私たちの平和な暮らしにも、チョットだけ、ほんのチョットだけですが、便利になるように魔法を使っても、偉大な神様は暖かく見守ってくださるとも、教えていただきました」
チョット待て! それってどう聞いても、建てまえと本音にしか聞こえないんだけど。それに本音がチョットってなんだ。本音がMAXだろう。
一気にハードルが下がったような……。
それとも、お約束なのか、お約束。
「はい、僕もできるだけ、あくまでもできるだけで、精進しようと思います」
「はい、無理せず。それが一番です」
僕の宣誓を返せ!
これで僕の学院生活は終わった。まるでフィナーレの虚脱感だ。
「えー、黄昏たい気分は理解できますが、これから! これからですから!」
本当に幾つですか。
ブツブツとヒーナの嘆きのような呟きも聞こえてくる。
ママが挨拶回りでいなくてよかった。
「えー、セージ様にはシッカリと理論から学んでいただきます。
とはいっても適切な教材はこの教科書、ヴェネチアン高等魔法学院初等科教科書初級魔法一覧しかありません。
そこでまどろっかしいところが多い教科書を要所要所でうまく利用しながら、ヒーナ先生の知識をメインに学習していきます」
ヒーナが教科書の最後のページを開く。
「まずはですね、最初に学んだ魔法属性の一覧ですが…」
<古代魔法>
― 生活魔法 基本無属性(無属性魔素)(透明)個人差有
― 火魔法 火属性(火魔素・熱魔素)(赤)
― 水魔法 水属性(水魔素・液体魔素)(水色)
― 土魔法 土属性(土魔素)(茶色)
― 風魔法 風属性(風魔素・移動魔素)(黄緑色)
<中世魔法>
― 光魔法 光属性(光魔素・治癒魔素)(白)
― 闇魔法 闇属性(闇魔素・精神魔素)(灰色)
<新世魔法>
― 時空魔法 時空属性(時空魔素)(紺)
― 身体魔法 強化属性(無属性魔素)(透明)
― 錬金魔法 錬金属性(物質魔素)(銀色)
― 付与魔法 付与属性(干渉魔素)(黄色)
― 補助魔法 補助属性(干渉魔素)(黄色)
<その他>
― 無属性魔法 無属性魔素(透明)個人差有
「こちらを良く見て、頭の中に入れちゃってください。
まあ、一回では無理ですから、これから何度も見ながら勉強をしていきます」
僕は興味深く、速読で一瞬だから、何度も繰り返し読み込む。
もう、完璧かな。
「魔素名が二つあるのは、二つの魔素があるわけではなく、二つの呼び名があるとためです。
ただし、二つの魔素だとする学者が居ることは確かです。光魔法も高位の治癒魔法になると一気に複雑な魔法陣になりますし、魔素も違うと言われることがあります」
ヒーナが人差指を立てる。
「そして<古代魔法>、<中世魔法>、<新世魔法>と別れているのは、魔法の発展の歴史です」
そして三つの大項目を順に指さしながら説明する。
「魔法は一気にできたわけではなく、はるか昔は<古代魔法>だけ、それからかなり経って<中世魔法>、そして<新世魔法>が最後に使えるようになりました。まあ<新世魔法>の付与・補助魔法はもっと以前からという説もありますし、身体魔法に至ってはどこにも属さないというのが本当です。
中世魔法と新世魔法は複雑で習得はむずかしいとされています。
難しさの判断基準として覚えておくと便利です」
「魔法が使える人の多くが何かしらの古代魔法を使えます。
その反面、中世魔法と新世魔法の属性を持っている人は少なく、闇魔法と時空魔法の属性持ちは極端に少ないです」
そしてこれです、と言って“身体魔法”を指さす。
「誰もが持てる属性ですが、難しさの例としてよく語られるのが、この身体魔法です。
魔素には属性のない無属性魔素が大量の存在しています。魔素の四割前後とされています。
無属性魔素は魔法発動に干渉し、魔法を強化します。イメージによって魔法の威力が変化すると言われている要因の一つは無属性魔素だとされています。
その性質を利用して身体を強化しようとして人が開発した魔法です」
ほう、そんなことも可能なんだ。
それとイメージ力、たぶんそれで、昨夜やっちゃたやつだ。気合込めたもんなー。ごめんなさい。
「取得した、またはできる属性魔法は、そもそもその本人が能力を有しています。
自分の魔法核には生まれた時から使える魔法属性が宿っていているとされる説が有力です。
その属性に方向性と意味合いを持たせ、魔法力を与えれば、魔法陣が無くともある程度の魔法は発動します。
成長していくのもその取得した属性のみです」
ヒーナがチョット僕をにらんでくる。ナゼだ?
「それが昨夜の騒動、音響魔法が発生しちゃった疑惑につながります」
もう一度、ヒーナがにらんでくる。タラリ。怖くないんだが。
「まあ、勘違いだったようですが」
まだ疑ってますよね。
「それが魔法です。
中には本当にイメージだけで魔法を発動する人もいて、何度も魔法を発動して、魔法陣を造ってしまう人も人もいるそうです。
あっ、でも無理はしないで下さいね。体にも頭や心にも負担が掛かります。
魔法力も何倍もかかるそうです」
いろいろと蘊蓄のある内容だ。
魔法が先か、魔法陣が先かってことも可能なんだ。
それでも魔法を使うにはそれ相当な手順を踏んでいこう。
まあ、いつかは自由自在に魔法を、それと魔素までも使ってみたいものだ。
「その顔ですとわかっちゃいましたかー。
そうです。身体魔法はほとんどが自分で魔素をコントロールする必要があります。
実際はわずかな補助魔法陣があるのですが、いうなれば自分の体が魔法回路ということです」
おお、そうなんだ。なんか感動。
思わず自分の体を見てしまった。
「それも体内の魔素だからできることです。
余談ですが、身体魔法は魔法属性を持たなくても、唯一できる魔法だともされています。
まあ、身体魔法を発動させ補助する魔法陣まで無いのでかなりの修練が必要なのだそうです。
なので魔法核を待たない強い人。騎士や冒険者ですが、その強い人たちは体内の無属性魔素を使って身体強化を行っているのではと多くの研究者が提唱しています。
私もそう思っています。
実際“身体魔法”ができますが“魔法回路”は本当に簡単なものがいくつかあるだけです。
そして発動中は精神集中が欠かせません。
似たような無属性魔法もありますが、それを教えると混乱するので、それらはシッカリと基本を覚えてからですね」
よろしいですか、と言われて、うなずくが、
「あのー、付与・補助魔法ってなんだか二つの魔法のようなんですが」
というか僕の中では分かれてるんですが。
「あー、そこに気づいちゃいましたかー。さすがです」
普通は気にも留めずにスルーするところなんですがねー。
また呟きが、それと一緒に首もひねっている。
「えー、扱う魔素は物質干渉魔素と一緒なんですが、魔法陣の体系が完全に別物なんです」
ヒーナがチョット考え込む。
「セージ様は土から何が作られると思いますか」
「野菜や穀物です」
「そうですが、陶器が作られ、ものによっては絵の具が作られたりもします。石に壁と本当に多岐にわたります」
「はい、その顔いただきましたー。
要はそういうことです。
アプローチがそもそも違います。
無属性魔素を使用する生活魔法と身体魔法も、考え方によっては同じです」
一応説明しますね、と。
「付与魔法は物質に恒久的に魔法を与える魔法です。
まあ、実際は超が付く達人がやっても長くても十数年。一般的には五年も持てばいいほうです。
魔素が完全に定着することはありませんので、そんなもんです」
えっ、チョット驚き。定番のマジックバッグはどうした。伝説の武器はどうなんだ。
「そんなに短いんだ」
「ああ、それは魔法力を込めて長持ちさせるんです。
ただし、それでも付与魔法の限界はあるので、二倍から三倍程度でしょうか」
ヤッパリ、伝説の武器は無理みたいだ。
ちなみに伝説の武器が存在することをセージが知るのはかなり経ってからだ。
ただし想像と違って、誰それが使用した何とかという名剣だ、というように宝石のように貴重品化して飾られている。
魔法を付与して使えば使用できるが、それより使用者をたたえ象徴的な意味合いで飾られ、祭られている。
「ちなみに下手な人は数週間なんてことがありますので、武器や防具を買うときは気を付けてくださいね。詐欺にあいますよ」
ムフフとヒーナが不気味に笑う。
ヒーナの知り合い、それも仲の良くない奴が被害にあったんだろう、と容易に想像できる。
僕の視線に気づいたのか、失礼しました、と改まる。
「えー、そんなことがないように武器や防具を購入する時には、品質のチェックができる鑑定スキル、えー物の価値を判定するスキルですが、それを持った人に同行してもらうのがお勧めです」
「それに対して、補助魔法は戦闘などで瞬間的に能力を貸し与える魔法です。
魔法によっては人にも干渉できます。人の中にはもちろん魔素があるので、反発もあって、効果はほんの数分、長くて数十分程度しか持たないと言われています」
「二つの魔法を扱う人もいますが、片方に特化して極める人もいます。また、錬金魔法を持っている人は付与魔法を頑張って覚える人が多いですよ」
よろしいですか、に「はい」とうなずく。
武器や物に反発されないように同調させ、効果をより長く持続させるのが付与魔法で、補助魔法は短時間でいいから反発を強引に抑え込んで補助するってことだろう。
「ちなみに、この教科書を高等魔法学院で一年かかって勉強をするんですよ。もちろん細かく例を上げながら、実技も付いてですから無駄ではないんですが。
高等魔法学院の入学資格が、初等学校の卒業程度の学力と、魔法核と魔法回路が“2”、生活魔法の他に最低で二つの魔法が使えるようになっていることです。
魔法に関してはセージ様はまだまだです。とてもじゃありませんが入学できません」
ヒーナが嬉しそうに、いたずら小僧の笑みだ。
「でもですよ、そういった入学者の多くが魔法を使えることに有頂天になってしまっていて、真の魔法を学ぼうとしません。
まあ、この私もそうでした。
学ぼうとしていた学生も、使うことにかまけて、理論による体系をシッカリと理解できる学生はほとんどいなかったんだと、いまだとわかります。
それに、属性魔法のレベルが“1”なんて、所詮は資質が目覚めたばかりの人達ですから、感覚的に理解するのに時間が掛かってしまうので、しょうがないのでしょうが。
でも、セージ様は感覚的、体感的はすでにわかっていそうですから、この一覧を見せ、説明したんですよ」
「さあ、質問タイムでーす。ってもうしましたし、随分と答えちゃいましたね。まだありますか?」
「知りたいことはいっぱいありますが…、あ、その他をまだ聞いていません」
「そうでしたね。
その他の無属性魔法は、個人情報の魔法スキル欄には属性魔法として表示されません」
へぇ、チョット驚き。
「ですが、魔法核と魔法回路によって使える魔法が存在します。
今日はそんな魔法があるんだなってことだけ覚えておくだけでかまいません」
「わかりました。そうすると質問より、続きの方が気になります」
「それでは実技です。
あっ、おトイレは大丈夫ですか、リボンをつけに行っちゃいましょうか」
「いいえ、大丈夫です」
不覚にも、思わず股間を押さえてしまった。
「ジョーダンデス。本当に大丈夫ですか?」
「はい」
「それではお散歩に行きましょう。
続きは午後です」
「はい」
結局トイレには行くんじゃないか。はい、もう慣れっこです。
◇ ◇ ◇
「それでは実技です。
私も学院でやっていたことで、とてもためになった訓練です」
お客様巡りをしていたママも訓練に合流した。
ヒーナ曰く、
「一般的な魔法教育は二通りあります。
一つは、魔法を理論で理解しながら、その魔法を使って魔法の理解を深めていきます。
理論優先で実技を行っていく方法です」
「二つめが、魔法力が高い人向けで、まずは実際に魔法を使ってみて、使えなくても使おうとして、その感覚を生かして魔法理論を理解していきます。
体感型学習です」
「セージ様はどちらだと思いますか?」
僕の場合はもちろん、
「二番です」
「そうですね。普通はそう思うと思いますが、セージ様には当てはまりません。しいて言うならば三番です」
えっ、うっそー。詐欺!
「セージ様は、体感してるようですし、理論もその体感からか、ある程度理解しています。
午前見たこれですが」
ヒーナがまた教科書の巻末を開く。
ママがそのページを覗き込む。
しばらくして納得したようだ。
よろしいですか、とヒーナがママに確認して、
「こちらを一発で理解してしまいました」
ママがチョット目を見開いて驚く。
「ですからそれを再確認していく、追走タイプトでも言いましょうか。まあ、いわゆる天才タイプですね」
いやー、って、テレないから。僕が頑張って取ったとはいえ、女神様チートだから。
◇ ◇ ◇
そして、
「まずは魔素を体感してみましょう」
ということで“瞑想魔素認識法”なる座禅をしている。居間の床の上にシートを敷いて。
まあ、座禅といっても、お尻の下にクッション座椅子のような物を敷いて、胡坐だ。超ラクチンだ。
ただし、ただ漫然と座禅をしているわけではなく、ヒーナ先生と一緒に対面で座禅を組む。
精神を集中するも集中させ過ぎず、意識も体内と周囲に溶け込むように、そして穏やかに大きく広げる。
そして周囲の魔素を感じ、相手が発した魔法力や、それに反応した魔素も感じていくんだそうだ。
よくわからん。
ちなみにヒーナ先生も僕と同様に周囲の魔素を感じ取っている。
僕はというと、自分の魔素もよくわからない。魔法力と魔素は違うそうで、その区別というか、魔素を捉えているか疑問なところだ。
「コツとかあるんですか」
「コツというほどのことはありませんが、しいていえば、気持ちを落ち着けて、ユッタリとした気持ちで、焦らずじっくりですかね」
魔素が認識できると、魔法の理解が進むんだそうだ。
ちなみにママも最初は付き合ったが、早々にベッドルームに引き上げている。
僕も引き上げたい。
体感といっても、何にも感じない。
どうもこういった地味な作業、もとい、訓練は性に合わない。というか社畜を思い出してしまう。
「ヒーナ先生」
「なんでしょうか」
「何にも感じないんですが、具体的にはどうやって見るのがいいんでしょうか」
「体感といっても様々な方法があります。
魔法体感を覚える前は、身体魔法の基礎である体内の魔素を運用方法を利用して、周囲の魔素を感じ取って、いいえ、感じ取ろうとしていました。目を閉じて、皮膚の感覚を鋭敏にしていました。
魔法体感を手に入れたのも、身体魔法ができるようになったのも、この訓練のおかげできたと言っても過言ではありません」
身体魔法って僕もチョット持ってるよね。それならそうと最初っから言ってよ。
「そして索敵もできるようになって、周囲の物を他人より敏感に感じられるようになりました」
そうなると、ヒーナ先生って魔法体感や身体魔法が開花してから、索敵ができたってことなのか。
「魔法を目でとらえることができる人は、目で魔素を捉えても構いません。
セージ様は見えるのですから、ユッタリとくつろぎながらも意識は目に集中するとか、自分なりに工夫をされてみてはいかがですか」
おお、ナイスアイデア。そうしよう。
「とにかく魔素を実感すれことが第一歩。気持ちはユッタリで脳をフル回転の試行錯誤です」
オイオイ、それは無理、無茶だ。
それでもヒーナの助言からすれば看破、鑑定からの応用で見られそうな気がする。
「最近は私もずいぶん目で見えるようになりましたから」
まだやってるってことは効果があるんだ。
「セージ様も頑張ってください。
先ほど魔素の属性を一年かけて学習することは伝えましたが、体感して実感と理論の両方ができて理解が進みます。ですからこの二つを中心に基礎を学ぶのが一年生です。
地味ですが、魔法が上手くなることは確実です」
「ヒーナ先生もうまくなったんですか」
「そ、それを聞きますか」
えっ、そんな流れでしょう。
「ダメ……だったとか」
「いえ、ただチョット、チョットだけですが、遅かっただけです」
これって聞いちゃいけないやつだ。気遣い気遣い。
「ヒーナ先生も頑張ったんですね」
「そんな目で見ないでください。へこみます」
気遣い失敗。ごめんなさい。
「あっ、でも、学生みんながそういった状態で、体感できるのって早くて三年生くらいから、遅いとまあそのまま卒業する人は抜きにして、最終学年の四年生なんですから。
実際、この体感訓練は、在学中の四年間繰り返し行われます。
セージ様が魔素を体感できたら、魔素の秘密を教えちゃいますから頑張りましょう」
ヤッパ目標って大事だな。
なんとなくやる気が出てきた。
「はい、絶対秘密を教えてもらいます」
「その意気です」
対策がわかればそれを実行するだけだ。まあ、ヒーナ先生も数年かかった訓練だから気負わずアバウトでいいよね。
まずは看破、鑑定を意識しながら目に魔法力を集中する。それとは別に身体魔法にも意識を向けて体内の魔素にも気を向けておく。
魔法力は、まあ、できるだけ使わない方向で、でもあまり気にせずにと。
瞑想、瞑想っと。
◇ ◇ ◇
「セージ様、セージ様」
「あ、あれヒーナ」
「ヒーナじゃありません。本当にもう、どれだけ規格外なのか…」
「あっ、まだ見えません」
「見えてませんじゃありません。どれだけ集中してるんですか」
社畜、もとい、引きこもりの集中力をなめるなよ。
「見えるかと思って…」
なんとなく見えそうな気がするんだけど、今三歩ってところだ。モヤッてするんだけど。
「頑張っちゃったんですね。
また疲れちゃいますよ、明るいうちに散歩にいきましょう」
「まだできますよ」
早く見てみたいもん。
「リボンと散歩、どっちですか」
おっ、いつの間にかヒーナの手に真っ赤なリボンが。マジシャンか? あれっ?
「……も、もちろん大好きなヒーナ先生との散歩です」
「うれしいことを言っちゃうんですねー」
ムギュー。ウップ、し、死ぬー。いろんな意味で、死ぬー。は、鼻血がー。
パンパンパン。
プハー。
どこでこんなセリフを覚えてきたんでしょうか? 今から名うてのジゴロなのでしょうか。
ヒーナ先生が、ブツブツ意味不明なことをつぶやいている。
「それでは行きましょう」
「はーい」
手をつないで部屋を出る。
ヒーナ先生がなんだかうれしそうだ。