155. オケアノス海周辺諸国会議の申し入れ
五月二四日黒曜日のモモガン森林。
僕は、ミクちゃんとルードちゃんとキフィアーナちゃんにヒルデさんの五人で狩りだ。
まあ、狩りといっても強化短針魔導ガンの試射、威力確認が主目的だ。
キフィアーナちゃんの瞳が家に来た時からキラキラモード全開だ。
エルガさんの知恵と、試行錯誤で出来上がったカートリッジガンは五丁だ。
カートリッジは一五個で一〇個がメガボルテックスで、残りの五個がメガヒートで、今までと同様に短針は一〇本だ。
カートリッジガンの威力は射出速度は三.二割増しに、破壊の威力は五割り程度増加したけど、刺突力、貫通力は六.五割増しとなった。
それとカートリッジと短針も固く強くなった。
まあ、割合は僕が撃った時の感覚で、別の人が魔法力を込めると違った結果が出ると思う。
総合が“58”のヒルデさんの魔法核や魔法回路は“9”に届いていないのでカートリッジガンは扱えない。
ヒルデさんは、キフィアーナちゃんにあげた短針魔導ガンで武装している。
「サーベルバブーン七匹、強さは“42”~“56”。
身体強化を用いた牙と爪による攻撃。
雄たけびは威嚇と錯乱作用だけどそれはレベル的に問題はなさそう」
今になって見れば何ともない魔獣の群れだ。とはいっても気は抜かない。
格上を倒してきた僕だから何が起こるかわからにからだ。
「発射!」
バン、バン、バン……と、カートリッジガンが一斉に火を噴く。
ミクちゃんとキフィアーナちゃんにカートリッジ交換と次弾の発射をお願いする。
バン、バンと確実にサーベルバブーンに傷を負わせる。
あとは各人が展開して、武器で傷ついたサーベルバブーンを倒して戦闘完了となる。
魔獣石や必要な素材を回収して集合する。
「使い勝手はどう? 反動や感覚で何か感じたことはない? 撃った短針の飛んだ感覚や、当たった時のイメージとかでもいいから何でも教えて」
「反動は前のと比較してもそれほど変わらないな。
それより飛び出した速度が早くて驚いたよ」
ルードちゃん談。
「わたしもそう思ったし、貫通力が格段に増したと思う。
サーベルバブーンの固い皮膚に簡単に短針が刺さるんだもの」
キフィアーナちゃん談。
「私の感じたのも二人と一緒、あと短針が思った以上に真っ直ぐに飛んで驚いた。
それとチョット重くなって、魔量力も二割ほど増えてるよね」
ミクちゃん談。
ヒルダさんの使用している以前の短針魔導ガンは、エルガさんの得意な魔法陣が基本で、射出系の魔法陣を効率よく使用して構成されている。
それを工夫して射出速度をアップさせているけど、僕のレベルの高い魔法陣に置き換えたおかげで、より一層威力も速度もアップしたけど、魔法力もより多く必要となった。当たり前だ。もちろん魔法効率も考慮したんだけどね。
そのため、合金の強度を上げて負荷のかかるところは金属を厚くしたから仕方ない。
「使いにくさとかは?」
「それはないわね」
「ウチもそう思う」
「私も」
反動も大きくなったけど、身体魔法が“10”を超すみんなにはたいしたことはないみたい、どうやら印象は良さそうだ。
あとは連続使用してどうかというところみたいだ。
ここに来るまで、細かいところまで入れると、エルガさんの知恵を借りながら五回ほどの作り直ししてるもんね。
そのうちの三回は付与魔法の掛けなおしだから、なんとかこの短時間で出来上がった。
残りの二回はエルガさんに構造上の手直しをしてもらって、手間を掛けさせちゃった。
忙しいのに、「ボクがチョット手直しするね」と嬉しそうに手伝ってもらえて、非常に感謝している。
どんどんモモガン森林の奥に入っていく。
レーダーや浮遊眼で確認しながら、強い魔獣との遭遇を目指してだ。
「ギガントベア発見、強さは“73”。魔法は風と火魔法で、強靭な体を身体強化でより強靭にして高熱化して攻撃してくる」
「わたしがやるわ」
真っ先に手を上げたのはもちろんキフィアーナちゃんだ。
まあ、レベル的にも負けないとは思うから「いいよ」と許可をだす。
ヒルデさんは少々心配そうだけど、それは棚上げだ。
個人情報による生物的な強さによる判断基準がないと、見た目じゃ圧倒的にギガントベアの方が凶悪で強そうだ。
バン、バンとカートリッジを交換しながら射撃する。
一発目はかすめて短針の二本ほどが肩に突き刺さっただけだ。
二発目は右の太腿に突き刺さってドルテックスが弾ける。
GYOWA---NNN。
そしてもう一発。うわー、えげつない。今度は顔にめがけてだ。
GYOWAA---NNGAA-。
ギガントベアが雄たけびを上げ、発熱する。
でもカートリッジガンの射撃で発熱が弱い。
ウオリャー、とお姫様にははしたない雄たけびを上げて、ギガントベアの背中に回って突き刺し、ボルテックスで体内から焼いて、簡単に倒した。
「どう?」
「短針が一〇本じゃなく、もっと欲しいわね」
「それ無理だから」
そうなると片手で持ちにくい大きさになるんだ。
急所に当たらなかったということもあるけど、さすがに強さが“73”となると、三発でも殺せなかった。
キフィアーナちゃん、ビビったなんて言わないからね。
あとは短針が細く小さいから貫通力があっても、一本一本のボルテックスの威力は弱いのは確かだ。
それでも確実に相手に手傷を負わせ、攻撃力を減少させるには充分な威力だ。
その後はキラーレッドベアにブラックメガホッグ、キングレオなど初めて見る魔獣とも遭遇した。
強化短針魔導ガンの試射は好感の下に完了した。
帰宅して本格的な製造に入った。
ミクちゃんやルードちゃんにはカートリッジと短針の製造を頼んだのは、先に記述した通りだ。
◇ ◇ ◇
六月一日赤曜日の朝のクラス学習。
各人の楽器確認とパレードの並び順の決定だ。
楽器を持ってこない生徒や確認ができない生徒はリコーダーに決定する。
パレードの指揮者のドラムメジャーはシエーサン君だ。
ライカちゃんていう声もあったけど、ライカちゃんもリコーダー演奏に立候補したので特に希望のなかったシエーサン君となった。
ルードちゃんは横笛で、僕はハーモニカかオカリナかいまだに迷っている。
「セージちゃんまだ迷ってるの」
「うん、どうしようかと思って」
「どうしようも何もやりたい方でしょう」
それがないから困ってるんでしょう。
「うーん、そうだよね」
「はっきりしなさいよ」
僕にとっては、どっちも同じだよね。
「じゃあ、ハーモニカで」
「じゃあって、まあいいわ。頑張ってね」
午後の五、六時限の魔法練習の授業では、ミクちゃんやルードちゃん、それとライカちゃんたちと一緒に楽器、僕はハーモニカだけど、その練習となった。
パレードについては、しばらくは楽譜を見て楽器演奏の個人練習だ。
ちなみにリュートは、軽いものがあって、肩からベルトでぶら下げて引けるようにもできるそうだ。
ちなみにドラムはキジョーダンの二バカのガラクーダ君とブゾン君だ。
マーチングベルは兎人のポップリーナちゃんと狼人のギルリアンちゃんだ。
キジョーダンはともかくも、ガラクーダ君とブゾン君もまじめに練習していた。僕も負けられないよね。
◇ ◇ ◇
自宅に帰ると、パパから連絡があった。
「ロト国からオケアノス周辺諸国会議の申し入れがあった。
議題は大災厄の対応と協力について、それとオケアノス周辺諸国以外の国との連絡と協力に付いてだ」
なのともまあ、大きな話だ。
でもそうでもしないと、大災厄を乗り切ることはできないだろうね。
ロト国のリヴェーダ王は、連合を作るって言ってたし。
「あと先に行っておくが、内密な要請で会議にはセージに、ミクリーナとルードティリアの出席の打診があった。
ヴェネチアン国もその要請には賛成しているそうだ」
えーっ! びっくりだ。
「ボクタチガ……」
「ああ、現在秘密にされている中でも公に“神の御子”として正式に認められているのがお前たちしかいないからな」
「お告げの内容とか問われるの?」
「それもあるとは思うし、“神の御子”の活動によって、マリオン国・ヴェネチアン国・ロト国以外の国にも大災厄の対策を意識させる狙いがあるのではと思っている」
「え、大災厄の対策⁉ 今更?」
「そうだな。国によっては、無関係を装って何も活動していない国もあるし、対策がわからず苦慮している国もあるからな」
情報力の差ってやつか。
それと、平和に安穏としていた企業が突然の災厄に見舞われる。将来の展望のない企業が迷走するってのと同じか。
セキュリティ対策であちらこちらの企業を見てきた、そのまんまがバルハライドでも展開しているみたいだ。
脱力感にガックリと肩が落ちそうになる。
あ、そういえば、
「僕たちってマリオン国でも“神の御子”って認識されてるの?」
「当たり前だ。ヴェネチアン国とロト国から“神の御子”の活動に正式な感謝を伝えてきている」
「そうなんだ」
「マリオン市からも色々と打診が来ているが、就学中だということで断っている。
それとは別にオーラン魔法学校に臨時の職員が増えたり、見学が頻繁に行われているのを知らんのか?」
補助のウランドルフ先生もその一環によりものなのか?
見学者は見かけた覚えはない。ロト国に行ってたこともあってかな?
自分の知らないところで、周囲が随分と変化していたみたいだ。
「そ、そうなんだ」
「おまえがオケアノス神様から頼まれごとをした時からの必然だ」
誇らしそうなパパの認識はそうなんだろうけど、僕にとってはある程度覚悟していたとはいえ、こうもハッキリと言われてしまうと複雑だ。
ミクちゃんとルードちゃんも大丈夫なのだろうか? 心配だ。
「ギランダー帝国はどうなったの?」
「あそこの動向はまだ不透明だそうだ」
「不透明って?」
「帝王の権限が弱く、政治が落ち着いていない。
現在はそれ以上でもそれ以下でもない」
内乱をはらんだ不安定な状況ってことなのかな?
現帝王ってエラリック第一王子だよね。ビリリート第二王子はどうしているのかな?
「ところでオケアノス周辺諸国会議ってどこであるの?
またどこかに出かけることになるの?」
「このオーラン市に決まりそうだ。おまえたちの住むこのオーラン市にな」
パパが、ガハハハ…と盛大に笑った。
それって僕たちの所為……。かなりのビックリだ。
パパはフィフティーナ一家(ラーダルットさん、リーデューラさん、そしてルードちゃん)を呼んで、まだ決定ではないがとの前置きをして、僕も付き合って、再度同様の説明をした。
フィフティーナ一家全員が驚愕していた。
ミクちゃんはウインダムス議員に呼ばれて、今日は直接家に帰っている。
パパ曰く、ウインダムス議員から同様の説明を受けているそうだ。
オケアノス周辺諸国。
最大の国がヴェネチアン国で、二番目がマリオン国だ。
ロト国などの小さな国が、あと六か国つほどある。
六つほどとは、冒険者ギルドは提携しているが、貿易などの関税は別扱いだったりと、部分協定を入れるとだ。
その辺のことは政治の駆け引きや変更もあって、僕もよく知らない。
とにかく九か国がオケアノス周辺諸国と呼ばれている。
◇ ◇ ◇
六月二日青曜日。
学校では相変わらずオケアノス祭のパレードの演奏練習を行い、週二回のダンス練習に参加した。
学校中がオケアノス祭に向けて華やいだ雰囲気だ。
四年Sクラスでは衣装の打ち合わせも始まった。
ダンス大会は夏休み中のイベントだそうで、そちらの練習にも熱が入ってきている。
そしてこの日強化短針魔導ガンが予備を入れて一二丁がほぼ完成した。
ヴォルテックスとヒートの五個づつの一〇個で五〇個のカートリッジはミクちゃんとルードちゃんの手伝いもあってそちらも完成した。
弾の短針はある程度できたけど、カートリッジを含め増やしていくつもりだ。
キフィアーナちゃんの家に来てリエッタさんも含めて四人に二丁づつ渡した。
「次はカートリッジライフルね」
瞳をキラキラと輝かせながらウットリするキフィアーナちゃんに、かなり腰が引けてしまった。
「う、うん。がんばるから……」
カートリッジガンを本格的に使って改善点がないかの再確認を行ってから、強化短針魔導ライフルの作成に掛かる予定だ。
あとは魔導車の製造(改造)も着々と進んでいる。
さすがギランダー帝国の技術はすごい。
ヴェネチアン国から最新の魔導車を追加で購入することも決めた。
やっぱり、今までいろいろとお金を稼いできたかいがあるってものだ。
◇ ◇ ◇
N・W魔研では機能に制限を設けた短針魔導ガンをニードルガンとして販売の検討を開始した。
撃った時の反動を弱め、できるだけ威力を落とさないようにする必要があるそうだ。
使用魔法量のこともあるので、ある程度のレベル、多分総合で“50”は必要だと思う。
商品にするなら、そういったもろもろの制限も明確にする必要もある。
「やるぞー!」
エルガさんが気勢を上げていた。
製造は大丈夫なのか?
N・W魔研のメンバーにはすでに装備させているそうだ。
どうやらオケアノス海周辺諸国会議で大々的に発表を行うことを想定しているみたいだ。
ボランドリーさんにニガッテさん。ホーホリー夫妻にレイベさんは総合がほぼ“100”だけど、エルガさんにヒーナ先生、デトナーさんにアランさん、わすれがちだがカフナさんの総合は“80”前後だったり、“60”前後だったりと低い。
またみんなのレベル上げに付き合った方が良いのだろうかと心配したら、少なくとも全員総合が“80”前後までは上げているそうだ。
ちなみに僕たちがロト国に遠征していた時に、カフナさんも所員になっていた。チョット驚いた。
そうなると目指せ“100”だ。やってみた方がいいのかな。
それとN・W魔研がまたも手狭になってきていた。