154. ダンスの課外授業
少々さかのぼるがダンステストがあった当日の五月一九日赤曜日にオケアノス祭への参加のための話し合いがクラスで行われた。
オケアノス祭への本格的な参加は最後となるため予定通りパレードへの参加となった。
その翌日の五月二〇日青曜日。
ミクちゃんとの登校時に正門でモリンガ先生(女性)とフロイダル先生(男性)につかまった。
「「おはようございます」」
「「おはようございます」」
勢い良い先生の挨拶に、二人で腰が引けた。
「セージスタ君にミクリーナさん、二人はダンス大会に出てみ気は無いかね」
「いや、出るべきでしょう」
「え、なんでしょう?」
「だから、二人にダンス大会に出ていただきたいのです」
「「ハア⁉」」
思わずミクちゃんとハモッてしまった。
「あのー、ダンス大会って何でしょう?」
「そうか、二人は知らないのですね」
「オケアノス海周辺諸国ではヴェネチアン国が最大の国だと知ってるよね。
最近のオケアノス海周辺諸国の会合では、ヴェネチアン国で盛んなダンスを行うことが多く、マリオン国でも踊れるように推奨され始めたんだよ。
それをきっかけにオーラン市でも五年前から大会が行われていて、節目の五年目で大々的に大会を行うことになったんだよ」
「詳細はクラスに伺った時に説明しますから。参加したいクラスメイトがいないか声も掛けておいてくださいね」
「二人ともよろしく。絶対に優勝できるから。それだけの力があるんだから期待しています。
あと、できればキフィアーナ姫も連れてきてくれると、嬉しいかな」
「そうです。キフィアーナ姫の参加もお願いします。
これでダンスの授業も盛況になること間違いなしです」
「「え、えー」」
僕たちの了承もないままのマシンガントークの説明。
またもハモッてしまうも、間抜け顔まで一緒だ。
「ねえ、人材集めの担当にまでされたような気がするんだけど……、気の所為じゃないよね」
「うん、私も同じこと考えてた。やらないといけないのかな?
ダンスは好きだけど、やることを前提に決めつけられるのは納得いかないわ」
「やらなくていいんじゃない。僕たち参加も表明してないし、課外授業にも参加してないし、そんな時間ないし」
「参加はしてみたいけど、強制参加には納得いかないもの。うん、それでいいよね。ただみんなに声だけは掛けてみた方がいいなじゃない」
「じゃあ、朝にみんなの前で発表すればいいよね」
ミクちゃんは僕の言葉に同調してくれているけど、ダンス好きなのは相変わらずだ。
モジモジと、なんとなく参加したそうな雰囲気だ。
「それと、参加するにしても、僕たちの都合で練習したいよね」
「うん、それがいいよね」
ミクちゃんが二コリと笑った。
短針魔導ガンの作成中だし、その後は人数分の作成にカートリッジに短針と盛りだくさんだ。
ミクちゃんも手伝ってくれると、張り切って宣言してくれたのは昨日のことだ。
最終目標はライフルの威力アップだ。先は長い。
もちろん論N・W魔研の手伝いもある。
時間があれば、また七沢滝ダンジョンにも行ってみたい。
学校より、帰ってからの方が忙しいくらいだ。
◇ ◇ ◇
「僕たちは参加しません!」
僕は、二時限目の長い休憩時間にやってきたモリンガ先生とフロイダル先生のマシンガントークを遮って叫んでいた。
思いこみの激しい人に付き合うと、振り回されること必死で、ろくでもないことは経験則だ。
ここでハッキリとことわらないといけないと思っての叫びだ。
「これ以上関わらないでください!」
止めにもう一度。
あっけにとられるモリンガ先生とフロイダル先生。
「そうです、いくら先生とはいえ、私たちの都合も考えずに、一方的すぎます。お断りします!」
「いやー、強制ではないし、参加も自由意志だ」
「そうです。ですがあなたたちの才能を思えばこそです。参加してみましょう」
「いろいろな体験をすることは……」
「くどいです。参加しません! これ以上無理を言われるのは納得いきません!」
「そうです。私たちは学校外の行事のことで、お断りした上に、先生のお話を聞く義務はありません!
失礼します。セージちゃん、先生たちがまだ帰られないようなので、私たちが行こう」
「うん」
ミクちゃんが手を差し伸べてきたので、その手を握って<テレポート>した。
短針魔導ガンは命にかかわることだ。それをないがしろにはできないし、現在面白くって、丘のことに煩わされたくない。
◇ ◇ ◇
「それで強要されて逃げ出したと」
「「はい」」
放課後、校長室に呼びだされて、事情聴取中だ。
「先生方は、強要した覚えはないと」
「はい」「そうです」
「やるべきだ、みたいなこと言われたじゃないですか」
「そうです、あれだけハッキリと言われれば強要されたのと一緒です」
「それは貴方たちのことを思ってですね」
「そうです。それだけの才能を認めたればこそです」
「校長先生、ほら、このように強要してくるんです」
「耐えられません」
「強要ではありません。持つ者の義務です」
「才能と努力があって初めて素晴らしい演技、ダンスが身に付くのです」
「まあまあ、先生方も、それとお二人も落ち着いて下さい」
「セージスタ君とミクリーナさんが大変忙しいのは存じてますが、課外授業に参加できない明確な理由はありますか」
「はい。
僕たちはついこの前までロト国のアクアダンジョンの調査におもむいていました」
モリンガ先生とフロイダル先生がギョッとする。
「ど、どういうことでしょう」
どうやら僕たちのことは知らなかったようだ。
「落ち着いてください。
二人は他国からも依頼される冒険者なのです」
「って、ことは……」
「例の“神の御子”といわれているのは…」
「お静かに。それ以上はおっしゃらないでくださいね」
校長先生は言葉とは裏腹に、モリンガ先生とフロイダル先生にうなずく。
なんだかモリンガ先生とフロイダル先生の驚愕の表情に畏怖が混ざったみたいだ。
「続けてください」
モリンガ先生とフロイダル先生の反応に、言葉を止めてしまっていたけど、校長先生に促されて、つづきを話す。
「そこでかなり危険な目に合いまして、現在ノルンバック・ウインダムス魔獣対策魔道具研究所と一緒に対策中です」
詳細は話せませんといった態度で、言葉を切った。
モリンガ先生とフロイダル先生の表情が更に何とも形容にしようもない表情に変化した。
「そうですか、それは致し方ないですね。
モリンガ先生とフロイダル先生には申し訳ありませんが、セージスタ君とミクリーナさんへの接触は禁止致します」
「「そ、そんな……」」
モリンガ先生とフロイダル先生から絶望感が漂い出す。
「あのー」
「なんでしょうか」
「僕もミクちゃんもダンスは嫌いじゃありません」
「そうです、練習するのも嫌ではありませんが、時間がないだけなので空いてる時間なら課外授業に参加しても構いません」
「ええ、ただし毎回参加できるかは保証できませんし、早く上がることもあるかもしれません」
「セージちゃん、出たからには最後までが基本よ。そうじゃなければ授業の妨げになるもの、それなら出ない方がいいわよ」
「そ、そうか」
「いや、かまいません。それでかまいませんから出席してください」
「うん、やる気があるんなら参加すべきだ。
生徒の意向を汲むのも先生の仕事だ」
え、今更? とは思うけど。
「いいんですか?」
「ええ、かまいません」
「今は人数よりやる気だ」
少ない男子生徒の半数がやる気がないとなると、そりゃ重症だろう。
ダンスもやってみると想像以上にハードだ。
姿勢の維持も神経を使うし、体力を使う。
何よりミクちゃんが喜んでくれるのが、嬉しいかな……、なんかハズイ。
「あのー、習えるのはウインナーワルツだけですか?」
ミクちゃんが問いかける。ダンス好きだもんね。
「いや、普通のワルツにタンゴは教えようと思っています」
「激しいダンスもあるけれど、それらはパーティーでは踊らないからね」
「パーティーの基本はウインナーワルツを入れて、おおくて三種類ですからね」
「もちろんチークダンスは、別だからね」
フロイダル先生の言葉にミクちゃんがパッと赤くなる。
そうなると僕の頬も熱を持ったようになる。……ハ、ハズイ。
「それで、二人はどこでそれほど習ったのかな?」
僕とミクちゃんは問われるままに、最初の練習から、従兄のロナーさんの結婚式や、キフィアーナちゃんのお兄様のズーディアイン殿下の結婚式、それに付随するパーティーに、ミラーノ初等魔法学校での授業、ロト国の親善パーティーと答える。
自分自身でも思っているよりダンスを踊っていることに驚いた。
「セージちゃんはどこに行っても、人気があってなかなか踊れないんです」
ミクちゃん、ここでそんなこと言わなくていいから。
「実践もそれだけやっていれば上手くなるはずだ」
「そうですね。生徒たちにも実際のパーティーに参加できる環境があってほしいものです」
校長先生を交えて会話をしていると、ダンスを学ぶ生徒はそれなりにいるけど、思ったように育っていない。
おざなりな男子生徒が多いのも問題なようだ。
いい意味での起爆剤がない物かと物色中に出くわしたのが、僕たちだったようだ。
ロックオンで暴走したようだ。
教育熱心なんだろうとほほえましく思ってしまう。
とはいえ、全面協力できるほど暇じゃないから。
「できるだけ参加します」
「よろしくお願いします」
ということで会談はお開きとなった。
脱力感。
今日一日のエネルギー全て、モリンガ先生とフロイダル先生に持っていかれたような気がする。
◇ ◇ ◇
帰宅するとN・W魔研ですでにルードちゃんは、ポチットムービーの製造を手伝っていた。
僕はミクちゃんもまずはお手伝いだ。
その後にまずは僕一人で短針魔導ガンの作成を開始する。
ガンができあがらなければ、カートリッジや短針の作成は頼めないからね。
あとは暇を見つけて魔導車の製造(改造)を本格的に開始した。
フォアノルン伯爵、伯父様を通してヴェネチアン国から最新の魔導車を購入――もちろん僕のお金でだ――して届いたからだ。
それにギランダー帝国の技術を摂り得れ更なる改良を行う予定だ。
「こんにちは」
「「いらっしゃい」」
どういう風の吹き回しか、キフィアーナちゃんがN・W魔研に見学に来た。
当然ヒルデさんと警護のメイドさんが付き添ってだ。
みんなから押し付けられて、僕とミクちゃんが相手をすることになった。
ルードちゃんはシッカリと働いていて、まかせるから、と早く行けとでもいうように追い出された。
パパさんと、元気になったママさんが働いているし、ダンジョンなどの素材でそこら辺の冒険者程度以上には稼げているから、働かなくてもいいんだけど、N・W魔研を結構気に入っているみたいだ。
あとは元気なママさんと一緒にいられるのが楽しいみたいだ。
簡単にN・W魔研を見せて回る。
二階建ての四部屋に物置があるだけの建物だ。
最近は拡張と建て増しで、エルガさんの開発部屋が広くなり、製造部屋も広くなった。
それに素材置き場と物置を増やしたところだ。
二階の事務所と梱包部屋は今まで通りだ。
オーラン・ノルンバック船運社の開発部門みたいな位置づけだったものが、独立会社のような位置づけになってきている。
もちろんウインダムス総合商社とも提携しているのは相変わらずのことだ。
「面白かった?」
一応聞いてみたけど、興味がなさそうなところからするとお気に召さなかったようだ。
そして帰ってきた言葉が、あれだった。
「わたしの短針魔導ライフルは作ってないの?」
理解120%だ。
短針魔導ガンやライフルのことはオーラン魔法学校では話題にしないことにしている。
大っぴらに会話できるのは僕の家くらいしかない。
「まだまだ、これからだ」
「約束だからね。何ならセージの短針魔導ライフルをもらってもいいんだけど」
ちなみに短針魔導ガンとカートリッジは、僕の渡したものを、チャッカリと自分のものにしている。
「ああ、いいよ」
アイテムボックスからカートリッジや短針を取り出すと、ホイッと突き出すと、キフィアーナちゃんが一瞬手を伸ばして、止めた。
「いいから持っていっていいよ」
「どうしたの? 何があったの?」
キフィアーナちゃんがいぶかしそうに僕を見つめてくる。
「短針魔導ガンの改良版の作成中。それが終わってから短針魔導ライフルの作成予定。
名前もカートリッジガンにカートリッジライフルにする予定。
どうぞこれを持っていってください」
僕が悪戯顔でほほ笑むと、キフィアーナちゃんにキッとにらまれた。
「改良版のカートリッジガンとカートリッジライフルは」
「約束したのは短針魔導ライフルだから」
「セージちゃん、意地悪はしないの」
隣のミクちゃんがクスクスと笑い出した。
「キフィアーナちゃんにも良いものを作ってあげるんだって、張り切ってエルガさんと打ち合わせしてたわよ」
「せっかく内緒にして驚かせようとしてたのに、この程度のお遊びは許されると思うんだけど」
この日から時々キフィアーナちゃんもN・W魔研を手伝うするようになった。
ただし、ボランティアといっても、ポチットムービーをおねだりしたり、短針を作ってもらったりと、なんとなく高くついているような気がするのは僕だけだろうか。
◇ ◇ ◇
五月二二日緑曜日の一時限目のクラス学習、パレードで演奏する音楽が決定した。
歌は楽器を演奏しながらできる人となって、全員で演奏することになった。
歩きながら演奏できる楽器を持っている人は申告して、調整を取ったりもした。
あまりにもバラバラな楽器だと、バランスが良くないしね。
そんな中で救いがあった。
「わたしハーモニカができる」
えー、バルハライドで見たことなかったけど有ったんだ。
リコーダーよりもそっちの方がいい気がした。
あとは候補に挙がったのはオカリナ、横笛、リュートにピアニカくらいだ。
ピアニカがあったことにも驚いた。ここ最近できた楽器だそうだ。
ドラムやマーチングベルは学校からクラスにいくつかの貸し出しがあるから、それは立候補者に任せよう。
とにかく僕も楽器の練習をしなきゃ、となった。
ミクちゃんと一緒の帰りに僕はハーモニカとオカリナを、ミクちゃんはピアニカを購入した。
ルードちゃんは横笛とリュートでどちらを選ぶか検討中だ。
◇ ◇ ◇
放課後。
僕とミクちゃんは初めてダンスの課外授業に参加した。当然のごとくキフィアーナちゃんも付いてきた。
ちなみにルードちゃんはN・W魔研だ。
ライカちゃんとシエーサン君などのまじめな生徒もいるけど、明らかに踊れていない。
三曲ほどミクちゃんとキフィアーナちゃんと一緒に踊ると、雰囲気もよくなったようだ。
その後は、ダンシングマシーンとなって、色々な生徒と踊った。
最初はナチュラルターンからのチェンジステップでリバースターン。
もう一度チェンジステップでナチュラルターンに戻るの繰り返しだ。
これだけでも踊る方も見ている方も楽しくなってくるものだ。
ミクちゃんとキフィアーナちゃんも、やる気のある男子生徒と踊足りしていた。
キフィアーナちゃんは器用で男性パートでも踊れて、女子生徒相手に踊ったりもした。
さすがお姫様、キフィアーナちゃん一人で華やかさがアップしたようだ。
みんなもスムーズに踊れると楽しいようで、笑顔が増えた。
ワルツとタンゴを教えてもらうのはかなり後になりそうだ。