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次元災害で異世界へ  作者: 真草康
ロト国編
156/181

152. ロト国報告


 五月二日青曜日の夕方、ロータス市に戻ってきた。

 一旦帰還して、再度アクアダンジョンに潜ったのが四月一三日赤曜日だから、二週間を超えたところだ。


「捜索隊が出るところだったのですよ」

 ミクちゃんのママさんのマールさんにさんざんお小言を食らってしまった。


 リンドバーグ叔父さんはひょうひょうとした感じで、一度だけよくやったとほめてくれた。

 ねえ、そう思うんなら、このお小言地獄から救ってくれてもいいんじゃないかと思うんだけど、我関せずで「城へは連絡を入れておきます」と、お小言部屋から出ていってしまった。


 夕食を食べながらの内輪の報告会。

 もちろん城にも連絡済みだし、ポチットムービーの映像付きだ。


 まずは一層の魔獣の説明を開始したが、早々に一一層まで飛んでしまった。


「これがジャイアントグラトニーラフレシアの変異種で、黒い水球の発生源だった魔獣」

「これがですか…」

 マールさんが興味深そうに映像を食い入るように見つめる。

「絡み合っていて、一体なのか、群れなのかわからない変わった魔獣です」

「そうなのですか……」


 ジャイアントグラトニーラフレシアは単体なのか群体なのか、それすらもわからない異様な植物魔獣だった。

 僕の説明にマールさんは理解の許容範囲をオーバーしたのか首をひねる。

 リンドバーグ叔父さんや、キフィアーナちゃんの保護者のヒルデさんも似たような状態だ。


「たったそれだけもわからなかったの?」

「私の看破の許容範囲を越えてましたから……」


 この時の戦闘にほとんど参加できなかったキフィアーナちゃんの不満げな問いに、リエッタさんが神妙に答えてくれた。


「それでジャイアントグラトニーラフレシアをやっつけたんだけど、根っこが残ていてその根っこが変異したんだと思われるのがトリフィドラフレシアなんだ」

「数は一九匹もいて大変だったんだから」

 キフィアーナちゃんが胸を張って補足する。

「そうなんですか…」

 マールさんの声のトーンが変わって、困惑気味になる。


 キフィアーナちゃんが短針魔導ライフルでいかにトリフィドラフレシアを攪乱し、やっつけたかの自慢話がすごかった。

 キフィアーナちゃん魔獣の説明だからね。


「それが強化トリフィドラフレシアになって……最後がセイレーントリフィドに変異して、それを退治して終わったんだよ」

「……」

「そのようなことが起こるのか……」

 マールさんから声が無くなり、声が出たのはリンドバーグ叔父さんだ。

 ヒルデさんを含み、食い入るように映像を見ている。

 キフィアーナちゃんだけでなく、ルードちゃんとリエッタさんも、セイレーントリフィドとの戦いの映像に熱烈な視線を向けていた。


 それとラフレシアによる叫び声による黒い波動のことも報告した。

 負の漏れ出し口から出ている可能性も付け加えた。

 ラフレシアたちも次元の裂け目から何かしらのエネルギーを取り込んでいたからその可能性も捨てきれない。

 黒い波動をはっきりと見えるのは僕たち聖徒の称号を持つものだけみたいで、映像にも映っていないからそれらのことは口頭で説明するしかない。


 もちろんリエッタさんみたいに影響もうけるし、おぞましい波動を感じ取ることも可能だから存在死体ははっきりしている。

 現にその影響をロト国自信が受けているのだから。

 あとは黒い波動の影響を受けた黒い水球は誰もが見ることができる。


「多分その黒い波動が黒い水球を作り出していたんだと思うんだ。

 ダンジョン内にはまだ黒い水球は残っているけど、増えているって感じはしなかった」

 それらを確認したのもあって、ダンジョンから出てきたのが遅れたってのもある。


「これでアクアダンジョンは消滅するのかね?」

 リンドバーグ叔父さんが改めて、問い質してくる。

「ううん」

 僕は首を横に振る。

「ダンジョン内には負の魔素と魔法力が湧きだしてくるところが在って、そこにラフレシアたちが居たんだ。

 まだ負の魔素と魔法力は湧きだし続けているから、消えることはないと思うよ。

 ことによったら黒い波動も漏れ出してくるかもしれない」

「それで大丈夫なのか?」

「絶対量は減ると思うから」

「そうか」


 次元の裂け目に関しては何処まで伝えていいか不明なので、言葉を濁した。


「その負の湧きだし口は確認できたんだね」

「うん、僕とミクちゃんにルードちゃんは見えるというか認識できるけど、リエッタさんは見えないんだって」


「七沢滝ダンジョンの時に湧きだし口から出現したワイバーンや、ギランダー帝国で出現した黒霧獣などは全てその負の湧きだし口から出てきたものなのよね」


「うーん、黒霧獣までは分からない。見てないから」

「セージちゃん、神様のお告げだと、そうなるんじゃない」

「ああ、そうだね」


 その後は、マールさんとリンドバーグ叔父さんが気になる映像を見ながら、細かな聞き取りが行われ、色々と話し合った。

 ロト国への報告についてもだ。


  ◇ ◇ ◇


 五月三日黄曜日の午前、恰幅のいい紳士風のリヴェーダ王との内密の会談が設けられた。

 出席者はマールさんにリンドバーグ叔父さん、あとは僕たち五人(僕、ミクちゃん、ルードちゃん、リエッタさんに最初の会談の時にはいなかったキフィアーナちゃん)に、キフィアーナちゃんの保護者のヒルデさんだ。


 キフィアーナちゃんはヴェネチアン国の代表としてとの問い合わせもあったが、今回はあくまでもオーラン市の学生としての参加となった。

 もちろん会談の内容はヴェネチアン国に送る旨の了承は取っている。


 ロト国側はリヴェーダ王の他は側近四人、優しそうな丸顔の宰相に、ごくごく平凡な小柄なおじさん風の総務大臣、カイゼル髭の偉そうな軍務大臣、長身な目つきの鋭い財務大臣だ。

 あとは、やせぎすで神経質そうな書記官一人に、見るからに屈強な警備兵一人と、前回と全て一緒だった。


「実際はキフィアーナ様も探索に参加されたのですね」

「こちらの案内人もそう証言しております」

「わかりました」


 まずはキフィアーナちゃんの出席理由の再確認があってから、会談が開始された。


「これがジャイアントグラトニーラフレシアでアクアダンジョン内で、黒い波動を発生させ、苦労水球を発生させていた魔獣と思われます。

 負の魔素や魔法力の湧きだし口にいて、群体でコロニーを形成していたのか、巨大な一体の生物としていたのか、または複数体による集合体なのかわかっていません」


 全ての魔獣と戦闘したのは僕とミクちゃんなので、説明は僕の担当だ。

 ジャイアントグラトニーラフレシアの阻害能力で、僕のレーダーでもほとんど見えなかったけど、それでもみんなから比較したら情報を持っているみたいだ。


「ほう、このような巨大な集合体を形成する魔獣は初めて見たな」

 宰相が呟きながら、軍務大臣に目を向けると、軍務大臣も同意にうなずく。

「興味深い魔獣だな」

「ところで、負の魔素や魔法力の湧きだし口と言っていたが本当か?」

 ロト国側の会談の発言は、基本は宰相が行うのは、前回の説明と一緒のようだ。


「はい。それは間違いありません。

 僕たち、えー、“聖徒”の称号持ちは、負の湧きだし口が見えたり、認識できたりしますから」


「それは興味深い情報じゃな」


 その後にトリフィドラフレシア、強化トリフィドラフレシア、セイレーントリフィドと魔獣が変異しながら戦闘が継続したことを説明した。

 黒い波動が防御や攻撃にも使用されたことはもちろん説明したし、精神攻撃が強力なことは戦闘に参加した全員の確認がされた。

 まあ、ルードちゃんとキフィアーナちゃんは不満たらたらで認めるという、少々気まずいやり取りもあったりしたが。


「アクアダンジョンから引き揚げてくるときに、確証を得ようとしましたができなかったのですが、多分ですが黒い水球は増加しないんじゃないかと思います。

 もしくは増加するにしても増加率は格段に落ちるはずです」

「これ以上の調査はロト国で行っていただきたいと思っています」

 僕の結論と懸念事項を伝え、マールさんが補足する。


「皆さんがアクアダンジョンから帰還後に黒い水球の増加は観測されていないので、皆さんの報告を信じます」

 宰相が、よろしいでしょうか、とリヴェーダ王と三人の側近に確認して、黒い水球に関する答弁が完了した。


 その後はお礼や、レセプションなどのお話があったが、お断りの方向でお願いしたけど、それでは済みませんと、お願いし倒されてしまった。

 まいった。またダンスみたいだ。

「キフィアーナ様は、是非にもご参加いただきたく」

 との懇願に、キフィアーナちゃんはヒルデさんとの相談する。

「お忍びとはいえ友好国の訪問に、参加の要請は受けるべきでしょう」

 ということで、直ぐに警備やその他の打ち合わせとなった。

 もちろん“神の御子”ではないので、その友人としての参加であるし、友好のための参加だ。

 王族の一〇才で社交デビューの年とはいえ、ある程度の慣れもしているだろう。 


 それとは別にルードちゃんはすぐさま。

「パス。セージとミクに任せる」

「それはいい案……エヘン。私は今回役に立っていないので、参加するのは少々心苦しいですです。子供であるセージ君とミクさんにお任せするのは本当に心苦しいのですがよろしくお願いしまう」

 リエッタさんもすかさず便乗する。


「そうえば、セージスタ殿とミクリーナ殿のお二人は、ミラーノ市・ロータス市学生魔法交流試合でもお世話になっております。

 なんでもダンスもお得意とか。是非にお願いいたしたい。よろしいでしょうか」

「そうか、それでは追って日程を連絡するが良い」

 宰相の言葉にうなずく王様って、何この連係プレイって思わず目を見張った。

 僕とミクちゃんが、意見を伝える前に、決定事項みたいな雰囲気だ。


 ミラーノ市・ロータス市学生魔法交流試合。

 ヴェネチアン国とロト国で行われる学生どうしによる魔法大会だ。

 知らないうちにミラーノ初等魔法学校に留学していて、知らないうちに参加が決まっていたという、記憶に新しい大会だ。

 黒霧獣の影響を受けたとおもわれるカルンドス君とコルコラーナさんと知り合い、戦ったのも魔法展覧だ。

 ただ、こうなると黒霧獣ではなく、ジャイアントグラトニーラフレシアの黒い波動の影響だったのかもしれない。

 何年も前に影響を受けたんだとするとジャイアントグラトニーラフレシアの成長前の、グラトニーラフレシアだったりするのかもしれない。


「セージちゃん、仕方ないね。また踊ろう」

「そうだね」

 ミクちゃんはすぐさまあきらめて、なんだ楽しそうな雰囲気さえある。

 僕はその横で、ガクリと肩を落とした。

 マールさんとリンドバーグ叔父さんもあきらめ顔で、一緒に参加してくれることとなった。

 それと“神の御子”は内緒ということで強硬にお願いした結果、名目上はキフィアーナちゃんとの、『ヴェネチアン国王孫キフィアーナ姫殿下、春季ご遊覧親睦会』なる内輪の親睦会ということになった。それでいいのか?


「セージ、ミク、貸しだからね」

「いや、借りじゃないから……」

「そうですよ。私たちはキフィアーナちゃんのご友人としての参加ですから」

「何シレッと言ってんのよ。貸しだからね。短針魔導ライフル二丁で手を打ってあげるわ」

「ああ、それならOKだ。ね、ミクちゃん」

「勝手にOKして、エルガさんに怒られない?」

「だいじょぶ。だいじょぶ」

「また、気楽に請け負って知らないから」

 まあ、いざとなったら作り方をもう一度聞いて、僕が作ればいいことだしね。


 僕が、あのー、と会談の最後に言いかけると、宰相が「何かな」と答えてくれた。

「カルンドス君とコルコラーナさんはどうなりました?」

「騎士の監視のもと、療養中じゃ。回復に向かっていると聞いたが詳細は把握しとらん。気になるなら後程連絡いたそう」

「ありがとうございます」

 階段は終了した。


 ホテルに戻った後に、カルンドス君とコルコラーナさんの連絡をもらったけど、精神支配をされてしまうと、生半可なことじゃ回復は難しいみたいだ。

 未だに精神が不安定で、些細なことで興奮状態になったり、時には暴れてしまうことがあるそうだ。

 面会はできないことはないが、できれば面会は控えてほしそうだ。

 そう言われてしまっては、お大事に、よろしくお伝えください、というしかない。


  ◇ ◇ ◇


 昨日大きな地震があった。


 五月四日緑曜日の夜に『ヴェネチアン国王孫キフィアーナ姫殿下、春季ご遊覧親睦会』は開催された。

 名目上は僕とミクちゃんはキフィアーナちゃんのご学友という位置づけ……なんだけど。


 いつものようにミクちゃんとキフィアーナちゃんとウインナーワルツでクルクルクルクルと回りながら踊りを終えると。


「ダンスをお願いいたします。セージスタ様」


 セ、セージスタ()……⁉


「え、僕のことですか」

「他に誰が、あ、ノルンバック様とお呼びするべきでしたか。馴れ馴れしくしてしまい申し訳ありませんでした。

 よろしければわたくしと一曲踊っていただけないでしょうか」

「あのー、セージでいいですよ。友人からはそう呼ばれていますから」

「ご友人ですか。ありがとう存じます。セージ様。

 わたくしもミラーノ市・ロータス市学生魔法交流試合に出場したのですよ」


 どうやらダンスは上手い人と、たしなみ程度にステップが踏める程度のぎこちない人の二極化するみたいだ。


 何人目かのパートナーで、ダンスが上手い人から。

「セージスタ君は“神の御子”なんですよね」

 コッソリと耳元でささやかれた。

「え、そ、そんなことないでスヨ」

 うふふ、と笑われてしまった。

 目は分かったますからと言っているようだ。

 タハハ……。思わず空笑いが漏れてしまった。


 あちらこちらで、なんとなく聞こえてくるのが“神の御子”という言葉だ。


「オケアノス海周辺諸国で、大災厄に対しても連合を提案する予定だ」

 途中リヴェーダ王の宣言があって、大いに気勢が上がった。


 僕とミクちゃんは精神的に疲れて、長ったらしい名前の親睦会が終わった。


  ◇ ◇ ◇


 観光を兼ねたお土産などの買い物は、親睦会の前でも行ったけど、それらはチョクチョク行った。


 再確認でもう一度アクアダンジョンに二日間ほど入った。

 そして、五月八日赤曜日にはお礼というかリヴェーダ王曰く、こじんまりした表彰式にも出席した。

 とはいえそれほどこじんまりした表彰式じゃなかったけど。


 ミクちゃんとリエッタさんの三人でドレスと剣を下賜された。

 キフィアーナちゃんはヴェネチアン国への友好のしるしに感謝状と記念品の杖を受け取った。

 僕は魔宝石の作成方法が掛かれた本お願いして、青(水)魔宝石と黄(土)魔宝石の製造方法の書かれた本を含む魔法の本を一〇冊頂いき、礼服も下賜された。

 ちなみに後程確認したら、青(水)魔宝石と黄(土)魔宝石の製造方法の核となる部分は曖昧に書かれている本だった。

 ルードちゃんのパパさんのラーダルットさんに教えてもらった緑魔宝石の製造方法と照らし合わせ製造できるようになるのはかなり後のことだ。


 オーラン市に向けての出航は五月一〇日緑曜日となった。


 いつのことだけど、空いてる時間はリエッタ先生のお勉強もある。

 今回はアクアダンジョン内で勉強ができなこともあって、ホテルでみっちりとお勉強があったので、観光や買い物の時間は少なかった。


 出航前にまたも大きな地震があり、どんよりとした空に稲光に雷鳴が轟き、ロータス市は騒然となった。


 午前の出航が午後になってしまったけど帆船“海の貴婦人”は無事帰路に着いた。


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