150. 真の掃討戦 トリフィドラフレシア
四月一八日黒曜日、起きて討伐の準備が整ったのは昼頃だ。
キフィアーナちゃんはほぼ完ぺき、リエッタさんもかなりだが体調は戻っている。
逆に疲れ気味なのがミクちゃんだ。
「大丈夫?」
「ええ、何ともないわ」
笑っているけど、笑顔に“疲れた”と書かれている。
「残ったのが根っこだけて何よ! わたしの活躍の場がないじゃない!」
不満をぶちまけるはキフィアーナちゃんだ。
「アンタがだらしなかっただけでしょ」
「ちゃんと友人の分を取っておいてくれるのが礼儀ってものでしょ」
キフィアーナちゃんとルードちゃんの息もいつも以上にぴったりだ。
僕とルードちゃんがほぼ100%の体調及び魔法量だ。
まだ本調子じゃないキフィアーナちゃんは85~90%というところで、看病していたミクちゃんと治療を受け続けていたリエッタさんは60%といったところだ。
「また靄が出てますね」
「うん、でもかなり薄いし、昨日さんざん焼き払ったから、復活はしてないと思うんだけど」
百メル弱ほど先となる、次元の裂け目付近を眺めながらミクちゃんがいぶかしむ。
なんとなくだけど、靄が濃くなってきているんだ。
僕にしたって、この距離じゃレーダーの範囲外だし、浮遊眼で確認できてもたかが知れている。
「復活はしてないとはいえ、いやな匂いもするし、たまったものじゃないわ」
「昨日の屈辱を晴らさせていただきます」
ルードちゃんはうんざり気味だし、キフィアーナちゃんは逆にやる気満々だ。
「<フィフススフィア><身体強化>」『白い力』『レーダー』『浮遊眼』『加速』『並列思考』…
僕が戦闘態勢を整えると、みんなも魔法やスキルで強化している。
「じゃあやるよ」
僕の気合の入らない掛け声にミクちゃんとリエッタさんがうなずき、もっと気合を入れなさいよ、とはっぱをかけるのがルードちゃんとキフィアーナちゃんだ。
「<ホーリフラッシュ><ホーリフラッシュ>」
まずは周囲を清浄にする。
それだけでも気分が良いし、みんなの動きがよくなる。
「<ギガンティックビッグバン><ギガンティックビッグバン>」
そして、二つのプラズマ大火球が靄と次元の裂け目に向かって飛ぶ。
ババーン。
昨夜と同様に大きな爆炎とプラズマの炎を上げる。
靄や水球が吹き飛びぶ。
飛んできた水球は僕の白い力を込めたフィフススフィアで全て弾き飛ばす。
「<ホーリーフラッシュ><ホーリーフラッシュ>」
巨大なホーリーフラッシュで、周囲の黒い水球を破壊させると視界もかなりクリアとなる。
露わになった地表には、グラトニーラフレシアによく似た花が咲き、鞭のような触手が何本の伸びていた。
そのうちの何本かは次元の裂け目の中へだ。
それらの多くが焼けただれた。
「トリフィドラフレシア…」
「なにそれ」
僕が呟くと、ミクちゃんが聞いてきた。
僕が首を傾げて、なんて答えようとしたら、答えが動いた。
ボコボコと地面から触手が、そして根が飛び出してきた。
三面のラフレシアの花の顔(?)に、トゲの付いた触手の腕、太い三本の根の植物魔獣がトリフィドラフレシアだ。
黒い波動の靄の防護幕をまとわりつかせている。
それが大小取り混ぜて四〇匹程いる。
大は体高四メル弱ほど、小は二メルほど。
同様に鞭の長さや本数にもかなりの差がある。
「どうやら変異したみたいだ」
「何それ」
「何それっていっても、あれがそうだよ」
次元の裂け目の作用なのか、次元の裂け目から何らかのエネルギーを取り込んだ所為なのか、はたまた想像もつかない何らかの作用によるものなのかわからないけど、別の魔獣になったとしか思えない。
そのトリフィドラフレシアがこちらに向かってくる。
催眠音波に催眠靄も威力は落ちているとはいえ健在だ。
それと思ったより、移動速度が早い。
「リエッタさん」
「大丈夫です」
耐性ができたのか、白い力の魔石をうまく使用できるようになったのか、必死さはあるけれど耐えられているようだ。
「キフィアーナちゃん」
「問題ないに決まってるでしょ!」
なぜここで怒る?
「やるよ!」
僕たちは短針魔導ライフルをアイテムボックスから取り出し、岩の陰に隠れて発射した。
「なにそれ!」
不満をぶつけるのは短針魔導ガンを手にするキフィアーナちゃんだ。
昨日も使ってけど、本格的に見るのは始めただったのか。
まあ、それは棚上げして、
「ほら隠れて」
カートリッジを交換して、連射する。
トリフィドラフレシアからも黒い波動をまとったトゲの弾が飛んでくる。
トゲの弾はかなりの速度があって、威力もある、が、遠距離ということもあるし、岩陰に身をひそめながらの反撃だから、避けるのは楽だ。
「ミクちゃん、攻撃力がアップしたね」
「私も『白い力』の特殊スキルが手に入ったから」
「そりゃすごい」
「何! ミクがか」
「まだレベル“0”だけ度目。それでも白い力の魔石のパワーも使いやすくなったよ」
スキルを手に入れたのは、僕との戦闘を一番経験しているミクちゃんだからだろう。
心強い限りだ。
「リエッタさんはどうですか」
「白い力の魔石に体が馴染んできたようです。黒い波動の攻撃がかすめても、何とかしのげています」
ルードちゃんは、ミクちゃんに張り合うように張り切っているから問題なし。
キフィアーナちゃんも、リエッタさんより体制は上だから問題はなさそうだ。
カートリッジに詰めた短針はあっという間に、無くなったから、カートリッジに短針を詰め、錬金魔法で同調に定着させて撃つという作業に変化したので、こちらの反撃速度がガクンと落ちた。
移動しては撃ち、接近してくるとまた移動して撃って、弱ったところに。
「<ギガンティックビッグバン><ギガンティックビッグバン>」
遠距離攻撃に徹して半数ほどを撃破した。
「そろそろ短針が無いぞ」
ルードちゃんが指でVサインを作っているってことは後二発ってことだろう。
撃ち終わって、弱ったところに魔法を放つ。
「<ギガンティックビッグバン><ギガンティックビッグバン>」
二匹倒して短針が底をついた。
半数になったとはいえ、残ったトリフィドラフレシアは大型のものばかりだ。
「撤退しようよ」
ミクちゃんの声に振り向くと、リエッタさんが苦しそうだ。
「後退!」
「このまま逃げ帰るのか」
僕の言葉に、ルードちゃんが不満を告げ、周囲を見回す。
「最低でも、もう少々様子見は必要でしょう」
「ここまで来たんだから壊滅だ!」
ルードちゃんに負けない主戦派のキフィアーナちゃんの意見だ。
「まずは、撤退しましょう」
こういった時の大人の意見は大きい。
逃げ出しながら、相談した結果、短距離のテレポートを連発して一〇層に上がることにした。
◇ ◇ ◇
今日は起きたのが昼頃で、それからの戦闘だったこともあり、遅めの夕食――本日は二食――を食べ終わり、時刻的には夜だ。
「一旦城に戻るか、このままこのメンバーで対応するかですが」
「このまま対応するに決まってるでしょう」
「ルードの意見に従うのはしゃくですが、当たり前でしょう。
それに外に出たって、短針魔導ライフルが増えるわけじゃないでしょう」
「一晩でパパッと補充できるのは短針を作るのが精一杯でしょうね」
錬金用の金属はアイテムボックスに入っている。
短針魔導ガンやライフルの製造方法は聞いてはいるけど、構造も複雑だし、作成したこともない物が作成できるはずがない。頑張って作れるのはカートリッジどまりだけど、短針がなければ話にならない。
短針だけを作成するのであれば、魔法力の通りやすくするために微量のミスリルを混在した鉄やニッケルなどのとの合金で簡単にできるものだ。
付与もあるから、一晩でできる短針はそれほど多くは作れないと思う。
「僕たちだけだとゲリラ戦になるよ」
「ゲリラセン?」
僕の言葉にキフィアーナちゃんがまずは首を傾げ、ルードちゃんも「なにそれ?」と問い質してくる。
「えー、隠れながら、はじっこから敵を削っていく戦いだけど」
僕がいい加減な説明をすると、ミクちゃんに一瞬だけど、キッとにらまれた。
迂闊な言葉を使うなってことだろう。こ、怖い。
「ゲリラセンですか? 周囲から倒しやすいものを倒していくのがいいでしょうね。
できれば分散して各個撃破できればいいのですが」
「トリフィドラフレシアは、今だにまとまって行動してるのかな?」
「次元の裂け目の側で動かないのであれば、そうでしょうね」
結局、明日もう一度次元の裂け目に戻って再確認してから行動を決めることにした。とはいえ、気持ち的には僕たちだけでトリフィドラフレシアを退治する方向に傾いていることは確かだ。
見張りは全員で交代しながら、生きているときにはキフィアーナちゃん抜きの四人だけど、短針を作成する。
深夜には弱いけど黒い波動が駆け抜けて、負の魔素と魔法力が活性化した。
その感覚に寝ていたみんなも目を覚ます。
「トリフィドラフレシアも予想通り起こせるんだね」
「そうみたいね」
「ウチたちで片を付けなきゃダレもできないでしょう」
「そうなんだけどね」
「ミクはそんな弱気でどうするの」
「ミクちゃんは、弱気じゃなくて慎重なだけ。キフィアーナちゃんとルードちゃんが過激なだけだよ」
「過激とは何よ」
「そうよ。セージのいうところにゲリラセンでやれば安全でしょう」
「まあ、最後はガツンとやるけどね」
「無茶はゆるしませんよ」
戦闘主流派のルードちゃんにキフィアーナちゃん、慎重派のミクちゃん話し合いはいつでもこんな感じだ。
僕とリエッタさんは中立派だけど、決まったことには全力、頑張るのはいつものことだ。
◇ ◇ ◇
四月一九日赤曜日。
慎重、且つ素早く移動して、次元の裂け目に戻ったのは、黒い波動が発生した昼をかなり回った頃だ。
「想像通りだね」
「大きい…」
靄の効果はそれほど強くなかったとはいえ、邪魔なので<ビッグトルネード>の連射で吹き飛ばした。
最初から戦闘モードだから問題ない。
そして最後に<ホーリーフラッシュ>の連射も欠かせない。
靄と水球にない空間になる。
ジャイアントグラトニーラフレシアやトリフィドラフレシアの魔獣石は半分も回収できていないから、それを食らった約二〇匹のトリフィドラフレシアの半数が強化トリフィドラフレシアとなっていた。
三面のラフレシアの花の顔(?)のサイズが毒々しくて大きいから違いが一目でわかる。
想定していたけど、最大個体体高四メル弱が、五メルほどになっている。
胴回りは太く、鞭も長くなって、全体のまがまがしさも増している。
「作戦Bで、予定通りいきましょう」
リエッタさんの判断で行動開始だ。
トリフィドラフレシアを倒しても、魔獣石を回収できなければ倒したことにならない。
作成B。
リエッタさんが率いるルードちゃんとキフィアーナちゃんにけん制してもらいながら、僕とミクちゃんが倒しやすい個体を選別・撃破して魔獣石を回収する。
ちなみに僕の短針魔導ライフルはキフィアーナちゃんに貸している。
発射には相当量の魔法力が必要なので、ルルドキャンディーもしこたま持たせた。
僕の手には短針魔導ガンと紅銀輝だ。動き回るからこの方がいい。
「<ギガンティックビッグバン><ギガンティックビッグバン>」
攪乱の様相が強いけど、最大火力の魔法をお見舞いする。
ババァーーン。
KUAKYUSHA--。
素早く集合した強化トリフィドラフレシアが黒い波動をまとった風の防護で防ぐ。
無傷のようだ。
リエッタさんが率いるルードちゃんとキフィアーナちゃんの斉射が開始される。
短針の無駄遣いは厳禁だ。
効率よく三人で距離を取りながら、順番で撃っていく。
やっと強化トリフィドラフレシアが次元の裂け目から離れ、動き出す。
黒い水球があればもちろん<ホーリーフラッシュ>で、退路の確保も行う。
短針の威力はギガンティックビッグバンと比較するとかなり落ちるけど、集中した貫通力はギガンティックビッグバン以上のようだ。
黒い波動をまとった風の防護に穴をあけた数本の短針が、強化トリフィドラフレシアにわずかに傷を負わせる。
リエッタさんたちにおびき出された強化トリフィドラフレシアやトリフィドラフレシアの一番遅れた個体をミクちゃんが横から撃つ。
KUEKYUESHA--。
動きが遅いトリフィドラフレシアの二匹が僕たちの方に向かってきた。
二メル級のトリフィドラフレシア二匹なら何とでもなりそうだ。
引き離しを目指して、接近して短針魔導ガンで撃つ。
KUKYU-SHA--。
短針を黒い波動をまとった風の防護ではじき、怒ったように鞭を振り回してくる。
正面切って戦うつもりはない。
距離を取るが、思ったより鞭が伸びるし、黒い波動のトゲが飛んでくる。
それをヒラリヒラリとかわし、避けられないものは白い力を込めた<マジッククラッシャー>で迎撃する。
短針魔導ガンを撃って、更におびき出す。
二位匹だけ遠く離して僕が手を上げる。と……バン…バン、とミクちゃんの二連射があり、風の防護が大きく弱まる。
「<ギガンティックビッグバン><ギガンティックビッグバン>」
そして短針魔導ガンと赤銀輝で止めを刺して、魔獣石を取り出した。
リエッタさん率いる揺動チームを確認する。
上手くよりを取って、戦えているようだ。
僕が大きく手を振ると、大丈夫の合図の片手を振ってくる。
キフィアーナちゃんが丁度、短針魔導ライフルを撃ったところで、衝撃に後方に飛ばされそうになる体を身体強化で耐えている。
そんな強烈な衝撃にも満足そうに笑っている。
ミクちゃんに手を振って、動きの遅い最後尾のトリフィドラフレシアを指さす。
ミクちゃんが手を上げ、短針魔導ライフルを構えて、バン、と撃つ。
今度は二メル~三メル級の三匹がこちらに向かってくる。
同様に対処するけど、三匹と増えたし、強力なトリフィドラフレシアもいて、引き離しまではうまくいったが、鞭の本数と黒い波動のトゲの数が多く、かなり手ごわい。
防御力を落とすために、『並列思考』に最大『加速』で、赤銀輝で鞭を五本切り飛ばしてから…。ふう、チョット疲れた。
トリフィドラフレシアから距離を取って、ミクちゃんに手を上げた。
短針魔導ライフルの発砲音とともに、トリフィドラフレシアの風の防護力が落ちる。
「<ギガンティックビッグバン><ギガンティックビッグバン>」
そして短針魔導ガンと赤銀輝で止めを刺した。
もう一度戦闘を挑んで二匹を倒した。
残り一二匹。それも一〇匹は強化トリフィドラフレシアだ。
そしてリエッタさんに合図を送ると、短針が心もとないの合図の、両手で×印が返ってきた。
「キフィアーナちゃん、大丈夫?」
「らいりょうふ」
「うん、大丈夫だね。よく頑張ったよ……」
どうやらルルドキャンディーの食べ過ぎだ。
魔法力酔いの状態と、魔法力ハイの混在した状態だ。
よくもまあ、ここまで頑張ったものだ。
「キフィの奴、止めたんだけど、撃つのやめないんだ。まったくもう」
「それだけ、がんばって、最後まで的は外さなかったじゃありませんか」
「そりゃ、そうだけど。見てて危なっかしいったら、もう」
「それだけ、セージ君とミクさんが心配で必死だったってことですよ。
そういう、ルードさんだって……」
「あー、もう、いいから!」
不満たらたらのルードちゃんがこき下ろすも、リエッタさんがやさしくフォローする。
最後にはルードちゃんが慌ててリエッタさんの口をふさいでいた。
想定以上にみんなが頑張ったってことなんだろう。
「ワラウナ!」
夕食時に魔法酔いのことを笑ったら、真っ赤になって怒られちゃった。