149. アクアダンジョン次元の裂け目
申し訳ありません。
どこかでアップを取り違えていました。
僕は昼食休憩中の黒い波動で、やや気分の悪くなったリエッタさんの体内魔法力の活性化を行っている。
みるまに顔色が良くなった。
白い力の魔石はそれなりに役に立ったってことだ。
他のみんなは体内の魔法力を再度活性化させて、周囲を警戒している。
みんなの意見は一致している。
ここまで来たからには、最低でも次元の裂け目の状況を見てから帰還する。
そして討伐になるか不明だが、元凶を取り除けそうであれば、準備を整えてまた潜る。
もちろんリエッタさんを気遣て、無事に帰還することが第一優先だが、さすがにここまで来て元凶を確認しないなんてことはできない。
「僕が一人で見てくるよ」
「ダメ! 絶対にダメ、私も行きます」
「ウチも行くに決まってるだろう」
一応相談はしたけど、一蹴された。
襲ってきた魔獣二匹――ローチ以外――を倒し、長めの休憩でで負の魔素と魔法力が落ち着いてから次元の裂け目を目指して歩き出した。
◇ ◇ ◇
「チョット待っておかしい。魔獣がいない」
進み始めてしばらく気づかなかったけど、レーダーに魔獣が何も引っ掛からなかったんだ。それもブラックローチだけでなく、空中を浮遊するクラゲも含めてだ。
透明な水球に、黒い水球や黄色い水球は普通に浮かんでいるから、魔獣が減った意味が不明だ。
それは浮遊眼で見ていても一緒だ。
まあ、かなり制限があって、レーダーというか空間認識は本来半径一二〇メルあるところ三メルメルがあやしくなっている。浮遊眼は三〇〇メルも飛ばせなくなっているといった具合だ。
それにしたって三〇〇メル範囲をくまなく見たわけじゃないけど、それにしたって異常だ。
ちなみに水球はあるし、黒水球に黄水球は普通にあって、黒水球は数を増している。
海藻と森林の混在の空間は相変わらずだ。
「うん、わたしも」
「そういえばウチもだ」
みんなも索敵距離が著しく低下してるって言ってるから、ホントのところよくはわからないけど、しばらく何も探知していないってのだけは確かだ。
ミクちゃんとルードちゃんも同様だ。
キフィアーナちゃんはともかくも、体調不良のリエッタさんも僕たち三人にお任せ状態だ。
「チョット上空から見てみるよ」
「ダメよ」
「それじゃあ、逆に安全を確保できないよ」
「それじゃあ、ウチとセージで上空に上がって見るか。
それなら一人が周囲を警戒しながら検察できるから」
「それで行くか。ミクちゃん言い」
「それなら私が」
「言ったもん勝ちだ」
「あぅ…」
「<ホーリフラッシュ><ハイパージェットストリーム>」
上空の黒水球を消滅させ、黄水球を含む水球を吹き飛ばして、安全確保。
「<フライ>」「<フライ>」
僕とルードちゃんで上空に舞う。
魔力眼で次元の裂け目があると思われる方向に目を凝らす。
二キロメルほど先に半径五〇〇メルほどの靄があって内部は見えないけど、まがまがしい波動を放つ靄の中には、おぞましいものがあるのは確かだ。
感的にはそこが次元の裂け目だ。
僕は『白い力』を意識して活性化させる。
もうちょっとだ。
その後はうっそうした海藻や森林にはばまれながらも、<ホーリフラッシュ>で毒を消滅させ、<ハイパージェットストリーム>などで邪魔なものを吹き飛ばし、<ハイパーソーラーレイ>で邪魔なものを薙ぎ払い、土魔法で掘り起こし、ならし、順調に進んでいった。
靄の少々手前で一旦停止して、小さな広場を作って小休止。
さあ、出撃だ。
パン、と両頬を叩いて気合を入れる。
次元の裂け目付近ということもあって『白い力』スキルも活性化させる。
「いくよ」
「いつもこんな掛け声で挑んできたの⁉」
キフィアーナちゃんがあきれる。
「それがセージだけどな」
「セージちゃん。もうチョット気の利いた声を掛けるものよ」
ルードちゃんはあきらめモードで、ミクちゃんはアドバイスをくれるけど、残念そうな表情が物語っている。
リエッタさんは厳しくも薄っすらと笑みを浮かべて微動だにしない。
今まで、そんなことを望んでたなんて知りませんでした。
「リエッタさん、いつもありがとう。
きつかったらいつでもいてください。脱出します。
みんなも気付いたことがあったよろしく。それじゃあ、行きましょう」
「「「おー」」」
僕の言葉に、余計に気が抜けたみたいだ。
キフィアーナちゃんなんて、ダメだこりゃ、なんて呟いてるし。
「セージ、ドンマイだ!」
ルードちゃんにドンと背中を叩かれた。
やらなきゃよかった。
僕って頑張りはするけど、指導者じゃないんだから。
そうして靄の中に入っていた。
香しく、そして甘い香りがほのかに漂っている海藻&森林の中を歩く。
「気を付けてレーダー範囲がまた縮んだ」
「わかった」「「了解」」「注意して進みましょう」
歩ていると、ブラックローチやビッグブラッククローチが居た。もちろん<ソーラーレイ>の刑だ。
それと小さな羽虫のようなものが増えてきた。
さすがに緊張からか、ミクちゃんも悲鳴を上げない。
「キレイ」
「夜光虫ですね。羽虫を食べているのでしょう」
「幻滅」
キフィアーナちゃんの歓喜に、リエッタさんが真実を告げ、ムスッとする。
夜光虫とは蛍みたいに発光器官を持つ虫だ。
「夜じゃないのに飛ぶの?」
「ここには夜はありあませんから、何らかの条件で飛ぶのでしょう」
「うん、そうだよね」
「ただ、ここの夜光虫は巨大ですから、疑似魔獣化していると思われます」
「うん、多分あってる。体内に負の魔素を感じるもの」
「ねえ、セージちゃん。夜光虫って夜に飛ぶ虫じゃなかった?」
「そうだと思うけど、僕もよく知らない」
「水溜まりも多いわね」
「夜光虫の幼虫の生息場所には最適でしょう」
森林に海藻に羽虫に、それと夜光虫とローチと変な場所だ。まあ、そもそも変な場所なのだが。あ、魔獣がいない。それが一番変だ。
多分次元の裂け目のあるあたりだと思うけど、一段も二段も濃厚な靄に出会った。
負の魔素と魔法力も濃厚で、その中には、ぼやけているけど魔獣と思しきものが幾つも感じられた。
そして、尋常じゃない危機感が湧き上がってきてきた。
ソーラーレイを撃ってみようとも思ったがその前に、
「この中にいるのは確かだけどどう思う」
「なんかいやな感じがするね」
「魔獣がいるから当たり前でしょ。行くしかないでしょ」
「わたしは…いいえ、何でもないわ。行きましょう」
みんなもかなり緊張しているのがわかる。
何らかの危険を感じとっているみたいだ。
キフィアーナちゃんに至っては声が震えているもの。
「一周回ってみましょう」
ぐるりと回った見たところ、半径は八〇メル程度か。
亀裂はこの濃厚な靄の中心にあるとみて間違いはなさそうだ。
「<ホーリフラッシュ>」
「どうしようか」
異様な気配に飛び込んでいいものかどうか迷いがある。
頼まれたことは調査で、できれば発生源の黒魔獣の殲滅だ。
それはみんなも同様だ。
「まずは調査ですから、いったん、ここを離れて、深夜に観察してから次の行動を考えましょう」
深夜なるまで待ってまずは現象の確認を行うことを優先することで、リエッタさんの提案に、誰からも異論はなかった。
◇ ◇ ◇
夕食も摂ってゆっくり休んで、深夜にユトリを持って出発した。
周囲亜はやや薄暗くなっている。
「この階層が変わっていることは、一日に二回暗くなることですかね」
「うんそうみたいだね」
そう、明るくなって暗くなるのは不定化だけど、今日しか確認していないが、この階層だけ、正午に薄暗くなって、深夜に向かう現在、また薄暗くなってきていた。
「この現象が負の波動が広がる原因なの?」
「「「……」」」
キフィアーナちゃんの問いかけには誰も答えがない。
基本的にはそうだと思うけど、靄の中身がよくわからない。
「昼間に来た時よりも匂いがきつくなっていますね」
薄い靄に突入して、真っ先に感想を述べたのはミクちゃんだ。
「変な匂いも混ざってって、チョット不快」
ルードちゃんも匂いには敏感なようで、強く息を吸って顔をゆがめる。
「セージは平気なんだ」
「うん、チョットだけ気にはなるけど、それほどじゃないよ」
僕も変な匂いは感じられるけど、ルードちゃんのように顔をゆがめるほどじゃない。
ローチなどを倒しながら、靄を進んでいく。
深夜まで時間はあるけど、靄が昼間よりも更に濃厚になって匂いもきつくなっていた。
濃厚な負の魔素と魔法力も満ちていて、同様に昼間よりも濃くなっているようだ。
夜光虫も頻繁に飛んでいる。
そしてブラックローチも、その夜光虫を捕食するために活発に動いている。
そしてそれらが中心に向かって進んでいっている。
「<ホーリフラッシュ><ハイパージェットストリーム>
<ハイパーソーラーレイ>」
近寄るローチはもちろんのこと、目障りなローチも倒して進む。状態が状態なので魔獣石の回収はあきらめている、ってことで放置だ。
濃厚な靄の前に到着。
濃厚な靄と相まって匂いがメチャクチャキツイ。
その匂いに釣られるように夜光虫とローチ軍が濃厚な靄の中に突入していく。
負の魔素と魔法力も境界があるように更に濃くなっているようだ。
勇気を決めて濃い靄に踏み込もうとしたとき、耳に何かが聞こえたかと思ったら脳内に靄が掛かった。
精神攻撃。と思って、体内の魔法力の活性化を行う。
そうすると、ヒーーーーンと高周波音がかすかに耳の中で響いていた。
そしてまたも脳内に靄が掛かっていく。
大きく呼吸をして、『白い力』を活性化すると、正気に戻れた。
一気に様々な活性化を最大限まで強化する。
そうすると脳内の靄が一気にクリアとなる。
ヒーンという耳鳴りのよう音はいまだに聞こえているけど、チョット耳障りなだけだ。
音をよく聞くと、高音に重低音などが複雑に入り混じったいるようだ。その中で一番目立つのが高音のヒーンという耳鳴りのような音だ。
催眠靄に催眠音波か。
もうろうと数歩前を歩いているミクちゃんとルードちゃんは濃い靄の中に踏み込んでいた。
二人の腕をつかんで一気に体内の魔法力を活性化させながら、体を揺さぶる。
『白い力』も気持ち的には流し込むが、上手くいったという実感がない。
「あ、セージちゃん」と、寝ぼけたことがを漏らすミクちゃんに、「セージどうした」と驚いたような声を出すルードちゃん。
「催眠音波だ。耳をふさいで外に出て!」
え、と驚く二人の体を無理やり抱えて濃い靄から遠ざける。とはいえ音はシッカリと聞こえている。
二人の反応を気にしている暇はない。
濃い靄の中に駆け込み、ごめんなさい、リエッタさんのお腹を殴って、うっ、とうめいて気絶した。
仕方がないけど、そのまま横にする。
<ホーリフラッシュ><ハイパージェットストリーム>
<ハイパーソーラーレイ><ハイパーソーラーレイ>
<ハイパーソーラーレイ><ハイパーソーラーレイ>
周囲のブラックローチを退治してから、今度はキフィアーナちゃんだ。
走って、「キフィアーナちゃん」
声を掛けるも、太い植物の茎を登っていく。
巨大な花……グラトニーラフレシア。
茎の周辺の小さな花にキフィアーナちゃんが自ら飛び込もうとしている。
それもブラックローチがすでに飛び込んでいる花の中にだ。
<ホーリフラッシュ><マジッククラッシャー>
マジッククラッシャーをもろに受けたキフィアーナちゃんの体が宙に舞う。
最大加速で、落下するキフィアーナちゃんの受け止める。
うぐあーわなー。
訳の分からない声を漏らすキフィアーナちゃんを抱きかかえ、リエッタさんのところに戻る。
力はあっても、身長や体格が違って、リエッタさんを持つのは大変だ。
二人を両脇に抱えて、濃い靄から脱出する。
キャーッ。ギャーッ!
アワーッ。
突然周囲の大型魔獣やローチたちが何匹も押し寄せてきた。
ミクちゃんとルードちゃんが鈍い動作で、悲鳴を上げながら避ける。
僕もルードちゃんとリエッタさんを抱えたまま、飛び退く。
その大型魔獣が靄に突入していく。
催眠音波による誘導は、魔獣の危険を察知する完璧に本能を上回るようだ。
『白い力』を意識して活性化させて、濃い靄から距離を取る。
キフィアーナちゃんとリエッタさんの体内も活性化させて、気持ち的には『白い力』も流し込むが、扱いにくくてできているのかよくわからない。
それでも正気を取り戻させることができたみたいだ。
音はいまだに聞こえてくるけど、距離を取れば問題なさそうだ。
四人の意識にも、混濁などの影響は残っていなそうだ。
諸悪の根源はグラトニーラフレシアだということだけは分かったけど、グラトニーラフレシアが黒い波動を出しているのだろうか?
根本原因に不明なところはあるけど。
黒い魔獣の確認はできていないけど。
「調査より殲滅だよね」
「その方がいいみたい」
「セージやっちゃって」
「セージやりなさい!」
「お任せします」
僕は、わかった、とうなずいて、魔法力を練り上げる。
「<ギガンティックビッグバン><ギガンティックビッグバン>」
現在最大の攻撃魔法であり、魔法レベル18まで強化した個人魔法を同時に二発ぶっ放す。
直径一〇メル以上のプラズマを帯びた超高温の火球が、濃厚な靄を蒸発させながら露わになったグラトニーラフレシアに炸裂する。
バーーーン。
KUKYUSHAA--。
プラズマ大火球による高温の爆発で、中心部の靄が吹き飛ぶ。
中央のものすごく大きなグラトニーラフレシアは強固な風の防護をまとっていて、ギガンティックビッグバンがはじけ飛ぶ。
弾けれ飛び散った火球が、周辺の小さなグラトニーラフレシア――グラトニーラフレシアにしてはだが――を焼き、こもったような苦痛の悲鳴を上げる。
靄が晴れたことによってグラトニーラフレシアを完全に見ることができた。
全部が茎や根でつながっているんだ。
そして看破でかなり見て取れるようになった。
ジャイアントグラトニーラフレシア変異種ってなってる。変異種って何?
能力は催眠音波・幻覚香・微毒霧などによって、思考低下・睡眠・幻覚・防御力低下などの様々な効果を発揮して獲物の捕獲するような事が判明したけど、わからないことも多々あるみたいだ。
強さは不明。
え、微毒に思考低下。
<ホーリークリーン>
<ホーリフラッシュ>
<メガキュア>
全員の付着物を排除し清め、毒治療を行う。
ジャイアントグラトニーラフレシアの巨大な花弁の中央は口になっていて、モグモグと動いている。
それも花弁の中のモグモグ口は、真ん中の巨大な花だけでなく、数十。いや百、二百程度はあるだろうか……。サイズも大小まちまちだ。
巨大な一体なのか、群体なのか、判別は不可能だ。
おえーっぷ。うっぷ。
思わずジャイアントグラトニーラフレシアの口の中身を想像して……。
ブンブンと頭を振って、イメージと振り払って、意識を集中……オエップ…。
だ、ダメだ。
「<ギガンティックビッグバン><ギガンティックビッグバン>」
「<ギガンティックビッグバン><ギガンティックビッグバン>」
これでどうだと、続けて二発×二回。
ババァーーーン。
ババァーーーン。
KUUKKYUSHAAAA-----。
今度は風の防護を打ち破ったようだ。
植物の癖に盛大な悲鳴が上がる。
もう一発と思った時、ジャイアントグラトニーラフレシアが動いた。
え、ええー、時空の亀裂が一番巨大な花の隣にあって、茎が亀裂の中に伸びているのだ。
え、えー………、な、なんと、次元の裂け目から茎が……最大の花が出現した。それもとてつもなくまがまがしい。
次元の裂け目の中を食らってたのか……、想像の埒外に、思わず見入ってしまっていた。
GUESHAAA-------。
花が吠え、黒い波動が発生した。
その黒い波動がフィフススフィアをすり抜け、体を突き抜けていく。
ぐふっ、気持ち悪!
こいつか! と思ったのもつかの間、肉体を吹き飛ばすほどの強烈な衝撃波が一瞬遅れて、僕をもろくなったフィフススフィアごと吹き飛ばした。
みんなも一緒に吹き飛ばされた。
しまったと思った時には、すでに遅かった。
体内の魔法力を一気に活性化させる。
<フライ>
地面に着地。
濃厚な黒い波動の所為で、かなり収まってきたけどしびれているようだ。
黒い波動を振り払うように頭をブンブンと振って、意識を覚醒させる。
半径二〇〇メルほどが更地になっている。
木々は黒い霧となって霧散した。とはいっても本当に木々が消えたのは半径一六〇メルほどで、それ以上の範囲は部分的に消えたり、太い幹が残っていたりと様々だ。
自分の体で消えたところはと思ってあちらこちらを触ってみたけど、無事なようだ。
あ、長年の浸食、影響の所為か。なんとなくだけど納得だ。
それと更地といっても、岩に残った倒木にと竜巻にでもあったように、メチャクチャな土地だ。
これがもっと平らになっていれば、魔導車が出せたものなんだが。
ミクちゃんやルードちゃんなど、みんなもケガもなく無事なようだ。
レーダーで確認していたリエッタさんに駆け寄る。
白い力の魔石があっても、こちらに向けての直撃には耐えられなかったようだ。
ぐったりとしたリエッタさんを抱き抱え、ミクちゃんとルードちゃんに駆け寄る。
二人とも黒い波動にやられたのか、顔が真っ青だ。
「ミクちゃんとルードちゃん、シッカリ」
急いで体内の魔法力を活性化させる。
「ありがとう、なんとか」
「あ、ありがとう」
「二人はリエッタさんとキフィアーナちゃんを連れて、避難して」
チョット離れて倒れているキフィアーナちゃんを指さす。
「セージ君は」
「あいつをやる」
今度はジャイアントグラトニーラフレシアを指さす。
たらふく食って(オエップ)、しかも次元の裂け目に頭を突っ込んで訳の分からんものまで食っていたってことだろう。
ここで倒さなきゃ、とんでもないことになりそうだ。
「セージちゃん、これよ!」
「ああ、そうだね」
ミクちゃんが短針魔導ライフルを僕に見せつける。
「じゃあ、撤退だ」
二人にキフィアーナちゃんの確保と保護をお願いして、僕がリエッタさんを抱きかかえて、後退する。
視界のいい更地の限界近く、ジャイアントグラトニーラフレシアから一五〇メルほど離れた場所の、大きな岩の陰に身を隠す。
もちろんキフィアーナちゃんとリエッタさんも治療してそこに寝かせる。
ここからじゃ攻撃が届かない。
今度は前進。
ジャイアントグラトニーラフレシアから九〇メルほどまで接近する。
「発射!」
マシマシの魔法力を込めた短針魔導ライフル三丁が火を噴く。
僕が電撃針で、ミクちゃんとルードちゃんが灼熱針カートリッジを使用してだ。
銃身はガンの直径で二倍強、長さは約三倍、弾となる太目の長い針は長さが二.五倍程度あり、二五本が飛び出す。
肩に、体に、ドンと大きな反動がくる。
身体強化でかなり強化しないと受け止められない。
気を抜くと短針がばらけて、届かない可能性の充分考えられるが、三射とも見事に命中した。
手早くカートリッジを交換して、「発射!」
二射六発の攻撃は見事に命中して、超巨大なジャイアントグラトニーラフレシアの周囲の風の加護を破壊し、ジャイアントグラトニーラフレシアにダメージを与える。
雷と熱の短針は効果はどちらも有効のようだ。
超巨大なジャイアントグラトニーラフレシアがこちらを向いて大きな口を開ける。
「体内の魔法力を最大限までアップして」
GUuESHAAAaa-------。
強烈な黒い波動がまたも来た。
僕は深呼吸して、気持ち悪さを振り払う。
ミクちゃんとルードちゃんは顔が青ざめているけど大丈夫そうだ。
キフィアーナちゃんとリエッタさんの顔色が更に悪くなる。
「ミクちゃん、頼める」
「何とかしてみるね」
「チョット借りるね」
治療を開始したミクちゃんの短針魔導ライフルを借りて、カートリッジを交換する。
僕は最大加速で、超巨大なジャイアントグラトニーラフレシアに向かって駆け出す。
超巨大なジャイアントグラトニーラフレシアも僕を認識したようで、またも口を開く。
そこにどす黒い魔法力が、瞬く間に集中する。
GUSHA。
距離が半分ほどになた時に、幾つもの黒い弾丸が散弾のように飛んでくる。
避けられそうにない黒い弾丸を。
<マジッククラッシャー>
白い力を込めて粉砕する。
残った黒い弾丸をやり過ごす。
<フライ>
勢いを殺さないように超巨大なジャイアントグラトニーラフレシア向かって飛翔する。
またも口内に黒い魔法力が集中しだす。
させるか!
二丁の短針魔導ライフルを、ここまで接近すれば、そしてこの速度があればと思って、発射!
ババーン。
うわーっ。
加速して飛翔していても、後方に吹き飛ばされてしまった。
飛びながら体制を立て直す。
GUESHAA------。
黒い弾丸が来たが、威力が落ちている。
狙いも定かじゃない。
超巨大なジャイアントグラトニーラフレシアの口に短針が何本も突き刺さっている。
ルードちゃんに手で合図。
バーン、と短針が飛び、超巨大なジャイアントグラトニーラフレシアを襲う。
見事命中する。
こうなればしめたものだ。
僕も二丁の短針魔導ライフルのカートリッジを交換して、ババーン、と発射!
ルードちゃんからも、もう一射が行われ、手を上げ射撃をやめてもらう。
二〇メルほどに接近。充分過ぎるほど有効射程内だ。
とはいえ、中央の大きな花までは一〇〇メルほどあるから、チョット遠い。
意識して白い力に力を込める。
そしてまずは、
「<ホーリフラッシュ><ホーリフラッシュ>」
周囲が清浄になる。
「<ギガンティックビッグバン><ギガンティックビッグバン>」
ズババーーン。
今度は手前にひろがる茎や小さな花を高温で焼き、吹き飛ばす。
GUEeSHAAAaa---。
今度は黒い波動が来たが、威力はかなり落ちている。
一〇メルまで接近して。
「<ギガンティックビッグバン><ギガンティックビッグバン>」
こうなるとレーダーもかなり有効になる。
思っていたより根が張っているようだ。
「<フライ>」
空に浮く。
「<ギガンティックビッグバン><ギガンティックビッグバン>」
「<ギガンティックビッグバン><ギガンティックビッグバン>」
ジャイアントグラトニーラフレシアの中央の超巨大な花に連射する。
一気に焼け落ちた。
反撃の黒い波動が更に弱まった。
「<ギガンティックビッグバン><ギガンティックビッグバン>」
「<ギガンティックビッグバン><ギガンティックビッグバン>」
掃討戦になると、ルードちゃんも接近してきて、ライフルをぶちかます。
何の体制があるのかよくわからないけど、なかなか燃えないんだよ。これが。
ミクちゃんは、キフィアーナちゃんとリエッタさんの治療に掛かりっきりだ。
ルードちゃんは、少し前から魔法力の枯渇状態だ。
僕も魔法力が五分の一程度になったところで、これ以上は何かあった時の対処が難しいと思って、掃討終了とした。
まだ焼け残ったところなどがあるけど、黒い波動の反撃が一切なくなってかなり経つから、良しとするべきだろう。
羽虫に夜光虫にローチどもは跡形もないから、それについては一安心だ。
ルルドキャンディーを口に放り込んで、根を気を付けながらも最大『加速』で、できるだけジャイアントグラトニーラフレシアの体を回収する。
魔獣石を放置しておきたくないためだ。
それでも次元の裂け目の直下周辺までは踏み込みたくなかった。
「あらかた片付いたようね」
「うーん、あまり近づかないでね」
「どうして」
「まだ根が残ってるんだ」
「どうするのよ」
「一泊して、そこまで片付ける必要があるだろうね」
次元の裂け目の本格調査も明日として、ドライエリアに戻ってキャンプを張った。
治療をしていたとはいえキフィアーナはまだしも、リエッタさんはかなり苦しそうだ。
基本的には治療はミクちゃんに任せ、僕とルードちゃんの二人で交代で警備をすることにした。
眠らないための話題は、
「次元の裂け目にジャイアントグラトニーラフレシアが頭を突っ込んでて驚いたよね」
「次元の裂け目。あれが大災厄の元凶なんでしょ?」
「だと思うし、あれを消滅させなきゃいけないんだよね」
「またワイバーンが出てきたりして」
思わず、次元の裂け目の中を見たくなってしまった。
ジャイアントグラトニーラフレシアは次元の裂け目を利用して変異種って見たこともないなまえになっていた。
特異体質なのか、強くなったと思うんだよね。
作業的には、短針の作成だ。