148. アクアダンジョン深部へ Ⅲ
※G(黒いあれです)注意報、苦手な方はご注意を
結局一旦一〇層に戻って昼食を摂った。
リエッタさんの体調の回復も随分と行えた。
黒い波動の拡散があってから、二度目の一一層への侵入を試みた。
震源地の発生を見極めるならば一一層に下りていた方がいいに決まっているが、リエッタさんの体調を優先してドライエリアでやり過ごすことにしたからだ。
リエッタさんも身構えて自分で体内の活性化を気を付けて下りてきたので、具合の悪さはほとんど起きなかった。
魔法力の消費が激しいそうだ。体内の活性化で無理をしているのは丸わかりだ。
しばらく周辺を歩き回り体をなじませ手から、再度一一層へと踏み込んでいった。
ヤッパリメチャクチャ広い。
たった一つの大空洞。だだっ広いといっても良いほどの広大だ。
高さもあって、二~三〇〇メルはありそうだ。
降りてきた階段の高さと合致しないのはいつものことだけど、それにしても広いし高い。
戦闘もこなしたが、できるだけ僕とミクちゃんとルードちゃんで、強い魔獣は撃破していった。
キフィアーナちゃんは弱い魔獣の担当だ。
リエッタさんは、体調管理で、基本不参加だ。
魔獣は九層と一〇層で遭遇した魔獣が単体で、はたまた種々雑多な集団でと、経験を積むのには丁度いい場所だ。
初めての海魔獣、プレシオサウルス(強さ“100”前後)は単体で居たので、僕がワイヤーネットと<粘着弾>で捕縛してキフィアーナちゃんに止めを刺させることができた。
そういった狩りを続けながら進んでいたら。
「ギャーッ」「キャー」「おわーっ」
ミクちゃん、キフィアーナちゃん、僕の悲鳴だ。
な、なんと、海藻と草の構成の草むらから体長三〇センチメルのブラックローチが急に飛び出してきたんだ。
飛びのく僕たちとは逆にルードちゃんが踏み込んだ。
そして、ズビッシュ、とショートソードで切り払ってくれた。
小さな魔獣核(石)を切り裂いてから、いつものように、魔法力をショートソードに流して、ビシッと振って血糊などの汚れを振り払ってから、納刀する。
おわっぷ、……体液が飛び散るから、ショートソードを振り回さないように。
「なんだ、こんなのが怖いのか。だらしない」
「あー、いやー、なんていうか……」
「こんなの、国民の大敵、嫌われものでしょう!」
ルードちゃんの突っ込みに、僕は口ごもり、ミクちゃんは僕の背中に隠れて憤慨する。
「大げさね。ただの昆虫魔獣じゃない」
キフィアーナちゃんの驚きと、僕とミクちゃんの驚愕は全然違った理由だ。
「突然で驚いただけにしても、ミクの慌てる姿を見るのも新鮮だわ。
それにしたって国民の大敵って、ミクにしては大層な冗談を言うわね」
「冗談じゃない!」
そう、本当に冗談じゃないんだ。
僕の腕をつかむミクちゃんの手がまだ震えてるもん。
「突然で驚きました。対処が遅れてごめんなさい」
体調が完全じゃないリエッタさんもショートスピアを構えているけど、またもやしんどくなってきたみたいだ。
「いいえ、リエッタさんの所為じゃありませんから。僕もこれだけレーダーがいい加減になってるなんて思ってもいませんしたから」
「セージちゃん、もっとしっかりと周囲を見ててよね!」
「はい」
ミクちゃんは、まだ衝撃から立ち直れていないようです。
それにしたって、三〇センチメルのGなんて、驚かない方が変だよね。
僕の空間認識も、この変な波動を放ているらしい負の魔素と魔法力の抑制の所為で、知らないうちに精度までもが落ちていたみたいだ。
精度をいつものように一〇センチメル程度まで確認できるしていたものが、現在は三〇センチメルが感知できるかできないかって程度まで落ちていたんだ。
それに多分ブラックローチが隠形の達人だってこともあるだろう。こんちくしょう。
状態確認、臨機応変、精神集中、要注意だ。
僕はリエッタさんの活性化を行って、また次元の亀裂の探索を開始した……のだが。
<ソーラーレイ>
数十メル歩いたところで、ブラックローチを撃ち抜いた。
アクアダンジョン。水の所為なのかソーラーレイの威力が微妙だ。
それも魔獣石を回収しなくてもいいように、体の中心の魔獣石を破壊するようにだ。
それでも残った魔獣石は回収したくないので、木刀で破壊する。
ちなみに赤銀輝を使わなかったのは、赤銀輝がけがれそうで嫌だったからだ。
狩りはなるべく避け、避けられないものだけにして、調査を続ける。
そうはいっても避けられない魔獣は何匹もいるし、出るは出るはで<ソーラーレイ>によって、撃破したG魔獣は一〇〇匹を優に超えた。
ミクちゃんも積極的に、<ソーラーレイ>による遠距離攻撃に命を掛けている。
ミクちゃん、目が血走っていて、鬼気迫るものがあって、チョット怖い。
さすがのルードちゃんとキフィアーナちゃんも気を飲まれてしまって、言葉が出ない。
それと水球に当たるとソーラーレイが拡散してしまうのが困ったところだ。
ソーラーレイの集光度を上げるか、波長をそろえてレーザーにでもしなければ、っていっても直ぐにできることじゃない。
夕方ごろには、リエッタさんも本格的に慣れてきたのか、体内の活性化が自然になってきた。
あまり無理はしていなさそうだ。
早めに見つけておいたドライエリアに戻って、キャンプを張った。
もちろん周囲のブラックローチは半径五〇メルの範囲で殲滅した。
深夜、黒い波動の震源地が気になって、全員起きてドライエリアを出て、空を見上げてその時を待った。
黒い波動が駆け抜け、一気に負の魔素と魔法力が増え、活性化する。
地震とともに、僕も初めてざらついた感じを味わった。
「進んできた方向に間違いはないみたいですね」
「リエッタさん、大丈夫ですか」
僕が震源地の方を眺めていると、ミクちゃんの声が聞こえた。
「リエッタさん」
僕は、苦しそうなリエッタさんの手を握って、活性化を開始する。
ミクちゃんたちも他人に活性化はできるが、僕の活性化の効果は一段も二段も上なんだ。
程なくリエッタさんの体調が戻る。とはいえ呼吸は早めで、汗をかいている。微妙なバランスで保っている感じだ。
「<ホーリークリーン>」
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
少しでも楽になってほしいもんね。
申し訳ありません、と恐縮がるリエッタさんの警備は無しで、休んでいてもらっている。
深夜に忍び寄る何匹もの黒い影が、<ソーラーレイ>の餌食になったのは言うまでもない。
◇ ◇ ◇
四月一七日白曜日。
リエッタさん顔色も良くなっている。
キフィアーナちゃんの総合も“92”となった。ただし戦闘技術を考慮すると、僕判断だが“15”下の、“78”といったところで、まだまだだ。
及第点は短針魔導ガンの扱いくらいだ。
「みんな、これを持っていて」
深夜に試しにやってみたのが、魔石に“白い力”を付与することだ。
何とか付与はできたけど、威力はかなり弱い。それでも黒い波動の精神防御程度にはなるだろう。
「ありがとうございます」
一番できのいいものをリエッタさんに渡した。
朝食を済ませ、細心の注意を持って次元の亀裂を目指す。
できれば昼前に到着して、対処前に、現象をこの目で確認したい。
狩りと、そう、狩りと。めんどくさく、そしてミクちゃんをバーカーサーへと駆り立てるブラックローチの殲滅を行いながら歩を進める。
「ミクちゃん、ソーラーレイの速度と精度、上がったね」
無駄な緊張感をはらんだ雰囲気を、僕なりに和ませようと軽口を叩いたら、キッと睨まれてしまった。…怖いから。
「<ホーリーフラッシュ>」
木の陰に黒い水球があると危険なので、適宜に消滅させながら進んでいく。
「なんかこの辺の森って、背が高ね」
「海の中なのに、木があるって変だけど、こんなに高いなんてダンジョンならね」
いつもは相槌を打つのはミクちゃんだけど、バーカーサー化したミクちゃんに代わり、キフィアーナちゃんとの会話だ。
「でも、葉っぱが海藻みたいだし、寄生植物ならぬ寄生海藻に寄生サンゴまで生えて(?)いて、夢じゃないかって思えちゃうよ」
「バカね。それがダンジョンってものでしょ」
「そうだけどね……あれ」
「なに…」
「半魚猿、シャークエイプってなに?」
そうレーダーにヒットした魔獣の群れの種族と種族名に見たこともない名称が表示されれた。
名前からなんとなく想像はできるけど、ここの固有魔獣だろう。
強さは不明だ。
イヤイヤ、それより。
「魔獣襲来、半魚猿、シャークエイプ、個体数一ニ匹」
見えた。
サメの体に顔と手足が猿のものだ。
水防壁をまとい、牙に爪、背びれは刃物だ。
強さは僕の体感的な感覚で“60”~“90”程度。
ボスシャークエイプが一匹混ざっていて、そいつは“120”と強い。
「<ホーリーフラッシュ>」
念のため周囲の黒い水球を消滅させる。
KISHAAaaーーー!
KYOSHAAAaaーーー!
森林に隠れながらあ、ちらこちらから発せられるのが雄たけびだ。
脳と体を直接揺さぶってくるような雄たけびには、錯乱と幻覚作用が混在している。
さすがにこれだけの数だと、一瞬意識が遠のいた。
体内の魔法力を活性化させてレジストする。
ミクちゃんとルードちゃんの体内の魔法力を活性化させて、意識は覚醒させるが、リエッタさんとキフィアーナちゃんまで間に合わなかった。
暴れ出すリエッタさんとキフィアーナちゃんに、
「ごめんなさい」
僕がすかさず腹パンで痛みを与え、少しだけ覚醒させる。
ワイヤーネットと<粘着弾>で捕縛して。
<ハイパードリームワールド>
眠らせる。
「ミクちゃん、ボスをお願い。ルードちゃん二人を守って」
「了解」「任せなさい」
こうなると早い。
<ハイパーソーラーレイ><ハイパーソーラーレイ><ハイパーソーラーレイ>…
<ハイパーソーラーレイ><ハイパーソーラーレイ><ハイパーソーラーレイ>…
三点バーストならぬ三射攻撃の連射だ。
<ハイパーソーラーレイ><ハイパーソーラーレイ><ハイパーソーラーレイ>…
<ハイパーソーラーレイ><ハイパーソーラーレイ><ハイパーソーラーレイ>…
未だに吠え続ける残一二匹に、三本づつ四回、ハイパーソーラーレイをぶちかます。
脳がチョットだけ悲鳴を上げる。
濃厚な空気で拡散されて威力は落ちるが、傷は負わせる程度の威力はある。
狙ったのが目だから少なくとも一瞬の目くらまし、上手くいけば両目をつぶせたはずだ。
<フライ><テレポート>
落下感を感じながらもシャークエイプを水防壁ごと袈裟切りに切る。
首がないから、力技だ。
まずは一匹。
手ごたえはあったけど、死亡の確認をする暇がない。戦闘不能でもOKだ。
ルードちゃんの牽制の矢に注意がそれている隣のシャークエイプに、フライで後ろから近づきら袈裟切りで倒す。
<テレポート>
今度も袈裟切りで切りつけるが、気づかれて太い腕で防がれた。
その腕を切り飛ばし、返す刀で逆袈裟切りでそいつを倒す。
状況を確認して、
<テレポート>
ルードちゃんの隣に飛ぶ。
雄たけびを上げながら高速水泳で突っ込んでくるシャークエイプ三匹。
フィフススフィア越しでも、ビリビリと体に振動が伝わってくる。
「一匹頼む」
「任せなさい」
僕が一匹を赤銀輝で切り裂き、もう一匹を蹴り飛ばす。
ルードちゃんはシッカリ一匹をショートソードで突き殺している。
ミクちゃんは<ステップ>を使いながら、ボスシャークエイプとの勝負は、レベル的にはミクちゃんが勝っているし、若干押し気味のようだ。
それにボスシャークエイプの片目は僕の攻撃でつぶしてあるから、それもアドバンテージだ。
レーダーで確認すると一一匹のシャークエイプの内三匹は死んで、残り八匹。そのうちの二匹は戦闘不能で、けり飛ばした一匹はまだピンピンしている。あとの二匹は片目がつぶれている。
水爆弾があちらこちらから降り注いでくる。
<フィフススフィア>
<ハイパーソーラーレイ><ハイパーソーラーレイ>
<ハイパーソーラーレイ>
防御を固め、僕とルードちゃんで反撃する。
二匹の顔面を焼き、ルードちゃんの矢で一匹を傷つける。
<テレポート>
無事な一匹を袈裟切りで倒す。
<テレポート>
もう一匹だ。
残り四匹の内三匹は片目がつぶれている。
距離感にズレがあるのか、水爆弾が微妙にずれている。
<テレポート>
更に一匹。
<フライ>で飛んで威嚇すると、木から飛び出した。
そこを弓矢で射止められた。
こりゃーいい。
もう一匹を威嚇する。
矢の二連射で確実に仕留められた。
<ハイパーソーラーレイ>
「ルードちゃん、もう一匹よろしく」
目を確実につぶして、ルードちゃんに頼んだ。
ボスシャークエイプにフェイントをかましたら、こちらを見て動きが止まった。
そこをミクちゃんが突き刺す、驚愕するボスシャークエイプに、再度の刺突で止めを刺した……はずだったんだけど。
「ギャーーー!!」
体長一メルほどもあるビッグブラックローチ三匹が、ルードちゃんが動き回ったことによって、飛び上がっていた。
ヤッパ、隠形の達人、もとい達Gだ。
<ハイパーソーラーレイ><ハイパーソーラーレイ><ハイパーソーラーレイ>
ミクちゃんの悲鳴が響き渡る中、僕はG三匹を撃ち殺した。
「ミクちゃん!」
僕はミクちゃんを空中でギュッと抱きしめていた。
しばらく……、抱きしめていると、
「ありがとう、大丈夫」
ミクちゃんの体から力が抜けた。
「うん、良かった」
二人で見つめあっていたら、
「いつまで空中でラブシーンやってんだ!」
下からルードちゃんから怒鳴られたしまった。
真っ赤になりながら三人で――ルードちゃんは憤慨で――後始末をした。
◇ ◇ ◇
錬金魔法の<変性>で粘着液を水に変え、助け出したキフィアーナちゃんとリエッタさんの復活には時間んが掛かりそうなので、次元の亀裂の到着はあきらめ、ドライエリアもあきらめ、そのまま昼食休憩とした。
もちろん、安全そうな場所い移動して、G焦土作戦を決行して、セイントアミュレットにホイポイ・ライトを設置してだ。
食事を摂って、しばらくくつろいでいると、急に負の魔素と魔法力の濃度が上がっていく。
周囲を観察しても異常はない。
浮遊眼で見るもぼやけてよく見えない。
それでも異常事態なのとは確かだ。
手早く荷物をアイテムボックスに放り込んで、キフィアーナちゃんとリエッタさんの活性化を手早く行い、戦闘態勢を整える。
香しくも甘い香りが漂ってきた。
精神攻撃か、クラリと目まいがする。
「キフィアーナちゃん!」
歩き始めようとするキフィアーナちゃんの声を掛けた。
ワーッ、と、意味不明の声を上げキフィアーナちゃんが覚醒した。
それから一、二分後か、何とも言えぬまがまがしい光が発生して、黒い衝撃波が走った。
そして地震が発生した。
さらに、魔が魔がしい存在感が伝わってきた。
どうやら次元の亀裂は直そこのようだ。
リエッタさんが蒼白い顔、荒い息で膝をついた。