144. 夢と誓約
二月一三日赤曜日に、キフィアーナちゃんに複写用魔法陣のことを言われて、他国にも必要かと改めて思った。
スキルアップ、経験値稼ぎには粘着弾や大粘着弾があると便利だもんね。
それと制限なく無料で複写できる魔法陣もあると便利だ。
ヴェネチアン国に提供するにはハードルが低いってのもありけど、ただし、利益侵害のことで、またパパと相談だ。
その他の国には、下手に提供できそうにないもんね。それとも本を出せば……、そうなると複写ではなく、設計図だから、魔法陣を作れる人じゃなきゃダメだよね。
その夕方に大きな地震。体感的には震度三程度の地震が発生してしばらく続き、海が荒れ、雷鳴が鳴り響いた。
思わずレーダーで周辺を確認したけど、被害はほとんどなさそうだった。
ただし、小規模だがボティス密林から魔獣が溢れ出て、その対策に多くの警備兵があたり、短針魔導砲を装備した武装魔導車が大活躍した。
その夜に夢で、魂魄管理者お告げを聞いた。
「このお告げを聞く者は、【基本スキル】の総合が“30”を越していて、大災厄を治める力を宿した者に限られている。
大災厄に立ち向かう者は神に誓約を申し出よ。
このことむやみに話すべからず」
それは簡単なものだった。
◇ ◇ ◇
二月一四日青曜日。
セージは朝早く目が覚めた。
着替えを済ませ、朝焼けに東の空が明けた頃に<テレポート>でオケアノス神社の拝殿前に飛んだ。
しばらくするとミクちゃんが<テレポート>で飛んできた。
呼ばれたような気がしたんだ。多分ミクちゃんもだ。
「「おはよう」」
二礼二拍手一礼でお参りをした。
魂の世界に魂だけで飛び、魂魄管理者と会った。
「その方たちは、宣言が済んでいる故、これからの事を伝える」
女神様のお告げの内容は、以前に聞いた内容と重複する部分もあるが、時期などや、次元の裂け目の消滅方法などの情報が新たに加わった。
僕たちの成人するころに女神様の加護が切れ、数多くの次元の裂け目が出現する。
要は新たなダンジョンに空間の穴だ。
その次元の裂け目を消滅させるのが僕たちの仕事なのは以前に聞いた。
次元の裂け目のいくつかは、早い時期にんも出現するので、その消滅も行わなければならない。
ただし必要な次元の裂け目もあるそうなので、全てを消滅させることはできない。
消滅をさせるには多大な魔素と魔法力が必要なので、できるだけ鍛え、魔法の保有量を増やしておくこと。
そして、鍵となるのが妖精で、僕たちはパートナーとなるフェアリーをまずは探さないといけないそうだ。
ただし、フェアリーたちの多くはまだ修行中で、聖なる力を習得している真っ最中で、あと二年から三年ほどは掛かるんだそうだ。
その間の次元の裂け目の消滅は、まずできないだろうということだ。
僕たちにできることは、できるだけ鍛え上げること、聖徒を増やしてフェアリーを待つことの二つだそうだ。
ニュートとプラーナは修行中のようだ。
どちらが僕のパートナーになるのかな。
「注意すべきことがあります」
フェアリーの特殊能力、協力して次元の裂け目を消滅させる力と、空間の穴やダンジョンの中心には次元の裂け目があることは一般の人には極秘だそうだ。
フェアリーの特殊能力は自分の力として、また次元の裂け目は空間の穴とダンジョンの中心核として一般には伝えることだ。
聖徒に選ばれた者のみフェアリーが見えるが、例外はあるので次元を消滅させる時には注意が必要だそうだ。
もしくは守秘義務を負ってもらうかだそうだ。
極秘の説明は無しで、そう告げられた。
でも、僕やミクちゃんにルードちゃんは聖徒の称号をもらう前から見えてたんだけど? どうして? これもチート?
ちなみに聖徒は成長の加護があるんだそうだ。
また、宣言したが、努力しない者にはそれなりのペナルティーが発生する。
「聖徒に選ばれない者でも、次元の裂け目を消滅させるための力になるでしょう。
様々な者の力を助力を乞いなさい。
また、助力の必要な者には手を差し述べなさい」
僕とミクちゃんは、女神様の死後の言葉を聞いた後に拝殿の前に立っていた。
しばらくするとルードちゃんも来て、参拝していった。
先の神のお告げの所為か、相当数のフェアリーとの適合者が、それ相応に強くなったということだろう。
あと二年から三年が準備期間ってことだ。
それまでに更に強くなる。そして周囲も、できるだけ、そう、できるだけ強くする。
◇ ◇ ◇
この日、大災厄への対応のために魔法教育の強化と支援が必要不可欠だ、との再度の神のお告げがあった。
「セージ君とミクちゃん、別のところで話がしたいのですが」
ライカちゃんから真剣な表情で申し出があった。
「私とシエーちゃんも大災厄に立ち向かうことにしたの、お姉ちゃん(モラーナちゃん)も含めて支援をしてほしいんだけどダメかな」
ライカちゃんもとうとう決心をしたようだ。
今までにない吹っ切れた顔だ。
「今までも随分世話になったが、ずうずうしいとは思うが、よろしく頼む」
シエーサン君も真剣だ。
「わかった、みんなで準備して七沢滝ダンジョンでレバルアップだね」
僕とミクちゃんは了承した。
そしてそのような申し出は、キフィアーナちゃんにギジョートリオからも、パルマちゃんとビットちゃん、獣人トリオにと増えていき、三日で一七人から何らかの似たような申し入れがあった。
もちろん僕たち四年生だけでなく、五年生と三年生も含んでだ。
その半数以上が“聖徒”の資格を所持していた。
そう、キフィアーナちゃんもだ。
こうなると僕たち三人じゃ対応不能だ。
あとみんなの総合は“30”台から“60”程度と、モモガン森林でパーティーを組んで狩りをするには心もとないレベルだ。
僕たちは先生に断りを入れて、パパやウインダムス議員を通じて、正式に冒険者ギルド長のボランドリーさんに応援を依頼した。
僕たち三人が直接面倒を見るのがキフィアーナちゃんにパルマちゃんとビットちゃん、ライカちゃんにシエーサン君にモラーナちゃんの六人ということになった。
僕的にはギジョー三人組もって思ったけどルードちゃんが嫌っているから仕方がない。
あと人数が多いのは、サポートできる人がそれほどいないってことだ。
N・W魔研の所員は短針魔導砲の依頼は一気に増えて大忙しで、僕たちのサポートは頼めそうになかった。というか、時間があれば僕にミクちゃんにルードちゃんは電増魔石の作成を応援しているのは今まで通りだけど、作成する数が増えたんだ。あっちこっちが一気に忙しくなった。
その他にはパパとウインダムス議員とあと数人の議員が、近々マリオン市の緊急議会に行くことになった。
市の動きとしては、オーラン上級魔法学校にも、高スキル者が出現すればだけど、行く行くはSクラスを作るそうだ。
オケアノス海周辺諸国でも、色々と騒がれていて、様々な対策が取られ始めてるそうだ。
その中で大国のヴェネチアン国に、そこそこの国力を持つマリオン国には支援の要請も来ているそうだ。
僕たち三人(僕にミクちゃんとルードちゃん)は、六人を三人ずつに分けて、まずはライカちゃんとシエーサン君にモラーナちゃんを鍛え上げることにした。
かなりハードだけど、三人に了解を取って、七沢滝ダンジョンに潜ることにした。
その前にっと、急いで作成した複写用魔法陣をキフィアーナちゃんに渡すことも忘れない。かなり頑張っちゃったからね。
ということで二月一八日黒曜日、マリオン市に旅立つパパたちを見送ってから、僕たち六人は「わたしも連れていきなさい」と久々のわがままキフィアーナちゃんたちに見送られて七沢滝ダンジョンの前に飛んだ。
市や冒険者ギルドの支援を得られたので、魔法学校のSクラスの面々はダンジョンの入場料はタダだ。
それとボティス密林へ入る制限を、総合で“30”と変更をお願いしていたが、特別に許可をもらった。
近々、制限自体も“30”に変更するそうだ。
「な、なにこれ……」
「ぼくは何となく……」
絶句するライカちゃんとシエーサン君に、興味津々のモラーナちゃんだ。
僕とミクちゃんだけは二人の絶句の理由を知っているけど、それは暖かく見守るだけだ。
「変な入り口に面くらってるみたいだけど、入るよ」
「入る前から驚いていたんじゃやってられないぞ」
僕の指摘と、ルードちゃんの叱咤で自動ドアを潜ってダンジョン内に入っていく。
ライカちゃんとシエーサン君の観察はより真剣になった。
一層:ゴブリンや弱い魔獣などのララ草原並。
二層:ララ草原にボティス密林やモモガン森林が混ざったような世界。
三層:不気味な世界で、死霊やゾンビなど。
四層:地下道やビルの世界で、ゴーレムやクラゲだ。そしてここから罠がある。
五層:岩の世界で、オーガや強力な獣魔獣がいる。
六層:二層の強化版で密林。罠が落とし穴と毒矢に、魔獣は集団となる。
七層:三層の強化版。
八層:四層の強化版。
九層:五層の強化版。
一〇層:次元の裂け目。最下層。
みんなにはだんっジョンの構成は説明済みだ。
まずは四層を目指して潜っていく。
一、二層の魔獣が強くなっていた。まだ変革しているようだ。
三層は相変わらず気色悪く、ソーラーレイとホーリーフラッシュで殲滅しながら、悲鳴も上げながら駆け抜ける。
休憩を取って一旦高ぶった感情を落ち着ける。
四層で粘着弾とワイヤーネットを使用して本格的な狩りを行い、様子を見ながら五層で総合の“80”声を目指すといった大まかな予定だ。
四層のSD化したデフォルメゴーレムに、ライカちゃんとシエーサン君は異様に喜んでいた。
ところが四層で狩りをしていて、問題が発生した。
まあ、予想はしてたけどその通りになってしまった。
一泊して様子を見ても改善のきざしがない。
「ライカちゃんとモラーナちゃんは戦闘に向かないと思うんだけど」
「後方で武器や防具を作って支援に回った方がいいと思うんだけど」
「戦闘に迷いがあったらケガだけじゃなく、周囲まで被害がでる。最悪全滅することだってある」
そう、ライカちゃんとモラーナちゃんが優しすぎるんだ。
ミクちゃんやルードちゃんが優しくないってことじゃない。
戦闘にその優しさが迷いやためらいとなって出てしまう。
何度チャレンジしても、攻撃が一瞬だったり、時には大きく遅れてしまうこともある。
決意だけじゃ、どうにもならない問題だ。
幸いライカちゃんとモラーナちゃんも総合はほぼ“60”だ。
いい武器や防具を作るには問題ないレベルだ。
きっと、それでも大災厄に挑むってことだよね。そう思いたい。
二人を連れて、シエーサン君のレベルアップというわけにもいかない。
全員でダンジョンを出た。
◇ ◇ ◇
二月二一日黄曜日。
一日休憩してまた七沢滝ダンジョンに潜った。
今度はキフィアーナちゃんにパルマちゃんにビットちゃん、そしてシエーサン君だ。
三人で四人を面倒見るにはきついけど、そこは僕が頑張って何とかするしかないと思っている。
あと、キフィアーナちゃんの保護者のヒルデさんと、護衛二人が同行する。総合はヒルデさんが“58”で、護衛が“65”前後だ。
一層と二層、そして三層を悲鳴を上がながら駆け抜ける。
ゴーレムの強さがわかる三人は真剣だけど、SD化したデフォルメ化されたゴーレムは。
「やってやるわよ」
「ドンと来いだニャ」
「がんばります」
ことが言葉とは裏腹に、ニコニコと喜んでいた。
キフィアーナちゃんに至っては、持って帰って飼えないものかな、と半分本気の発言も漏れていた。
ちなみに二度目なチャレンジのシエーサン君は寡黙だ。
ヒルデさんは情報収集にいとまがない。
四層では粘着弾とワイヤーネットで捕縛しながらどんどん狩っていく。
ヒルデさんに護衛も一緒だ、
側溝からのクラゲの攻撃はソーラーレイの一撃で撃退する。
一泊――シッカリとヒルデさんの教育付きだ――してレベルが上がったのを確認するが、一気に“60”まで上がるわけじゃない。
サポートの人数が少ないんだから無理はしない。
強めのゴーレムを探しながら狩りを継続する。
僕とミクちゃんとルードちゃんは確認のため、ボス部屋のアイアンメタルゴーレム(強さ“70”)、ゴーレム二体を狩ってみたりもしたけど、特に変化はなかった。
二月二三日黒曜日(小の月)。
全員の総合が“60”を越え、スフィアシールドをそれなりの強度で張れない限り五層に行かないことに決めているから、今日も四層での狩りだ。
三月一日赤曜日、いよいよ五層突入。
ストロングオーガ(強さ“80”前後)、サイクロプスオーガ(強さ“70”~“80”程度)、ビッグオーガ(強さ“60”~“70”程度)、通常のオーガ(強さ“50”~“60”程度)と多彩なオーガがいる。
その他に獣魔獣もそれなりにいる。
やることは同じだ。
三月五日白曜日、みんなが“73”~“75”といったところで、シエーサン君だけは“77”になったところで戻ってきた。
魔法核や魔法回路も“7”前後になっている。
シールドもトリプルスフィアが張れるまでになっている。
安全第一で狩りをしたからこんなものだ。
それと翌週の三月一二日黒曜日に魔法展覧武会発表への出場はお願いされているので、その準備もあってだ。
今年の魔法展覧武会発表はSクラスだけ、特別枠で一班協議への参加は行われなかった。
模擬戦は先生や冒険者とではなく、生徒(聖徒)たち同士の模擬戦だ。
トリの試合は僕対ミクちゃんとルードちゃんだった。
魔法戦から始まって、高速戦闘とできるだけ多彩な戦闘を行ったけど、かなりの人が見えてなかったみたいだ。
キフィアーナちゃんもノリノリで張り切っていた。
ちなみに“聖徒”の資格を持っていない所為だと思われるが、ヒルデさんに護衛二人は“70”前後とやや低かった。
魔法核や魔法回路は“6”前後だ。
聖徒の称号を持つキフィアーナちゃんは、護衛よりチョットだけ強くなっちゃた。
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【キフィアーナ・ヴェネチアン】
種族:人族(聖徒)
性別:女
年齢:9
【基礎能力】
総合:74
体力:121
魔法:153
【魔法スキル】
魔法核:7 魔法回路:7
生活魔法:3 水魔法:6 土魔法:5 風魔法:6 光魔法:5 闇魔法:1 身体魔法:5
【体技スキル】
水泳:1 剣技:4 片手剣:4 槍技:5
【特殊スキル】
鑑定:3 看破:4 索敵:3 魔素感知:5 魔力眼:4 思念同調:1 身体軟硬:1
【耐性スキル】
魔法:3 全毒:3 幻惑:3 斬撃:3 打撃:2 刺突:2 酸:2 精神攻撃:2 感覚異常:1
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特殊スキルの身体軟硬は、現在は皮膚を柔らかくしたり固くしたりできるそうで、レベルが上がれば筋肉や骨にもそのスキルは及ぼせるそうだ。
打撃や衝撃に対しては効果がありすだ。
それと感覚異常などという耐性も持っていた。