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次元災害で異世界へ  作者: 真草康
キフィアーナ留学編
146/181

142. わがままキフィアーナちゃん


 一月二〇日青曜日。

 ララ草原に狩りに来ている。


 先週から言われていたことだが、昨日判定が行われ、一部生徒は泊りがけでモモガン森林に行った。

 付き添いはルデン先生とボランドリーさんとニガッテさんに冒険者が2パーティーだ。

 参加者はルードちゃん、ライカちゃんにキジョーなどの指導的な生徒の他は、シエーサン君、パルマちゃん、ビットちゃん、ガラクーダ君、ブゾン君、カレンセン(カレン)ちゃん、カトリーゼ(リーゼ)ちゃんの、モモガン森林の経験者で狩り済みの七人だ。

 二つのパーティーとなって狩りをするようだ。

 これで更なるレベルアップが行われれば、総合が“40”となって、当初の目標は達成となる。


 それ以上になると、個別指導でまずは“60”となって、七沢滝ダンジョンに潜って“80”、“100”を目指すしかないが、そこまでの指導をできる冒険者はほとんどいない。

 全て僕の関係者ばかりだし、強さ“80”の魔獣を相手にするとなると、ダンジョン内では強さ“100”の魔獣に遭遇する可能性に、集団に遭遇する可能性もある。

 それはリスクが大きすぎるから、学校のレベルアップの範疇外だと思う。

 まあ、それよりもモモガン森林に行ったクラスメイトの上級組は、目指せ総合“60”や“50”だろう。


「ほらセージ狩りをしますよ」

 俄然やる気のキフィアーナちゃんに、気が抜けているとか、気合が入らない僕とミクちゃんだ。


 キフィアーナちゃんの実家(王家)への「許可ちょうだい」が、

「怪我をしても、最悪命を落とすことがあっても文句は言わん。

 キフィアーナの全てをセージスタ殿に預けるから鍛えてやってくれ」

 だった。

 オイオイ、おかしいだろうって突っ込んでも後の祭りだ。

 何度かやり取りをしたけど、「すべてセージスタ殿に任せる」の一点張りだった。

 オーラン市でも、学校でも、じゃないのがどうしようもない。


 パパに交渉を頼んで聞きだしてもらった回答が、

「ヴェネチアン国の王族は、国民の規範。

 その王族が大災厄の終結に貢献しないわけにはいかん。

 家族で協議した時にキフィアーナが立候補してな、セージスタ殿のところできたえてもらうから大丈夫とぬかしおったのじゃ。

 よろしく頼む」

 ということだった。

 オイオイ、キフィアーナちゃん、他人まかせかよ。


 覚悟の上とはいえ、お姫様だもんね。

「ミクちゃんどうしよう」

「ここまで来たらやるしかないでしょうね」

「そうだよね」


「ほらぐずぐずしない。目標は。魔獣は何処にいるの」

 さっきからこの繰り返しだった。

 先生たちも触らぬ神になんとやらといったところで、僕とミクちゃんにお任せ状態だ。


 覚悟を決めて、さてやるかってことだけど、前回一緒に狩りをしている。

 ここに来る前に個人情報は見せてもらっている。

 総合は“22”で魔法も“39”もある。

 魔法核と魔法回路は確認させてもらったけど、何とかギリギリ“3”となっていた。

 取得した魔法属性も生活魔法はともかく火・土・風と一般的なところだ。


「現在僕たちのできることはほとんどないよ」

「どういうことですか」

「これ以上強くなるには、身体魔法を覚えないといけないんだ」

「どうやったら覚えられるの」


 そう、やる気の出なかったのは、どうやて身体魔法を取得させるかを迷っていたってのもあった。


「それだけ強いんだから、自分より弱そうな魔獣を見つけて、どんどん狩りをしていけばいいんだよ」

「魔力眼と魔素感知もあるのですから、自分の能力で何とかする(すべ)を身につけるときです」


「そうなんだ。じゃあ、やるわね。見てなさい」


 武器はさすが王族、ミスリル硬鋼(M)のショートスピアとショートソードに、大型ナイフまでと甘やかしすぎだ。

 小型の盾はキチン質の軽量のものと、ミスリル鋼の二枚も持っている。

 多分基本は僕やミクちゃんの武器や装備を見習ったものだと思う。ということで、チェーン下着に丈夫な一般服に、軽量防具も僕たちの格好や装備に良く似ている。


 ただ、武器には『付与を願う』の張り紙がされていた。ホントにもう、王様勘弁してよだ。

 みんなの前で高周波ブレードは使用できないので、すべての武器には切れ味アップの付与を行っている。まあ、サービスでマシマシの付与だけどね。


 魔宝石も白と青、光と水の魔宝石だ。


 駆けだすキフィアーナちゃんの後を、ユックリとゆとりを持って追いかける僕とミクちゃん。

 ちなみに僕と一緒だと、護衛が不要なんだそうだ。

 いいのかそれで。


 メガネウラにはショートスピアで突きを入れるもひらりと避けられる。

 メガギリスにもショートスピアで突きを入れるも、どうも目標が甘い。

 キチン質の固い部分を突いてしまって、逃げられた。


「意識を集中して」

「無理よ。これだけのスキルでいろいろ見てるんだから」


 注意を魔獣の様々な挙動に向けているため、一人だけで狩るのは難しいそうだ。

 でも、これは慣れてもらうしかないし、自分で克服しないといけないことだ。


「次行ってみよー」

「これからだから見てなさい」


 発見したゴブリンの強さは“7”や“8”と弱いけど、四匹の集団だ。

 避けた方がと思ったら、キフィアーナちゃんがゴブリンに向かって駆け出した。


 オイオイ、大丈夫か。

 ミクちゃんと追いかけた。


 キフィアーナちゃんがゴブリンに突っ込み、ショートスピアで一匹を突き刺す。

 あー、そんなに深く刺したら抜けなくなっちゃうよ。と思ったら、迷わずショートスピアから手を離した。

 ショートソードを抜いて、首筋を切りつけ、蹴飛ばす。

 そこで残った二匹がパニックを起こしてギャアギャアと騒ぎだす。

 その隙にもう一匹の首を突いて蹴飛ばす。


 一対一になればしめたものだ。

 キフィアーナちゃんが一旦距離を取る。

 三匹目を蹴り飛ばした時に体制を崩したので、立て直すためだろう。


 そこで一気に踏み込んだ。あまりにも不用意じゃないかって思ったら、再度ステップで横に跳ぶ。

 フェイントかと主たら、真っ直ぐにぶつかって首筋を切り裂いていた。


 乱戦で魔法を撃たないところもいい判断だ。

 魔法発動中に攻撃を受けたりすると焦りの原因だ。

 実際の狩りで、思った以上に時間が掛かって、魔獣からの反撃をくらってしまうという話をボランドリーさん何度もきかされている。じっさいにララ草原で変檄にあって怪我をしたパーティーを何度か見かけている。

 それらのことを身をもって味わうこともなく、四匹を倒すってことは、思ったより戦闘センスはあるのかな。


 ちゃんと魔獣石を取り出すのも堂に入っているし、冒険者としての振る舞いにかなったものだ。…と見守っていたら。

「次を狩りますから、セージとミクも手伝いなさい」

「ハイハイ」

 僕とミクちゃんとで魔獣石の取り出しを手伝うとあっという間だ。


「<ホーリークリーン>、ほら頑張って」

「ありがとう。見てなさい、今日中に身体強化まで手に入れるから」


 今度はメガギリスを一撃目でキッチリと弱点を突けたけど、惜しいかな、力が弱かった。

 二撃、三撃目で狩った。


 一旦休憩。


 毒蛇魔獣の鎖スネークとパフアダーを狩るときには、シッカリとキチン質の盾で防御しながら、ショートスピアで突き刺していた。

 一撃で倒せない時には二撃、三撃になるのは、まだまだ武器に馴染んでいないからだろうか、それとも剣の方が得意なんだろうか。

 とはいえ、距離を取った方が安全だし、僕たち子どもは長手の武器を覚えるのは必須だ。

 まあ、ルードちゃんみたいに弓矢と併用して剣を使用するのももちろんありだ。


 昼食をはさんで狩りを続けた。

 キフィアーナちゃんは、それなりに狩ったと思えるほど頑張りを見せた。チョット感心。


 そうなると手伝いたくなる。

「ミクちゃん、応援していかな」

「セージちゃんがそうしたいのなら、そうしてみたら」

 ミクちゃんの答えも、否定的な口調じゃなく、肯定的な口調だ。

 魔法力の活性化を行い、ショートスピアに高周波ブレードに切れ味アップに魔法力を込めればボルテックスが発動するように付与をした。


 僕のレーダーで索敵して、

<粘着弾><粘着弾>

 メガホーンビートルに赤耳フォックスを狩った。


  ◇ ◇ ◇


 一月二一日黄曜日。

 僕はキフィアーナちゃんと二人だけで、ララ草原に来ている。

 身体魔法はまだ取得できていないけど、総合は“24”となった。


 さすが王族、勉強は進んでいるとのことで、また、モモガン森林組は今日も続けて狩りなのでということもあり、学校の授業と訓練を断っての狩りだ。

 チョット、ズルだけど致し方ない。


「セージ、魔法力の活性化をお願い」

「はいはい」

 ヤッパそうきたか。

 ちなみにショートソードにも高周波ブレードに切れ味アップに魔法力を込めればボルテックスが発動するように付与済みだ。

 だって、本当に真剣なんだもの。


 メタリックビートル、メタルマンティス、メガウイップスパイダーを<粘着弾>を使って狩った。

 休憩をはさんで、再度の活性化を行い、今度は一人で狩りをやってもらった。

 キフィアーナちゃんはやはり戦闘の才能が在るのか、次々と魔獣を倒していく。もちろん強さ“20”以上は難しく、僕のサポート込みだし

途中活性化も何度か行った。

 午後には随分と体の動き、切れも良くなったが、直ぐに疲労で動きが悪くなった。


 そこで活性化とルルドキャンディーのお世話になって、魔法の練習だ。

「<ビッグファイアー><ジェットストリーム>」

「<エニーファイアー><ハイウインド>」

「<メニークロッド><ハイウインド>」

 もちろん一撃じゃ、倒せない。

 上手くダメージを負わせると、ショートスピアやショートソードで止めを刺させた。

 それもルルドキャンディーに三度お世話になっておしまいだ。


 翌日からも、学校が終わると<テレポート>でララ草原に飛んで狩りを続けた。

 それも、徐々にボティス密林に近づいてだ。


  ◇ ◇ ◇


 一月二四日黒曜日。

 キフィアーナちゃんの総合は“26”で、魔法は“62”までアップしていた。

 魔法核と魔法回路は“3”のままだけど、“3.5”程度まで上がっている。

 複写用魔法陣から『複写』もしてもらっている。

 身体魔法も“2”で、身体強化が使えるようになっている。


「ミクちゃん、ルードちゃん、手伝ってくれる」

「いいけど、本当にやるの」

「セージがやりたいっていうのなら手伝うけど」

「それじゃあ、お願い」


「<テレポート>」

 モモガン森林で狩りをするために飛んで来た。

 学校の規定ではモモガン森林での狩りは身体強化Ⅱができるまでは禁止というか、許可しない。もちろん安全を配慮してのことだし、僕ほどのサポートもない。


 僕も勝算がないわけじゃない。

 高周波ブレードの武器があれば、子供のキフィアーナちゃんでも身体強化があればなんとかなる。

 二人は知らないことだけど、エルガさんに至っては、大人ということもあるけれど、身体強化無しでも狩りを成功させたしね。

 そうはいっても不慮の事故が無いとは限らない。僕一人じゃモモガン森林じゃ不安だから二人にサポートを頼んだのだ。


 四人でモモガン森林に入っていく。

 目指すはクラッシュホッグ(強さ“40”前後)とダッシュホッグ(強さ“30”前後)だ。そうじゃなくてもホッグ系だ。

 反撃が限られるしね。


 蛇や蜘蛛などの弱い魔獣はキフィアーナちゃん一人で撃破した。

 手長エイプの一二匹の群れは僕とミクちゃんにルードちゃんでほとんどすべてを倒した。


 クラッシュホッグ発見。

 強さは“41”とほぼ平均的なクラッシュホッグだ。


<ハイパー粘着弾><ハイパー粘着弾>

<ハイパー粘着弾><ハイパー粘着弾>

<ハイパー粘着弾><ハイパー粘着弾>


 身動きできなくなったのを確認して、

「<スカイウォーク>

 キフィアーナちゃん、見える?」


「光の橋が……見えるわね」


「身体強化して、ほら行くよ」

 僕が手を出すと、左手でつかんできた。右手にはもちろんショートスピアが握られている。


「<身体強化>」

 キフィアーナちゃんが恐る恐るスカイウォークに乗るのを、生暖かく見守ってから。


「走るよ」

「ええ…えー」

 無理やり駆けだした。ハイパー粘着弾で捕縛してるっていっても限界はあるので待ってられないもの。


 クラッシュホッグの真上で停止。

 いつものように、スカイウォークにはショートスピアを突き刺す穴が開いている。

「ほら一気に」

 僕が穴を指さす。


「ええ、わかった。セージってホントデタラメね」

 一言多いんだけど。


 キフィアーナちゃんが、ショートスピアに魔法力を込める。

 エーイッ!

 突き刺すも今一歩だ。

 そうであっても、ボルテックスが発動して、クラッシュホッグに駆け巡る。

 ただ、半分以上が粘着弾で拡散してしまう。


 BIGYAAaaーーー。

 悲鳴のような雄たけびが体に響く。とはいえ振動系のスキルは無いから大丈夫だ。

 それと猛烈に暴れ出す。


 クラッシュホッグの捕縛を続けられそうにないので。

「<フライ>」

 キフィアーナちゃんを抱えて浮かぶ。


「<ハイパー粘着弾>…<ハイパー粘着弾>…<ハイパー粘着弾>」


 BUGYOAaaーーー。

 こりゃダメだ。


<メガソーラーレイ>……<メガソーラーレイ>


 もう一回か。

<メガソーラーレイ>

 予想通りとはいえ、強化版のソーラーレイの威力もかなりすごい。


 クラッシュホッグが絶命する。

 これによって“白い力”を込めると、魔獣に対する威力はアップするんだ。どんだけすごいんだ。


「せっかくもう一回突けば殺せたのに」

 キフィアーナちゃんが、不満たらたらだ。

 さすがに今の言葉は許せない。

「あのねー、今のはダメ!」


「何よ。そんな言い方しなくたって」

「キフィアーナちゃんが、戦闘にセンスがあるのは確かだと思う」

「そうでしょう」

「でも、状況が見極められなければ、そのセンスも冷静に判断ができないなら、みんなに迷惑が掛かるよ」

「何よ!」

「いいから聞いて。

 狩りでも、戦闘でもだけど、誰かが無謀なことをすれば、そのつけは全員に拡散して、巻き込まれるんだよ。ことによったら誰かが怪我をするし、下手をしたら死ぬんだよ」


「そうね、それは悪かったわ」

 あえて()という言葉を使ったけど、キフィアーナちゃんの顔はまだ不満そうだ。


「まだ分かってないでしょう。

 ダンジョンの中だと、そういった考え方だと全員が死ぬんだよ」

「何よ、そこまで言わなくてもいいでしょう」


 今日の狩り、スキルアップは中断して、<テレポート>、僕の家に戻った。


「何よ、たったあれだけのことで男らしくないわよ」

「アンタ、最低ね。よく王族を名乗ってられるわね」

 キフィアーナちゃんの言葉に、ルードちゃんは辛らつだ。

「なにさ」

 キフィアーナちゃんは魔導車に乗って護衛を連れてホテルに帰っていった。


 パパにはキフィアーナちゃんのことを報告して、訓練は不可能だと伝えた。

 ヴェネチアン国への連絡はパパにお任せした。


  ◇ ◇ ◇


 二月一日赤曜日。

 僕とミクちゃんとルードちゃんは、学校に休みを届け出してもらって七沢滝ダンジョンに行った。

 まあ、息抜きだ。

 キフィアーナちゃんも何か感じてくれればいいかなってことだ。

 相変わらずリエッタさんは忙しく、まあ、こんなことでついてきてもらう訳にはいかないしね。


 僕たちは適当にゴーレムの八層や、オーガの九層で狩りを楽しんだ。

 もちろん行ったからには、ミクちゃんとルードちゃんのレベルアップは必須だ。

 それとエルガさんが改良を加え、反動を押えた短針魔導ライフルの試し打ちも兼ねてだ。

 現在は一人一丁ある。

 実際の射撃は思った以上の反動が来る。かなりの身体強が必要だ。

 それに反比例するように魔法力の込め方によって、威力が格段に違う。

 もちろん扱いにくさもだ。

 上手く撃てるようになるにはかなりの練習が必要だ。


  ◇ ◇ ◇


 二月一日赤曜日。

 キフィアーナ(わたし)がオーラン魔法学校に登校すると、セージとミクとルードがいなかった。

 そうなると話す相手がいない。

 話しかけてくるクラスメイトはいるけど、王族スマイルで適当にあしらう。

 遅いと思っていたら、ラディン先生が来て、ホームルームが始まってしまった。


「セージスタ君とミクリーナさんとルードティリアさんは自分たちのレベルアップのために、七沢滝ダンジョンに行かれたそうです」


 な、なんと、わたしを置いて三人でダンジョンに行ってしまったのです。

 ショックです。


 一日が長く、つまらないものだった。


「ヒルデ先生」

 わたしは長年教育係として使えてくれている、ヒルデ先生に話しかけてみた。

 今回は保護者として、また対面的にはヴェネチアン国の特使の資格を持っている。


「何でございましょう」

「今日ですが、わたし置いていかれてしまったの」

「置いていかれたとは、どういうことでしょう」

「セージたちが、勝手に狩りに行ってしまったのです」

「勝手にですか、それは困りましたね」

「そうなのよ、ひどいじゃない」

「いつ頃お戻りになるのですか」

「知らないわよ」

 突然涙が出てきました。


 ヒルデ先生に抱きしめられていました。

 そうなると涙がたまらなかった。

 大きな声で鳴いてしまった。


 しばらくぐったりとしていました。

 これだけ泣いたのは、幼い時に姉とケンカして泣いた時以来です。


「何かあったのですか。このヒルデに話してごらんになりませんか」

 ヒルデ先生が優しく語り掛けてきた。


「多分昨日のこと…」

 ポツポツ思い出したくないことを、思い出しながら話だした。

 言いたくないところでごまかそうとすると、ヒルデ先生は意地悪にも疑問を投げかけてくるのです。

 シッカリと洗いざらい話してしまいました。


 そうすると、思いのほか自分自身がスッキリとしていました。

 悪いのはわたしだとわかっていますが、ヒルデ先生は、

「それは困りましたね。明日からも訓練に支障がきたしますね。

 学校に何か申し入れますか」


「いいえ、いりません!」

「そうですか……」




「なんで、何も言わないのよ」

「何も申し上げることが無いからです」

「どうせわたしが悪いのよ!」


「キフィアーナ様は、セージスタ殿をどう思われます」

「どうって、そりゃー、うらやましいわよ。なんてたってあれだけ強いんだから」


「キフィアーナ様は強いことに、そう思われてるのですか」

「だって、反則でしょう。あんなに強くって」


「ものすごく強いのでしょうね」

「そうよ」


「でもものすごく強いセージスタ殿も、一人では戦いたくなかったとうかがております」

「そうね、ミクリーナにルードティリアも強いわよ」


「セージスタ殿が、ミクリーナ殿とルードティリア様を鍛えたというのはご存知ですか」

「知ってるわよ。あとリエッタもいるわね」


「ほかには?」


「知らないわよ」

「他にも、セージスタ殿の姉上やミクリーナ殿の姉上に、冒険者ギルドのギルド長に、ノルンバック家の何人もだそうです」


「そんなにいるんだ」

「わたしの確認していない方もいらっしゃるかもしれませんが、そこが問題ではありません。

 セージスタ殿は、そういった様々な方に信頼されております」


「なんでそんなことを知ってるのよ」


「ヒルデは情けなかったです」

「だから何でよ」


「今朝ノルンバック様より、連絡がございまして、ノルンバック家にお邪魔してまいりました。

 ええ、本当に情けありませんでした」

「……」

 全部知ってたんだ。


「セージスタ殿は、五才の時に。いいですか五才の時に、浮遊島のイーリスが落下してセイントアミュレットが破壊され、海魔獣が泳ぎ回る中、海に飛び込んでおぼれたミクリーナ殿を助けたそうです。

 いくらセージスタ殿が強くても、五才でそんなに強かったはずがありません。

 ルードティリア様の母上が難病だと知ると、魔獣が跋扈(ばっこ)するキュベレー山脈に分け入って、薬を探しに行かれるような方です。

 キフィアーナ様は、そのような方に見放されたのです。

 ヒルデは情けなさに、悶え死ぬかと思いました」


「……」


「セージスタ殿は大災厄を終結させるためにこれからも活躍されていくでしょう」

「どうしてわかるのですか」


「助けてくれる方がたくさんいらっしゃるからです。それすらわかりませんか?」

「いいえ……」

 返す言葉がありません。


「キフィアーナ様が陛下の前で宣言されたと伺い、ヒルデは胸が躍る思いで、ここまで付いてまいりました」


 ヒルデ先生のいいたいことはよくわかる。

 お爺様からも笑顔で、家臣になったつもりで良く仕えてまいれと言われてたっけ。まあ、家臣のようにってのが良くわからないけど。


「許してもらえるかわかりませんが、次回会った時におわびします」


「それがよろしいかと思います」


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