141. キフィアーナちゃん襲来
誤字訂正しました。
申し訳ありません。
年末にミリア姉とロビンちゃんにねだられ、七沢滝ダンジョンに潜って鍛えた。
その他のメンバーは、僕にミクちゃんにレイベさんだ。
リエッタさんはエルガさんの手伝いで新たな魔導砲の開発の手伝いだし、ルードちゃんにはミリア姉とロビンちゃんとは面識がほとんど無いからと断られた。
オルジ兄もレベルアップを願い、ホーホリー夫妻に連れられてモモガン森林での修行となった。
ミリア姉とロビンちゃんは無事、総合が“80”台に乗って喜んでいた。
まあ、弟妹に及ばないって不満はあったがそれでも喜んでいた。
あと、ニュートにはいまだに会えていない。
一回、キュベレー山脈に行って、プラーナに会ってみようか。
ブルン兄はやはり魔法の才能が乏しいのか、総合は“40”弱にまで上がったけど、魔法核と魔法回路は“4”と低めだ。
まあ、本人は満足していたけど。
年が明け、三〇六三年一月五日白曜日に時空電話で連絡があった。
まあ、僕たちが七沢滝ダンジョンに潜っているときにも、ミラーノ市からディスタンスフォンで連絡があったそうなんだが、今度はエルドリッジ市からだった。
そして一月八日青曜日、海上から近距離電話による連絡があったので、僕のノルンバック家族(パパ、ママ、僕)と、ミクちゃんのウインダムス家族(ミクちゃん、ウインダムス議員、マールさん、パパさんはお出かけで居ない)の六人でオーラン港に迎えに来ていた。
他には市長と副市長も来ていた。
少し前に大きな地震があって港は一時期騒然としたけど、いつものことだと直ぐに静まった。
到着したブリガンティン型の二本マストの小型帆船はどう見ても王族の御召し艦だ。
フォアマストの横帆に、メインマストには大きな縦帆が張られるタイプだ。
流麗なフォルムは高速船を思わせるし、小型の流水圧縮推進も、ヴェネチアン国の最新装置じゃないかと思えるものだ。
魔導砲四門に、魔導銛も二門装備している。隠し武器は他にもあるんだろう。
艦名“海の貴婦人”から降りてきたのはヴェネチアン国の皇太子の次女のキフィアーナちゃんだ。
「お出迎えありがとうございます」
よそ行きの淑女の挨拶なんかしたって、キフィアーナちゃんはキフィアーナちゃんだ。
まあ、そこに突っ込むほど子供じゃない。
市長や副市長とのおざなりの挨拶を交わすと今度は僕たちだ。
一月五日白曜日の連絡とは、キフィアーナちゃんが遊びに来るという連絡だった。
どうやらその連絡は市の方にも行われていたようだ。
パパやウインダムス議員はその話は知らなかったのかな?
「「ようこそいらっしゃいました」」
「セージ、ミクも久しぶりです」
市長が市役所へ誘う中。
「申し訳ございません。長旅で疲れておりますので、宿泊先に向かいたいと存じます。
また、単なる学習のために参りましたので。王族としてでなく、一学生として対応していただけるようお願いします」
シッカリとお断りをしていた。
宿泊先はオーラン市のほぼ中央、オケアノス神社に近い海の幸グランドホテルだそうだ。
なんでも迎賓館は断ったんだそうだ。
保護者代理のヒルデさんに、護衛が二人に、メイドが二人の計六人と、キフィアーナちゃんの側でよく見かける人たちとの滞在だ。
保護者代理はともかくも、メイドでも魔法力や魔素を感知できるのか、隙が無い。
そんなこんなでホテルでくつろぐかと、思っていたら、ソロボックス――セキュリティー付きのアイテムボックス用魔石――から魔導車を出して、僕の家に付いてきたんだ。
そんなら、市役所へ行けよ、って言ってやりたい。無駄だろうけど。
僕の家、というか僕の部屋でくつろいでいる。
相手は僕とミクちゃんだ。
「なんでこんな時期に、ここに来たの? 行きたいところでもあるの?」
「セージに会いに決まってるじゃない」
遊びに来るにしても冬季休暇の終わりと変な時期だ。
僕の問いかけに、あなたバカっていうような哀れんだ目で見られてしまった。
「なんでセージちゃんなんですか」
ミクちゃんも困惑しているのは当然だ。
「ミクは何でセージの側にいるのよ」
「そ、それは、えー、セージちゃんが、ス、ステキだからでしょうか」
ミクちゃんが、つっかえながら、そして真っ赤になりながら答えを絞り出す。
ぼ、僕もハズいんだけど。
「すごいのだったらはわかるけど、素敵ってねー…」
キフィアーナちゃんは、今度は、こりゃーダメだっていうあきれ顔だ。
ムッ! 素敵とまでは言わないけれど、僕だって。
「そんなことはどうだっていいんだけど(よくはないけど)、なんでここに来たのさ」
「チョットしたサプライズね」
結局意味分からんかった。
その後にキフィアーナちゃんは、オーラン市内を歩き回っていたようで、僕の家に来なかった。
いったい何をやってるんだろう?
ミリア姉にオルジ兄、それにロビンちゃんはマリオン上級魔法学校に戻っていった。
ミリア姉とロビンちゃんは二年生、オルジ兄は最上級生の四年生だ。
ちなみにブルン兄はマリオン支店で、本格導入されたホイポイ・マスターや新型魔導砲――電撃針魔導砲、灼熱針魔導砲の営業や納品で大忙しだ。
僕とミクちゃん、それにルードちゃんも製造には随分と貢献している。
ミクちゃんとルードちゃんにも【技能スキル】の“魔電加工”や“精密加工”が発現するほどだ。
パパが“海の貴婦人”はしばらく停泊することになった、と教えてくれた。
見学させてくれないかな。
◇ ◇ ◇
三〇六三年一月一三日赤曜日。
今日から四年生、そして今年が本来なら記憶を取り戻すとされた一〇才だ。
何かが変わるのだろうか?
Sクラスは正式なクラスとなりクラスメイトは三三人となった。
人数の減ったAクラスは、Bクラスから補填されたけど、数人Bクラスから飛んでSクラスとなって生徒もいた。
転生者かバルハライド生まれの高スキルが開花した生徒だろう。
転生者はある程度同じ都市に集中されているのかもしれない。そういえば魂の友人は近場に生まれるんだっけ。
まあ、そういう目で見るってことは危ない行為だから、意識しないようにはしている。
人数制限もあるので、新たな魂の友人を作るのは次元の裂け目を消滅させるときで構わない。
五年生と三年生にもSクラスができた。
それだけ転生者が目覚めたし、現地の高スキル持ちが能力を開花させたということだろう。
三年生の僕たちのSクラスの活動によって、課外活動の狩りは黒曜日に行われ、希望者によるものとなった。
レベル差があり過ぎて、僕やミクちゃん、ルードちゃんにライカちゃんにとってはララ草原の狩りが遊び程度の狩りにもならないことが判明したため、授業の一環として成立しないからだ。
そういうこともあって、高魔法スキルの先生が増えたりもした。
僕たち四年Sクラスにも補助のウランドルフ先生、白髪頭の年配の男性が配属となった。
五年生の筆頭はモラーナちゃんで、モモガン森林とボティス密林で狩りを経験しているから、別格扱いだ。
そして生徒会長となっている。
ライカちゃんが会計で、シエーサン君が書記となっている。
僕、ミクちゃん、ルードちゃんの生徒会の補佐役は相変わらずだ。
ちなみにクラス委員はライカちゃん、副委員はシエーサン君が兼務で、僕、ミクちゃん、ルードちゃんの三人は委員補佐という特別職だ。わけわからん。
記憶を取り戻してると思われる人たちもちらほらいるけど、オーラン市にはどれほどの転生者が、マリオン国には、アーノルド大陸には、バルハ大陸には果たしてどれほどの転生者がいるのだろうか。
周囲を観察していると、五年間の転生期間で、僕やミクちゃんは早い方だと思うんだけど。ことによったら五年間の中で一番早いのかもしれない。
そうなるとあと四年から五年も待たないといけないのかな?
なんだか、それ以前に大災厄がとんでもないことになりそうな気もしないでもないんだけど。
授業の変化はミリア姉やロビンちゃんから聞いている。
放課後に同好会や勉強会レベルの魔法学習の講座が、本格的な課外授業として開設された。参加資格は高スキルの生徒のみで、魔法核や回路のレベルが“2”以上とされる。上級魔法学校の講義内容を一部取り入れ、実戦レベルの攻撃魔法も学べるそうだ。
ライカちゃんなどの“総合”が“60”レベルでも、教育レベルの範疇外みたいだから、当然、僕にミクちゃんにルードちゃんは遥かその上なので、対象外だ。
それとは別に四年生からはダンスの課外授業も受けることが可能となる。
ダンスはオケアノス海諸国連合内でのコミュニケーションの一環だし、成績の加点にもなる。
もちろん発信元はヴェネチアン国だ。
僕はあまり乗り気じゃないけど……。
「ミクちゃんやる?」
「セージちゃんは?」
「やらないかな」
「えー、やろうよー」
「いいよ。ほかにやりたいことがあるし」
「エルガさんのお手伝い? それとも何か作るの?」
「まあ、そんなとこ」
とくにはないけど、そうしておかないとダンシングマシーンになりそうだよね。
それとも僕以上に踊れる人がいるのだろうか?
「じゃあ、私もやめようようかな。
セージちゃん、家でいいからたまには踊ってね」
「うん、いいよ」
ミクちゃん相手なら、なにも問題ない。
始業式が終わって、四年Sクラスで初めての、そしてやや遅いホームルームで、ラディン先生が、
「キ、キフィアーナちゃん!」
僕は立ち上がって指差し、思わず叫んでしまった。
そう、キフィアーナちゃんを連れて現れたんだ。
「セージ、失礼ね。それにミクもおはよう」
「オ・ハ・ヨ・ウじゃないでしょう。学校見学じゃないよネ!」
「あたりまえでしょう」
「ハイハイ、セージスタ君とキフィアーナ姫」
「あ、姫は止めてください」
「わかりました。キフィアーナさん。お静かに」
ということで、留学生のキフィアーナちゃんはクラスに紹介されて、僕とミクちゃんが面倒を見ることになって、二人の真ん中に座っている。
ヴェネチアン国の王族ということは内緒で、貴族ということだそうだ。
僕の家がヴェネチアン国の貴族出身ということもあって、知り合いということだ。
ミクちゃんとルードちゃんも、ヴェネチアン国に行った時の知り合いって間違いじゃないしね。
そのまま赤曜日の一時限目のクラス学習に突入する。
赤曜日の一時限目は全校一斉のクラス学習だ。
全て担任にまかされている。
今日はヴェネチアン国の説明だ。
「なんで、留学なんてしたのさ」
「セージに会いによ。決まってるじゃない」
僕が横を向いて小声で質問する。
すると、かなり大きな声、クラス中に聞こえる声を出されてしまった。
「キフィアーナちゃん!」
ミクちゃんが怒鳴った。
何度も会っているので最初のキフィアーナ様から、ちゃん付けになっている。
「修羅場か?」
「……」
一斉にクラスの視線がこっちに向く。
「魂の友じゃ……」「シッ!」
なんて迂闊なことを言ってるのは誰だよ。ホントにもう。
ミクちゃんがフリーズしている。
たはー。
キフィアーナちゃん、キミはなんてことを。
「私は強くなって冒険がしたいの。そして世界を救うのよ。だから強くなりに来たのよ」
前を向いて頭を抱える僕の耳元にささやいてきた。
「セージちゃんに何をやらせるつもりですか! 離れて!」
ミクちゃんが僕の横にテレポートしてきて、僕をギュッと抱きしめ、キフィアーナちゃんから引きはがす。
あわわわわ。
こ、こんなにミクちゃんと密着したことなんたなかった。思わず口から変な声が漏れてしまった。
僕は狼狽してしまうが、ミクちゃんはいつになくきつい視線でキフィアーナちゃんをにらむ。
「ミク、落ち着きなさい。
そんなに身構えなくても変なことはしません」
毅然とほほ笑むキフィアーナちゃんに、ミクちゃんも状況を認識したのか、真っ赤になってしまう。
それでも僕を抱きしめたままだ。
◇ ◇ ◇
昼休憩、食堂で、ここにはもちろん貴族席なんてものは無い。
食堂の四人席で、ルードちゃんを入れて――ルードちゃんはめんどくさがったが――食事を摂っている。
声が聞こえにくくなるように周囲にサイレントの魔法を掛けている。
「大災厄に立ち向かうために、私は強くなりたいと思って、セージのところに来たのです」
キフィアーナちゃんの答えが、僕に言ったのと同様の内容だった。
「キフィアーナちゃんは、そんなに頑張らなくても、国政に尽力すればいいんじゃないの」
「そんなのは、兄上に任せればいいんです。
わたしはいつかデビルズ大陸に渡って魔獣を倒しまくって大災厄を終わらせるのです」
「そうはいっても、それって難しいよ。一人じゃできないし」
「当たり前でしょう。だから仲間を作りに来たのですよ」
「それって誰? 僕じゃないよね」
「何を言ってるのですか、セージに決まってるでしょう」
そうだと思っていましたよ。またですか。ハアー。
ミクちゃんも困惑してます。
「でも、僕嫌だよ」
「どうしてですか」
「めんどくさいじゃないか。今までもそうだったし」
ここで弱いとは言わない。どうせ強くしなさいって返ってくるからね。
「そんなこと言わない。パーティーに入れなさいよ」
「そもそもパーティ―結成してないし、大災厄の終結を目指して頑張っているだけだから。
ね、ミクちゃんとルードちゃんもそうでしょう」
「私ももちろん大災厄を終結させようって努力してるけど、そんなセージちゃんは私が思うズーット前からたった一人で戦ってきたんだから。
そんなセージちゃんを素敵だと思うし、そんなセージちゃんを応援したいし、一緒に頑張っていけたらいいなと思って一生懸命に強くなろうと努力しています」
「ウチの動機は大災厄を終結させようってことじゃない。
いつかは家族そろってデビルズ大陸で暮らしたいとも思っていることだ。
それとは別に、セージには感謝している。だからセージが大災厄を終結させたいと思うなら、全力で応援するだけだ。
まあ、今じゃ、大災厄を終結させるのがデビルズ大陸で暮らす一番の近道だと思ってるからな」
「キフィアーナちゃんは、セージちゃんに何をしてあげるのですか」
「そうね……」
キフィアーナちゃんが、考え込む。
下を向いていた顔をガバッてあげて、
「セージ、お嫁さんになってあげるわ。うん、それなら文句ないでしょう」
「それはダメです!」
ミクちゃんが叫んだ。
周囲の注目を一斉に集める。まあ、それまでも注目と耳目を集めていたとは思うけど。
風魔法のサイレントの魔法でも、大声はそれなりに伝わるようだ。
「ミクちゃん」
ミクちゃんが慌てて、口を押える。
「ミクがセージを好きなのはわかってるから、二人でお嫁さんでいいわよ。何だったらルードとも一緒で、三人でお嫁さんでもいいわ。
それなら、セージだってお嫁さんのためだってことでできるでしょう」
「チョット待ってよ」
「待たないわよ。それでいいでしょ」
「よくない」
「そうです。セージちゃんの気持ちだってあるのですから」
「そうなの。男の人はみんなお嫁さんがいっぱいだと喜ぶって聞いたんだけど」
「ぼ、僕はう、嬉しく、嬉しくないから」
口が上手く動かない。一気に汗が吹きだした。
「いい案だと思ったんだけどな」
いやいやいや、ハーレムバンザイって、そりゃー、ゲームの中だけのことでしょう。あ、貴族は子孫繁栄でって発想か。
「ぼ、ぼくは、しょうらいおよめさんはひとりでいいとおもってるから」
相変わらずくちが上手く回らない。ブリキの木こりが雨でさび付いたみたいだ。
ミクちゃん、そんなに睨まないでよ。
別の汗も噴出した。
「ほら、セージだっていっぱいがいいんじゃない」
「セージそうなのか?」
キフィアーナちゃんだけでなく、ルードちゃんまで。
「イヤイヤイヤ」
首をブン、ブンと振る。
「は、はっきり言うけど、僕はミ、ミ、ミ……」
大きく深呼吸。
「ミクちゃんが好きです。だからミクちゃんには一緒にいてほしいと思っているけど、僕たちまだ九才(今年一〇才)だよね。
お嫁さんなんて考えられないよ」
口の中がカラカラだ。
ジュースをゴクゴクと飲み干しちゃった。
ミクちゃん赤くならないで、僕だってハズいんだから。
「そうだよな」
ルードちゃんが複雑な表情だ。まさかガッカリしたなんてことはないよね。いやいや、無いはずだ。
「えー、そうなの?
ズーディアイン兄上は結婚したのはついこの間だけど、婚約はともかくも、お見合いみたいなことはよくやっていたとうかがってるし、カレリーナ姉上もお見合いはしているよ。
わたしもそろそろあるんじゃないかって思っているから、それならよく知っているセージもいいんじゃないかって思っているんだけどな」
ほ、本気なのか⁉
王族の考え方が僕たち庶民とでは考え方にかなりの隔たりがあるみたいだ。それともキフィアーナちゃんがぶっ飛んでいるのか。
それにしたって、キフィアーナちゃんを第二婦人にしたら国際問題だ。イヤイヤ、想像もダメだ。
もう一回、ブンブンと首を振った。
はあ、大きく息を吐くと、気持ちは落ち着いた。
「キフィアーナちゃんってそんなので結婚を決めちゃうの」
「ズーディアイン兄上は幸せそうだから、結婚はいいかなっては思ってるけど、基準がわからないから、どうやって選ぶかはわからないのは確かね。
そうなると、やりたいことができそうな人を選ぶでしょう。
それにセージに体内を活性化してもらうと、気持ちいいんだよね。
そんなのとズーット一緒にいられるなんて、いいなーって思ったんだけどな」
結婚の動機はともかくもだけど。
あっけらかんと、どうやら本気みたいだ。
それに気持ちいいって何? 活性化は禁呪か?
「大災厄を終結させたいってホント?」
話題を変えた。結婚の話は避けたかったってのがあるからなのはもちろんだ。
「当たり前でしょう」
その後も話し合って、ヴェネチアン国王の許可がもらえたらいいよ、ってことにした。
王様が反対するって思ってたからね。
◇ ◇ ◇
一月一四日青曜日。
入学式で新入生を迎え入れて、オーラン魔法学校は新年度の授業が本格的に始まった。