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次元災害で異世界へ  作者: 真草康
キフィアーナ留学編
143/181

139. オーラン市は波高く


 一四月五日白曜日、オーラン市を目の前に大時化(おおしけ)だった。

 風がうなり、波が荒れ、時たま雷も発生して最悪だった。

 急いでオーラン市に帰りたいからと、少々小型の商用船に乗ったものも悪かったのかもしれない。良く揺れる。

 オ、オエー、ウゥップ。

 僕とミクちゃんと、それとマールさんが完全にグロッキーだった。

 空き部屋がなかったので、一緒の部屋だ。

 船用の括りつけの二段ベッドに、簡易ベッドが二台持ち込まれているのが僕たちの部屋だ。


 僕とミクちゃんが壁の括りつけベッドだったけど、現在僕は簡易ベッドの上だ。

 その時化も収まってきたようだ。


 ママは何故に平気?

 さすが、テロによる政変で海に逃げ出し、海上でしばらく生活していただけあるってことか。

 オエープッ、気持ち悪。


「魔獣だー!」

「戦闘体制ー! 魔導砲ヨーイ!」

 海の荒れが一気に激しくなった。

 いや魔獣が荒らしてるのか。


「ミクちゃん、大丈…ウップ…ぶ、夫、だよねー…」

「ダーイ……ジョウブだと…思うよ」

「そう…だよね」


 ドーン、ドドーン、と砲撃が船内に響く。

「シッカリ狙えー」

「船を守れー」


 ドーン、と今度は船が振動した。この振動は船が攻撃を受けた振動だ。

 ドドーン、またもだ。


「ミクちゃん、行ってくるよ」

「ダメ……よ」


 答える気が無いので、フラフラとそのまま部屋を出ようとした、

「ダメよ、寝てなさい」

「そんなこと…オップ…言ってられないでしょう」

「ダメです、寝てなさい」


 致し方ない。

<テ…テレポート>


 場所はズレたけど、うまく飛べた。

<フライ>

 うん、これはいい。揺れないもの。

 それにしても風が強い。波がうねる。

 雨は少なめか。


 おわー、風で飛ばされた。

<テレポート>

 あー、驚いた。


 ドーン、あっぶねーな。


 テンタクルズ、強さは“185”以上? って、なんでこんな強い魔獣がこんなところにいるんだ。大災厄の影響か⁉

 そう、オケアノス海(湾)は神の加護により強力な魔獣がいないとされる海なんだけど。

 まあ、神の加護自体証明されたわけじゃないけど、オケアノス海は強力な魔獣が少ない海とされている。


 船は、すでにテンタクルズに巻きつかれてるじゃないか。

 とにかくデカイ。

 ダメージ“0”か。


 赤銀輝を手にする。防具を身にまとう時間はなさそうだ。

 風に抗うために再度の<フライ>で気合を入れる。


 オリャーッ、まずは一本……ぐにゃー…。

 アワーッ。退避ー。僕ってバカ。


<身体強化><フィフススフィア>

 もう一度。

 ギュニュッ。

 今日はホントにダメダメだ。

 赤銀輝に張り付いた粘着液を、魔法力を流し噛んで振り払う。


 (タコ)、頭()類に分類され、一般には()と称されるが学術書では()触腕(・・))となっている矛盾。

 だから足だ手だと論争になる。

 バルハライドでも論争になってるのかな?

 何故に今ウンチク? いや絶好調か⁉

 あ、そうだ、タコって心臓が三つに、脳が九つもあるんだ。

 もちろんメインの心臓と脳があるけど、まあ、心臓は置いておいて、残りの八つの脳は八つの触腕の付け根にあって、触腕の一本ずつが完全に独立して動く。要注意だ。

 弱点は目と目の間にあるメインの脳。

 内臓は一般に頭と言われている外套膜(がいとうまく)、袋の中だ。


 ドン。

 船への触腕による攻撃。


 オッといけない。

 戦闘に集中。でも、ここでも地球のタコと一緒って考えていいものか。

 ダメだダメ、戦闘に集中、集中だ。


 魔力眼で確認。

 身にまとう粘着液で防護したテンタクルズの触腕が甲板に巻き付いている。

<ソーラーレイ>

 その触腕の一部分の粘着液を蒸発させる。


 今度こそ、スパッ。

<ソーラーレイ>

 もう一度。ズバッ。

 なんて太さだ。


<ハイパーボルテックス>

 これで触腕は動かないか。

 吸盤で張り付いてるからアイテムボックスに放り込めない。


 怒り狂うテンタクルズ。

<ソーラーレイ>

 目を狙うも、UVカットか、眼球に直撃したけど、特殊な構造なのか、乱反射してソーラーレイが拡散してしまう。ほとんどダメージが無い。


 ならば、こっちだ。

 振り上がった腕? 足? を<ソーラーレイ>でもって、ズバッ、と切り払い、<ハイパーボルテックス>でアイテムボックスに。

 加速の成せる業だ。

 半分から切ったけど、どのくらい食べられる? 何人前だろうか? 

 タコは高いし、干物にすればうまみも増すし。ウヒヒ…。

 オッといけない。

 赤銀輝にまとわりついた粘着液を振り払う。僕の粘着液より強力そうだ。


 魔導砲の一本の土台が破壊され転がる。

 射手が飛ばされる。

 イッケー。

 フライに魔法力マシマシに込めて高速飛行。


 海上で射手の腕をつかんで、甲板に放り投げ込む。

 手がベトベトだ。

<ホーリークリーン>


 止めを刺す前にもう二、三本触腕を切っておきたい。

 それじゃなきゃ、危なくて止めを刺せない。

 切った後でもうねうねと動くタコやイカの足。

 特にサブの脳によって動かされるタコの足は、メインの脳が死んだ後も厄介だし、筋肉の塊で脳がなくてもうねうねと動くしね。


 あちゃー、黒い墨を甲板にぶちまけられた。

 目隠しだけでなく複雑な毒も含まれている。

 魔導砲にテンタクルズの粘着弾・粘着液が付着して使用不能だ。


「セージちゃん」

「顔色が悪いけど大丈夫?」

「そんな……こと言ってられないでしょう」

 ミクちゃんが飛んできた。


「あぶない! 魔法力を強めに込めてね」

 ミクちゃんが風で吹き飛ばされそうだったので、腕をつかんだ。

「ありがとう。わかった」

 ミクちゃんの体内魔法力が一気に活性化する。そうすると顔色も幾分赤みが差す。


「ミクちゃんは甲板の人を助けてね」

 さすがにミクちゃんじゃ無理だ。

「また無茶をするんでしょ」

「そうかもしれない」

 だって僕しか対処不能だもの。


「頑張ってね」

「毒墨と粘着弾が飛んで来るから気を付けてね」

「わかった。それと無理をしないでね」

 ミクちゃんの唇が、チュッ、とほほに触れた。

 やるぞー!


 とにかく触腕だ。少なくともあと二本切り飛ばせば、止めを刺せそうだ。


 やばい。

<ソーラーレイ>

 ズバッ。

 触腕にからめとられた船員(戦闘員)を助け出す。

 切った触腕は先の方だけ。元の方はまだうごめいている。


 今度はテンタクルズの魔法で大波が発生。

 船から落とされる戦闘員を一人助ける。

 ミクちゃんは二人も助けていた。


<ソーラーレイ>

 外套膜(がいとうまく)に一撃を入れる。

 操舵。ターゲットは僕だよ。


<ステップ>

 振り回される三本の触腕。

<ステップ>…<ステップ>

 フライとの合わせ技で、避けていく。

<ソーラーレイ>

 ズバッ。

 さすがに鞭のように早くはない。狙い定めて、まずは一本を短くした。

 触腕は、海に落ちるが仕方ない。


 一本減ると脅威が落ちる。

<ソーラーレイ>、ズバッ。

 もう一本。


 これで完全に切り払った触腕一本で、三本は半分の長さになった。

 船に絡みついてる二本を除くと、あとは二本だ。


 やってみるか。

<ソーラーレイ><ソーラーレイ>

 二本を一点に集中。目と目の中心点に……。


 ビシャッ。

 ……オワーッ。

<テレポート>

 上空に退避。

 風が強い。フライもマシマシで強化する。

 それにしても、な、なんと、溶解液まで飛ばしてきた。

 スフィアシールドが半分以上破壊された。


 あ、またも溶解液。しかもミクちゃんに向けているような。

 させるかー!

 最大加速。

<スフィアシールド>マシマシ。

 フライに落下の加速度を加え。真上から突貫だ。


 ミクちゃんも気付いたけど、遅い。

 そしてテンタクルズが僕に気付いた。

 溶解液を真上に向けたその瞬間、僕は溶解液に突っ込み、そのまま、テンタクルズの目と目の間に赤銀輝を突き立て、体内の魔法力をこれでもかと上げる。

 フィフススフィアに、赤銀輝にも魔法力を流し込む。

 そして白い力もだ。


 赤銀輝から電撃がバチバチと発生し、テンタクルズの体内から焼く。

 

『#”GYOA=|A*¥』

 悲鳴のような怒りのような、ごちゃまぜの意識が伝わってきた。

 “思念同調”?


 一瞬の気のゆるみ。

 テンタクルズにからめとられた? 抱きしめられた。

 ミシミシ、バキバキッと四枚のシールドが破られた。

 更に魔法力を高める。

 最後の一枚のシールドに流し込めるだけの魔法力を流し込む。


 ザッパーン。

 テンタクルズが僕ごと海に沈む。

 キャー……、ミクちゃんの悲鳴が聞こえたような…。

 負けるか!


 赤銀輝に更に魔法力を流し込む。

 一瞬のゆるみか、テンタクルズの締め付けが緩んだ。

<テレポート>

 ミクちゃんの場所、シッカリとつながった感覚に、助かった。


「キャー……セ、セージちゃん…。早くこっち、じゃなくって…<テレポート>」

 飛んだ先は揺れる船の中。食堂だ。

 まあ、こんな時にものを食べてるバカはいない。

 テンタクルズがいなくなった所為か、揺れはかなり収まったようだ。


「どうしたの」

 ミクちゃんが、真っ赤になって自分の顔を両手で隠している。

「ふ、服、ハダカ……」


「え、えーー……」

 す、素っ裸だった。

 さすが溶解液。…って、アワワワ……。


 じたばたするが、混乱するばかりだ。


「セージちゃん!」

「はい」

「落ち着いて」

「…はい」


「大丈夫?」

「はい」


 ミクちゃんが回れ右をして背を向ける。


 僕は<ホーリークリーン>をして、アイテムボックスから下着から服に靴と一式を取り出し、慌てて着る。

 細かく確認はしてないけど、白い力の所為か、体は大丈夫そうだ。

 体が真っ赤になって火照るのは別にしてだけど。もちろん火傷や、溶解液の所為でもない。

 何度かスーハースーハーと深呼吸をしたら。やっと落ち着いた。

 ちなみにヒッヒッフーが頭をよぎったのは、ミクちゃんには絶対に内緒だ。


「ありがとう。もう服を着たよ」

「うん」

 ミクちゃんがこっちを向くと、一瞬で体が熱くなった。

 ミクちゃんも真っ赤だ。


「…セージちゃん」

「なに?」

「私、以前、看護師だったから、見慣れているかし……以前、ミラーノ市でセージちゃんが切られた時にも見ちゃったし…」

「うん、そうだよね」

 何にも慰めになってないよ。それに、そりゃーそうか…。

 ファントムスフォーのファンティアスに毒の剣で刺された時に看病してくれたのはミクちゃんだったもんね…。


「へ、変なもの見せちゃってごめんね」

「ううん、そんなことないよ。可愛かったよ」


 ガーン。


「あ、そんな意味じゃないから。子供ので可愛らしいって、…いえ、だからそうじゃないから…」


 もう、えぐらないで。


  ◇ ◇ ◇


 部屋に戻ると、ママが僕を上から陣にしたまで眺めて。

「お風呂にでも入ってきたのかしら」

「えー、海に落ちちゃって…」

 嘘じゃないもんね。

「ミクちゃんは大丈夫そうなのに。

 そうですか」


「ルージュさん、セージ君が頑張ったという証拠ですよ」

「そうだと思うんですけどね」

 肩を落とすルージュ(ママ)に、マールさんが慰めるが、ママは更にハァーと大きなため息をついた。


「それにしても、船酔いはもういいの?」

 青白い顔をマールさんに言われて初めて気づいた。

 何ともなかった。

「セージちゃん…」

「そうみたい」

 それはミクちゃんも一緒のようだ。


 その時にコンコンとドアをノックする音がした。


 僕が、ハイ、と答えてドアを開けると、船長さんがいた。


「今回は助かりました。お子さんたちは本当に英雄クラスの大活躍でした」

 から始まっての、お礼。


「まさかテンタクルズと、一対一で……」

 この辺からママの顔色が悪くなった。


「テンタクルズにからめとられて、海に落ちた時には、まあ、これはと思った次第で…」

 船長! ママの顔色見てよ。

「まあ、話はそこまでで」

 マールさんが追い出しました。


 あーあ、ママが今度はベッドに倒れ込んじゃったよ。ごめんなさい。


 そして、船長もただじゃ、出ていかなかった。

 ドアから顔をのぞかせて、

「坊ちゃん」

「え、なに?」

「坊ちゃんも海の男。テンタクルズも立派だったぞ」


 そんなことはいいから、止めて! 親指立てなくていいから! あっちに行って! 帰れ!


 ミクちゃんが、ポンと音でも出たかと思うほど、一瞬で真っ赤になった。


 ちっちゃなテンタクルズ? どんなんだい?

 僕も真っ赤だよ。


「何かやらかしたのですか」

「た、たいしたことじゃ……」

「うん、お母さん、何でもない」

 不思議そうなマールさんの問いかけに、慌てる僕とミクちゃんだった。


  ◇ ◇ ◇


 一四月六日黒曜日の早朝、予定より半日弱遅れてオーラン市の港に入っていく。

 夜間に港に付けるのは危険というのもあって、深夜に港の外で待ってからの入港となった。

 そしていまだに波が高い。


 フォアマストとマインマストはまだ大丈夫だけど帆はずいぶんとボロボロだ。

 もっとひどいのがミズンマストで、完全に折れている。

 甲板や手摺りもあちらこちらが壊れ傷ついている。


 港の中には随分と木片などのゴミがかなり浮いている。

 オーラン市でも嵐が吹き荒れたようだ。


「ミクちゃん行くよ」

「うん、了解」


 セイントアミュレットのブイやネットが壊れていて、イクチオドンが暴れ回っていた。

 いや、首長竜タイプのグリーダーも見受けられる。

 警備艇が出て対応しているけど、手が回らないみたいだ。


「<フライ>」「<フライ>」


 手にも随分と馴染んだ赤銀輝で、海から頭を出したイクチオドンを切り裂く。

 続いて、こちらに向けて強烈な放水を放ってくるグリーダーの首を切り飛ばす。


 ミクちゃんはショートスピアで、イクチオドンを突き刺していく。


 僕とミクちゃんで半数は倒しただろうか、レーダーで見てもほぼ討伐完了だ。

 残っているのは水深の深い場所にいる魔獣だけだ。


 警備艇に降りて、警備員にそれらを伝え、僕とミクちゃんは船に戻った。


 マールさんと一緒にママも見ていたようだが、何も言わない。そして微妙な表情だ。


 そんなこんなで、帰宅した。


 ちなみにテンタクルズは倒したみたいだ。

 朝、個人情報でいくつかのスキルが上がっていたから。


 コルさんの黒霧獣を討伐したこともあって、総合が“185”にまでなった。

 これでファントムスフォーに逢っても負けることはないだろう。

 それよりも夢は冒険! デビルズ大陸に行ってみたいよね。


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