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次元災害で異世界へ  作者: 真草康
王都ミラーノの結婚式編
142/181

138. コルコラーナ・スルスフィーガ


 カルンドス(カル)君の治療が一旦落ち着いて、病院から移動になった。

 表向きはリハビリーということで、ロト国がというよりミラーニアン公爵が用意した一般住宅だ。

 場所はミラーノ市の東側の端の方で、周囲の家とそれなりの距離があるとはいえ、ミラーノ市の城壁内だ。

 それほど離れてるわけじゃない。


 細胞の復活というか修復は何とか終わった程度だ。

 内臓の働きも悪いし、筋力が落ちて歩けるかどうかってところだし、それ以上に血液は少なく、増血はまだまだこれからだ。

 魔法力だけでなく魔法核に魔法回路も“2”程度まで落ちてしまている。

 魔法属性数も減ったかもしれない。

 魔法陣に関しては再度覚え直しだと思う。

 本来なら退院ってレベルじゃないけど、致し方ない。


 コルコラーナ(コル)さんに伝えてあるのは、まずは食事を摂って血液を増やすこと。

 それと歩行練習による筋力の低下の防止、できれば自力歩行だ

 まあ、嘘はついていない。


 ロト国の治癒魔法士に、家事全般を行ってくれるのお手伝いさん的な人が二人付いているから、コルさんが疑っているそぶりはない。

 そうじゃなければ、だれが見たって怪しい退院だ。


「体力がある程度付けば、国に帰ります」

 コルさんにはそうとも伝えてあるから、なおさらだ。


  ◇ ◇ ◇


 始業式の翌日の一三月一〇日緑曜日。

「コルさん、こんにちは」

「コルコラーナさん、こんにちは、カルンドスさんはお元気ですか」

「こんにちは、来てくれたんですか、ありがとうございます」

 僕とミクちゃんは、学院帰りにコルさんとカル君を訪ねてみた。

 まあ、予定より留学が長くなっているのは、カル君が気になったからだ。


 何かあったら対処するつもりでいる。

 さすがに近衛兵だって霧の塊りのような精神魔獣、黒霧獣が相手だと戦い方に困るだろう。

 僕も、白い力のことや、妖精のニュートやプラーナのことは内緒にしているしね。


 何より黒霧獣に憑依されて助かる可能性があるなら確認したいってのが本当のところだ。


 ちなみに学院帰りとは、ヴェネチアン高等魔法学院に魔法練習のお付き合い、生徒会長のグルトさんに誘われて行ってきただけだ。


 オーラン市に帰っていったパパやウインダムス議員にミクちゃんのパパさんからは、無理せずに、との言葉ももらった。

 ちなみにホテル住まいで、ママと一緒なので、ミクちゃんとマールさんの四人暮らしだ。もちろん部屋は違うけどね。


 今日は機会を見て本格的に『空間認識』と『看破』に『鑑定』、それに『魔力眼』に『魔素感知』、いつもの『レーダー』でよく見てみるつもりだ。

 ミクちゃんも『鑑定』『看破』『索敵』『魔力眼』『魔素感知』『健康判断』『感覚強化』を使って確認してみるって言ってた。

 僕よりすごいんじゃないかな。

 あとは勘のような『思念同調』だけだけど、これだと確信が持てないんだけどね。


 あと、オケアノス神社に行って女神様にお願いしてみたんだけどニュートは来てくれなかった。

 なんとなく“今はダメ”というような感覚がしたかから、忙しいんだろう。…ホントかな。


「カル君、お見舞いに来てくれたわよ」

「「こんにちは」」

「……」

 ベッドで寝ているカル君と会ったけど、以前のようににらみつけられることもない。

 それ以上に無気力を感じる。

 なんとなく投げやりな感じだ。


 しばらく何の変哲もない、天気の話題に、ホットなズーディアイン殿下とマキリューヌ様が結婚式のことを会話した。

 その間、カル君は一言も話しをしなかった。


「チョット、私が診察しても構わないですか」

「……」

「ええ、カル君いいよね」

「……」

 ほぼ無反応のカル君の毛布をコルさんが、勝手にはがす。

 完全な無抵抗だ。

 意識もあるし、動けるはずだと思うんだけど。


「じゃあ、見ますね」

 ミクちゃんが以前の看護師スキル――そんなものは無いが――を発動して、優しく脈拍を測る。

 分針しか無い時計でどうやって計るのかは不明だけど、…って思って見てたら、砂時計を取り出す。

 どこで買ったんだ?


 脈拍を取り終え、スキルでカル君の診察をしだす。

 コルさんも、ミクちゃんの動作を真剣に眺めている。


 さて、頑張るか。

 スキル全開。

 もちろん『情報操作』に『認識阻害』で、気づかれにくくすることも忘れない。

 なんか覗きやストーカーにでもなた気分、最悪だ。

 とはいえ、慎重に観察する。

 どうも、モヤッとしてわからないけど、なんとなく体の中心に変なものを感じる…ような気がする。

 よくわからん。


 ミクちゃんの診察が終わったからここまでか。


「カル君元気でね。また来るね」

「また来ますね」

「はい、待ってます」


  ◇ ◇ ◇


 ミラーニアン公爵邸に戻って、ミラーニアン公爵にママにマールさんへの報告だ。


「どうじゃった」

「よくわからない。ほんのチョットだけ変な感じ、違和感がするけど、黒霧獣って感じでもないし、話しても普通だったよ。

 ミクちゃんは」

「私はセージちゃんほどシッカリ観察したわけじゃありませんが、普通だったと思います。

 ただ、セージちゃんが何かを感じたのなら、何かがあるんだと思います」

「セージは、その感じたものは何かがわからないのよね」

「どうやったら、それがわかりますか」


「えー……」

 やる方法は一つだけあるけど、それをやっていいものか。

「あのー、もっと広い場所にコルさんを連れ出せませんかね」


「闘技場に中でもなければ無理じゃな」


 それからが大ごとになってしまった。


「セージにミクちゃん、絶対に無理はダメですよ。いいですね」

 ママからの忠告もいただいた。

 心配性なのは相変わらずだ。


  ◇ ◇ ◇


 ミラーノ初等魔法学校にも通い慣れたような気がする。

 いいのかこれで、と思わないこともないけど致し方ない。


 一緒にいる時間が長くなると、なんとなくだが、一人、二人ほど、転生者じゃないかって人を見つける。

 もちろん話しかけないし、向こうに気付かれないようにもしてるけどね。

 それでも熱い視線を感じるんだけどね。

 すでに何人に人が目覚めたんだろう。


 ミクちゃんとは、なんで魂魄管理者(女神様)が転生者同士での話ができる人を三人って制限を設けたか、何回も話してみたけど、その答えは出ていない。当たり前だ。

 ただ、これがと思う答えがいくつか出ている。


 ―― 転生者だけで固まり過ぎるんじゃなくって、世界になじみなさい。記憶が一〇才で戻るのも、スキルを隠せるようになるだけじゃなく、その所為もあるんじゃないか。


 ―― 消された記憶が蘇らなくとも、勉強方法や知識の相乗効果で、日本の知識をよみがえらせてしまう可能性もあるんじゃないか。まあ、可能性としては低いけど。


 ―― 知識に絡むことだけど、科学知識を高めたくない、何らかの作用(思いつくのは魔法だけど)が有るんじゃないか。


 ―― 大災厄を終了させるためには、少数精鋭となる必要がある。黒霧獣を倒したことで出てきた答えだ。


 と、こんなところだ。

 そのうちに、まだ思いつくかもしれないし、二五〇〇人もの転生者の意味合いもわからない。

 少数精鋭でただ一人とは言わないけど、数パティーで大災厄を終了させるなんてのは思いたくもない。


 ただ、目覚めている人がいることは確かだ。


 少し前にミラーニアン公爵に聞いたことよると、ヴェネチアン高等魔法学院やミラーノ初等魔法学校などの魔法教育に更なる力を入れていくことになるだろう、だって。

 才能のある生徒には、特別な援助も行うそうだ。

 知らなかったけど、なんでも、神のお告げで、魔法教育の強化と支援をするようにとのことが告げられたんだって。

 そうすると数パーティーで大災厄を終了させるって線は、少ないような気がするか……。

 ホッとだな。


 ちなみに黒霧獣に対抗する武器はあるんだそうだ。

 神霊波動砲という光の魔宝石を直列に幾つもつなげて、浄化光を放射する武器だそうだ。

 何とも中二をくすぐる……ゲフンゲフン…いやなんでもない。

「見せては……」

「ダメだ」

 ミラーニアン公爵に懇願したら、速攻でダメ出しを食らった。

 ミクちゃん笑わないでよ。

 ただし、ヴェネチアン国でも数門しかないそうで、撃てる人も総合やスキルでってことで限られてるんだって。


  ◇ ◇ ◇


 一三月一四日青曜日、またもカル君とコルさんを訪ねた。

 ミラーニアン公爵から準備ができたって連絡がきたからだ。


 ニュートは、もしくはプラーナはと思って、ここに来る前にオケアノス神社にミクちゃんと一緒に詣でたけど、“自分を信じなさい”というような言葉が頭に浮かんだ。気のせいかもしれないけど。

「ミクちゃん、何か聞こえた?」

「ううん」

 気のせいか? ま、頑張ろう。


「「こんにちは」」

「いらっしゃい」

 コルさんが笑顔で迎え入れてくれた。


「お土産です」

 ミクちゃんがお菓子を渡す。

「ありがとう、カル君は今眠っているの」

「ああ、ちょうど……」

「セージちゃん!」

「あ、ごめん」

「どうしたの?」


「えー」

「本日はコルコラーナさんにお話があって伺いました。

 よろしいでしょうか」

「はー、はい」


 お手伝いさんがお茶を淹れてくれた。多分話を聞いているんだろう。

 部屋からそそくさと出ていった。ことによったら避難するんじゃないかな。


「それでお話とは何ですか」

 僕がお願いの視線を送ると、ミクちゃんに一瞬睨まれちゃった。

「単刀直入に伺います」

「はい」

「コルコラーナさんにも、カルンドスさんに憑依していたものが憑依しているんじゃないかって疑われています」

「そ、そうですか」

 ズバッと切り込んだミクちゃんに、コルさんがたいそう驚いていた。


「はい、それを確認させていただきたいんです」

「…どのように、でしょうか」

 コルさんの視線が探るような視線になる。

「セージちゃんの魔法です。セージちゃんは神の御子で、負の魔素や魔法力を浄化させる力があります。

 その力をコルコラーナさんに当てたいのです」

「危険は……」

「弱い魔法なので危険はありません。私も受けたことがありますから保証します。ただしコルコラーナさんの体内に……ですね」


 コルコラーナさんがしばし考え、顔を上げる。

「そうですか。わかりました。

 セージスタ君、どうぞお願いします」


「はい、眼はつぶっていてください」

 はい、とコルさんが目をつぶる。

 ミクちゃんも少し離れる。


「行きます、…<ホーリーフラッシュ>」

 僕はさまざまなスキルを最大限に引き上げてから、白い力を込めたホーリーフラッシュをコルさんに向けて放つ。


 飛んだ。そう、コルさんが部屋の中に無反動で急速に浮いたんだ。

「ミクちゃん」

「セージちゃん」


<フィフススフィア><身体強化>

 阿吽の呼吸で戦闘態勢を整える。すべてのスキルは起動済みだ。


<ホーリーフラッシュ>

 今度は手加減無しだ。


 ギャーッ、とコルさんから悲鳴が上がる。


 シッカリと見えた。ほんの小さな欠片、それでも黒霧獣がコルさんの中にいた。

 カル君のモノよりかなり小さいものだ。

 その黒霧獣が心臓に張り付き、体内に糸のような触手を伸ばしている。

 全部消せるのか? いや消すしかない。


 その一瞬の迷いで、コルさんが窓を打ち破って外に飛び出した。

<フライ>『浮遊眼』

 すかさず追いかける。逃がすものか。どこに行ったって見えてるんだから。

 そしてミクちゃんが僕の後を追う。


「そこまでだよ」

「ウルサイ」

 未無機質な声が聞こえてきた。


 周囲は防護結界とセイントアミュレットで囲まれている。

 神霊波動砲まで持ち出してきてるんだけど、それをぶちかましたら、コルさんは蒸発しちゃうんじゃないかな。

 その前に決着をつける。


「見てわかるでしょう、逃げられないんだから」

「ウルサイ、ジャマヲスルナ」


 僕が追いかけ、コルさんが逃げる。

 上下左右前後と空中の追いかけっこが、ミクちゃんの投げたワイヤーネットが追いかけっこに終止符を打つ。

 ゴーレムを捕縛した時より、ワイヤーは細くしなやかにしてある。

 逃げられやしない。


 魔法力を込め始めた時に、気が抜けたミクちゃんに、ワイヤーネットごとコルさんが飛び掛かった。

 しまった。

 僕も慌ててコルさんに飛び掛かる。

 コルさんからは黒いヒモが伸びている。

 させるかー!

<ホーリーフラッシュ>

 最大限の白い力を込めて魔法を放つ。

 ギョワーッ。

 悲鳴を上げ悶えるコルさん。

 ワイヤーネットごとコルさんを抱きしめ、

<ホーリーフラッシュ>

 今度はコルさんの体の中に浸透させる。

<ホーリーフラッシュ>

 もう一度。

 コルさんがぐったりした。


「コル……」

 カル君が玄関に立って、僕の腕の中の頃さんを見ていた。


  ◇ ◇ ◇


 肉体的な損傷が軽かったコルさんは、翌日の夕方には目が覚めた。


 二人は治療しながらポツリ、ポツリと話してくれた。

 ただし、記憶があいまいなところがあり、いい加減なところもあるが、それを補填するとこんなことだったようだ。


 ロト国のダンジョンないの片隅に、黒い霧の塊りのようなおぞましいものに遭遇した。

 ホーリークリーンで消せるような小さな黒いシミのようなものだったので、綺麗に消せたはずだった。

 それが夢の中に出てきたんだそうだ。

 それから魔法があっという間に上手くなったが、自分が凶暴になっていったんだそうだ。

 戦闘中の高揚感は最高だったっんだって。


 コルさんは湧き上がる凶暴な感情のそれとズーット戦っていたそうなんだ。

 そして助けを求めようとすると、意識が混濁して、上手くいかなかったんだって。


 多分、体内の黒霧獣が育ちきると魔獣スカポランダーのようになるんじゃないかな。


 僕とミクちゃんは、二人のことを教訓にして、気を引き締めた。


  ◇ ◇ ◇


 一三月二一日黄曜日に僕とミクちゃんの留学は終わった。

 盛大なダンスパーティーで送り出してくれた。

 みんなが、ただ単にダンスをしたかっただけじゃないかって程だ。

 最後だからってピゾリーノ先生にも踊ってもらった。いやー、ナイスバディで幸せだったんだけど…。

「顔がデレデレ!」

 ミクちゃんに肘鉄をくらいました。ご、ごめん。


 ちなみに今回もキフィアーナちゃんに騒がれた。

 何をかというと、

「私がセージのパーティーに加わってあげるわ」

 パーティーは組んでいません。(心の声)

「私をもっと強くしなさい」

 理由がわかりません。(心の声)

「こう見えても才能はすごいんだから」

 ああそうですか。(心の声)

 仕方がないので帰還の数日前、一八日の黒曜日に、一度だけ狩りに付き合ってしまったけどね。

 その時にも当然のように魔法力の活性化に魔力眼と魔素感知の付与を、強請(ねだ)られ、もとい、強請(ゆす)られてだ。

 まあ、それなりに狩れたからいいでしょう。

 付き合ってくれたミクちゃんありがとう。ミクちゃんも気を使って疲れた顔をしてたしね。


 翌二二日緑曜日、ママの強い要望で、マールさんといっしょに、エルドリッジ市、そしてオーラン市に向かって帰路に着いた。


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