134. ミラーノ初等魔法学校またもや留学
僕とミクちゃんはカフナさんと一緒にモモガン森林で狩りをして、カフナさんのレベルアップを行った。
チョット小雨が降っていたけど時間がなかったから強行した。
以前よりレイベさんをうらやんでいたのもあってたいそう喜んだ。
総合が“61”となったけど、それでも総合が“100”弱あるレイベさんとの差は大きいんだけどね。
一二月一日赤曜日。
そのカフナさんを護衛に、ミクちゃんのママさんのマールさんの付き添いで、船でエルドリッジ市に向かった。
パパとママは結婚式には間に合うように来るそうだ。
ウインダムス議員とミクちゃんのパパさんも同様なんだそうだ。
出発前にはホルン先輩が「絶対に合格してくるから」と、マリオン上級魔法学校の受験の決意を聞いた。
それとライカちゃんと姉のモラーナちゃんとも、「気遣ってくれてありがとう。元気で行ってらっしゃい」などとの感謝もあったが、気楽に「行ってきます」の挨拶も交わした。
モラーナちゃんとは生徒会室で会ってはいたけど、リラックスして会話をしたのも久しぶりだった。
◇ ◇ ◇
一二月四日緑曜日にエルドリッジ市に到着。
マールさんはシッカリと税金を払ったが、僕とミクちゃんは王家の紋章入りの“信義の短剣”を見せ、無税で入国した。チョット驚かれたけど、個人情報との比較に、魔法力を登録してある信義の短剣は間違えようがない。
シュナイゲール・ノルン・フォアノルン伯爵様&伯父様に挨拶して一泊する。
パパやママがいないからこんなものだ。
エルガはいないのか、とガッカリされたけど、伯父様も僕たちがきた理由は理解しているから歓待してくれた。
時空電話で、エルガさんにも来てほしいことを連絡入れた。
まあ、来る確率は二割ってところじゃないかな。
もっと、伯父様に会いにこようよ。
そして五日白曜日に大河、ヴェネット河をさかのぼってミラーノ市へ向かう。
今回は従兄弟のロナーさん夫妻がエルドリッジ市に残って、伯父様がズーディアイン皇子の結婚式に出席するそうだ。
◇ ◇ ◇
途中大きめの地震と、雨に降られ雷も発生もしたが七日赤曜日に王都ミラーノに到着した。
そしてその足で王城を訪れた。
招待状にそう書かれているからそうしたまでだけど。
そしてその日は迎賓館に泊った。
ここに泊るのも慣れているし、見知った近衛兵もいて、ある意味気楽なものだ。
王様たちに会ったのは翌日の昼食だ。
ヴェネチアン王にマリアンナ王妃、ジルバトゥーン皇太子殿下にプラティーナ皇太子妃殿下、そして今回の主役のズーディアイン皇子だ。
その下にはザーホッサン皇子、ヴェネチアン高等魔法学院に通うカレリーナ姫殿下、そして同い年でミラーノ初等魔法学校に通うキフィアーナ姫殿下だ。
ミラーニアン公爵にケアルガーナ公爵夫人と豪勢なメンバーだけど、こちらも慣れた。
ミクちゃんとマールさんは緊張してるけど、仕方がないよね。
贈ったポチットムービーの評判は上々だそうだ。
それと、夏休み前から“神の御子”となると思われる急に魔法が成長した生徒が何人も出現しているんだって。
その中に記憶をとし戻した元地球人が、そして日本人が何人いるんだろうか。
「ところで何で三週間も前に来ないといけなかったんですか」
「キフィアーナがな、キフィアーナが寂しがっておったのじゃ。
クラスメイトともどもな」
「そうなんですか」
ウソばっかだな。
◇ ◇ ◇
一二月九日黄曜日。
馬車でキフィアーナちゃんと一緒にミラーノ初等魔法学校へ向かう。
期末試験は終わったというので気楽なものだ。
鷲銀章は付けてないし万年筆も付けていない。
今回は“信義の短剣”を腰に佩いての登校だ。
校長先生にご対面、
「またお会いしましたね。よろしくお願いします。
来週もよろしくお願いしますね」
「え、来週!?」「来週ですか」
「はい、よろしくお願いします」
「はあ、な、なんですか」
「いいんですよ。オホホホホ…」
意味不明です。
“信義の短剣”をアイテムボックスしまってから、ナイスバディのピゾリーノ先生に連れられて――イテッ、ミクちゃんつねらないでよ。エッチ――と、何事もなく三S一組に。
見慣れた顔がいる。
「セージスタ君とミクリーナさんはズーディアイン殿下の結婚式にご招待されていらっしゃいました。
えーそれと、来週の…」
「せんせー、それは私の方で」
キフィアーナちゃんがピゾリーノ先生の発言を遮る。
「ええ、お願いします」
どうやら、来週何かあるらしい、それもそうとういかがわしいことが、だ。
ミクちゃんと、ガックリと肩を落とした。
ホームルームに国語と続いて、連続授業の社交では特に女子が張り切るから、僕はダンシングマシーンだ。くたびれた。
そう、思った以上に男子生徒はダンスに乗り気じゃない。まあ、目当ての子がいればまだしもだがだ。
ダンスがそれなりにシッカリと踊れることがすでにバレているセージは格好の練習台だ。
昼食休憩。
ミラーニアン公爵の払いだということで、今日は、いや、これからも高い、メチャクチャ高いものを食べてやる。
それで目の前にあるのはハンバーグ定食に、五目煮に、具沢山の味噌シチュー(大)――僕から見たら豚汁――だ。
食事はバランスよく食べなさい、のミクちゃんの監視付きだし、まあ、意気込んでもこんなもんだ。
ミクちゃんはミックスフライ定食にキノコサラダとコンソメスープ(小)だ。
キフィアーナちゃんは日替わりの、春巻き定食だ。ご飯は少なめにしないみたいだ。
「それで来週は何があるの?」
「そうですよ。教えてください」
「チョットした他国との交流よ。それも基本はヴェネチアン高等魔法学校の交流で、初等魔法学校は添え物みたいなものよ」
「それに僕らが出るんだ」
「まあ、そうなるわね」
「具体的には?」
「それが私にもようわからないのよ。とりまとめは高等魔法学校の方だから」
「そのために僕たちは呼ばれたの」
「そうなるわね。
国の威信にもかかわるってミラーニアン叔父様は笑いながら言ってたから、大したことじゃないとは思うけど」
「国の威信」「笑いながらですか」
「たいしたことじゃなさそうでしょ」
「そうであってほしいね」
「同感です」
「そうだミクちゃん」
「なに?」
「チョチョイと、テレポートでギランダー帝国のダンジョンにでも潜ってくるとか面白いと思わない」
「わー、それは楽しそう。メビウスダンジョンはあまり面白くなかったもんね」
「チョ、チョットダメよ。それはダメ!」
キフィアーナちゃんが少々大声を上げると、周囲が一斉にこちらを見る。
さすが王族の声だと思うが、僕たちはチョット身が縮む思いだ。
コホン、と軽い咳払いで、それらを素知ら鉄仮面で弾き飛ばすキフィアーナちゃんのスキルはたいしたものだ。
「それで一体なんだ」
で、キフィアーナちゃんから聞き出した内容に絶句した。
午後の魔法実習は適当に見学してたけど、数人かは明らかにレベルが上がっていた。
まあ、その人たちは記憶に無いので、そうだと思うだけだけど、とにかく何らかの覚醒あったに違いない。
それとキフィアーナちゃんは、魔素感知をシッカリと自分の者にしていた。
魔法力の流れも格段に良くなっていた。
「どう、少しは見直した」
「ちょっとビックリ。たった一度の活性化でね」
無い胸を張られても、ため息が出るだけなんだけど。
イテッ、ミクちゃんつねらないでよ。
◇ ◇ ◇
一二月一〇日緑曜日。
豪華な王族ご用達の魔導車でカレリーナさんと一緒にヴェネチアン高等魔法学院へ向かう。
致し方ないことだが、そういうことになっている。
それも、模擬戦闘用に防具を身につけてだ。
僕もそうだが、ミクちゃんもとっくにまな板の上の鯉、すでに諦念している。
なるようになれだ。
昨夜の夕食では、マールさんは僕らに反して、頑張ってねと、面白がっているし。
またもや“信義の短剣”を佩いて校長室で挨拶。
そして、今度は生徒会担当のイコノ先生と、最上級生の四年生で生徒会会長のグルトさん(男子)に、二年生のカレリーナさんに連れられて、闘技場に。
闘技場では五人の生徒が待っていた。
「グルト、その二人がそうなのか」
「ああ、そうらしい」
「そちらのお嬢ちゃんはまだしも、お坊ちゃんの方は大丈夫なのか」
疑わしそうな視線を向けてくる面々。
僕の情報操作や認識阻害を越えて僕のスキルや状態を見られるほどのスキルがある人が、通常の学校にいるはずがないと思うんだけど。
「ご心配には及びません。ヴェネチアン王家が保証いたします」
「それじゃあ、予定通り、模擬戦をやるぞ。
セージスタ君の相手は、ベリッジだ」
試合は会長のグルトさんが仕切って、審判までやるみたいだ。
看破で見るのはマナー違反だけど、ベリッジさんのおおよその強さ、総合は“40”前後だ。
会長のグルトさんがほぼ同じで、他の人たちはそれに近いけど、少し下といったところだ。
ゴム付き木刀をポシェットから取り出して、開始線に立つ。
ガッシリとした体格のわりに童顔なベリッジさんは、基本の通りの片手剣に盾を持っている。
片手剣はやや長めだ。
「攻撃魔法はレベル3までだ。
始め!」
<身体強化><フィフススフィア>『並列思考』『加速』
あれ、ベリッジさん動かない。先手を譲るってことかな。
いいのかな?
「あのー、いいんですか?」
「ああ、いいぞ」
「シッカリ受けてくださいよ」
僕から見ると隙だらけだけど仕方がない。
一気に駆け寄り、フェイントのステップで左右に跳んでから、盾を切りつけ大きく弾いて、お腹に木刀を当てた。
ウワーッ。
ベリッジさんが大きく後方に跳んだ。
「あまりにも隙が多すぎます。今度は寸止めせずに切りますね」
「わかった」
ベリッジさんが構えをコンパクトにして、防御を固めながらも素早く動ける体制になる。
僕を警戒するのも分かるけど、攻めてこないなら仕方がない。
もう一度駆け寄り、先ほどよりフェイントのステップを大目にして、僕から目が離れた瞬間、盾を切り飛ばし、胴を木刀で切った。
あまり強く切ったつもりはないけど、ベリッジさんはうめき声を上げて、倒れこんでしまった。
「セージちゃんやり過ぎです」
ミクちゃんが、ベリッジさんに駆け寄って、いつもの治療をする。
呆然、唖然とする全員の中で、最初に再起動したのは会長のグルトさんだ。
「ありがとう。だけど君も戦うんだから治療は他の人に任せてもらえるかな」
「はい」
ベリッジさんの治療はイコノ先生や他の先生に引き継ぎ、医務室に運ばれていく。
「治療で随分と魔法を使ったようだけど、魔法力は大丈夫ですか?」
「特に問題はありません」
「そうか、キミの相手はネオラールだ」
呼ばれて開始線に立ったのは、凛々しくスレンダーな女性とも思える、大人びた生徒だ。
武器は斧槍のバルハードと勇ましい、両腕のガントレットが盾の代わりのようだ。
ミクちゃんの戦闘スタイルは高速戦闘だ。
それを補助するのが、治療でも大活躍する感覚強化で、相手の動きを的確に読む。
とはいっても相手とは力量差は三倍以上もあって、動きを読むまでもない。
格下との模擬戦も魔法学校で慣れたものだ。
もちろん油断などしない。
始め、の掛け声で、ネオラールさんが飛び込んで、ハルバードを振るう。
体をひねって軽く避けるミクちゃんに、二撃、三撃と攻撃の手を緩めない。
頭の重いハルバードをこれだけ振れるのだから、身体強化が得意なのだろう。
そうはいっても加速を使える僕から見たら、スローモーションだ。
ミクちゃんだって、かなり遅く見えてるはずだ。
無駄だとわかると<イリュージョン>で幻惑を掛けてきた。
レベル3程度の魔法は、戦闘中でも簡単に発動させられるようだ。
ミクちゃんがショートスピアで、ハルバードを簡単に跳ね上げ、石突で胸を突いて試合は終わった。
「君たちはどれだけ強いんだ⁉」
「まあ、それなりですね」
グルトさんの問いかけに、それ以上の言葉が思いつかなかった。
「私なんかまだまだで、セージちゃんには全然かなわないんですよ」
ミクちゃん止めて。
「ところで魔法はどれほど使えるのかね」
「まあ、それなりですね」
「私なんかまだまだで、セージちゃんには全然かなわないんですよ」
なんじゃこりゃ。
「グルト君マナー違反ですよ。
魔法の魔法練習場に移動しましょう」
イコノ先生の指示に従って、場所を代える。
闘技場より強固な防護結界に守られた魔法練習場だ。
「最大の魔法を放ってもらえるかな」
「はあ」
「あのー、セージちゃんだけでなく、私でも防護結界が壊れちゃいますけど」
「へっ」
「魔法レベル10か11が良いところでしょう」
「それほどなのですか」
その後に<サンダー>、<砂竜巻>、<特大砂嵐>、<メガファイアーキャノン>などの個人魔法化していない、一般の複合魔法――それでも学生レベルでは知らない魔法――を放って見せた。
みんな驚愕したのは当然のことだ。
不定期だけど、ヴェネチアン国は二年に一度ほどに、東にある隣国のロト国との魔法の交流試合を行っている。
そして、それが来週に行われる。
ちなみにロト国は魔法大国で、国土は小さいながらも優秀な魔法士を輩出する国だ。
そしてセージが目覚めてマーリン号で旅の途中で本屋に立ち寄ったロータス市のある国だ。魔法陣と出会って、本も買った印象に残っている都市だ。
ヒポダンテの肉も美味しかったし。
ただ、噂ではロータスから来る生徒の中に“神に御子”ではないかとされる初等学校の生徒が二人いて、ものすごい魔法を使うんだそうだ。
そんな生徒がいるものかと思うヴェネチアン高等魔法学院の生徒に、実物を見せるために呼ばれたのが僕とミクちゃんってことだ。
ロータスの初等学校の生徒がどれほどの人かわからないけど、僕たちも参加するんだそうだ。
参加資格はロト国の学生&ヴェネチアンこくとされているが基本はミラーノ市の学生ってことだそうだ。
『ミラーノ市・ロータス市学生魔法交流試合』
国名を冠しないで首都名にしてあるのは、あくまでも学生の交流を主とした催しで、国威を意識しないようにとの配慮だが、メチャクチャ意識してるよね。
それにしてもロータス市が首都だったなんて。
余談だが開催がロータス市になると『ロータス市・ミラーノ市学生魔法交流試合』となるそうだ。
「君たちも“神の御子”なのか」
「「アハハハハ……」」
競技内容を聞いて、作戦会議やら、訓練やらで何度もヴェネチアン高等魔法学院に来ることになった。
そしてなし崩し的に僕たちも参加すんだそうだ。
マールさんにも心配されたけど、ミクちゃんと相談して、経験にもなるからと、半分無理やり納得して、マールさんにもそう告げた。
僕とミクちゃんは参加するんならと、競技用の個人魔法を作ることにした。
チートをやり過ぎないように、効率の良い魔法の所為にすることも考えてだ。
いつも読んでくださり、ありがとうございます。
おかげさまで50,000PVを達成できました。
改めてお礼申し上げます。
これからも応援よろしくお願いいたします。