132. メビウスダンジョン Ⅱ
「「「「えー…⁉」」」」
顎が外れそうなほど愕然とされ、再起動までに時間が掛かった。
双子とはいえ気の強い負けず嫌いなのがミーちゃんことミランジュ・ゴーガイル(女)、優しそうで気遣いができるのがムーちゃんことムランジュ・ゴーガイル(男)はマリオン上級学校の二年生だ。
馴れ馴れしい兎人男子はロッちゃんことロップス・トライデルタで、もう一人の無口な半狼人女子がナナちゃんことナナノナ・フルンドルといって、二人とも三年生だ。
パーティ名はネオホープだそうだ。
何となく申し訳なく思ってしまうが、それはそれ、これはこれだ。
「僕たちは何もしませんし、助けもしませんよ」
「ああ、当然だ。何かあってもボクたちの責任だ」
「あと、質問も無しです」
「了解した」
「えー、それでいいの」
「しかたないだろ」
「……」
「とにかく了解した」
ということになった。
◇ ◇ ◇
一層目。
かなり大きな岩が丸出しの洞窟だ。
ゲームでよく見るシチュエーションに似ているけど、洞窟の大きさ、太さが規格外、異次元規格だ。
七沢滝ダンジョンと一緒でレーダーに制限が掛かるけど、見得る範囲に特に罠などはなさそうだ。
二層目の階段は範囲外、見つけられない。
浮遊眼とレーダーも使用して周囲をくまなく確認しながら適当に進んでいく。
鎖スネーク、パフアダーなどの毒蛇魔獣は<ハイパーソーラーレイ>の一撃で終了だ。
広間で弱毒のブラウンローチの群れが出た時には、ミクちゃんが悲鳴を上げながら逃げ惑い。
僕が<ハイパービッグバン>…<ハイパービッグバン>で一気に焼き尽くした。そう、魔獣石も含めてだ。
後ろの方から呟きが聞こえてくる。
「容赦ねー」「なんだあの魔法は…」「レベル幾つよ」「……」
いくつかの広間でローチを殲滅してから。
「見つけた。あっちだ」
階段がやっと見つかった。
ミクちゃんがホッとしている。
到着して周囲を観察するけど不穏な個所はないし、一層をほぼ全部確認したようだ。
どうやら運が悪くというより、歩きやすい方向から回ると一番最後になるようだ。
一応、一層の概要を描いてダンジョン情報と比較してみたけど大差なかった。
もちろん空間認識を主体としたレーダーに、浮遊眼と記憶強化のなせる業だ。
ただし、レーダーは周辺を一気に確認できるけど範囲は浮遊眼に比べたら狭い。
逆に浮遊眼は遠くを見られるけれど、一か所限定で、あちらこちらと動かす必要がある。
ちなみにダンジョンの外でだが、空間認識“10”の認識範囲は半径一二〇メルで、安定した伸長距離は八八〇メルだ。
浮遊眼“7”で視認できる範囲は、距離が四.五キロ以内だと半径二五メル程度だ。距離が六キロ以内だと半径が一五メルと落ちる。
記憶に鮮明に残っている場所をテレポートと併用した時には三〇キロ程度に伸びている。見える範囲も半径八メルと広がっている。
二層目に降りる。
階段の上り口はダンジョンの案内の通り白く塗られたいた。
ダンジョンの案内の通りだ。
ちなみに地図は無いというか無駄だ。
前情報だと、ダンジョンはラビリンスで複雑怪奇だからだ。
「岩の洞窟ですね」
「見た目の変化は無いね」
「やんなっちゃう」
ミクちゃんはげんなりとしている。
そうしてここで昼食休憩とした。
注意力散漫を補うためにホイポイ・ライトを設置して<ホーリークリーン>でサッパリする。
ネオホープも一緒の昼食だ。
光魔法持ちはいるみたいだからキレイサッパリするのは問題なさそうだ。
それに、フェイクバッグは持っているようで、食べ物には問題はなさそうだ。…けど。
「時空魔法か」
「それも二人もか」
なんだかあきれられてしまった。まあ、スルーだけど。
その後も「何その食糧」とミーちゃんとナナちゃんが恨めしそうに熱い視線を送ってくるものだから、
「これみんなで食べてね。ミーちゃん一人で食べちゃダメだからね」
しかたが無いので果物を分けてあげたよ。
そういえばまだナナちゃんの声を聞いて無いような。
「失礼ね。食べないわよ! それと先輩と呼びなさい。先輩と」
「どうもありがとうね。ほらミーちゃんお礼」
「そうだよ。ミーちゃん先輩お礼だよ」
「フンだ」
結局、ミーちゃんもシッカリと食べたんだけどね。
それとナナちゃん、完全に無口だ。隠形のパッシブスキルか存在感も薄い。
ちなみに全員体力は人並み以上にあるとはいっても、ずっと歩いているわけじゃない。
途中チョットした小休止を取っては消化にいい物や、水分補給は怠らないようにいている。
◇ ◇ ◇
二層を歩いても一層と基本は同じだが、フワフワとした幻惑球とでもいう、幻惑作用のある球が浮いていた。多分効果範囲は半径一〇メルほどだ。
ジャマと思ってその核と思えるものを切り裂いて進んだ。
僕たちはともかくも、ネオホープのみんなだと危ないレベルだと思う。
それと、微妙に魔獣が強いが、こちらはネオホープには問題ないレベルだ。
そして罠もない。いや、幻惑球が罠か? あと蛭魔獣のジャンロックピングリーチが地面から湧きだしては魔法ドレインで魔法力を吸ってくる。
「階段発見」
到着して“2-3”と消えそうなマーカーを確認する。
「マーカーが消えそうですね」
ギルドで手に入れた地図付きに情報と見比べて確認するリエッタさん。
「そうだね」
「向こうにもう一つ階段があるよ」
「何処に?」
「ここから多分だけど、一.三キロほど離れた場所で、亀裂の先」
浮遊眼の強みは遠くまで見えることだけど、弱点は一か所しか見えないことだ。
通路に沿ってあちらこちらを
「多分?」
「幻惑球もじゃなだし、ぼんやりとしかわからないけど多分あると思う」
指で方向を差す。
「なんだか、情報と違わない」
そういうのはルードちゃんだ。
「かなり違うようですね。一旦下に降りてみましょうか」
ということで階下に降りる。
そうすると、目の前にマーカーがなかった。
「戻りましょう。大々的な探索がされるはずです」
ネオホープもマーカーが無いことを確認すると、ロッちゃんが慌てて、戻ろうと言い張る。
メビウスダンジョンは二層から四層までが昇り降りする迷宮ダンジョンだ。
そして二か月から四か月程で変化する。
軽い変化だと上下に昇り降りする階段のつながりが変化する。
大々的な改変では階段の位置や内部構造までも変化する。
どうやら、つい最近大きく変化したみたいだ。
ただ、調べた文献には、迷宮と書かれていたけど、具体的に幻惑球のことや亀裂のことは書かれていなかった。
「ロッちゃん、大丈夫だって。上に上がって二層を探索するから」
「そ、そうか」
「先輩だ」
「はいはい、ミーちゃん先輩。わかってますよ」
「ムカッ!」
「とにかく予定通り、二層から攻略ですね」
「そうするしかないでしょう」
「でもその前に」
一層より効果範囲が大きくなったフワフワと浮いている幻惑球をいくつか破壊する。
階段の登り口に“上2-3”と書いて、上に上がった。
階段を上って、階段の前に“2-3”と大きく書き直した。
「途中の亀裂まで行ってみましょう」
「うん、かなり大きな亀裂で直ぐだよ」
亀裂の端に立つと強烈な風が感じられた。
でもどうやって風が吹いているんだろう。不思議だ。
「向こうに行くのはフライではダメそうですね。
テレポートでは行けそうですか?」
それほど強い風だ。
「うん。特に問題ないよ」
ダンジョン内だと浮遊眼の範囲は二キロ弱で、その範囲だと問題はなさそうだ。
ただし、亀裂には弱いながらも認識阻害が掛かっているから、亀裂の先だと見える距離が一気に縮む。それと幻惑球の作用でも距離は短くなる。
精神集中も必要だけど亀裂の向こう側で見えるのは数十メル、ぼんやりとだと数百メル程度ならまでならばだ。
テレポートは亀裂の向こう側、はっきりと見える数十メルまでだ。
「ううん、私はダメそう。セージちゃんにはかなわないや」
ミクちゃんはチョット無理みたい。
対岸を目視できても、焦点を一点に集中するとブレてしまうんだ。
「まずは二層の確認できる場所を一通り確認しましょう」
「うん、予定通りにね」
幻惑球と魔獣を倒しながら頭の中で地図を作っていく。
七沢滝ダンジョンでもやっていた作業だ。
どうやらいろんな場所で亀裂があるみたいだ。
そして下に降りる階段は三つだ。あくまでも亀裂のこちら側ってことで、浮遊眼で見つけた亀裂の向こう側の階段は二つある。
“2-1”、“2-3”と書き込んだ。
下層に行って“上2-1”、“上2-3”も当然書き込んだ。
概要の地図を描いてみんなに見せる。
「それではいよいよテレポートを使用して残りも全てを確認しましょう。
でもその前の休憩にしましょう」
ローチを撃破した大広間は嫌だというミクちゃんの要望、まあ、僕も嫌だけど。
周囲に魔獣がいない場所で大休憩を取った。
◇ ◇ ◇
「チョット来てー」
亀裂の前に立ってネオホープ呼んだ。
どうした、というネオホープに。
「チョット手をつないで、そうじゃなければ僕につかまって」
「なんでそんなことしないといけないのよ!」
「いいからミーちゃん、指示に従って」
「フンだ」
ふてくされながらも、僕の手を握ってくれた。
ナナちゃんは瞳を輝かせて興味津々だ。
まあ、ムーちゃんとロッちゃんも同様だけど。
最初に見つけた亀裂の向こう側に浮遊眼を飛ばして、精神を集中してシッカリと座標を固定する。
「<ホワイトホール>」
無事に対岸に到着。
キョロキョロとするネオホープのみんな。
「テレポートじゃないのよね」
「ホワイトホールって言ったよね」
「うん、テレポートの親戚みたいな魔法で、人や物を運ぶのには効率がいいんだ。いっぱい運べるし」
「こんな魔法もできるんだね」
「そんなことより、ボクはこのダンジョンの中だとテレポートは制限を受けて飛べないって聞いたんだけど」
「ああ、それは認識阻害で、座標を狂わされるからだね」
「シレーッと言うけど、キミは飛べるんだよね」
「飛んだでしょ」
「……」
「そんなことより探索を続けますよ」
リエッタさん、GJ。
まだまだ訊きたそうなネオホープをスルーして、サッサと歩き出す。
「パーティー一つでここを探索するつもりですか」
そうはいっても、亀裂を飛んでしまっては、ネオホープも付いてくるしかない。
魔獣がグッと強くなっていた。
カミソリのような鋭い翼を持つレザーバットの群れに、メガホーンビートルにメタルマンティスと切る・突くなどの攻撃力のある魔獣も出現するようになった。
あと大広間はブラックローチとなって強毒となった。
「ミクいつまで逃げ回ってるのよ」
「苦手なものは仕方がないでしょう」
ミクちゃんが逃げ回ったのは言うまでもない。
二層の亀裂と強風で分けられた第二区画には階段が五つもあった。
距離も近いものと離れているものと様々だ。
わかりやすいように“2-2-1”から“2-2-5”と番号を振った。
もちろん下層もだ。
「なんでこんなに早く探せるんだよ」
「ミーちゃん」
スルーだ。
「<ホワイトホール>」
亀裂と強風で区切られた第三区画の階段は“2-3-1”から“2-3-3”の三つ。
ただし、その内の一つが下っている階段が、体がフワリと浮いて、途中で登りに変化するんだ。
「<ホワイトホール>」
第四区画の階段も三つで、上りに変化する階段が一つあった。
あとは下層に降りた時、何度か人がいた。
ラビリンスの改変時に取り残された人か、新たに入った人かは、確認してないから不明だけど元気に動き回っているのは確かだから放ってある。
それも発見したのは三パーティーだ。
それと、下層の一か所だけだけど二つの階段が頭の中でつながった。
幻惑球を消滅してきたおかげだ。
時計を見ると、夕方の六時半だ。
ちょっと遅くなったけどこれで今日の探索は終わりだ。
結局発見したパーティーは五つ。みんな狩りをしていたようなので近づいてはいない。
ホイポイ・ライトを設置してキャンプを張る。
どうやらネオホープはかなりグロッキーのようだ。
総合が半分、僕からすれば三分の一しかないんだからこんなものかもしれない。
ミクちゃんとルードちゃんのお手伝いの下にリエッタさんが温かいシチューをたくさん作ってくれて、パンと果物にマリオン市で沢山購入したお菓子で夕食だ。
ちなみにその間に僕は地図の整理と作成だ。
地図をみんなに見せ、確認してもらいながらの食事となった。
「どれだけキャンプ用品や食糧を持ってるんですか」
「ホントですよね」
僕とミクちゃんが取り出したテントを指さしてあきれるロッちゃんとムーちゃんだ。
「非常識にもほどがある」
ぶつくさとふてくされているのはミーちゃんだ。
グロッキーで、手伝いもしないで文句ばっかだな。
ちなみに今日も勉強は欠かさない。
シッカリと勉強して、四人×四人で夜間の見張りを交代しながら一夜を明かした。
◇ ◇ ◇
一〇月二一日黄曜日の朝はチョット遅い。
三層と思われる下層のつながった階段から降りて地図を作っていくことにした。
もちろんその方が地図を作りやすいと判断したからだ。
「三層の方が広そうですね」
「そうですか」
「うん、行き止まりが見当たらないんだ」
三層の地図作製早々、浮遊眼が捉えた。
「幻惑球にパーティーが襲われてるみたい」
「駆けつけましょう」
駆けつけると、幻惑球に惑わされていると思われる五人組のパーティーが、大きく広がった幻覚範囲による取り込まれていた。
それと地面からはジャンピングロックリーチが湧きだしていて、魔法力を吸収している。
幻惑球の影響範囲が広がるとは驚きだった。
多分僕はその前に核を破壊しているんだと思う。
「たまにはウチがやるわ」
ルードちゃんが弓矢を構えて、二つの幻惑球の核を射抜く。
僕とミクちゃんで冒険者に取りついたジャンピングロックリーチを切り飛ばす。
しばらくするとボーッとしていた冒険者たちが、一人、また一人と正気に戻っていく。
冒険者たちはボクたちが子供だからだろうか、みんな驚いていた。
内緒だぞと言って教えてくれたことは、幻惑球は遠くから核を破壊して経験値を稼ぐのに最適なんだそうだ。
核は幻惑で保護されているから破壊するのも大変なんだけど、経験値が稼げて総合が“60”近くになるんだそうだ。
強い魔獣を狩るよりも、相当数狩らないといけないんだけど、リスクが少ないんだそうだ。
ネオホープのみんなの瞳がキラキラだ。
ダンジョン内で活発に動き回っていたパーティーが多く居たのが理解できた。
でも、ダンジョンの改変があっても今回の幻惑球の数が少ないんだそうだ。ギクッ。
そんな時に幻惑球に挟み込まれてしまったんだって。
そのパーティーと別れ、また地図の作成だ。
もちろん手加減無しで、幻惑球の核を破壊していくが、わざわざ確認できた洞窟までおもむいて幻惑球を破壊したわけじゃないから、幻惑球はそれなりに残っている。
三層と四層は広く、すべての階段を確認するのに翌日までかかった。
多くのパーティーが幻惑球を探し回っているようだけど、その内にポップするだろう。
そして、地図を確認して、一つだけ相手がいない階段を発見した。
◇ ◇ ◇
一〇月二三日黒曜日、今月は小の月だから、二三日が黒曜日だ。
「ネオホープのみんなとはここで」
階段の番号を書き込んだ大雑把な地図を渡す。
「地図はできれば冒険者ギルドに提出してね」
これからは情報が無いから一緒にいても守れるかどうかわからない。
いくら自己責任と言われても弱い人がいれば助けてしまうのが人だ。
それと残った幻惑球を狩りながら地上に戻るということもネオホープなら問題なくできる。
「おい!」
ミーちゃんの声を聞きながら<テレポート>をした。
数回の<テレポート>で、三層の相手先不明な階段に飛んだ。
いよいよこれからが本番だ。
◇ ◇ ◇
三層から降りたが、ここが五層だろう。
僕たちは二日掛けて、更に強大な幻惑球が漂い、様々な魔獣と戦い、途中階層ボスに出会うことも無し、要はボス部屋が無いんだ。
そして強い魔獣がいる八層まで降りた。
八層はだだ広い巨大な空間で、様々な魔獣次元の裂け目を確認した。
幸いにもというか、不幸というか、短針魔導ライフルのお世話になることはなかった。
それでも強さが“100”を超す魔獣が何匹もいて、お試しにと何度か撃ってみたりもした。
さすがに対魔獣でマシマシで撃つと、反動に改めて驚いたし、威力にも驚いた。
身体強化でシッカリと体制を固めて撃たないと怪我をしそうなほどだ。
もちろん裂け目に石は投げなかったよ。
◇ ◇ ◇
メビウスダンジョンの映像も撮ったけど、それはパパやウインダムス議員、それにボランドリーさんに提出した。
そしてボランドリーさんからメビウスダンジョンを管理するメルビン町の冒険者ギルドに概要の地図と階段の番号を付けて送ってもらった。
役に立てばいいんだけど。
記憶を取り戻したクラスメイト達は、各人各様のレベルアップに挑んでいる。
記憶を取り戻していない友人の面倒を見ていたりもする。……あ、ただ単に友人ってこともあるのか?
それにしても、何ともほほえましい。
積極的にレベルアップに付き合うつもりはないけど、何か協力はしてあげたいな。
ネオホープのみんな。
女子のミーちゃんに男子のムーちゃん、兎人男子はロッちゃんで、無口な半狼人女子がナナちゃんと、多分バルハライドの生まれの人(魂)だと思う人たちと出会えたのはいい経験になった。
他の学年も“聖徒”の称号を得られそうな生徒、高スキル持ちだと思える生徒が見受けられるようになった。
突然のスキル取得は間違いなく転生者だと思えるけど、そこまで観察していた訳じゃないわからない。
それ以外じゃ、バルハライドの生まれの者か、転生者か見分けは付けられないしね。