131. メビウスダンジョン Ⅰ
メビウスダンジョン。
そこに行ってみることにしていたんだけど、パパからOKがもらえた。
ママはすでにあきらめたようで、頑張ってきなさいと優しく送り出してくれた。
みんなが目覚めるまでに、いろんな情報を集めておきたいし、自分の目で見ておきたいってのが今回の遠征の理由だ。
もちろんデビルズ大陸を意識してってのもある。
メンバーはいつもの四人、僕にミクちゃんとルードちゃんにリエッタさんだ。
結局、デビルズ大陸のことは三人と相談した。
「セージちゃんが行くのなら行くに決まってるでしょう」
「ウチも当たり前だ。それにデビルズ大陸には行ってみたい」
「できるだけ協力します」
自前の豪華な魔導車――ギランダー帝国で入手して装甲強化――で旅たった。
走行距離も一日七五キロと、マリオン市の魔導車に比べると倍近くも走れる。格段に上だ。
乗り心地も上々だ。
その他には、短針魔導ガンの大型版の短針魔導ライフルも二丁というか二門も用意した。
ライフルといっても銃身は地球のライフルより短い。
短針魔導ガンのは信号銃と表現したが、銃身で見ると太さは二倍強、長さは約三倍、短針で見ると太さは一.五倍、長さは二.五倍程度だ。
針も太くガンの一〇本に対して、二五本もある。
反動が大きくライフルのように銃床を肩に付けて撃つもので、銃床が長いんだ。
威力は短針魔導ガンの数倍――魔法力の込め方による――といったところだけど、取り扱いはさらに難しい。
魔法力の込め方が、ライフルとカートリッジの両方に均等に行うのはガンと同様だが。
魔法力が最低で五倍となるのだから魔法力の込め方のバランスが悪いと、短針がばらけて上手く飛ばないんだ。
魔導砲と違って、射出力アップに反動吸収、精度補正に照準補正などの魔石補助が簡略されているから、魔法力の操作に熟知して、魔法力が豊富じゃなければ撃てない代物だ。
弾となる短針をあまり用意できなかったので、代わりにミスリルにミスリル硬鋼(L)や鉄のインゴットをしこたま持った。
一〇月一二日黒曜日に魔導車で出発して、一四日青曜日の午後に港町のルオン市に到着。
運転はもちろんリエッタさんだ。
僕もできないことはないけど、身長が足りないから、レーダーに浮遊眼で運転することになる。
周囲から見たらだれもいない幽霊魔導車だ。
ルオン市から翌々日の早朝に船に乗って、マリオン湾(海)を渡って一六日緑曜日の夕方にマリオン市に到着した。
マリオン市はさすがに首都だけあって、東西南北共にオーラン市の倍ほどの広さがある。面積でいったら四倍だ。
綺麗に整然とした街並みがあったかと思ったら、圧然とした街並みがあって、ふるさと新しさを兼ね備えた、僕としては魅力的な街だ。
ウインダムス総合商社のマリオン支店でミクちゃんのお姉さんのターニャさんと、ブルン兄に挨拶に寄った。
ちなみにオーラン・ノルンバック船運社のマリオン支社は、ウインダムス総合商社のマリオン支店内の一室を間借りしているので一緒に顔を出したことにもなる。
最近ではブルン兄はオーラン・ノルンバック船運社のマリオン支社兼N・W魔研の営業も兼ねている。
一応、ミリア姉とロビンちゃん、それとついでじゃないけどオルジ兄と、ディニーさん――ミクちゃんの兄――にも挨拶を行う。
ミリア姉とロビンちゃんが、一緒に行くと言い張ったけど、ターニャさんとブルン兄が説得してくれた。
どうやら一年生で狩りに行って頑張っているようだ。
マリオン市の観光を一日だけ行い。
一〇月一八日黒曜日に魔導車で出発して夕方に、目的のロリンダ市に到着した。
この頃あまり天気が良くない。どんよりとした曇りばかりだ。
マリオン市の西側にあるロリンダ市は、マリオン湾(海)の奥また場所に位置する。
都市的にはあまり発達しておらず、主な産業は塩の製造と海産物、民芸品は独特のものがあってマニアもいるそうだ。
そこの南方、キュベレー山脈から長く飛び出した丘陵の高くそびえた双子山がメビウス山で、そこにメビウスダンジョンがある。
ロリンダ市はメビウスダンジョンの窓口でもあるが、それなりに離れていることもあって、微妙な街で、噂以上のひなびた街だ。
ここから南に走ってメビウス山のふもとの町、行政区ではロリンダ市に組み込まれているメルビン町がメビウスダンジョンを真に管理する町だ。
メルビン町に到着したのは一〇月一九日赤曜日の午後少し過ぎたところだ。
活気はあるけど、暴力的で荒々しい活気だ。
メビウスダンジョンに潜るには冒険者ギルドに登録が義務付けられている。
城門で魔導車をアイテムボックスに放り込んで、唖然とする警備員というより番人に、国民で納税証明書を見せて、一か月分(ニ四日間)の入町税を払って町に入る。
ローガン町と同様に、このメルビン町も運営金が必要な町だ。
「冒険者ギルドは何処ですか」
冒険者ギルドの場所を聞いて冒険者ギルドに向かう。
税金を払ったことにより、ローガン町の冒険者ギルドのもめ事を思い出す。
パーティーを見るとどう見てもお子ちゃまだ。
予防のためのポチットムービーの動作を再確認する。――最近はいろいろと撮りまくっていて、今までの旅や市や街も撮っている。もちろんメルビン町に入る前から撮っている。
僕たちが冒険者ギルドに入ると、注目を集める。
ルードちゃんは一気に険しい表情になり、ミクちゃんは逆にオドオドしだして僕の後ろに隠れる。
リエッタさんは鋭い視線で、注意深く受付に向かう。
レーダーで見ると総合の最高が“65”ってところで、ほとんどが“40”~“55”程度だ。
あ、ギルドの奥に“81”、“79”、“76”と他にも数人“70”前後がいる。ギルド長とそれなりの役職の人だろうか。
まあ、その他にも種々雑多でいろんなレベルの人がいる。
「どういった御用ですか」
「メビウスダンジョンに入るのに届けに来ました」
答えたのはリエッタさんだ。
「えー、皆さんですか」
「「「「はい」」」」
リエッタさんと一緒に僕たちかギルドカードを提出する。
全員一流とされるランクCの緑色のカードだ。
「ラ、ランクCで・す・か…。
少々お待ちください」
受付嬢が驚愕して奥に駆け込んでいった。
ここの冒険者は絡んでくる人はいないのか?
僕のレベルは情報操作や認識阻害で確認しることは難しいが、他の三人ならある程度の索敵があれば大雑把だけどわかる可能性があるからか?
「お前らか、間違いなくランクCなんだな」
奥から不精髭のおっさんが、受付嬢に連れられて顔を出す。
「はい、確認しましたが間違いありません」
「それでは許可するしかないだろう」
「それでも……」
「それは俺たちが危惧することじゃない」
「わかりました。それでは許可します」
受付嬢が手続きをする。
「チョット待ったー!」
建物の奥から僕たちより多少年上、ミリア姉やロビンちゃんと同じ程度か? もうチョット上か? と思われる子供が出てきた。
「チョット待つのはミーちゃんだよ!」
「ムーちゃんは黙ってって。あいつらおかしいでしょう」
どうやら男女の双子なのか? よく似てる。
ちなみにミーちゃんが女の子で、ムーちゃんが男の子だ。
「ワタシが、ランクCの実力があるか見てあげるは」
「ミーちゃんダメだったら」
「だっておかしいでしょう。ギルドマスターのおじさんも気になるでしょう」
「気にはなるが、それは俺が決めることじゃない。
おいオマエラ、こいつと戦ってみるか」
「いいえ、結構です」
本当にめんどくさい。
「ウチはいいよ」
「え、ルードちゃんいいの?」
「いろんな人や魔獣と戦いたいだけ」
そんなことか。それなら問題ないか。
ミーちゃんとムーちゃんは共に総合が“53”だ。強いといえば強いけど、ルードちゃんのほぼ半分だ。
いくら数値が全てじゃなくても半分じゃ相手にならないと思うんだけど。
「本気で戦っちゃダメだよ」
「わかってる」
僕の小声のささやきに、ルードちゃんが答えてくれた。
「そうか、それじゃあ、練習場に行くか」
ギルドマスターは勝手に話を進めていて、手招きした後にサッサと練習場に向かって行く。
その後をミーちゃん鼻息荒く、ムーちゃんはやれやれといった感じで付いていき、僕たちはそれに続いた。
あ、みんなも見に来るのね。
「おい、防具は」
「このままでいい」
そうは言っているけど、ミーちゃんは胸当てや腰回りの防具は装備している。
手には刃の部分がゴム製の模擬剣だ。
「あっちがいいんなら、ウチもいいわ」
対してルードちゃんは、旅行用の丈夫な服装だ。
こちらの模擬武器は大型ナイフだ。
「そっか。
とにかく致死性魔法や急所への攻撃は禁止だ。いいな。はじめ」
ミーちゃんが突っ込んで、上段から魔法力を込めた剣を振り下ろす。
ガンッ、とフィフススフィアにぶつかって完全に止まる。
魔法力をめいっぱい込めた真剣ならともかくも、模擬等に込めた魔法力程度じゃびくともしない。
ミーちゃんの顔が驚愕に変化する。
「ねえ、アンタ本気でやりなよ。そんななまくらじゃ、遊びにもならないわ」
ルードちゃん、そんなもんだよ。
「うるさーい!」
更に魔法力を込めた剣が振るわれるが、ルードちゃんがシールドを弱めて片手で軽くあしらう。
「もう、やめない。つまんないし」
「うるさいわね。今たたっ切ってあげるわよ!」
ガンガンガンとミーちゃんの切る付けが激しさを増し、それでもルードちゃんは余裕で受け、払う。
「ギルドのおじさん、こいつ止めて、弱すぎる」
「うるさいわね。ワタシは何も攻撃を受けちゃいないわよ」
「あ、そう」
ルードちゃんが右手をナイフから手を離す。
右手に魔法力を込めて、ミーチャンのスフィアシールドを打ち破って、脇腹を殴るボディーブローを放つ。
ミーちゃんが、ウッ、とうめいて、その場に崩れ落ちた。
あまりの威力にルードちゃんが驚いている。
「<リライブセル>、<メガヒーリング>、<メガキュア>」
ミクちゃんが、気絶したミーちゃんに駆け寄って治療を行う。
「ルードちゃん、やり過ぎです。内臓までダメージが発生してるじゃないですか」
「そうなんだ。あまりにも弱すぎて手を抜いたんだけどな」
「そ、そうなんですか」
「ミーちゃん、だいじょうぶ?」
「あ、動かさないようにしてください。内臓までダメージがあるので、もうしばらくこのまま安静に」
「はい…、ところであなたは、いえ、あなたたちは何者ですか?
ミーちゃんはかなり強いはずなんですが」
「あれで……」
「ルードちゃん!」
「私たちは、ただ単にメビウスダンジョンに入りに来た冒険者であって、それ以外のなにものでもありません」
リエッタさんが毅然と答える。
ミクちゃんが再度ミーちゃんを治療して、ダンジョンの情報を買い取って、僕たちはその場を後にした。
ミクちゃんの見立てだと、早ければ明日には動けるようになるはずだ。僕もそう思う。
観光ってわけじゃないけど、一応町を見学するのは何かあった時のための予防でもあるし、テレポートのポイントを見つけるためでもある。
ポインティングディバイスを設置するほどでもないから記憶にとどめる程度だ。
◇ ◇ ◇
一〇月二〇日青曜日、朝からメビウスダンジョンに向かう。
三.五キロほど山を登っていくとメビウスダンジョンだそうだ。
道は整備されているが、道は細いから騎竜ならともかくも魔導車は通れない。
そして魔獣が出る。
一般人には無理な道のりだ。
テレポートで移動すると僕にしか道がわからないから、徒歩だ。
最初に出会たのが毒ガエルのグリーントードだ。
ミクちゃんに背中を押され、僕が<サンダー>――ハイパーボルテックス+ハイパーフローコントロール――で焼いた。
もちろん通常のサンダーとは違い個人化魔法の複合魔法で強力化した魔法だ。
火を使わないのは火事になって消すのがめんどくさいからだ。
デストロイビーの大群に襲われた時には<麻痺激毒>を振りまいて、弱ったところを倒した。
さすがに数が多く、辟易した。
チョット深くだけど森に入ったところに巣があるよ。
ということで、注意深く巣に近い場所に<テレポート>して、<合成猛毒>を<ハイパーフローコントロール>で、巣ごと撃退した。
マザーデストロイビーの死骸も確認した。
魔獣石を取るとめんどくさくなって、一か所にまとめて<ハイパービッグバン>で亡骸を燃やして魔獣石を破壊した。
ちなみに、メビウスダンジョンから戻って、冒険者ギルドに顔を出した時の噂で、最近デストロイビーの大群が出なくなったって聞いたから、困っていたみたいだ。
道に戻ってメビウスダンジョンに向かって歩いていく。
ジャンピングトードや、ブラックトードなど毒カエル魔獣が多い。
◇ ◇ ◇
メビウスダンジョンは石造りの立派な城門の荘厳なダンジョンだ。って。
「なんでお前らがここにいるんだよ。
休んでなくていいのか?」
「休んでられるわけないでしょう!」
「そっか、それじゃあ、適当に頑張れ」
「ムカつく! あんたとは戦ってもいないでしょう」
「おい、弱いの。セージはこの中で一番強いんだ! ウチの相手にもならないオマエなど相手になるものか」
「うるさーい!」
「ミーちゃん。まだ体に障るよ」
「もう、何ともない!」
ちなみにミーちゃん、ムーちゃんの他にあと二人の同年代が二人――兎人男子と半狼人女子――いる。
ただしその二人の総合は“50”弱だ。
まあ、七沢滝ダンジョンだったら二層までなら大丈夫なレベルだ。
「ところでだれが、ミーちゃんをボコボコにしたんだ」
「ボコボコにされてない!」
兎人男子の問いかけに、ミーちゃんが憤慨する。
「まあまあ、で、誰」
「ウチだけど、あんたもやるの」
「いやいや。ミーちゃんにかなわないのに、やるわけないでしょう。
それより君の話だと、君よりその男の子の方が強いんだって」
「当たり前でしょう」
「ふーん。お願いなんだけど、キミたちの邪魔はしないから、しばらくキミたちの狩りを見学していいかな」
「断る! 何で見せないといけないんだ」
「そこをお願いしてるんだけど。頼むよ」
兎人男子はやけに馴れ馴れしい奴みたいだ。
「もら、みんなも頼んで」
「いやよ!」
「僕からもお願いします。ボクらはマリオン上級魔法学校の生徒なんだけど」
「言わなくていい!」
「ミーちゃん。
それで、ボクたちは少し前まではマリオン上級魔法学校で一位とされていたんだけど、今年の新入生にとんでもないのが入ってきて、あっという間に一位の座を奪われたんだ」
「ムーちゃん!」
「それって、女……いてーッ」
思わ祖声が出てしまったら、ミクちゃんにつねられた。
え、えー、それって、あまりにも身近な人に覚えがある。
見るとミクちゃんも、困ったちゃんだ。
「うん? 何か言ったか」
「い、いえ、何も……」
「いいから。いいから。
それで学校に短期休暇願いを出して、ここにレベルアップに来たんだけど、あまりうまくいってなかったんだ」
「それで僕らを見たいと」
「そうだね。ダメかな」
「ちなみに、その新入生の名前を聞いてもいいですか?」
今度はミクちゃんにつねられなかった。
「え、なに、心当たりがあるの。
ミリアーナ・ノルンバックとロビナータ・ウインダムスといって二人とも女の子なんだ」
やっぱし、と僕とミクちゃんの顔がこわばる。
「え、心当たりがあるんだ」
「ええ、まあ、なんていうか……」
「このセージスタ・ノルンバックと、ミクリーナ・ウインダムスの姉たちよ」
僕が言いよどんでいると、ルードちゃんが、フン、と無い胸……ゲフンゲフン…胸を張って、宣言する。
「…姉たちがご迷惑を掛けているようで…」
ミクちゃん、謝らなくていいから。
「「「「えー…⁉」」」」
そうなるよね。