130. クラスメイトたち
九月一九日赤曜日、オーラン魔法学校の始業式だ。
「おはよう」
「おはよう」
ミクちゃんが僕の家にテレポートで迎えに来た。
その後に徒歩で学校に向かう。
すでに学校への見送りとお迎えの付き添いはない。
絶対とは言えないけれど、僕たち四人――あとはルードちゃんとリエッタさん――に対抗できる人がこのオーラン市に居ないからだ。
次に強いのがボランドリーさんやホーホリー夫妻にレイベさんの“95”前後の人たちだしね。
「「おはよう」」
学校に着いてクラスメイトに挨拶をする。
「お、おはようございます」
「「おはよう」」
珍しくライカちゃんがギリギリの登校だった。
しかもオドオドとして不審だ。
「なにかあったの?」
「…ううん、なにも」
ミクちゃんの問いに答えるも、明らかに動揺している。
「何かあれば、いつでも言ってね」
「うん、ありがとう」
それにしても、クラスてこんなに静かだっけ?
え、三バカがいる。
何故騒いでないだ?
見ると三バカ筆頭のキジョーダンが黙って机に座っていて、取り巻きのガラクーダとブゾンがしきりと声を掛けているが、上の空だ。
まさかライカちゃんとキジョーダンに何かがって考えて、何か引っかかるものがあった。
「ミクちゃん」
僕はミクちゃんの袖を引いて、耳元に小声で「あとで」とささやいた。
◇ ◇ ◇
いつも以上に平穏な学校生活になんとなく物足りない気持ちに、ナンだ、と学校で勉学に、遊びに、生徒会にいそしんだ。
その間、いつもライカちゃんがオドオドとしていた。
キジョーダンもなんとなく不安定だったように思う。
◇ ◇ ◇
帰宅して、
「ねえ、ミクちゃん。ライカちゃんも記憶を取り戻したんじゃないかな」
「ヤッパリそれしかないよね」
「たぶんキジョーダン君もじゃないかな」
「言われればそうかも。
私にはセージちゃんがいたから、不安はなかったけど、セージちゃんも大変だったんじゃない?」
「そうだったような気もするけど、今は上手くいってるからね」
「何か手伝えること、心の支えになれることはないかな」
「難しいけど、何かあるよね。たとえばオケアさんを紹介するとか」
「二人とも次元災害の終息、高次元の亀裂の消滅に参加するかな」
たぶん、ミリア姉とロビンちゃんもオケアさんのところに行けば承認されると思う。
時期が来なければ、正確には何があるのかわからないけど、それから参加すると宣言しても遅くない気もするし。
ことによったらそれも内緒ってことはないよね。
あとはどれだけの高次元の亀裂を消滅させるかってことだ。
全て七沢滝ダンジョンレベルなら、最低でも総合が“110”は必要だろう。できれば“120”は欲しいところだ。
そうなるとルードちゃんはもうチョット上げておいた方がいいし、ミクちゃんもユトリが欲しいところだ。
あ、他のダンジョンを見てないか。
まずはその調査だ。
マリオン国にももう一つダンジョンはあるし、キュベレー山脈の奥にもあるといわれている。
ヴェネチアン国にも二か所あったはずだ。
領土の広がったギランダー帝国は一体幾つあるんだろう。
バルハ大陸の北方のバルハード山脈やディラック樹林の中にもダンジョンが隠れているかもしれない。
「しばらく静観するしかないよね」
「そうだよね」
◇ ◇ ◇
翌朝(九月二〇日青曜日)、登校したら、キジョーダン君が話しかけてきた。
「おい、ノルンバック、チョット話があるんだが」
「ああ、いいよ。どこで話す」
「ゆっくり話したいから放課後でいいか」
「了解」
かなりビックリ。
ド直球でずばりと切り込んでくるとは思ってなかったよ。
とはいえ、どんな話をしてくるんだろうか。
「セージちゃん、一緒に話を聞こうか?」
「ありがとう。でも、一人の方がいいと思うんだ」
「そう、いつでも言ってね」
「なんだ、キジョーの奴が何か文句を言ってきたのか。
〆てやってきてやろうか」
「ルードちゃんダメだよ」
「いや、あいつは一発殴ってやらなくちゃ」
「ダメダメ、絶対にダメ!」
ミクちゃんのいう通りだよ。今のルードちゃんが殴ったら、本当にあの世行きかもしれない。
◇ ◇ ◇
「ノルンバック、すまんな」
「ううん、いいよ。ところでどうしたの」
「どうやったら強くなれる」
「それを聞いてどうするの」
「決まってるだろう。神の御子となってこの大災厄を終わらせるんだ!」
「そうなんだ。それじゃあ頑張ろうね」
「あ、ああ、…いいのか、…そのー…、なんだー…」
「気にしてないから」
「…わ、わるかったな」
思っていたより、いい奴じゃないか。
高感度がググッと急上昇だ。
相変わらず、日に一度か、二日に一度程度地震が発生している。多分だけど大災厄の影響だと思う。
ほとんどが震度一程度だけど、時たま震度三程度の地震もある。
皆慣れちゃっているけどね。
パパの情報だと、あちらこちらで時たま大きな地震が発生しているそうだ。
それと僕やミクちゃんなど、僕たちと一緒に生まれた転生者がどうやら五年間の一年目みたいな気がする。
ここまで来て僕たちのような神の御子とされる人が出現しないのだから、上級生にはいないんじゃないかってことだ。
その上、ライカちゃんだけでなくキジョーダン君も転生者ってことだろう。
あとは地域的な差があって、オーラン市が僕たちの年ってことも考えられるけど、現在は検証のしようがない。
まあ、それでどうなるかってこともないんだけどね。
「で、強くなるにはどうしたらいい」
「スキルを持ってるんじゃないの」
「…あ、ああ、そうだが、戦闘用じゃない」
キジョーダン君が急に周囲を警戒しだして、オドオドしだした。
この程度邪記憶BANはないから大丈夫だよ。
「僕が個人情報を初めて見たのは五才の時なんだ」
「ご、五才…⁉」
「そうなんだ。ボクも戦闘スキルは無くて、魔法ばかりだったな。
それで本を読んで魔法陣を作って強くなっていったんだよ」
「おまえは何者? あ、いや、なんでもない忘れてくれ…」
そりゃー驚くよね。記憶を取り戻すのが一〇才前後って言われてたんだから。
「聞いてくれ、その内の一つは“速読”で、もう一つは“記憶強化”だぞ」
僕がおどけて笑うと、目が飛び出さんばかりの驚いていた。
「そ、そんなんで強くなれるのか、って教えていいのか…」
「何とか魔法陣は作れて、魔法を使えるようになって、最初に倒した魔獣が槍トビウオとイクチオドンだね」
「それって、五才の時か」
「うん、そうだね。その後に狩りをしながら頑張って強くなったんだよ。
時には危ない目にもあいながらだけどね」
「そっかー。
ところで、お前ってウインダムスやポラッタに、フィフティーナを強くしたよな」
「してないよ、ただ狩りに付き合っただけだよ」
「それじゃあ、俺もその狩りに連れてってくれないか」
「それはできないね」
「なんでだよ」
「レベルが違いすぎるもん」
まだ、僕の相手の魔法力に干渉する能力を教えられないよね。
ミクちゃんはずいぶんできるようになったみたいだけど、治療に特化しているところがあるみたいだし、ルードちゃんやライカちゃんなんかもまだまだみたいだしね。
「実際どの程度違うんだ」
「うーん、そうだね。一人でモモガン森林やボティス密林をプラプラと気軽に散歩ができるくらい」
「わかんねー」
「そうか。ララ草原なら防御なしで昼寝ができるくらいっていえばわかるかな」
「よけいわかんねーよ」
「そっか、あ、そうだ。冒険者ギルド長より、僕とミクちゃんとルードちゃんは強いよ」
「それもよくわからねーけど、なんとなく、すごいってことは分かった」
「いいよ」
「なにが」
「一回だけなら狩り付き合ってげるよ。ただし両親の許可が最低限で、ケガをしても知らないよ。
そこまでは責任は取れないから」
「わかった。恩に着る。
ガラクーダとブゾンもいいか」
「ララ草原までの移動を含めて、キジョーダン君が全て責任持ってよね。
それとキジョーダン君、総合“20”チョットでしょう」
「え、なんでわかるんだよ」
「まあ、それは置いといて、ララ草原だとキジョーダン君はそれほどレベルは上がらないよ」
「そうなのか」
「うん、ララ草原の魔獣はそれほど高くないから」
キジョーダン君は僕が目覚めた時と一緒だ。
【基礎能力】の総合・体力・魔法は高くないのに、魔法スキルだけが異常に高い。
まあ、僕が目覚めた時ほどじゃないとは思うけど、とにかくバランスが悪いんだ。
「あとこれを『複写』して、練習しておいて」
身体魔法のレベル1の細胞活性、レベル2の身体強化とあまり使わないけど一点強化だ。
「いいのか」
「できた方が楽だよ」
「ありがとう」
初めて君からそんな言葉を聞いたよ。
でも、こちらこそ。
その後にミクちゃんとルードちゃん――律儀にバイトを続けている――にキジョーダン君のことを告げた。
もちろん魔法力の活性化は無しで狩りを手伝うってことをだ。
「あんな奴」
ルードちゃんはにべもないけど、そうはいっても一緒の転生者だ。
大災厄を乗り越えたいもんね。
◇ ◇ ◇
九月二一日黄曜日。
休み時間にキジョーダン君確認したら、絶対に行くって息巻いていた。
昼休みに、
「ねえ、パルマちゃんにビットちゃんは狩りをして強くなれるとしたら行ってみたい?」
「そりゃー、行きたいニャ。ね、ビットもそうでしょ」
「わ、私は怖いかも」
「弱虫だニャー」
「そうはいうけど。怖いものは怖いよ」
キジョーダン君と一緒に狩りに行くことを告げて、両親から許可が取れれば一緒に連れていくことを告げた。
もちろん、ケガなどは自己責任だってことも含めてだ。
◇ ◇ ◇
九月二四日黒曜日の僕の家なんだけど。
同じ一班の半猫人のパルマちゃんに、半兎人のビットちゃん、三バカのキジョーダン君、ガラクーダ君、ブゾン君までは予定通りだ。
その他に二組のシエーサン君は体育の時間で対戦するから名前がわかる。
同じく獣人三人組の狼人のボンハル君、同じく狼人のギルリアンちゃんと、兎人のポップリーナちゃんもなじみがある。
その他のも男子二人に女子が四人も押し掛けてきたんだ。
名前も知らないし、学年も違う子もいるんじゃないかな。
そう、想定外の子供が一〇人もいるんだ。
しかもみんな親の承諾書や、自己責任の誓約書なんかも無しだし、護衛(付き添い)も無しだ。
合計一五人を僕とミクちゃんとルードちゃんで面倒を見るのか?
あ、リエッタさんもいるか。
ちなみにライカちゃんは居ない。
なんだか、記憶が戻ったことを、今だに引きずっているのか、とにかくかなり悩んでいる。
「僕が約束したのはパルマちゃんに、ビットちゃん、キジョーダン君、ガラクーダ君、ブゾン君だけだけど」
「えー、ここに来れば強くなれるって聞いたんだけど」
「だれに?」
「えー、あっちこっちで噂になっていて」
「あっそ」
キジョーダン君をにらむけど、首を振る。
その横でガラクーダ君とブゾン君が気まずそうに横を向く。
どうせ大声で相談でもしてたところに、誰かにでも訊ねられ、自慢でもしたんだろう。
「とにかく面倒を見るのは約束をした五人だけだから。
帰ってくれるかな」
ぶつくさ文句を言う一〇人を追い返した。
護衛はキジョーダン君の一人だけだ。
「<ホワイトホール>」
全員で手をつなぎ、ララ草原に飛んだ。
五人+キジョーダン君の護衛が驚いている。
できるだけレベルが上がるように、ボティス密林に近い場所だ。
ここまでレベルが上がるとホワイトホールでも一般的には一.四トンまでの制限で、一五キロ程度は飛べるから楽だ。
ちなみに僕はもうチョット距離は延ばせるし、もうチョット重たいものも大丈夫だ。
もちろん一人(生物)当たり、使用魔法量の半分の魔法量が必要だ。
「キジョーダン君、武器を見せて」
「ああ」
渡された武器は、ロングソードだ。
ミスリル硬鋼(L)のそれなりの武器だけど、付与が何もされていない。
「その武器は使わないで、これを使って」
何度も使っている市販品の安物のショートスピアをキジョーダン君を渡す。
「ああ、って、何この安物」
「安物だけど、魔法力を流してみて、そのくらいできるよね」
「え、ナニこれ」
キジョーダン君がショートスピアを食い入るように見つめる。
「切れ味アップの付与がされているから、これじゃないと刺さらないんだ」
ルードちゃん、バカにするような言い方は止めて。
「魔獣と戦うための武器は全て何らかの付与がされているし、魔獣によっては付与の違う武器を使用するんだよ」
「て、いうことは」
「うん、魔獣によってはもちろん戦い方も変える必要があるよ。
もちろん誰もがそんな器用なことはできないから、戦闘では創意工夫が必要だけどね」
「そうなんだ」
キジョーダン君、チョットショックを受けたみたい。それでもこれが現実だ。
「ミクちゃんとルードちゃんは、パルマちゃんとビットちゃんをよろしくね」
「はい」「引き受けた」
二人は打ち合わせ通り、二人を連れて移動する。
「キジョーダン君、魔法力をながすのをやめて」
「ああ、わかった」
「それじゃあ、まずは一匹狩ってみるよ。
チョット走って、みんなも付いてきて」
「ああ」「「おお」」
大縞ムカデ(強さ“24”)を発見。幸先がいい。
邪魔な魔獣を狩りながら進む。
<粘着弾>
<粘着弾>
これくらいでいいか。
毒をのふん噴出する口もふさげているようだ。
「オマエ何やった」
「いいから、外骨格のつなぎ目を狙ってシッカリを突いてね」
「あいつ、動かないよな」
「多分大丈夫」
これ以上粘着弾を放つと、刺す側も粘着弾に触れそうだからできないもんね。
「多分って、なんだよ」
「ほら、魔法力を流して、さっさとやって」
「わかったよ」
ヤーッ、と突くも、失敗。
さすがにこれだけ緊張していたら折角のアクティブセルも台無しだ。
「シッカリとショートスピアを持って、もう一回、良く狙って」
その後、三度突いて何とか倒した。
キジョーダン君は肩で息をしていた。
ガラクーダ君とブゾン君は緊張になかなか魔獣に止めを刺せなかったけどそれでも何とか狩りを成功させた。
キジョーダン君にはできるだけ強い魔獣を狩ってもらい、結局五匹狩ってもらった。
ヤッパ身体魔法で使えるのはアクティブセルだけだそうで、身体強化までは練習ができていないんだそうだ。
ガラクーダ君とブゾン君には三匹づつとゴブリン込みでチョット少なかったけど、仕方がない。
パルマちゃんとビットちゃんはゴブリンの四匹の群れ込みで、頑張って六匹づつを狩ってもらったそうだ。
ちなみにスライムは武器が痛むから、僕が魔法で焼いてちゃってるから居ないと同じだ。
「経験値が反映されるのは明日の朝だから、楽しみにしていてね」
ちなみに、ガラクーダ君とブゾン君には、噂を流したらただじゃ置かないからな、と、結果的には脅してしまった。
これも仕方がないよね。
◇ ◇ ◇
一〇月一日赤曜日、早朝に大きな地震があった。
飛び起きて、テレポートでオーラン市の周囲を確認してみたけど異常はなかった。
普段のように登校するけど、みんなどこか緊張していた。
キジョーダン君の総合と魔法は“24”と“46”に、ガラクーダ君は“21”と“39”、ブゾン君は“20”と“37”に、パルマちゃんとビットちゃんは二人とも“22”と“40”なって、かなり感激していた。
ガラクーダ君とブゾン君は感謝にしても、今一歩何か言いたそうだったけど、まあいいや。
とにかくこれでマリオン上級魔法学校の入学レベルは軽く越したんだから。
「キジョーダン君」
「キジョーだ」
「あ、キジョー君ね」
「キジョーだ」
「わかった、キジョー…、身体強化が“Ⅱ”になったらモモガン森林に連れてってやるよ」
「ホントか」
「うん、嘘じゃない。ただし、身体強化Ⅱを使えない人は連れていけないよ」
「了解した」
キジョーが男らしい笑みで、ギュッと力強く握手してきた。
「このくらいだよ」
チョットだけギュッと握り返した。
「わかった。いつか痛いって言わせてやる」
キジョーが痛そうにブルンブルンと手を振りながら、宣言されてしまった。
「パルマのショートスピアがうなりを上げて、魔獣を切り裂くニャー!」
「パルちゃん、もっと静かに」
「ビットももっと腰を落として鋭く突いた方が一撃だニャ」
「だから静かにってば」
パルマちゃん騒ぐのやめて。ビットちゃん何とか止めて。
また僕の家に知らない人が押しかけてくるから。
◇ ◇ ◇
あと、デビルズ大陸のことをラーダルットさんに訊いてみた。
結果は判断はできないそうだ。
デビルズ大陸にあったエルフの村は妖精の加護、防護結界によって村を築き、運営していた。
妖精の加護のある場所では、魔獣の被害も、また遭遇する魔獣のレベルも低いそうだ。
デビルズ大陸は樹木が良く育つ肥沃な土地であるので、エルフにとっては住み心地が良い土地だそうなんだ。
それじゃあオーラン市はって思わず訊いちゃったけど、妖精のいないエルフは森では暮らしていけないそうだ。
そして奥に入ると魔獣のレベルは格段に跳ね上がることだけは知っているけど、どの程度かは不明なんだって。
これってできるだけ強くなって、機会が来たら行けってことしかないないよね。
まずはミクちゃんと相談だ。