12. 魔法教育 3
「奥様お願いします」
「『デスクライト、開示』」
ママのデスクライトの魔法回路が表示される。
ヒーナの八〇センチメルに比べて小さく、ママは六〇センチメルほどだ。で、僕のは四〇センチメルと…………って、魔法回路のレベルでサイズが変わるっていうか、成長していくってこのことだ。
ヒーナが魔法回路を開示した時だけでなく、僕の生活魔法の魔法陣を見た時にも、なんとなくわかっていたはずなのに。
ヤッパ五才、メッチャ抜けまくり。
「それで何か気づきませんか」
「はい。大きさが全然違います」
「それもそうですが、魔法陣をよーく見てくださーい」
じーー、あっ。
「図形の配置はほとんど同じですが、チョットだけサイズが違っています。
それとヒーナ先生の方がキラキラしているような気がします」
「はい、大正解です。
魔法陣の基本はありますが、魔法は個人個人で魔法属性も違えば魔法力も違います。
厳密にいえば、同じ魔法を使ってもみんなチョットだけ違っています」
へー、と感心してしまう。妙に納得。
「なので、魔法陣も自分用にチョットだけ変化していきます。
魔法が上手になったのに、魔法陣が何にも変わらないっておかしくないですか」
同じ魔法なんだから、違わなくてもいい気がするが、
「はい、そうですね」
一応うなずいておく。
「あー、わかっていませんねー。
魔法陣核から魔法経路を通って魔法陣に魔法が流れますが、みんなが全部同じに魔法を流せると思いますか?
右利きの人が、左手で剣を自由自在に操れますか。セージ君は左手でナイフを使えますか。
魔法陣は使う人の最終イメージに沿って変化していくと言われています。
これから魔法回路を本で、または人から教えてもらったりしますが、チョットだけ違っても不思議に思わないことです」
「そうなんですか」
「そうですねー。
私は光魔法が得意です。ですからママのデスクライトに比べて魔法威力が強くなっています。何かおかしなこと、不思議なことはありますか」
「いいえ」
「チョット手を出していただけますか」
「はい」と言って右手を突き出す。
「<ホットブリーズ>」
手に風が当たるがそんなに変な感じはしない。
「何か気がつきましたか?」
「普通だと思います」
「あのー奥様、セージ君にホットブリーズをお願いします」
「セージ、手を出して……<ホットブリーズ>」
あっ、ヤッパリチョットだけ暖かい。
それに比べてヒーナのホットブリーズは何となくスッキリ感がある。
「ありがとうございます。
奥様は、セージ様やみなさんの手が暖かくなればいいなと思ってだと思いますが、ホットブリーズにいつの間にか、火の魔法が入ってしまったのでしょう」
ヒーナの視線に、ママが照れ臭そうに笑った。
「はい。よくわかりました」
ママの火魔法“0”にそのような秘密があったなんて感動です。疑問も解けてスッキリです。
それと思いが魔法陣に反映するんだ。そうすると得意魔法がいろんな魔法に影響することも考えられる。
得意魔法やよく使う魔法は、より使いやすくなっていくってことだよな。
僕が納得で笑顔になると、ヒーナも嬉しそうに笑顔になる。
「もっと大きな秘密があります」
えっそうなんだ。
「私は風魔法の素養が無いのでホットブリーズをほとんど使用しません。ですからほとんど基本のままです。
ちなみに風魔法の素養がない私がホットブリーズを発動すると、生活魔法なのに一.五倍ほど魔法量がかかっちゃいます。
私にすればレベル2の光魔法の方が使い勝手がいいですし魔法力を効率的に使用できるので魔法力もあまり変わりません。それって生活魔法じゃないですよね。笑っちゃいます」
「生活魔法は基本無属性魔法なのですが、デスクライトは光の魔法、私がデスクライトを使うと光魔法として発動して、魔法力が半減します。
ドライブリーズやホットブリーズはママが使用すると風魔法として発動して、魔法力が半減します。
生活魔法はその属性を持っていると、時間が掛かりますが、無属性魔法陣が属性魔法陣に変化します」
ああ、僕の生活魔法陣の色が違って見えた気がしたのは、属性魔法になっているんだ。
「それでは魔法回路をコピーしてみましょう。
あっ、属性魔法となった魔法陣をコピーしても、自分に属性が無ければしばらく使用すると無属性の魔法陣になりますから。
セージ君は魔法回路は出せますか?」
「えっ……」
ここでか。僕の魔法回路は四〇センチメル、正確にはそれより少し大きいような気がする。
ヒーナは八〇センチメルチョットで、ママは六〇センチメルチョットだ。
厚さもそんな比率だ。
魔法回路のサイズはレベル値+1に10を掛けたサイズっぽい気がする。
「チョット待って。魔法回路、そんなのが僕の頭の中にあるの?」
「ええ、在ります。よく精神を集中して、いえ、頭の中を探すような感じです。覗くような感じでもいいかもしれません」
「そんなことを言われても……、でもやってみ……みます」
セージは会話をしながらも、未使用、真っさらな残りの偽装パネル全てのサイズを縮めて、厚さを持たせていた。
目の前に出しても二人には見えないが、手で触ればその動作から発覚しちゃうと思ったからだ。
目標はレベル0の魔法回路プレートで、魔法陣だけを考えればちょっと大きめの一五センチメル四方で充分だろう。厚さは八センチメル程度か。
目の前にないと随分とイメージするのが難しく、神経を使う作業だ。
それと、微妙にサイズにずれがある。
チョットして、魔法回路プレートの複写が先だと気づく。
まずは空の魔法回路を脳内で触って、と、なんか難しい。
今度は偽装パネルも触って『複写』。かなり神経を使う。難しい。
そして複写した偽装パネルのサイズを<縮小>と再度縮めていく。
ちょうどいいと思ったサイズで<停止>。まあ、こんなもんか。
うん。こっちの方が楽だった。
別の偽装パネルを脳内で触ってと、難しい。
それを何とかこなして『複写』。
いったんできると、あとは順番だった。
わかっていたことだけど、五才の肉体に引きずられているのか、どうも抜けている。
「あー、見つけました」
『魔法回路(偽)』
「出せました」
「おお、大きいですね。魔法回路のレベルが1でもおかしくないサイズです。
これなら複写は問題ありません。非常に良い傾向です。
セージ君は直ぐに魔法が使えるようになりそうですね」
ヒーナはすでに用意していた自分の空の魔法回路を触り、
「奥様失礼します」
ママが鷹揚にうなづき、ママのデスクライトの魔法回路に触る。
「『複写』」
空の魔法回路にデスクライトの魔法陣が浮かび上がる。左上には魔法名称などが同様に浮かび上がる。
「ありがとうございました。
ご覧になってください」
ヒーナはママに頭を下げた後、魔法回路を斜めに向ける。
そして魔法を流す。
あれっ? 魔法陣核はプレート内に半分入っているが、魔法経路や魔法陣はプレートからチョット浮いている感じだ。
「複写をするとみんなこうなりますので気にしないでください」
そうなんだ。
「このままでも魔法は発動しますが、完全に操れるとは言えません。何度もこの魔法を練習をすると、魔法陣が自分用の属性や特性に変化しながら魔法回路入っていって、定着します」
おお、そうなんだ。納得。
「見た目はこのようにですね」
ヒーナは自分のデスクライトの魔法回路にも魔法力を流す。
見た目で違いが判る。
ヒーナの元からの魔法回路のプレートを通して、魔法陣に綺麗に魔法力が流れている。
片やコピーしたばかりの魔法陣は魔法回路のプレートから魔法陣核にうまく魔法力が流れたいかない。どこか詰まっているようだ。
「そうして初めて魔法が自由自在に使えるようになります」
定着していく間に自分専用に変化してくんだろう。
「『消去』」
コピーした魔法陣が綺麗サッパリ無くなった。
おお、こうやって真っさらにするんだ。チョット感動。
「それでは今度はセージ君の番ですよ。
あ、それとコピーはママからでお願いします。
セージ君も火魔法と風魔法がありますから」
ヒーナの表情が、ママに頼みなさいと促してくる。
「はい、ママよろしくお願いします」
僕って察しがいい。大人の対応だ。
ママが鷹揚にうなずいて、
「『ウオッシュ、ドライブリーズ、デスクライト、マッチ、開示』
コピーをして練習するのはこの四種類です。
全て魔法核と魔法回路“0”で発動できる生活魔法です。
ヒーナの指導の下、気を付けて練習をするように」
「ママありがとうございます。大好きです」
チュッとするとママから笑顔がこぼれる。
僕も照れて真っ赤だ。
「いいですねー。ヒーナも待ってますよー」
両手を大きく開くヒーナは無視だ。
ほっぺを大きく膨らましてイカン、エホン。……遺憾の意を表明してもダメだ。
「『複写』」
魔法回路を複写した偽装パネルも無事複写ができる。
まあ、魔法回路を複写しなくっても複写はできると思うけど。
「『複写』」……と四枚の複写が完了する。
ママとの目配せがあって、
「一休みしてから多分発動するのはしばらくたってからだと思いますが、魔法を使ってみましょう」
もう一度ドリンクタイムだと思ったが。
「セージ君は一度おトイレです。
一緒に行きましょう」
もう、慣れました。あきらめてもいます。
オチンチンやお尻を見られるのにですが……。
「はーい」